【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■31 エゴ・エレクトリゥム・レーグノー

◆76 魔術基盤

 

 ネギくんと一緒に、女子寮へと入る。キティちゃんと茶々丸さん、ちう様、古さんも合流しており、ネギくんと一緒に六人で寮の廊下を歩いていく。

 ときおりすれ違う他の生徒から、泥に汚れたネギくんのことを心配する声がかかるが、シャワーを浴びさせると言うだけ言って六階を目指す。

 そして六階、643号室の扉を開けると、部屋の向こう側から何かが飛びこんできた。

 

「兄貴ー! 俺っちは兄貴ならやるって信じてたぜー!」

 

 意外、それはカモさん。

 てっきりあやかさんが来るかと思っていたが、あやかさんは戦闘で散らかった部屋の整頓を他の面々と一緒に行なっていた。

 

 私達は靴を脱いで部屋に入り……ってネギくん靴履かないで雨の降る外に飛び出したから、靴下ぐちゃぐちゃだな。とりあえず、近衛さんに言って塗れタオルを用意してもらう。

 そして、靴下を脱いで足を拭くようネギくんに言った。

 すると、今度こそあやかさんが反応して、丁寧にネギくんのおみ足の世話をし始めた。まあ、いいんだけど。

 

「さて、とりあえずスライムの封印ですね。ちう様お願いしていいですか?」

 

「分かった。エヴァンジェリン先生、間違っていないか監督を頼む」

 

「やれやれ、我が生徒の卒業はまだ遠そうだな」

 

 そんな微笑ましい師弟のやりとりを尻目に、私は私でやるべきことのために動く。

 私が向かうのは、ネギくんが飛び出した窓。見事に割れていて、室内が雨で湿っぽくなってしまっている。

 

「あっ、リンネちゃんそっち危ないわよ!」

 

 神楽坂さんが私を止めようとする。

 だが、私は笑みを浮かべながら、一部屋に集まるには多すぎる面々に向かって言った。

 

「大丈夫ですよ。直しますから」

 

「直すって……割れたガラスを?」

 

「はい。見ていてください。あ、ガラス片の近くから離れてくださいね」

 

 そう言いながら、窓の前に立つ。

 スマホからすでに力は引き出している。服装も変化しており、今日の私の魔術礼装(コーデ)は学園都市らしく『魔術協会制服』だ。

 さあ、修復を始めよう。

 

「――開け」

 

 高いところから落下していくイメージを脳内に浮かべ、魔術回路(マジックサーキット)を開く。

 

 私がスマホの中から引き出している力は『Fate/Grand Order』の主人公が持つ力、魔術回路だ。

 魔術を使うために必要な、魔術師の体内に存在する目に見えない回路。私が引き出した魔術回路は、魔術師が持つ物としては三流もいいところだが、これから使う魔術にはその程度でもなんの問題もない。

 

 私は、魔術回路を開いたまま、割れたガラスに指を触れ、わずかに指先を切る。

 

「ちょっと、リンネちゃん!?」

 

 神楽坂さんの叫び声が聞こえるが、無視だ。

 

「溶接せよ」

 

 一節の詠唱により、体内のオドがわずかに失われ、大気中のマナが神秘を行使する。

 バラバラに砕けて部屋と窓の外に散らばっていたガラス片が、浮遊して窓枠に集まっていき、ひとりでに組み合わさっていく。

 そして、二十秒も経たないうちに、窓ガラスは割れる前の元通りの姿を取り戻していた。

 

「うっそお!?」

 

「修復の魔法です……?」

 

 神楽坂さんが驚きの声をあげ、綾瀬さんがそんな疑問の声をもらした。

 うん、魔術での修復ではあるけど、ネギくんやちう様が使う西洋魔術ではないね。

 

「そんなことよりも、リンネ、指! 治さな!」

 

 近衛さんが、血相を変えてパクティオーカードを取り出そうとする。

 

「後で治しますから、大丈夫ですよ。それよりも、壊れた床や壁、家具をこの要領で直していきますよ。大きな破損を直すときは少々血が付きますが、それは拭いてくださいね」

 

 そうして、私は魔術を行使して部屋を元通りに復元していく。

 十分もしないうちに、部屋は元通りの綺麗な風景を取り戻していた。

 

「リンネちゃん、ありがとう!」

 

 神楽坂さんに言われ、私はどういたしましてと返す。

 

「それで、気になっていたのですが、リンネさんが使用した術は、ネギ先生達が使う西洋魔術なのでしょうか? いささかおもむきが違うように思ったです。始動キーも唱えていませんでしたし」

 

 綾瀬さんが、興味深そうな顔で尋ねてくる。

 それに対し、私は素直に情報を開示する。

 

「私が使った術は、この世界とは違う、別世界における魔術です。そうですね……基盤魔術とでもいうべき術の力を使いました。私が使った魔術は初歩の初歩。その世界の魔術師ならば初心者でも行使できる修復の術です」

 

「別世界! そのような場所があるですか!」

 

「いろいろありますよ。私は、その別世界から力を取り出すことができます。ただし、その世界に私達が訪れる手段は、存在しません」

 

「そ、その世界の名前は……?」

 

「地球ですよ。この宇宙の地球とは異なる神秘の発展をした、並行世界とでも言うべき別宇宙の地球です。そうですね。ドラえもんの『もしもボックス』で、『もしもこの世界の魔法とは、違う種類の魔法が存在したなら』と言うことで生まれる、別の地球のようなものと思ってください」

 

「ほおお、その並行世界から力を引き出す……神秘的です」

 

 綾瀬さんは、パクティオーカードを取り出すと、アーティファクトを取り出して何やら調べ始めた。

 

「基盤魔術……何も出てこないですね。並行世界……おお、すごく詳しく出たです。並行世界は魔法的にもしっかり証明されている概念だったですか」

 

 彼女が調べるその後ろから、幾人もが『世界図絵』の検索結果を覗いているのが見えた。

 ふむ、私の話に興味ある人、他にもいるのか。

 

 せっかくなので、私はもう一つ話をした。

 

「基盤魔術の行使には、魔術基盤という土台が世界に敷かれている必要があります。この世界にはその魔術基盤が存在しないため、私がこの魔術を他人に教えても、その人は魔術を使うことができません。私だけは、別世界から力を引き出しているので、使えますけどね」

 

 ここはネギま世界。魔術基盤なんてものはない。だが、私はゲームに登場する力を自由自在に扱える能力を持つ。

 私が自由に基盤魔術を使おうと思った場合、スマホの中の惑星Cathに建つカルデアに敷かれている魔術基盤を使うことになる。この魔術基盤は、スマホから呼び出した一部のサーヴァント達も利用する。

 

 綾瀬さんは、魔術基盤という単語も『世界図絵』で調べて何も出てこないことを残念がる。そして彼女は、さらに質問をしてくる。

 

「のどかが杖を使わず魔法を使っていましたから、この力を使っているかと思ったですが……違うようですね」

 

「ええ、そうですね。のどかさんが使っているのは、これまた別世界のフォトンと呼ばれる粒子を使った、テクニックという技です。フォトンを扱うには適性が必要なため、今のところ、この世界では、のどかさんと私しか使うことができません」

 

「リンネさんが使えるのはなんとなく分かるですが……のどか、なんであなたも使えるですか?」

 

 綾瀬さんの台詞は、途中で私ではなく、のどかさんに対しての問いに変わっていた。

 問われたのどかさんは、どこまで答えていいのか迷ったようで、必死で私の目を見て助けを求めてくる。

 仕方ないので、私は事前に決めていたラインまで情報を開示した。

 

「のどかさんが持つアーティファクトは強力な読心能力を持つため、危険視をした人に排除、誘拐されるおそれがありました。なので、早急に抵抗できる力を身につけてもらうため、フォトンを扱える種族へ変わってもらいました」

 

「種族の変更……? どうやって変わったです?」

 

「改造手術です」

 

「改造……!?」

 

「前、言ってた改造手術って、冗談じゃなかったんかーい!」

 

 後ろで話を聞いていた早乙女さんが、そんなツッコミを入れてきた。

 冗談じゃないってちゃんと言ったんだけどなぁ。

 

「つまり今ののどかは、機械の身体に……のどかがやらねば誰がやる?」

 

 早乙女さんがワナワナと震えながら、中学生とは思えない古いネタを振ってきた。

 

「機械のパーツは一切組み込まれていませんよ」

 

 のどかさんに施された改造は、機械の身体を持つキャストではなく、生身のヒューマンがベースだ。

 

「ライダーの方じゃったか……」

 

「変身もしません」

 

 ルーサーが変なもの仕込んでいないなら、ダークファルスに変身するダークブラストも使えないよ!

 

「意外とふつー?」

 

 早乙女さんが首をかしげながらのどかさんを見た。

 のどかさんは、「普通だよー」と笑みを返している。いや、普通なの見た目だけで、中身は普通じゃないからね? 体液が考える海と化しているんだから。秘密だけど。

 

 と、そんな話をしている間に、ちう様の封印術は成功し、ネギくんもシャワーを終えて着替えて部屋に戻ってきた。

 ちゃっかりネギくんの世話を自ら買って出ていたあやかさんが、困ったように言う。

 

「ネギ先生ですが、どうやら身体の何箇所か打撲しているようですわ」

 

 ネギくん、悪魔に魔法障壁抜かれて殴られていたのか。相手が素手で本当に助かったね。

 

「どなたかネギ先生の打撲を治せませんか?」

 

 あやかさんが皆に向けてそう言った。

 すると、周囲の視線が近衛さんに集まる。

 

「ちょっと無理やなぁ。もう戦いから三分経っていてな。この制約キツいわあ」

 

 近衛さんがそう言うと、今度は私に視線が集まる。

 

「んじゃ、そこまで酷い怪我じゃないようなので、パパッと。『全体回復』」

 

 本日の魔術礼装、『魔術協会制服』が持つスキルを発動して、私の指先ごと周囲をまとめて癒やした。

 

「おお、それも基盤魔術です?」

 

 興味津々で尋ねてくる綾瀬さん。この子、知識欲すごいなー。この子がアカシックレコードの司書化していたら、私事でアカシックレコード使いまくっていただろうな。

 まあ、異世界の知識を知りたいのなら、教えることはやぶさかではない。

 私は桜咲さんに学園長先生へ悪魔撃退と魔物捕獲の連絡を頼みつつ、魔術礼装についての説明を始めたのだった。

 

 

 

◆77 狗族の少年K

 

 明くる日の放課後、また私とちう様と古さんが別荘に籠もっていると、エヴァンジェリン門下の生徒達が連れ立って別荘に入ってきた。

 ネギくん以外が平日に入ってくるのは珍しいな。みんな土日にまとめて修行をするって言っていたのに。

 そう思い、彼らのもとに行くと、見ない顔が一人いた。

 

「ええっ、一時間が二十四時間になる? ネギだけズっこいわ。よし、決めた! 俺も、このまま麻帆良に残るわ!」

 

 そんな言葉を叫ぶ、頭に犬耳が生えたネギくんと同じくらいの歳の少年。

 私は初めて会うが、おそらく彼が犬上小太郎なのだろう。どうやら原作漫画通り、3年A組の生徒が保護したようだ。

 悪魔ヘルマンの襲撃はもう終わったから、ハサンさんは女子寮から下げていたんだよね。なので、彼が麻帆良に来たことは知らなかった。

 

「どうも。見ない顔がいますね」

 

 私はそう言って、事情を一番知っていそうなあやかさんに事情を尋ねた。

 

 犬上小太郎。彼は京都での一件で捕まり、関西呪術協会の本山にある反省部屋に押し込められて再教育を受けていた。

 再教育を受ける中、思い出すのはネギくんとの幾度にも渡る死闘だったらしい。だが、自分は一度も勝てていない。ゆえに、リベンジを決意した小太郎くんは、反省部屋を脱走して、麻帆良までやってきた。

 

 だが、麻帆良に侵入しようとしたところで、自分と同じく麻帆良入りしようとする悪魔と遭遇。そのまま話の流れで戦闘になり、怪我を負ってしまった。

 その後、怪我を癒やすために子犬の姿を取って麻帆良で活動を開始するも、ネギくんの居場所が分からない。

 

 だが、ある日、あの悪魔の気配を感じ、そこに向かったところでネギくんが悪魔を打倒するのを目撃した。

 自分がかなわなかった相手に勝ったネギくんを見て、ショックを受ける小太郎くん。気落ちして、子犬姿で女子寮の周囲で寝ていたところ、3年A組の村上(むらかみ)夏美(なつみ)那波(なば)千鶴(ちづる)、そしてあやかさんの三人に行き倒れた野良犬と勘違いされて寮に保護されていた。

 

 翌朝、目を覚ました小太郎くんは、野良犬と間違われたことを知り、なんとか抜け出そうとする。

 さすがに人前で姿を人に戻すわけにもいかず、術で逃げようにも、京都の一件での刑として術の使用を封印されている。

 

 仕方なしにお世話をされている間に、隙を見つけて部屋を脱出。そのまま女子寮を去ろうとしたところで、ネギくんの匂いがしたので向かってみると、いかにも魔法関係者らしき集団で話をしていたので、姿を現してネギくんと再会したとのこと。

 

 で、人に戻ろうにもそのままだと全裸になるので、ネギくんの服を借り、修行に向かうというネギくんに付いてきて、今ここに至ると。

 

「なるほど……脱走犯ですか」

 

「いや、そんな犯罪者みたいに言わんでくれへんか?」

 

「京都の一件では、まごうことなき魔法犯罪者でしょうに……桜咲さん、関西呪術協会に連絡は?」

 

「いえ、まだです……すみません」

 

 私がそのへんしっかりしていそうな桜咲さんに話を振ると、彼女は申し訳なさそうにそう返してきた。

 すると、小太郎くんが私に向けて頭をいきなり下げてきた。

 

「すまん、関西へ送り返すのは待ってくれへんか! 俺、このままネギに負けたままは嫌なんや! だから、麻帆良で修行させてくれや!」

 

 うーん、そうなるか。

 彼は鍛えるとアホみたいに強くなるので、エヴァンジェリン門下に入れるのはむしろ推奨したいくらいなのだが……。

 

「私としては構わないのですが、それで上の人達を納得させられますか?」

 

「うっ……」

 

「そうですね。麻帆良を襲撃しようとしている悪魔と戦ったというなら、功績として認められ、反省部屋に帰されずに済むかもしれません。何か戦った証拠のような物は?」

 

 原作と同じならば、持っているはずだ。

 そう思いながら小太郎くんを見ると、彼は髪の中に手を突っ込み、何かを取り出した。それは、五芒星が描かれた小さな瓶。

 

「封魔の瓶や。悪魔のおっさんからかっぱらった」

 

「ああ、多分、あの悪魔が元々封印されていた瓶でしょうね。証拠としては十分です」

 

「そっか、なら麻帆良に残れるか?」

 

「交渉次第でしょう。桜咲さん、後で小太郎くんを連れて、学園長のもとへ向かってください」

 

「わ、私ですか?」

 

 桜咲さんが少し驚いてそんな言葉を返してくる。

 そんな彼女に私は再度言葉を投げかけた。

 

「関西呪術協会関連ですからね。この中のメンバーとしては、適任でしょう」

 

「私は西の者にとって、東についた裏切り者扱いなのですが……」

 

「桜咲さんが直接西と交渉するわけではないので、大丈夫ですよ。西の事情を知っている桜咲さんなら、学園長に話が通しやすいというだけです。学園長への交渉は、小太郎くん本人に頑張っていただきましょう」

 

「それなら構いませんが……」

 

「おう、自分のことは自分でけりつけるから、安心し!」

 

 小太郎くんにそう言われ、桜咲さんはようやく納得した。

 

 さて、その後はせっかく別荘に来たということで、門下メンバーがそれぞれ分かれて各々の修行にはげみだした。

 中間テストも近いのに、大丈夫かなあと思いつつ、私は別荘初心者の小太郎くんに付く。

 

 小太郎くんは、アルトリア陛下の剣技指導を受けるネギくんを見て、彼に絡みにいった。

 

「なんやネギ、京都ではステゴロやったのに、剣に浮気かいな」

 

「うん、僕は格闘家じゃなくて剣士を目指すよ。魔法剣士だね」

 

「そうかー。剣を使うネギと戦うとなると、俺も素手のままじゃあかんな。爪で戦うか、手甲をはめるか……」

 

「さすがに僕も、小太郎くん相手に真剣は使わないけど……」

 

「なんや。手加減かいな」

 

「いや、純粋に、人間相手に真剣使うのはちょっと」

 

「くっ、下に見られてるっちゅーことか。見てろよネギ、いつか本気にさせてみせるからな!」

 

「うん、小太郎くんは、いいライバルだと思っているよ」

 

「その余裕顔、いつまでもつか見ものやな!」

 

 そんな少年同士の尊いやりとりをスマホで撮影していた私は、後であやかさんに渡してやろうと、動画を保存するのだった。

 私は三次元に関してはショタコンじゃないが、こういう漫画みたいなシチュエーションは好きなのだ。

 

 

 

◆78 ちう様のドキドキ仮契約(パクティオー)

 

 その後、門下メンバーは別荘内で一日修行に費やした。

 内部での食事に必要な食材は、キティちゃんの私財から出すには負担も大きいので、私がスマホから大部分を出している。地球とは異なる食材に、初期の頃はキティちゃん配下の人形達も扱いに困惑していたようだが、今ではしっかり美味しい料理を出すようになっていた。

 いずれは門下メンバーから食費を徴収した方がいいのだろうか。でも、中学生だしなぁ。中学生にお金がないことは、自分も中学生なので理解しているのだ。いや、私は貴金属を裏ルートに流してもらって儲けているけどさ。

 

 さて、そんな感じで修行も終わり、門下メンバーは帰るだけとなったのだが、その前に楽しい楽しい仮契約タイムだ。

 私達は全員で集まって、魔法陣の上に立つネギくんとちう様を囲んだ。

 

「いや、おめーらなんで集まってくるんだよ。さっさと帰れ!」

 

 ちう様がそう言うが、帰ろうとする人は誰一人いない。いい見世物扱いである。

 

「いやー、チューするの見たいし、アーティファクトも気になるし、帰るわけなくない?」

 

 早乙女さんが代表してそんなことを言った。

 ちう様はプルプルと震えている。

 

「しかし、長谷川さん。前は、まだ仮契約はしないと言っていませんでしたか?」

 

 綾瀬さんにそう指摘されるちう様だが、ちう様はその言葉を否定した。

 

「それはエヴァンジェリン先生との仮契約だ。ネギ先生相手の場合、まだ魔法使いとして完成しきっていない今の方が、希望する方向のアーティファクトが狙いやすい」

 

「なるほど、今出るアーティファクトと、魔法使いとして完成した後に出るアーティファクトをそれぞれ得たいと」

 

「そーいうことだ。まあ、本来ならアーティファクトが出るなんて、そうそうないんだが……ネギ先生とエヴァンジェリン先生は例外だな」

 

 ネギくんは血筋と才能が秘める魔法使いとしての潜在能力がアーティファクトを呼び、キティちゃんは六百年を生きる強大な魔法使いとしての実力がアーティファクトを呼ぶのだと推測できた。

 

「まあ、無駄話はいいから、さっさと仮契約しちまおうか。ネギ先生、いくぞ」

 

「はい」

 

「いくぞ」

 

「はい」

 

「いくぞ!」

 

「えーと……」

 

 ネギくんの前でプルプルと震えるちう様。めっちゃ恥ずかしがっておる。

 こりゃダメだと思った私は、ネギくんに声を投げかけた。

 

「ネギくん、あなたの方からキスしてあげてください」

 

「あっ、はい。では、千雨さん、失礼します」

 

「えっ、あっ……」

 

 ぱくてぃおー!

 

 という感じで、ちう様からアーティファクトカードが出現した。

 カードの絵を見ると、しっかり『力の王笏』が描かれている。

 

「よーし、よし。まだ私は魔法使いに振り切れていなかったか。くくく、来た、私の時代が来た!」

 

 先ほどの乙女っぷりはなんだったのか、ちう様は不敵な笑いをこぼしながら、アーティファクトを呼び出した。

 

「『力の王笏(スケプトルム・ウィルトゥアーレ)』か。俺っちは聞いたことがないアーティファクトだが……」

 

 カモさんがそう言うと、周囲に居た面々が、予想で盛り上がる。

 見た目が魔法少女のステッキじみているとことから、魔法関連の杖ではないかと予想が立ち、実力の高い魔法使いであるちう様の魔法をサポートする能力があるのではないかという話になった。

 

「いや、残念だけど全然ちげーぞ。これは、ネットに接続可能な超高性能魔法コンピュータだ」

 

 ちう様がそう言うと、予想を立てていた面々は一様に驚く。

 

「しかも、高位の電子精霊付きだ。よし、出てこい」

 

「はい、我ら、電子精霊群千人長七部衆。まかり越しましたー!」

 

 ちう様が号令をかけると、杖の中から小さなネズミが七匹、紫電をまとって空中に躍り出てきた。

 

「うわー、なんやそれ! 可愛ええなー!」

 

「長谷川ちゃんのアーティファクト、ペット付き? いいなぁ。私なんて、ハリセンよ?」

 

 近衛さんと神楽坂さんが、ネズミを見てそんな声をあげた。

 ちう様は、そんな声を受けて得意げな顔をする。

 

「ちう様ー。早速ですが、我々の名前を入力してください」

 

 七部衆にそう請われ、ちう様は腕を組んで悩み始める。

 

「まいったな。名前のことは考えてなかったぞ」

 

「ああ、それなら私、いい案がありますよ」

 

 ちう様に横からそう言う私。実は、前々から考えていた名前案があるのだ。

 

「ん? どんなのだ?」

 

「『ゆうしゃ』『せんし』『ふ゛とう』『まほう』『そうりょ』『しょうに』『あそひ゛』でいかがでしょうか」

 

「ドラクエ3かよ!」

 

「名前、登録完了しましたー。素敵なお名前、ありがとうございます!」

 

「いや、私、承認してねえよ!?」

 

 私の名前にツッコミを入れた後、ネズミ達の声にもツッコミを入れるちう様。ツッコミに忙しそうだ。

 頭を抱えるちう様に、私は「まあまあ」と肩を叩いて彼女をなだめる。そして、私は彼女に向けて言う。

 

「おでんの具材よりは、マシでしょう?」

 

「たいして変わんねーよ……」

 

「具材の中に『ねき゛』くんがいるよりはマシでしょう?」

 

「あー、確かに、それよりは呼びやすいだろうがよ」

 

 私達がそんな会話をすると、名前を呼ばれたと思ったネギくんが首をかしげた。

 そして、話の話題はアーティファクトの使い方に移った。

 綾瀬さんが『世界図絵』で検索した『力の王笏』の概要を読み上げてみんなが意外そうな顔をした。

 

「いや、私って周囲にどういう人物だと思われているんだよ」

 

「くーふぇと同じ拳法キャラ? マジカル八極拳みたいな」

 

 神楽坂さんがそんな指摘をする。確かに、ちう様は中国武術研究会の所属で、秋の格闘大会ウルティマホラにも出場している。

 

「そっちか。私はこれでも、プライベートではどっぷりネットに浸かっているんだ」

 

「そうなんだ。本当に意外ね」

 

「結構人気のブログも持っているぞ」

 

 人気……人気かなぁ? 海外のサイエンス記事の翻訳ブログだから、確かにコアなサイエンスマニアには人気だ。2003年の今時にインターネットをやっているような人達は、いわゆるオタク層が多いから、確かに話題の人気ブログとは言えるかもしれない。

 まだスマホ普及前だから、一般層もそこまでインターネット漬けじゃないんだよね。

 

 相手がオタク層ならいっそのことコスプレを載せたらと思うんだけど、このちう様は可愛い服を着ることは好きなものの他人に見せるのは好きじゃない。原作漫画の長谷川千雨と比べて、自己顕示欲が薄いのだ。多分、こちらのちう様は友達が多いため、その辺の欲求が芽生えなかったのだろう。

 

「まっ、ここではアーティファクトは試せねーな。別荘は外と隔絶された異界だから」

 

「あのー、それがちう様。外と繋がるようです」

 

 七部衆の一匹が、そんなことをちう様に言った。

 それを聞いて、ちう様が驚きの表情を浮かべる。

 

「はあ? エヴァンジェリン先生、いつの間に別荘にネット回線引いたんだ?」

 

「は? いや、私は何もしておらんぞ。ネットとか、イマイチ理解できんし」

 

 話を振られたキティちゃんが、慌ててそんなことを答える。科学音痴のキティちゃんが、ネット回線なんて引くはずがない。

 では、茶々丸さんが独自に引いたのかとちう様が尋ねるが、茶々丸さんもそれを否定した。

 

「あのー、ちう様。ネットはあの方から繋がっています。我々に名付けてくれた方です」

 

 ネズミの小さな手が指し示す方向。それは、私だった。

 

「あ、私? じゃあこれかな?」

 

 私は、手元にいつものスマホを出現させる。

 

「それですー。バリ三どころじゃない、ものすごい回線速度です。あの方に便乗すれば、我々、どこでも力を発揮できそうです!」

 

「ふふん、私のスマホは5Gだからね」

 

 電子精霊の言葉通り、別荘の中からでも外のネットに繋がるよ。しかも、二十四倍の速度で時間が流れていることは感じさせない。多分、神様パワー。

 

「お前が近くにいれば、魔法世界からでも地球のネットに繋がりそうだな……」

 

 ちう様に言われて、確かに、地球とのゲートが閉ざされた後の魔法世界(ムンドゥス・マギクス)からでもインターネットに繋がりそうだなと思った。

 インターネット経由で、魔法世界から麻帆良学園に連絡が取れると、利便性は高そうだ。

 

 そんな思わぬ事実に気づかされながらも、アーティファクトのお披露目は終わった。

 そして、別荘を出て帰ろうとするみんなに私はアドバイスというか、忠告をする。中間テストが近いのに別荘で丸一日修行に使ったのだから、頭から抜けた知識を再度、頭に叩き込むべきだと。

 結果、門下のメンバー全員で勉強会をすることを約束して、私達は解散したのだった。

 


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