【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ 作:Leni
◆83 世界樹伝説
麻帆良祭前日。麻帆良に住む魔法先生と魔法生徒達の幾人かが世界樹前の広場に集まり、学園長先生から世界樹に関する注意を受けた。
最近、麻帆良内で話題になっている、世界樹伝説。麻帆良祭の最終日に、世界樹のそばで告白したら成功するという噂話。
これは真実であり、それどころか麻帆良祭期間中ならばどの日でも有効だと学園長先生が話す。
その原因は、二十二年に一度の世界樹の大発光。発光と共に世界樹の魔力は膨れあがり、樹の外へあふれだす。そして、世界樹を中心とした六カ所の地点に強力な魔力溜まりを形成する。ちょうど六芒星の魔法陣を作り出す形だね。
これによって、魔力が人の心に作用して、告白という願いを叶えようとしてしまうのだとか。
今年はその二十二年に一度の年ではなかったはずなのだが、異常気象の影響か、一年早まって大発光が起こると目されていた。
ゆえに、魔力による洗脳じみた告白成功を防ぐため、魔法関係者で協力して告白阻止行動を取るように、と学園長先生が指令を出した。
シフトを組んでのパトロールである。ちゃんと学園側から報酬も出る、立派な仕事だ。
キティちゃんの担当は、一日目の午後から夕方まで。そのキティちゃんが私に割り振ったので、私一人でパトロールをすることになる。私はネギま部以外には部活に入っていないから、暇なら仕事をしろってことらしい。
そんな話し合いをしているところで、魔法生徒の一人が、会合を覗き見しているステルスドローンの存在に気づいた。
おそらく超さん一派が用意した偵察機だろう。
それを追って魔法先生達が追跡をかける。
その後、会合は解散となり、私は一緒に集まっていたネギくん、桜咲さん、小太郎くんの三名と一緒に、前夜祭で沸く市街地を歩いていく。
歩きながら、私はネギくんに向けて言う。
「ネギくん、この後、ネギま部全員に集合をかけてもらえませんか?」
「はい、構いませんよ。けど、どうしてですか?」
「世界樹伝説に関して、部員達に釘を刺しておかなければなりませんから。迂闊に告白しそうな人がいますので」
なるほど、と納得し、ネギくんはケータイを取り出してメールを打ち始めた。
と、その時だ。上空から女の子が振ってきた。
超さんだ。
彼女は悪い魔法使いに追われていると言い、私達を追っ手にけしかけようとしだした。
だが、裏の事情は私には分かっている。先ほどのステルスドローンを放っていたことを察知され、魔法先生と魔法生徒に追われているのが本当のところだ。
そのことを超さんに指摘すると、彼女はやれやれと肩をすくめて言った。
「バレてしまっては仕方ないネ。ここはおさらばさせてもらうヨ」
そう言って、逃げ出そうとする超さんだったが……。
「桜咲さん、確保」
「あ、はい」
最終兵器神鳴流を放って、超さんを確保した。
そして、そのままやってきた魔法先生のガンドルフィーニ先生に引き渡した。
「助かったよ、刻詠君。全く、君も『闇の福音』への師事なんてやめれば、『
あっ、そういうのいいんで、さっさと引き取っていってくださーい。
「あの、リンネさん。超さんは、どうなるんですか……?」
ネギくんが、不安そうな表情で私に尋ねてくる。
ううむ、このまますんなり引き渡せられれば一番だったのだが、嘘をつくわけにもいかないな。
「多分、魔法に関する記憶を消去されますね」
超さんから魔法に関する記憶が消えれば、魔法の一般への暴露も行なわれなくなる。
そうなれば、麻帆良祭で私が対処すべきことも全部終わる。多分これが一番早いと思います。
「ええっ、そんなのよくないですよ!」
「よくないですね。でも、それが魔法使いの一般的な対処法なのでは? 神楽坂さんが前に、ネギくんに記憶を消されそうになったとか話していましたよ」
「うっ……で、でも、やっぱりよくないです!」
ネギくんはそう言って、ガンドルフィーニ先生のもとへと向かい、超さんは自分の生徒なので自分に任せてほしいと言って、超さんの身柄を引き受けた。
うーん、こうなったか。
拘束を解除された超さんが、こちらへと歩いてくる。
「いやー、ホントに助かったヨ。ネギ坊主は私の命の恩人ネ。それに比べて、刻詠サンと来たら……」
知りませーん。ステルスドローンを放った方が悪いんですぅ。
「ところでネギ坊主、何か今、困っていることはないか?」
「え? 困っていることですか?」
超さんに問われ、ネギくんが首を可愛らしく横にかたむける。
「恩に報いるために、ネギ坊主の悩みを一つ解決してあげるヨ。この超鈴音の科学の力でネ」
困っていることと急に言われても、とネギくんは頭を悩ませる。
と、そこでネギくんの肩に乗っていたカモさんが、こっそりとネギくんに耳打ちする。
「あっ、そうです。麻帆良祭で、生徒の皆さんのところに回るスケジュールが、キツキツで……」
ネギくんがそう言うと、超さんは「これを使うといいネ」と言って、一つのアイテムをネギくんに渡した。
それは、懐中時計とも、機械式のストップウォッチとも見える、鎖が付いた円盤。その正体は、タイムマシン・カシオペアだ。
「なんでしょうか、これは」
ネギくんはカシオペアを見ながら、不思議そうな表情を浮かべる。
「後で詳しく説明するネ。それじゃあ、ネギ坊主。私は前夜祭の準備があるのでここでお別れネ」
超さんは、そう言ってネギくんの返事も聞かず
その後ろ姿をネギくんはぼんやりと眺めている。
「はー、一体なんだったんでしょうね」
カシオペアに視線を移したネギくんが、そんなことを言った。
「ネギの生徒は変なヤツが多いなー。で、それは結局なんや?」
先ほどまでの騒ぎを遠巻きに眺めていた小太郎くんが、ネギくんの手元を覗き込む。
タイムマシンかぁ。まあこれで、ネギくんの手元に超さんへの対抗手段が渡ったと考えると、今回のことは悪くなかったのかな。
「ネギくん、それ貸してもらえますか?」
「あ、はい。どうぞ」
私はネギくんからカシオペアを受け取り、じっと見つめる。うん、時の力を感じるね。最近、ずっと時の魔術を学んでいたから、これがタイムマシンとしての力を持つことをしっかりと感じ取れる。
私は、魔力でカシオペアを調べるふりをして、こっそり時の魔術を発動して、カシオペアにマーキングをしておいた。
よし、これでカシオペアの追跡が可能になった。麻帆良祭中に、ネギくんがうっかり
「はい、お返しします。魔力を内部に感じましたから、
「ほー、よく分かるな、姉ちゃん。俺はそういうの専門外や」
ネギくんの手元に返ったカシオペアを眺めながら、小太郎くんが言う。
「リンネの嬢ちゃん、どういう魔法具か分かるかい?」
カモさんにそう問われたので、私はヒントを流しておく。
「時の魔力を感じました。時間に関係する魔法具でしょうね」
「時間か……時間を止めるとか」
「あはは、カモくん、そんなのいくらなんでも無理だよー」
カモさんの発言をネギくんは冗談として流した。
うーん、魔法を補助に使えば短時間の時間停止は可能みたいだし、『UQ HOLDER!』を読む限り、カシオペアを四つ使えば長時間の時間停止も可能みたいなんだよね。まあそれは言わないでおくけど。
「横にスイッチがありますが、むやみやたらに押さない方がいいでしょうね。超さんに説明を聞くまでは、いじらないようにしてください」
私はそうネギくんに忠告をし、市街地の移動を再開する。
「分かりました。ところで、先ほどからどちらに向かっているんです?」
ネギくんにそう問われ、そういえば言っていなかったな、と私はあらためてネギくんに説明する。
「3年A組の面々が集まっているところですよ。前夜祭ですからね。ネギくんも一緒に楽しみましょうね」
私がそう言うと、ネギくんは「はい!」と嬉しそうに返事をした。
◆84 魔法使いの夜
「というわけで、最近麻帆良で話題になっている世界樹伝説は本当です」
前夜祭を楽しんだ後、女子寮にてネギま部で集まった私達。
魔法関係者の会合に参加した私と桜咲さん、ネギくんの三人で、みんなに学園長先生が説明した内容を伝えた。
「うほー、のどか、これはチャンスじゃないの」
早乙女さんが、のどかさんに向けてそんなことを言い出す。
のどかさんは原作漫画通りに、ネギくんとのデートの約束を取り付けていた。ちゃっかりしているなー、この娘。
「そ、そんな、魔力でとかよくないよー」
ネギくん本人がいる場であまり言及されたくないのか、のどかさんが小声で返す。
だが、早乙女さん、そして綾瀬さんはのどかさんにチャンスだの勇気を出せだの言っている。だが、待って欲しい。
「世界樹でなされる告白の成功は、いわば魔法による洗脳・催眠の類です。みなさんは、そんな外法での恋の成就が、正常なことだと思いますか?」
私がそう言うと、早乙女さんと綾瀬さんの二人の勢いが止まる。ついでにあやかさんと神楽坂さんがビクついた。
前世のころ、催眠ジャンルはエロ同人界隈で一大勢力を誇っていたが……現実になると恐ろしくて仕方がないね。私が誰かに告白されることはないだろうが、念のため精神防御を全開にしておくことにしよう。
「どうしても魔法による恋を成就させたいなら、魔法関係者に監視をされる世界樹の力ではなく、ネギくんに頼ってください」
「えっ、僕ですか!?」
私に話を振られて、驚きの声をあげるネギくん。
「ネギくんは以前、惚れ薬を学校に持ちこんでいましたからね。自分で飲んで生徒達にモテモテでしたよ」
「あっ、あれはアスナさんがー!」
「ちょっ、ネギ、余計なこと言わないでよ!」
皆の視線が、ネギくんと神楽坂さんに集中する。
「ううっ、あのときは、惚れ薬が違法だって知らなかったんですよー。故郷の魔法学校でだって、女の子達が調合していてー」
「若気の至りだとか、乙女心の暴走だとかのヤンチャのたぐいですね」
私がそう言うと、ネギくんはがくりと肩を落とした。
「魔法を恋愛に使うなら、恋占い程度にしておきなさいな」
ネクロマンサーの水無瀬さんが、ネギくんの肩を叩いてそんなことを言った。
ネクロマンサーは死体や死霊を操って戦う存在だと思われがちだが、本来は霊的存在を使って占いをする者のことを言う。恋占いは、まさしくネクロマンサーの専門分野と言えた。
「ほー、小夜子ちゃん、魔法で恋占いできるん?」
「そうよ。以前も話した守護霊や先祖の霊を使った占いだけど、これはネクロマンシーっていう魔法を使って――」
と、近衛さんと水無瀬さんが二人で何やら盛り上がり始めた。二人は同じ占い研究会の所属だ。だが、占い研究会は魔法に関係ない一般の部活。魔法を使った占いについて、二人は話したことがこれまでなかったのだろう。
そんな二人の話に興味津々になりだす他の女子達。みんなは中学三年生の乙女真っ盛り。恋が気になるお年頃なのだ。
「そういえば、ネギ君と初めて会った時、アスナに向けて『失恋の相』が出てる言うてたなあ……」
近衛さんの言葉に、ピクリと反応する神楽坂さん。
「そーいえば、そんなこともあったわね……!」
神楽坂さんはギロリとネギくんの方をにらむ。
その視線を受けたネギくんは、困ったように答えた。
「僕も占いは得意なんですが……実は今もアスナさんには失恋の相が見えます」
「このっ、またそんなことを……!」
「ああ、確かに見えるわね」
「ええっ、小夜子ちゃんまでそんなこと!」
二人の魔法使いに言われ、神楽坂さんはショックを受ける。
そして、肩を落として部屋の床に転がりだした。
「あー、もう、高畑先生をデートに誘おうと思ってたのにー……」
あらら。デートに挑もうとしている乙女には、キツい言葉だっただろうね。
仕方ないので、私は神楽坂さんを慰める言葉をかけた。
「神楽坂さん、当たるも八卦当たらぬも八卦ですよ」
「リンネちゃん、あんただけが私の味方ねー」
「ああ、でも、一つ注意です」
「ん? なによ」
「高畑先生と結ばれるためだからといって、世界樹の洗脳・催眠の力には頼らないように」
「頼らないわよー!」
うーん、神楽坂さんって、過去に読心魔法や惚れ薬に頼ろうとしていたから、ちょっと心配だな。
そんなバカ話をしながら、前夜祭の夜は更けていく……。