【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ 作:Leni
◆87 ××年××月××日××時
気がついたら私は、城の一室に招かれていた。
座った覚えもないのに木の椅子に座っていて、目の前に湯気の立つ紅茶とケーキが置かれている白いテーブルが見える。
そして、テーブルの対面には、ドレス姿の巨大でふくよかな女性の姿が見えた。
「あー、ここは……」
「ここかい? ここは私の城さ」
「……次元の狭間ですか」
「さすがに、自分が覗き見した場所がどこかは分かっていたようだね」
不敵な笑みで、対面の女性が私を見下ろす。
うーむ、困ったな。まさかこうなるとは。
「『狭間の魔女』ダーナ・アナンガ・ジャガンナータ様とお見受けします。わたくし、刻詠リンネと申します」
私が軽く会釈しながらそう言うと、口を弧に描いて女性が笑う。口元から覗く、尖った犬歯が恐ろしい。
「私が誰か分かったうえで、覗き見していたわけだ」
「ああ、いえ……あなたのことは何者か知っていますが、別に覗きたくて覗いたわけでは……並行世界の観察を行なっていたら、偶然、次元の狭間に繋がってしまったようです」
「フン、並行世界ね……魔眼持ちか何か知らないが、小娘がずいぶんとやっかいな力を抱えたもんだね」
「魔眼ではなく、こういう道具ですね」
私は、身にまとっていた概念礼装を解除。『カレイドスコープ』をカードに変えて、テーブルの上に置いた。
カードには、ダンディなお爺さん、第二魔法カレイドスコープの使い手ゼルレッチ老の横顔が描かれている。
「ちょっと借りるよ」
対面の女性、ダーナ様が私の返事も待たずに、『カレイドスコープ』のカードを手に取った。
そして、目の前にかざしながら彼女は言う。
「フム、近くの並行世界から魔力を持ってくる仕組みのようだね……私も初めて見る形の魔法具だ」
「はい。概念礼装『カレイドスコープ』と呼ばれる、魔法具のようなものです。使いこなせば、私のように並行世界の観測ができるようになりますし、最終的には『並行世界の運営』が可能となるでしょう」
「人には過ぎた力だ。あんたは、人かどうか怪しいけどね」
カードをこちらの前に戻して、ダーナ様がそう言った。人かどうか怪しいか。確かに今は、死亡してもパワーアップして蘇るデモンルーンの力を常時、身に宿すようにしているからね。
「そうですね。人でない力も扱えます。たとえば、これなどどうでしょう」
私は、常時引き出している力の枠からデモンルーンの種族の力を外し、代わりにヴァンパイアロードの第二覚醒、デイウォーカーの種族の力をセットした。
「おや……あんた、吸血鬼だったのかい」
吸血鬼の真祖であるダーナ様が、私の変化を目ざとく察知した。
「ええ、吸血鬼にもなれます。他にも、天狗、竜人、悪霊……人形なんてものにもなれます」
私はダーナ様の目の前で、種族の力を次々と変えていった。
その様子に、ダーナ様はずいぶんとあきれ顔だ。
「これまでいろいろ変なヤツを見てきたけど、あんたはトビキリだね」
へへへ、お褒めの言葉ありがとうございやす。
「あんたが変な存在で、私の住処を覗いたのが偶然という言い分も分かった。で、なんで私のことを知っているんだい? 見た通りの若娘のようだし、私のことを知る機会なんて、そうそうないだろう?」
ダーナ様にそう問われ、私は素直に白状することにした。
「私は、エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェル先生の魔法の生徒なんです。そして、私の固有能力の一つで、とある世界線のとある人物の未来を知ることができるのですけれど、その人物の未来にあなたが登場します」
隠す気はゼロだ。私は素直に腹を見せていく。
ぶっちゃけ、このダーナ様に敵う気がしないのだ。
彼女は、『吸血鬼の真祖』『ハイ・デイライト・ウォーカー』。ヒトの上位種族。
それだけなら、スマホの力を駆使すればまだ勝ち目はある。だが、彼女の場合、それだけでは済まない。もし、ここで私が彼女を殺し尽くしたとしても、別の彼女が新たに現れて逆に私を殺し尽くすだろう。
第二魔法カレイドスコープに『並行世界の運営』の力があるなら、まさしく彼女はその第二魔法に類した力を扱うのだ。狭間の魔女ダーナ様は、数多の並行世界を次元の狭間から監視し、記録し、コレクションする存在である。並行世界を自在に取り扱う彼女は、遍在する。
幸い、彼女は人の世の出来事に手を出してこないので、人の世で生きる私と衝突することはない。なので、この場は全面降伏しておくのが賢い選択だ。
「キティの教え子ねえ……フム……」
ダーナ様は、私から視線を外し、中空をぼんやりと見つめる。
しばし沈黙が続き、やがて私を再び見下ろした。
「あんた、不思議な子だね。どの世界線を確認しても、さっきあんたを連れてきた世界線が属する大きな時間の流れにしか、あんたは存在していない。どこか遠い世界から来た迷子か何かかとも思ったけれど、しっかりと世界に根ざした両親の間から生まれている……」
ああ、私って、『魔法先生ネギま!』の世界にピンポイントに生まれているからね。他の可能性世界には存在しないだろう。
「私は、天界の神様の手によって、別の世界から前世の記憶を保持したまま転生した存在です」
「神ねぇ……私は神々のことも知っているけど、奴らはそうそう下界に手を出すような連中じゃなかったはずだけどね」
「その神って、イスカリオテのユダに不滅の呪いをかけた神ですよね? それでしたら、違いますよ」
私がそう言うと、ダーナ様はピクリと片眉を動かした。
私は続けてダーナ様に言葉を放つ。
「この世界……広大に広がる銀河を含む数多の並行宇宙と次元の狭間、さらに神の存在を全て内包した一つの世界。その広大な世界を観測できる、ここよりも上の世界……いわば、上位にある世界から私はやってきました。そして、その上位世界のさらに上、天界に住む神様の手によって、私はこの下位の世界に生まれ落ちたのですよ」
ダーナ様相手だからできる、ぶっちゃけ話。この事実は、キティちゃん達にも話していない。ダーナ様は数多の並行世界を観察し、気に入った世界を本にまとめてコレクションしている。だからこそ、彼女には正直に話した。
「そんな上位の世界、見かけた覚えはないねえ」
「そうですか……。おそらく、ダーナ様がどれだけ強大な力を手にしたとしても、その世界を見ることはできないでしょう。たとえばですね、とある漫画、小説でもいいですが、そこになんでも斬れる大剣豪が登場したとします。空間も時間も世界も概念も、なんでもです」
私が唐突にたとえ話をすると、ダーナ様は黙って聞きに回った。彼女は目の前の紅茶が入ったカップを手に取って、優雅に口元へと運ぶ。この辺の所作の美しさは、さすが吸血鬼の貴族って感じだよね。
「なんでも斬れる本の中の大剣豪。そんな大剣豪でも、本の紙面を貫通して、読者を傷付けることはできません。これは、そういう次元の話です」
私がそこまで話すと、ダーナ様はカップを口から離し、ぽつりと言った。
「荒唐無稽な話だねぇ」
「そうですね。ですが、確かにその上の世界と天界は実在し、今も私に力を与え続けています。このスマホの形を取って」
私が手元にスマホを呼び出すと、ダーナ様は目を見開いて私の手元を見てきた。
「なんだいそれは! なんだってそんな物が、この世に存在を許されているんだい!」
「え? あれ?」
ダーナ様の思っても見なかった反応に、私は困惑する。
これはあれだね。「ワタシまた何かやっちゃいました?」ってやつだね。
キティちゃんに見せても無反応だったスマホだが、本物の吸血鬼の真祖には何か感じ取れるものがあるらしい。
「ええと、これは天界におわす神様が、私にサービスとして渡してくれた、神のスマートフォンでして……」
「そんな恐ろしい物、よく持っていられるね。見通せないくらい、はるか遠くから、恐ろしいほどの力が降りてきているよ」
おおう、そんなことになっているのか、このスマホ……。天界と直通していそうだなぁ。
恐ろしいほどの力が降りてきているって言っても、別にスマホで神様とやりとりできるわけではない。返信不可能な電子メールが一方的に届くだけなので、pingを向こうから打たれているとかそんなオチが付きそうだけど。
「ちなみに、神様から届いた電子メールも存在しまして……」
スマホをいじり、メーラーを開く。そして、私が生まれたときに神様から届いたメールを開くと、ダーナ様はスマホの画面をその大きな手で覆った。
「分かった、分かったから、しまっておくれ。見ているだけで目が潰れてしまいそうだよ」
ダーナ様にそう言われ、物理的に私がダーナ様の手で潰される前に、私はスマホを手元から消した。
すると、ダーナ様は、心底安心したという様子で息を吐いた。はー、彼女もこういう仕草をするんだね。なんでも余裕で受け流しそうな人なのに。
「あんたの中に入っていったね。あんたの身体は封印具にでもなっているのかい?」
「ええっ、それ初耳なんですけど……」
手元に出したり消したりできるのは分かっていたけど、消しているときは私の中に入っているのか……。
まあ、消しているときも着信音が鳴ったり、メールが届いたりするので、完全に消えているわけじゃないのは分かっていたが。マナーモードにしていると、頭の奥底が震えるようで面白いんだよね。
「やれやれ、寿命が縮まったよ」
ハンカチを取り出して額の汗を拭きながら、ダーナ様がそう言った。
いや、言わんとすることは分かるが、あなた寿命が存在しない不死者でしょうに。
「ともあれ、私は神様の手によって、上の世界から、下の世界に送り込まれた。そんな感じの不思議な存在です」
「理解したよ。いや、させられたというのかねぇ……」
彼女がスマホから感じた力は、ものすごかったようだ。うーん、私は何も感じ取れないけど、よほどすごいんだろうね神様ping(仮)。
「あんたが普段生活している世界から見て、上位にある世界を私も知っている。でも、その世界から見ると、あんたが住む世界が逆に上位の世界になる。お互いがお互いの上位になる、相互の関係世界だ」
ダーナ様が、唐突にそんなことを語り出した。
「今回はそういう関係とは全く違う、不可侵の領域を感じ取れたよ。上の世界、確かにあるんだろうさ」
ああ、その私が生活している世界と相互の関係にある世界って、2021年に感染症ウィルスが流行っている魔法が存在しない世界のことだろうね。『UQ HOLDER!』の登場人物の一人、トラックに轢かれて異世界転移するチートキャラである『真壁源五郎』の出身世界だ。
その魔法の存在しない世界が、私の前世で過ごしていた世界をベースに作られた、下位の世界だという話も、私はダーナ様に向けて語った。
「なるほど。あんたはいろいろなことを知っていそうだ。茶菓子ならいくらでもあるから、少し腰をすえて話していきな」
その後、私はダーナ様に勧められて、紅茶とケーキを楽しんだ。
この世界の未来を描いた漫画が前世では存在していたことを教えたり、キティちゃんとの学生生活を面白おかしく話したりした。
その漫画を読みたくなったら、キティちゃんに許可を取ってもらう必要があるとも説明する。
やがて、楽しいお茶会は終わり、私はダーナ様にもとの場所へと戻してもらうことになった。
麻帆良祭の途中だったので変な場所や時間に返さないよう頼み込んだら、面倒臭そうに、私を引き込んだ時点ちょうどに返してくれると言ってくれた。うーん、片手間に時間を操る、このすごさよ。
「リンネ。あんた、本心をあまり見せたがらない感じの性格に見えたけど、いざ腹を割って話すとなかなか面白い子だね。気に入ったよ」
そんなバカな。私は結構、正直者のつもりなのだが。
「不死者として一人前になりたくなったら、私が直々に手ほどきしてあげるよ。いつでも言いな」
別れの際にそんな言葉を聞きながら、私は静かな次元の狭間から騒がしい麻帆良へと戻っていった。
ダーナ様の修行か。魅力的だけど時間がかかるだろうから、やるとしたら今年の夏休みが終わって以降かなぁ。高等部の夏休みに予定が空いていたら、頼んでみようかしらん。