【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ 作:Leni
◆88 午後五時半
さて、予想外の出会いがありつつも、私はパトロールの仕事を完遂した。
キティちゃんに元々振られていた仕事だが、報酬は全額私が貰えるらしい。また寄付でも……と思ったが、ここは別荘でネギま部メンバーによって日々消費される食材を
別荘で出る食事の素材が、地球にない謎野菜ばかりというのも、ちょっとアレだったし。
そして今、私は参加を表明していた中規模の格闘大会の会場へとやってきていた。
そこで見たのは、予想通りの告知看板。
「むっ、会場変更アルか!」
私の横で、そんな声が上がる。古さんだ。
「どうも、古さん。古さんもこの大会に出場していたのですか?」
「おおっ、リンネアルか。そうアルヨ。麻帆良祭で一番大きな大会と聞いていたアルが……」
確か今日は、中国武術研究会の方で『ちびっこカンフースクール』を開催していたのだったか、カンフー服とチャイナドレスを合わせたような独特の服を着た古さんが、私の言葉にそう返してきた。
そんな古さんに、私は原作知識からくる前情報を少しリークする。
「これは噂なのですが、超さんが麻帆良祭の全武闘大会を買収したらしいですよ。それで、ウルティマホラ規模の格闘大会を開くそうです」
「なぬっ、超は、何も言っていなかったアルよ」
「秘密にして驚かせたかったのでしょうね。とりあえず、午後六時から受付開始みたいですので、会場に向かいましょうか」
「ふむむ、これはちょっと楽しみになってきたアルネ!」
そうして私達は列車で場所を移動し、『まほら武道会』の予選会会場である龍宮神社に到着した。
そこでは人でごったがえしていて、見覚えのある格闘家の姿もちらほらと見えた。
さらに私達は、神社の仕事をしていたのか、巫女服姿の龍宮真名さんと、それと一緒にいるお化け屋敷のお化け姿をした鳴滝姉妹&長瀬楓さんのさんぽ部トリオを見つけた。
「楓ー! 楓も出るアルか?」
「おお、古。そうでござるな。賞金が一千万円もあるでござるし、出場してみるでござるよ」
「楓がウルティマホラからどれだけ強くなったのか楽しみアル!」
「ふふふ、負けないでござるよ」
そんな会話を楽しげに交わして、たわむれる古さんと長瀬さん。
それを見た龍宮さんが、笑みを浮かべて言う。
「これは、勝ち上がるのも一苦労だな」
「真名も出るアルか?」
「ああ。一千万は魅力的だからな」
そう、今回開催される『まほら武道会』。なんと賞金は一千万円である。
こんな額をポンと出せる超さんは、普段、料理屋台の『
「あっ、あっちにネギ坊主がいるアル!」
古さんが、人混みの中からネギくんと小太郎くんを発見したようで、そちらに向けて駆けだした。
私達はそれを追い、ネギくんと合流する。
「ネギ坊主達も出るアルか? 私達も出るから、当たったときはよろしくネ」
「え、ええー! 皆さん出るんですか!?」
ネギくんは、私と古さんの顔を交互に見て、あわあわとし始めた。
「コ、コタロー君。こ、こ、これはダメくない!?」
ネギくんは、隣にいる小太郎くんにそんな弱気な発言をし始めた。
「フン、相手にとって不足はないわ。俺は負けん!」
「負けんって、少し冷静になろーよ! シミュレータールームでは負け続きだよ!?」
「アホ、訓練と実戦を一緒にするなや。修行の成果を見せてやる、くらい言ってみせろや」
「無理だよー。それに古菲さんとリンネさんだけでなく、楓さんと龍宮隊長もただ者じゃなくて……」
そんな会話を目の前で繰り広げる小太郎くんとネギくん。
ふーむ、これは、少し背中を押してあげようか。
「ネギくん、大会名、見ました?」
私がそう言うと、ネギくんは「え?」と首をかしげる。
「その名も『まほら武道会』です。聞き覚え、ありませんか? たとえば、図書館島の地下で……」
「あっ! 父さんが優勝した武術大会……!」
「はい、そうです。ナギ・スプリングフィールド氏が十歳で優勝をかっさらっていった、裏の大会。それの復刻大会ですよ、これは」
「十歳の父さんが……でも、今回のこれは格闘大会なんですよね? 僕は剣士だから、素手の戦いはそこまで上達していなくて……」
「大丈夫ですよ。この大会、剣術大会も吸収しているようですから。おそらく、木剣や竹刀の使用も許可されると思いますよ」
と、そこまで説明したところで、また新たな人物がこの場に訪れた。
キティちゃんと高畑先生のコンビだ。
「ぼーや、私の弟子を名乗るなら、優勝くらい狙ってみせろ」
出会い頭にキティちゃんがそんなことをネギくんに言う。対して、ネギくんの反応はと言うと。
「
「いや、出ないさ。合気柔術一本でやるのも辛いものがある。だから、我が門下の
「うわー、千雨さんも。こ、これはますます勝利が難しくなってきたよー……。でも、父さんが優勝した大会なんだよね……」
そんな感じで悲観するネギくんに、高畑先生は笑いかける。
「ネギ君、君が小さい頃、ある程度力がついたら腕試ししようって約束したよね」
「えっ、タカミチ!? それは今じゃなくていいんだよ!?」
「あれ? そうかい? いやー、でも、せっかくだから僕も出てみるよ」
「そんなー!」
あー、高畑先生はあれだからね。素手で滝を真っ二つに割る光景とか、幼い頃のネギくんに見せているらしいからね。
と、そんな話を近くで聞いていたのか、神楽坂さんがこちらに駆け寄ってきて、言った。
「高畑先生が出るなら私も出ます!」
「えーっ、アスナ君が?」
神楽坂さんの突然の参加表明に、さすがの高畑先生も驚き顔だ。
そんな3年A組のクラスメート達で場が混沌としてきたところに、突如、場内アナウンスが入る。
それは、クラスメートの朝倉さんによる、大会説明。
そして朝倉さんは、大会の主催者を会場の皆に紹介し始めた。
『では、今大会の主催者より、開会の挨拶を! 学園人気ナンバーワン屋台『超包子』オーナー、
すると、中華風の豪奢なドレスに身を包んだ超さんが、仮設ステージの上に登場する。
『ニーハオ。私が大会を買収して『まほら武道会』を復活させた理由は、ただひとつネ。……表の世界、裏の世界を問わず、この学園の最強を見たい。それだけネ』
来たか。魔法を世界にバラすための一手が。
『二十数年前まで、この大会は元々、裏の世界の者達が力を競う伝統的大会だたヨ。しかし、主に個人用ビデオカメラなど、記録器材の発達と普及により、使い手達は技の使用を自粛。大会自体も形骸化。規模は縮小の一途をたどた……』
確か漫画『ドラゴンボール』でも、天下一武道会でグレートサイヤマンの悟飯がカメラに撮られないように、ピッコロさんが会場中のカメラを破壊とかしていたよね。
『だが、私はここに最盛期の『まほら武道会』を復活させるネ! 飛び道具及び刃物の使用禁止! ……そして、呪文詠唱の禁止! この二点を守れば、いかなる技を使用してもOKネ』
堂々とそう説明した超さん。当然、会場は困惑に包まれる。呪文詠唱の禁止とはなんぞや、と。
その意味を理解している高畑先生は、「困ったなー」などと頭を掻いている。
ところで、宝具の真名解放は呪文詠唱に含まれますか?
『案ずることはないヨ。今のこの時代、映像記録がなければ誰も何も信じない。大会中、この龍宮神社では、完全な電子的措置により、携帯カメラを含む一切の記録機器は使用できなくするネ』
……多分、私のスマホのカメラは動くんだろうなぁ。神様パワーを科学でなんとかできたら、私は超さんを本気で尊敬するよ。
『裏の世界の者は、その力を存分に奮うがヨロシ! 表の世界の者は、真の力を目撃して見聞を広めてもらえればこれ幸いネ!』
そうして、超さんのスピーチが終了した。
と、思ったら、追加で『最後の優勝者はナギ・スプリングフィールドだ』と超さんはネギくんを見ながら告げ、仮設ステージの上から去っていった。
だが、ネギくんは、すでにその事実を知っている。ネギくんはそれよりも、超さんの言った大会ルールを吟味していたようだ。
「呪文詠唱の禁止。でも、試合開始前にアーティファクトを呼び出せば……」
うん、やる気は十分みたいだね。
では、私はせいぜいネギくんの壁になるとしようか。一千万円、譲らないよ。スマホの力だって使ってみせる。
私一人が自重したところで、他にも魔法使いや気力使いは参加するんだから、魔法バレを完全に防ぐことはできないしね。
◆89 午後六時半
『まほら武道会』予選会は、二十名で一グループのバトルロイヤル形式。予選全体のエントリー可能人数は先着百六十名で、AからHまでの八グループより各二名ずつが予選を進出。合計十六名が、明日午前八時からの本戦に出場となる。
くじの結果、私はCグループになった。3年A組関係者からは、高畑先生のみの出場だ。これは、数少ない二枠を取り合わなくて済むね。運がよかった。
いや、くじの内容も超さんが操っているかもしれない。
ちなみに、神楽坂さんと同行していた桜咲さんだが、武道会には参加しないらしい。京都神鳴流は退魔のための剣で、人前で無闇やたらと剣技を披露するのは
そんな優勝候補が一人欠けた予選会で、私は武器を構えてバトルフィールドの中央に陣取っていた。
私を遠巻きにするように、格闘家達が周囲を囲む。だが、襲いかかってくる様子はない。
ふーむ、これは、ウルティマホラ優勝経験者だから、警戒させちゃったかな?
「どうしました? かかってこないならこちらからいきますよ? あ、高畑先生は来ないでくださいね。この予選、私と先生で突破するのが理想だと思いますので」
私がそう言うと、高畑先生はスラックスのポケットに両手を突っ込む独特の構えを取りながら、困ったように返してくる。
「それは構わないんだけど……刻詠君、一ついいかい?」
「はい、なんでしょう」
「なんでマグロを持っているんだい? それ、武器なのかい?」
「武器ですが?」
そう、私は活きのいい武器をこの予選会に持ちこんでいた。
ピチピチと跳ねる、巨大な魚。『PSO2es』主人公であるアンドーの武器コレクションから借りてきた、『スペース・ツナ』である。ついでに衣装もアンドーから借りた『スペース・ツナ服』で統一しているよ。
「ああ、もちろん、本物のツナではないですよ。あくまで、模型ですから」
「そうなのかい……? なにやら、動いているようだけど」
「本格的な模型ですから、飛び跳ねくらいしますよ」
私と高畑先生がそんな会話をしている間も、他の選手達は「お前がいけよ」「いや、お前が」「マグロで負けたくねえ」とか言い合っている。んもう、こないなら私からいっちゃうぞ。
「じゃあ、攻めますね。高畑先生、そこ危ないのでちょっと避けてください。あ、はい。そこなら大丈夫です。それでは、行きますよ。奥義――」
私がバトルステージの中央で『スペース・ツナ』を構えると、他の選手達がとっさに身構える。だが、身構えた程度でこの技は防げまい。
「――『真空十字斬』!」
私を中心にして前方、真横、真後ろに十字を描いた剣閃が走る。その効果範囲は、バトルステージの端から端まで。運悪く十字の軌跡にいた選手達は、その場で吹き飛び勢いよく場外に落ちていく。
「な、なんだ!? 今の技は!?」
効果範囲の外にいて攻撃をまぬがれた空手家が、驚きの表情でそう叫んだ。
今の剣技は、私の剣の師匠の一人である『剣士サンドラ』さんが使う奥義『真空十字斬』だ。前々から練習していたが、最近の修行の日々で、スマホから力を引き出さずとも使えるようになった。
本気で撃てば効果範囲が途方もないので、いずれ訪れる造物主戦での雑魚掃討のためにずっと練習してきたのだ。
「ふふふ、これが裏の世界ですよ、格闘家さん達。さあ、『スペース・ツナ』の錆になりたい人からかかってきてください!」
「くそっ、そんな変な武器で負けたくねえ! 囲め! さすがのウルティマホラ優勝者も、囲まれればどうしようもねえはず!」
そんな小物臭い台詞に従う選手がいたのか、四方から複数人が私に殺到してくる。
だが、私の武器は『スペース・ツナ』。リーチが長い大剣だ。複数人との戦いにめっぽう強いぞ。
「いきますよー。『ツイスターフォール』!」
私は縦回転の大回転斬りを放ち、近づいてきた者をまとめて吹き飛ばす。
さらに、高畑先生が巧みに動いて、選手達を一人、二人とダウンさせていく。
そして、事態が動いてから三分も経たないうちに、バトルステージに立つ者は私と高畑先生の二人だけになっていたのだった。
やったね!
◆90 午後七時半時
全ての予選が終わり、本戦のトーナメント表が発表される。
本戦は勝ち抜き戦で、トーナメント表は右のブロックと左のブロックに分かれている。それぞれの一回戦の対戦カードは、以下の通りだ。
●右ブロック
・
・
・
・
●左ブロック
・
・ネギ・スプリングフィールドVS.タカミチ・T・
・
・
最終的に、右ブロックの勝者と左ブロックの勝者が激突し、一千万円を懸けた戦いを行なうことになる。
ふーむ、左ブロックの私はこのまま行くと、二回戦でおそらく神楽坂さんと、準決勝でネギくんか高畑先生と戦うことになるね。
右ブロックは誰が勝ち上がってくるか、全く分からない。個人的には古さんだとは思うのだが……ちう様も先日、自身のプログラム化に成功したから、何が飛び出すか分からないんだよね。
しかし、高音さんと佐倉さんの魔法使いコンビが原作漫画通りに出場しているとか、ネギくん、彼女達の恨みをどこかで買ったのだろうか?
ココロちゃんからはネギくんの細かい動向を聞いていないけど、のどかさんとのデートあたりで一悶着あったのかな。
「ええー、タカミチが相手!?」
と、ネギくんがトーナメント表を見て驚きの声を上げている。
「わはは、最後の追い込みに、別荘行っとくか? ネギ」
そう言って笑う小太郎くん。
困ったときの二十四倍頼み。寿命を前借りしていると言えども、やっぱり便利すぎるね。
「エヴァの別荘かぁ。僕も昔はよく使ったよ。久しぶりに行ってみるかな」
「えっ、タカミチが別荘でさらに特訓したら、僕の勝ち目なくなるよー」
高畑先生の言葉に、ネギくんが涙目でそんなことを言った。
対する高畑先生は、苦笑して頬をかいた。
「いや、ネギ君の秘密特訓に水は差さないさ。ちょっと最近忙しかったから、中でのんびり休憩でもさせてもらうよ」
そんなやりとりを横で聞いていたキティちゃんは、ジト目で高畑先生を見ながら言う。
「あの別荘は、私の私物だということを忘れてないだろーな。私の弟子のぼーやはともかく、他の者はちゃんと借りているという自覚を持て」
「あ、あはは……感謝しているよ、エヴァ」
困ったように言う高畑先生の言葉を聞きながら、私達はそろって移動を始めた。
エヴァンジェリン邸への移動……の前に、3年A組の初日の打ち上げだ。麻帆良祭一日目の夜は、まだ終わらない。