【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ 作:Leni
◆91 居合
麻帆良祭一日目の中夜祭に集まった3年A組一同は、翌日の午前四時まで騒ぎに騒いだ。
お酒も入っていないのにあそこまで騒げるのは、一種の才能だと思う。
私は途中でふらふらになって、適当な相づちを打つマシーンと化していたが、こんなところで自分は精神的に若くないという事実を思い知らされるとは思わなかった。精神は肉体に引っ張られるとか言うけど、あれ嘘じゃんよ。
というわけで、解散後はネギま部一同プラス高畑先生で、エヴァンジェリン邸の別荘に逃げてきた。
一眠りした後、大会出場者はそれぞれ最終調整とも言える特訓を始めた。
とは言っても、私の場合、いまさら何かをしても付け焼き刃になるだけだ。
なので、最低限の装備をスマホの中から借りる約束を取り付けた後は、皆の様子を見て回ることにした。
まず向かったのは、キティちゃんのところだ。一つ報告を入れておかないといけない。
「エヴァンジェリン先生、ちょっとさっき、ダーナ様と会って一緒にお茶会してきました」
「はあッ!? ダーナって、狭間の魔女のダーナか!?」
「そのダーナ様です」
「ちょっとこっちに来い!」
そう言ったキティちゃんに引っ張られ、別荘の奥の方の部屋へと向かう。
そこで私は、ダーナ様と話した内容をところどころぼかしてざっくりと説明した。予言の書を見に来るかもしれないということも伝えた。
するとキティちゃんは、頭を抱えて声を絞り出すように言う。
「貴様はなんという余計なことを……」
「そういうわけで、ダーナ様からエヴァンジェリン先生に連絡が行く可能性が……」
「はあ、ただでさえカリンが来ていて頭が痛いのに……」
「おや、彼女、来ているのですか」
カリンとは、中世時代にキティちゃんと行動を共にしていた不死者で、『UQ HOLDER!』に登場するメインキャラクターの一人だ。ダーナ様との話で話題に出した、イスカリオテのユダだね。
「ああ、日本に住んでいるなら、日本最大の祭典に来るのは何もおかしくない、だそうだ」
「あはは、愛されていますね」
「真祖バアルの行方がつかめていない以上、接触を続けてカリンを以前の二の舞にはしたくないのだが……。麻帆良で不意打ちされれば、今の私にはどうしようもできん」
真祖バアルはキティちゃんの不倶戴天の敵だ。いや、キティちゃんはそこまで滅ぼしたいほど憎んでいるわけではないようなのだが、バアルの方がキティちゃんにちょっかいをかけてくる可能性が高いのだ。
彼はキティちゃんに「君の行く末がどうなるかとても気になる」とか言って、キティちゃんに付き従っていたカリンを大木に変えて封印。彼曰く、カリンがいなくなったらキティちゃんのか弱い精神がどこに行き着くのか興味がある、だそうだ。
バアルは、好きな子をいじめたくなる子供メンタルじみた言動を真祖のパワー付きで取った、ヤベー存在なのだ。
なので、中等部卒業まで麻帆良から長期間離れたくないキティちゃんにとって、カリンを麻帆良に招いて一緒に過ごすことはリスクがともなうわけだ。妖魔パワー抑制結界のせいでキティちゃんの力が弱まる麻帆良で、真祖バアルに襲撃を受ける危険性があるのだ。
麻帆良ではバアルも結界による抑制を受けるだろうが、本物の真祖相手にはたして結界がどこまで効果あるか。
「ま、人間を愛しているらしい真祖バアルなら、麻帆良祭中に襲撃はないんじゃないですか」
「そうだといいがな。とりあえず、ダーナの件は了解した。何を言われるかは分からんが、覚悟をしておく」
「お願いします」
そうやりとりをして、私達は別荘の奥から出た。
そして、私が次に向かったのは、砂浜で小太郎くんと一緒に軽い模擬戦を行なっていたネギくんのところだ。
ちなみに、ネギくんの師匠のアルトリア陛下は、今ここにはいない。昨日の時点でお小遣いを持たせて麻帆良祭に解き放ってあるから、今頃どこかの宿泊施設で一泊しているんじゃないかな。
さて、模擬戦を終えて一息ついたネギくんに、私は歩み寄る。
「ネギくん、武道会の本戦では、竹刀ではなく世界樹の木剣を使った方がいいですよ」
模擬戦で竹刀を使っていたネギくんに、私はそう言った。
彼が今手にしているのは、私が以前プレゼントした竹刀……ではなく、何度か修行中に折れてしまったので四代目の竹刀だ。
「ええっ、危なくないですか?」
ネギくんが、驚いた表情で私の言葉に返してくる。まあ、普通に考えたら木剣で殴り合うのは、とても危険なのだが……。
「魔力がこもった木剣程度で頭をかち割られて死ぬような選手は、本戦に残っていませんよ。その竹刀ですと、魔力で強化してもへし折られる可能性が高いです。その竹刀は、特にこれといって特別な素材で作ったわけでもないですしね」
「うーん、大丈夫かなぁ……」
竹刀が折れるというのは実感としてあるのか、ネギくんが悩み始める。
そんなネギくんに、私は言った。
「少なくとも、一回戦の高畑先生相手では、竹刀だと軽々とへし折られるでしょうね」
「おー、なんや、姉ちゃん。あいつの戦い方知っているんか」
横からそう言ってきたのは小太郎くんだ。高畑先生の戦い方ねぇ。
「何度か、街中で戦っている姿を見たことありますよ」
「本当ですか? リンネさん、タカミチはどんな戦い方をするか、参考までに聞いてもいいですか?」
うーん、ネギくんがカンニングじみた事前調査をしてくるとは、意外だ。
それだけ、勝機が薄いと見ているのだろうが……。
「本人に聞いてみては?」
私がそう端的に答えると、ネギくんはあわてて言葉を返してくる。
「ええっ、そんな、教えてくれるはずがないですよー」
「何事もチャレンジです。あのー、高畑先生ー」
少し離れた場所で、神楽坂さんと話をしていた高畑先生を呼ぶ。
すると高畑先生が一人でこちらにやってきたので、ネギくんに戦い方を教えてあげられないか尋ねてみた。
「ええっ、僕の戦い方? まさか対戦相手にそれを聞いてくるとは」
「ほら、リンネさん、言ったじゃないですかー」
ネギくんが情けない声で私を批難する。
「まあ、確実に教えてくれるとは、私も言ってませんので」
私はそう言い訳して、肩をすくめた。
そんなやりとりを笑って見ていた高畑先生は、「仕方ないな」と言ってネギくんと向き合う。
「そうだね。直接答えは教えてあげられないけど、ヒントを見せてあげよう」
そんな高畑先生の言葉を受けて、ネギくんと小太郎くんは、本気かよといった感じで驚き顔になる。
「ネギ君、魔力で身体を強化して、そちらに立ってごらん」
高畑先生にうながされ、ネギくんは困惑しながらも魔力を全身に行き渡らせる。
高畑先生とネギくんが、五メートルほど離れた状態で向かい合う。そして、スーツ姿の高畑先生は、両手をスラックスのポケットに入れる独特の構えを見せた。
「では、いくよ」
高畑先生がそう言うや否や、ネギくんが後方に吹き飛んだ。そして、そのまま別荘の海へと着水し、大きな水柱を立てた。
その後、びしょ濡れになりながら海からあがってくるネギくん。その彼に、高畑先生は笑みを浮かべて言う。
「これが僕の戦い方だよ。じゃ、試合までどう攻略の糸口を見つけるか、楽しみにしているよ。頑張ってね」
そうして、高畑先生は再び神楽坂さんの方へと戻っていった。
神楽坂さんは、桜咲さんと剣術の特訓中のようだね。
「ネギ、攻撃の正体分かったか?」
濡れねずみのネギくんに、自信ありげな小太郎くんが尋ねる。
対するネギくんは、思案顔で言う。
「うん、物凄く速いパンチだったね。でも、あの構えになんの意味があるのかな……」
あの拳速をしっかり見切れたのか。ネギくん、動体視力も優れているんだね。私は長年鍛えてきたおかげでなんとか見切れたけど、ネギくんそういう修行を幼少期からしてきたわけじゃないよね?
まあ、頑張ったネギくんにはご褒美だ。
「あの構えは、居合ですね」
私の言葉に、ネギくんは首をかしげる。
「居合って、刀を使うあの居合ですか? のどかさんがよくやっている……」
おそらくカタナを使うアークスのクラスである、ブレイバーの練習をしているところを見たのだろう。のどかさんが目指すファントムのクラスも、カタナを扱うからね。
それが分かっているなら、話は早い。
「スラックスのポケットを刀の鞘に見立て、ポケットの中で拳を加速させて、居合として拳を振り抜く。そういう仕組みでしょうね」
私の解説に、ネギくんがうなずく。
「なるほど……うん?」
「なんや?」
うなずいたと思ったらまた疑問の声をもらしたネギくんに、小太郎くんが問う。
「ポケットの中で拳を加速……どうして加速するの?」
「んなこと言うてもな。居合ってそういうもんや」
「へー」
いや、へーじゃないよ。
「ネギくん。日本文化を誤解しないように。居合は別に、鞘で刀を加速させるための技ではないですよ。座った状態や納刀した状態からスムーズに攻撃へ移るための技です。最初から刀を抜いていられるなら、それが一番ですよ」
「ん? そうなんか?」
今度は小太郎くんが首をかしげる番だ。
「普通の居合ならそうですね」
そう、あくまで日本文化としての居合についての訂正だ。だが、裏の世界における居合は違う。
「これに『魔力』や『気』、フォトンといった力が絡むと、話は変わってきます。それらの力が推進力、鞘が発射台となり、普通に刀を振るうよりも速い攻撃が可能となるのです」
「おお、なるほどな!」
「へえ、じゃあタカミチの居合も?」
私の解説に、小太郎くんが感心し、ネギくんがそう問うてくる。
「ええ、高畑先生は『魔力』を使って、この居合拳とでも言う技を成立させているようですね」
まあ、彼が使うのは魔力だけじゃないんだけど。そう思っていると、向こう側で特訓をしていた神楽坂さん達の方から大きな声が聞こえてきた。
「えー、高畑先生も『咸卦法』使えるんですか!?」
神楽坂さんだ。私は耳を澄まし、彼女達の会話を聞く。
「うん。というか、むしろ僕が昔のアスナ君に教えてもらった立場なんだよね」
「ええっ、それって……」
「アスナ君。そろそろ君には、昔のことをいろいろ話しておくべきかなと思う」
「昔のこと……それって、ネギのお父さんのこととか、関係ありますか?」
「うん、あるね。そうだな、下手なことを話して武道会に影響したらいけないし、大会が終わった後でいいかな」
「あっ、それなら、高畑先生、大会の後に、で、で、で、でででで……」
「?」
「デート、いえ、一緒に麻帆良祭をまわりませんか!」
「うん、構わないよ。話はそのときでいいかな?」
「はい! お願いします!」
おお、やるじゃん神楽坂さん。告白したら確実にフラれるだろうけど、デートは一歩前進だよ。
というか、神楽坂さんってネギくんへの恋愛感情はないんだから、高畑先生とのカップリングが一番丸く収まらない? いや、高畑先生に実は好きな人がいるとかだったら、前提が崩れちゃうけどさ。
「ネギ、『咸卦法』やって」
「うわあ、ますます勝ち目がないよー……」
ちゃっかり小太郎くんとネギくんも会話を聞いていたのか、ネギくんが絶望したという感じの表情になる。
まあ、頑張ってほしい。高畑先生も本気を出さないと思うからさ。いや、原作漫画より強くなっているであろうネギくんを見て、ギアを上げてくる可能性はあるね……。
私的には大会で戦ってさらなる成長をうながしてあげたいので、ネギくんに勝ち上がってきてほしい。どうなることやら。
◆92 電子の王
ネギくん達のもとを離れた私は『まほら武道会』のために特訓を積んでいる、他の面子の調子を尋ねてまわった。神楽坂さん、古さんの順だ。
そして、最後となるちう様のもとへと訪ねる。
「どうですか、調子は」
「ん? ああ、いいかげん、人じゃないのにも慣れてきたな」
私の問いかけに、そう軽い調子で答えるちう様。
だが、言葉の内容は軽いものじゃない。
「不具合はありますか?」
「ないな。これで私も、電子精霊達と同じ存在になったわけだ」
そう、ちう様は先日、実体化モジュールを流用した術式により、自身を電子情報生命体に変えることに成功していた。
しかも、電子情報生命体になったうえで、『千年戦争アイギス』の精神生命体であるデーモンの秘術を使い、仮初めの肉体を構築していた。
デーモンは、肉体を滅しても精神がある限り本当の意味で死亡することはない。
さらにちう様は、プログラムの本体とも言えるコア部分を私のスマホに移した。これにより、私が完全消滅してスマホが消えない限り、永久に復活し続ける存在へとちう様は変わっていた。
まさしく今のちう様は不老不死の存在。新たなUQホルダーのナンバーズ候補である。いや、この世界で不死者の集団UQホルダーをキティちゃんが作るとは限らないけど。
「スマホの居心地はいかがですか?」
「快適。とは言っても、あくまでコアの設置場所ってだけだからな。普段の居場所はこっちだ」
ちう様は、履いていたスカートのポケットから携帯端末を取り出して、私に見せて来た。
その端末は、アークス特製の情報端末。フォトンリアクター内蔵の超頑丈な端末で、この世にフォトンがある限り充電なしで動き続ける。つまり、のどかさんがいる限り半永久的に動き続けるちう様の仮宿である。
「スマホの中は探検しました?」
私が自分のスマホをフリフリしながら尋ねると、ちう様は「ああ」と答える。
「何か見つかりました?」
「いや、別宇宙への扉も、天界への扉も見つからねーな。通信自体はしているみたいなんだが、中からじゃ辿れねえ」
私の予想では、スマホの中に宇宙が広がっていると思っていたのだが、どうやら違うようなのだ。
スマホゲームのキャラクター達がすごしている宇宙は別にあって、そことスマホが不思議な力で繋がっているだけだというのがちう様の見解だ。
そもそも私が女神様に願ったのは、不思議なスマホを手にすることじゃない。スマホゲームの力を自由自在に扱えるようになることだ。
ということは、私の願いでゲームのキャラクターが住む宇宙が作られ、そこに神様がおまけでスマホという連絡手段を後付けした、と見ることができる。
私はスマホがあってもなくても、ゲームの宇宙から力を引き出すことができるのだろう。
ゲームの宇宙と『LINE』で連絡が取れるだとか、スマホで枠を課金してキャラクターを現世に呼び出せるだとか、そういうのは全部神様のおまけ。おまけなので、いつ取り上げられてもおかしくはないのだ。
でも、取り上げられるのは困るんだよね。ちう様のコアが、スマホの中にあるから。
ちう様が自身を電子情報生命化しようとしていたころ。私のスマホにコアを置きたいとちう様が言い出したときは、私は当然のように考え直すよう説得した。
そんなときだ。スマホにメールが一通届いたのは。神様からのメールだ。
内容は、与えた力を後から取り上げたりしないので、安心して人生を謳歌してね、みたいな感じ。
女神かな? あ、女神様だった。アフターケアがばっちりすぎる。
そういうわけで、ちう様の不死の担保役として、私はますます永遠を生きる覚悟を決めたのだ。
「スマホも、アークス端末も、問題ない。あとは、『力の王笏』さえなんとかなればなぁ……」
「そのアーティファクトがどうかしました?」
魔法少女ステッキを片手に言うちう様に、私はそう尋ねた。
なんだろう。スペックでも不足したのだろうか。
「いや、持ち運ぶにはデザインがな……」
「あー、対象年齢五歳って感じですものね」
スマホの中の宇宙(いや、スマホの中ではないみたいだけど、便宜上こう呼ぶと分かりやすいので……)で日々悪さをしている『カレイドルビー』の親戚のような見た目しているからね、そのアーティファクト。
「いっそのこと、専用ケース作って、二度と開かないようにするか?」
「それか、外部パーツ付けて先端部分が見えないように……」
私達がそう会話していると、電子精霊七部衆が現れて抗議を始めた。
『ひどいです、ちう様!』
『我らの住居になんてことをするつもりですかー』
『ちう様、見た目の年齢操作し放題なんですから、デザインに合う幼女になればいいじゃないですか』
「態度のでけー手下どもだな。スペックで私に負けているくせに」
『それは言わないお約束ですぅ』
『上位の電子精霊を超えるとか、このマスターおかしい!』
あー、今のちう様って電子情報生命体だから、電子精霊みたいなこと素でできちゃうのか。
短い天下だったなぁ、ドラクエ精霊達。
その後、電子精霊達の懇願で、アーティファクトのデザイン変更は保留された。
でも、いいのかな。そのままだとちう様は滅多に人前でアーティファクトを出すことがなくなり、電子精霊達の活躍の機会は、同じことができるちう様の存在もあって、減っていくんだけど……。
「ま、そのうち自分達で気づくさ」
ちう様はそう言って、アーティファクトを手元から消した。
「さて、私も武道会の準備を進めるかな。古に勝てるかは分からんが、生命体として進化したところを見せつけてやりたいな」
「ちう様、中途半端に変なことやると、最終日に直接の魔法バレを阻止しても、人々に疑念が残りますよ」
「そうは言っても、ネットに動画を流される程度だろ? ネットで動画を気軽に閲覧できるやつなんて、一握りの人間だけだ。気にするようなことじゃねえ」
まあ、そうなんだよね。
2003年現在、ブロードバンドはまだまだ普及しきっていないし、最大手の動画共有サービスもスタートしていない。
インターネットを使っている人にとって、動画は気軽に見るようなコンテンツではないのだ。
もちろん、超さんサイドが動画共有サービスをスタートさせるという未来も考えられる。けどそれは、世界樹の魔力を使って人類が魔法の存在を信じやすいようにしてから、ダメ押しでやる事業だろうね。
「決勝まで行ってリンネと戦えるかは分からねーが、今回の武道会は全力で挑ませてもらう。ちゃんと見ておけよ?」
言うじゃないか。
ま、ちう様は今世の私にとって、最大の推しなので、全力で応援するに決まっているんだけどね!
※まほら武道会本戦はダイジェストにするつもりで書いたのですが、伸びに伸びて全五話になりました。しばらくトーナメントにお付き合いください。