【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■39 まほら武道会一回戦右ブロック

◆93 右ブロックの激闘

 

 麻帆良祭二日目、午前八時。龍宮神社に作られた『まほら武道会』の特設会場は、満員御礼。

 観戦チケットは全席完売で、今やプレミア価格でやりとりされているらしかった。

 

 その客席の一角、前方の席には我らがネギま部メンバーが陣取っていた。

 ネギくんが格闘大会に出場すると前々から知らされていたので、昨日の夜と今日の午前はみんなスケジュールを空けていたのだ。

 後からネギくんの『まほら武道会』本戦出場を知ったクラスメート達と揉めたらしいが、ここにいるということはチケットを守り通したのだろう。

 

『ただいまより、『まほら武道会』第一試合に入らせていただきます!』

 

 バトルステージ上からそう宣言したのは、リングアナウンサーの朝倉さん。

 第一試合、佐倉(さくら)愛衣(めい)VS.村上(むらかみ)小太郎(こたろう)

 

 佐倉さんは、私達の一学年下の麻帆良女子中の魔法生徒だ。珍しいことにアーティファクトを所持しており、無詠唱魔法を使いこなすなかなかの技量も持っている。

 しかしだ。

 

『おおっとー、佐倉選手、村上選手の掌底で吹っ飛んだー!? これはいかなる技か、解説者席ー!』

 

 別荘で鍛えた小太郎くんの敵じゃないね。

 小太郎くんは我流の戦士だ。特定の師匠をつけて型にはめてもあまりよくないだろう、というスカサハ師匠の言により、彼は模擬戦主体の修行をこれまでこなしてきた。数多の英雄、英傑達との戦いを経て、彼は確実に成長していた。

 

『はい、解説者席の絡繰茶々丸です。本日は、裏の戦いに詳しい専門家に来ていただいています。解説のクウネル・サンダースさん、今の攻撃は?』

 

 んん? クウネル・サンダース?

 

『はい。あれは掌底による打撃と言うよりは、優しく手の平で押しただけですね。女性を無闇に傷付けたくない。しかし、攻撃を当てないのも失礼に当たる。そんな彼の優しさが垣間見える一撃でした』

 

 なにやっているの、あの魔導書。予選に出場していないと思ったら、解説役とか……。

 

『なるほど、打撃ではなく押し出しですね。以上、解説者席でした』

 

『ありがとうございます! 佐倉愛衣選手、場外に出た状態で十秒経ったため、村上小太郎選手の勝利です! 溺れる愛衣選手へ手を差し伸べる小太郎選手に温かい拍手が送られています!』

 

 バトルステージの外側には、水が張られている。というか、龍宮神社の隣にある湖に特設ステージを設けた形だ。

 バトルステージから場外に落ちた選手は、十カウント以内に水から上がってステージへ戻る必要がある。バトルの最中に泳がなきゃいけないとか、地味に辛いよね。

 

 で、第一試合は小太郎くんの勝利で終わったわけだが、なぜ佐倉さんが武道大会なんぞに出場しているのか。

 それは、選手待機席に現れた高音・D・グッドマンさんが、ネギくんの前で説明していた。

 

 なんでも昨日、高音さんと佐倉さんが告白阻止パトロールをしていた最中、世界樹の魔力によって操られたネギくんがキス魔と化し、佐倉さんや高音さんの唇を奪っていったと。その直後、反省も見せずに大会予選に出場したのを見て、お灸を据えねばならぬと自分達も出場を決めたとのこと。

 うーん、そんなことがあったのか。ネギくんがキス魔にね。これ、『魔法先生ネギま!』の知識を持つのどかさん、狙ってやったよね? おお、こわやこわや。

 

 さて、そんな選手待機席での一幕がありつつ、バトルステージでは試合が進む。

 第二試合、大豪院(だいごういん)ポチVS.長谷川(はせがわ)千雨(ちさめ)

 

 大豪院ポチ選手は、太眉にタラコ唇が特徴の選手だ。実はこの選手、ちょっと面白い人物だ。ユニークな性格をしているとかではなく、『魔法先生ネギま!』という漫画作品的に面白い経歴を持っているのだ。

 

『魔法先生ネギま!』は週刊少年マガジンで連載されていた漫画だが、同時期の連載に『もう、しませんから。』という漫画があった。漫画家が取材を行なって、その様子を漫画化するいわゆるルポ漫画だ。

 大豪院ポチ選手は、その『もうしま』作者をもとにして生まれたキャラクターである。

 その作者は柔道経験者らしいが、大豪院ポチ選手はどうやら打撃主体の格闘家。流れるような連続攻撃をちう様に向けて叩き込んでいる。しかしだ。

 

『すさまじい連続攻撃ですが、クリーンヒットは一度もなし! ウルティマホラ二年連続本戦出場者の千雨選手、余裕の表情ー!』

 

 格闘家として、ちう様は上を行った。

 

『おおっと、ここで千雨選手の体当たりが、カウンター気味にクリーンヒット。今のは名高い鉄山靠(てつざんこう)なのかー?』

 

『中国拳法の八極拳における貼山靠(てんざんこう)ですね。長谷川千雨選手は中国武術研究会の所属で、八極拳の使い手として有名です』

 

 朝倉さんの実況を受け、解説者席の茶々丸さんがそんな解説を入れる。茶々丸さんは、別荘でちう様が李書文先生に八極拳の指導を受けている様子を見ているからね。

 

『9……10! 大豪院選手、立ち上がれない! 千雨選手の勝利です!』

 

 魔法も気弾も飛び交うことのない、普通の格闘試合だったなぁ。

 まあ、次の試合は違うんだろうけど。

 

『第三試合! 予選で分身の術を披露した忍者ガール、長瀬楓選手! 対するは、『遠当て』の使い手、中村達也選手! 巷で噂の『遠当て』がまた見られるのかー?』

 

 そうして始まった第三試合。

 空手着を着た『気』の使い手、中村選手が『烈空掌(れっくうしょう)』なる気弾を開幕から飛ばす。

 長瀬さんはそれを軽々と回避していくが、派手に炸裂する気弾に観客席は大盛り上がりだ。

 それに気をよくした中村選手が、さらに『烈空掌』を連発する。

 

 しかし、長瀬さんはそれをわずかな動きで回避し、ゆっくりと中村選手に近づいていく。

 気弾は有効ではないと悟った中村選手。今度は『気』を手にまとわせ、貫手を長瀬さんに放つ。

 それも軽やかに回避した長瀬さんは、中村選手の背後を取って、首筋を手刀で叩いた。

 すると、中村選手は一瞬で気を失い、倒れる。

 

『おおお! 首トン! 首トンです! 私、初めて首トンで人が倒れるところを見ました! 『遠当て』の中村達也選手、KO!』

 

 首を手刀で打っても人は気絶しない。割と有名な話だが、それはあくまで表の世界でのこと。『気』を相手の首筋に流し込むことで、漫画の世界にしか存在しなかった首トンは実現できる。いや、ここ漫画がベースになった世界だけどね!

 

 気絶した中村選手が担架で運ばれていき、試合は第四試合へと移る。

 

『お待たせしました! お聞きください、この歓声! 本日の大本命、前年度『ウルティマホラ』チャンピオン! (くー)(ふぇい)選手の登場です!』

 

 本日の古さん。その手には、棍がにぎられている。

 なるほど、本気だね。古さんは、『神槍』と(うた)われた李書文先生の指導を受けている。そんな彼女が本気を出すときは、やはり槍術を使用するのだ。

 

『おおっと、ケンポーガールの古菲選手、今日はなんと武器を所持しています。これは棒でしょうか?』

 

『木の棒、つまり棍ですね。古菲選手は拳法だけでなく、槍術も修めており、本気で相手を打倒したいときは槍を持ち出すのだとか。今大会では刃物禁止なので、代わりに棍をということでしょう』

 

 解説の茶々丸さんが、リングアナの朝倉さんの疑問に答えた。茶々丸さんは、ちう様だけでなく古さんの稽古も別荘で見てきたからね。

 

『なるほど、チャンピオンが本気になったと! そしてその相手は、ここ龍宮神社の一人娘、龍宮(たつみや)真名(まな)選手です! 所属はバイアスロン部! 当然、銃は今大会で禁止されていますが、どう戦うのか!?』

 

 そして、試合が開始される。

 と、同時に龍宮さんが仕掛け、古さんがそれに対処する。龍宮さんが指でコインを弾き、古さんが棍で器用にも弾いたのだ。

 

『な、なんだ今の攻防はー!? おや? こ、これは、メダル! 龍宮選手、ゲームセンターのメダルを飛ばしています! 解説席、これは一体!?』

 

『クウネルさん、いかがでしょうか』

 

 解説者席の茶々丸さんが、横に座るフードの男、クウネル・サンダースことアルビレオ・イマへと話を振る。

 

『『銭投げ』ですね。物を投げる投擲(とうてき)は、両手を自由に扱える人類に許された遠距離攻撃手段です。そして、はるか昔は原始的な石投げでしかなかった投擲は、より強力さを増すために投石器を使うようになったり、より携帯性を上げるために金属の貨幣を投げるようになったりしたわけです。銭投げは、携帯性を上げた暗器の術の一つと言えるでしょう』

 

『なるほど、暗器ですか。しかし、解説のクウネルさん。真名選手は、メダルを投げる動作を見せていませんが』

 

『『指弾』です。親指で弾いているようですね。その連射性は、なかなか侮れませんよ』

 

『なるほど。以上、解説者席でした』

 

 その解説をバトルステージ上の古さんも聞いていたようで、メダルを警戒しながら龍宮さんに向けて言った。

 

「『羅漢銭』アルか。私は暗器をあまり使わないアルが、真名が使ってくるとは驚き……ではないアルネ」

 

 すると、龍宮さんは笑って話に応じる。

 

「本当なら重たい五百円玉を使うのが最適なのだが……いかんせん現金を使うと弾数が限られてな」

 

「それで、ゲームセンターのメダルアルか」

 

「ああ、メダルなら業者に発注すれば安く大量購入できるからな。弾はまず尽きないと思っていいぞ。魔法で取り出し放題だ」

 

「むむ、それはやっかいアル」

 

「ちなみに、このメダルを使う案はリンネからもらったものでね。以前リンネと雑談をしていたときに聞いたが、なんでもゲームセンターのメダルを打ち出すレールガンの術があるらしいじゃないか」

 

「初耳アルネー」

 

 いやー、龍宮さんと言えば銭弾き、銭弾きといえばとある科学のみこっちゃんと連想してさ。ゲーセンのメダルをレールガンで飛ばす話をしたことがあったんだよね、一年くらい前に。

 そんな龍宮さんのメダル弾きが、バトルステージの上で本格的に始まった。

 

 まるでガトリング砲のように撃ち出され続けるメダル。それを古さんは棍で弾き、回避し、時に受けて『気』で耐える。

 尽きないメダルの雨に、古さんは近づけない。

 

「むむむ、ここは仕方ないアル。超の思惑に乗ってやるとするネ。真名、覚悟するアル!」

 

「むっ?」

 

「行くアルヨ。『流れ星』!」

 

 すると次の瞬間、上空から光が降ってきた。

 まるで流星のような光の弾。それが複数連なって、龍宮さんに殺到したのだ。

 

「くっ!」

 

 とっさに光弾を避ける龍宮さん。だが、古さんとしてはそれで成果は十分。メダルの連射が途切れた隙をついて、古さんは棍の間合いに入る。

 そして、そこから龍宮さんは棍でめった打ちにされ、最後に蹴りを受けて場外に吹き飛んだ。

 

『真名選手ダウーン! 謎の光で攻守が逆転したと思ったら、一瞬でけりがついてしまったー! 強い、『ウルティマホラ』チャンピオンは強いぞー!』

 

 そして、龍宮さんは浮いてこなかった。10カウントがなされ、古さんに湖からすくい上げられた龍宮さんは、担架を拒否して歩いて退場していった。

 

『しかし、今の光はなんだったのか!? 銭投げなどでは説明が付かない軌道ですが、解説者席!』

 

『はい。どうでしょうか、クウネルさん』

 

『驚きですね。あれは、仙術です』

 

『仙術、ですか』

 

『はい。隣の大陸に隠れ住むという仙人、神仙が使う神秘の術です。あの術からは星の力を感じました。光の術を流星に見立てて、空から降らせたのでしょうね』

 

 アルビレオ・イマが、魔法の秘匿なんのそのといった解説を入れてしまった。隠す気ゼロである。

 あれ? もしかして、アルビレオ・イマって、本格的に超さんの協力者なの? それとも何も考えていないだけ?

 

『仙術! チャイニーズカンフーガール古菲選手の正体は、仙人だったのかー!』

 

 解説を受けて、朝倉さんがそんなあおりを入れる。ノリノリだな、この娘。

 一応、朝倉さんには麻帆良祭が始まる前に、麻帆良内で盛大な魔法バレが起きたら、ネギくんがオコジョ刑を受ける可能性をそれとなく伝えておいたんだけどなぁ。魔法の存在を知っているのにネギま部に入れなかったのが、あだになったか。

 

『いえ、彼女が中学校に通う見た目通りの年齢だとすると、その若さで仙人ということはないでしょう。せいぜいが道士見習いか方士見習いといったところでしょうね』

 

「なんか暴露されまくっているアルネー」

 

 と、アルビレオ・イマの解説を聞きながら、古さんが選手待機席へと戻ってきた。

 解説を聞いていたネギくんは、困り顔で私と古さんに向けて言う。

 

「どうしましょう……僕も無詠唱魔法を使ったら、クウネルさんに魔法のことを暴露されるんじゃあ……」

 

「あの様子だと、されそうですね」

 

 私がそう言うと、ネギくんは頭を抱えてうめきだした。

 

「うう……魔法もなしじゃどうやってタカミチと戦えば……」

 

 すると、古さんがネギくんの肩を叩いて言う。

 

「大丈夫アル。超が何か考えているみたいネ。だから、気にせず本気で戦ってくるアルヨ」

 

「えっ、そうなんですか?」

 

「うむ。カメラに映らないようにするとか言っていたアルから、きっと大丈夫アル」

 

「なるほどー」

 

 超さんの考えていることって、魔法の公開なんだけどね!

 まあ、ここで魔法を使いまくっても、最終日に原作漫画通りの公式イベントを起こしてしまえば、みんな演出だと思い込むからどうにかなるさ。

 多分だけどね。

 




※原作読み直していたら、13巻のネギ先生VS.刹那戦で、古菲が李書文のことに言及しているシーンを発見しました。そういうわけで当SSの古菲は喜んで『神槍』李書文に師事したミーハーガールになります。

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