【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■4 魔法生徒リンネ!

◆12 火よ、灯れ

 

 はてさて、キティちゃんに魔法を教えてもらう契約を取り付けた私とちう様だが、学園側からの扱いは新米魔法生徒だ。

 予言の書の存在は学園側には明かせない。では、どうやって私達が魔法の存在を知ったかという経緯は、捏造してやる必要がある。

 

 そこで必要となるカバーストーリーは、私とちう様が二人だけの同好会活動をしていたことから簡単に用意することができた。

 元々、私達二人は麻帆良の不思議を解き明かすために、学園都市中を嗅ぎ回っていたわけで。その痕跡は確かに残っていて、そこから自力で魔法の存在を知ったという話に持っていけたのだ。

 実際、魔法使いが空を飛ぶシーンも目撃していたわけだしね。

 

 さらには、キティちゃんにも口裏を合わせてもらって、同好会活動中に闇の福音の存在を私達が知ったというホラ話を学園に信じ込ませることができたのだ。

 当然ながら、魔法に関する記憶の消去を、という声も上がったようなのだが、それは通らなかったようだ。

 

 元々私とちう様は麻帆良の異常性に対して、疑い深い目で見てきたわけだ。つまり、魔法に関する記憶を消去したところで、また自力で魔法に辿り着いてしまう可能性は高い、と見なされた。

 さらに、キティちゃんが私達の教育役に名乗りを上げたので、後ろ盾もできて私達は無事、魔法生徒になったわけだ。

 

 あの闇の福音が、未来のある若者を手中に収めることについて、麻帆良の関係者の間で議論が紛糾したらしいけれど……。

 最終的に私達はキティちゃんの下に収まることになったので、うまく言いくるめることに成功したのだろうね。

 

 そんなわけで、私とちう様は、毎日放課後エヴァンジェリン邸に訪れて、魔法の練習にはげむことになった。

 

「プラクテ・ビギ・ナル。『火よ、灯れ(アールデスカット)』!」

 

「おお、ちう様、今、杖の先が光りましたよ」

 

「マジか!」

 

「この調子でやっていきましょう」

 

 魔法の練習は、エヴァンジェリン邸の居間で行なわれている。ダイオラマ魔法球は使わない。私達はまだ小学生なので、時間加速した状態での修練は、身体が成長しすぎると判断してのことだ。

 ただし、中学生に入ってからは遠慮無く使わせてもらう予定だ。

 

「はー、ここまでくるのに結構かかったな」

 

ダイオラマ魔法球(べっそう)の中ならマナが満ちているらしいので、簡単に火が灯ったのでしょうが……」

 

「いやー、さすがに小学生達の中で、二人だけ大人ボディになるのはな。寿命の前借りとか怖いし」

 

 ダイオラマ魔法球の中で長く過ごせば過ごすほど、現実世界では早く寿命を迎えることになるわけだ。

 

 まあ、私はゲームキャラクターの力で、千年経とうが若い姿を保ち続けることができるので、寿命とか気にしないのだが……ちう様はねぇ。個人的には、ちう様にも永遠の命を手に入れてほしいところだが、それを私から押しつけるわけにはいかない。

 だって、今後ちう様が男の人を好きになるとして、その人と一緒に歳を取っていきたいと思うかもしれないからね。

 

「では、私も。プラクテ・ビギ・ナル。『火よ、灯れ(アールデスカット)』」

 

「お、火花が散った気がする」

 

「はい、身体に蓄えられたオドがわずかに消費された感覚がありますね。……一応の成功です」

 

「あー、リンネは魔力の感覚が分かるのか。便利だな」

 

「三流マスターの魔術回路がありますからね。西洋魔法は初心者ですが、並行世界の魔術が使えます」

 

「それ、私と一緒に魔法を覚える必要なくねえ?」

 

「西洋魔法は詠唱が必要な代わりに、威力が高いのが魅力なのですよ。まあ、威力のある魔法を使えるのは、一握りの達人だけなのでしょうが……」

 

「私は、自分があのラストバトルで戦えるような魔法を使えるようになるとは、到底思えないな……」

 

 しょんぼりするちう様。まあ、ネギま後半やUQ後半は、パワーインフレ物凄いからね。努力だけであの頂に到達できるとは、とても思わないだろう。

 

「ちう様が本気で強くなりたいなら、私も全力で支援しますので、考えておいてくださいね」

 

 私は右手にスマホを呼び出し、ちう様の前でフリフリと振った。

 それを見て、ちう様は考え込む。

 

「なんだか私、リンネに与えられてばかりで、何も返せてねーな」

 

 (うれ)いを帯びたちう様の表情も、いいものだなぁ。

 

「魔法を覚えたいって言い出したのは私なのに、エヴァンジェリン先生と交渉して言質を取ったのはリンネだ。私は何もしていねえ。それなのに、私はこうして魔法を学べている。私は一方的にリンネから搾取している状態だな……」

 

 ふむ。おんぶに抱っこ状態が、心苦しいと。

 私は少し考えて、ちう様に向けて言った。

 

「前世の世界には、こんな名言がありました。『友情は見返りを求めない!』」

 

 私が高らかに言い放つと、ちう様はキョトンとした顔をこちらに向けた。

 そして、ゆっくりと口元に笑みを浮かべて、言う。

 

「……いい言葉だな。いや、寄生行為がその言葉で許されるってわけじゃねーが」

 

「ふふ、大丈夫ですよ。私のふところは広いんです。具体的にはスマホ一個分」

 

「神様の宝物レベルか。めちゃくちゃ広いふところだな」

 

 うんうん、もっと頼ってもいいのよ?

 

「友情は見返りを求めない、か……」

 

 ちなみにその名言、エロゲで出てきたワードだから、あまりおおっぴらに言うものじゃないんだよね。

 

 

 

◆13 出会いの意味は

 

 魔法の練習は夕方近くまで続き、杖の先から火花が散るようになったので、体内の魔力を消費するようになってきた。

 ネギま世界の西洋魔法は、精神力をトリガーとして、体内に蓄えた魔力を呼び水に、世界に満ちる魔力を操作するというもの。

 型月式の魔術も、似たような動作をすることがある。型月世界では体内の魔力がオド、世界の魔力をマナと呼ぶ。ネギま世界では、オドはイドと呼ばれ、『気』として運用する。

 

 そんなわけで、私とちう様は精神力とオドの使いすぎでヘロヘロになっていた。

 

「リンネも普通に疲れるのな。完璧超人だから平然としていると思ってたよ」

 

 いえいえちう様。私のスマホにはキン肉マン関連のゲームは入っていないので、完璧(パーフェクト)超人の力なんてとてもとても。

 え? そういうことではない?

 

「魔法の練習のために、今の私は特にスマホから力を引き出していませんからね。麻帆良生まれの刻詠(ときよみ)リンネという一般人の限界が、ここまでだったということです」

 

「そーか。なんか素のリンネが私並みというのは、なんか安心したな」

 

「身体能力に関しては、スマホの住人に鍛えられているので、猫二匹分ということはないですが」

 

「体育の成績すげーもんな……」

 

 スマホの中には『Kittens Game』の宇宙が広がっていて、太陽系Heliosの宇宙空間にオラクル船団が、惑星Cath上にカルデアや、とある王国等が存在している。

 そこでゲームのキャラクター達が自由に過ごしているのだが、基本暇なので、私を鍛えたがるいわゆる師匠勢がいる。その師匠勢に、力を十全に制御できるよう幼少期から指導されてきたのだ。

 まあ、スケジュールはゆるゆるで、ちう様と一緒に同好会活動ができるくらいには余裕があったけれども。

 

 そんなことを説明したら、ソファーに腰掛けながら、ちう様がこちらをじっと見つめてきた。

 

「リンネはさ……」

 

 気だるげにちう様が言う。

 

「私に会う前から、私のことを知っていたってことだよな」

 

「そーですね」

 

「なんで、わざわざ私を友達に選んだんだ? 正直、未来の私って、なんの取り柄もない人間だったろ」

 

「んー、そうですね。実はちう様って、ギャグ漫画世界に迷い込んだシリアス青年漫画の住民みたいな人なんですよ。そのギャップでもって、異常に対するツッコミを担当する役割を課せられているような存在です」

 

「あー……言いたいことは分かる」

 

「麻帆良の異常にツッコミを入れて苦悩をしている姿が忍びなくて、世界の外からやってきた私なら、同じ視点を共有できるだろうなって」

 

 そんなちう様も、今ではすっかり異常に浸かっている。おおよそ私のせいで。

 

「まあ、リンネは麻帆良に存在する異常どころじゃない、異常の塊だったわけだが……」

 

「あはは。そんな感じで、最初のきっかけは同情ですね。でも、思いのほか仲良くなれたので、最初の動機はもうどうでもいいかなーって」

 

 私がわざとおどけてみせながらそういうと、ちう様も笑みを浮かべる。

 

「別に同情スタートでも構わないけどな。実際、お前がいることで精神的に楽になってたのは確かだし。持つべきものは親友だな」

 

 ちう様にそう言われて、私はどこか救われた気がしたのだった。

 私の推しが尊すぎる。

 

 

 

◆14 少女よ、虎になれ

 

「千雨。貴様は身体の動きが(つたな)すぎる。猫二匹分の強さすらないのではないか?」

 

 着火の魔法が成功するようになってから、キティちゃんがあらためて私達の指導を行なってくれることになった。

 そこで言及されたのが、ちう様の運動音痴っぷりだ。

 

「くっ、でも私は砲台タイプの魔法使いを目指してだな……」

 

「最低限の身のこなしができなければ、後衛といえども足手まといになるぞ。本物の猫のように素早く動けるなら別だがな」

 

 猫コスプレのちう様を私は思い浮かべる。ありだな。

 

「そこでだ。長谷川千雨。武術を学べ。魔法剣士タイプになれとは言わんが、最低限、接近されたときの対処法を身につけろ」

 

「あー……武術かぁ。エヴァンジェリン先生が教えるなら、合気柔術か?」

 

「つきっきりで武術を教えるほど私も暇じゃない。お前達との契約内容は、あくまで魔法の伝授だ。お前達の先生にはなったが、師匠になった覚えはないんでな」

 

「そうか……」

 

 ちょっと残念そうな顔をするちう様。

 まあ、合気柔術とかちょっと憧れるよね。

 

「今の私は、子猫達との新魔法開発で忙しい。アーウェルンクス対策の封印魔法だな」

 

 ああ、ネギまのラストバトルで使っていた氷に閉じ込めるやつ。

 キティちゃん、原作に関わる気満々だね。

 

「なので、千雨の武術教育は、リンネに一任する。厳しくやれ」

 

「私ですか?」

 

「お前が直接教えるのもよし、英霊なりを呼び出すもよしだ」

 

 ふうむ。英霊もありか。それなら、選択肢が広がるな。

 私はちう様を手足をじっと見つめて、それから彼女に尋ねた。

 

「ちう様は、どんな武術がいいですか? 武器? 素手?」

 

「え、そうだな。えーと……」

 

 ちう様はしばらく考えた後で、真面目な顔で言った。

 

「銃刀法に引っかからないやつで」

 

「棒術とか格闘とかですね。うん、杖を持つと考えると、妥当ですか」

 

 そうなると、よさげな人が一人。

 現世に出てきてもらう交渉も楽そうだ。元々、弟子を持っていた武術家なので、弟子を育ててみないかと誘えば出てきてくれる可能性は大いにある。

 

「ちう様は、李書文という方をご存じですか?」

 

「え? 知らねえ」

 

「ほう。拳法家か。ずいぶんと近代の英霊だな」

 

 どうやら、キティちゃんは知っているようだ。

 

「19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍した、中国の伝説的武術家です。代表的な使用拳法は、八極拳。棒術も使えます」

 

 私のその言葉に、ちう様がピクリと反応する。

 

「八極拳って……」

 

「はい。予言の書において、ネギ先生が習得した拳法ですね」

 

 私がそう言うと、キティちゃんは「くくく」と面白そうに笑い、そして告げた。

 

「よし、千雨、リンネ。中等部に上がったら、ウルティマホラに出場しろ。千雨は、そこで好成績を残すことを一人前の魔法使いとなるに向けての課題とする。リンネは優勝が課題だな」

 

 ウルティマホラは、秋の麻帆良体育祭のころに毎年開催されている格闘大会だ。麻帆良で一番強い格闘家を決める大会である。

 って、待て待て。中学生の時期って……。

 

古菲(くーふぇい)さんと当たりますが」

 

 未来の3年A組のクラスメート。ネギ先生と一緒に戦った武術家だ。

 

「勝て」

 

 ええっ……。

 

「古菲は貴重な未来の主力戦闘員候補だ。たった二年間といえども、井の中の蛙状態にしておくことは惜しい。なのでリンネ。貴様が徹底的に叩け」

 

「この人、本格的に『魔法先生ネギま!』に関わる気満々ですね……」

 

「あのような未来を見せられて、事前に動かない方が馬鹿なのだ」

 

 というわけで、ちう様が武の道に入門することが決定した。

 李書文先生はというと、ちう様の弟子入りを了承してくれた。スマホの中のカルデアは達人ばかりで、教えがいのある弟子が欲しかったのだそうだ。

 ちなみに先生は英霊なので、若い全盛期の存在と年老いた円熟期の存在の二名いるが、全盛期の先生はちょっと戦闘狂が入っているので、円熟期の方においでいただいた。

 

 武術の訓練場所は、メディア様によって新たに作られた、小さめのダイオラマ魔法球内部。ここでは時間加速がされていないため、年齢を気にせず修練にはげめる。魔法の練習もここで行なうようになった。

 

 武術に魔法。両方の訓練は続き、月日はまたたくまに経過していく。

 そして、2001年。いよいよ私達は中学生となる。

 

 入学式を迎えたその日、キティちゃんが私達に向けて言った。

 

「よし、全員無事に1年A組に入ったな。リンネ、今晩実行だ」

 

「ん、了解しました」

 

 今日、この日までキティちゃんは耐え忍び続けてきた。

 登校地獄の呪い。それの解除が今夜とうとうなされる。この日まで待ち続けたのは、キティちゃんがネギくんとの縁を作りたがったから。

 キティちゃんは、ネギくんの生徒として未来に挑むのだ。

 

 その未来への挑戦に、1年A組出席番号19番刻詠リンネと、1年A組出席番号26番長谷川千雨が巻き込まれるかは、まだ分からない。

 


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