【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ 作:Leni
◆94 左ブロックの熱闘
『皆様、お待たせいたしました! 床板の張り替えが終了しましたので、第五試合に移らせていただきます!』
そんなアナウンスがされ、選手が入場してくる。
『麻帆良大学工学部所属、田中選手!』
ガタイのいい、長身の男だ。サングラスをして、髪をオールバックにしている。
彼は観客の声援に応えることもなく、ただじっとたたずんでいる。まあ、無言なのも当然で、工学部製のロボなんだけど。
『聖ウルスラ女子高等学校2年、
ウルスラ女子の制服を着た高音さんは、なにやら選手待機席のネギくんに向けて高飛車な口上を長々と述べている。
しかし、ウルスラ女子か。ウルスラ女子と言えば、昨年度末にうちのクラスとウルスラ女子のドッヂボール部で、体育の授業で使うコートの奪い合いをしたのが記憶に新しいね。中学生にからむ高校生という、大人げなさがすごかった。
そんな大人げない学校所属の高音さんは、試合開始後に田中ロボの猛攻を受け、最終的にビームを受けて服が消失。
高音さんは半裸というかほぼ全裸になり、悲鳴をあげて田中ロボを吹き飛ばした。
高音さんの勝利だ。勝利なのだけど……この観客の人数の前で全裸とか、実質負けだよね。
少年誌時空パワーが発動して乳首規制とか謎の光とかが入るとかは別に起きていないので、観客席からばっちり見えている。高音さんにとっては、一生のトラウマ物だよ、これは。
まあ、そのトラウマ物の脱げビームは、麻帆良祭最終日に猛威を振るうのだろうけど。
さて、次の試合。ネギくんは木剣を持ち、指輪型の魔法発動体を左手の小指にはめ、アーティファクトを入れた革のポーチを腰に下げる。『雷公竜の心臓』を持ち出すとは、ネギくんも本気だ。
ステージで互いに向かい合い、試合の開始を待つネギくんと高畑先生。
観客席のネギま部からネギくんを応援する声が響き、緊張していたネギくんの表情がほぐれる。
『それでは第六試合、ファイト!』
合図と共に、ネギくんは瞬動で高畑先生の懐に潜ろうとする。高畑先生の居合拳がネギくんにぶち当たるが、防御の魔法を張っていたのかネギくんは無事だ。
そこから密着するような間合いでネギくんは木剣で斬りかかる。それに対して高畑先生も負けていない。巧みな手さばきで、木剣をいなしていった。
だが、ネギくんが肩から体当たりする形で高畑先生の体勢を崩すことに成功し、無詠唱の『
ダウンを取られた形になるが、高畑先生はすぐに立ち上がる。そして、両手をポケットに突っ込んだ構えで、ネギくんに言う。
「驚いたな。ここまで成長していたとは」
「……ッ! 効いてない!?」
「いや、効いたよ。これは、本気を出すべきだね。じゃあ、使わせてもらうよ」
高畑先生は手をゆっくりとポケットから出し、胸の前でその両手を合わせた。
次の瞬間、高畑先生の全身から猛烈なオーラがほとばしる。
「『咸卦法』……!」
「うん。アスナ君で見慣れているかな? 僕のは今のアスナ君のそれより、少しだけ強いよ」
「くっ……竜よ、僕に力を貸して」
ネギ先生は、『雷公竜の心臓』から魔力を引き出し、魔法の力に換えた。
それは、風の魔法。風が渦巻き、暴風となって木剣の周囲に集まる。すると、空気の歪みが木剣の姿を隠した。アルトリア陛下直伝の『
おそらく、刀身を隠すことよりも、風に相手を巻き込むことによる攻撃力アップを期待して、風速を上げているのだろう。
「へえ。それがネギ君のとっておきか」
「うん、これが僕にできる最大の技だよ」
「じゃあ、お互い準備も整ったようだし、第二ラウンドと行こうか」
そこからは暴力と暴力のぶつかり合いだった。
『物凄い戦いだー。私、とても舞台の上に立っていられません! 情けないリングアナですがご容赦をー! ところで解説者席、あの二人の技は一体!?』
『どうでしょうか、解説のクウネルさん』
解説席では茶々丸さんがまたもやアルビレオ・イマに話を振って、魔法の暴露をさせようとしている。
『タカミチ選手はポケットを刀の鞘に見立てた『居合拳』を攻撃の起点に置き、『気と魔力の合一』で力を高めています』
『『気と魔力の合一』、ですか?』
『はい。本来、『気』と『魔力』は反発する性質を持っていますが、彼は鍛錬によりその合一に成功しています。『
『なるほど。では、ネギ選手の方は?』
『あれは、膨大な魔力を使って風の魔法を持続的に発動していますね。その風を剣にまとわせ攻撃に使うと共に、空気の屈折で刀身を隠しているようです。リーチが把握できないというのは、想像以上にやっかいですよ』
『ありがとうございます。以上、解説者席でした』
かなりぶっちゃけた解説だが、観客席からは「さすがデスメガネ」だとか「子供先生すごい!」といった脳天気なノリの歓声が響いている。元々この世界の人間は脳天気な者が多いが、今は麻帆良祭の真っただ中ということもあり、魔法がどうこう魔力がどうこうよりも、ノリで騒ぐことの方が重要なようだ。
ただ、麻帆良祭に参加していない人も同じノリをしているとは限らない。今頃、超さんはインターネットにこの試合の動画を流し、魔法を公開するための下準備を行なっていることだろう。
まあ、動画の拡散は無視してもいいだろう。ネットで動画を見る人なんて、今の時代ではそこまで大量にはいないし、世界樹による催眠がなければ、ただの派手なCG演出だ。
前世で昔、ネットで流行っていた、大相撲にオーラのエフェクトを付けたネタGIF画像みたいな扱いになる。
そして、バトルステージの上の戦いは、ステージを盛大に破壊しながらも続き……最終的にネギくんによる風の全解放、『
『ネギ選手勝利! 十歳の子供先生、二回戦進出が決定しましたー!』
高畑先生はまだ余力があったようだが、後進に道を譲る的な感じで勝ちを譲ったのだろう。ネギくんの最後の一撃が決まっていなかったら、譲る気もなかったんだろうけどね。
こうしてネギくんは勝利をその手につかみ、二回戦で高音さんとぶつかることが決まったのだった。
その後、ネギくんはフラフラになりながら選手待機席へと戻ってくる。
「ただいまー」
「兄貴ィ!」
「おう、ネギ、やったな!」
カモさんと小太郎くんが、ネギくんを盛大に迎えた。というかカモさん、いくら『気』が使える格闘家とはいえ、魔法関係者じゃない選手が近くにいるんだから、もう少し忍べ。
「ネギくん、治療の魔法はいりますか?」
私は、その他選手に聞こえないよう、小声でネギくんに尋ねる。だが、ネギくんは首を横に振ってそれを拒否した。
「いえ、僕だけ一人、万全になるわけにもいきませんし、遠慮しておきます。自前の魔法でなんとか……」
「そうですか。では、医務室で消毒だけでもしてくるといいですよ」
「そうします……」
そんな会話をネギくんとしていると、次の試合の選手である神楽坂さんがどこからか選手待機席へと戻ってきた。
その神楽坂さんに向かって、私は言う。
「次、神楽坂さんの試合ですよ」
「うん、ちょっと高畑先生のところに行ってて、遅れちゃった」
「高畑先生は姿が見えないようですが、医務室ですか?」
「いや、なんだか小夜子ちゃんと刹那さんが、『超さんの動向が怪しい』とか言いだして、高畑先生を連れてどこか行っちゃった」
「なるほど……」
原作漫画と同じように、地下の兵器格納庫を探しに向かったかぁ。どうなるかな。兵器格納庫は麻帆良祭が始まる前に私も発見済みだけど、魔法先生達には報告していないんだよね。
兵器はあったけど世界に魔法をバラすという計画を示す物はどこにもなくて、未だに超さんとの魔法バレの時期をずらせないかの交渉ができないのが困りものだ。予言の書からくる未来知識で超さんにアプローチをかけるのは、彼女に疑念を抱かせることになるし……。
『舞台の修復が完了しました! さあ、次の試合に移りましょう!』
「あ、時間ね。それじゃ、頑張ってくるわ」
「勢い余って、アーティファクトを剣に変えないよう気を付けてくださいね」
「あはは、確かに、気を付けなきゃいけないわね」
私の冗談半分の忠告に、神楽坂さんは笑ってハリセン片手にバトルステージへと向かっていった。ちなみに神楽坂さんはこれまでの別荘での修行で、アーティファクト『ハマノツルギ』を本来の姿である大剣モードに変えることができるようになった。
『それでは、第七試合、ファイト!』
「嬢ちゃん、本気で来な! 俺も、女は殴れんなどと生っちょろいことは言わねえぞ!」
バトルステージの上で、
対する、神楽坂さんは……。
「本気……じゃあ、本気でいかせてもらうわよ」
そう言い放った神楽坂さんは、いきなり『咸卦法』を発動した。
「むっ、それは高畑のヤローが使っていた、『気と魔力の合一』とかいう……」
「……ヤローじゃなくて、先生でしょ!」
豪徳寺選手の言いざまに憤った神楽坂さんが、ハリセンで先制攻撃。不意打ちになった形の一撃は、盛大に豪徳寺選手を吹き飛ばした。
KOには至らなかったが、なかなか強烈な一撃だったようで、そこからの試合運びは神楽坂さんの有利な流れで進んだ。
純粋な技量では豪徳寺選手の方が上なのだが、最初の一撃による優位と、『咸卦法』による絶対的なパワーにより、勝利の女神は神楽坂さんに微笑んだ。
『8……9……10! 決着! 勝利したのは、ハリセン少女の神楽坂明日菜選手だー!』
さて、次はいよいよ私の試合だ。
私は、スマホから力を引き出し、衣装をチェンジする。さらに、アンドーの武器コレクションから武器を一つ拝借した。学園祭らしく、派手にいくつもりだ。
そして、対戦相手の
「『3D柔術』の力、見せてあげよう」
山下選手が、隣を歩く私にそう言い放った。
『3D柔術』かぁ。いったいどういう格闘技なのか気になるが……残念ながら、この試合でその力を発揮することはないよ。
『さあ、皆様、お待ちかね! 一昨年度『ウルティマホラ』チャンピオン、刻詠リンネの登場だー。しかし、なんだ、その格好はー! 黒髪ロリ巨乳ビキニアーマーとか、マニアック過ぎるぞ!』
観客席の視線が私に集まる。
今回の私のコーデは、ちょっぴりサディスティックなアイドル歌手剣士。セイバーのサーヴァント『エリザベート・バートリー〔ブレイブ〕』の力を引き出して、アンドーの『マイク・スタンド』を武器に持っている。
『そして、その手に持つ、マイクは一体なんだー!? もしや、それで殴るのかー!』
ロッドの一種だから殴ることもできるものの、本質としてはテクニック増幅装置だ。まあ、今回、テクニックは使わないで、無理やり剣として使うけどね。ロッドをロッドとして扱わないので『PSO2es』のチップの効果が乗らないが、むしろオーバーキルを防ぐにはそれくらいがちょうどいい。
そして、場内アナウンスで山下選手の紹介もされていき、朝倉さんが試合開始の号令をかける。
『一回戦最終試合、ファイト!』
さあ、行くよ。戦いなんざくだらない! うなれ、『凸カレ』!
「私の歌を聞けー!」
そう宣言してから、私は短い節の歌を高らかに歌う。すると私の口から、音の衝撃波がほとばしった。
衝撃波は渦となり、様子見しようと構えを取っていた山下選手を巻き込み上空へと吹き上がる
そして、私は歌声を止め、『マイク・スタンド』を構えて前方へと走り、身体を回転させながら上空の山下選手に突進した。
「『
宝具の真名を解放し、私は山下選手にぶち当たる。そして、山下選手はそのまま空高く吹き飛び、やがて湖に着水した。
決まった。宝具の真名解放は呪文詠唱に当たるような気もするが、別に私は真名解放しなくても宝具を撃てるので、今のは技の名前を叫んだ判定にしていただきたい。
『な、なんだ今の技はー! 謎の必殺技が山下選手を粉砕したー! 解説者席ー!』
『なんでしょうか。最後の突進はともかく、リンネ選手の口から出ていたものは、いったい……。分かりますか、解説のクウネルさん』
またもやアルビレオ・イマに話を振る茶々丸さん。
『信じられないことですが、あれはドラゴンのブレスに属する衝撃波ですね。なぜ人間にそのようなものが撃てるのか、原理がとても思いつきません』
『なるほど、ドラゴンブレスを吐いたと。朝倉さん、以上でどうでしょうか』
『解説者席ありがとうございます! そして10カウント! 山下選手、水から上がってきません! 救護班、急いで救助ー!』
おっと溺れているかもしれないなら、助けないとね。
ビキニアーマーの私は、水着感覚で湖に飛びこみ、山下選手をバトルステージへと運んだ。山下選手は息をちゃんとしているようで、水を飲んだということもないようだ。まあ、死なないよう、絶妙に手加減したからね。
そして、私は観客席に一通り愛嬌を振りまいてから、選手待機席へと戻った。
「なんや姉ちゃん、むちゃくちゃなことするな……ドラゴンブレスってなんやねん」
小太郎くんが、呆れたような顔で私を迎えた。
そんな彼に、私は諭すように言う。
「わざとむちゃくちゃに見えるようやったんですよ。荒唐無稽で演出過剰だと、みんなこれは興行でやっていると思い込み、現実に魔法が存在するだなんて思わないでしょう?」
「あー、言われてみるとそうやな」
「その点、ネギくんと高畑先生の試合はよかったですね。演出過剰で、床板も派手に割れていて、居合拳なんて漫画チックな技が飛び出して……ある種のブックがあると思った人は多いでしょうね」
「俺らは真面目にやってんのに、観客にそう思われるのはちょっと
「麻帆良祭というお祭りですから、観客を楽しませるくらいでいいんですよ」
まあ、この過剰演出も、超さんが世界樹の魔力を使った催眠に成功したら、逆効果になるんだけどね。
「そーいうことなら、俺もあんま遠慮しないでやってくるわ」
そう言って、小太郎くんは二回戦の第一試合に出るため、選手待機席を出ていった。
対するのは、ちう様。『まほら武道会』で初めて、ネギま部部員同士の戦いとなる。
模擬戦は散々、別荘内で繰り返してきたが、大会という本番で二人はどう戦うのだろうか。注目の一戦だ。