【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ 作:Leni
◆98 高まるボルテージ
ちう様と古さんの戦いは、槍の競い合いから始まった。
魔法用の長杖を槍として扱うちう様と、棍を槍として扱う古さんの激しい攻防。しかし、これまでの神秘飛び交う試合と比較すると、その立ち上がりは実に玄人好み。
盛り上がっているのは一部の武術ファンで、観客の多数は派手な演出が開始されるのをじっと待っていた。
そして、その時が来る。
古さんの棍がちう様の胸部を打ちすえ、ちう様はその場に倒れる。それと同時に、ちう様の身体が爆発。闇色の光が古さんを襲った。
だが、古さんはそれを予想していたのか、防御の術を自身に張っていた。
少し離れた場所で再構築されていくちう様。古さんはそこに棍を叩き込むが、空間中を走るルーン文字には触れられない。ちう様の肉体はまだ現界していないのだ。
復活までに有効打が入らないことを悟った古さんは、仙術の準備を始めた。
ちう様が復活し動き始めると共に、古さんは光の術を撃つ。だが、ちう様も再構築中に魔法を準備していたのか、氷の魔法で相殺した。
そこからは、術が飛び交う派手な戦いになる。観客もこれを期待していたのか、大盛り上がりだ。
星が降り、氷が弾け、棍が炎をまとい、長杖が闇を放つ。古さんの棍は幾度もちう様の肉体を打ち砕くが、追い詰めるたびにちう様は爆発して肉体を再構築する。
肉体の再構築には十秒以上の時が必要なため、審判が10カウントを取ればちう様の負けになるのだが、朝倉さんはカウントを取らない。肉体が消し飛んでいるという認識にないのだろう。
やがて、復活のたびに身体能力が上がっていくデモンルーンの秘術により、ちう様は徐々に槍術でも古さんを上回り始め……。気がつくと、古さんがバトルフィールドの上で倒れ伏していた。
「武じゃ負けっぱなしだったが、術に関しては私の勝ちだな」
カウントが10になったところでちう様がそう言い放ち、二人の戦いに決着が付いた。
割れんばかりの拍手と歓声に、ちう様は杖を天に掲げることで応える。
古さんが担架で運ばれていき、ちう様も観客の拍手を聞きながら退場していく。
そして、選手待機席へと戻ってきたちう様に、私は受け取っていた端末を返した。
「ふう、なんとか勝てた……」
「おつかれさまです。派手な試合でしたね」
「今頃、魔法先生達はてんやわんやだろーな」
先ほどスマホでネットを見てみたが、『魔法先生ネギま!』の麻帆良祭編通りに、超さんはネットに試合の動画をアップして、匿名掲示板で魔法を広めるための工作をしていた。
2003年と言えばすでに『2ちゃんねる』が存在するからね。『電車男』ブーム前で一般層の流入はまだなので、全盛期とは言いがたいけど。
「魔法先生が、どうかしたんですか?」
と、私達の会話に、ネギくんが横から疑問を投げかけてくる。
ふむ。超さんが絶賛ネット工作中なことは、話してしまってもよいのだが……。
「派手にやっていますからね。観客が魔法の存在に気づくのではないかと、魔法先生達も気が気じゃないのでは、と」
ネットのことは隠すことにした。ネギくんが萎縮して、私と全力で戦えなくなってしまうからね。
「あー、やっぱりこのままだとまずいですかね?」
「いえ、観客の皆さんは、もう完全に魔法のことを演出だと思い切っていますよ。あまりにも非現実的な光景すぎて、トリックにしか見えないでしょうね」
「なるほどー。じゃあ、次の試合も思いっきりいって大丈夫そうですかね」
「ええ。私も、とびっきりのトリックを披露しますよ」
そうしている間にステージの修理と清掃が終わり、私とネギくんが呼ばれる。
ネギくんはアーティファクトを呼び出し、腰の革ポーチに装着する。
私も、スマホから力を引き出し、衣装を替える。今回も和装だが、二回戦の和ドレスのようなキワモノではなく、至極真っ当な和装だ。男物だけど。
そして、スマホの中の住人に頼んで用意してもらっていた武器を取り出し、私は意気揚々とバトルステージに入場した。
◆99 TUBAMEを斬る
『さあ、準決勝第二試合。ぶつかるのは、子供先生とその教え子です! まずは、子供先生の紹介から!』
そんなアナウンスと共に、ネギくんが朝倉さんの面白トークで紹介され、観客席の女性客達から黄色い声があがる。もはや、子供先生の存在は、麻帆良の人々に受け入れられたと言っていいだろう。
そして、朝倉さんは私の紹介へと移る。
『ふざけた武器ばかり持ちだしてきた刻詠リンネ選手ですが、今回は洗濯物を干すための物干し竿を携えています! 『まほら武道会』をなんだと思っているのかー!』
うん、そうなんだよね。スマホの住人に頼んで、洗濯物を干すための物干し竿を借りてきたんだよね。サンキュー、『月影の弓騎兵リオン』さん!
「二回戦では宮本武蔵スタイルでしたからね。今回は佐々木小次郎スタイルで行こうかと」
『リンネ選手、本物の物干し竿を持って佐々木小次郎気取りだー! そんな長物、はたして剣として振り回せるのか!』
まあ普通に考えたら剣にするより槍として使った方が強いよね、物干し竿(本物)。だが、私はこれを剣として扱うすべがある。
私が今引き出している力は、アサシンのサーヴァント『佐々木小次郎』の物だ。
この小次郎さん、本物の佐々木小次郎というわけではない。そもそも佐々木小次郎とは架空の人物であり、それをサーヴァントとして呼び出そうとするとき、伝説上の佐々木小次郎の逸話に近い経歴を持つ無名の武芸者が出現する。
無名の武芸者、佐々木小次郎(仮)。武士というわけでもなく、剣を極めただけの農民だ。だが、その剣技は本物で、『物干し竿』と呼ばれる長刀を軽々と使いこなす。なので、その力を引き出す私も、本物の物干し竿を持って長刀の代わりとした。
『子供先生の西洋剣術と謎の物干し竿剣術の対決、いったいどうなるのか! それでは、お待たせしました! 準決勝第二試合、ファイト!』
そんなアナウンスと共に試合が開始され、私とネギくんはお互いに獲物を構えた。
そして、ネギくんは早速とばかりにアーティファクト『雷公竜の心臓』から魔力を引き出し、
膨大な魔力に物を言わせた、パワープレイで攻めるつもりだろう。だが、ネギくんには私のやり方に付き合ってもらうよ。
ネギくんがキティちゃんとアルトリア陛下のもとで修行を始めて、現実時間で一ヶ月半。多くを学び、強大な技や魔力を手にした。
そんな今の彼には、まだ手が届かない領域が一つある。
それは、剣の技量。ネギくんにどれだけ才能があろうとも、短期間では身につかないものである。その頂の一つを今日はネギくんに見ていってもらおう。私は下駄を履かせてもらうけどね!
「さあ、行きますよ」
そう言って、私はネギくんに近づき、剣の間合いに入る。
それと同時に、あらかじめ装着していた概念礼装『カレイドスコープ』に意識を向ける。
もちろん、四枚の『カレイドスコープ』を合成した『凸カレ』だ。並行世界から魔力を引き出し、戦闘開始と共に宝具を解放することが可能だが、今回はその使い方はしない。使うのは、並行世界から力を持ってくる第二魔法の機能。『カレイドスコープ』を使い続けて可能となった、戦闘テキスト外の効果。
私は、ネギくんに向けて物干し竿を薙いだ。当然、ネギくんはそれを木剣で受けようとする。
が、物干し竿を受け止めたはずのネギくんは、二発の斬撃を受けて吹き飛んでいた。
「!?」
バトルステージの上を勢いよく転がるネギくん。
そんなネギくんに、私は今の技名を宣言する。
「秘剣『燕返し』です」
秘剣『燕返し』。佐々木小次郎が持つ宝具だ。正確には、宝具に匹敵する至高の剣技、対人魔剣。
極まった剣術で多重次元屈折現象を引き起こし、並行世界から斬撃を呼び込み、同時に相手を斬りつけるトンデモ技である。
派手な爆発は起きない。剣先からビームは出ない。それでも、剣で斬り合おうとするならば、魔剣と呼ぶに相応しい非常に対処が難しい技だ。
起き上がったネギくんは、困惑の表情を浮かべながら、再度斬りかかってくる。
それに対して、私は再び『燕返し』で迎撃した。
この『燕返し』は、ゲーム上の『佐々木小次郎』の力をそのまま使って放っているわけではない。ゲームの戦闘システム上の『佐々木小次郎』はNPというパラメータが100%にならないと『燕返し』の宝具を放てないのだ。
ゆえに、これは宝具ではない。『凸カレ』が持つ並行世界干渉能力と、引き出している『佐々木小次郎』が持つ純粋な技量によって成立している、単なる剣技だ。
今の私をラノベタイトル風に表現するとこうなるだろう。
『通常攻撃が必中攻撃で三回攻撃の生徒は好きですか?』
そう、使いこなした『凸カレ』の並行世界干渉能力のおかげで、通常攻撃感覚で『燕返し』が撃ち放題なのである。
さらにダメ押しで、同じ相手に同じ技を何度使用しても命中精度が下がらない、『宗和の心得』というスキルを使用している。
物干し竿による無慈悲な攻撃がネギくんを打ちすえて、その魔法障壁を削り取っていく。
ネギくんは圧倒的な手数の前に、防戦一方だ。
『どうやっているのか見当が付きませんが、あれは同時に三回斬っています』
『同時に三回? 目に止まらないほど速く、三回斬っていると?』
そんなアルビレオ・イマと茶々丸さんの解説の声が、会場に設置されたスピーカーを通じて聞こえてきた。
『いいえ、同時にです。どういうわけか、斬撃が三発同時に発生していますね』
『それは、予選で長瀬選手や村上選手が見せたという、分身の術のたぐいですか?』
『さて、どう斬撃を増やしているのかは見当が付きませんが、効果としては単に三回斬りつけているだけです。三人に分身して同時に斬りかかったり、複腕の三刀流の剣士が同時に剣を振るったり、『気』の刃を複数飛ばしたりするのと、同等の攻撃ですね』
『単純な剣による一撃ですか。真剣を使えないルール上では、威力に特別優れているわけではないですね』
『はい。ですが、それらの手段で三回斬るのと違い、一刀流の動きで同時三箇所の斬撃が襲いかかる、というのがなかなか効果的です。普通の武芸者は、そのような動きをする存在との闘いに慣れていない』
『慣れですか。三刀流を相手することも、普通の武芸者は慣れていないと思うのですが……』
『いえいえ、三刀流や四刀流は意外と居るものですよ。彼らの剣技は、身体の動きからどう斬りつけてくるか予想がつくのですが……刻詠選手の剣の軌跡は、身体の動きとは関係ない位置から発生している。これは地味に厄介です』
そんな解説の最中にもネギくんとの剣戟は続く。『燕返し』はネギくんに何度も命中するが、次第にネギくんは同時三回攻撃に対応を見せ始める。さらには、ネギくんの反撃がこちらをかすめるようになった。
戦いの中で急成長している……。なんて末恐ろしい子なんだ。
だが、ネギくんの暴風が私を打ちすえる前に、私の『燕返し』はなんとかネギくんの分厚い『風楯』を突破して、彼を大きく弾き飛ばした。
それでもネギくんはダウンをまぬがれたようだ。私の原理不明の妙技を警戒したネギくんは、距離を取って無詠唱の『
私はそれを物干し竿で斬りつけて破壊。
そこからさらに、ネギくんは竜の心臓の魔力に飽かせて、『魔法の射手』を機関銃のように連打してくる。
それら全てを物干し竿で切り払った私は、ネギくんに追いすがる。
一方、ネギくんは距離を取り続けて、『魔法の射手』を逃げ撃ちする。なるほど、遠距離戦か。私も無詠唱で『魔法の射手』は撃てるが、魔力の差でネギくんには撃ち負けるだろう。
だが、私の手元には剣がある。ゆえに、私が使うのは……。
「奥義――『真空十字斬』!」
バトルステージの端から端まで余裕で届く剣技の極みで、飛んでくる『魔法の射手』ごとネギくんを切り払った。
『これはー! リンネ選手が予選会で見せた、飛ぶ斬撃だー!』
いや、斬撃を飛ばしているというか、めっちゃ遠くまで伸びる斬撃だよ。
そんな斬撃を食らったネギくんは、場外の水場に着水する。
朝倉さんのカウントが始まり、8カウントまで来たところで、ネギくんがステージへと飛びこんでくる。
それは、木剣にまとわせた暴風を使っての急加速。飛行魔法とは比べ物にならない速度で飛翔し、私に向けて一直線に飛ぶ。
なるほど、パワーでねじ伏せてくるか。それもまたよし!
私は物干し竿を強くにぎり、迎撃の構えを取った。
「風よ!」
ネギくんが、木剣にまとわせていた風を私に向けて全解放してくる。『
対する私は、セットしていた『PSO2es』の必殺技チップをここで初めて発動した。『アサギリレンダン』だ。
暴風が物干し竿を振るう私の魔法障壁へとぶち当たり、またたく間に削り去った。
そして、障壁を失った私に、突風の衝撃が襲いかかる。
だが、ここで自動発動していた別のチップの効果により、私は衝撃を無視して動ける状態となる。ダウン・のけぞり無効の効果。いわゆる、スーパーアーマーである。
逆風に全身を削られていく中、私は前へと突き進み、ネギくんに向けて数度物干し竿を叩きつける。すると、フォトンによる無数の斬撃が発生し、ネギくんをあらゆる方向から打ちすえていった。その攻撃を受けながらも、ネギくんは風の制御を手放さない。
やがてフォトンの斬撃は消え去り、風も収まった。
だが、ネギくんは、未だ立ち続けている。そして、木剣を振りかぶって一撃を放とうとしていた。その木剣には、アルトリア陛下が宝具を解放する時に似た、黄金の輝きが宿っている。
この光から感じるのは、世界樹の力。遠くに見える世界樹と共鳴して発光している。世界樹の木剣に宿る力を引き出したのか!
そこから放たれる、光の一撃。
対する私は、『カレイドスコープ』の並行世界干渉能力によるものではない、ゲームキャラクター『佐々木小次郎』本人が持つ宝具の力を解放する。すなわち、通常攻撃ではない、
二つの絶技がバトルステージの上でぶつかり合う。
最後に立っていたのは――
『ダウン! ネギ選手、ダウーン! 西洋剣術と東洋剣術の激しいぶつかり合いは、東洋剣術が征したー!』
――私だ。
ネギくんは木剣を杖にして立ち上がろうとするも、身体は言うことを聞かないようで……無慈悲にも10カウントが宣言され、私の勝利が決まった。
ふへー、なんとかなったね。ダウン・のけぞり・一度限りの戦闘不能無効の効果を持つチップをセットしておいてよかった。ありがとう、『ギャラクシー・ヒロインズ[SSアニバーサリー]』。
今回は、手札の多さで私の勝利だね。
ネギくんの修行期間がもっと長かったら、さすがにキツかっただろう。こればかりは、彼よりも五年早く生まれた私の修行期間の長さが、物を言った。
一年後にはネギくんの方が強くなっているかもしれないが、今は今だ。キティちゃんの目論見通り、私はネギくんへの試練となり、彼を成長させるための糧となった。
でも、私だって一方的に使われるだけじゃない。この戦いで糧を得なければならない。具体的には、優勝賞金一千万円という糧を。このままもらうよ、優勝。
こうして私は、公式大会では初となる、ちう様との対戦に挑むことになるのだった。