【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■46 ねこねこ文書

◆106 カツ丼食え

 

 私が仮眠から起きると、エヴァンジェリン邸には意外な人物が訪れていた。

 それは、朝倉さん。

 彼女はネギま部のメンバーに囲まれた状態で座っていて、なぜか彼女の前にはカツ丼が置かれていた。

 

 あー、これあれかな。世界がギャグ時空に突入しているところに起きちゃったかな。

 私は、見なかったことにして軽く何か食べようと、ソファから立ち上がる。

 と、そこで朝倉さんが私に気づいたのか、ネギま部メンバーの威圧も気にせず話しかけてきた。

 

「あー、よかった、刻詠。『ねこねこ文書』について聞きたいんだけどさ」

 

「ん? あれがどうかしました?」

 

「『ねこねこ文書』、私も見せてもらったわよ。あれ、本当?」

 

「はい、火星を救う手立ては、私にもあります。現在準備を順調に進めています。なので、超さんの企みは阻止してしまって構わないのです」

 

「うーん……」

 

「そして、超さんの企みが成功してしまえば、ネギくんは責任を取らされて、麻帆良を去らなければならないでしょう」

 

「そうなんだよねぇ。超りんから話を聞いたときは、圧倒的多数を助けるためなら、ごくごく少数の犠牲はやむなし、なんて考えたんだけど……犠牲がないのが一番だよね」

 

 その少数の犠牲やむなしな選択の仕方は、すり切れた正義の味方が完成するから、古参の月厨の私としてはお勧めしないのだけれども。

 

「でも、確証が欲しいな。火星を開拓する『こねこさん』は本当に居るの?」

 

「いますよ。少々お待ちください」

 

 私は、スマホを取り出して『LINE』で住人と連絡を取る。

 そして、その場に私はスマホの住人を呼び出した。

 

「お待たせしたにゃ」

 

 呼び出したのは、『Kittens Game』の子猫だ。

 

「うはー、なんやこの子ー。かわええ!」

 

「え? なに? 立ってしゃべる猫?」

 

「服着てる! オシャレさんだ!」

 

 朝倉さんの周りを囲んでいたネギま部女子が、一瞬で色めき立つ。

 そして、皆で一斉に子猫に構いだした。おーい、今そういう場面じゃなかったでしょ。

 

 と、そこでエヴァンジェリン邸に入ってくる者がいた。

 ネギくんとあやかさん、綾瀬さん、のどかさん、キティちゃんの五人が外から戻ってきたのだ。

 私が寝ている間に、外出していたらしい。

 

「学園長先生に話を通してきましたー、って、なんです?」

 

「見て見てネギ君ー。この子めっちゃ可愛ええー」

 

 子猫に抱きついてネギくんに見せびらかす近衛さん。

 

「ああ、子猫さんですか。可愛いですよね」

 

 が、ネギくんは淡泊な反応。

 

「あれ? ネギ君、この子知っとるん?」

 

「はい、別荘でたまに見かけますね。なんでも、リンネさんの部下で、師匠(マスター)の魔法研究を手伝っているのだとか」

 

「なんや、近くにいたんかぁ……」

 

 子猫をもふもふと独占しながら、近衛さんが言う。周りでは、自分も触りたいとそわそわしているネギま部女子達。

 君達、構うのは別にいいけど、その子知能が高い生命体だから、あまり家畜やペット扱いしないようにね……。

 

 まあ、ともあれだ。

 

「朝倉さん。これが『こねこさん』です」

 

「分かった。刻詠、あんたを信じるよ」

 

 朝倉さんの懐柔に成功だ!

 だが、周囲の人達はいまいち話に付いてこられていないようだ。

 

「あー、刻詠。みんな『ねこねこ文書』について知らなかったし、いろいろ一から説明する必要あるんじゃないかしら」

 

 朝倉さんがそう言ってきたので、私はうなずいて皆に向けて言った。

 

「そうですね……はい、みなさん注目。超さんが来た未来について、朝倉さんが語ってくれますよ」

 

「えー、私が説明するの?」

 

「そうですよ。一番詳しいの、朝倉さんなんですから」

 

 私が説明を押しつけると、朝倉さんはしぶしぶ了承する。そうして、朝倉さんが超さんサイドの事情を語り始めた。

 

 超鈴音は未来人である。

 それも、百年以上先の未来からやってきた人物で、しかも火星出身だ。

 未来の火星には人が住んでいる。だが、それは人類が順調に宇宙進出した成果というわけではなかった。

 

 この時代から見て、少し先の未来。火星に重なるようにして存在しているとある異界が崩壊する。

 その異界の名は、魔法世界(ムンドゥス・マギクス)。麻帆良では魔法使いの本国などと呼ばれる、広大な異界だ。

 

「魔法世界が……崩壊!?」

 

 まさかの話に、ネギくんが驚愕する。

 長く魔法生徒をしていた水無瀬さんも驚いたようで、ポカンと口を開けて呆けていた。

 

「事実だぞ。綾瀬夕映、アーティファクトを使って『魔法世界の魔力枯渇』あたりのワードで調べてみろ」

 

 キティちゃんが横からそう言うと、綾瀬さんは素直に従って「アデアット」とアーティファクトを呼び出した。

 すると……。

 

「本当です。魔法世界は火星の異界にあり、早くて十年で崩壊すると」

 

「へー、面白いアーティファクトじゃん」

 

 朝倉さんが、検索結果ではなく『世界図絵』そのものに興味を示しだしたので、私はテーブルを軽く叩いて話の先をうながした。

 朝倉さんは、「おっと」とつぶやいて、話を戻す。

 魔力不足で魔法世界が崩壊し、火星に投げ出された一部の魔法世界人。そこから始まったのは、火星の魔法世界人の生き残りを賭けた、地球人類との百年に渡る長き戦争の日々だった。

 

「っていうのが、超りんの背景ね。で、そんな悲惨な未来で起きる悲劇を回避するために、超りんは動いているわけよ」

 

 朝倉さんのその言葉に、ネギま部一同が考え込む。自分達に正義はあるのか。そう考えているのだろう。

 

「超さんを止めていいのか。そう思った人もいるでしょう。そこで、『ねこねこ文書』です。実は、我らがエヴァンジェリン一門も、魔法世界の崩壊に対して対処を考えているんです」

 

 悩む皆に向けて、私がそう言うと、一斉に視線が私に集まる。

 

「『ねこねこ文書』。簡単に言うと、子猫の科学力を使った火星の緑化テラフォーミング……火星を人が住める環境に変えて植物を植える惑星開拓計画書の草案です」

 

 私のその言葉に、今度は子猫の方を皆が見た。子猫は恥ずかしそうに「にゃー」と鳴く。

 その光景に微笑ましくなりながら、私は続けた。

 

「その子猫、可愛いだけじゃなくて、実は非常に発達した科学技術を持つ文明を築いている高度な知性体です。恒星間の航行を可能とする宇宙船を建造することができ、惑星のテラフォーミング経験もある、宇宙科学文明の申し子なんです」

 

「ええ……」

 

「それは……」

 

 皆が、困惑して互いに顔を見合わせている。こんな可愛い子猫がそんなすごい存在なんて、信じられないという感じだ。

 

「そこは大前提ですので、信じてもらうしかありません。ともかく、子猫に任せて火星を開拓してもらい、緑の惑星にします。すると、生命と自然から魔力が生み出され、魔法世界の枯渇していた魔力が補充され、異界は存続します」

 

「なるほどです。緑化テラフォーミングがなされれば、魔力が生まれるのは確かみたいです」

 

 綾瀬さんが『世界図絵』を見ながら、私の言葉を肯定した。

 

「緑化テラフォーミングっていうのに、どれくらい時間がかかるんでしょう?」

 

 意外と話に付いてきている相坂さんが、問いかけてきた。

 それに答えるのは、子猫だ。

 

「準備が整えば、地球の時間で三年もかからないにゃ。人がいっぱい住める段階まで進めるとなると、もっとかかるかにゃ?」

 

「準備を整えるには、どれくらいですか?」

 

 相坂さんのさらなる質問に、子猫は私の方を見て、言う。

 

「オーナー次第にゃ」

 

 皆の注目が再び私に集まった。私のオーナーというスマホの住人の呼び名に、みんな慣れたものだなぁ。

 そんなことを考えながら、私は必要な準備について語る。

 

「テラフォーミングに必要な宇宙船の建造は終わっています。その宇宙船を置いておくために必要な地球の土地と、人員の問題があります」

 

「宇宙開発ならば、雪広グループの出番ですわね! 是非とも協賛させていただきたいですわ!」

 

 あやかさんが、存在を大いにアピールしてくれた。うん、そのときは頼むよ。

 さらに私は続ける。

 

「人員の問題。これが、ちょっと私の固有能力に関わるんですけど……子猫達は普段、このスマホから繋がる別の宇宙に住んでいます」

 

 私は、手元にスマホを出現させて、皆に見せた。

 スマホから英雄を出して、一部のネギま部メンバーに稽古をつけていたのは、朝倉さんと長瀬さん以外の知るところである。

 

「この宇宙から宇宙船と乗組員を呼び出すのですが、宇宙船は自由に呼び出せます。しかし、人員の移動には枠が存在するんです。人間を十人呼び出そうと思ったら、人間の枠を十枠占有する、といったように」

 

「もしかして、宇宙船を運用できるほど、その枠がないと?」

 

 あやかさんのその問いに、私はうなずく。

 

()()そうです。ですが、この枠、私が徳を積むと、増やせます。具体的には、徳を積むとポイントが貯まり、そのポイントで枠を購入します」

 

「徳……」

 

「徳ですか……」

 

「徳って……」

 

 思ってもいなかったワードだったのだろう。皆が困惑するのが分かる。

 そんな中、一人、何かに気づくものがいた。

 

「徳を積んで枠を増やす……むむむ、これは……」

 

「くーふぇ、どうかしたの?」

 

 神楽坂さんが、考え込む古さんに問いかける。

 

「ウム、確か以前、リンネはスマホの中の住人を増やすために、徳を積んでガチャを回すとか言っていたアルネ」

 

「ガチャ?」

 

「あの玩具が出るガチャガチャアル。それで、リンネはときどきガチャを回して誰が出ないとか騒いでいるアルヨ」

 

「へー、徳を積むだけで、いろいろなことができるのねー」

 

 神楽坂さんが感心したように言う。が、古さんは気づいてはいけないことに気づいたようで、「そうじゃないアル」と神楽坂さんに向けて言った。

 

「徳を積むとポイントが貯まる。つまり、ポイントは有限アル。そのポイントで、リンネはガチャを回しているアルヨ」

 

「あっ、つまり、リンネさんは火星開拓のためにポイントで枠を買わなきゃいけないのに、ガチャガチャを回しているってことですかー」

 

 のどかさんも、気づいてしまったようだな……。

 

「リンネ……」

 

「リンネちゃん……」

 

「刻詠、あんたね……」

 

 君のような勘のいいガキは嫌いだよ、バカイエロー。

 いや、本当、なんで古さんが気づくかなぁ!

 

「リンネ、申し開きはあるか?」

 

 ひえっ、キティちゃんの声が冷たい!

 

「いや、これでも徳を積むペースを計算していてですね……計算上、今年度末には確実に宇宙船を飛ばせる目算で……」

 

「はあー……お前の能力に頼り切りな以上、とやかく言いたくはないし、言う資格も私にはないが……。ここに来て、ポイントが足りなくてできませんでした、は許されないぞ」

 

 いや、キティちゃん。本当に大丈夫なんですって。予定表の通りに進んでいて、余ったポイントで心の洗濯をしていただけなんですよ……。

 

 

 

◆107 学園防衛魔法騎士団結成!

 

 超さんとの対決の準備が急ピッチで進む。

 

 私とキティちゃんは、ネギくん経由で学園長先生に必要なことを伝えられるだけ伝えた。

 

 超さんの狙いは、世界樹の魔力を用いた全世界に対する強制認識魔法の発動であること。

 超さんが地下に大量の魔力駆動ロボ兵器を隠し持っていたこと。

 その中に、魔法世界の大質量兵器の鬼神兵に似た巨大ロボがいたこと。

 鬼神を動かすために、妖魔を封じる学園結界をハッキングで落としてくる可能性があること。

 超さんが、数時間後に相手を時間跳躍させる特殊弾を所持していたこと。

 その弾丸は、魔法障壁で防いでも空間ごと切り取って発動すること。などなど……。

 

 事前に調査できたことだけでなく、予言の書(こうりゃくぼん)の知識を確度の高い予測という形で伝え、学園長先生経由で魔法先生や魔法生徒達に周知を行なった。

 

 そして、超さんと魔法先生達の戦いに巻き込まれる形となる一般生徒達。

 彼らを有効な戦力として組み込む案が、ネギくんから出された。

 

 超さん達が使ってくるのは、魔力で動くロボ兵器。それに対抗するために、ネギくんは学園長に頼み込んで、魔法世界から『対非生命型魔力駆動体特殊魔装具』を取り寄せさせた。

 これは、魔力で動く非生命型の人形等を活動停止に追い込める魔法具(マジック・アイテム)で、綾瀬さんの『世界図絵』で在庫を探り当てた物だ。

 

 その魔法具を一般生徒達に配り、ロボと戦わせる。それを麻帆良学園最終日名物の全体イベントにしてしまおうというのだ。

 超さんが動き始める時間は、ネギくんが本人から聞き出していた情報では午後以降。

 朝倉さんが超さん達から聞いていた情報では、世界樹の大発光がピークを迎える夕方以降となっており、告知時間を含めてイベントの開催は十分間に合うとのこと。

 

 なお、このイベント用の魔法具、予言の書の知識で必要になると分かっていたため、キティちゃんもあらかじめ用意をしていた。

 さすがに麻帆良の全生徒に行き渡るほどの数ではないが、茶々丸さんにバレないよう別荘でキティちゃんの人形が二十四倍速の世界でコツコツと作り貯めていた。学園長が手配に失敗したときのための保険だね。

 

 このキティちゃんの用意により、参加可能生徒が飛躍的に増えることだろう。

 

 イベントの開催に必要な費用は、あやかさんの実家、雪広コンツェルンが協賛として出す。

 イベントの告知は、3年A組全員を巻き込んで、速やかに行なう。

 ポスターやビラのデザインも、ちう様と早乙女さんが二十分で仕上げてくれた。

 

 さらに、私からも魔法先生達に魔法具をプレゼント。

 王国特製のアミュレット。『千年戦争アイギス』の王国の魔術師達が総出で作り上げた、強制時間移動に抵抗する魔法具だ。数回ならば、時間跳躍弾による被害を防いでくれるはずだ。

 

 対魔力駆動体の魔法具や、アミュレットを用意していたことからも分かる通り、前々から超さんと対決する準備は整えていた。……だというのに、超さんを説得して事態を収める方向性の準備はほとんどしてこなかった。

 これがなぜかと言われたらはっきりこれという答えを言えないのだが……強制認識魔法という、人類に対する洗脳の手段を選んだ超さんに対する、反発心のようなものがあったのかもしれないね。

 いや、そうだとしたら、私も普段魔法を隠匿するために、魔術で一般人に暗示とか使っているから、ダブルスタンダードになるんだけど。

 もしくは、予言の書で敵対するから、自分達も超さんと敵対すると思い込んで行動していたのかもしれない。

 そうだった場合は、行動を無意識で縛っていることになるので、あまりよくない傾向だ。

 

 さて、そんな私の内心はさておいて、だ。

 今朝方、私のダイオラマ魔法球でぐっすり寝たネギくんが精力的に動き、準備は整いつつある。

 生徒達が防護効果のあるローブを着こみ、魔法具を手に取っていき、イベントの開始を今か今かと待っている。

 

 さあ、いよいよ最終決戦だ!

 


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