【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ 作:Leni
◆108 開戦
予言の書こと原作漫画の知識によれば、超さんはこちらが予定していた時刻より早く攻めてくる。
ならば、こちらもそれに合わせて開始時刻を前倒しにするのか、というとそうではない。
あえてそのままにすることで、超さんがあまりに早すぎる時間に攻めてこないようにする。わざと隙を見せる形だね。
そして、裏の魔法先生とネギま部は、予定よりも早く準備を終えさせる。
そうすることで、一般生徒が準備を整える時間を犠牲にして、裏のメンバーは万全な体勢で迎え撃つことができるようになる。
時刻は午後六時半。超さんが動く。
麻帆良内にある湖の中から、ロボ軍団が攻めてきた。
先制攻撃は織り込み済みだったイベント運営側は、あわてることなく生徒達にアナウンスを入れる。
イベントの司会は、味方に取り込んだ朝倉さんだ。
『さあ、大変なことになってしまいました! 開始の鐘を待たず、敵・火星ロボ軍団が奇襲をかけてきたのです! 麻帆良湖湖岸では、すでに戦端が開かれている模様!』
魔法による空間投影画面が、麻帆良の空に大写しとなる。その画面では、湖から進む魔力で動くスタンドアローン型田中ロボと、一般生徒達が戦っている様子が映っている。
思いのほか、防衛拠点である六カ所の魔力溜まりを離れて、湖岸にやってきていた生徒が多い。
実は、私が朝倉さんと早乙女さんに頼んで、敵兵器の有力出現ポイントとしてこの位置をリークしてもらっていたのだ。
二人の噂の拡散能力は高いから、なかなか上手くいったようである。
魔法具で撃たれて倒れる田中ロボと、田中ロボの光線に撃たれて服が脱げている生徒達の戦う姿が、麻帆良中に中継されている。
『おおっと、火星ロボの脱げビームが炸裂した! 武器とローブをなくした方は、危険ですので速やかにゲームエリアから離れてください! なお、運営の涙ぐましい努力により、中継映像は謎の光によって裸身に規制が入りますので、その点はご安心ください!』
運営のちう様が、脱げビームの被害者の裸や乳首が上空の空間投影画面に映ってしまわないよう、配下の電子精霊を使ってリアルタイムで映像処理をしている。ちう様も貴重な戦力の一人なのだが、イベントを公序良俗に反しないようするためには、必要な配慮だった。
『どうやら、世界樹広場の拠点では、多脚戦車に苦戦しているようだ! しかし、問題はありません!』
脱げビームを連射する多脚戦車が、突如バラバラになって吹き飛ぶ。
映像の中でそれを成し遂げたのは、宝貝『莫邪の両剣』を手にした古さんだ。
『強力な力を持つヒーローユニットが我らにはいる! 彼らと協力して、強大な敵を倒していきましょう! なお、ヒーローユニットは運営サイドのお助けキャラですので、イベントの順位にはランクインしません。ヒーローユニットの邪魔をせず、有効に使うのが賢い戦い方ですよ!』
さらに、別の防衛拠点では、高畑先生が田中ロボを居合拳でまとめてなぎ倒している様子が、上空に映し出された。
『ヒーローユニットを一部紹介していきましょう。デスメガネこと、タカミチ・T・高畑! 『まほら武道会』でご存じの方も多いでしょう、居合拳の使い手です!』
他にも、神楽坂さん、小太郎くん、高音さんといった『まほら武道会』の出場メンバーが、ヒーローユニットとして紹介された。
さらに、それだけでは留まらない。
『キングアーサー! 英国に名高いアーサー王を名乗る謎の騎士だ! 噂では、『まほら武道会』で三位に入賞した、ネギ・スプリングフィールド少年の剣の師匠らしいぞ!』
ヒーローユニットを快く受け入れてくれたアルトリア陛下が、多脚戦車を一刀のもとで斬り捨てている。
その横では、同じくヒーローユニットのココロちゃんが時の魔法でロボ兵器の動きを鈍らせていた。
その頼もしい姿に、街中から歓声が上がった。そして、自分もロボを倒すんだと、我先に一般生徒達が駆け出す様子が、上空に映し出される。
火星ロボ軍団との戦いは、こうして盛大な開幕を迎えたのであった。
◆109 学園結界
「順調のようだな」
上空を眺めていた私に、そんな声がかかる。
話しかけてきたのは、キティちゃんだ。彼女もヒーローユニットの一人だが、麻帆良の学園結界で未だ力を出せない状態だ。
そのキティちゃんを守るように、私とネギくん、長瀬さんの三人が周囲を固めている。
キティちゃんは、我がネギま部の最大戦力。その本気を出せるようになるまで、前線から離れた場所で待機しているのだ。
超さんは、鬼神を動かすために学園結界を落としてくるだろう。
だが、そのときはこちらもキティちゃんを存分に動かせる。極大攻撃魔法で、鬼神は役目を果たすことなく潰えるだろうね。
「む、来た、来たぞ! 結界が落ちた!」
私の横に立つキティちゃんから、膨大な魔力が噴き出す。
ふふふ、闇の福音のお出ましだ。
「さあ、行く――」
と、次の瞬間、膨れあがっていた魔力が突如しぼみ、私の横でキティちゃんが倒れた。
「がっ、これは――」
「な、何事でござるか!」
長瀬さんが、とっさにキティちゃんを助け起こす。
キティちゃんは、苦しそうに脂汗を額に浮かべていた。
「リンネ殿、これは……?」
「すみません。分かりません。ネギくん、分かりますか?」
長瀬さんの問いかけに答えられなかった私は、ネギくんにパスした。
「封印術です! おそらく、学園結界を改変して、
「うわあ、茶々丸さん、自分のマスター相手にそこまでしますか」
「茶々丸殿が、何か?」
長瀬さんが、再度私に問いかけてくる。今度こそ、私は答えた。
「茶々丸さんが、学園のシステムにハッキングをかけて、学園結界を落としたんです。そこから茶々丸さんがシステムに変更をかけて、キティちゃんを封じたのでしょうね」
「しかし、こんな高度な術式改変、超さん達が可能なのでしょうか。結界を落とすだけならともかく、術の構造を変えるだなんて。強制認識魔法にしろ、いったいどこから魔法の知識を得たのでしょうか……これも未来の知識……?」
ネギくんがキティちゃんを心配そうに見ながら、そんなことを言った。
だが、そこは特に不思議でもない。彼女達は術式改変程度のことは余裕で可能だろう。
「超さんサイドにはおそらく、魔法に詳しいアルビレオ・イマがいます。クウネル・サンダースですね」
私の言葉にネギくんが、はっとした表情になる。そう、どういうわけか『まほら武道会』で解説者をしていたあの魔導書男だ。彼が敵に回っている可能性は高い。
「父さんの仲間が、超さんの側に……」
「キティちゃんが封じられている以上、アルビレオ・イマを抑える役は私がやるしかないですね。ネギくんは、超さんを止めてください。タイムマシンを戦闘に使う彼女に対抗できるのは、私かネギくんしかいません」
ただ、キティちゃんをこのままにしておくわけにもいくまい。
私は、スマホを手元に呼び出し、『LINE』を起動。スマホの中のちう様コアと連絡を取って、学園結界への対処をお願いした。
『結局、私が茶々丸と電子戦させられるのかよ!』
そんな返信がきたが、運命と思って諦めてほしい。あ、中継映像の謎の光加工は引き続きよろしくね。
その中継映像の中では、湖の中から体高三十メートル以上ある鬼神が現れ、魔力溜まりに向けて進もうとしていた。
さあ、戦いもいよいよ本番だ。敵もいよいよ、時間跳躍弾を使い始めるだろう。はたして、どこまで対処できるだろうか。
◆110 鋼鉄
ちう様の成果を待つ間、私達は路面電車の陰で待機していた。
上空の映像の中では、ヒーローユニットの相坂さんが特製の弾丸『タスラム・レプリカ』を笑顔で銃からぶっ放して、鬼神を沈めている様子が映し出されている。
だが、不意に放たれた弾丸が、相坂さんへと命中した。その弾丸は時間跳躍弾だったようで、彼女を黒い渦に飲みこむ。
そこで、彼女の首から下がっていたアミュレットが光り輝き、黒い渦を払った。
これで相坂さんは一ミスだ。アミュレットが何ミスまで庇ってくれるかは分からないが、そう多くは防げないだろう。気を付けてほしい。
さらに、別の中継映像では、田中ロボがガトリング砲を持ちだし、時間跳躍弾を生徒達に向かって掃射。アミュレットを持たない生徒達は、時間の渦に飲まれて数時間先の未来へと飛ばされていった。
と、そこで上空に巨大な立体映像が現れる。
『フフフ、魔法使いの諸君、ごきげんよう』
ローブに身を包んだ一人の少女。超さんだ。
彼女は、火星ロボ軍団の首領、悪のラスボスを名乗り、あらためて生徒達に宣戦布告をしてきた。こちらの茶番に乗ってきてくれてありがたい限りだ。
『前半の君達の快進撃は見事だた。さすがは麻帆良生ネ。やられても復活アリのルールは、有能な君達には少々優しすぎたようダ』
まあ、超さんは生徒達を傷付けないよう脱げビームで留めていて、生徒達はそれをいいことに何度も着替えてゾンビアタックをしていたからね。こちらに有利過ぎるというのは確かだ。
ゆえに、超さんは一つの弾丸を取りだし、前に掲げて見せた。時間跳躍弾だ。
『そこで、新ルールを用意したヨ。この銃弾に当たると即失格。おまけに工学部のヒミツの新技術で、当たった瞬間に負け犬部屋に強制搬送。ゲームが終わるまでぐっすり寝ててもらうこととした』
本当は数時間後に飛ばされるだけなのだが、超さんも自分が負けて魔法が公開できなかった時のための誤魔化しを入れてくれるあたり、なかなかに甘い。彼女は今、自分が劣勢なのを理解しているのかもしれない。
なにせ、時間跳躍弾を受けても、ヒーローユニットがアミュレットで耐えているのだ。
『ゲーム失格よりも、この学園祭のクライマックスを強制就寝で過ごすは大変なペナルティと思うがどうカ? フフ……スリルが出てきたカナ? いつ棄権してもヨロシイヨ?』
露骨な揺さぶりだが、ノリのいい麻帆良生達は、逆に奮起したようだ。
『さあ、君達の力で我が火星ロボ軍団の侵攻を止めることができるカナ? 諸君の健闘を祈ろう!』
私は路面電車に背を預けながら、不敵に笑う超さんを見上げた。
はー、麻帆良生もノリがいいけど、超さんもノリがいいよね。この二年間の麻帆良生活で、超さんもだいぶ染まったのかな。悲惨な未来からやってきたとは思えない、楽しいノリだ。
と、上空を見上げてぼんやりとしていたときのこと。
「むっ、いかんでござる!」
キティちゃんを背負った長瀬さんが、叫びながらその場を飛び退いた。
それと同時、私の魔法障壁に何かが命中する。
そして、私の周囲に黒い渦が発生した。おおう、時間跳躍弾。私はとっさに、引き出していたクロノウィッチの力を行使。時間跳躍の力を中和した。
「狙撃! どこから……」
私は長瀬さんに目を向ける。すると、長瀬さんは遠くを見やった。
五百メートルほど先の建物の上。そこに、黒いローブを着た龍宮さんの姿が。
「迎撃に……!」
私が動き出そうとするが、長瀬さんが私の肩をつかんで止めた。
「リンネ殿はネギ坊主を守り切ることに専念するでござる。ここは、拙者に任せて……」
「それには及ばないわ。エヴァンジェリン様は私が守る」
私達の横から、そんな声がかかる。
そちらに振り向くと、猫の仮装をした黒髪の少女が、ハンマーを携えて立っていた。
そして、私が声をかける前に彼女は連続瞬動で龍宮さんの方へと駆けだした。龍宮さんは時間跳躍弾でその少女を撃つが、光り輝く盾が出現し時間跳躍弾を防いだ。
そして、少女は屋根の上の龍宮さんを強襲。そのまま、ハンマーで龍宮さんと戦闘を始めた。
「あれは……何者でござるか? あのようなヒーローユニットはいなかったはずでござるが」
キティちゃんを背負った長瀬さんが、龍宮さんと互角に戦う少女を見ながらそう私に尋ねてくる。
ふむ。おそらく彼女は……。
「カリンさんでしょうね。エヴァンジェリン先生の旧友です」
『鋼鉄の聖女』結城夏凜。『UQ HOLDER!』に登場する人物の一人で、神の呪いによりいかなる傷も受けない不死者だ。だが、彼女もあらゆる手段に対しても完全無敵というわけではなく、『UQ HOLDER!』では転移魔法で月へ飛ばされるという手段で戦場から退場させられることがあった。
つまり、彼女も時間跳躍弾の直撃には無力と言えた。
それがカリンさんにも分かっているのか、龍宮さんからはけっして距離を取らずに接近戦で戦い続けている。時間跳躍弾はそれなりの広範囲を巻き込むため、接近戦では自爆の可能性があって使えないのだ。
とりあえず、龍宮さんのことは彼女に任せておいていいだろう。
私は上空の画面を眺め、戦況を確認する。
鬼神が魔力溜まりに向けて侵攻しており、古さん、相坂さん、アルトリア陛下、高畑先生がそれぞれ一体ずつ止めている。残り二体の鬼神は、麻帆良生達の妨害を受けつつも前進を続けている。
このままでは、いくつかの魔力溜まりを占拠されてしまうだろう。
強制認識魔法は魔力溜まりを全て占拠しなければ発動できないが、魔力溜まりの魔力を用いた別の悪さを超さんがしないとも限らない。たとえば、全世界から全日本に対象を変えた小規模強制認識魔法、だとかね。
それに対処するために、私はスマホをいじってちう様のコアに『LINE』を送る。
『進捗どうですか』
『五割ってところだ。まだかかるぞ』
『では、先に『テング』を発動してください』
『あー、今でいいのか?』
『このタイミングがベストでしょう』
『了解。オペレーション『テングのシワザ』発動』
ちう様からのメッセージが届くと同時、上空に映る戦況が動いた。
朝倉さんの実況が、その状況を的確に伝えてくる。
『これは、どうしたのでしょう! ロボ軍団が、突然仲間割れをしだしたぞー! むっ、速報です。これは、ヒーローユニット『デジタルウィザードちう』による、サイバー攻撃! ロボ軍団にコンピュータウィルスを感染させている模様!』
ふふふ、超さん、今頃驚いているだろうな。
実は私達、麻帆良祭以前から超さんのロボ兵器の位置をつかんでいた。破壊工作はしなかったが、何も手を出していないわけではない。
私は隠密能力に優れた天狗の力を引き出しロボ兵器に近づき、スマホを接触させた。スマホの中には、電子情報生命体となったちう様が入っており、ロボ兵器にコンピュータウィルスを感染させていった。
ロボ兵器はオンライン環境になかったので、全個体に感染とはいかなかったが数時間かけた地道な作業で三桁台のロボ兵器にコンピュータウィルスを植え付けることに成功していた。
その対象には、鬼神も一体含まれており……。
『おおっとー! 『デジタルウィザードちう』が操る巨大ロボ兵器が、他の巨大ロボ兵器に向かっていくー! 大変危険ですので、生徒達は近づかないようにしてください!』
鬼神で鬼神を相手する、ということも可能になった。
これで、魔力溜まりの方は鬼神で占拠されるという事態から免れるだろう。後は、細かいロボ兵器に占拠されないよう、麻帆良生達に頑張ってもらおう。
事態は終局を迎えようとしている。後は、この盛大な茶番劇を終わらせるために、超さんのところへ直接向かって物理で止めるだけだ。
その超さんの位置は、未だ判明していないが……ここで、スマホに着信だ。朝倉さんからだな。
「はい、もしもし」
『刻詠? 超りんが見つかったよ! 世界樹の直上四〇〇〇メートルの飛行船にいるって!』
「了解しました。ただちに向かいます」
『頼むよ、刻詠、超を止めてあげて!』
「任されました」
そしてすぐに通話を切り、私はネギくんと長瀬さんに超さんの位置を説明した。
「拙者は、ここでエヴァンジェリン殿を見ているでござるよ。ネギ坊主、リンネ殿、全て任せた」
「分かりました。
「そろそろちう様も茶々丸さんから学園結界の制御を奪えるそうなので、エヴァンジェリン先生のお世話もそう長く続かないと思います。くれぐれも、時間跳躍弾にはお気を付けて」
そう言葉を交わし、ネギくんと私はそれぞれ杖に乗って空へと飛翔した。
目指すは、世界樹上空。何事もなく、辿り着けると思っていたのだが……。
「ネギくん、前方注意! ドローン兵器の群れです!」
ここに来て、想定外の妨害が私達に迫った。
大量のドローン兵器。その数……いや、目視で数が分かるはずないじゃないか!
「飛翔体……そんな、視界にあるだけで五百体もいます!」
その数、五百らしい。
もし、そのいずれもが時間跳躍弾を備えているとなると……私はともかくネギくんが持たない。なかなか厳しい戦いになりそうだ。