【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■48 人類の未来を懸けた戦い

◆111 白き薔薇の姫君

 

 無数のドローン兵器と、飛行する田中ロボ。極大魔法で一掃してしまえば楽なのだが、そういうわけにもいかなかった。

 

「ネギくん、不用意に攻撃しないように。あれが下に落ちたら、建物や人に大損害を与えます」

 

「あっ、そうか……陸上兵器と同じというわけにはいかないんですね」

 

「ここにきて、超さんもなりふり構わなくなりましたね。……いや、違うか。ここまで超さんが生徒達に危害を加えないよう配慮をしてきたのだから、私達にもその配慮を求めているんですね」

 

「しかし、どうしましょうか」

 

「……手立てが思いつきません。私一人だけなら、天狗の力や冥府の転移術で向かえるのですが、ネギくんを連れていくことはできません」

 

 このまま超さんを確保せず、戦況を一般生徒達に委ねて戦い続けることもできる。こっちが優勢なのだし、なんとかなるだろう。

 しかし、それはいつ終わる? 深夜まで? 世界樹の大発光は、まだまだ続きそうだぞ。

 

「それなら、リンネさんが先に向かってください! 僕は、後からなんとか向かいますから!」

 

「それしかありませんか……って、待ってください。着信が」

 

 スマホに着信があったので、私は建物の上に着陸して、スマホを取り出す。

 着信相手は、あやかさんだ。

 

「はい、もしもし」

 

『リンネさん? 雪広です。単刀直入に聞きますが、空のロボットに手こずっているのではなくて?』

 

「そうですね。敵を無視できる私はともかく、ネギくんが突破できません。敵機を地上に墜落させるわけにはいかないので」

 

『やはりそうですか……今からネギ先生と一緒に世界樹前広場に来られますか?』

 

「ええ、問題ないですが、なんですか?」

 

『私なら、お二人を超さんのもとへと無事に送り届けることができますわ』

 

「それは、どういう……? 雪広グループの新兵器とか言いませんよね」

 

『そんなものありませんわよ。そうではなく、私のアーティファクトをお忘れかしら?』

 

「あやかさんのアーティファクトですか。確か、アポなしで相手を訪問できるという」

 

『ふふふ、私の『白薔薇の先触れ』は、そんな甘いものではなくてよ』

 

「――!? まさか!」

 

『そのまさかですわ。では、広場でお待ちしております』

 

 そこで通話が終わり、私は隣に降りてきたネギくんに言う。

 

「あやかさんのアーティファクトで、超さんのもとへと向かいます」

 

「あやかさんの……? あっ、まさか、そんな……。あのアーティファクトにそんな使い方があったなんて!」

 

「ええ、『白薔薇の先触れ』は、どんな相手もアポなしで訪問できる無形のアーティファクトですが、それだけじゃないようなんです。誰にも邪魔されることなく、相手を訪問できる。それはつまり――」

 

「飛行兵器も無視して、超さんのところへ辿り着ける!」

 

「そうです。まったく、ある意味で最強のアーティファクトですね」

 

 私が笑ってそう言うと、ネギくんは釣られて笑顔になる。

 そして、私達はそろって世界樹前広場に飛んでいくのだった。

 

 

 

◆112 最終決戦

 

 ドローン兵器の群れを、何事もないようにスルーしていく。

 ネギくんの杖にタンデムしているあやかさんは、その光景にドヤ顔だ。

 

「おほほ、これが私の『白薔薇の先触れ』の真骨頂ですわ」

 

「あやかさんがいれば、どんなダンジョンもボスまで一直線ですねぇ」

 

 私がゲームにたとえてそんなことを言うと、あやかさんはそうでしょうそうでしょうと、鼻高々になった。あやかさんはゲームに全く詳しくないが、褒められていることは分かったらしい。

 いや、本当にすごいよこのアーティファクト。まあ、今回のように戦闘中に使うなら、あやかさんも敵のボスの真ん前まで同行することになるから、あやかさん本人が強くなる必要があるけど。

 

 そうして、私達はドローン地帯を突破し、上空四〇〇〇メートルに到達した。

 巨大な飛行船が、世界樹のちょうど真上を飛行しており、その上部には超さん、葉加瀬さん、そしてアルビレオ・イマが陣取っているのが見えた。

 

 飛行船の上に降り立ち、ネギくんが一歩前に出る。

 

「超さん。あなたを止めにきました」

 

「来たカ。まさかここまで追い詰められるとは思ていなかたヨ、ネギ坊主」

 

「僕一人の力ではありません。みんなの後押しを受け、想いを託されて、僕はここにいます」

 

「そうカ……想いを託された、カ……」

 

「超さん……」

 

 地上では、キティちゃんが学園結界から解放されたのか、鬼神が極大魔法によって凍り付いている様子が見えた。

 さらに、極光が走り、鬼神を斜めに切り裂く。アルトリア陛下の宝具が炸裂したのだ。

 他の鬼神も、魔力溜まりに辿り着く前に動きを止めており、ロボ兵器軍団もずいぶんと数を減らしている。最早、超さんが全世界を対象にした強制認識魔法を発動できる可能性は、ほぼなくなったと言ってよかった。

 

「もう、大勢は決しました。投降しませんか?」

 

 ネギくんがそう言うが、超さんは笑ってそれを拒否する。

 

「片腹痛いネ。ここまで来て、今更降りることなどできようか。止めるならば、力尽くで来い!」

 

「分かりました。その鋼の意志、僕の決意で砕きます」

 

 杖を武器格納魔法で仕舞い、代わりに世界樹の木剣を取り出すネギくん。

 そして、飛行船の中央でネギくんと超さんが激突する。互いにカシオペアを使った擬似時間停止を繰り返し、攻防を繰り広げる。

 さて、私も動くとするか。

 そう思い、一歩踏み出したところで、私の前にアルビレオ・イマがやってくる。

 

「戦いの邪魔はさせませんよ」

 

 アルビレオ・イマが、重力魔法の黒い球を手の上に出現させながら言った。

 その彼に、私は話しかける。

 

「やはり敵に回っていましたか、アルビレオさん」

 

「クウネル・サンダースとお呼びください」

 

「では、クウネルさん。なぜ超さんの手先に?」

 

「スカウトを受けましてね。彼女が提示した未来は、我々『紅き翼(アラルブラ)』が、そしてナギがやり残したことに合致する内容でしたので、乗りました」

 

 ナギ・スプリングフィールドがやり残したことか。魔法世界の崩壊を防ぐ、あるいは崩壊する魔法世界から人々を救う。超さんは、魔法を世界に公開することで、それを達成できると彼に言ったのだろうね。

 だが、プランがあるのはこちらも同様だ。

 

「クウネルさん。私達には魔法世界を救う手立てがあります。『ねこねこ文書』、あなたも見たのでしょう?」

 

「ええ、アカシックレコードを作り出したあなた方です。きっと可能なのでしょう」

 

「では、なぜ未だに超さんの方についたままなんですか?」

 

「私に先に声をかけたのは彼女の方だった。どちらの方法でも達成できるならば、先着順ですよ」

 

 なるほど、先着順か。私達は身内の中で計画案を温めていたからね。アルビレオ・イマのスカウトなんて、考えていなかった。

 超さんがなぜアルビレオ・イマのスカウトに向かえたのかは謎だが、大方、私達が図書館島に潜った際にこっそり隠れて見ていたのだろう。

 

「クウネルさん。魔法世界の未来を想うなら、こちらの陣営に来ませんか?」

 

「一度仲間になったのです、不義理はできません」

 

 ここからの逆スカウトは、無理か。

 しかし、敵に回って状況をかき乱すアルビレオ・イマに、少々むかつきを感じる。

 

「超さんの方法だと、ネギくんが魔法世界送りになってオコジョ刑を受けてしまいます。クウネルさんは、それでいいんですか! ネギくんは、ナギさんの息子ですよ!」

 

「そうですか。おおよそ半年ほどの刑でしょうかね。でしたら、刑を終えた彼を魔法世界に迎えに行きましょうか。そして、私達の仲間として丁重に迎え入れるとしましょう」

 

「そんなの……!」

 

「あなたこそ、私達の仲間に加わりませんか? 世界に魔法を公開し、しかる後にあなたの力で火星を開拓するのです」

 

「ここに来て、スカウトとはずいぶんと……!」

 

 と、口汚い言葉を口にしそうになったところで、私は頭の中で状況を整理する。

 

 ここで超さんが魔法の存在をバラす。ネギくん、オコジョ刑を受ける。

 夏休み、ネギくんを欠いた状態で秘密結社の野望を阻止する。

 その後、私達と超さんで協力して火星を一気に開拓する。

 開拓を終え、安定した魔法世界に行き、刑を終えたネギくんを迎えに行く。

 あらためてネギくんと神楽坂さんを仲間に加え、造物主との最終決戦へと備える。

 

「…………」

 

 ん? いけるか? ……いや、どうだろう。感情の問題が解決されていない。

 ネギくんをオコジョにした原因である超さんやアルビレオ・イマが仲間に居る状態で、ネギくんと神楽坂さんが素直に仲間に再加入してくれるかが、怪しい。

 それに、世界に魔法をバラした超さんサイドが、ネギくんを引き取れるのか? むしろ、ネギくんの身柄を確保している魔法世界に狙われる側にならないか?

 うーん、なしだな!

 

「残念ですが、拒否させていただきます」

 

「そうですか。しっかりとした信念を持っているようで、大変結構です」

 

 そうかぁ。しかし、あれだね。こうして冷静になってみると、アルビレオ・イマは本当に私達の敵になったのか、怪しく感じてきた。

 だって、本当に超さんの計画を成功させたいなら、こんなところで超さんの護衛をしているのがおかしいのだ。

 彼が持つ力は強大で、地上に打って出れば魔力溜まりの一つや二つ、簡単に制圧できてしまうだろう。それをしないでこんなところにいる。そして、ネギくんと超さんとの戦いに介入せず、ただじっとその行方を見守っている。

 

 と、ネギくんと超さんの戦いに動きが。超さんが、二台目のカシオペアを持ち出してきたのだ。

 ふむ。ちょっと試してみるか。私が超さんの方へと動こうとすると……。

 

「邪魔はさせないと言ったでしょう」

 

 アルビレオ・イマが手の上で待機させていた黒い球をこちらに向けて放ってきた。

 やはり、ネギくんと超さんを一対一で戦わせようとしている。それはまるで、ネギくんに実戦の経験を積ませようとしているようだ。

 と、そんなことを考えている間に、重力魔法が、私の身体を襲う。

 だが、しかし。

 

「すり抜けた? ……霊体化の術ですか」

 

「さすがは『まほら武道会』の名解説者。お見通しですか」

 

 私は、お化け屋敷のときと同じく、『孤独な迷宮守ニミュエ』の力を引き出して悪霊化していた。

 

「なるほど、確かに霊体には重力魔法は通用しませんね。ですが、その対策を取っていないとでも?」

 

 アルビレオ・イマの重力魔法が霊体に効かないことは、『UQ HOLDER!』を読んで予習済みだった。

 そして、彼が選んだ霊体への対処法も漫画と同じ。霊体に干渉できる死霊を呼び出して、私にけしかけてくる。

 

「死霊術です。あなたの仲間にもネクロマンサーがいるでしょう? 私も、この程度なら使えます」

 

「奇遇ですね。私も、冥府の魔術を使えるのですよ」

 

 私は『冥界の魔術師ヘカティエ』から学んだ死霊を誘導する術で、這い寄るスケルトンの群れを吹き飛ばした。

 そして、その隙に『孤独な迷宮守ニミュエ』の力でゴーストトークンを超さんの方へと飛ばす。

 私は、ネギくんの成長をじっくり見守るようなことはしないよ。ピンチのときに手助けしないなんて、なんのために一緒に上空へやってきたのか分からなくなるからね。

 

 私が放ったゴーストは超さんの背後に移動し、ぴったりと彼女に寄りそう。ネギくんと魔法を交えた激しい攻防を繰り広げている超さんは、そのゴーストに気づかない。

 今だ!

 

「『どっきりフェノメノン』!」

 

 私のスキル発動によりゴーストが爆発し、超さんに雷撃が炸裂した。

 いくら擬似時間停止ができても、意識の外から来た不意打ちは防げまい。

 超さんは雷撃の効果により、数秒間の金縛りにあう。そして、その隙にネギくんが世界樹と共鳴してまばゆく輝く木剣で、超さんが所持する二つのカシオペアを破壊した。

 

 そこからさらに、ネギくんは超さんへ魔法を放つ。

 

「『風花・武装解除(フランス・エクサルマティオー)』!」

 

 ネギくん渾身の武装解除が、悪あがきを続けた火星ロボ軍団首領を丸裸にした。決着だ。

 ネギくんが、飛行船の上に倒れ込む超さんを優しく抱きとめる。

 

「やれやれ、してやられましたね」

 

 アルビレオ・イマは、超さんを奪還する動きも見せず、素直に死霊術を止める。

 そんな彼に、私は言った。

 

「一人で強敵に立ち向かう勇者もいいですが、最近は仲間と一緒に強大なボスを倒すのが流行りなんですよ」

 

「そうですね。彼にも頼もしい仲間が何人もいたものです」

 

 ナギ・スプリングフィールドのことでも思い出しているのか、アルビレオ・イマはネギくんを見て晴れやかな表情を浮かべていた。

 敵に回っていたというのに満足そうなの、なんかイラッとくるね!

 

 

 

◆113 出席番号20番超鈴音

 

 学園防衛魔法騎士団、火星ロボ軍団に大勝利!

 そう締めくくられ、麻帆良祭最終日の全体イベントは終了した。

 

 超さんは武装を失い、完全降伏。葉加瀬さんはあやかさんに取り押さえられており、アルビレオ・イマも抵抗の意志を見せなかった。

 そして、ちう様の手により学園結界がもとに戻され、結界の力を受けた鬼神は完全に沈黙した。

 魔力溜まりは一カ所も陥落することはなく、その成果を受けて学生達が勝利に沸いていた。

 

 そして、始まる後夜祭。

 全体イベントで時間跳躍弾を受けていた生徒達も無事この時間に飛ばされてきて、都市全体を挙げた最後のバカ騒ぎに突入した。

 

 都市郊外でキャンプファイヤーが焚かれ、食事や飲み物がどんどん運ばれてくる。

 花火が打ち上がり、全体イベントの順位発表が大々的に行なわれた。

 

 そんな騒ぎの裏側で、ネギくんのコートを裸の上に着た超さんが、ネギま部メンバーの前にたたずんでいた。

 

「超さん。あなたの未来の話は、朝倉さんから聞きました。僕達なら、その未来を変えられると思うんです」

 

 ネギくんが、超さんに向けて想いを語っている。

 

「僕はまだ、魔法世界の危機についてリンネさんや師匠(マスター)から聞いたばかりです。でも、僕達が手を取り合えば、未来は開けると思うんです。今回のような方法ではなく、正当な方法で、僕と一緒に魔法世界を……火星を救う『立派な魔法使い(マギステル・マギ)』を目指しませんか?」

 

「そうカ……そんな未来も、悪くないかもしれぬナ」

 

「じゃあ……」

 

 ネギくんの顔がぱあっと明るくなるが、超さんは首を横に振った。

 

「いや、私は未来に帰るネ」

 

「超さん、どうして……」

 

「ネギ坊主がそう言ってくれた時点で、私の願いは叶ったネ。だから、もう十分ヨ」

 

「……そうですか」

 

「ああ、でも、帰ろうにもカシオペアが予備の弐号機も含めて壊れてしまたネ。ネギ坊主、貸していたカシオペアを返してほしいネ」

 

 ネギくんは、そう言われてカシオペアを取り出すが、返すことを躊躇(ちゅうちょ)する。

 

「ほら、ネギ坊主。返すヨロシ」

 

「超さん、せめて卒業までは一緒にいませんか? カシオペアの起動に魔力が必要なら、僕のアーティファクトがあります」

 

「そこまで求められるのは嬉しいガ、帰るヨ」

 

「…………」

 

 超さんがネギくんからカシオペアを受け取ろうとするが、ネギくんはカシオペアをにぎる手を離そうとしない。

 その様子に、ため息をついた超さんは仕方ないという風に一つのアイテムをどこからか取り出した。

 

「カシオペアを返してくれるなら、これを部のメンバーに公開しないと誓ってあげるネ」

 

 そのアイテムは、『超家家系図』と書かれた一冊の古めかしい本。

 武装解除されて裸に剥かれていたはずなのに、本当にどこから取り出したんだ。

 

「えっと、それは……? ちゃおけ……かけいず?」

 

 ネギくんが、不思議そうに本の表紙を覗き込んだ。

 

「私はネギ坊主の子孫ネ。とゆーことは、当然ネギ坊主は誰かと結婚して子を生したゆーこと。この情報、公開してしまてもいいのカナ?」

 

「え、ええー!?」

 

 ネギま部に、電撃走る……!

 あやかさんとか綾瀬さんとか水無瀬さんとか、あと『魔法先生ネギま!』の未来では長谷川千雨と結ばれると知っているはずののどかさんとかが、じわりじわりと動き始める。

 うん、『魔法先生ネギま!』の未来と、超さんがやってきた未来はまた違うものだからね。気になるよね。

 

「ほら、ネギ坊主。早くしないと、部が内部崩壊するヨ。早く渡すヨロシ」

 

「ネギ! 早く渡してしまいなさい!」

 

「ネギ先生、早くしろ! 間に合わなくなっても知らんぞー!」

 

 あやかさん達を物理で止めようと動いた神楽坂さんとちう様が、ネギくんにそう叫んだ。

 対するネギくんは、事態が飲み込めないのかあわあわとしている。

 すると、握力が緩んだのか、超さんがネギくんからカシオペアを奪い取ることに成功した。

 

「おっ、それじゃあ、私はこれで帰るネ」

 

 そう言って、超さんは後ろの方で待機していたクラスメートの四葉五月さんのところへと向かう。

 四葉さんの周囲には、葉加瀬さんと茶々丸さんがいて、その足元には、昨日のお別れ会にて超さんに贈られたプレゼントの数々が並べられていた。

 

「はっ……超さん! 本当に帰るんですか! これじゃあ、超さんは過去にやってきたというのに、何一つ得るものが無いまま……」

 

「いや、案ずるな。先ほども言った通り、私の望みは、ネギ坊主に託すことで無事に叶う。それで上々ネ」

 

「超さん……」

 

 そして、超さんはカシオペアを特殊起動させ、時のゲートを開いた。

 魔法陣が彼女の上に展開し、プレゼントが舞い上がる。

 本当に、未来に帰るつもりなのだろう。そんな超さんに向けて、私は言葉を投げかけた。

 

「超さん、あなたが向かう未来が、本当にあなたの望む未来だとは限りませんよ。時の流れは複雑です」

 

 彼女が向かいたい未来が、彼女がいたもとの未来なのか、時間改変されたこの世界の未来なのかは、私には分からないが。

 

「異世界人ゆえの忠告カナ? 大丈夫ネ。その時は、並行世界を移動するマシンでも作るヨ」

 

「あなたなら、それくらいはできるでしょうね」

 

 私がそう言うと、超さんは不敵に笑った。

 

「超!」

 

 と、そこで今度は古さんが前に出てきた。

 

「これを餞別として持っていくアル! 国の師からもらた、双剣の片割れネ!」

 

 超さんに向けて、剣が入った包みを放り投げた古さん。

 その突然のプレゼントに、超さんは驚く。わざわざこの剣を古さんが用意していたということは、古さんは戦いが終わったら超さんが去ることを察していたのだろう。

 

「古……今回は、いろいろすまなかったネ」

 

「こっそりネットに動画を流したことアルカ? 気にしてないアル!」

 

「そうカ……ネットのその後の対処は、ハカセに頼んであるカラ、古に迷惑はかからないはずヨ」

 

「分かったアル。『まほら武道会』、楽しかったアルヨ」

 

 そう言って、古さんは超さんに満面の笑みを向けた。

 

「刻詠サン」

 

 おっと、私にも何か一言あるのか。

 

「結局あなたが何者か、理解しきれなかたが……『ねこねこ文書』、信じてみるヨ」

 

「ええ、私は怪しい存在だと自覚していますが、そんなに嘘はつかないので、信じてください」

 

「そんなにじゃあダメだロウ」

 

 徳が積めそうなので、極力、正直者でいるつもりだけどね。

 とりあえず、私は最後の別れとなるかもしれない超さんに向けて、ペコリとお辞儀して挨拶とした。

 超さんは、ふっと笑い、私から視線を外す。

 すると、超さんの身体が浮いていき、上空の魔法陣に近づいていく。

 

「五月、超包子を頼む! 全て任せたネ! ハカセ、未来技術(オーバーテクノロジー)の対処は打ち合わせ通りに! 茶々丸、おまえはもう自立した個体だ。好きなように生きるがいい!」

 

 共に戦った仲間達に、それぞれ短く言葉を投げかけていく超さん。

 それからすぐに、魔法陣が強く輝き彼女を飲みこもうとする。

 

「……さらばだ、ネギ坊主! また会おう!」

 

 やがて、彼女は時の彼方へと旅立っていった。

 

 また会おう、か……。

 彼女が再びネギくんと会うときは、人柱となった神楽坂さんを未来から連れてくるか、絶望の未来で造物主と戦うときの仲間として現れるかだが……。それらを回避した先でも、彼女と再会する未来は訪れるのだろうか。

 その時が来たら、今度こそ彼女とは腹を割って話し合いたいものだね。

 

 

 

◆114 後夜祭

 

 さて、別れも済ませて、ネギま部も後夜祭に参加だ。

 飲めや歌えやの大騒ぎに、全力で乗っかる。さすがに酒は飲まないが、キャンプファイヤーの周囲で無意味に踊り、ひたすらテンションを上げていく。

 

 連日連夜、よくもまあここまで騒げるものだ。若さに当てられてくらくらしそうだ。

 

 そして、ネギま部の間では、『超家家系図』の信憑性について大盛り上がりだ。

 ネギくんの将来のお嫁さんはいったい誰か、から始まり、今はなぜか好きな男性のタイプを言い合っている。

 

「リンネちゃんの好みはどんなのー?」

 

 テンションを上げた神楽坂さんが、ウザ絡みをしてくる。ちなみに神楽坂さんは相変わらず『渋い年上。できればオジサマ』と答えていた。封印されていた記憶を取り戻したというのに、全然変わらないね、この子。

 とりあえず、正直者の私は正直に好みを白状する。

 

「私ですか。私は、『優しいイケメンエリート』です」

 

「うわ、出たー」

 

「理想が高すぎて、いつまで経っても相手が見つからないやつだ!」

 

 うん、前世の私がそうだったよ。悲しいね。

 と、キャッキャウフフしていたら、いつの間にか混ざっていたココロちゃんが、暴露した。

 

「オーナーは、大人になったネギがその条件に合うって言ってたよ!」

 

「えっ」

 

「ええっ!」

 

「リンネさん! あなたもしや……」

 

「リ、リンネさーん。そんなまさか……」

 

 おおっと、あやかさんとのどかさんは、妖しげなオーラを出すのやめましょうね。

 私は、余計なところに飛び火しないよう、あわてて言い訳を始めた。

 

「いえいえ、将来もしかしたら好みに合致するかもっていうだけで、今のところ恋愛感情はありませんよ」

 

「えー、どうだろうなー」

 

「リンネ、ネギ君に対して妙に手助けするしなぁ。剣とか」

 

 いやいや、近衛さん。私は徳とか関係なしに子供と小動物に対しては優しいぞ!

 ネギ先生は半分大人の社会に足を突っ込んでいるから、厳しくするときは厳しくするけど。

 

「よーし、今夜はリンネちゃんのあれやこれを掘り下げていこうか!」

 

 早乙女さんがそんなことを言い出し、私は質問攻めにあった。

 もう、酒が入っていないというのに際どい質問まで混じっていて……本当に女子中学生って怖い。

 

 そして、数十分後、なんとか皆から逃げ出した私は、クラスメートから離れたところでぼーっとキャンプファイヤーを眺めていた。

 いやー、疲れた。さっさとカリンと一緒に撤退したキティちゃん許すまじ。まあ、カリンは龍宮さんとの死闘の末、最終的に時間跳躍弾を食らったらしいから、なぐさめが必要なんだろうけど。

 

「どうも、おつかれさまです」

 

 と、そんな私に話しかけてくる者が一人。

 ローブに身を包んだ怪しい青年。アルビレオ・イマだ。

 

「おやおや、世界にヒミツをバラそうとした主犯さん、どうしました?」

 

 私がそう言うと、彼は苦笑する。

 

「当たりが強いですねぇ。すでにその件は近右衛門にこってり絞られましたので、勘弁していただけませんか」

 

「学園長先生が裁定を下すなら、私は何も言いませんけどね」

 

「はい。ところで、私の協力者の超さんがいなくなってしまいました。どうしましょうか」

 

「知りませんよ、そんなの」

 

 ホントに知らんわ。一人で続きをやるというなら、キティちゃんと一緒にぶっ潰すけど。

 まあ、ネギくんの成長が本当の目的だったのなら、暴れることはないのだろうが。しかし、そうなると超さんは踏み台にされたわけで……あれっ、そう考えると、超さんの獅子身中の虫になって魔法バレを防いでくれたことに……いやいや、そこまで考えているとは限らないぞ!

 

「おおっと、もう敵対の意志はないのでそう怒らないでくださいね。むしろ、私は協力者の側ですよ」

 

「はぁー?」

 

 私は思わずそんな声がもれてしまった。

 なに言ってんの、この人。

 

「『ねこねこ文書』に書かれていた、火星開拓計画。これに協力させていただきます。先着順ですので、超さんがいなくなって一つ繰り上がりました」

 

「あー……」

 

 そういえば、上空のバトルの途中で、この人を自陣営に誘ったな、私。

 

「『アカシャの図書迷宮』の司書の力、借りたくありませんか?」

 

「そりゃあ、借りられるなら借りたいですけど……」

 

 多次元から集まってくる無数の書物を自由に読めるようになる。これは、宇宙開拓に役立つに決まっている。

 太陽系の開拓をしていたであろう、先史文明の書物までそろっているのだ。子猫を何匹かアルビレオ・イマに付けて図書迷宮に解き放てば、有益な情報は山ほど集まるだろう。

 

「では、計画の詳しいことを後日うかがいますので、また地下に来てください。こちら、招待状になります」

 

 そう言って渡されたのは、一通の書状だ。

 これがあれば、地下図書館を自由に通行できるようになるらしい。一部の罠やワイバーンを回避できるのだとか。

 私は書状を丁寧にポケットへしまい「明後日にでも向かいます」と言ってアルビレオ・イマと別れた。

 

 そして、私は騒ぎ続けるクラスメート達を遠くに眺めた後、私の代わりにココロちゃんとアルトリア陛下を置いて、一眠りするために女子寮へ帰っていったのだった。

 さすがに、徹夜には付き合わないよ。昨日はあんまり寝ていないんだから、徹夜とかしたら死ぬよ。

 

 ちなみに、女子寮の部屋で寝る前にスマホで徳の積み具合を見たら、結構なポイントが貯まっていることが確認できた。どうやら、全世界を対象にした催眠を防ぐことは、徳を積むに相応しい偉業判定を受けるらしい。

 今回はポイント的には得るものが何もないかもと思っていたが、思わぬ成果にほくそ笑む私だった。

 


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