【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ 作:Leni
◆15 私は百合じゃない
入学式の夜。私とちう様は、女子寮を抜け出してエヴァンジェリン邸にやってきていた。
ちなみに入寮自体は入学式前に済ませていたので、入寮歓迎会のような催し物はない。なのですんなり抜け出すことができた。
そして現在、キティちゃんのダイオラマ魔法球、通称別荘内にて儀式の準備が進められていた。
儀式に関して、私とちう様が手伝えることはない。全てはメディア様と子猫達が取り仕切ることになっているからだ。
私達がやるべきことは、初めてこの別荘内に入ったという、キティちゃんの従者、マジックガイノイド
だが、そんな茶々丸さんは、動き回る子猫達をじっと見つめたまま動かない。
そういえば、原作における絡繰茶々丸は、川に流された捨て猫を助けて、野良猫に餌をあげるような子だった。
優しさ故の行動だと思っていたが、もしかすると重度の猫好きかもしれない。
なお、野良猫に餌を与えるのは、近隣住民の迷惑になることも多々あるので、気をつけよう!
「なあ、絡繰がここにいてもいいのか?」
と、ちう様がそんな茶々丸さんを見て言った。
「何か問題がありました?」
「だってよ、絡繰の背後には……」
茶々丸さんの背後にいる人物。未来人、
茶々丸さんが見聞きしたことは、葉加瀬さん経由で超さんに知られるのを前提に行動した方がよいだろう。
私は、ちう様の手に触れて、念話のパスをつなげる。
『超さんにこの儀式を見られても、なんの問題もありませんよ』
『でも、メディアさんと子猫達まで見せていいのかよ』
『まあ、このくらいなら。そもそも超さんは敵ではないので』
『……あー、確かに、未来のネギ・スプリングフィールドの苦労を思うと、さっさと世界に魔法をバラしちまった方がいいのか』
第二の予言の書『UQ HOLDER!』の世界線において、ネギ先生は一般世界への魔法周知をしようとした際に、相当な妨害を受けていた。だが超鈴音の計画が成功すれば、早期に問答無用で世界に魔法が知れ渡ることになる。
『私はバラしてもバラさなくても、どちらでも構いませんけどね』
『となると、超は敵でもなく味方でもないと』
『一度くらいは、彼女達と対決する機会が巡ってくるかもしれませんけれど』
「マスターの生徒、クラスメートの刻詠リンネさんと長谷川千雨さんでしたか」
と、内緒話をしていると、いつの間にか茶々丸さんがこちらを向いて話しかけてきていた。
「はい、あなたのマスターの生徒をしていますリンネです。三年間、よろしくお願いしますね」
私がそう挨拶すると、茶々丸さんはこちらをじっと見つめたまま動かない。
そして、唐突に口を開いた。
「仲がよろしいのですね。手を握るのは親愛の証と学習しています」
茶々丸さんの視線の先。そこには、手を繋ぐ私とちう様の姿が。
ちう様は、指摘を受けて、とっさに手を離した。
「仲はいいですが、これは特に親愛の意味でつないでいたわけではないですよ」
私とちう様の関係は百合ではない。しごく健全な関係だ。
「そうなのですか?」
「そうなのです。これは、念話の魔法を使って内緒話をしていたんです」
「おいこら、リンネ」
「私に聞かれたくない話ですか。すみません、お邪魔でしたか?」
ちう様が私をにらみ、茶々丸さんが申し訳なさそうに言ってきた。
私はとりあえずちう様を無視して、茶々丸さんに向けて告げる。
「いえいえ、お邪魔じゃないですよ。ただちょっと、超さんに知られたくない話があったので」
「申し訳ありません、言葉の意図がつかめません」
「茶々丸さんの記憶回路を確認できる葉加瀬さんに近しい存在であろう、超さんに知られたくない話があったんです」
「なるほど、了解しました。では、向こうで控えています」
「おかまいなくー」
そうは言ったが、茶々丸さんは私達のもとから離れていく。そして、キティちゃんの従者人形の一人、チャチャゼロさんの方へと向かった。
「おい、いいのかよ、あんな言い方して。超に喧嘩売っているようなものだろ」
「いいんですよ。どっちみち、超さんは私に注目しているでしょうから」
再度私はちう様の手を取り、念話を放つ。
『超さんの未来に私が存在しなかった場合、私はイレギュラー。私が存在した場合、私はジョーカーですから』
未来に私が存在しなかった場合、彼女は私を怪しむだろう。同じ未来からでも来たのか? とね。
私、普段からスマホの存在を隠していないので、未来人と思われているだろうなぁ。約二十年先の未来から来たことには間違いはないんだけどね。
◆16 ルールブレイカー
「それでは、儀式を始めるわ」
メディア様が宣言する。床に敷かれた魔法陣の中央にはキティちゃんが横たわり、緊張した顔で別荘の空を見上げている。
魔法陣の周囲には、メディア様の助手である子猫達が十匹、手に杖を構えている。
私とちう様と茶々丸さんは、儀式の邪魔にならないよう、魔法陣から五メートル離れた位置で見守っている。
そして私は、メディア様の宝具発動の際の魔力を負担する必要はない。
英霊であるサーヴァントの現界に必要な魔力、および宝具の発動に必要な魔力は、カルデアから供給されている。
カルデア。すなわち、スマホの中。
サーヴァントの使役にマスターである私の魔力を必要とせず、さらにサーヴァントがマスターの私に従う理由もないとか、もうこれ、マスターは私じゃなくてスマホってことでいいんじゃないかな!
そうふてくされている間に、儀式が始まる。
子猫達が呪文を唱和し、魔法陣が光り輝いていく。
すると、横たわるキティちゃんの胸元からもやのようなものが立ち上り始めた。
どんどん湧きだしてくるもやは、一つの形を取る。
それは、モザイク状の人型だ。
「登校地獄の呪いの精霊ね」
メディア様がそう解説を入れてくれる。
「なんかキメえな……」
ちう様のその感想に、メディア様が答える。
「術式が正常に作動していないからかしらね。本来なら、もっとまともな生物の形を取るはずなのだけれど」
「バグっているってわけか」
そう言い放つちう様の視線の先、モザイク状の人型は、完全にくっきり見えるようになっていた。
その人型の前に、メディア様が立つ。
「現在、彼女からは呪いの精霊が一時的に切り離された状態にある。後は、簡単ね」
メディア様が右腕を振りかぶる。すると、その手に光が集まり、宝具が顕現する。
「『
宝具の解放がなされ、歪なナイフが呪いの精霊に突き刺さる。
すると、モザイク状だった精霊が急速度で形を正常なものに変えていき、フォルムがより人間に近づいていく。
いろんな色でぐちゃぐちゃだった精霊は、真っ白な光に変わった。
さらに、精霊はその存在感を失っていき、薄らと消えていく。
そして、精霊は私達の目の前でその姿を消した。
「我が宝具は、魔術を初期化し、契約を白紙に戻し、精霊を消去する。……これで、呪いは解かれたわ」
メディア様はそう言って手元から宝具を消すと、その場にしゃがみ込み、横たわっていたキティちゃんの上半身を起こした。
キティちゃんはというと、自分の手を見つめて、フルフルと震えている。
「……やった、やったぞ! 忌まわしい呪いが、とうとう解けたぞ!」
そうキティちゃんが叫ぶと、周囲の子猫達が「にゃー!」と一斉に杖を天に掲げ、儀式の成功を喜んだ。
こうして、キティちゃんは十数年に及ぶ呪いから解放され、自由を得た。
だが、彼女の中学生活はまだ終わらない。ネギ・スプリングフィールドと出会うため、彼女は私達のクラスメートを続けるのだ。
◆17 サムライガール
そんな入学式の日からひと月ほど経った後。ゴールデンウィークにキティちゃんとの国内旅行に付き合わされつつも、平和な日々が過ぎる。
そして、ある日の朝の教室。
「しっかし、本当におかしなクラスだよな」
ちう様が、机に肘を突きながら、ぼんやりと語る。
「留学生多いし、異様に発育いいやつ多いし、逆に幼稚園みたいなのもいるし」
「いけないですよ、身体的特徴を悪く言っては」
「あ、そうだな。幼稚園は言いすぎた」
「まあ、背の高さは置いておいて、このクラスに特徴的な人物が多い理由は、ちょっと察しています」
「へえ?」
私はちう様に念話を飛ばす。最近、短距離なら触れあわなくても念話を飛ばせるようになってきた。
『このクラスの全員が、ネギくんの仮契約候補生という予想はどうでしょうか』
『……うわ、ありえるな。予言の書では実際、クラスの大半と仮契約を交わしていたわけだし』
『現在魔法学校で勉強中のネギくんですが、彼が卒業する前からすでに卒業後の修行の内容は、関係者の間に通達されていたわけです。となると、修行の地である麻帆良は数年前から準備を整えていたかもしれない、というわけですね』
『ふーむ、その予想が正しければ、私達は生贄か?』
『魔法使いのパートナーは、別に生贄なんて悲惨な立場ではないでしょう。戦うだけがパートナーの役割ではないですし、ネギくんから仮契約を持ちかけられても、嫌なら断ればいいんですから』
『あ、そうか。断れるのか。そうだよな』
『まあ、そんな二年先のあれこれはどうでもいいんですよ。それよりも今、大事なことがあります』
『ん? 何かあったか?』
『桜咲さんが近衛さんを露骨に避けているせいで、クラスの雰囲気が微妙に悪い……!』
『あー……』
ちう様が、着席して目を閉じている桜咲さんの方を見る。
しかし、桜咲さんは自分の過去にまつわる負い目から、近衛さんの近くに寄ることを拒否。
好きだけど好きだから合わせる顔がない、みたいな心境で近衛さんを遠くから見守っている状態だ。
そして、近づいて昔のように仲良くしたい近衛さんからすれば、避けられるのはショック大。そのせいで近衛さんは落ち込んでおり、彼女の雰囲気に巻き込まれてクラス全体にどことなく暗い雰囲気が漂っているのだ。
『というわけで、見ていられないので明日、荒療治を実行します!』
『また急だな!』
というわけで、作戦を実行すべし!
作戦内容は、私が桜咲さんを放課後、空き教室に呼び出す! 私は魔法生徒だから、学園の警備に関する連絡事項とか言っておけばおっけー。
そこに、ちう様が近衛さんを空き教室に連れてくる! そして教室の中で二人っきりにする! 桜咲さんに思いっきりぶつかってみろと、近衛さんの背中を押すことも忘れずに、だ。
これは勝ったな。
『作戦ガバガバすぎねえ?』
『両思いなんだから、どうやってもうまく転びますよ』
『だといいがなぁ……』
そうしてやってきた翌日の放課後。
空き教室なるものは校舎内に存在しないことが分かったので、桜咲さん以外のクラス全員に通達して、1年A組の教室に放課後残らないようにしてもらった。
放課後話があると伝えた桜咲さんは、クラス全員から
「話があるんでしたね」
私にそう聞いてくる桜咲さん。
「はい。みんなが帰るのを待ちましょう」
「別に、場所を移せばいいのでは?」
「大丈夫ですよ。人払いしてあるので」
「人払いだと……?」
おっと、勘違いしていますが、人払い(魔法)ではなく、人払い(物理)ですからね。言わないけど。
そして、面白いように一斉にクラスメート達が教室から去って行き、私達二人だけに。
「……はあ、仕方ないですね。で、警備の話でしたか」
呆れたように言う桜咲さん。でも、あなたの態度に呆れ返っているのは我々1年A組一同ですぞ?
「はい。警備の話です。実は、近衛さんの護衛に関して」
「……ッ!? このかお嬢様に何か!?」
「はい、そのお嬢様に何かありました。というわけで、本人ご入場です」
「は?」
次の瞬間、教室のドアが開き、近衛さんが飛びこんできた。
「せっちゃん!」
「えっ、えっ、お嬢様!? ……刻詠リンネ、貴様、謀ったな!」
いえいえ、クラス全員に謀られていたのですよ。
謀られせっちゃんに向けて、私は言う。
「桜咲さんには、正直物申したいことがいくつもあります。でも、そんな言葉を私から届けるくらいなら、近衛さんの言葉を一つでも多く聞いてもらいましょう」
「そうやでせっちゃん。嫌でも聞いてもらうで。今日のウチは当たって砕けろや」
ずいぶんとガンギマリになった近衛さんが、桜咲さんに近づいていく。
うん、どうやらちう様が近衛さんに発破をかけたようだ。ちう様、原作に負けず劣らず、力強いはげましをしてくれるからなぁ。
「では、あとは若い人達に任せて……」
「お見合いかよ。ま、でも確かに私達はお邪魔虫だな」
近衛さんに遅れて教室に入ってきたちう様とそう言い合い、私達二人は教室から出ていった。
そして、廊下で近衛さんの話が終わるのを待つ。
と、待っている間に廊下にクラスメート達が集まってきた。うん、あんな連絡網を回せば、みんな興味津々だよね。部活動があるので全員集まっているわけではないが。
「どう、刻詠。上手くいった?」
報道部の
「上手くいくかは近衛さん次第ですね。ま、心配はしていませんが」
「大丈夫かなー。何話しているんだろ」
「おっと、ジャーナリストはこのドアをくぐる権利はありませんよ。お嬢様のプライベートです」
「えー。報道の自由が私にはあると思うのよね」
「報道の自由は、人権の前には、ちりあくたに等しいですよ」
私がそういうと、朝倉さんはブーブーとブーイングをしてくる。でも、桜咲さんと近衛さんの関係はものすごく繊細なので、本気で第三者を通すわけにはいかない。
「せっちゃん!」
おおっと、教室内で何か進展があったようだ。
近衛さんの叫びの後にドアが勢いよく開き、桜咲さんが飛び出してくる。
その彼女の前に、私は立ちはだかる。
「桜咲さん、逃げるのはなしですよ」
「くっ、刻詠、どけ!」
桜咲さんが、竹刀袋に入ったままの大太刀をこちらに振りかぶる。
手加減した桜咲さんの一撃。それを私は素手でさばいた。
「!?」
「さ、教室に戻ってください」
「押し通る!」
今度は本気になったのか、物凄い勢いで竹刀袋を振るってくる。京都神鳴流の技だろう。
それを私は正面から身体で受け止めた。
「なっ!?」
「吹き飛ばしたかったんでしょうけど、残念ですね。アリス師匠直伝、『硬気功』です」
攻撃を身体で受け止めた次の瞬間に、私は桜咲さんに反撃をしていた。
捨て身のカウンターをしてくるとは思わなかったのだろう。桜咲さんの鳩尾には、見事に私の突きが入っていた。
スキル『硬気功』。ゲーム的に言うと、数十秒間防御力を上げ、敵の物理攻撃に反撃するスキルだ。
私の反撃を予想しておらず、気のガードがゆるんでいた桜咲さんは、息がつまったのかその場で身をかがめる。
その隙に、私は今度こそゲームの力を引き出す。以前、キティちゃんとの初対面で使った、くぐつ使いの技。糸による拘束だ。とりあえず、ぐるぐるに巻いておこう。
そして、軽く無詠唱の回復魔法をかけてあげてから、ドアの向こうから心配そうに見つめていた近衛さんに、桜咲さんを引き渡す。
「身動きできなくしましたから、存分に思いをぶつけてあげてください」
「がんばるえー」
そして二人は、教室の中へと消えていった。
ドアを閉めて、私は廊下へと振り返る。すると、クラスメート達がじっとこちらを見ていた。
「何か?」
「いやいやいや、なに今の。映画のアクションシーンみたいな?」
「ああ、桜咲さんも、私も、武術をたしなんでいますから」
「たしなんでいるってレベルかなぁ? ま、その情報はくーちゃんに流させてもらうからね」
あー、古菲に知られるのか。
まあ、私が武術をかじっているのは隠していない事実だし、どうにかなるでしょ。ウルティマホラ前に手合わせしておくのも、悪くないかもしれないしね。
「じゃあ、教室の中に入るのは諦めるから、刻詠にインタビューさせて!」
「かまいませんよ!」
そこから、朝倉さんのインタビューに答えていく私。
格闘技に関してはとある国のやんごとない人から教えてもらったと言ったら、うさん臭そうな目で見られた。
本当なんだけどなぁ。まあ、ゲームの世界のお姫さまだから、どこの国の人だとかは言えないけれど。
『気』ってあるの? と言われたので、あると答えておいた。
麻帆良でも、格闘家のごく一部が、遠当てとか使うからね。古菲だって、私のものとは違う『硬気功』を使いこなせる。
さて、そんな感じでインタビューにのらりくらりと答えていると、教室のドアがゆっくり開き、近衛さんが姿を見せた。
「上手くいきましたか?」
そう私が尋ねると、近衛さんはにっこりと笑みを浮かべて答える。
「仲直りできたえ。みんな、本当にありがとうなあ」
その言葉に、集まっていたクラスメート達がわっと沸いた。
これまでのクラスの暗い雰囲気を吹き飛ばすような勢いに、私も一緒になって騒ぐ。
うんうん、よかったよかった。
「あの……、それよりも、いい加減この拘束を解いてほしいのですが……」
おっと、桜咲さんを糸で巻いたままだった。
私は拘束を外し、桜咲さんを自由にする。そして、彼女に向けて私は言った。
「もう逃げませんよね?」
「はい。先ほどは剣を当ててしまい、申し訳ありませんでした」
「こちらこそ、殴ってしまいましたからね。お互い水に流しましょう」
こうして作戦は大成功を収め、近衛さんと桜咲さんの和解は済んだ。
そして翌日以降、二人が教室の中でキャッキャウフフしている様子をよく見かけるようになった。
仲良きことは美しきかな。
あと朝倉さんは、近衛さん達から、あの日の教室でどんな会話をしたか聞きだそうとするのは止めなさい。