【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ 作:Leni
◆118 紅き翼
振替休日二日目。私は、一人で図書館島の地下に潜り、アルビレオ・イマの居住地を訪ねていた。
彼から聞いていた直通のエレベーターに一人で乗りこみ、ワイバーンが守る門で招待状を見せて通る。
そして、門の奥にある塔の屋上へと向かうと、そこには先客がいた。
キティちゃん、ネギくん、神楽坂さん、近衛さん、桜咲さん、あやかさんだ。
「おや、バッティングしてしまいましたかね」
私がそう言うと、アルビレオ・イマが私をテーブル席に案内しながら答える。
「いえ、予定を合わせたのですよ。あなたの話は、ネギ君にも関わってくることでしょう?」
「んー、いると助かるのは確かですね」
一応、ネギくんがいなくても計画は進められる。火星開拓自体はね。その後の最終目標である、造物主討伐には嫌でも関わってもらうけど。
そんなことを思いつつ、私は席に着く。
そして、道中の移動で乾いていた喉をうるおすために、出された紅茶を一口飲む。うーん、コーヒー派だけど、ここの紅茶は美味しいね。
そのまま二口、三口と飲んでいき、満足したところでカップを置いて、私は言った。
「それで、途中参加になりましたけれど、皆さんどのようなお話を?」
すると、アルビレオ・イマが代表して答える。
「アスナさんと一緒に、『
まだネギ君は一人前判定を受けていないということか……。
すると、神楽坂さんが私に向けて自慢げに言った。
「私の記憶が戻ったことは前に言ったでしょう? それがなんと、ネギのお父さん達と一緒に行動していた記憶だったのよ」
「そうですか。記憶が戻ってよかったですね」
「……あれ? 驚いてない? 結構すごい事実を言った気がするけど」
「予想はできていましたからね。再生ナギさんが姫様とか親しげに呼んでいましたし、『紅き翼』の一員とされている高畑先生が保護者ですし」
「そうや、リンネ。アスナって、魔法の国の本物の姫様なんやって」
近衛さんが、笑顔でそんなことを私に告げた。
それを受けて、神楽坂さんが恥ずかしそうに言う。
「もう滅んだ国みたいだけどね」
そう、神楽坂さんの正体は、魔法世界にかつて存在したウェスペルタティア王国の姫君だ。彼女の実年齢は百歳以上で、同じくウェスペルタティア王国の王女を母親に持つネギくんと親戚関係にある。
「しかし、そうなると、この場には魔法世界の姫君と、関西呪術協会の姫君、巨大企業グループの姫君がそろっていますね。エヴァンジェリン先生も中世時代に領主の城に住んでいたといいますし、一般人枠は私だけですか」
「なーにが一般人枠だ。貴様は、世界を丸ごと一つ所持する王だろうが」
私の冗談めかした言葉に、キティちゃんがそうツッコミを入れてくる。
あー、確かに私、宇宙の支配者でしたね。住人達からの扱いは大家さんだけど。
「さて、『紅き翼』の話題が続きましたし、先にネギ君に対する用事を済ませてしまいましょうか」
アルビレオ・イマが、そのように宣言し、場の雰囲気が一転、真面目なものになる。
その空気の中、アルビレオ・イマが言葉を続けた。
「麻帆良祭で、ネギ君の成長は見させてもらいました。ナギの消息について話すに足る力は得たと判断します。まずは、これをご覧ください」
アルビレオ・イマは、テーブルの上にパクティオーカードを複数枚並べた。
そのうち、一枚のカードだけ細かい枠などが描かれており、残りのカードには枠線が存在しなかった。
「こちらの枠やアーティファクトが色々と描かれているカードがナギとのカード。他のカードは死んでいるカードです。パクティオーカードは、契約者が死亡すると、このように死んだカードになります」
「つまり……父は生きていると?」
ネギくんが、確認するように問いかける。すると、アルビレオ・イマは「はい」とうなずき、さらに言葉を続ける。
「しかし、その行方は分かっていません。彼を追うならば、魔法世界……ムンドゥス・マギクスへ向かうとよいでしょう」
「
「あなたの故郷、英国のウェールズに、魔法世界への扉があります。ナギの足跡は、その魔法世界で途切れているのですよ」
本当は、
おそらく、ネギくん本人が魔法世界に行って自分で真実を見て知ることを望んでいるのだろうね。ネギくんが成長するために。
その証拠に今、念話で『造物主のことは、しばらく伏せておいてください』って届いたからね。
ちょっとこの魔導書、ネギくんに対してスパルタ過ぎないかと思うなぁ。
すると、ネギくんは魔力をもらして身体の周囲に風をまとい始め、席を唐突に立って「じゃあ、行ってきます!」とどこかに向けて走り出した。
だが、キティちゃんはそれを予想していたのか、あらかじめ張られていた糸の罠がネギくんを転ばせる。
そして、糸をたぐり寄せて、ネギくんを足元に転がす。
「アホか。貴様は教師だろうが。生徒を放っていくつもりか。行くならば、夏休みを待て」
「はっ、そうでした……!」
「それに、仲間のことを忘れたのか。『異文化研究倶楽部』は、なんのための部活だ」
「あっ、父さんを捜し出すための……」
ネギくんは、自分の行動を反省したのか肩を落とす。
それを見たキティちゃんは、糸を解いてやり、ネギくんを再び椅子に座らせた。
と、そこで、塔の屋上に新たな来客が。
「おじゃましまーす!」
やってきたのは、ネギま部のメンバー全員だ。新部員の長瀬さんもすっかり馴染んだ様子だ。
麻帆良祭では敵対していたからか引け目がある茶々丸さんが、ちう様に手を引かれて連れてこられている。
ネギま部ではない朝倉さんもしれっと混じっているが、彼女も事情をいろいろと知っているし構わないだろう。
「そういえば、彼女達も招待していましたね」
アルビレオ・イマが、お茶を用意しながら楽しげに言う。
まあ、全員呼んだのはいいんだけどさ、この混沌とした中で、私に『ねこねこ文書』のプレゼンをしろとおっしゃる?
◆119 ねこねこ文書
「さて、では、『ねこねこ文書』あらため、魔法世界救済計画についての説明をさせていただきます。なお、質問は随時受け付けます」
皆の前に立った私は、魔法の空間投影でプレゼン画面を表示しながら、説明を始めた。
「まず、魔法世界について説明します。魔法世界は、正式名称をムンドゥス・マギクスといいます」
プレゼン画面に、魔法世界の地図を表示する。
「地球の各地に存在するゲートを通じてこの魔法世界に行くことができますが、この魔法世界は異界であり、地球上には存在しません。そんな魔法世界ですが、現在、消滅の危機にあります」
私の真面目な話をネギま部の面々は、お菓子をパクパクと食べながら聞いている。
「原因は、世界を構成する魔力の枯渇です。実はこの魔法世界、先ほど地球に存在しないといいましたが、その所在は火星にあります。火星に重なるように存在する異界、いわゆる裏火星が魔法世界の正体です」
魔法世界の地図の隣に、火星表面の地図を表示させて、対比させる。
「皆さんも知っての通り、火星には生命が存在しません。魔力とは、動物や植物といった生命や自然が生み出す力。魔法世界が存在するだけで火星にある魔力を消費し続ける一方で、火星が新たに魔力を生み出すことがないため、魔法世界には崩壊が待っているわけです」
火星表面を撮影した写真を画面に表示させる。赤茶けた荒野だ。
「そこで、魔法世界の魔力不足を解消する手段として以前から魔法社会で提唱されているのが、火星の緑化テラフォーミングです。これに関しては、ネギくんの父であるナギ・スプリングフィールド氏も実現を模索していたと、あやかさんの調査で分かっています」
あやかさんの方を見ると、うなずきを返してきた。魔法使いの経歴をよくもまあ調べられたもんだ。
「今回、私が提案する魔法世界救済計画も、この緑化テラフォーミングを採用します」
「あのー、質問いいでござるか?」
「はい、長瀬さん、質問どうぞ」
「緑化テラフォーミングとは、なんでござるか?」
理解していなかったのは長瀬さんだけじゃないようで、不思議そうにしているメンバーが何人か。
まあ、かなりSFが入っている用語だからね。
「まず、テラフォーミングとは、人が住めない惑星や衛星をテラ、すなわち地球のように変えてしまうことをいいます。大気を地球と同じ組成に変えて人が呼吸できるようにし、気温を宇宙服なしで人が活動できるよう調整し、水を惑星に満たして人が生きられるように変えてしまうことですね。緑化、とわざわざ付けているのは、魔力を生み出すために植物を生やす段階まで惑星開拓を進めるためですね」
「そのようなこと、可能なのでござるか?」
「今の人類の科学技術では厳しいでしょう。ですが、私ならば可能です。それを詳しく説明していきましょうか」
私はプレゼン画面を次に進める。そこに映ったのは、スマホだ。
「私がこの携帯端末、スマートフォンを所持していることは、ネギま部の皆さんならご存じでしょう。実はこのスマートフォン、ここではない別の宇宙とつながっています」
ネギま部の面々には普段から話しているので、驚きは少ない。新入部員の長瀬さんは、目を見開いているが。
「その別宇宙には、恒星があり、惑星があり、知的生命体が生息しています。その知的生命体による各文明をざっくりですが紹介していきましょう」
プレゼン画面で一画面ずつ、住人を紹介していく。
まずは、王国。ファンタジー小説に登場するような剣士や魔法使いが住んでいる国だ。多分野の人材がそろっており、魔法だけでなく、工学や錬金術といった学問を専攻する学者も所属している。
一般市民も国に多く在籍しており、農業を中心としたのどかな生活を送っている。
次に、人理継続保障機関フィニス・カルデア。並行世界の地球に存在した偉人、英雄達の霊をサーヴァントという形で有する魔術組織だ。
アーサー王やヘラクレスといった武人だけでなく、ナイチンゲールやアスクレピオスといった医療従事者、レオナルド・ダ・ヴィンチといった芸術家、エジソンやテスラといった発明家など、こちらも人材は多岐にわたっている。
オラクル船団。フォトンと呼ばれる粒子をエネルギー源として用いる宇宙文明だ。惑星に居住するのではなく、巨大な宇宙船を多数所持しそこに居住している惑星航行船団。マザーシップと呼ばれる超高度な演算装置を兼ねた惑星サイズの母船を有しており、彼らの科学力は銀河を股にかけるワープ航法や別次元への跳躍すら可能としている。
エルジマルト。こちらも宇宙進出をしている科学文明だ。オラクル船団とはまた違ったアプローチの科学技術を持っており、さらには六十八億という膨大な人口を抱える、最大勢力でもある。人をデータ化して保存したり、その人のデータをアンドロイドにインストールして長寿を実現したりと、工学方面に強い。
最後に子猫。魔法やフォトンといった力には頼らない、純粋な科学技術をとことんまで突き詰めたタイプの高度な宇宙文明だ。
ワープ航法を開発することなく、時間跳躍を駆使して約二万五千年の時をかけて宇宙の果てまで到達した、息の長い文明でもある。核融合、反物質、粒子加速器といった、地球のSF好きにも馴染みのある技術を複数有している。
「このように、スマートフォンから繋がる別宇宙には、地球を超える高度な技術を持つ文明が、複数存在します。彼らの力を借りて、短期間で一気に火星をテラフォーミングし、開拓することがこの計画の骨子となっています」
「質問よろしいですか?」
「はい、クウネルさん、質問どうぞ」
「その別宇宙とは、物資や人材を自由にやりとりできると解釈してよろしいですか?」
「基本的に、こちらの宇宙からあちらの別宇宙には人や物を送り込めません。あちらからの移動は、物資に関しては自由です。人材に関しては、私の固有能力で左右されます。その固有能力を説明しましょう」
私は皆にあらためて、徳を積むことでポイントが溜まり、ポイントで人材を呼び出す枠が買えることの説明をした。
そして、そのポイントだが……。
「先日、麻帆良祭で超さんによる『全人類に対する催眠』を止めた功績が徳を積むに足ると認められたため、宇宙船を数隻運用するだけの人員枠が購入できました」
私がそう言うと、皆から「おお」と声が上がる。
うん、ガチャには使わなかったよ。褒めてちょうだい。
「じゃあ、もう火星のテラフォーミングはできるってことね!」
「神楽坂さん、それは残念ながらノーです」
「えっ、なんで?」
「火星を勝手に開拓したら、地球も魔法世界も大混乱です。地球から目撃されますし、火星に異界がある魔法世界人は恐怖を感じるでしょう」
「あっ、なるほどー」
うん、電撃的に火星でやっちゃってもいいのだが、そうした場合、途中で魔法世界から火星に魔法世界人の艦隊が飛び出してきて、妨害を受けるかもしれない。いや、魔法世界から火星に直接出てこられるかは知らないけど。
「ですので、夏休みにネギくんが魔法世界に行くのならば、私も同行して魔法世界の主要政府に計画の説明をする必要があります」
「……あの、いいです?」
「はい、夕映さん、質問どうぞ」
「ただの学生であるリンネさんが行って、話を聞いてくれるものです?」
「無理でしょうね」
私がそう答えると、皆が怪訝な顔になる。
「そこは、私のアーティファクトの出番ではなくて?」
あやかさんが、パクティオーカードを取り出して見せびらかしながら言った。
確かに、『白薔薇の先触れ』ならば話を聞かせることも可能だろう。だが、それは対話の暴力ともいえる強引過ぎる手段だ。
「いえ、ここは正攻法を取ります。学園長先生にまずはプレゼンして、魔法世界の本国への推薦状をもらい、正式に魔法世界へ訪問して、ネームバリューのある有名人に陣頭指揮を執ってもらって、要人に順次プレゼンしていきます」
「有名人……」
皆の視線が、アルビレオ・イマに集まる。
「私ですか? しばらくはここを動けないのですが……」
アルビレオ・イマが、申し訳なさそうに言うが、私の答えは違った。
「有名人とは、サウザンドマスター、ナギ・スプリングフィールドの息子のことです。ネギくんの知名度を最大限活用させていただこうと思います。ネギくん、いかがですか?」
「僕ですか! えっと……もちろん、協力させてください!」
「すみませんね。お父さんのことで、忙しいのに……」
「いえ、魔法世界の救済は父も望んでいたようですし、それに、僕個人としても、魔法世界の崩壊を黙っては見ていられませんから」
ええ子や。
私はネギくんの聖人ぶりにまぶしいものを感じながら、話を続ける。
「それでは、私とネギくんの夏休みの予定は、魔法世界へ行くということで。ネギま部部員は、自由参加ですが……」
「もちろん行くわよ!」
「魔法世界! 当然行くよ!」
「魔法の国ですか……興味深いです」
部員達が、口々に参加を表明してくる。ふむ、行けない者はいないか。
「私は行けんぞ」
おっと、一人いたよ。
「ちょっと、エヴァちゃん。なんでよ」
神楽坂さんがキティちゃんの言葉に反応した。
だけど、ちょっと考えれば行けない理由は分かるんだよね。
「私は元賞金首の『
「あっ、そう言えば、エヴァちゃん、元賞金首だったわね!」
「分かったか。だから、私は魔法世界へは行けん」
ちょっと寂しそうに言うキティちゃん。
正直、私はキティちゃんが魔法社会の賞金首だっていうのに納得いっていないんだよね。
だって、元々は魔法世界の国、メガロメセンブリアが中世の頃に地球侵略しようとして、それを迎え撃ったせいでついた賞金なんだもの。賞金首どころか地球にとっては英雄じゃん。
悪いのは魔法世界なのに、キティちゃんが悪の魔法使い扱いされているのは、正直納得いかない。
なので、私は一つの手立てを打っている。
「魔法世界救済計画書の計画立案者に、エヴァンジェリン先生の名前を載せますからね」
「なに? 聞いていないぞ!」
「いや、だって、この計画、私とちう様とエヴァンジェリン先生の三人で練ったものですよね?」
「確かにそーだが、魔法世界人向けの計画書に私の名前を載せるバカがいるか!」
「いいんですよ。賞金首だからって、世界を救済してはいけないなんて法はないんです」
「私の名前なんぞ使ったら、向こうで話が通らなくなるではないか!」
「通して見せますよ。ねえ、ネギくん」
私がネギくんに話を振ると……。
「はい! もちろんです!」
ネギくんも力強く返事をしてくる。
ネギくん、キティちゃんのこと師匠として尊敬しているからね。
私とネギくんが臨時で手を組み、キティちゃん名誉回復計画を練り始めると、キティちゃんは顔を紅くして言う。
「くっ、私は魔法世界には行けんが、お目付役をつけるからな。あまり変なことを言うと、そいつから厳しく指導を入れてもらうよう言っておく」
「えっ、お目付役って、どなたをつけるんですか?」
『UQ HOLDER!』に出てくる不死者でも来るのかと思い、問い返してみると、キティちゃんは不敵に笑って言った。
「雪姫という、私の古い知り合いだ」
いや、それ、幻術使ったあなた本人でしょーが!