【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■51 火星に魔力を

◆120 魔剣鍛造

 

 話は逸れたが、その後も私は具体的なテラフォーミング方法を皆に説明した。

 

 テラフォーミング施設という建物を建て、その施設で惑星の大気成分と気温をコントロールする。

 極点の氷床が融け出すかを確認しつつ、他の宙域から氷の衛星を火星に引っ張ってくる。

 その氷衛星を反物質の爆発で水にして、火星の地表に海を作り出す。

 大気と温度と海が整ったら、微生物を散布して土壌を作り、キャットニップという植物を惑星全体に広げていく。等々。

 

 専門的な話が続いたため、皆は少々疲れたようだ。

 なので、プレゼンが終わってからは、みなでわいわいと騒ぎながらのティータイムに突入した。

 

 紅茶を飲み、茶菓子を楽しむ。軽食も用意されており、至れり尽くせりだ。

 そんな中、アルビレオ・イマとネギくんが二人で何やら楽しそうなことを話している。

 

「これが世界樹の木剣で、こちらがアンオブタニウムという特殊金属でできた剣です」

 

「ほうほう。これがネギ君の実戦用の剣ですか」

 

 私がプレゼントした剣をネギくんは、アルビレオ・イマに見せびらかしていた。

 ネギくん、他人に自慢話はしない人だが、アンティークの魔法具マニアだからか、道具を見せびらかすのは嫌いではないようなんだよね。

 

「これは、不思議な金属ですね。しかし、魔法的な効果は感じられませんか」

 

 アルビレオ・イマが、アンオブタニウムの剣を手に取りながら、しげしげと眺める。

 そんな彼に対し、ネギ君が言う。

 

「はい、僕はまだ初心者なので、あえてなんの効果も付与していない剣を貰ったんです」

 

「ふむ、しかし、それは修行を始めたての頃の話ですよね? 武道会では、すでにネギ君の戦闘スタイルは確立されているように見えた」

 

「そうなんでしょうか? まだまだだなって思いますが……」

 

「いえいえ、そんなことありませんよ。どうでしょうか、ネギ君。私にこの剣を預けてみる気は? 魔剣に仕上げて見せますよ」

 

「えっ、いいんですか?」

 

 ネギくんが、嬉しそうにアルビレオ・イマの言葉に食いつく。

 ふむ、魔剣か。そういえば、『UQ HOLDER!』の主人公、近衛刀太が持つ重力剣『黒棒』も、アルビレオ・イマの作だと言われていたね。

 ネギくんが、魔剣かぁ。そんな面白そうなこと、私が関わらないはずがないよね。

 

「待ってください、クウネルさん。その剣はネギくんが初心者の間に使うために与えたもの。今の彼になら、もっと良い剣を用意しますよ」

 

 私がそう言うと、アルビレオ・イマも面白そうに笑った。

 

「フフフ、これ以上の剣ですか。詳しく聞きましょうか」

 

「先ほども説明しましたとおり、私のスマホは別宇宙につながっています。そこに、超一流の鍛冶師が所属しています」

 

「ほう、一流を超えて超一流と来ましたか」

 

「ええ。彼の名は、『千子(せんじ)村正(むらまさ)』。時の幕府に妖刀と恐れられた村正を造り出した、村正一派の創始者です」

 

 セイバーのサーヴァント、千子村正。擬似サーヴァントで、『fate/stay night』の衛宮士郎の見た目を借りている、外見青年中身お爺ちゃんだ。

 

「なるほど、妖刀の……」

 

「まあ、別に彼が造る刀は妖刀ではないのですが。それくらい有名な刀鍛冶ってことです」

 

「フム……。ですが、その人物は刀鍛冶であって、ネギ君が使うような剣は造れないのでは?」

 

「それが、そうでもないようなのですよ。あちらの宇宙は西洋剣の使い手が多く、鍛冶師もそちらを造る者が多いようで。そんな鍛冶師同士の交流で、西洋剣の鍛造技術も学んだようでして……」

 

 サーヴァントは成長しないなんて話を聞いたこともある気がするが、うちの宇宙のサーヴァント達は日々着実に技量を上げ続けている。

 

「それはなんとも、面白い一品ができそうですね」

 

「でしょう?」

 

 アルビレオ・イマと私は、そこまで言葉を交わして互いにフフフと笑った。ネギくんは、そもそも村正を知らないのか話についてこられていない。

 ちなみに、ネギくんの肩に乗るカモさんは、なんとなくだが話が理解できたらしく……。

 

「リンネの嬢ちゃん。兄貴にあんまし妖しい剣はよこさないでくれよ」

 

「大丈夫ですよ。村正お爺ちゃんの刀は、妖刀ってわけじゃないですから」

 

「ならいいけどよう……」

 

 と、カモさんとやりとりをしていたら、こちらに近づいてくる者が。

 長瀬さんと桜咲さん、小太郎くんの三人だ。

 

「何やら、村正と聞こえたでござるが」

 

「妖刀のお話ですか?」

 

 長瀬さんと桜咲さんが、それぞれそんなことを言い出した。

 

「初代村正の霊に、ネギくんの剣を作ってもらおうかと」

 

 私がそう言うと、長瀬さんは驚き顔で言った。

 

「それはまた、壮大な話になったでござるなぁ」

 

「あの、村正は妖刀伝説で有名ですが、大丈夫なんでしょうか?」

 

 長瀬さんは純粋にネームバリューに驚いているだけという感じだが、桜咲さんはカモさんと同じように徳川幕府の妖刀の逸話が気になるようだ。

 

「大丈夫ですよ。この世界の村正が裏でどういう扱いかは知りませんが、うちの宇宙の村正お爺ちゃんは、純粋にすごい刀を打つ刀鍛冶でしかありませんから」

 

 私は念を押すように再度そう述べた。

 まあ、そのすごいの度合いがすごすぎるんだけどね。すごいから、幕府の人達は村正ファンで、それゆえに死ぬときは大抵、村正の刀を所持していたので妖刀扱いを受けたというオチである。

 

「そうですか……ネギ先生に合う剣ができるといいですね」

 

 桜咲さんは、安心したようにネギくんに向けてそう言った。

 

「ええなあ、ネギ。あーあ、また強なるんか」

 

 おっと、小太郎くんがふてくされた。別に彼も剣など使わないだろうが、仲のいいライバルが強力な武器を手にするとあって、うらやましくなったのだろう。子供らしい可愛い嫉妬だね。

 そんな小太郎くんに、私からちょっとした提案だ。

 

「小太郎くん、村正のような日本で知られた人ではないですが、腕のいい手甲職人も私のところに住んでいるんですよ。手甲、お一ついかがですか?」

 

「ホンマか! いるいる! ネギの剣を受け止められるくらい、ええ手甲頼むわ!」

 

 はい、ご注文入りましたー。

 小太郎くんの手甲は、王国所属の『手甲鍛冶師フィスティア』に注文しておくとしよう。

 

「では、ネギくんの剣と、小太郎くんの手甲を頼んでおきますね」

 

 私がそう言ってスマホを取り出すと、私をじっと見つめてくる者が。

 長瀬さんだ。

 

「……長瀬さん、残念ながら、うちのところにはサムライ用の刀を作る人は居ますけど、忍具を作る人はいないんですよ」

 

「そうでござるか……それは残念」

 

 本当に心底残念そうな長瀬さんを桜咲さんが慰めるのを横目で見つつ、私は『LINE』を起動。村正お爺ちゃんに連絡を取った。

 すると、注文を快く受けてくれ、さらに他の鍛冶師にも声をかけて最高の剣を打ってみせると言ってくれた。

 彼が声をかけると言った鍛冶師は、『鍛冶職人サンディー』と『魔剣鍛冶師ミスリア』の二名。

 

 サンディーは、刀剣全般を扱う剣匠(ソードスミス)。ソルジャーが使う長剣から、サムライが使う刀までなんでも造れる。今回、ネギくん専用のロングソードを造るに当たって、彼女に手助けを請うらしい。

 ミスリアは、魔術に精通した鍛冶師。聖剣・魔剣・宝剣を使うプリンセスと魔法剣士を相手する、魔剣修理の専門家だ。彼女の力を借りて、魔法剣士であるネギくんに相応しい魔剣を造り出すと言っていた。

 

 これは、なかなかすごい剣ができあがりそうだなぁ。

『千年戦争アイギス』の世界では、魔剣は神代にしか造られていなかったらしい。だが、鍛冶師達はゲーム中で倒した神獣の素材で、魔鎧と呼ぶべき装備を造り上げてきた。だから、彼らはきっと魔剣を造り上げるだろう。

 

 あ、そうだ。一つ、村正お爺ちゃんに連絡をしておかないと。

 

『ネギくんの剣の師匠はアルトリア陛下なので、必要な剣のサイズとかの詳しい話を聞いておいてくださいね』

 

 そう『LINE』を送ると、『どの王様だ』と返ってきた。うん、アルトリア顔、いっぱい居るからね、カルデア。

 

『セイバーでブリテンの王様経験者で宇宙とか関係なくてあなたが一番気になるアルトリア陛下です』

 

 とさらに返したら、既読になってから数分後に『分かった』とだけ短い答えが返ってきた。

 

 

 

◆121 来襲

 

 図書館島地下でのお茶会を終え、地上に帰ってきた私達。

 そのまま解散となり、私はネギくんとちう様を連れて、エヴァンジェリン邸の別荘へとやってきた。学園長先生へと提出するための新しい『ねこねこ文書』を作成するためだ。

 

 より計画を洗練させるために、三人で議論をしていると、キティちゃんが別荘の中に入ってきた。

 

「リンネ、お前に客だ」

 

 キティちゃんがそう言うと同時に、その客が姿を現す。

 巨大でふくよかなドレス姿の女性。狭間の魔女ダーナ様だ。

 

「邪魔しているよ。フム、こんな場所に籠もって、訓練でもしているのかと思ったら、お勉強かい?」

 

 ダーナ様が、私達のもとへとやってきて、テーブルの上を覗き込む。

 その迫力に、ネギくんはたじたじだ。

 

「あ、あのー、リンネさん、こちらの方は?」

 

 ネギくんに問われ、そういえば初対面だったな、と私は気づく。

 

「ネギくん、ちう様。こちら、狭間の魔女のダーナ様です。吸血鬼の真祖で、エヴァンジェリン先生の師匠を務めていた経歴を持つ物凄いお方です。敬うように」

 

師匠(マスター)の師匠……! はじめまして、ネギ・スプリングフィールドと言います!」

 

「……長谷川千雨です」

 

「ああ、あんたがね。私はダーナ。キティとは古い知り合いさ」

 

 そう言い合って自己紹介を互いに交わす。

 そして、ダーナ様は私達がテーブルの上に広げていた資料を目ざとく見つけて、私に向けて言った。

 

「火星の開拓とは、またずいぶん厄介な事情を抱えたもんだね」

 

「超鈴音さんの企みを阻止した以上、私達がやらねばならないことなので」

 

「そうかい? 魔法社会で悪いと言われていることを止めただけなんだろう? 悪者の事情まで背負い込むことは、ないんじゃないかねえ」

 

 ダーナ様がそう言うと、ネギくんが反応する。

 

「えっと、超さんは僕の生徒ですので、事情を背負うのも担任の役目だと思っています」

 

 すると、さらに横からちう様が言う。

 

「いや、担任だからってなんでもかんでも背負っていたら、潰れちまうぞ。他のやつに任せられる部分は、任せていけよ」

 

 そんなやりとりをダーナ様は面白そうに眺めている。

 そして、何かに気づいたのか、ダーナ様はちう様をまじまじと見つめた。

 

「あんた、面白い身体しているね。魔界の魔族に見せかけた、精神生命体……」

 

 ダーナ様に顔を覗き込まれちう様は一瞬ひるむが、すぐに真っ直ぐダーナ様を見つめ返し、顔の前に指を一本立てた。

 その指が、突然ルーン文字に分解されて、空間中に拡散する。

 その様子を見たダーナ様はニコリと笑った。その笑みにちう様は気圧されながら、彼女に向かって言う。

 

「こんな感じで、今の私は魔法文字をベースにしたプログラムで組まれていて、組んだ肉体には『闇の魔法』で引き出した魔界の魔族の力を宿らせています」

 

「フフフ、面白い子だね。キティ、この子はあんたの弟子かい」

 

 ダーナ様がちう様から目を外し、キティちゃんの方を見る。

 

「いや、そっちはただの魔法の生徒だ。弟子はこっちのぼーやだよ」

 

「ん、この子かい。こっちは、面白味がないね」

 

 ダーナ様に面白味がないと言われて、ショックを受けるネギくん。

 うん、まあネギくんは正統派な成長をしているからね。ちう様のようなキワモノではない。

 

 そして、ダーナ様は再びちう様へと向き直る。

 

「あんたはとびっきりだね。どれどれ……」

 

 ダーナ様はその場で座ったままのちう様の頭に手を乗せる。そして、腕に力を入れてそのままちう様を縦に押しつぶした。

 

「ひっ!」

 

 突然の惨劇に、ネギくんが引きつった悲鳴をあげる。

 だが、血や臓物が舞うようなことは起きず、ちう様は無数のルーン文字に分解された。

 そして、十数秒かけてその場に身体を再構築する。

 

「いやいや、いきなり何するんですか」

 

 何事もなかったように復活したちう様が、ダーナ様をにらみつける。

 だが、ダーナ様はどこ吹く風といった感じで答えた。

 

「再生時間はまあまあだね。でも、不死者として合格点はやれないよ」

 

 うーん、まあまあか。この復活時間は、『千年戦争アイギス』基準ではめちゃくちゃ速いんだけどなぁ。まあ、『UQ HOLDER!』基準では遅いのだが。

 

「千雨とか言ったね。あんた、私のもとで不死者として学ぶ気はないかい?」

 

「えっ、学ばせてくれるんですか? あ、いや、学生なので、長期間は無理ですね」

 

「それなら夏休みでいいよ」

 

「それなら……あー、今年の夏休みは八月初旬に、火星開拓事業の説明に魔法世界へ行くので、あまり時間は取れないですね」

 

「まあ、初回は一週間あれば十分だね。リンネと一緒に鍛えてあげるとするよ」

 

 あ、私も内定済みなんですね。別に構わないけれど。元々中等部卒業した後の長期休みに稽古をつけてもらおうと思っていたし。

 しかし、面倒見いいよね、この人。『UQ HOLEDR!』でも、主人公達や若き頃のキティちゃんを鍛えていたから、不死者相手には元々こういう人なんだろうけど。

 

 さて、ダーナ様は千雨さんに興味を向けていたが、キティちゃんは最初私の客と言っていたね。

 

「それで、何か私にご用事でしょうか」

 

 そう話を振ると、ダーナ様は私を見下ろしながら言う。

 

「例の本に興味が出てね。見せてもらおうじゃないか」

 

「あー……。エヴァンジェリン先生、ダーナ様に()()()を見せても構わないでしょうか?」

 

 私がキティちゃんの方を向いて確認を取ると、キティちゃんは渋い顔をして答える。

 

「仕方ないさ。複数の世界を観測しているダーナからすると、私達の動きは不審だろうし、私達がどういう行動原理で動いているかは教えておくのがいいのだろう」

 

 あー、キティちゃん、口ではそれらしいことを言っているが、この表情はあれだね。内心ではダーナ様に、自分の恋物語を読まれるのをすごく嫌がっているね。予言の書の存在をバラしてごめんよ、キティちゃん。でも、ダーナ様に嘘をつくのは危険と判断したんだ。

 

「確かに、この世界のキティは、他の世界と違ってずいぶんと活動的に見えるね」

 

 キティちゃんの顔を楽しげに眺めるダーナ様がそう言った。

 そんなやりとりを横で聞いていたネギくんは、理解が追いついていない表情だ。

 

「あのー、なんのお話でしょうか?」

 

「なんだいキティ。弟子だっていうのに、何も話していないのかい?」

 

「必要なことは話している」

 

「必要じゃないことも共有しておやりよ。かわいそうに」

 

 ダーナ様が、ネギくんの頭をよしよしと撫でた。すると、ネギくんはビクッと震えて怯える。

 

「あー、もう、ダーナ様。さっきいきなり人を潰したから、同じことされるんじゃないかって、ネギくんが怯えているじゃないですか」

 

 私がダーナ様に向けて言うと、ダーナ様はネギくんの頭からすぐさま手を離す。

 

「おっと、それは考えていなかった。ぼうや、大丈夫さ。私は、不死者以外にはそうそう乱暴しないよ」

 

「不死者にも優しくしてほしいんですけどねぇ……」

 

「優しくして成長するならそうするよ」

 

 そんなやりとりを終え、私はダーナ様に予言の書を見せることにした。このまま別荘を使わせてもらおう。

 

「では、ネギくん、ちう様。今日の議論はここまでということで。次回は、あやかさんも呼んで地球側の動きも詰めましょうか」

 

「はい、僕もいろいろ考えておこうと思います」

 

「魔法世界側の動きは、実際に魔法世界に向かってみないと予想できない感じだな……」

 

 ネギくんとちう様がそう言って、テーブルの上の資料をまとめ始めた。

 後片付けは二人に任せ、私はダーナ様を連れて別荘の奥へと向かう。

 

「『魔法先生ネギま!』全三十八巻。『UQ HOLDER!』全二十八巻。長丁場になりますが、例の神様スマホで読むことになります。大丈夫ですか?」

 

「目の性能を落とすから、心配しなくていいよ」

 

 ならよかった。

 そして、私は別荘の一室でソファに座り、隣を手の平で叩く。

 

「身体を小さくして隣に座ってください。私のスマホは、私でないと操作できないんです」

 

 そう、他の人がタッチしても、私のスマホは動かない。

 他の人が動かせるなら、椎名桜子大明神にガチャを回してもらうなりするんだけど、残念ながらそれはできないのだ。

 

「仕方ないね」

 

 ダーナ様は、その場で身体のサイズを縮め、スレンダーな美女へと変身した。

 

「おー、ダーナ様、2003年の地球基準だと、そっちの方が美人ですよ」

 

「フン、美ってのは自分の中に持つものさ。永遠の時を生きる私がいちいち周囲に迎合なんてしていたら、自分が定まらなくなってしまうよ」

 

 なるほど、そういう考えもあるのか。

 自分の中に持つ美こそ絶対って、アークスのアンドーとか賛同しそうな意見だなぁ。アンドー、前世の私が作ったキャラクターなのに、全然私と性格が似ていないんだよね。

 まあ、私に似ていたら『PSO2』のメインストーリーで女の子を助けるためにダークファルスになる末路なんて迎えていないだろうし、その辺は仕方ないんだろうけど。

 

 ともあれ、私はタブレットサイズに変えたスマホを取り出し、『魔法先生ネギま! 一巻』をダーナ様に見えるよう開いた。

 序盤はエロコメディだから、ダーナ様にどこが予言の書だとか言われそうで怖いね!

 

 

 

◆122 聖なるかな

 

 何度か食事と休憩を繰り返し、全巻読み終わった。

 そして、現在、別荘の中でディナーを取っている。

 食材を私が提供し、料理はキティちゃん直々に作った。配膳もキティちゃんと私で行ない、使用人の人形達は下げている。予言の書の話をするため、人形達に話を記録させないようにしているのだ。

 

「へえ、これが別宇宙の野菜かい」

 

 優雅にカトラリーを動かしながら、ダーナ様が興味深げに言った。

 

「ええ、この地球の平行宇宙ではない、完全な別宇宙の野菜です」

 

 私がスマホの中の惑星Cathから出したので、地球のそれとはだいぶ植生が違う野菜が使われている。肉も、牛や豚ではない特有の獣肉だ。

 

「地球のはるか遠くにある宇宙文明の食事風景を見たことがあるけど、異文化の料理に触れるのは楽しいもんだね」

 

 うわ、『UQ HOLDER!』最終話で存在を示唆された宇宙人、ダーナ様も関わり持ったことあるんだ。

 まあ、太陽系にはかつて古代宇宙文明があったというしね。もしくは、並行世界の地球人類が早期に宇宙進出をしたのかもしれない。

 

 そして、食事は進み、デザートまで食したところで、キティちゃんとダーナ様はお酒を飲み始めた。

 私は未成年なのでコーヒーだ。

 

「それで、予言の書はいかがでした?」

 

「『ネギの書』の結末はそんなに好きじゃないね。でも、『刀太の書』は良い終わり方じゃないか」

 

 私の問いに、ダーナ様は上機嫌でそう答えた。

 

「やはり、時間改変で未来から神楽坂明日菜を持ってくるというのは気に入りませんか」

 

「そうだね。時間改変を許したら、なんでもありになってしまうからね。その点では、『刀太の書』も中盤まではそんなに好きじゃないよ」

 

『UQ HOLDER!』には、世界を上書きするタイプの時間逆行能力者が味方サイドとして登場するからね。最終的に、その能力者は力を失うんだけど。

 

「人類は、真っ直ぐ前に進む姿がやはり美しい」

 

 ダーナ様の言葉に、私はあることを思った。

 真祖バアルが人類を愛しているように。真祖ニキティスが人類を愛しているように。

 

「ダーナ様は、人類を愛しているのですね」

 

 私がそう言うと、ダーナ様は口元の牙を覗かせて笑う。

 

「そりゃあそうさ。好きじゃないと、気に入った世界のコレクションなんてするかね」

 

 ダーナ様は無数の並行世界を観測し、その中でよい道筋を辿った人類史を本としてコレクションする。『UQ HOLDER!』の最後に描かれていた逸話だ。

 その行為の理由は、やはり他の真祖と同じように人類を愛しているから。

 

「しかし、残念ですが『UQ HOLDER!』の世界はコレクションできないでしょう」

 

 私がそう言うと、ダーナ様は無言で話の続きを待つ。

 

「『UQ HOLDER!』は『魔法先生ネギま!』の世界から派生した並行世界。しかし、『魔法先生ネギま!』の世界には、私が存在します」

 

「『刀太の書』に派生はさせないということかい?」

 

「はい。私達が進めている、火星開拓事業。その中には、『黄昏の姫御子』神楽坂明日菜さんを人柱にする計画は盛り込んでいません。私達は、最長でも五年以内に火星のテラフォーミングを完了させます」

 

『UQ HOLDER!』の世界は、『魔法先生ネギま!』で神楽坂明日菜が人柱になった後、彼女が未来からタイムマシンで戻ってこなかったIFの世界の話なのだ。

 

「なかなか言うじゃないか。その五年の間に、魔法世界の崩壊が起きたらどうするんだい?」

 

 ダーナ様の言葉はもっともだ。

 だが、私はその懸念も織り込み済みなんだよね。

 

 私は、ダーナ様に一言断ってスマホを取り出し、スマホの中から一つのアイテムを取り出す。

 それは、黄金に輝く酒杯。

 

「それは?」

 

 目を細めて酒杯を見るダーナ様の問いに、私は答える。

 

「これは聖杯です」

 

「聖杯ねぇ。私が知っている物とは違うようだけど……」

 

「もちろん、本物の聖杯ではありません。イシュト・カリン・オーテに見せても、こんな物は見たことがないと言われるでしょう。これは、聖杯の形を取った、純粋かつ高密度な魔力の塊です」

 

「なるほど、それを魔法世界に注ごうってわけかい」

 

「その通りです。私物なので、使わないに越したことはないのですが」

 

 そう言って、私は聖杯をスマホの中のカルデアに戻した。

 あんまり現世に出していたら、変な特異点が生まれそうだからね。カルデアにしまっておくのが一番だ。

 

「なるほど。確かにこの世界では、近衛刀太は生まれなさそうだ」

 

「はい。その代わり、私の手によっていろいろ人類の未来が変わると思いますので、楽しみにしていてください」

 

「フフ、そうするよ。あらためて、私はあんた達に余計な手出しはしないと言っておこうか」

 

「ありがとうございます」

 

 吸血鬼の真祖が不干渉宣言。これは、なかなか大きい成果だ。他の真祖がどう動くかだが、そちらは出たとこ勝負になるね。

 まあ、きっとなんとかなるさ。

 そんなことを思いながら、私は冷めてきたコーヒーを飲み干す。そして私は、ダーナ様とキティちゃんの酒宴に、遅くまで付き合うことになるのだった。

 


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