【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ 作:Leni
◆123 出席番号10番絡繰茶々丸
振替休日が終わり、授業が再開した。
お化け屋敷のセットが片付けられ、すっかり日常が戻ってきたという感じだ。
ネギくんも、一人の英語教師としてすっかり元通り……といってほしかったのだが、なんだか授業中に物憂げな表情をするようになった。あれは、『ねこねこ文書』のことを考えているな。魔法世界の崩壊を防ぐ。その重大さに、いろいろ思うところがあるのだろう。
しかし、十歳の少年が見せるその表情に、クラスのネギくんラブ勢が色めき立っているぞ。もっと年相応にしないと、そのうち食われるんじゃないか。
そんな感じの授業スタートから二日目の放課後。
別荘でネギくんが修行を終えた後に、『ねこねこ文書』の練り上げのためにあやかさんを交えて討論を重ねていた。
「ふう、少し休憩しませんこと? このままでは話が前に進みそうにないですわ」
火星開拓時の地球への対応について話し合っていると、あやかさんが休憩を提案してきた。
地球人なんて気にせず勝手に開拓しちゃえ派の私と、あらかじめ主要国に根回ししておくべき派のあやかさんで意見が食い違い、どうにも議論が行き詰まっているのだ。
いや、私も根回しは必要だとは思うのだが、あやかさんのやり方ではいつまで経っても火星開拓を開始できないのだ。聖杯を使わないと魔法世界の寿命には限りがあるし、あまり地球に関わり合いになりすぎても、邪魔する反魔法勢力が出てくる危険性があるんだよなぁ……。
まあ、その辺は休憩の後にあらためて話し合おう。
私は別荘にいる人形達に頼んでいた夕食を食べる旨を伝え、食堂に移動した。
放課後に二十四倍速の別荘の中に入ってから現在、内部時間で二日目だ。一日目は修行を行ない、二日目は『ねこねこ文書』の作成を行なっている。私は成長も老化も止まっているからいいが、付き合ってくれるあやかさんとネギくんはちょっと心配だよね。さっさと計画書を完成させてしまいたい。
そんなことを思いつつ、テーブル席に着く。
するとすぐに、キティちゃんの人形達によって食事が並べられていく。と、人形達に混ざって、茶々丸さんの姿が見えた。珍しい。普段はエヴァンジェリン邸でキティちゃんの世話をしているのに、今日はこっちか。
やがて配膳が終わり、私達は食事を開始する。
うーん、今日は東南アジアのエスニック料理か。人形達のレパートリー広いな……。
香辛料がふんだんに使われた食事を腹八分目になるまで食べ、私は食後のコーヒーを人形に頼む。すると、あやかさんとネギくんもコーヒーを頼んだ。ネギくんがコーヒーを飲むとは、ちょっと驚いた。
そして、コーヒーを食堂に運んで来てくれたのは、茶々丸さんだった。
「ありがとうございます、茶々丸さん」
「いえ……」
コーヒーを飲む間、茶々丸さんは私達の横に立ち続けていた。
どこか、そわそわしているようにも感じられる。うーん、ロボットがそわそわ?
「茶々丸さん、いかがされましたか?」
私はコーヒーカップをテーブルの上に置き、単刀直入に茶々丸さんへと尋ねた。
すると、茶々丸さんは私を見、そしてネギくん、あやかさんをそれぞれ見てから言った。
「今回は、大変申し訳ありませんでした」
茶々丸さんが、深々と頭を下げる。
突然の謝罪に、ネギくんが困惑顔になっている。
だが、あやかさんは事情を察したようで、茶々丸さんに向かって言う。
「それは、先日の麻帆良祭でのことですね?」
「はい。ネギ先生とみなさんとは、敵対をしてしまいました。その謝罪をと」
「そうですか……。その謝罪、しかと受け取りましたわ」
あやかさんが、私達を代表してそう言った。実は、現実時間での昨夜に女子寮で行なったネギま部の話し合いで、茶々丸さんと仲直りしようという話が出ていた。だからこれで、茶々丸さんの謝罪は私達ネギま部全員に受け入れられたことになる。
「しかし、なぜまたこのタイミングで謝罪を?」
私は、ちょっと気になったのでそんなことを茶々丸さんに尋ねていた。謝罪のタイミングとしては、後夜祭や、先日の図書館島地下での方が、ネギま部メンバーがそろっていて都合がよかったと思うのだが。
「悪いことをしたなら謝らなければならないと言われました」
「誰から?」
「教会の
って、ここで懺悔室かい!
実は別荘の外での今日、クラスで懺悔室のことが話題になっていたのだ。なんでも、夕映さんが懺悔室に悩みを打ち明けにいったところ、
茶々丸さんも、どうやらその懺悔室にお悩み相談へ行ってしまったらしい。
しかし、その懺悔室の神父、正体は神父ではないはずだ。教会で世話になっているクラスメートの春日美空が魔法で神父に扮しているだけのはず。『魔法先生ネギま!』でそういうエピソードがあった。
見事に茶々丸さんは騙された形になるが……実害はないので神父のことはどうでもいいか。
「茶々丸さんは、超さんに味方したことが悪いことだと思っているのですか?」
私は、茶々丸さんへそう確認をした。悪いことをしたなら謝らなければならない。それはつまり、茶々丸さんは自分の行動が悪事だと自覚しているわけで……。
「……分かりません。私は道具であり、使用者に従うことが正しいのだと考えていました。そして、優先順位として、使用者であるマスターよりも製作者の方が権限が上であるため、私は超鈴音とハカセがいる陣営を選びました」
なるほど。超さんが別れの際、茶々丸さんにわざわざ「おまえは自立した個体だ」なんて言った理由が分かったよ。
超さんがああ言うまで、茶々丸さんは一つの人格を持つ存在として自己を確立できていなかったのだ。彼女は、定められた優先順位に従って動くロボットでしかなかったのだ。
もしかして、ネギくんのキティちゃんへの弟子入り試験が存在しなくなったせいで、茶々丸さんが恋を知らずに情緒が育たなかったとかありえるかもしれない。
そしてさらに、茶々丸さんは言った。
「ですが……、マスターに敵対したことは悪いことだと思っています」
「なるほど。そっちの意味で謝りたかったんですね」
ドール契約を結んだ主に反逆する。確かに、悪事だろう。キティちゃん自身、従者に裏切られるようなことは何もしていないのだし。
「それなら、エヴァンジェリン先生に謝れば、十分ですよ。私達への謝罪は必要ありません。いえ、むしろ謝っては、超さんの行動を悪い行為だとあなたが認めることになってしまう」
「それは……しかし、皆さんに謝罪をせねば私は戻れません」
私の言葉を受け、茶々丸さんがそんなことを言った。
その真意が計れず、私は茶々丸さんに問い返す。
「戻るとは?」
「『異文化研究倶楽部』に……私はネギま部に所属し続けたいのだと思います」
「そうですか……確かに今回の戦いは、超さん対ネギま部の戦いでしたね。茶々丸さんはネギま部だったのに、超さん側についた。それなら確かに、ネギま部のメンバーには『敵対してごめんね』と謝って、戻るのが一番しっくりきますね」
「そうですか。では、やはり、他の皆さんにも謝る必要がありますね」
「ええ。ところで、茶々丸さん、私からも一つ謝罪が」
私がそう言うと、茶々丸さんは不思議そうに「なんでしょうか?」と問うてくる。
そんな茶々丸さんに、私は頭を下げた。
「麻帆良祭で超さんや茶々丸さんが、ネギま部と対立するはめになってごめんなさい」
「そんな……頭を上げてください。先に敵対の意思を示したのは、我々の方で……」
「いえ、私は謝らなければならないのですよ。実は、超さんが今回の企みをしていたことは、前々から気づいていました。その証拠に、超さんのロボット兵器にコンピュータウィルスを仕込んでいたでしょう?」
「……確かに、あのウィルスはいつ仕込まれたものかと、疑問を持っていました」
「ええ、麻帆良祭の前にすでに見つけていたのですよ。私は超さんの行動に先回りしていた。超さんがやりたいことをおおよそ理解できていた。なのに、超さんを説得して止めることを怠った。『ねこねこ文書』をもっと早く見せることもできたのに、しなかった。なので、私は茶々丸さんに謝罪します。ごめんなさい」
頭をさらに深々と下げると、茶々丸さんはしばし黙り、そして言った。
「……生みの親である超鈴音の代わりに、謝罪を受け入れます」
茶々丸さんの言葉を受け、私はゆっくりと頭を上げた。
許すとの言葉はもらっていない。許すかどうかは、茶々丸さんが決めることじゃないから。だけど、謝罪を受け入れてはもらった。だから私は、茶々丸さんとの関係をここからやり直すことができると思った。
「茶々丸さん、僕は――」
「ネギ先生。先生は謝る必要ないですわよ」
立ち上がり何かを言いかけるネギくんに、あやかさんは横からそんなことを言った。
「あやかさん!?」
ネギくんが、目を見開いてあやかさんの方へ振り返る。
「ネギ先生は、信念をもって超さんの企みを止めました。だというのに、何を謝るというのです。止めた後に謝るくらいなら、最初から止めなければいいのですわ。ネギ先生も、超さんとの戦いの時は自分を間違っていたとは思っていなかったはず。ネギ先生は、『敵対してごめんね』は言わなくていいのですよ」
「それは……」
「もちろんリンネさんの先ほどの謝罪も、超さんの企みを邪魔したことについては含めていないでしょう。今回の戦いは、どちらが良い悪いというものではなかったのです。茶々丸さんが謝ったのは、ネギま部を裏切ったから。リンネさんが謝ったのは、おそらくは、茶々丸さんが裏切らざるを得ない状況を作ってしまったからです」
うん、あやかさんの言っていることは正しい。
今回の戦いは、正義と正義……いや、信念と信念のぶつかり合いだった。そこに善悪は関係ない。
それが飲み込めないのか、ネギくんは煮え切らない顔をして席へと座りなおした。
「ネギ先生。超さんを止めたことに負い目があるなら、彼女のためにも『ねこねこ文書』をよいものにしましょう。火星を救うこと。それが、彼女の望みだったのでしょうから」
「……そうですね」
あやかさんの諭す言葉で、場は上手くまとまった。
あやかさんはすごいなぁ。私はこういう説得フェーズは上手くこなせそうにないよ。
なお、この後キティちゃんに謝った茶々丸さんだが、あっさりと許しを得た。
キティちゃん曰く、お前はまだ生まれたばかりの赤子のようなもの、だそうだ。幼い子供の過ちは一度なら許すという態度は、キティちゃんらしいよね。彼女、女子供に甘いから。
こうして、一人の自立した存在として茶々丸さんは、ようやくスタートラインに立った。
ここからどう成長していくのかは……今後の楽しみにしておくことにしようか。
◆124 麻帆良学園学園長近衛近右衛門
討論に討論を重ね、麻帆良学園に提出するための『ねこねこ文書』あらため『ねこねこ計画書』が完成した。
そして、六月三十日、私はネギくん、キティちゃん、あやかさんの連名で学園長先生にアポを取り、学園長室で『ねこねこ計画書』を提出した。
まずは概要をまとめた要旨を見てもらい、何を提出したのかをこの場で確認してもらう。
「……ふーむ、超鈴音くんの一件がようやく収まったと思ったら、このような物が飛び出してくるとはの。責任者は辛いのう……」
セリフはおどけているが、表情は真面目そのものの学園長先生。
代表者として計画書を提出したネギくんは、緊張した顔でその学園長を見ている。
「ふぉっふぉっふぉ、ネギ先生。そう不安がらんでもよいよ。突っ返すようなことはせん。だが、いくつか確認させてもらってよいかの」
学園長先生のその言葉に、ネギ先生はコクコクとうなずく。緊張して声が出ないようだ。
「刻詠リンネ君じゃったな。確か数年前に、エヴァンジェリンに師事をすると言い出した子の一人だったと記憶しておるが……?」
「はい、そうです。私と、同じクラスの長谷川千雨さんですね」
学園長先生の問いに、素直にそう答える私。
「ウム。それが実は、固有能力を持っていたというわけじゃな。その能力は、いつから?」
「生まれつき所有していました」
「なるほどなるほど。実はの、刻詠君の周囲に、見慣れない外国人がよくいるとの報告が昔からあってのう。その外国人が、この別宇宙からの使者ということでよいのじゃな?」
「はい。私が幼少期から呼び出して、特殊技能を学ぶために師事していました」
「フム。ちょいと待っていておくれ」
学園長先生は、その場でノートパソコンを開き何かを操作すると、ノートパソコンの画面をこちらに見えるように差し出してくる。
「この写真に写っている方がそうかの?」
ノートパソコンの画面には、一つの画像が表示されていた。
それは、正拳突きをする幼い私と、それを見守る『武王姫アリス』だ。画像の場所は、おそらく私の実家の近くにある公園だろう。
「そうですね。私の格闘術の師匠をしていただいている、アリスという別宇宙の王女様です」
「フムフム。これは、他の魔法先生へのよい証拠となりそうじゃな」
ああ、学園長先生は、この計画に乗るつもりなのか。すでに、他の魔法先生達をどう説得するかに考えが移っているっぽい。
提案メンバーにキティちゃんがいたのが、信憑性を与えたのかな?
「して、実際に人を呼び出すところを見せてもらえるかの? そうじゃな、計画の
「分かりました。少々お待ちください」
私は、スマホを手元に呼び出し、『LINE』で連絡を取る。
あらかじめ何人かに呼び出すかもと言っていたので、返事はすぐだ。
「では、呼び出します」
「うむ……」
そうして出てきたのは、独特の民族衣装に身を包んだ、一匹の子猫だ。
人の半分もない身長で、直立二足歩行。生まれてすぐから精力的に活動が可能な、スーパー種族。それでいて、彼らは自らを子猫と自称する。
「これはこれは、遠くの地までよくぞいらっしゃいましたな」
「一瞬で来られるから、遠くまで来たって感じはないけどにゃ。よろしくにゃ」
子猫の姿を見て、学園長先生は目を細めて笑みを浮かべる。
まあ可愛いのは分かるけど、その子めちゃくちゃ頭が良い科学者だから、あなどっちゃダメだよ。
「フム。ちょいと魔法をかけさせてもらってよいかの? ちょっとした探査の魔法なのじゃが」
「構わないにゃ。幻術のたぐいではないと存分に調べるといいにゃ」
「ウム。では、失礼して」
学園長先生はデスクから小さな杖を取り出し、それを子猫に向けて振る。
すると、子猫の周囲に光の粒が舞う。これは……ディテクト・マジックのたぐいか。
「妖魔や妖精ではないようじゃな。確かに普通の生物だのう。二足歩行の猫、か……別宇宙で進化した生物と言われると、納得できるものがあるのう」
そう言いながら、学園長先生は杖を仕舞い、椅子の背もたれに背を預けて大きく息をついた。
「計画書、読ませてもらおう。しかしじゃな、信じぬ者も多く出ると思う。関東魔法協会理事の儂としても、麻帆良の魔法使い達が納得していない案件を本国には上げられぬ」
「そうだろうな。事が事だ」
キティちゃんが、面白くなさそうな声でそう言い放った。
「ウム。そこで、何かインパクトのある証拠の提示を考えておいてもらえぬか? 子猫の方々の科学力が優れているのなら、何かすごい実験をするなり……」
ああ、それなら、ちゃんと考えてある。
「宇宙船を披露するのはいかがでしょうか。何もないところから宇宙船を取り出して、内覧してもらうんです」
私は学園長先生に向けてそう言うと、学園長先生は面白そうに笑って、言った。
「それはよいな。さすがに宇宙まで飛ばすわけにもいかんが、インパクトは十分じゃろ」
いやはや、話の分かるトップで嬉しいよ。
そして、確かに受理をしたとの学園長先生の言葉を受け、子猫をスマホの中に戻してから私達は学園長室を退室した。
扉を閉め廊下に出た私達は、笑顔で頷き合い、ハイタッチを交わした。計画、一歩前進である。