【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

53 / 98
■53 空飛ぶオウム貝

◆125 武器迷彩

 

 麻帆良の魔法先生達に『ねこねこ計画書』が配付(はいふ)された。

 反応は、困惑、疑惑、驚愕、歓喜と様々らしく、信憑性を巡って連日大騒ぎらしい。

 中にはネギくんや私へ確認を取りに来る人も居て、私は子猫を呼び出して見せてから、「お披露目をお待ちください」と言ってお帰り願うことになった。

 

 何度も呼び出すことになった子猫には、おわびにまたたびを用意してあげた。

 子猫はキャットニップという植物を食料にする生物だが、猫つながりでまたたびも食べられるらしい。「持ち帰りたいにゃ」と言っていたが、スマホの中には物は持ち込めないので、現世限定グルメと化している。

 

 そんなこんなで、『ねこねこ計画書』の内容は周知され、宇宙船のお披露目会は七月四日金曜日に行なわれることになった。

 計画書を提出したのが六月三十日なのでかなり急な予定だが、ネギま部が夏休みに魔法世界を訪問するスケジュールを考えると巻きでいく必要があるんだよね。それに、期末テストが迫っているので、魔法先生も忙しくなる。

 

 そう、期末テストである。

 今回もネギま部では勉強会を実施することにしており、テスト二週間前の今から修行の合間を縫って何度か行なわれていた。

 期末テストで赤点を取ると夏休み中補習となるので、修行をこなしてから魔法世界に挑みたいネギま部メンバーとしては、なんとしてでも良い点を取らなければならなかった。

 

「元バカレンジャーのうちピンク以外はネギま部だから、今回も学年一位を狙えそうだな」

 

 水曜日の放課後を使って行なわれた、別荘での修行後の勉強会。その休憩タイムでの雑談で、ちう様がそんなことを言った。

 ちなみに〝元〟バカレンジャーなのは、リーダーのバカブラックだった夕映さんがこの前の中間テストでバカレンジャーを脱して、優等生の仲間入りを果たしたからである。

 

「しかし、超さんの抜けた穴は大きいですわよ」

 

 そう言ったあやかさんも、優等生の一人。彼女が言った通り、超さんは常に全教科満点の天才児だった。そのため、クラス全体の平均点を競い合う学年クラス順位争いでは、学年末、一学期中間と続けて一位を取ってきた3年A組が、王座から陥落する危機と言えた。

 

「そこはあれだ。新入部員の楓の躍進に期待だな」

 

 ちう様が、この前の麻帆良祭で新たに仲間に加わった長瀬楓さんへと話を振る。彼女は元バカレンジャーの一員、バカブルーであった。

 

「さすがの拙者も、ここまで手厚く教えられれば、それなりには点数を取れるはずでござるよ」

 

「言ったな? 期待してるぞ」

 

「むむむ、期待されても困るでござる」

 

 そんな雑談を終え、再び勉強を再開。合計で二時間ほど勉強を終えると、就寝時間となった。

 別荘は外の二十四倍の速さで時間が流れるが、内部で二十四時間経たないと外に出られないという制約がある。なので、中に入ったら就寝する必要があるのだ。

 

 大部屋に布団を敷き、ネギま部一同で布団に寝転がる。うん、毎度、この時間はワクワクしてくるよね。

 みんなも、まだまだ眠る気はないのか、パジャマ姿のままワイワイと雑談に興じている。

 

 そんな中、私は隣の布団のちう様に話しかける。

 

「ちう様、先日、『力の王笏』の外観の話をしましたよね?」

 

「ん? ああ、アタッチメントをつけるかどうかって話か」

 

 ちう様のアーティファクトの外観はあまりにも子供向けすぎるので、どうにか見た目を変えられないかという話を以前した。

 その話を『LINE』でアンドーとの雑談中に出したところ、アンドーからある提案があった。

 

「スマホの中の技術で、『武器迷彩』というのがあるんです。武器の性能に一切影響を与えず、見た目だけ変更するというものです」

 

「へえ、それで『力の王笏』の見た目を変えるってか」

 

 そういうことだ。

 とりあえず、試してもらおうということで、私はアンドーから借りてきた『武器迷彩』をスマホから取り出した。

 

「これを装着してみてください」

 

 そう言って、私は一枚のカードをちう様に渡す。

 

「装着……?」

 

「アークス製の端末持っていますよね? そこからメニューを開いて――」

 

 ちう様に『武器迷彩』の装着方法を教え、カードをちう様が持つアークス製携帯端末にセットした。

 アークスならば端末の操作なしで身体にセットできるのだが、ちう様はフォトンを扱える身体ではないため、端末経由での装着となった。

 

「では、『力の王笏』を呼び出してください」

 

「おう。アデアット」

 

 いつも通りの『力の王笏』がちう様の手の中に出現する。

 

「次に、端末に『力の王笏』を登録します」

 

「ええと……よし、できた」

 

 すると、ちう様の手の『力の王笏』が一瞬光り、その姿を変える。

 その見た目はと言うと……。

 

「魔法の杖カレイドステッキの『*マジカルルビー』です」

 

「いや、これ、ハートが星になっただけで、方向性変わってねーから!」

 

「はい、的確なツッコミをありがとうございます。これはサンプルですから、いろいろ試していきましょう」

 

 私はそう言って、布団の上に『武器迷彩』のカードを並べた。

 そのカードの表面には武器の外観がしっかりと描かれており、セットしなくても見た目を確認することができる。

 さっきちう様は裏面を上にして持っていたから、ツッコミを入れるまでその外観に気づかなかったというわけだ。

 

「千雨ちゃん、私にも見せてー!」

 

 と、それまで興味津々で私達の動向を見守っていた神楽坂さんが近寄ってくると、それに釣られて他のネギま部メンバーもカードを手に取ってワイワイと騒ぎ始めた。

 

「これなんてすごいわよ。血の付いたモーニングスター!」

 

 水無瀬さんが手に取ったのは、『*ジラドメテオ』だね。持っていたら補導待ったなしの一品である。いや、補導を通り越して逮捕かな。

 

「これって、リンネさんが持っているスマホってやつですか?」

 

 おっと、相坂さん惜しい。それは『*携帯端末型CAD』。『PSO2』が『魔法科高校の劣等生』とのコラボしていたときに入手した、科学的な魔法の杖の一種だね。復刻されないコラボガチャ産なうえに初期のコラボということで、希少性が高くてゲーム内では高額で取引されていた記憶がある。

 

「これとか思いっきり剣ですよね。格好良いなー」

 

 女子の中に混じっても平然としているネギくんが手に取ったのは、『*ガラティーン』。どこか子供の玩具っぽいデザインのロングソードだ。DX(デラックス)ガラティーンとか呼びたくなる見た目である。

 

「あはは、なにこれ。抱き枕じゃん」

 

 早乙女さんのは……これはお目が高い。『*ジェネ・マクラ』ではないですか。ジェネとは、『PSO2es』のメインヒロインの少女のこと。何種類もキャラクターグッズ(主にフィギュア)をリリースしていたため、コアなオタク層なら『PSO2es』を知らなくても見た目だけなら知っていたという、ある意味でシリーズ一番の人気キャラだ。

 

『あのー、ちう様』

 

『あまり変な見た目は勘弁してもらえないでしょうか』

 

『抱き枕とか嫌ですー!』

 

 皆で騒いでいると、『力の王笏』の電子精霊から泣きが入る。

 

「心配すんな。私が持つんだから変なのにはしねーって」

 

『ちう様ー! 信じていました!』

 

『我々としては、一番最初の『*マジカルルビー』がお勧めです!』

 

「いや、十分変なんだよ! 私の年齢考えろ!」

 

 マジカルルビーは推定高校生の遠坂凛も持っていたから、大丈夫だよ?

 

 その後、ネギま部一同による騒がしい話し合いは続き、最終的にあやかさんが告げた「警察のご厄介にならないデザイン」という基準で、『*クエンティンガロテ』が選ばれた。

 翼が生えた聖なる杖という感じであり、大人向け魔法の杖とでも呼ぶべきそのデザインには、電子精霊達も満足げ。

 でも、この派手なデザインに、普通の私服は合わないと思うなぁ……。

 

「オシャレねー。私もたまにはアーティファクトの見た目を変えて気分転換してみたいわね」

 

 神楽坂さんが私の方をチラチラと見ながら、そんなことを言う。

 だが、その考えは甘いよ。

 

「近接武器に『武器迷彩』を適用するのはお勧めできませんよ」

 

「そうなの?」

 

「ええ。これ、見た目上のリーチが変わるのに、実際のリーチは変わらないんですよ。相手の目測を誤らせることに使えるんですが、自分の目測も誤りますから。ネギくんの刀身が見えなくなる風の魔法をもっとややこしくする感じです」

 

「あー、それは、私には向いてなさそう」

 

 神楽坂さんは私の言葉で諦めたのか、すぐに引き下がる。

 

「そもそも、みなさんのアーティファクトはちゃんとした見た目ですから。無理に誤魔化す必要はないでしょうね」

 

「私は最初、ハリセンだったけどねー」

 

 ハリセン形態があることは、強みだと私は思うけどね。

 なにせ、相手を殺傷することなく殴りつけることができる。剣形態だと峰打ちでも金属の塊だから、結構危ないんだよね。

 そんなことを神楽坂さんに説明すると、アーティファクトを褒められたと思ったのか、恥ずかしそうにしていた。

 

 そんな夜の一時を過ごしつつ、時間は着実に進んでいく。

 そして、とうとう宇宙船披露会の日が訪れる。

 

 

 

◆126 召喚

 

 七月四日、夕刻。

 麻帆良学園都市の郊外にて、魔法先生達が集まっていた。

 ここは、麻帆良祭の後夜祭でキャンプファイヤーをやった場所だ。宇宙船を呼び出すのに際して、広さは十分なようだ。

 

「航空法とか宇宙法とかに引っかかると怖いので勝手に空は飛ばせませんが、地面から浮かすくらいはいいでしょうかね。地面に大質量を直置きしたら、草地が大変なことになりそうですし」

 

「浮いた状態で呼び出せるのかの?」

 

「小型機での実験では問題ありませんでした」

 

 皆の前で立つ私と学園長先生は、最後のすり合わせを行なった。

 ちなみにネギま部メンバーも今回の披露会にはやってきているが、一般の魔法生徒の姿はいない。魔法世界の崩壊はトップシークレットだからだ。

 そして、学園長先生との確認の会話も終わり、私は魔法先生達の前で声を張り上げる。

 

「本日はお集まりいただきありがとうございます。これより、惑星開拓船『スペース・ノーチラス』のお披露目会を始めさせていただきます」

 

 そう挨拶をして、私は本日の要件と、『ねこねこ計画書』についての概略を一分程度話した。

 

「では、早速、宇宙船を呼び出していきましょう。まずは、都市部から見えないよう、ここ一帯を結界で区切ります。結界の魔法を張るのは、こちらの子猫さん達です」

 

 私は皆の前でスマホを高々と掲げると、四匹の子猫を呼び出した。以前、登校地獄の呪い解除にも参加した、魔法研究担当の子猫達だ。

 杖を持った可愛らしい子猫が出現すると、魔法先生達から「おお」とざわめきが走る。

 

「それでは、結界を張ってもらいます」

 

 子猫達が呪文を唱えると、魔法陣が地面に輝き、郊外の広範囲が結界で区切られる。

 これで、外からは肉眼でも機械でもここらをうかがうことはできなくなった。

 

 準備も終わったので、私は『LINE』で『定刻通り召喚します』と送る。

 すると、相手から『了解』と短く返ってきた。

 

「では、皆様。十八時十五分ちょうどに『スペース・ノーチラス』号を召喚します」

 

 そう言って、私はスマホの時計を確認する。

 やがて時間となり、私はスマホの中の宇宙から、『スペース・ノーチラス』号を呼び出すよう念じた。

 すると、私の中から何かが失われることもなく、すんなり大質量の宇宙船が後方の空間へ出現した。特にこれといったエフェクトもなしにだ。

 

 全長約五百メートルの大型船。カラーリングは青。運用目的は、主に惑星間の資材・人員輸送用だ。

 

 その巨大な姿に、魔法先生達から歓声があがる。うん、見ているだけでワクワクしてくるよね。

 しかも、なんというか巨大な物体が現れて空気の流れが変わったのか、威圧感というか存在感みたいなものも感じられるし、幻術と疑う者はそういないだろう。

 

「さて、今回は実際に宇宙船の中に入り、内覧を行ないたいと思います。とは言いましても、この人数ですので貨物庫までとして、艦橋や機関室は代表者のみの内覧とさせていただきます」

 

 私がそう言うと、魔法先生の一部から明らかに落胆する声があがった。全員に見せてやりたいが、ネギま部も合わせると二十人を超える。その全員を案内となると、班分けして回って何時に終わるか分からない。

 なので、魔法先生の中から代表者を選出して、その人達に見てもらうこととなっている。

 

「では、宇宙船の中へと向かいましょうか」

 

 私がそう言うと、船の中からモニタリングしていたのか、入口が開いてタラップが降りてくる。

 そして、入口から水兵服を身にまとい、頭にターバンを巻いた一人の少年が出てきた。

 

 少年は、草地に降りて、皆に挨拶した。

 

「どうもー。案内役のネモ・マリーンだよ! 貨物庫に案内するから、みんな一列になってね!」

 

 宇宙船の乗組員としては若すぎるその姿に皆が面を食らうが、ネモ・マリーンが「早く早く」と急かし始める。

 すると、ネギま部部員達が率先して列を形成し、ネモ・マリーンの案内で『スペース・ノーチラス』に乗船した。

 先頭は、もちろん私と学園長先生だ。

 

「『スペース・ノーチラス』号へようこそー」

 

 すると、同じ容姿をした複数人のネモ・マリーンが私達を迎え入れてくれた。

 

「ふぉ!? 六つ子とかかの?」

 

 学園長先生、残念。『おそ松くん』じゃないんだよね。

 

「彼らは、精度が極めて高い分身ですね。分身といっても、それぞれが独立した思考を持っていて、個性も分かれています」

 

「ふむ、分身か。確かに精度が高いのか、見てもそれとは分からんの」

 

 そして、ネモ・マリーン達の案内で、貨物庫へと移動する。

 貨物庫の中には、すでにいくつか荷物が積みこまれていた。主に、乗組員が船内で活動するための生活物資だ。食料とか衣服とかだね。

 

「みんな来たね。ここが貨物庫。でも、こんなところに入っただけじゃつまらないよね? だから、特別に無重力体験をしてもらいまーす。いえーい」

 

 ネモ・マリーンが唐突にそんなことを言い出す。でも大丈夫。これはちゃんと事前に用意していた催し物だから。

 

「『スペース・ノーチラス』の船内は、フォトンで重力制御がされているんだ。普段は地球と同じ重力にしてあるけど、操作すれば、こんなふうに……」

 

 すると、だんだんと身体が軽くなっていき、やがて私の身体は重力を感じ取れなくなっていた。

 

「無重力初体験だね! どうかなー? あ、移動しやすいようにポールを出してくれるって」

 

 ネモ・マリーンがそういうと、床からフォトンでできたポールが複数生えてきた。

 突然の無重力であわてる皆が、あわあわとポールにつかまって体勢を整えようとする。

 

「それじゃあ、代表者の人が内覧をしている間に、みんなで無重力レクリエーションでもしようか。あっ、スカートの人はごめんねー」

 

「代表者の人はこっちに来てねー」

 

 私は初めて体験する無重力に身を任せながら、案内役のネモ・マリーンの先導で貨物庫を出た。

 代表者の魔法先生達が手足をバタつかせる中、スイスイと移動していた学園長先生がとても印象的だった。

 




※武器迷彩がカード型で端末に装着するという描写は、当作品のオリジナル設定です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。