【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■54 惑星開拓船スペース・ノーチラス

◆127 キャプテン・ネモ

 

 貨物庫から出ると、重力は徐々に元通りになっていった。

 そして、ネモ・マリーンや乗組員の子猫達とすれ違いつつ、艦橋へと移動する。

 その艦橋には、二人の人物が待ち受けていた。

 

 一人は、ネモ・マリーンと同じ顔をした、ターバンに白い船長服の少年。

 もう一人は、紫色の長髪をお下げにした、ターバンの少年よりもやや年かさの少女。

 

 その二人を私は学園長先生と代表者達に紹介する。

 

「こちら、船長の『キャプテン・ネモ』と、技術顧問の『シオン』教授です」

 

「よろしく」

 

「どうも。シオン・エルトナム・ソカリスです。魔法の学徒達を私達『スペース・ノーチラス』号一同は歓迎いたします」

 

 ターバンの少年、キャプテン・ネモが短く言い放ち、対照的に少女、シオン教授が丁寧に挨拶をする。

 まあ、キャプテン・ネモは人見知りだからね。ここは、私が簡単に説明をしようか。

 

「この艦橋では、宇宙船の操作全般を行ないます。高度にコンピュータ制御されているため、必要な人員はそれほど多くはありません」

 

 私がそう言うと、シオン教授が口を開く。

 

「『スペース・ノーチラス』は優秀ですから、その気になれば十人程度で運用が可能です。乗組員が百人単位で必要な地球の大型船とは技術が違いますね」

 

 はいはい、シオン教授も並行世界の地球人にマウント取ろうとしないの。そもそも、魔法世界には地球より高度な技術で作られた飛空船が存在しているんだから、魔法使い相手に船舶との比較をしても、意味ないよ。

 

「ふぉふぉふぉ、ノーチラスにキャプテン・ネモとは、なかなかにユーモラスなネーミングじゃな。地球の文化に合わせてくれたのかな?」

 

 学園長先生が、目を細めてシオン教授の話をスルーし、そんなことを言った。

 

「うーん、そうとも限らないんですよ。くだんの別宇宙には並行世界の地球からの移住者もいますので」

 

 私がそう言うと、学園長先生はヒゲを撫でながら「そういえばそうじゃったの」とつぶやく。

 

「資料にもそう書かれておったのう。リンネ君。船長と教授も、並行世界の地球出身かね?」

 

「そうなります」

 

「ふむ、ということは、我々と同じ地球人類ということじゃな」

 

 それは違うんだよなぁ。

 

 ちなみにキャプテン・ネモは小説『海底二万里』に登場する、ネモ船長本人がベースになったサーヴァントだ。いわば架空の存在。

 キャプテン・ネモの正体である幻霊についてとか、学園長先生達に説明するのがちょっと大変そうだなぁ。よし、黙っておこう。

 

 なお、この『魔法先生ネギま!』の世界には『海底二万里』だとか『シャーロック・ホームズシリーズ』だとか『ジキル博士とハイド氏』だとかは普通に出版されている。

 それでいて、『月姫』や『空の境界』は存在しない。おそらく『Fate/stay night』も発売されないだろう。そして、セガ・マークⅢやドリームキャストは存在するが、『ファンタシースター』や『ファンタシースターオンライン』はリリースされていない。

 

 なんとも、神様の介入を感じてしまうね。まあ、別宇宙に住む存在は全員創作物の存在だと相手に分かったら、それはそれで説明に苦労しそうなので、助かるのだが。

 ちなみに、スマホの中に住む人々は、自分達が本来の宇宙から複製された存在だという自覚がある。それでいて、精神に異常をきたしていないのだから、神様の力ってとんでもないよね。

 

「我々が住む宇宙には、地球人類と同じ容姿で、中身は全く別の種族という存在もいます。かくいう私も、地球出身ですが純粋な人類とは言いがたいのですよ」

 

 そんなことを言い出したこのシオン教授は、『Fate/Grand Order』の登場キャラクターだ。しかし、私がガチャで出したりイベントで手に入れたりしたサーヴァントではない。

 彼女は、スマホの中の宇宙に神様が用意したカルデアベースに最初から住み着いていた人員だ。

 

 スマホの中の宇宙には、ガチャやイベントで入手したキャラクター以外にも、人間が多数存在する。

 王国には国民がいるし、カルデアにはスタッフがいるし、オラクル船団のアークスシップ一隻一隻にそれぞれ百万単位で人が住んでいるし、惑星Yarnにはエルジマルト人が六十八億人定住している。

 

 ただ、ゲームのガチャ産やイベント産のキャラクターが不滅の存在だとすると、彼ら一般人達は定命の存在。歳は取るし、死ぬし、新たに生まれてくることすらある。

 

 私が持つ能力の本質は、ゲームに登場した力を自由自在に扱うこと。そのためか、ガチャやイベントで手に入れて〝所持している〟キャラクターは、いつでも呼び出せるように不滅の存在になっている。しかし、シナリオテキスト上に存在しただけのキャラクターまでもが不滅というわけにはいかないようだ。

 ただ、定命の人間も子供は作れるため、力は子孫に受け継がれていく。

 スマホの中の文明が続く限り、私はその力を現世へ自由自在に呼び出すことができるだろう。

 

 シオン教授も、そんな一般人枠の一人なのだが……彼女、結構なお歳なのに、見た目は妙齢の少女である。見た目詐欺だ。彼女が言ったとおり、純粋な人類じゃないからだね。

 ちなみに、彼女の呼称が教授なのは、カルデアの隣にある大学の本物の教授様だからだ。

 この大学は私が生まれてから十五年の間に発足して、子猫達の手によって建築された。ムジーク神秘大学という名称である。学長はゴルドルフ元所長。

 

「なるほどのう。見た目が似ていても、別の存在であると」

 

「ええ。価値観はそこまで大きくは変わらないでしょうが、種としての交わりはできないでしょう。今後、二つの宇宙が交流を続けるとして、子孫をどうするかは考慮に入れる必要が出るでしょうね。……失礼、『スペース・ノーチラス』から話が逸れましたね」

 

 と、そこでようやくシオン教授の話が艦橋についてへと戻り、どう操作するか、どう運用するかの説明がされていく。

 

「この船の主な任務は、火星への物資、機材、人員の輸送です。ワープ航法を用いて、地球と火星を短期間で何往復もできます」

 

「ふうむ、ワープのう……」

 

 シオン教授が口にしたワープ航法という単語に、魔法先生達が困惑気味だ。魔法には転移魔法があるが、宇宙規模の転移魔法というのは使われることがない。実際にやればできることは『UQ HOLDER!』を読めば分かることだが、今の時代では研究がされていないのかもしれないね。

 

「このワープですが、その気になれば別の銀河にすら跳躍可能です。もっとも、発動にはフォトンが必要なため、宮崎のどかさんを乗せていないと、フォトン不足におちいり、帰ってくるために資材を大量消費するでしょうが」

 

『ねこねこ計画書』には、フォトン関連技術についてもしっかり載せてある。別宇宙の技術であり、のどかさんを通じてフォトン粒子の散布を行なっていることもだ。

 

「フォトンか……別宇宙から持ちこまれた未知の粒子じゃったな。それもまた別途で披露してもらう必要があるじゃろうが……」

 

「重力制御装置や船内の照明、空調等はフォトン粒子で動いていますよ。魔力で置き換えることも可能ですが、魔力不足を解消しに向かう船で、魔力を消費しては本末転倒というもの」

 

 学園長先生の言葉に、シオン教授がそう補足を入れる。

 

「なるほど。船内はそのフォトンで稼働しておるのじゃな」

 

「はい。では、そのフォトンを動力に換えている機関室を見にいきましょうか」

 

 シオン教授がそう言って、場所の移動を始めた。向かう先は、『スペース・ノーチラス』の心臓部である機関室。

 機関室では、技師兼機関長である少女、ネモ・エンジンが皆を待ち受けていた。

 

「おう、来たな。機関室では二種類の動力炉が稼働しているぞ。メインとなるのは双発のフォトンリアクター。これは、フォトン粒子をエネルギーに換える、オラクル船団ってとこの技術だ」

 

 フォトン粒子の淡い光で輝く二つのフォトンリアクター。光る見た目がいかにも現在動いていますよって感じなので、魔法先生達に与えるインパクトも強いだろうな。

 

「もう一つが、汎用魔力炉。万が一の時のためのサブ動力だな。こちらの世界の魔法世界ってとこで使われている、一般的な技術をうちら流に改良した一品だ。空間中の魔力を取り込むだけでなく、『叡智の種火』っつー魔力の火を投げ込むことで、フォトンリアクターにも負けねえ馬力を出せるぞ。魔力動力のみでのワープ航法は、まだ研究中らしいけどな」

 

 叡智の種火。ギリシャ神話の神であるプロメテウス神がもたらす腕、『叡智の手(プロメテウスハンド)』から採取できる魔力の火だ。

『Fate/Grand Order』における経験値アイテムだが、メタ的なアイテムではなく世界に根ざしたちゃんとした背景設定がある。人理の危機に際して、プロメテウス神が人類を(たす)けるためカルデアに『叡智の手』を送り込み、戦闘シミュレーターでこの種火を入手できるようにしているというものだ。

 

 なので、人理の危機が存在しないスマホ内の宇宙では、種火は採取できない。

 しかしだ。私がスマホで『Fate/Grand Order』を起動して曜日クエストで種火を掘れば、スマホ内の宇宙のカルデアに種火が保管されていく。そのため、供給は未だに途絶えていない。

 

 同じ方法で『ファンタシースターオンライン2 es』で☆10防具を掘ってゲーム内の交換ショップでアイテム交換すれば、『フォトンスフィア』というフォトンの結晶を入手することもできる。これもフォトンリアクターのいい燃料になるね。

 

「今日は空を飛べないってんで、機関部の本格駆動は見せてやれねえが……、ま、フォトンリアクターもそのうち地球に広まって、見る機会も増えるだろ」

 

 ネモ・エンジンがそう言い放つ。

 フォトン関連技術はいずれ公開予定だ。火星開拓事業が進めば、子猫達は人類との交流を始める。そのとき、一緒に技術も公開するのだ。全人類が分け隔てなく使える夢のエネルギー。きっとそれは、世界を大きく変えることだろう。

 

 その後、ネモ・エンジンの案内で、保管されている『叡智の種火』や『フォトンスフィア』を見て、機関室を後にする。

 

 さらに、乗組員の居住区や医務室、食堂なども見て回る。

 

「宇宙船と聞いてどのような内部構造になっているのかと思っていましたが……意外と普通の飛空船と変わりませんね」

 

 魔法先生の一人が、そんな感想を述べる。

 すると、シオン教授がすかさず答えた。

 

「それは、重力制御のおかげでしょうね。宇宙に出ても無重力状態でないならば、船舶や潜水艦等と同じ内部構造でも問題がないのですよ」

 

「重力制御ですか……魔法で実現するには、重力魔法を断続的に使う必要が――」

 

「ああ、それでしたらこちらで改良した新魔法が――」

 

 と、魔法先生の一部とシオン教授が、食堂の椅子に座りこんで討論を始めてしまった。

 しょうがない、しばしここで休憩か、と思っていると、食堂に料理長の少女ネモ・ベーカリーが入ってきた。彼女はお盆を手に持っており、そのお盆の上には料理の皿が載っている。さらに、彼女の後ろに子猫達がお盆を持ってついてきていた。

 

「ここいらで小休憩はいかがでしょうかー。世にも珍しい、別宇宙の野菜サラダですよー」

 

 そう言って、次々と食堂のテーブルにサラダの皿を並べていく。

 そして、惑星Cath製の野菜をゴロンとテーブルの上に転がすネモ・ベーカリー。

 

 その見覚えのない野菜を見て、魔法先生達が驚きの表情を浮かべる。

 

「それは……その、我々が食べても大丈夫なのかね?」

 

「大丈夫ですよ。私達の宇宙にいる地球人の方も食べていますし、オーナー……刻詠リンネさんも日常的に食べていますから」

 

 魔法先生の問いに、ネモ・ベーカリーがそう答えると、私に視線が集まる。

 私は皆に見つめられながら、箸を手に取って野菜サラダを食べてみせた。うん、ゴマっぽいドレッシングが利いていて美味しいね。

 

「美味しいですよ。皆さんも夕食はまだでしょうし、せっかくなので軽くつまみましょう」

 

 私がそう言うと、魔法先生達が恐る恐るサラダを口にしていく。

 

「ふーむ、美味いな」

 

「黄色いから、いったいどんな味がするのかと思っていましたが……」

 

「その野菜、手に取ってもよいかね」

 

「どうぞどうぞ」

 

「魔法世界にも独特の植物がありますが、それとはまた違うようですね」

 

 そう言って、魔法先生達がワイワイと盛り上がる。

 そして、口々に宇宙船の感想を述べ始めた。先ほどまで魔法談義をしていた魔法先生とシオン教授もそれに加わる。

 

 うんうん、どうやら『スペース・ノーチラス』は肯定的に受け止められたようだ。

 まだ空すら飛んでいないし、現状では飛空船との違いを実感している魔法先生はほとんどいないだろうけれども。

 

 その後、時間も遅くなってきたので食堂を出て貨物庫の皆と合流し、私達は『スペース・ノーチラス』を後にした。

 さらに、皆の前で『スペース・ノーチラス』をスマホの中の宇宙に仕舞い、皆を再度驚かせる。

 

 それから、学園長先生のお言葉で締めて、その場は解散となった。

 魔法先生達が連れ立って都市部へと帰っていくのを見て、今日は金曜日だし飲みにでも行って宇宙船の感想でも言い合うのかな、などと私は思った。

 

 私も、ネギま部のメンバーとそろって女子寮へと戻り、その道すがら貨物庫で行なわれたという無重力レクリエーションの感想を聞いていった。

 そして、一つのことをふと思う。

 

 キャプテン・ネモ、結局『よろしく』の一言しか喋らなかったなぁ……。

 

 人見知りだとしても、それでいいのか船長さん。

 


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