【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■55 期末テストの結果は

◆128 アスナ姫

 

 火星開拓もいいが、私達の本業は学生だ。時間を前に進めれば、否応なしに定期テストがやってくる。

 ネギま部では別荘を使った修行の後のお泊まり勉強会がすっかり定着していて、皆の学力は着実に上昇していた。そして、今日も別荘を使って、期末テストに向けた最後の勉強会を実施していた。

 

「いやはや、まさか小学校の勉強からやり直すはめになるとは……」

 

 そう言って、ネギくんの作った小テストを解いていくのはバカブルーの長瀬楓さん。

 なんでまたそんなに勉強ができないのか、と思ったら、基礎からして怪しいことがネギくんの小テストラッシュで判明した。

 たとえば国語なら、簡単な漢字すら読み解けない。たとえば英語なら、アルファベットすら所々書けない。たとえば数学なら、分数の計算すら怪しい。そんな感じだった。

 

 なので、楓さんが言った通り、小学校や中学一年の勉強からやり直させたところ、彼女の学力は一気に上昇した。

 ついでにそれに付き合った神楽坂さんこと明日菜さんも、学力が急上昇。今までのバカっぷりはなんだったんだろうという始末である。

 

「なんか、最近アスナが使う言葉から、妙に賢さを感じることがあってなあ」

 

 そう言ったのは、近衛木乃香さんだ。

 木乃香さんは明日菜さんと寮で同室だから、会話を交わす機会も多い。

 しかし、明日菜さんが賢くなった、か……。

 

「明日菜さんは魔法で記憶を封印されていたんですよね? 案外、それが学力に影響していた可能性が……」

 

 私がそう言うと、小テストを解いていた明日菜さんがびっくりしてこちらに振り返った。

 

「ちょっとリンネちゃん、どういうこと!?」

 

「記憶を封じると言うことは、それまで培った経験を封じるということ。知識とは積み重ねですから、他の人達が幼い頃から学び続けていた知識が、これまでの明日菜さんの中には封じられていて存在しなかったわけです」

 

「知識は積み重ねかぁ。確かにね」

 

「もしくは、記憶封印魔法が脳の記憶野を占有していて、知性に影響を与えていた可能性が……」

 

「なによそれー!」

 

 いや、明日菜さん。ただの憶測だってば。

 ただ、魔法の中には一時的に頭が良くなる代わりに、副作用で一ヶ月間、頭がパーになる魔法なんてものがあるからね。

 

 やがて、小テストが終わり、ネギくんが採点している間にネギま部の部員達は雑談を始める。

 話題は、明日菜さんの封印されていた記憶について。

 

「記憶が戻ったと言ってもね。記憶を封印される前の私と、記憶を封印された後の私とで、それぞれ別の人間みたいになっているのよね」

 

 なんてことない風に神楽坂さんが言うが、話を受け止める側は軽く流せることではなかった。

 

「それって、もしかして二重人格やあらへんか?」

 

 真面目な顔をして木乃香さんが問い返す。

 

「そうそう。そんな感じ。記憶を封印される前の私、そうだなー、アスナ姫って呼ぼうかな? その子が私の奥底で眠っているの。私は、表側にいる仮初めの存在って感じ」

 

「仮初めって、そんな……」

 

「あはは、大丈夫よ。仮初めって言っても、別に風が吹いたら吹き飛ぶようなものじゃないし? 少しだけ向こうの方が長生きなだけよ」

 

 少しだけ、少しだけかぁ。

 

「ちなみにそのアスナ姫様は何歳くらいなのですか?」

 

 真相を知る私が、ちょっとつついてみようかみたいな気分で問いかけた。

 

「うーん、百歳くらい?」

 

 あっけらかんと言った明日菜さんの言葉に、ネギま部一同がどよめく。

 

「あ、でもエヴァちゃんみたいに不老の吸血鬼ってわけじゃないのよ? ちょっと子供の状態で成長を止められて、生物兵器にされていただけでねー」

 

 明日菜さんがさらに燃料を投下し、ネギま部の雰囲気が一気に御通夜状態になる。

 だが、明日菜さんはそれを気にせず、話を続ける。

 

「そんな私を見かねたネギのお父さん達が、救出に来てくれたの。それからみんなで魔法世界を旅したんだけど、少しずつ人が減っていって、幸せになれって言われて、記憶を封印してもらって高畑先生に麻帆良へ連れて来てもらったの」

 

 実際、明日菜さんはネギくんが麻帆良に来るまで、一般人として幸せに過ごしていた。

 魔法と関わり合いになることで、その日常は崩壊し、戦いに巻き込まれていくこととなった。

 

「でもね。記憶が戻っても、私は幸せなままね。辛い思い出はいっぱいあるけど、楽しかった記憶だってある。そこは、もう一人の私と共通した意見ね」

 

 アスナ姫と意思疎通ができるのか、明日菜さんはそんなことを言った。

 

「でも、そんな昔の記憶でも、ナギの行方は分からないのよねー。だから、魔法世界でナギの居場所を突き止めて、こんなに幸せになったわよって言ってやらないとね!」

 

 そう言って笑う明日菜さんに、あやかさんが告げた。

 

「そうですわね。そのためにも、期末テストでは赤点を回避して、補習を免れませんとね」

 

「うっ、だ、大丈夫よ!」

 

 すると、採点をしていたネギくんが、ペンを動かす手を止めた。

 

「はい、大丈夫ですよ。アスナさん、五十点満点です」

 

「本当!? わー、こんな良い点、初めて取ったかも」

 

 ネギくんから小テストの用紙を受け取って、明日菜さんがはしゃぐ。

 そして、さらにネギくんは楓さんに小テストを返却する。

 

「楓さんは四十二点です。あと一息です!」

 

「拙者としてはそこまで取れれば十分でござるが……」

 

「せっかくですから、成績上位を目指しましょう!」

 

 ネギくんにそう言われ、楓さんは苦笑して頬を掻いた。

 本人的には、勉強する時間で修行をしたいところだろう。彼女は最近、『天狗コノハ』と、その付き合いで現世に出てきた『鬼一法眼』に修行を付けてもらって、ガンガン実力を上げているからねぇ。

 

 まあ、本格修行で『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』と正面から戦えるまで、みんなを鍛えたいのはこちらも同じ。

 期末テストはさっさと済ませて、万全な態勢で夏休みを迎えたいものである。

 

 

 

◆129 ネギま部部長

 

 期末テストが終わった。恒例のクラス順位発表では、またもや3年A組が一位を取った。

 すでにバカレンジャーは解散しており、バカピンクの佐々木まき絵さん以外はそれなりの成績を残すようにまでなっている。いや、バカレンジャーは他称であって解散も何もないんだけどね。

 

 そして、皆に期末テストの成績表が配られる。

 私の平均点は九十四点。中間テストからは幾分か下がった形だ。

 いやあ、さすがに期末はね? 主要五科目以外のテストとなると、前世の知識だけで満点を取れるようにはなっていないからね。

 

 そんな成績発表で悲喜こもごもなクラスで、立ち上がって騒ぎ出す者が出た。

 

「ゆえ吉ー! 勝負だー!」

 

「ネギま部部員の座、明け渡すですー!」

 

 鳴滝姉妹だ。

 まだネギま部への入部を諦めていなかったらしい。成績表を持って夕映さんに勝負を挑みに行っている。

 

「ふふふ、恐れおののくがよい」

 

「今回の私達を甘く見ないことですね!」

 

 鳴滝姉妹は、元々頭は悪くない。昔は学年順位が六百位台だった夕映さんに比べて、姉妹は三百位付近だったはずだ。

 姉妹が今回勉強を頑張ったというならば、相当点数を上げてきたと思われるのだが……。

 

「ぎゃわー!」

 

「びえー!」

 

 夕映さんの成績表を見て、鳴滝姉妹が撃沈した。その様子に、クラスがどよめく。

 

「へーい、ユエ、どれくらいだった? ちなみに私は八十九点ね!」

 

 早乙女ハルナさんが、みんなが気になっていることを尋ねた。

 すると、夕映さんは若干誇らしげに告げる。

 

「九十六点です」

 

 いや、私負けてんじゃん!

 ……え、本当に? 夕映さんそこまで成績上げてきたの? うそお、夕映さんって、のどかさんと一緒に別荘のシミュレータールームに籠もってばかりで、勉強会以外でそこまで勉強しているイメージなかったんだけど……実は女子寮で勉強していたとかなんだろうか。

 

 いやはや、こりゃあ、うちのクラスもまた一位取るわけだ。超さんが抜けた穴、完全に埋まっているね。

 

「うぶぶ……無念」

 

「こうなったら、ネギま部の部長に直談判ですー」

 

「はっ、そうだ。僕はまだ諦めないよ! 部長! 部長はどこだー」

 

 鳴滝姉妹が復活し、そんなことを騒ぎ出す。

 

「ゆえ吉、ネギま部部長は誰!?」

 

「部長です? そういえば、誰でしょうか……アスナさんあたりではないです?」

 

「アスナー!」

 

 鳴滝姉妹の姉の方、風香さんが事態を見守っていた明日菜さんへと詰め寄る。

 だが、明日菜さんは困惑顔。

 

「ええっ、私じゃないわよ」

 

「えー、じゃあ誰ー?」

 

「し、知らない……」

 

「どーなってんの、ネギま部ー!」

 

 いやー、どーなっているんでしょうね。

 と笑いながら私が見ていると、ぽつりと木乃香さんが言った。

 

「部長はリンネやでー」

 

「リンリンか!」

 

「リンリン、私達をネギま部にー」

 

 うん、実は私なんだよね、部長。

 どこぞの上野の動物園にでもいそうなあだ名で呼ばれた私は、姉妹に向けて言う。

 

「ネギま部こと『異文化研究倶楽部』は、夏休みに海外への遠征を行ないます」

 

「なにそれ! 面白そう!」

 

「リンリン、私達も連れていくです」

 

 鳴滝姉妹が、私の言葉を受けてさらに騒ぐ。しかしだ。

 

「海外と言っても、治安の良い場所ばかりではありません。地域によっては、力こそ全ての危険地帯もあります。ゆえに、腕に覚えがない人は連れていけません」

 

「うぐぐ……そうきたかー」

 

「本屋ちゃんとのリベンジマッチは十連敗中です……」

 

 いつの間にリベンジマッチが行なわれていたんだ。どんだけ入りたいんだ、この二人。

 しかし、夏休みに待ち受ける敵は『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』。ちょっと強い程度だと死が待っている。

 

「のどかさんに武力で敵わないなら不可……と言いたいところですが、そうですね。私に腕相撲で勝てたら考えましょう」

 

 私は机の上に肘を乗せてみせながら、姉妹にそう言った。

 

「急にハードルが上がったー! ウルティマホラ優勝者に腕相撲とか無理ゲーだろ!」

 

「わーん、ミニゴリラ相手に腕相撲とか死ぬです」

 

 誰がミニゴリラじゃ。

 身長が低いのは、意図的に『刻詠の風水士リンネ』に似すぎないよう成長を抑えているからなので、自分でも納得している。けど、ゴリラはないだろう、ゴリラは。のどかさんみたいにTeHuはやってないぞ。

 

「リンリン、もう少し優しいのを……」

 

 風香さんが私にそうすがってくる。うーん、まあ、ここでもう一回折っておくか。

 

「では、我がネギま部から刺客を。ハルナさんと腕相撲で勝てたら考えます」

 

「え? 私?」

 

 突然話を振られたハルナさんが、キョトンとした顔で自分を指さした。

 それを見て鳴滝姉妹がヒソヒソと話し始める。

 

「パルか……背は大きいけど、力はそこまで強くないはず……」

 

「パルはどう考えてもインドア派です」

 

「あっ、でも、図書館探検部だから、本屋ちゃんみたいに侮れないかも……」

 

「とりあえず、やってみるです」

 

 そして、鳴滝姉妹がハルナさんに挑むも……ハルナさんが一瞬で勝利した。

 

「ぐぬぬ、負けたー!」

 

「ウェイト差は絶対的です……」

 

「いやいや、腕相撲にそこまでウェイトは関係ないでしょ」

 

 鳴滝姉妹にデカ女扱いされたのが納得いかないのか、ハルナさんがそんなことを言った。

 

「はいはい! 腕相撲の勝負でいいなら、私もやりたい! 力ならそれなりに自信あるよ!」

 

 そう言ったのは、バカピンクこと佐々木さん。

 確かに、彼女は運動部の新体操部所属なので、力はそれなりにあるだろう。

 

「佐々木さん、いいのですか? ネギま部は夏休みに海外遠征に行きますが、他に部活があるでしょう」

 

「私、今年の夏は選抜に落ちたから……」

 

 ああ、そういえば、原作漫画と違って選抜テストに受からなかったんだっけ。ネギくんのキティちゃんへの弟子入りがすんなりいったせいで、ネギくんを通した彼女の成長の機会が潰れたからだ。

 

「だから、今年の夏はフリー! ネギ君と一緒に海外旅行、行ってみせるよ」

 

 そう言って、佐々木さんはハルナさんの前に立って、腕相撲に挑んだ。

 そして……。

 

「はい、私の勝ちね」

 

「にゃー! なんでパルがこんなに腕相撲強いのー!」

 

 一切拮抗することもなく、ハルナさんが勝利した。

 タネは簡単。ハルナさんは魔法を習得して、魔力を身に宿しているからだ。

 気や魔力を持つ者は、ただそれだけで身体能力が強化される。地道に別荘で魔法の練習を頑張ったハルナさんは、今や一般人を超えた力を身につけていた。

 

「いやー、海外行くからね。私も最低限の護身術を身につけているのさ」

 

 ハルナさんが力こぶを作ってみせると、佐々木さんがはっとした顔になって言う。

 

「と言うことは、このかも……」

 

「ウチも腕相撲は負けへんでー」

 

「うわーん、運動部のプライドがー!」

 

 そのプライドは入念に折らせてもらうよ……。

 魔法世界に興味本位でついてこられなんかしたら、面倒だからね。いろいろあってクラスメートが奴隷になりましたとか、絶対に防がないとならない。

 強運で全てを台無しにしかねない椎名桜子大明神に出てこられたら、私が持つ幸運スキルでは太刀打ちできなかったところだが……どうやらネギま部への興味はなさそうだ。彼女はチアリーディング部なので、夏は忙しいだろうからね。

 

 そして、そのまま新入部員は誰も入ることないまま、その日の騒ぎは無事に収まった。

 さあ、夏休みまであと一息だ。

 


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