【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ 作:Leni
◆139 部員の証
八月某日。イギリスへの出発が間近となり、修行は激しさを増している。
市街地での夏祭りや、東京ビッグサイトのお祭りで適度に息抜きもして、気力は十分といったところ。
各々の修行メニューもここにきて変化しており、担当の師匠を交換して手数を増やす試みをしている人も居た。
ただ、のどかさん達のメディカルチェックに来たルーサーが、ネギくんとやけに話し込んでいるのがちょっと怖い。ネギくん、ああ見えて魔法研究の天才だから、ルーサーと組み合わさると何が飛び出してくるやら。
そんな皆の修行風景を見回っていると、ふと見慣れない顔を発見した。
結城ミカンこと結城夏凜さんだ。
「帰ってきたんですか」
私がそう言うと、結城さんはこちらをギロリとにらんで言葉を返してくる。
「私がいて、何か不都合でもあるのかしら」
「いえ、あのまま天に召されてもおかしくなかったのに、エヴァンジェリン先生のために帰ってきたんだなぁと」
立川土産とか持ってきていないだろうか。
「そうね。あそこではいろいろあったけれど、今の私はエヴァンジェリン様が一番だから」
ふうむ。私は人の顔色を読むことに関して別にエスパー級ってわけじゃないから、憑き物が落ちた顔というのを彼女がしているかは分からない。だが、彼女が負の表情を浮かべていないことは私にも分かった。
しかし、キティちゃん愛されているなぁ。押しつけられる愛は重いだろうが、キティちゃんは頑張ってそれに応えていただきたい。
と、そんな話をしていたら、話題のキティちゃんが一人の女性を連れて私達の方へとやってきた。
その女性は、ストレートのブロンドヘアを後ろに流した、大人の人だ。
「ああ、リンネ。ちょうどいいところにいた。皆を集めてくれ」
女性が、私に向けてそんなことを言ってくる。
私は、困惑してその言葉に返す。
「ええと、どちら様で?」
「分からないか? 雪姫だ」
あー、雪姫先生か。幻術で大人に変身したキティちゃんってことね。元の面影があんまりないから、気づかなかったよ。
「なるほど、エヴァンジェリン先生と雪姫先生のどちらかが偽物ってことですか?」
「そうだな。私の方が魔法で作った分身だ」
私の質問に、小さい方のキティちゃんがそう答える。
「はあ……エヴァンジェリン様と雪姫様のコラボレーション……」
おい、結城さん興奮するのやめーや。
こんな変態がいるところにいられるか! 私は去るぞ!
というわけで、別荘内にいるメンバーを全員集めて、一同で城のエントランスに並んだ。
「皆、連日の修行ご苦労。今日は、一つ連絡がある。魔法世界で私の代わりにお前達のお目付役として派遣する者を紹介する。まずは、雪姫」
分身のキティちゃんが、雪姫先生の名前を呼ぶ。すると、雪姫先生は皆の前に出て言った。
「雪姫だ。現地ではエヴァンジェリンの代わりに厳しく指導していくので、覚悟するように。あと、私のことは先生と呼ぶように」
うーん、この雪姫先生、ノリノリである。正体は、先生どころか中学生なんだけどね。
そして、次に結城さんの名前が呼ばれる。
「結城ミカンよ。名前では呼ばれ慣れてないので、結城と呼んでちょうだい。エヴァンジェリン様とは五百年来の付き合いよ」
結城さん……マウントを取ろうとしても、別にうちの部にエヴァンジェリン様ラブ勢はいないぞ。
そんな結城さんの言葉に苦笑したキティちゃん(偽)が、私達に言う。
「この二人は、皆に先んじて魔法世界入りしてもらう。現地のメガロメセンブリアで合流することになるな」
これはあれだ。偽名を使ったうえに変装までしている二人が、正規の手段での魔法世界入りをできるか怪しいから、私達とは別口で向かうのだな。私達と一緒に魔法世界入りしたときに彼女達の変装がバレてしまうと、私達まで疑いの目を向けられて、面倒なことになるからね。
「そこでだ、向こうで必要となる魔法具を皆に配る。……茶々丸」
「はい」
キティちゃんに呼ばれた茶々丸さんが、皆にとあるアイテムを配る。
それは、『ALA ALBA』と銘が刻まれた白いバッヂ。『ALA ALBA』、すなわち『白き翼』のことで、バッヂも翼の形をしている。
それが皆に渡ったことを確認して、キティちゃんが告げる。
「それは、我が部『
部員の証と聞いて、皆が嬉しそうにする。
ちなみに、このバッヂを無くしたときのために、こっそり機械式の超小型発信器も皆には仕込んであるが、そちらの存在は内緒だ。なくしても代わりがあると知ったら、緊張感がなくなるからね。
「では、二人は出発までここに滞在するので、親睦を深めておくように。以上だ」
そう言って、キティちゃんが別荘の建物に去っていく。茶々丸さんはそれを……追わない。ドール契約で本当の主がどっちか分かっているのだろうか、雪姫先生の横にスッと立つ。
すると、結城さんがムッとする。そして、雪姫先生の隣を確保しようとするが……ネギま部メンバーが結城さんの周りに集まってきて、結城さんは逆に雪姫先生から引き離された。
「ちょ、ちょっとあなた達……」
「エヴァちんの知り合いなんだってねー。よろしくね!」
「……よろしく」
女子中学生の若さに任せた勢いに、結城さんはたじたじだ。
一方、同じように周囲を囲まれている雪姫先生は、さすが中身キティちゃん。普通に少女達の質問を捌いていく。
そして、その後は何度か一緒に別荘内でのお泊まり会をして、親睦を深めていった。
お泊まり会では寝ぼけたネギくんが雪姫先生を母親と間違えて、ネギま部が大騒ぎになった。だが、実はネギくんが自分の母親を見たことないことが判明して、自分に甘えてもいいのよと誘うメンバーが続出。個人的には、中学生だとママみは出せないと思う。
そんなこんなで結城さんと雪姫先生が皆に慣れてきたあたりで、二人は皆に先んじて魔法世界に向かうため、イスタンブールへと旅立っていった。
彼女達が、無事に魔法世界のゲートを突破できるよう、祈るとしようか。
◆140 新ボディ
イギリスへの出発まで現実時間であと二日となった。
別荘を出て旅行の準備を済ませた後、またもや別荘に集まって最後の調整を皆で行なう。
すっかり修行ジャンキーになっちゃったなぁ、と思っていると、別荘内にまた新たな人物が姿を見せた。
クラスメートの葉加瀬さんと朝倉さんだ。二人は、茶々丸さんに案内されて別荘内を驚きの目で眺めている。
「いやー、あんなジオラマの中にこんな広大な城があるとか、頭がおかしくなりそうですね」
葉加瀬さんが、周囲を見渡しながらそんなことを言った。
確かに、ダイオラマ魔法球は魔法関連技術の中でもトビキリの代物だとは思う。
「ようこそレーベンスシュルト城へ。本日は、休養ですか?」
私がそう言うと、朝倉さんが「違う違う」と顔の前で手を振った。
「茶々丸のお披露目だよ」
「そうです! とうとう完成したんですよ、茶々丸のニューボディが!」
葉加瀬さんが胸を張ってそう言い放った。なるほど、できたか。出発までに間に合ってよかった。
「それじゃあ、スペックの説明をしていきますね」
葉加瀬さんが早速とばかりに披露を始めようとした。
だが、私はそれに待ったをかけ、ネギま部メンバーを一堂に集めた。休憩になってちょうどいいだろう。
ネギま部が見守る中、葉加瀬さんが茶々丸さんを皆の前に立たせる。
「今まではネジを巻いて魔力供給をしなければならなかった茶々丸ですが、新たに小型動力炉を内蔵しました。フォトンリアクターとマナリアクターの二つで、フォトンと魔力のどちらかさえ存在すれば圧倒的パワーを発揮します。どちらも無い場合は、従来通りネジ巻きでの外部入力も可能です」
今までの茶々丸さんは、頭にネジを巻くことで動いていた。カラクリ人形はネジ巻きで動くという概念を利用した一種の儀式魔法であり、ネジを巻く人から魔力を供給されていたわけだね。
「骨格と装甲には、エルジウムを使っています。エルジウムというのは、ネギ先生が所持している剣の素材、アンオブタニウムにチタンと鋼鉄を混ぜた合金ですね。アンオブタニウムよりも頑強で、魔力的な防護なしに極大魔法を防ぐらしいですよ。極大魔法って私、見たことありませんけど」
エルジウムはあれだ。反物質生成炉であるサンリフターの建造とかに子猫達が使っている、超科学合金だ。当然、現世の宇宙では見つかっていない。そもそも原料のアンオブタニウムからして、この宇宙に存在するのかが謎だからね。
「武装は、従来のワイヤードフィストとレーザーアイだけでなく、フォトンリアクターを利用したフォトンキャノンとフォトン粒子砲も搭載しています。もう火力不足とは言わせませんよ!」
フォトンキャノンとフォトン粒子砲は、どちらも『PSO2』で登場した兵器だね。チャージに数秒の時間を要するのが弱点だが、そこらは追加武装の銃を持つ等でカバーできる範囲だ。
「さらに、アークスのハイキャスト技術を使用しているため、女の子としての可愛さも上がっています」
夏服姿で髪をアップにした茶々丸さんが、恥ずかしげに皆の前でポーズを取る。
「最新技術で内部の発熱はほとんどなくなったため、髪の毛を使った排熱の必要がなくなりました。さらに、人工皮膚は赤ちゃんのような綺麗な肌を再現しています」
葉加瀬さんも、茶々丸さんを一人の女の子として扱うようになったんだねぇ。原作漫画を読む限りでは、初期の頃は割とただの作り物として扱っていたようだったけども、いろいろあってAIの複雑な感情面を人間的であると認識するようになったのだろう。
私が居ない場所でも、各々の人生の物語は着実に進んでいるのだ。
「他にもカメラアイの性能向上だとか、各種センサーの性能向上だとか、そういう部分も紹介したいですけど……『そんなの説明されても困る』と朝倉さんに言われたので、省略します。とにかく、茶々丸は強く美しくなりました! きっと
葉加瀬さんがそう言うと、私は彼女に向けて拍手をした。すると、わずかに遅れてネギま部の面々からも拍手が送られる。
これで茶々丸さんも無事にパワーアップを果たせたか。
もう、『
どれだけ強くなったかは知らないが、最低限の自衛はできると見ていいだろう。
ここで模擬戦でもして、強さを確かめるのがいいのだろうが……今回ばかりはそれは諦めてほしい。
ほら、小太郎くん、殴りかかろうとしない。今どこか壊れたら、出発までに直らないんだから。
大人しく、シミュレータールームで我慢しておきなさいな。
◆141 古菲の帰還
イギリスへの出発を現実時間での明日に控え、各々が修行を完了させた。
お世話になった師匠達へと挨拶をし、最後のメディカルチェックを受ける。そして、別荘内での最後の晩餐の準備をしようとしたところで、何もない空間にドアが現れた。
音を立ててドアノブが回り、ドアが開く。次の瞬間、一人の女性がドアの向こう側から飛びだしてきた。
「む、間に合ったアルネ!」
それは、古さんらしき人だ。前に見たときよりも髪が伸び、幾分か成長している。服装もどこか古めかしい物に変わっている。
さらに、それに遅れて太公望さんもスープーちゃんに乗った状態で扉から出てきた。よかった、太公望さんがいるってことは、この人は古さんで間違いなかったようだ。
「おかえりなさい、古さん」
「リンネ! 久しぶりアル! いやー、向こうで五年も過ごしたから、すごく懐かしいアルネ!」
五年て。予想よりも二年多かった。どんだけ現地の仙人に可愛がられたんだ。
「ずいぶんと成長しましたね」
「この姿アルか? ちょっと向こうで妖魔を倒す試練を突破するのに、背の高さが欲しかったアルヨ。だいたい三年分は成長したアル」
「夏休み明けに、みんなビックリしますよ」
「成長期が来たって誤魔化すアル」
いやあ、無理ないかなぁ。十センチは背が伸びているよ。
「それで、崑崙での成果はどうでした?」
「いっぱい学んで来たアル!
おおー、かつてはバカイエローとも言われた古さんが、道教をマスターしてきたのか。
いや、たった五年でマスターしたかは分からないけどね。奥が深いだろうし。
「太公老師達とは別の丹術も学んだアルネ。その最終試験で、世界樹の実から不死の丹薬を作って飲んできたアル。これでリンネやちうの仲間入りアルネ!」
うわ、古さんも不死者になったのか。崑崙へと旅立つ前の時点で仙術を使って不老にはなっていたが、これで本格的に古さんも永遠の時を生きる仲間の一人となった。UQホルダー設立待ったなしである。
「それと、太公老師はずっと庭いじりをしていたアルネー」
古さんがちらりと横を見ると、太公望さんはスープーちゃんの毛を梳きながら答える。
「それが目的でしたから。しっかり実りましたし、向こうにあった仙桃の木もちゃんと増やしておきましたよ」
おおう、不老化する仙桃、増やしてきたんだ。変な争いのもとにならないといいが。……このことは皆には黙っておこう。
「それで、仙桃ではないですが、私が持ちこんだ桃をお土産に持って帰ってきましたよ。今夜のデザートにでも出してあげてください」
太公望さんは、どこからか大きな籠を取り出して、私に渡してくる。その籠の中には、大ぶりの桃がいくつも入っていた。
「ありがとうございます。出発前の最後の食事会なんですよ。太公望さんも寄っていきます?」
太公望さんにそう尋ねるが、彼女は首を横に振る。
「いえ、私は持ち帰った桃をオーナーのダイオラマ魔法球に保管してから、王国に帰ります。しばらく王子に会っていませんからね」
そう言いながら、太公望さんはブラシでスープーちゃんの毛を梳き続けた。
そういうことなら、晩餐は古さんのみが追加だな。
私は籠を手に抱えながら、古さんに言う。
「では、私は桃を厨房に届けてきます。古さんは、皆さんに顔を見せてやってください。心配していたので」
「そうするアル」
そんなことがあり、出発前最後の晩餐会が開かれた。
みんなテンションが上がっており、楽しく食事の時が過ぎる。そして、みんな満腹に近くなり、デザートが出される。
配膳役の人形がその皿を持ってくると、食堂の中が清らかな気で満たされた。
かすかに甘い香りが漂い、その香りに唾液が口の中にあふれてくる。
食堂にいる皆が、無意識のうちに唾液を
「ムフフ、みんな夢中アルネ。太公老師が育てた神仙郷の桃。楽しんでほしいアル」
皿がテーブルの上に並べられると、皆がこぞって皿に手を伸ばした。
私も我慢しきれず、爪楊枝が刺さった桃を一つつかみ、口に運ぶ。すると、食堂を満たしていたものと同じ清らかな気が、身体の内部を駆け巡った。それから遅れて、芳醇な甘味が舌の上に感じられた。
それをゆっくりと噛むと、果汁が染み出してきて、舌の上で甘味が躍る。噛むたびに果汁があふれ、口の中が幸せに満たされた。
はー、なんだこれ。グルメ界かどこかの果物?
私は驚きと共に桃を飲みこむと、胃の中まで桃が進んでいくのを感じ取れた。なんだろう、桃が触れた場所に不思議な感覚が。
「うまあー」
誰が言ったのかは聞き取れなかったが、見事に私の気持ちを代弁してくれた。
うん、これは美味しい。そりゃあ、太公望さんも古さんの育成の対価に求めるくらいだよ。
「ちなみに、仙桃のような不老をもたらす力はないアルが、食べると若さを長く保てるという話を崑崙の老師達がしていたアル。身体を浄化するとかなんとか?」
古さんがそう言うと、ハルナさんが「マジか!」と叫んだ。最近、別荘への籠もりすぎが気になっていたらしい彼女は、追加で皿に手を伸ばす。
こりゃあ、大人しく味の余韻を楽しんでいると、食いっぱぐれるな。
そう感じた私は、負けじと桃を口へと運ぶのだった。
こうして、イギリス出発前の晩餐は騒がしく過ぎ去っていく。時間的に女子寮でも一晩過ごす必要があるのだが、向こうで取る食事は味気ないものになりそうだね。