【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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●魔法世界
■60 ネギま部ウェールズへ行く


◆142 騒がしい出発

 

 とうとう出発の日がやってきた。

 早朝から女子寮の前で集まった私達は、キティちゃんの偽物に激励を受けていた。

 

「貴様達の道行きは、平坦ではない。あちらの世界には、全てを終わらせようとする秘密結社がおり、世界を救わんとする貴様達と必ずぶつかることだろう。二十年前の大戦は、まだ本当の意味では終わっていないのだ」

 

 キティちゃんは、ネギま部のメンバーに前々から秘密結社『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』の存在を明かしていた。

 魔法世界で起きた大戦の裏で暗躍していた組織で、今日まで高畑先生が残党と戦い続けてきたことまで説明している。

 

「特に、明日菜。お前の力は、秘密結社が世界を消滅させる鍵となる。他の者以上に、周囲を警戒するように」

 

「うん、分かってる」

 

 明日菜さんも、自身が秘密結社に狙われるであろうことは、事前にキティちゃんから伝えられている。

 明日菜さんは魔法世界を作り出した始まりの魔法使いの血筋であり、完全魔法無効化能力が世界を終わらせるために使えることも、彼女は承知している。

 だが、明日菜さんはあえて魔法世界へ行く。秘密結社が必要としているならば、悪魔ヘルマンのように麻帆良へ襲撃を仕掛けてくる可能性は高い。なので、敵の本拠地に近づくことになっても、ネギま部の仲間と一緒に居た方が安全という判断である。

 

 敵とはほぼ確実に衝突する。それを理解しているため、ネギま部の面々は今日まで厳しい修行に耐えてきた。

 

「秘密結社か……俺も行きたかったが……」

 

 キティちゃんの隣で、残念そうにしているのは獅子巳十蔵さんだ。

 ここまで現実時間で毎夜のようにやってきてネギま部の剣士勢の修行に付き合ってくれた彼だが、仕事があるため魔法世界までは付いてこられない。なんでも、お盆時期にお得意さんのボディガードの仕事が入っているらしい。

 悪霊を斬れる彼がお盆時期にボディガードって、何があるんだろうねぇ……。

 

 彼を魔法世界に連れていくことができたら、一気に『完全なる世界』との対決が楽になりそうだったのだが、本当に残念だ。

 

「旅行を楽しむなとは言わんが、常に緊張感を持っておくように。私からは以上だ」

 

 キティちゃんの話が終わり、各々が荷物を持って移動を開始しようとする。

 まずは、バスに乗って空港への移動だ。だが、その前に、一つやっておくことがある。

 

「のどかさん、任せます」

 

「はい!」

 

 そんな言葉をのどかさんと交わした瞬間。私達に襲いかかる影が。

 

「うおー、本屋覚悟ー!」

 

「僕達も連れてくですー!」

 

 それは、鳴滝姉妹だ。どうやら、まだネギま部加入を諦めていなかったらしい。

 しかし、彼女達はまたたく間にのどかさんに組み伏せられ、二人仲良く地面に転がった。

 

「きゅうー」

 

「強いですー」

 

 見事、のどかさんはネギま部のガーディアンとなった。

 早朝と言えども真夏に二人相手したというのに、のどかさんは汗一つかいていない。

 

「あはは、だから無理だってー」

 

 そんな二人の挑戦を、女子寮の入口から見ていたのだろうか。柿崎さん、釘宮さん、椎名さんの三人組がこちらを向いて笑っていた。

 とりあえず、私は、のされた鳴滝姉を柿崎さんに預ける。

 のどかさんは脇に鳴滝妹を抱えて、釘宮さんへと渡していた。のどかさん、豪快になったな……。

 

「どうやら夏を満喫したいようなので、遊びにでも連れていってあげてください」

 

 鳴滝姉を渡した柿崎さんに、私はそう頼んだ。

 

「んー、私達も、県大会の応援とかで忙しいんだけどなー」

 

「県大会に連れていくなり、暇そうなクラスメートに押しつけるなり、ご自由にどうぞ」

 

「ま、今から出発じゃ仕方ないか。行ってらっしゃい。お土産よろしくね」

 

「ええ、珍しいものを買ってきますね」

 

 仮初めの存在である魔法世界の物品は、物理的に地球へは持ち出すのは難しいだろうけれども。

 

「変なのは要らないからね!」

 

 そんな柿崎さんの言葉で見送られながら、私達はあやかさんが用意したバスへと乗りこんだ。

 そのまま、バスで真っ直ぐ飛行場へ。雪広コンツェルンが所有するプライベートジェットにネギま部全員で乗りこみ、イギリスへと飛び立った。

 

『ねこねこ計画書』は、あやかさん経由で雪広コンツェルンの総帥の手へ渡っている。

 子猫達による火星開拓とそれに付随する人類への新技術提供には総帥も期待しているようで、今回の旅費を全面的に負担してくれた。

 フォトン。宇宙開発。テラフォーミング。荒地の緑化。様々な技術が、火星を勝手に使わせてもらう見返りとして、地球人類へ分け与えられる予定だ。

 これによって、人の社会は大いに変わるだろう。その実現のために、魔法世界での『ねこねこ計画書』の周知と承認、頑張ってこようじゃないか。

 

 

 

◆143 ようこそ魔法使いの街へ

 

 二度目となるウェールズのペンブルック(シャー)行き。今回もあやかさんの手配によって、スムーズに魔法使いの街まで到着した。

 

「いかにもヨーロッパ! って感じね」

 

 あやかさんが手配したバスの車窓から見える街の景色に、明日菜さんが目を輝かせて言う。

 うんうん、雰囲気あるよね。塔とかすごくそれっぽい。

 

「はー、素敵な村やねぇ」

 

 あ、木乃香さん、人がせっかく街って言っていたのに村扱いするのはやめてあげて。ネギくん的にはここは街なんだから。

 まあ、いかにも魔法使いの隠れ里って感じだけどさ。

 

「みなさん、いよいよ到着ですわ。忘れ物のないように!」

 

 あやかさんの号令で、皆が広げていたお菓子等をいそいそと片付け始める。

 そして、バスはメルディアナ魔法学校の前で停車した。

 

 ゾロゾロとバスから降りていくネギま部一同。

 メルディアナ魔法学校の前には、ネギくんの親戚であるネカネさんとスタンお爺さん、そしてネギくんの幼馴染みのアーニャが待っていた。

 

「お姉ちゃん!」

 

「ネギ!」

 

 ネカネさんとハグをして、再会を喜ぶネギくん。真っ先に姉の方に向かった事実に、アーニャが膨れる。

 ハグしたまま数十秒ほどグルグルと踊ったネギくんは、回転を止めると、ネカネさんにネギま部を紹介した。

 

「こちら、僕の生徒の皆さんと、僕の友達!」

 

 英語での台詞だが、ネギま部バッヂから発動した翻訳魔法により、ネギま部メンバー全員に正しくその言葉が伝わった。

 ネギま部の面々は、口々によろしくとネカネさんとスタンさん、アーニャに挨拶をした。

 

「なんじゃ坊主。おなごばっかり引っかけよって。こんなところはナギに似ておるのう」

 

「ええー、お爺ちゃん、そういうのじゃないよー。僕の仕事先が女子校なの!」

 

 石化から回復して以来、すっかり元気になったスタンさんが、ニヤニヤと笑いながらネギくんをからかう。

 

「ちょっとネギ! もしかしてアヤカ以外にも仮契約(パクティオー)しているとか言うんじゃないでしょうね!」

 

 そこへさらにアーニャの追い打ちを受け、ネギくんが押し黙る。

 

「ちょっとネギ!? アヤカ、そこのところどうなのよ!」

 

 ネギくんが黙ってしまったため、アーニャはあやかさんへとその言葉の矛先を向けた。

 

「そうですわね。何人か、仮契約していますわよ」

 

「なんですってー!」

 

 ふむ。これはこれは……。

 

「はい、ネギま部ー。ネギくんと仮契約している人素直に挙手ー」

 

 私が部長権限で号令をかけると、皆が渋々と挙手を始めた。

 

 あやかさん、明日菜さん、木乃香さん、水無瀬さん、のどかさん、夕映さん、ハルナさん、ちう様。刹那さんもパクティオーカードは持っているが、これは木乃香さんとの仮契約なので今回は当てはまらない。

 

「こ、こんなに!? ネギ、何やっているのよー! 生徒に手を出してー!」

 

「はっはっは!」

 

 アーニャが憤慨し、スタンさんは大笑い。ネカネさんはあわてるネギくんをニコニコと笑顔で見守る。

 そんな騒がしい一幕があり、私達は無事、魔法使いの街へと迎え入れられたのだった。

 

 

 

◆144 幼馴染み

 

 あの後、どうにかアーニャを落ち着かせたネギくん。そのままメルディアナ魔法学校の観光を行ない、その後に魔法世界から来たエージェントだというマクギネスさんとの顔合わせを行なった。

 マクギネスさんは大人の女性で、金髪にスーツ姿でキリッとした感じだ。魔法世界から地球へ出てこられていることから、メガロメセンブリアの出身であると予想される。

 

 魔法使いの街には石化から復活した人達が多く滞在しており、私とネギくんに何人も挨拶しに来てくれた。

 かつて彼らが住んでいた隠れ里は悪魔によって焼かれたため、もとのまま生活するというわけにはいかない。

 ゆえに、魔法使いのコミュニティに頼って仕事を新しく探し、方々へと散ってしまったとのことだった。それを聞いて、ネギくんは寂しそうな表情を浮かべていた。

 

 さて、観光も終わったので、後は魔法世界行きを待つだけだ。ネギま部全員で一度集まって、予定の再確認をする。

 今夜は街の宿泊施設を借りて、一晩この街で過ごすことになる。

 明日は早朝の出発だ。街にある魔法世界のゲートまで荷物を持って歩いていき、そのまま魔法世界まで向かってメガロメセンブリア入りする。

 

 ネギくんがそう話すと、それを聞いていたアーニャが口を開いた。

 

「私も行くわよ」

 

「えっ、アーニャ、何言っているの!?」

 

 ネギくんが、幼馴染みの唐突な言葉にあわてる。

 

魔法世界(ムンドゥス・マギクス)にネギのお父さんを探しに行くんでしょ。私も付いていってあげるわよ」

 

「いや、駄目だよ!」

 

「なんでよ!」

 

「魔法世界は危ないんだよ。秘密結社が暗躍していて、僕達の目的と確実にぶつかるんだ」

 

「何よそれ! 馬鹿にしてるの!?」

 

「してないよ!」

 

 ネギくんとアーニャが言葉をぶつけ合う。

 すると、横で話を聞いていたマクギネスさんがネギくんに尋ねた。

 

「ネギ先生、秘密結社とは?」

 

「あっ、はい。僕の師匠(マスター)から聞いたんですけど、魔法世界にはとある秘密結社が存在していて、魔法世界の人々を夢の世界に閉じ込めようと暗躍しているらしいんです」

 

「……その秘密結社の名前は分かる?」

 

「『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』です。二十年前の大戦の元凶で、今回も魔法世界救済計画を進めたら、確実に衝突があるだろうと、師匠(マスター)が言っていました」

 

「ネギ先生の師匠は、確かあの『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』だったわね。ということは、嘘とは言い切れない……」

 

 マクギネスさんは、何やら考え込み始めた。

 そして、話に割り込まれたアーニャはというと……。

 

「は? 魔法世界救済計画? 闇の福音? ちょっとネギ、どういうことよ!」

 

 ああー、ネギくん、アーニャとは連絡を取り合っていたはずだけど、いろいろ秘密にしていたみたいだね。

 まあ、キティちゃんに師事していることはともかく、魔法世界救済計画については、トップシークレットだからね。計画自体がではなく、魔法世界が崩壊しかけていることが。

 だが、ここに来て秘密にできないのか、ネギくんは詳しくアーニャに説明をしていく。

 

「だからアーニャ、魔法世界に行くのは危険なんだ」

 

「だったら、なおさら付いていくわ! 私がネギを守るんだから!」

 

 アーニャがそう言うと、ネギくんはムッとした顔で言い返す。

 

「駄目だよ。僕達は今日まで厳しい修行をしてきたけど、アーニャはそんなのしていないだろ?」

 

「修行くらい私もしてきたわよ!」

 

「ロンドンでの占い師の修業だよね。そういうのじゃなくて、戦うための修行だよ」

 

「ぐっ、そういうのはしていないけど、ネギのことくらい守れるわよ」

 

「アーニャに守ってもらうほど、僕は弱くないよ」

 

「ネギのくせになに言ってんのよ!」

 

 完全に喧嘩を始めてしまった二人。昔懐かしのツンデレっぷりにほっこりしていたら、横からあやかさんがまあまあとなだめにかかった。

 

「ちょっとアヤカ、邪魔しないでくれない?」

 

「アーニャさん、魔法世界が危険なのは確かですわよ。そして、厳しい修行を積んでいない者を同行させられないのも確かです。これまで、私達は、何人もの同行希望者を拒否してきましたから」

 

「私だって一人前の魔法使いよ!」

 

「ええ、そうですわね。ですが、アーニャさん。今のネギ先生に勝てますか?」

 

「はぁー? ネギなんて楽勝よ!」

 

「では、手合わせで白黒つけましょうか。ネギ先生に勝てたら、同行してもよろしくてよ」

 

「言ったわね。……ネギ! 覚悟しなさい!」

 

 そうして、唐突にネギくんとアーニャの手合わせが行なわれることになった。

 一同で村の広場に移動し、魔法で結界を張る。

 竹刀を手に持ち自然体で構えるネギくんと、長杖を構え不敵に笑うアーニャが離れた状態で向かい合い、開始の合図を待つ。

 

 そんな二人をやれやれといった表情で見守るマクギネスさんが、審判役として二人の間に立つ。

 

「それじゃあ、お互いに怪我のないようにね。スタート」

 

 その合図とともに、アーニャが始動キーを唱える。

 

「フォルティス・ラ・ティウス・リリス・リリオス!」

 

 やがて魔法が発動し、炎がアーニャの足元で爆発。彼女はそのまま大跳躍した。なかなかの高さだ。そして、足に炎をまとい、勢いよく前方へと炎の勢いで進んでいく。

 

「これでも食らって反省しなさい! アーニャ・フレイム・バスター・キック!」

 

 対するネギくんは、遅延魔法をセットしていたのか、その場で大人しく待機していた。

 そして、炎の噴射で勢いよくアーニャがネギくんに向かって落下し、炎の跳び蹴りがネギくんを襲う。

 

 しかし、ネギくんは風をまとった竹刀で、アーニャを軽々と叩き落とした。

 アーニャが地面に落下すると同時に激しい爆発が起こるが、ネギくんは風を操ってそれを拡散させる。そして、地面に落ちたアーニャに、遅延魔法の『雷の斧(ディオス・テュコス)』を叩きつけた。

 

 アーニャは、悲鳴をあげることもなくそのまま気絶。開始からわずか十秒で勝負は付いた。

 

「そこまで!」

 

 マクギネスさんが、終了の合図を送る。すると、ネギくんは観戦していたこちらに向かって言った。

 

「このかさん! アーニャの治療をお願いします」

 

「任せてやー」

 

 木乃香さんがパクティオーカードを取り出し、アーティファクトを呼び出す。

 そして、アーティファクトで気絶したアーニャを完全回復させた。

 

「はっ!」

 

 傷が癒え、気絶から復活するアーニャ。彼女は、地面に横たわっている自分の状況が理解できたのか、しばし呆然としたのち、ポロポロと涙を流し始めた。

 

「う、ううー……」

 

「ア、アーニャ!?」

 

 幼馴染みの泣く姿に、ネギくんがあわてる。

 

「ネギに置いてかれるー……」

 

「アーニャ……ごめん。でも、今回の旅は本当に危険なんだ」

 

 ネギくんは、アーニャを助け起こしながら、彼女に言葉を投げかける。

 

「僕達の旅は、世界を救う旅だ。責任は重たいし、敵だっている。幼馴染みだからってだけで、アーニャを連れていけないよ」

 

「ううー……」

 

「だからアーニャ、僕の帰りを待っていてほしいんだ」

 

「待ってる……待ってるからー……」

 

 ポロポロとこぼれる涙をネギくんにぬぐわれながら、アーニャが言う。

 

「帰ってこなかったら許さないんだから……」

 

「うん、絶対に帰ってくる。約束するよ」

 

 アーニャはネギくんの胸に顔をうずめ、「約束ー」と言って泣き崩れた。

 

 うん、幼馴染みの約束、良いものですな。尊い。

 尊いので、あやかさんはその鬼の形相を収めましょうか。

 別の人がアーニャの相手をするのでもよかったのに、わざわざネギくんをけしかけたのはあやかさんだぞ。

 


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