【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■61 彼は人気者

◆145 ゲート

 

 早朝。皆で連れ立って、宿泊施設を出る。

 ゲートへの入場に必要だというローブを着こみ、マクギネスさんの案内で濃霧の中を進む。

 なんでも、ゲートには手順通りの儀式を行ないながら近づいていかなければ辿り着けないらしい。ここではぐれたら、残念ながらそのメンバーは地球に置いていくことになる。予定が詰まっているし、一週間後のゲートオープンの日は、フェイト・アーウェルンクスによるテロが起きるしね。

 

 私達は、時折皆がいるかの確認を取りながら、ゆっくりと草地を進む。

 

「着いたわ」

 

 マクギネスさんが、そう言うと、周囲の霧が晴れていき、遠くに何かが見えた。それは、巨石が並べられたストーンサークル。英国名物のストーンヘンジにとても似ている。だが、そのサークルの中央に突き立つように存在する塔のごとき巨石が、ストーンヘンジではないことを主張していた。

 

 朝焼けに照らされたストーンサークルはとても幻想的であり、私は思わずスマホを取り出して撮影していた。

 

「人がぎょうさんいてはるなー」

 

 木乃香さんが、ストーンサークルの周囲に集まる魔法使い達を見て感想を述べた。

 それを聞いたマクギネスさんが、解説を入れる。

 

「ゲートは世界に数カ所しか存在しないから、あなた達のように世界中から人が集まっているわ」

 

「へー」

 

「ここのゲートは週に一度程度しか開かないの。場合によっては、ひと月に一度しか開かないわよ。今回は、夏休みを向こうで過ごそうとする人で多いんじゃないかしら」

 

「なるほど、バカンスやね」

 

 ちなみにバカンスはフランス語だ。バケーションはアメリカ英語。イギリス英語で夏休みは、サマーホリデーだとあやかさんに以前教えてもらったな。

 イギリスの学校は、九月に一学期がスタートする。なので、夏休みは、日本における春休みに相当する。ただし、春休みと違ってがっつり長期間休む。

 九月で新学年スタートとなるので、卒業シーズンも夏休み前だ。ネギくんはメルディアナ魔法学校を昨年の七月に卒業して、今年の一月まで日本語を頑張って勉強したらしい。

 

 さて、無事にゲートに着いたので、ここらで朝食だ。

 シートを広げて座り、宿から持ってきたサンドイッチを並べる。

 

 食事を取りながら、ワイワイと雑談に興じる。そんな中で、夕映さんが興味深いことを言っていた。

 

「かつてケルトの民は、このような巨石(メンヒル)の立ち並ぶ丘の地底や、湖の底や海の彼方に、妖精や死者達の住まう美しい世界……この世ならざる『異界』があると信じていたです」

 

 夕映さんはかつてバカレンジャーだったが、それは学校の成績が悪いというだけで、知識は豊富に持っていた。祖父が大学教授の哲学者で、その影響を多大に受けて育ったというからね。

 

「いわゆる極楽浄土や天国などの『あの世の楽園』と違い、ケルト神話において特筆すべきなのは、『あちら側』でも死者は生者同様に肉体を持ち、『こちら側』と同じ姿で同じように生き続け、時には生者もまた生身の肉体を持ったまま出入り可能な場所として『異界』を捉えていたということです。いわばそれは、『もうひとつの世界(アナザー・ワールド)』」

 

 その夕映さんの解説に、私も乗る。

 

「神話の中でも、冥界に生者が生身のまま行き、生還する物語は多くありますね。日本神話におけるイザナキとイザナミの黄泉の国と黄泉比良坂(よもつひらさか)の逸話が私達になじみ深いでしょうか。他にも、古代メソポタミアの神話では、金星の女神イシュタルが冥界を下り、冥界の神エレシュキガルにコテンパンにされる話などが存在します」

 

「ええ、そういった冥界は今日(こんにち)の仏教における地獄のイメージとは違い、この世と地続きに存在していると解釈されていたのかもしれないです。また、冥界だけでなく、楽園や理想郷もこの世の地続きに存在する異界として登場することがあるです。代表的なものに、中国の桃源郷や浦島太郎の竜宮城が挙げられるでしょう」

 

「ちなみに、古さんが先日まで滞在していた崑崙はどうなのでしょう。古さん、どうですか?」

 

 私が古さんに話を振ると、意外と真面目に話を聞いていた古さんが答える。

 

「そうアルネ。崑崙はチベットの山に重なる異界だったアル。ああいった異界が世界各地に存在しているだろうと仙人達が言っていたアルヨ」

 

 そんな言葉に驚いたのは、マクギネスさんだ。

 

「あなた、あの伝説に語られる崑崙に行ったことがあるの?」

 

「ウム。仙人に修行を付けてもらったアル」

 

「すごいわね……」

 

 いかにも西洋人って見た目の魔法世界人であるマクギネスさんが崑崙のことを知っているのには、ちょっと驚いた。

 

「詳しく聞きたいけれど、それは向こうに行ってからにしましょうか。そろそろゲートが開くわよ。第一サークルに移動しましょう」

 

 マクギネスさんはそう言って、私達を先導してストーンサークルの中へと案内した。

 人、多いなー。

 一応、周りにいる人の顔を探っていくが、フェイト・アーウェルンクスらしき姿は見当たらない。

 

 それもそうだ。彼がここのゲートでテロを起こすのは、一週間も先のことなのだから。テロが起きると分かっていて、わざわざその日に行くこともないよね。

 

 やがて、付近に鐘の音が鳴り響き、ゲートが開く。

 地面が明るく輝き、中央の巨石から魔法陣が空に向かって幾重にもなって展開した。

 そして、お腹に響くような大きな音を立てて、私達は次元を跳躍した。向かう先は、火星の裏、魔法世界(ムンドゥス・マギクス)だ。

 

 

 

◆146 メガロメセンブリア

 

 気がつくと、私は屋内に転移していた。

 ストーンサークルに囲われた場所なのは変わらないが、足元は草地ではなく、石造りの床だ。そして、はるか上には天井があり、周囲は壁で囲まれている。とても広い空間だ。ドーム球場くらい広い建物の内部にいるようだ。

 私達がいるストーンサークルの他には、五芒星の魔法陣が描かれたフロアもここから見える。

 

「それじゃあ、順次入国手続きをしていってちょうだい」

 

 マクギネスさんが、そう言って受付の場所を示す。

 

「荷物の受け取りをしてきますね。ネギくん、手伝ってください」

 

 私は部長として早速、動き始める。他のネギま部メンバーは、入国手続きの前に展望テラスで街並みを見てくるようだ。

 

 ゲートの受付にネギくんと一緒に行き、預けた杖や武器をまとめた封印箱を受け取る。ちなみに、ゲートを通るに当たって、武器格納魔法の中身は空にしておいてある。その辺も、しっかりチェックを受けるからだ。国際空港よりも厳重なチェックだね。

 

「こんな小さな箱の中に全部入っているんですねー」

 

 横幅三十センチメートルほどの小さな封印箱を見て、感心するネギくん。

 中には、皆の武器が全て収まっている。楓さんの無数の暗器も全てだ。超圧縮だね。

 

「あの……失礼ですが、スプリングフィールド様、握手をお願いできるでしょうか?」

 

 受付のお姉さんが、ネギくんに握手を求めてきた。それに快く応じるネギくん。すると、他の受付の人も握手を求め出した。そこから何事かと見に来た移動客が、ナギ・スプリングフィールドの息子と聞いて次々と握手を求め始める。

 

「あわわわ……」

 

「うん、ネギくん。良い傾向ですね」

 

 私は、握手をこなしながらあたふたとするネギくんに向かってそう言った。

 

「ええー、これのどこがですかー」

 

「私達は、ネギくんが持つネームバリューを活用しにきました。この出だしは、まさしく望むとおりのものですよ」

 

「はっ、そうですね」

 

「なので、ネギくん、笑顔笑顔」

 

「はい!」

 

 その後、握手会は移動客だけでなくゲートのスタッフまで集まって、三十分ほど続いた。

 終わる頃には、ネギま部は全員入国手続きを済ませていて、彼女達の上がったテンションがやや下がりつつあった。

 

 私とネギくんは皆に謝り、そのままゲート施設を出る。すると、目の前に巨大な都市が広がっていた。

 ニューヨークもかくやの摩天楼。建物だけではなく、ビルよりも高い巨岩が何個も立っており、その上に建物が建てられている。そして、空には飛空船がいくつも行き交っていた。ここが、魔法使いの本国、都市国家メガロメセンブリアか。

 

「うわー、すごいですねー」

 

 ネギくんが、目を輝かせて都市を眺める。

 

「魔法世界でも最大の都市よ。人口は6700万人」

 

 マクギネスさんが、横からそう説明を入れてくる。その顔は、どこか誇らしげだ。

 そこからしばらくマクギネスさんによるメガロメセンブリアの説明が続き、私達は街並みを眺め続けた。

 

「で、これからどうするでござるかな」

 

 楓さんが、皆を代表して長くなってきたマクギネスさんの話を打ち切る。

 すかさず、私がそれに答える。

 

「予約していた宿に向かいます。そこで雪姫先生達と合流ですね」

 

 私の言葉を聞いて、マクギネスさんが難しい顔をする。

 

「大丈夫なの? その人、『闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)』の古い知り合いのようだけれど。彼女と同じ姿の人物は、百年も前から日本での活動歴があるわ。もしかしたら、吸血鬼かもしれないわよ」

 

 はー、雪姫先生って、実はキティちゃんが賞金稼ぎから正体を隠すときのために前々から用意していた、表の顔ってやつなのかな。

 

「まあ、種族はともかく、中身は優しい先生ですから。私達の保護者ですよ」

 

「保護者ねぇ……」

 

 マクギネスさんは懐疑的だが、疑ったところでキティちゃんだとバレるようなヘマはしないだろうから、探るだけ無駄だね。

 キティちゃんの幻術を暴きたかったら、ダーナ様を連れてくるか、ニンニクと長ネギの池に沈めるかくらいはしないといけないからね。

 

 

 

◆147 桃源

 

 ゲート施設を出た私達は、そのまま予約していた宿へと移動した。

 タクシー代わりだという飛空船に乗り、岩の上の高層建築物へと直接乗り付ける。

 

「うはー、もしかして、高級ホテル!?」

 

 ハルナさんが、目の前に広がる宿の風景に、気圧されながらそう言った。すると、マクギネスさんがすかさず答える。

 

「ええ、雪広グループから旅費は多く受け取っているから。日本円は、魔法世界でも信用度が高いのよ」

 

 おー。関東魔法協会が、それだけメガロメセンブリアに貢献してきたということかな。

『魔法先生ネギま!』でも、夏休みにメガロメセンブリアへ向かった美空さん達が、かなり良い待遇で迎え入れられていたみたいだし。……そういえば、彼女達この世界でもこっちに来るのかな?

 

 宿の中に入ると、エントランスホールに従業員達が並んで私達を待ち構えていた。

 

「いらっしゃいませ。スプリングフィールドの系譜を迎え入れることができ、光栄でございます」

 

 従業員の中から、一人の女性が進み出てきて見事な礼をした。

 

「わたくし、当ホテルの総支配人をしております。滞在中、何か御用命があれば、遠慮なくわたくしにお申しつけください」

 

 いきなりのトップの登場に、ネギくんが困ったようにマクギネスさんを見る。

 だが、マクギネスさんもこの状況は想定していなかったのか、困惑顔だ。

 うーむ、恐るべし、ナギ・スプリングフィールドのネームバリュー。高級宿でもこの扱いか。

 とりあえず、私は困っているネギくんに助け船を出してやろうと、総支配人さんに話しかける。

 

「早速ですが、チェックインをお願いしていいですか」

 

「はい、ご案内いたします」

 

 うん、スプリングフィールドじゃない私の言葉に、嫌な顔一つせずに応じてくれた。そこはさすがプロだね。

 

「それと、雪姫という方と、結城ミカンという方の二名と待ち合わせをしているのですが」

 

 私がそう言うと、総支配人さんは、スッと手を横に出し、「あちらでお待ちです」とエントランスの奥にあるラウンジを示した。

 

「ありがとうございます。よかったら、ネギくんと握手でもどうぞ」

 

「よろしいのですか?」

 

 私の言葉に、総支配人さんは顔に喜色を浮かべる。

 私は、「どうぞどうぞ。他の方もどうぞ」と言って、ネギくんを生贄に捧げた。ネギくんの犠牲で、宿での扱いが向上するなら安いものだよね。

 

 そして私は、マクギネスさんにチェックインの手続きを頼む間、ラウンジへと向かった。

 

「どうもー、到着しましたよー」

 

「ようやく来たか。待ちわびていたぞ」

 

 そう言ってたたずむ雪姫先生とついでに結城さんは、なぜか周囲に男達をはべらしていた。いずれも体格のいい屈強そうな男達である。その彼らの格好は、なぜか純和風。江戸時代から飛びだしてきたのかと突っ込みを入れたくなる装いだ。

 

「えーと、そちらの方々は……?」

 

 私が問いかけると、雪姫先生は刹那さんの方をチラリと見てから、驚くべき名前を挙げた。

 

「桃源神鳴流の者達だ」

 

「うわ、たった数日でどんな出会いしているんですか、先生」

 

 驚く私に対して、何それという感じの不思議そうな刹那さん。

 私は、そんな刹那さんに説明をしてあげた。

 

「桃源神鳴流というのは、京都神鳴流と大昔に分かたれた、魔法世界における神鳴流の流派ですよ」

 

「えっ、そんなものがあるのですか!?」

 

「はい、そんなものがあるんですよ。魔法世界にも妖魔はいっぱいいますからね。きっと日々ドンパチやっているのでしょう」

 

 私がそう言うと、雪姫先生は笑って返してきた。

 

「そうだな。私と彼らの出会いも、そんなドンパチの最中だったよ」

 

 雪姫先生が、語り始める。

 なんでも、先にメガロメセンブリアに着いたものの、合流まで日数があり暇を持てあましてしまったという先生。

 それならば、せっかく麻帆良の結界の影響下から脱したのだから、ちょっとばかり暴れてみようということになり、近場でできる魔獣退治の仕事を探した。

 すると、メガロメセンブリアの近郊で超大型の魔獣が暴れているというではないか。

 

 そこで、意気揚々と出発してみると、そこには天を突くような巨大な怪獣と、それに苦戦する桃源神鳴流の面々が。

 雪姫先生は彼らに加勢し、得意の氷の魔法を何度も食らわせて、怪獣を討ち取ることができたらしい。

 

「見事な大魔法であった。あれほどの術、かの大戦で『さうざんどますたあ』が使う『千の雷』を見て以来である」

 

「うむ。彼女の魔法は、距離を取っていた我らにも冷たさが伝わってくるほどであったぞ」

 

「それよりも、結城殿の神聖魔法よ。旧世界では人々の祈りを重ねた信仰が術に昇華されているとは聞いていたが、あれほど強固な盾を出すとは、あっぱれなり」

 

 桃源神鳴流の方々が口々に言う。

 その戦いではどうやら結城さんも加勢していたようだ。結城さんの神聖魔法の盾と言えば、宇宙から落下してくる人工衛星すら受け止めるすごい術だったはずだ。

 確かに、あれならば怪獣相手でも通用するだろうね。

 

「その戦いでこいつらとは、意気投合してな。それで、私がナギの息子と会うと言ったら、一目見たいと言い出したから、来てもらったわけだ」

 

「なるほど。そういうわけでしたか。というわけで、ネギくん。またお仕事ですよ」

 

「えっ、何がですか!?」

 

 宿のスタッフとの握手会を終えてこちらへやってきたネギくんを私は桃源神鳴流の皆さんに差し出す。

 すると、神鳴流の皆さんは、嬉しそうにネギくんと握手を交わし始めた。

 

 うん、本当に人気者だね、ネギくん。これで、本人が魔法世界救済という実績まで重ねたら、どうなっちゃうんだろうね。ちょっと先が楽しみになってきた。

 




※雪姫の姿で百年前からエヴァンジェリンが活動していたことや、日本円が魔法世界で信用されているというというのは、当作品のオリジナル設定でストーリーに特になんの影響も与えない設定です。

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