【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■63 ゲート崩壊

◆150 異世界版ナマハゲ

 

 メガロメセンブリアに到着して七日目の朝。今日もリカード元老院議員がやってきて、一日の予定を打ち合わせする。

 

「思いのほか、順調だな。元々、世界崩壊の対策に積極的な議員から攻めているからかもしれんが」

 

 リカード元老院議員がそんな言葉をつぶやくように言う。

 そう、順調だ。この一週間は、ひたすら個人を訪ねて、『ねこねこ計画書』の説明を行なってきた。

 集団を相手に説明するというのは現段階ではまだ早いらしく、そういうのは味方を多く付けてからやるべきだとリカード元老院議員は言っていた。

 

 そして、我がネギま部はひたすらお偉いさんとの面会を続けた。

 ネギくん以外のメンバーも、ナギ・スプリングフィールドの息子の教え子として、パーティに出席するなどして忙しかった。

 メガロメセンブリアにネギくんが来ていることを教える役目としての派遣である。

 

「また今日もパーティなのね……」

 

 予定表を見ながら、水無瀬さんがぼやく。すると、ドレス姿が嫌なのか、明日菜さんもすごく渋い顔をした。やんごとない姫様なのにドレスが嫌ってちょっとあれだね。

 彼女達のその様子を見て、リカード元老院議員が苦笑する。

 

「そう言うなよ。ネギが精力的に動いているのに、何もしないでただ観光し続けるのも辛いだろ」

 

「そうやで。パーティとか勘弁やが、観光ももう飽きたわ」

 

 ネギくんの教え子ではない小太郎くんが、リカード元老院議員の言葉に同調してそんなことをぼやく。

 そして、リカード元老院議員がネギま部部員を見回しながら言った。

 

「ま、見目麗しい姿に生まれてきたことを恨むんだな。つーか、なんだよ、今時の学生って皆こうなのか?」

 

 おっと、褒めているようだけど、二十一世紀基準だとそれセクハラだからね。

 だが、ネギま部の面々は容姿を褒められてまんざらでもないようだ。ただの中学生が、お前は美人だなんて大人におだてられたら、木にも登っちゃうよね。

 

 そんな感じで今日の予定を話し、その後、現在の進捗について触れる。

 

「闇の福音の弟子っつーのが物議をかもすと思っていたが……逆だったな」

 

 リカード元老院議員がそう言うと、観光組の保護者役として動いていた雪姫先生が不思議そうな顔をする。

 

「なぜだ? 魔法世界では酷く恐れられていると聞いていたが」

 

「恐れられているっつーかなぁ。闇の福音っていうのはあれだ。おとぎ話の悪役なんだよ」

 

 リカード元老院議員の言いたいことがイマイチ伝わっていないのか、雪姫先生は首を傾げる。

 

「数百年の間、裏の世界に君臨し続け、最後には現代の英雄ナギに封じられる怪物。幻想の中の住人。そういう印象が強すぎて、逆にそんな存在の弟子という事実に箔が付いたってオチだ」

 

 そうなのだ。闇の福音は、誰でも知っている超凄い魔法使い。そんな超凄い魔法使いの弟子になったやつがいる。それはなんと英雄ナギ・スプリングフィールドの息子。すごすぎる! という感じだ。

 闇の福音は現役の犯罪者とかじゃなくておとぎ話の悪役なので、現実的な悪としての印象がないのだ。

 

「日本人の感覚的には、酒呑童子などの鬼の弟子になったメジャーリーガーの息子というイメージですかね……」

 

 夕映さんが、そんな感想を述べる。確かに言い得て妙かもしれないね。このネギま部の中でいったい何人が酒呑童子のことを知っているか分からないけど。私もサーヴァントの彼女は制御できる気がしないので、スマホの中からは呼んでないし。

 

 しかし、闇の福音の存在に現実感がないのか。

 そりゃあ、麻帆良に封じられていても問題が起きないわけだ。魔法先生達も、積極的に排除はしようとしていなかったしね。

 

「さて、それじゃあ。今日も一日――」

 

 と、リカード元老院議員が締めの挨拶をしようとしたところで、窓の外に見えていた景色の一角が、突如爆発した。

 

「!? なんだ!」

 

 それをリカード元老院議員も見ていたのか、窓の方へと近づく。

 私も窓に寄り、鷹の目スキルを発動する。すると、遠くに見える建物から、土煙が上がっているのが見えた。

 

「あれは……ゲートポートですね」

 

「ゲートポートだと……待て、通信魔法だ」

 

 リカード元老院議員はその場で黙り込み、魔法でどこかと連絡を取り合い始めた。

 そして、数分経ち、私達へと振り返り、言う。

 

「ゲートポートが占拠されて、ゲートが破壊されたらしい」

 

 その言葉に、ネギま部一同がざわめく。

 

「ゲートが壊れたって、もしかして地球に帰れないってことですか?」

 

 明日菜さんがそんなことをリカード元老院議員に尋ねるが、リカード元老院議員は笑顔を浮かべて答える。

 

「心配すんな! ゲートはメガロメセンブリア以外にも世界にあと十箇所もあるんだ。外交部の威信に懸けて旧世界には帰してやるから、安心しろ!」

 

「あ、そっか。ゲートはここ一箇所だけじゃないんですよね」

 

 明日菜さんがほっと安心したように言う。

 でも、残念ながらこのテロは、他の十箇所でも行なわれているはずなんだよね。

 

「念のため、お前達の午前の予定は全てキャンセルだ。外にもいかず、ホテルで大人しくしていてくれ。俺は出てくる」

 

 リカード元老院議員はそう言って、護衛の騎士を連れて部屋から去っていった。

 うーん、『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』がゲートテロを狙っているって、ちう様を使って匿名で通報しておいたのだけど、防げなかったか。まあ、匿名じゃ信用されないよね。でも、実名だとどこでそんな情報を入手したのかって言われてしまうしなぁ。

 

 下手したら、私達が『完全なる世界』の関係者であると疑われてしまうというか、濡れ衣を着せられてしまう可能性があるし。メガロメセンブリアは、隙を見せるとそういうことをやってきかねない怖さがあるからね。

 ままならないものである。

 

 

 

◆151 テロの影響は

 

「新世界、十一箇所のゲートポートが全て破壊された」

 

 午後になって宿へと戻ってきたリカード元老院議員が、そのようなことを私達に告げてきた。

 

「テロですか……」

 

 ネギくんが、顔を曇らせてそんなことをつぶやいた。

 世界中にある十一箇所を同時に破壊できる。それだけの手駒がある『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』の存在に、私は内心で脅威は大きいと再認識した。

 

「だからすまんが、お前達を旧世界へ早急に帰すことになった。今ならまだ、ゲートがかろうじて動く」

 

 リカード元老院議員がそう言うと、ネギくんはハッとなって議員に問う。

 

「帰れるんですか!?」

 

「ああ、今から急げば間に合う。荷物をまとめてくれ」

 

「分かりました。みなさん!」

 

「ネギくん、待ってください!」

 

 皆に号令をかけようとしたネギくんを私は大声を出して止めた。

 そして、さらに言う。

 

「魔法世界に残るべきです。今、帰ったら、次いつここに来られるか分かりませんよ」

 

「そんなこと言っている場合ですか!?」

 

 ネギくんが驚いて、そんなことを叫ぶ。

 だが、そんなことを言っている場合なのだ。

 

「私達の二学期と、魔法世界の命運、どちらが大切なのですか。今やるべきことは『ねこねこ計画書』を一人でも多くの人に承認してもらうことです」

 

「いや……でも、僕には、皆さんを連れてきた責任が……」

 

「大丈夫です。勉強は、なにも麻帆良でしかできないわけではありません。夏休みが明けたらこちらに留学させてもらって、その間にネギくんは計画を推し進めればいいのですよ」

 

「そんな……でも……」

 

「逆に考えましょう。帰れないんじゃなくて、腰をすえて計画の説明に邁進できる、と」

 

「ええー……そんな……」

 

「大丈夫です。麻帆良には、元担任だった高畑先生もいるはずです。3年A組のことは任せちゃいましょう。まあ、帰りたい人は帰していいと思いますが……ここで脱落したい人、います?」

 

 私がネギま部の面々を見回すと、帰りたいと言い出す者は一人もいなかった。

 

「では、ネギま部部長として、魔法世界への滞在を決定いたします。その旨を学園長先生にメールしますね」

 

 私はスマホを取り出して、画面を起動する。

 

「えっ」

 

 メール、という言葉に、ネギくんは驚きの表情を浮かべた。

 ふふふ、魔法世界では圏外になるはずの携帯端末で、ゲートが繋がっていない地球にメールを飛ばせることが不思議だろう。

 

「私のスマホは特別製なので。地球と魔法世界の間で通信が途絶えていようが、地球のインターネットに接続可能なんですよ」

 

「嬢ちゃん、それは本当か!?」

 

 と、ここでリカード元老院議員が私の言葉に食いつく。

 

「ええ、このスマホは私の固有能力です。次元を超えて、地球とやりとりができます」

 

「マジかよ! よし、メガロメセンブリアの特別外交官の肩書きをアンタに預ける! 今すぐ旧世界と連絡を取りたいから、外交部まで付いてきてくれ! どうか頼む!」

 

 ガッシリと肩をつかまれ、そのまま連行される私。

 ああー、まだネギくんに話していないことがあったのに。

 

 実は、麻帆良に帰る手段は存在する。

 旧オスティアの未使用ゲート。これが直接麻帆良につながっているのだ。

 あと、もう一つの手段。スペース・ノーチラスを呼び出して虚数空間へダイブし、そこ経由で現実の火星へと出る。そして、宇宙経由で地球に帰る、ということが可能だとスマホ内の頭脳担当の人達があらかじめ試算していてくれた。

 

 宇宙船はアークスの光学迷彩技術で地球人から隠せるし、宇宙経由が手間の少ない方法かな。旧ゲート付近は魔物がうろつく危険地帯と化しているらしいし……。ま、どっちでもいいけどね。

 

 そうして私は、メガロメセンブリアの政治の中枢部に連れていかれ、地球との連絡役として数日缶詰になったのだった。お給料が貰えたので、ホテルにお土産でも買っていくことにしよう。

 

 

 

◆152 ナギ・スプリングフィールドの後継者

 

 テロの日から一週間が経った。

 ネギくんは毎日のように『ねこねこ計画書』の説明に動き、私は地球との連絡役の仕事をこなしていた。

 

 学園長先生とも連絡は取ったのだが、学園長先生は麻帆良からの応援要員として、ゲートが完全に閉じる前に高畑先生と龍宮君をこちらへ送りこんだ。彼らは私達と合流せず、メガロメセンブリアに訪問中の私達以外の麻帆良生を保護するために動くらしい。

 3年A組の担任をするはずの先生がこっちに来ちゃったよ。どうするんだろうね、二学期からの三年生の英語教師。

 

 そして、今日もまた朝のミーティングだ。

 計画書の説明がここに来て行き詰まったのか、リカード元老院議員が難しい顔をしている。

 

 詳しい話を雪姫先生が尋ねると、リカード元老院議員がおもむろに語り出した。

 

「ナギ・スプリングフィールドの後継者として、ネギの力を疑問視する声が強く上がっている。サウザンドマスターの子は、果たしてサウザンドマスターのように強いのかと」

 

「何それ? 強さとか、計画になんの関係もないじゃないの」

 

 水無瀬さんが、呆れたように言った。それにネギま部メンバーが同意するようにうなずく。

 

「そう言うな。あの大戦争からまだ二十年しか経っていない。力がないやつは、民衆に支持されねえのさ。かく言う俺も、メガロメセンブリアでは五指に入るくらいには強い」

 

「力こそ正義って、野蛮すぎるなぁ」

 

 木乃香さんが、そんなことをぼやく。

 すると、ネギくんが覚悟を決めた顔で言った。

 

「強さならいくらでも示してみせますが……決闘でもしますか?」

 

「いや、文句を言っている奴の大半は、あくまでサウザンドマスターのファンでしかなくて、本人は戦えねえ。相手の力を疑問視しているのに、本人は戦えねえんだ。始末におえん」

 

 リカード元老院議員が告げたあまりにも矛盾した内情に、ネギま部一同は完全に呆れ返った。

 だが、メガロメセンブリアの矛盾はともかく、言いたいこと自体は分かる。

 力なくして上に立てない。そして、計画を進めるには、力ある上の人間だけ相手すればいいとはいかない。私達も下々の支持を得て直接上に立つことが求められている。

 

「ふむ、力を示すか。それならば、ぼーや、いや、ネギ。これに出てはどうだ?」

 

 雪姫先生が、一枚のチラシをテーブルの上に置いた。

 

「ナギ・スプリングフィールド杯メガロメセンブリア予選? 拳闘大会ですか?」

 

 ネギくんが、チラシを覗き込んでそう問い返した。

 

「ああ、新オスティアで行なわれる拳闘大会の地方予選だ。武器の使用はありなので、ネギの力を示すのにちょうどよいだろう」

 

 雪姫先生のその言葉を受け、リカード元老院議員が膝を打つ。

 

「おお、それはいいな! この拳闘大会の開催地は新オスティアだが、ちょうどそこで戦後二十年を記念した式典が開かれるんだ」

 

 なんでも、旧ウェスペルタティア王国の首都があったオスティアでは、毎年終戦を記念したお祭りが開かれているらしい。今年は二十周年ということもあり、世界各国から要人を招き、平和のための式典を行なうのだとか。

 

「各国の要人が集まる場で優勝し、その勢いのまま要人達に計画を伝えれば……」

 

 そう告げるリカード元老院議員に、ネギくんはハッとした顔になる。

 

「一気に計画を推し進められますね!」

 

「おうよ!」

 

 実は、私もこの式典は狙い所にしていた。キティちゃんの恩赦は、メガロメセンブリアだけと約束するのでは足りないと思っていたのだ。メガロメセンブリア相手だと、約束を反故にされる危険性があるからだ。なので、各国の使者が集まるこの地で、恩赦を勝ち取るつもりだ。

 

「で、優勝できんのか?」

 

 ニヤリと笑いながら、リカード元老院議員がネギくんに問う。

 

「してみせます!」

 

 ネギくんの珍しい自信ありげな言葉に、リカード元老院議員は満足そうに笑う。

 

「がはは! よく言った! だが、この大会はコンビでの出場だ。あと一人、出場者を選ぶ必要があるぞ」

 

 リカード元老院議員のその言葉を聞き、私は雪姫先生の方を見る。

 すると、雪姫先生は面白そうに笑ってから、首を横に振る。ダメか。まあ、全国ネットで放送だってされるだろうし、闇の福音本人が戦うわけにもいかないか。

 

「俺が出るで!」

 

 と、ここで小太郎くんが立候補する。

 そして、古さんも手を挙げて、「出たいアル!」と叫んだ。

 

 さらに、明日菜さんが遠慮がちに手を挙げる。

 

「私も力を試したいなーって」

 

 すると、それを見たリカード元老院議員が笑って言う。

 

「いやいや、アスナ姫が出るのは反則だろ! 魔法も気弾も効かないんじゃ、一方的すぎる。ネギの力を示すパートナーには向いてねえよ」

 

「えー、ダメですか……」

 

 明日菜さんが、がっくりとうなだれる。うん、明日菜さんの力って、魔法世界だとあまりにも理不尽過ぎるからね。観客も最初は沸くだろうけど、見慣れてきたら盛り下がるぞ。

 

「のどかはネギ先生のパートナーに立候補しないです?」

 

「えー、私、拳闘とかはちょっと……」

 

 夕映さんとのどかさんが、そんなことを言い合っている。他のメンバーは、そこまでして出たいと思っている人はいないようだね。刹那さんは「京都神鳴流は見世物ではない」と常々言っているし、楓さんもウルティマホラや『まほら武道会』には出たものの本質は忍ぶ者だ。

 

 なので、候補は小太郎くんと古さんに絞られたわけだが、二人は激しいジャンケンバトルを繰り広げ始めた。

 並外れた動体視力で相手の手の内を読み合い、あいこを繰り返す。この光景、別の漫画で見たことあるわ……。

 

 そして、決着が五分経っても付かなかったので、クジで決めることになり、見事小太郎くんがネギくんのパートナーの座をつかみとった。

 

「よっし! 待ってろや、魔法世界の強者達!」

 

「むー、こうなったら、別口でエントリーして……」

 

「いや、古さん。目的はネギくんの宣伝なので、絶対にやめてくださいね」

 

 私が横からそう言うと、古さんはガックリと肩を落とした。

 

「無念アル……」

 

 そんなネギま部の騒がしい姿をリカード元老院議員は面白そうに笑って眺めていた。

 そして、彼はネギくんに向かって言う。

 

「頼もしい仲間達じゃねえか」

 

 すると、ネギくんは釣られるように笑顔になって答える。

 

「はい、自慢の仲間です」

 

 彼の父と違って、女ばかりのパーティーメンバーだが、(こころざし)では負けていないつもりだよ。

 オスティア終戦記念祭は十月一日からの開催だ。あとひと月、ネギくんを拳闘の英雄に仕立ててみせようじゃないか。

 




※明日菜の能力で気弾が消えるのは原作設定です。原作のヘルマン戦参照。

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