【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ 作:Leni
◆156 竜人
『ファンタシースターオンライン2』の世界には、デューマンという種族がいる。
ハドレットという人造の竜種の体細胞を解析し、ヒューマンにその竜種の細胞を組み込んで生まれた新種族だ。
デューマンを竜人と呼ぶにはいささか竜の要素が少ないが、とにかく『PSO2』の世界には竜種をもとにして人を改造する技術が存在するということだ。
一方で、『Fate/Grand Order』にも竜の力を持つ存在が複数人いる。
その一人が、ネギくんの剣の師匠であるアルトリア・ペンドラゴン陛下だ。
生前の彼女は、竜の因子を植え付けられて生まれた経歴を持つ。竜の心臓を身に宿し、ただ生きているだけで無限の魔力を生成したという。
『千年戦争アイギス』には、そのものズバリ、竜人という種族がいる。
生命力が非常に高い種族で、寿命も長い。上位種の中には魔法耐性に優れた個体も多く、戦闘では盾役向きの存在だ。
ネギくんは、それら三つの要素を重ねて、自らを竜人とすると言い出した。
この『魔法先生ネギま!』の世界にも竜化を行なえる竜族という種族がいるので、異形の存在に堕ちるというわけではないのだが……思い切ったなぁ。
「話は分かったが……本気か?」
リカード元老院議員が、眉間にシワを作りながらネギくんにそう尋ねる。
「本気ですよ。そもそも、僕達『
あー、確かにね。のどかさんと夕映さんは改造人間だし、ちう様は情報生命体だし、古さんは不死の仙丹を飲んでいるし、相坂さんは人形の身体だし、茶々丸さんはロボットだし……。
ふふふ、そう考えると、ネギくんが自分を改造しようと思いついたのは、当然の帰結なのかもしれないね。
「マジかよ、お前ら……」
リカード元老院議員が、恐ろしい物を見る目でネギま部の面々を見回す。
まあ、私達の名誉顧問のキティちゃんからして、『
「それで、リンネさん。ルーサーさんを呼んでもらえますか? 術式の確認を取りたいので……」
ネギくんにそう言われ、私は少し考える。
「ついでに、生まれてくる前のアルトリア陛下に竜の因子を植え付ける案を考えた『マーリン』も呼びますか。後は、サンプルとして、邪竜の血を浴びて後天的に竜の力を手に入れた『ジークフリート』と、竜人である『竜姫アーニャ』様もいるといいかもしれませんね」
「助かります」
ネギくんに礼を言われたので私は笑顔で返し、スマホを呼び出して『LINE』を起動した。
だが、私達の動きにリカード元老院議員が待ったをかける。
「今すぐ行動に移りたいだろうが、先にオスティア入りしてくれ。このホテルは明日で引き払ってもらう」
その言葉に、ネギくんが不思議そうにした。
「メガロメセンブリアでの説明作業はもう必要ないんですか?」
「ああ、ここまで計画が広まれば、後は賛同した議員だけで話は回せる。正直なところ、残った議員は
「なるほど、分かりました。メガロメセンブリアでもう少し、竜の素材を集めたかったのですが……」
ネギくんが、テーブルの上に広げられた雷竜の素材を見ながらそう言った。
すると、雪姫先生がネギくんに尋ねる。
「それだけあっても足りんのか?」
「ええ、竜種の素材は多ければ多い方がいいですね。後で身体への追加も可能ですので、順次買い足す予定です。できれば雷の力を持つ竜がいいです」
「よし、分かった……『
雪姫先生がそう言うと、ネギま部のメンバーの瞳が輝く。
「大会出場者のネギと小太郎、後は計画書の説明役に必要なリンネの三人以外の全員で辺境に向かう。リンネ、足は用意できるか?」
「ええ、宇宙も飛べる、とっておきの乗り物を出しますよ」
私はスマホの『LINE』で、オラクル船団の司令補佐官『テオドール』に連絡を入れる。
アークスの移動手段、『キャンプシップ』を借りるためだ。のどかさんがメガロメセンブリアに滞在したことにより魔法世界にもフォトンが広まっているので、フォトンで動くアークスの乗り物が使えるのだ。
そして、ドラゴンハントと聞いて気運を高めるネギま部一同に、雪姫先生がさらに言う。
「そうだ。ついでにお前ら、トレジャーハンターになるか? のどかに必要な魔法具を古代遺跡から見つけてくるんだ」
すると、図書館探検部の四人が色めき立った。
「うおー、古代遺跡! ロマン! インディ・ジョーンズ!」
「罠とかあるのかなー。道具を買わないと……」
「のどかに必要な魔法具ですか……きっと私に場所を調べろと言っているですね」
「古代のゴーレムがいるんやろか。妖精の隠れ家とか見つけたいなぁ」
ハルナさん、のどかさん、夕映さん、木乃香さんが集まって、それぞれ自分の言いたいことを好き勝手語り出した。
そんな四人を見た小太郎くんがつぶやく。
「竜とか古代遺跡とか、そっちも面白そうやなぁ……」
うらやましいだろうが、君は拳闘大会に出るんだから我慢しなさい。私は竜退治もトレジャーハントも拳闘大会も全部やれないんだぞ。
まあ、雪姫先生の思惑を察するに、ネギくん達の護衛に残すため、ネギくん側に私を配置したのだろうが。
そういうわけで、ネギま部の大多数のメンバーは辺境へ飛ぶことになり、私とネギくん、小太郎くんの三人はリカード元老院議員と一緒にオスティアへ向かうことになった。
◆157 オスティアの休日
九月の上旬、私達は新オスティアへと到着し、ネギくんと私は『ねこねこ計画書』を広めるため精力的に活動を始めた。
オスティア終戦記念祭は、ひと月後の開催だが、すでに全世界から要人が集まりつつある。その人達とコンタクトを取り、ネギくんのネームバリューとリカード元老院議員の伝手でもって面会し、計画書の説明を行なっていく。こちらは順調と言えた。
一方、小太郎くんはと言えば、私が手荷物として持ちこんでいたダイオラマ魔法球でひたすら修行を行なっている。
彼は改造手術のような劇的に実力を上げるドーピング手段は使わない。ひたすら地力を積み重ねる必要があるため、時間こそが彼に必要なものだった。だからか、オスティアに到着して以降、彼はダイオラマ魔法球から出てくる様子がない。
人と会っている間にライバルが修行漬けになっていることに、ネギくんが焦りを覚えつつあるようだ。しかし、焦っているのは小太郎くんも同じ。竜種の力を身に宿すという無茶に、狗族のハーフという半端な力しか持たない小太郎くんは悔しい思いがあるようだ。
だからか、小太郎くんは獣化した状態での修行を重点的に行なっているみたいだ。
小太郎くんがバーサーカーを正面から殴り合いで押せる日も近いと、スカサハ師匠が嬉しそうに言っていた。
うーん、私やネギくんが小細工をして強さを上げようとしている間に、『レベルを上げて物理で殴る』を地で行っている小太郎くんの頼もしさよ。
さて、そんな感じで小太郎くんを宿のダイオラマ魔法球に置いて、今日も挨拶回りに出ていた私とネギくん。
帰りに新オスティア名物の温泉を楽しんだ後、私達はカフェのテラス席でコーヒーを楽しんでいた。
甘いケーキに苦いコーヒー。うーん、最高の一時だね。
と、そんなことを考えていると、私達のテーブルにコーヒーが追加で一個置かれた。
「相席いいかい?」
その声は、聞き覚えのあるものだった。
そう、確か修学旅行の時に聞いた声。私が振り向くと……そこにはフェイト・アーウェルンクスがいた。
「構いませんよ」
ネギくんは相手に気づいていないのか、笑顔でそう答えた。
おいおい、ネギくん、相手は因縁の相手だぞ。……あれ、待てよ。この世界では言うほど因縁があるわけじゃないのか?
よくよく思い出してみると、ネギくんとフェイト・アーウェルンクスが会ったのは、関西呪術協会の本山で一度きり。その現場に私は居合わせなかったが、短い時間戦っていただけのはずだ。
とりあえず、私は警戒心を高めて、席に着いたフェイト・アーウェルンクスに話しかける。
「お久しぶりですね。京都以来ですか」
「そうだね。あのときは
フェイト・アーウェルンクスのその言葉を聞いて、ネギくんは不思議そうな顔をする。そして、何かに思い当たったのか表情を変える。
「あっ! 石化の魔法使い……!」
「そうだね。今頃気づくとか、警戒心が足りていないんじゃないかい?」
それはそうだね。
まあ、彼も白昼堂々一般市民を巻き込んで襲いかかってくることはないだろうが。
そんな彼の言葉を聞き、一瞬で雰囲気を変えたネギくんが腰を浮かしかける。そこで、私はネギくんの肩をつかんで無理やり押さえつけた。
「リンネさん、何を――」
「まあまあ、落ち着いてコーヒーを飲みましょう。彼もコーヒーを飲んでいますし、この場は争う気がないようですよ」
「……分かりました」
ネギくんは、しぶしぶ椅子に座りなおす。
「フム、この店のコーヒーは悪くないね」
フェイト・アーウェルンクスがそう言ったので、私も同意する。
「そうですね。最近のお気に入りの店なんですよ」
「君の趣味は悪くないようだ」
「光栄です。で、フェイト・アーウェルンクスさん。本日はなんの御用ですか?」
私がズバリ聞くと、彼はコーヒーカップをテーブルに置いて、私を見つめた。
「噂を聞いてね。なんでも、君達は魔法世界を救うために動いていると」
なるほど。彼も、魔法世界の救済を目的に動いている。だから、同じ目的を持つ私達の動きが気になったようだ。
なので、私はここで彼に全て話しておこうと決めた。
「はい。独自の方法で、魔法世界の魔力不足を解消して、魔法世界を救います」
「大きく出たね。その方法、詳しく聞いていいかい?」
「構いませんよ。『
私の言葉に動揺したのは、フェイト・アーウェルンクスではなくネギくんだった。
「リンネさん、『完全なる世界』ってまさか……」
「ええ、例の秘密結社ですね。どうやら、彼はそこの構成員らしいんですよ」
アーウェルンクスという名を持つ存在が『完全なる世界』の幹部だというのは、一部では知られた話だ。
すると、フェイト・アーウェルンクスは淡々とした声で言う。
「どこからそれを聞いたのかは知らないけど、その通りだね。で、それを知ってどうするつもりだい」
そう問われて、動いたのはネギくんだった。
「そんなの――」
「ネギくん、座りましょう。天下の往来でバトるつもりですか」
またもや私に押さえつけられて、席に着くネギくん。いや本当、こんな場所で暴れたらひどいことになるよ。
「ネギくん、こう考えましょう。私達の計画を知らせれば、彼らも余計なことはしなくなるかもと」
「……確かに、それはあるかもしれません」
ネギくんは納得して、激情を抑えてくれた。
よし、それじゃあ、フェイト・アーウェルンクス相手にプレゼンだ。
「では、私達の進めている魔法世界救済計画、またの名を火星開拓計画。お話ししましょう」
私の言葉をフェイト・アーウェルンクスは黙って聞き続ける。
「簡単に言うと、火星をテラフォーミングします。すなわち、人が住める環境に変えて、植物を植えて緑化します。これにより、火星に魔力が生まれ、世界の崩壊が止まります」
そこまで言うと、フェイト・アーウェルンクスが反応する。
「なるほど、テラフォーミングと緑化か。やりたいことは分かる。でも、それを今まで誰も検討していなかったと思うかい? 今の人類が本気になって宇宙開発したとしても――」
「百年以上かかる、ですね。それも、考慮に入れてあります」
「へえ、聞こうか」
「はい。たとえばですね、百年の時間を稼ぐ方法などどうでしょうか。フェイトさんは黄昏の姫御子をご存じですよね?」
私のその言葉に、フェイト・アーウェルンクスは、じっとこちらを見つめてくる。
「……神楽坂明日菜だね?」
「さて、とりあえずその黄昏の姫御子さんに、世界を支える
「……世界の延命をするのか。確かに、魔法で百年生きた彼女なら、追加で百年だって封印の中で生きられる。でも、いいのかい。それは、君の大切な存在の犠牲の上になり立つものだ」
「そうですね。もしこの案を実行したら、その者は配下に『あなたは人の心が分からない』と言われてしまうことでしょう。ですので、今の第一案は没案です」
「第一案……? 他にも手段があるというのかい?」
うん、今のは軽いジョークみたいなものだからね。造物主を倒せなくなるから、絶対に実行しないよ。
それでもあえて伝えたのは、黄昏の姫御子のことはこっちも承知だぞと知らせて、向こうに余計なちょっかいを出させないようにするためだ。こちらにとっても価値があることを知らせておけば、明日菜さんを狙うのはここぞというときのみになるだろう。
「第二案。この世に現存する強大な魔力の塊を確保して、魔力を直接世界に注ぎます」
「そんな都合のよいものがあるとでも?」
「ありますね。こんなものがちょうど手元に」
そう言いながら、私はスマホを手に呼び出し、その中から聖杯を取りだしてテーブルの上に置いた。
「これは……こんな物、いったいどこで……」
聖杯を見たフェイト・アーウェルンクスが、目の色を変える。
その反応に満足した私は、聖杯をスマホの中にしまい直す。聖杯が起動して、変な特異点が発生したら困るからね。
「今のは、私の私物です。使うのは丸損ですが、世界のために無償提供しますよ」
「そうかい。ところで、あれで世界は何年保つんだい?」
「せいぜい数年といったところでしょうかね。そこで、本命の第三案です」
まだ話が続くと聞き、フェイト・アーウェルンクスがわずかに眉を動かした。
そんな彼に、私は説明を続ける。
「人類以外の宇宙文明の力を借りて、短期間でテラフォーミングと緑化を済ませます」
「……? 君は何を言っているんだい?」
「私が持つこのスマホという神器は、こことは別の宇宙と繋がっています」
私は、フェイト・アーウェルンクスの言葉を無視して、手元のスマホを振る。
「その宇宙には、とある生物がいます。名を
私の言葉をフェイト・アーウェルンクスは黙って聞く。
「私達があなたに提案するのは、万が一の崩壊に備え第二案を予備案としておき、第三案で火星を緑化して世界に魔力を満たす……誰も犠牲にならない完全無欠なハッピーエンドです」
そこまで私は告げて、持参していた荷物の中から『ねこねこ計画書』の紙束をフェイト・アーウェルンクスの前に差し出した。
それに目を向けたフェイト・アーウェルンクスは、相変わらず平坦な声色で言う。
「つまり……刻詠リンネ、君に全てを委ねるということかい?」
「実行役は私一人と言えますけれど、人類側の統制を取るため、みなさんと歩調を合わせますよ。火星を謎の集団が勝手に開拓するんですから、混乱は必至でしょう」
「……まあ、その程度のことなら世界の救済と比べたら、大したことではないね」
そこまで言って、フェイト・アーウェルンクスは冷めたコーヒーを一気に飲み干した。
そして、空になったコーヒーカップをテーブルの上に置き、さらに言葉を放つ。
「ところで、僕達にも世界を救済する独自のプランがある」
「人々を夢の世界に誘って、今ある世界を閉じるのだそうですね。でも、そんなものが本当の救済じゃないことは、あなたも分かっているはず」
「…………」
「フェイトさん。あなたが本当に魔法世界のことを思うならば、私達につきませんか?」
「僕は……」
フェイト・アーウェルンクスが何かを言いよどんだところで、私達に横から近づく者がいた。
「失礼しますー。ウチの大将を誘惑しないでくれませんー?」
また修学旅行で見た顔だ。神鳴流の少女、月詠。フェイト・アーウェルンクスの手駒の一人である。
「月詠さんか。別に、呼んでないのだけど?」
フェイト・アーウェルンクスが、言葉にやや怒気を込めて言った。
だが、月詠はそれを受け流すように答える。
「それどころではないですよー? 囲まれていますー」
その言葉に、フェイト・アーウェルンクスは目をテラス席の外に向ける。
私もそちらを見ると、いつの間にか表通りから人通りが消えていた。
そして、金属を打ち合わせるような音が聞こえてきて、何かの集団がこちらに近づいてくる。それは、時代錯誤な鎧の騎士達。
「メガロメセンブリアの重装魔導装甲兵か。長居し過ぎたね」
フェイト・アーウェルンクスは、席を立って懐から何かを取り出した。それは、数枚のコイン。魔法世界の通貨であるドラクマだ。彼は軽い音を立てて、それをテーブルの上に置く。
「この場の支払いはそれでよろしく。話、参考になったよ」
そう言って、彼は月詠を連れて空に浮く。
それに反応して騎士達が魔法を一斉に放った。こちらの存在をお構いなしに放たれた魔法は、フェイト・アーウェルンクスからの不意打ち対策に私が張っていた多重の魔法障壁に弾かれる。
そして、騎士達を蹴散らして去っていくフェイト・アーウェルンクスを見ながら、私は冷め切ったコーヒーを口へと運んだ。
「クサビは打ち込めましたかね」
「クサビ、ですか?」
黙って私達の会話を聞いていたネギくんが、そう問い返してくる。
「ええ。彼はあの話を聞いてなお、『
テーブルの上に置いたはずの『ねこねこ計画書』は、フェイト・アーウェルンクスがしっかり持ち帰っていた。