【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■66 二十年目の真実

◆158 新オスティア提督

 

 フェイト・アーウェルンクスと月詠は、捕まることなく去っていった。

 そして、カフェのテラス席に残された私達は、なぜか騎士達の集団に包囲されていた。

 

「えーと、帰っていいですか?」

 

 私がそう言うと、騎士達は剣をこちらに向けて言い放つ。

 

「動くな!」

 

 えー……。官憲にこういう対応されるの、前世含めて初めてだから、どうすればいいのか分からないのだけれど。

 私はネギくんと、どうしたものかと顔を見合わせた。

 

 騎士達は私達を囲んでいるが、捕まえようという動きはない。

 どちらかというと、逃がさないという感じの包囲である。

 

 仕方ないので、私はテーブルの上の残ったケーキをぱくついていると、不意に包囲の一部が崩れた。

 そして、その隙間から、一人の眼鏡の男性と、鞘に入った大太刀を抱えた可愛らしい少年が進み出てきた。

 

「やれやれ、逃げられましたか……」

 

 男性が、眼鏡のツルをくいっと上げながら、こちらに歩み寄ってくる。

 私達の横に立った男性は、こちらを見下ろしながら言った。

 

「さて、お二方、善良な一市民として官憲へのご協力をお願いできますかね?」

 

「はい、なんでしょうか。善良な一市民としての範囲でできることなら」

 

 とりあえず、ネギくんが困惑しているので私が代わりに応対をする。

 実際には一市民じゃなくて臨時外交官なのだが、それを持ち出すとややこしいことになりそうなので今は言わないでおく。

 私の言葉に満足げにうなずきながら、男性が言う。

 

「よろしい。先ほどまでここにいた人物は、先日のゲートポートへのテロの疑いがある者でしてね」

 

「ああ、そうなのですか。彼ならいつかはそんなことをするとは思っていました」

 

「ほう? 親しい知り合いなのですか?」

 

「いえいえ。彼は、地球……旧世界で、要人の誘拐を企てた一味の一人でして、まあ、あちらでも犯罪者ですね」

 

「そうですか。そのような人物と、あなた方は何をしていたのですか? 密会となると、詳しい話を聞かないといけないのですが」

 

「密会と言えば密会ですね。私達の開拓事業計画について、彼に伝えていました」

 

「フム。なぜ、その話を彼に?」

 

「詳しい話をしてもいいのですが……」

 

 私は、男性の周囲を守るように立つ騎士達に目を向けながら言う。

 

「この場で話しても構わないのでしょうか」

 

「……なるほどなるほど。確かに、外で気軽にするような話ではないですねぇ。では、同行をお願いしても?」

 

「はい、一市民として協力いたします。ネギくん、行きましょうか」

 

 私はネギくんへと顔を向けると、彼をうながした。

 すると、ネギくんは困ったような顔で言った。

 

「ええと、警察のところに向かう、でいいんでしょうか?」

 

 おっと、そうだね。なんか、私と男性で勝手にお互いが誰かを理解したうえで話をしていたな。

 私は、男性の方へと向き直り、頭を下げて言った。

 

「私、一市民の刻詠リンネと申します。あなた様の名前をうかがってもよろしいでしょうか」

 

「これはいけない。すっかり自分が有名になったのだと思い込んでいましたねぇ。では、あらためて……」

 

 男性は、自分の胸に手を当てて礼の姿勢を取り、告げる。

 

「クルト・ゲーデルです。ここ新オスティアの総督をしています」

 

 メガロメセンブリア信託統治領新オスティア総督、クルト・ゲーデル元老院議員。

 火星開拓事業を推し進めるうえで、味方につけるべき重要人物とリカード元老院議員に言われていたうちの一人である。

 

 

 

◆159 夏の離宮

 

 騎士の集団に連れられて向かった先は、新オスティアの総督府である宮殿だ。

 新オスティアは浮遊島であり、雲の上に存在する。宮殿のすぐそばには雲海が広がっていて、とても雰囲気のある風光明媚な光景が垣間見られた。

 

「ここ新オスティア総督府は、かつてのウェスペルタティア王室が所有していた『夏の離宮』という建物でしてね」

 

 宮殿の一室に案内された私達は、ソファに座らされてゲーデル総督のそんな説明を聞いていた。

 

「ウェスペルタティア王国が大戦で滅び、今はメガロメセンブリアに信託されているオスティアですが……王族を再びこの宮殿に迎え入れられたことは僥倖(ぎょうこう)と言っていいでしょうかね」

 

 総督のその言葉を聞いて、ネギくんは困ったように言う。

 

「ええと、すみません。こちらの方は、明日菜さんではないのですが……」

 

「いえいえ。もちろんアスナ姫のことではないですよ。私が言っているのは、そう……かつてこの国を滅ぼした女王……アリカ・アナルキア・エンテオフュシアの遺児である君のことです」

 

 総督にそう言われ、ネギくんはハッとする。

 そして、こちらに振り向いて言った。

 

「リンネさんって、オスティアのお姫様だったのですか!?」

 

「いや、なんでそうなるんですか。女王って、ネギくんのお母さんのことですよ、多分」

 

 私はジト目になってネギくんにツッコミを入れた。

 私の家はごくごく普通の一般家庭だっつーの。

 

「ええっ!? 僕の母ですか!? 総督、僕の母を知っているんですか……?」

 

 ネギくんが、ソファから腰を上げながら、ゲーデル総督に尋ねた。

 

「ええ、もちろん存じていますよ。君の父母お二方については、それなりに知っています」

 

「詳しく教えてください! 僕は、父を捜しにこの魔法世界まで来たんです!」

 

 ネギくんのその言葉を聞き、総督は眼鏡のツルを上げながら、「フム」とつぶやいた。

 

「てっきり、新世界を救うために、わざわざこちらへ乗りこんできたのだと思っていたのですが……」

 

 すると、ネギくんが答える。

 

「もちろん、それもあります。まずは魔法世界をどうにかしてから、あらためて父を捜そうと思っていました。ですが、父の行方が今すぐ分かるなら、知りたいです」

 

「なるほど、君はまだ真実を伝えられてはいないと。その様子では、先ほどまで自分が会っていた人物が何者かも知らないようですね」

 

「ええと……彼は二十年前の戦争の黒幕だった『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』だということなら……」

 

「その彼らが何をしようとしているかは?」

 

「魔法世界を救うために、魔法世界の人々を夢の世界に閉じ込めようとしていると聞きました」

 

「知っているのではないですか。そこまで知っていてなぜ、彼と密会するようなことをするのですかねぇ」

 

 総督ににらみつけられ、ネギくんはソファに座りなおして困ったようにこちらを見てきた。

 うん、彼と話していたのは、私だからね。

 だから私は、ネギくんの代わりに総督へ語った。

 

「魔法世界を救うという目的が同じなら、より洗練されたこちらの火星開拓計画を伝えて、寝返らせようかと」

 

「寝返るわけがない……彼はアーウェルンクスだ……!」

 

「そう、そこです」

 

 声を絞るようにして叫んだ総督に、私は指をズビシと突きつけた。

 

「フェイト・アーウェルンクスが『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』においてどんな存在なのか、ネギくんはそこを知りたいのですよ。具体的に二十年前の戦争で何があったのか。そこをおうかがいしたいのです」

 

 すると、総督は難しい顔をして問い返してくる。

 

「魔法世界救済計画書は私も人伝に受け取り、目を通させていただきました。そこに、あのアルビレオ・イマの名前があった。それならば、彼から詳しく聞いているのでは?」

 

「いえ、詳しくは何も。なんでも、『紅き翼(アラルブラ)』の約定で、ネギくんが一人前になるまでは詳しく話せないと」

 

「フム……それならば」

 

「しかし、総督は『紅き翼』ではありません。かつては所属していたそうですが、今は(たもと)を分かって独立している。そうですね?」

 

「むっ……」

 

 私の台詞に総督は黙り込む。そして、代わりにネギくんが驚きの声を上げた。

 

「ええっ、総督って、父さんの仲間だったんですか!?」

 

「……ええ、幼い頃、行動を共にしていましたよ。実は私、詠春先生の弟子でしてね」

 

「このかさんのお父さんの!」

 

「ああ、そういえば、詠春先生の娘さんが新世界にいらしているのでしたね。できれば挨拶にうかがいたいところですが」

 

「このかさんのオスティア入りは、ちょっと遅れるんです」

 

「そうですか。では、詠春先生の弟子が会いたがっていたとお伝えください」

 

 なにやら、仲むつまじげに会話を交わすネギくんと総督。

 うーん、原作漫画のゲーデル総督って、やたらと悪ぶった人物の印象があったんだけど、ずいぶんと様子が違うな。

 これは、ネギくんが指名手配されていないことと、魔法世界の救済手段をひっさげてやってきたことで、だいぶ初期の好感度が違うということだろうか。

 

 そして、そこからネギくんと総督は『紅き翼』の話題で盛り上がっていき、やがて総督がこんなことを言った。

 

「確かに、今の私は『紅き翼』ではありません。ネギ君の母君の話をしても、問題はないでしょう」

 

「本当ですか!」

 

「ええ、ついでに、アーウェルンクスとは何かということまで、お話ししましょうか」

 

 そう言って、総督は部屋の隅で控えていた少年に合図を送った。

 すると、少年は一礼して、部屋に詰めていた護衛を連れて部屋を出ていった。

 

「信頼のおける部下ですが、なにぶん私が未熟だった幼い頃の話なので、あまり聞かせたくないので下がらせました」

 

 総督がそう言って、私達の対面のソファに座る。

 そして、彼は語る。『紅き翼』の物語を。

 

 

 

◆160 真相

 

 魔法世界で戦争が始まったのは二十二年前。ナギ・スプリングフィールドが十三歳の頃だ。

 始めは辺境のささいな争いだったが、次第に戦火は広がっていき、魔法世界南方のヘラス帝国が文明発祥の聖地オスティアを奪還するために、北方への侵略を開始する事態に発展した。

 

 戦いはやがて、ヘラス帝国と、メガロメセンブリアを擁するメセンブリーナ連合との、世界を二分する大戦争へと変わった。

 そんな中、連合側についた『紅き翼』は、巨大要塞『グレート=ブリッジ』の奪還作戦で大活躍をして一躍有名になった。

 

 そして戦況が膠着したあるとき、『紅き翼』はある重要人物と会う。帝国と連合に挟まれ、戦争に翻弄(ほんろう)され続けてきた聖地オスティアの王女アリカ・アナルキア・エンテオフュシアだ。

 アリカ王女とナギは初め喧嘩し合う仲であったが、逢瀬を重ね少しずつ関係を深めていった。

 

 その一方で、『紅き翼』は戦争を巻き起こしている黒幕の存在に気づく。

 秘密結社『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』。その根は深く、帝国・連合だけでなく、聖地オスティアにもシンパがいる始末で、いつまでも戦争が終わらないのが当然といえる状況であった。

 

『完全なる世界』と連合の癒着の証拠をつかんだナギだが、それを世間にさらけ出す段階で、罠にはまる。

 ナギ達の味方をしていたメガロメセンブリア元老院議員の一人が『完全なる世界』の幹部に殺され、そのまま幹部が元老院議員と入れ替わっていたのだ。

 元老院議員に化けた幹部の策略により、『紅き翼』は連合を追われる。

 

 反逆者として辺境に逃げ落ちた『紅き翼』。だが、そのまま黙ってやられたままの彼らではなかった。彼らは囚われていたアリカ王女を救い出し、帝国の第三皇女を味方に付け、反撃を開始した。

 少しずつ味方を増やし、『完全なる世界』の手勢を削っていく。敵の末端は武装マフィアや武装商人、私腹を肥やしていた役人等と、非常に分かりやすい敵だったため、味方を増やすのも思いのほか上手くいっていた。

 

 そして戦いは続き、『紅き翼』は帝国と連合両方を味方につけ、とうとう『完全なる世界』を敵の本拠地まで追い詰めた。

 敵の本拠地は、世界最古の都、聖地オスティア空中王宮最奥部『墓守人の宮殿』。

 そこで『紅き翼』は、『完全なる世界』の幹部達『アーウェルンクス』の撃退に成功した。

 

 戦いは勝利に終わる。そう思われたが……最後に敵の親玉が現れた。

 『完全なる世界』幹部である魔法人形『アーウェルンクス』シリーズを作りだした強大な魔法使い。『完全なる世界』の構成員から『造物主(ライフメイカー)』、『始まりの魔法使い』と呼ばれたその存在は、ただひたすらに強かった。

 無敵の英雄ジャック・ラカンでさえ軽々と両腕を切り落とされる始末で、誰もが膝を屈した。

 

 だが、ナギ・スプリングフィールドとその師匠フィリウス・ゼクトだけは勝利を諦めなかった。

 ひたすらに戦い抜いて……造物主は二人の手によって葬り去られた。

 

「めでたしめでたし、といけばよかったのですがね」

 

 映像を交えて説明を続けていたゲーデル総督が、そう茶化すように言った。

 

「ええと、まだ何か残っていたのですか?」

 

「ええ、残っています。と言いますか、この戦いでは何も終わっていなかった」

 

 ネギくんの問いに、総督は苦虫を噛みつぶしたような顔で言う。

 そして、さらに話を続けた。

 

 聖地オスティアを擁するウェスペルタティア王国の王は、『完全なる世界』の傀儡(かいらい)だった。

 アリカ王女は、その父王から王位を簒奪し、女王となって先ほどの最終決戦に挑んでいた。

 その最終決戦の最中、『完全なる世界』は黄昏の姫御子アスナ姫を使い、世界を滅ぼす『反魔法場(アンチマジックフィールド)』を展開していた。

 それをアリカ女王はアスナ姫ごと封印した。その結果、浮遊島である聖地オスティアは魔力を失い雲海の底へと沈んだ。

 

 そして、その後アリカ女王はメガロメセンブリアへと向かい、国民の救済を嘆願するが……彼女は、メガロメセンブリア元老院に拘束された。

 

「えっ!? なんでですか!?」

 

 話の行方をハラハラしながら聞いていたネギくんが、驚きの声を上げる。

 それに対し、ゲーデル総督は冷たい声で言う。

 

「メガロメセンブリア元老院は、そういう組織なのですよ。オスティアを手中にできると考えた者、戦争の責任を押しつけられる生贄を欲した者、中には『完全なる世界』の生き残りも混じっていたでしょうね」

 

「そんな……」

 

 絶句するネギくんに、私は横から言う。

 

「ネギくん、忘れたわけではないでしょうね? 中世に地球へ侵略しようしていた魔法世界の勢力は、メガロメセンブリアですよ」

 

 その言葉を聞き、ネギくんは膝の上で強く拳を握りしめた。

 

 悲しいけれど、人という存在は皆が皆、善良な者というわけではない。

 魔法世界救済計画はおおよそすんなりと受け入れられているが、それは世界が滅ぶというどうしようもない現実を前にしているからだ。

 これが世界の救済とかではない、なんてことない計画であったら、私達はとっくの昔にメガロメセンブリアの元老院議員達に叩きつぶされていただろう。

 

「分かりましたか? 君にとって、メガロメセンブリア元老院がどのような存在か」

 

 ニタリと笑ってゲーデル総督が言う。

 だが、ネギくんは首を横に振って答えた。

 

「話を続けてください。最後まで聞いてから判断します」

 

「よろしい。では、話しましょう。ハッピーエンドを迎えられなかった、我々の物語を」

 

 逮捕拘束されたアリカ女王は、いつしか『災厄の女王』と呼ばれ、彼女の味方を名乗り出る者は一人もいなくなってしまった。

 即座に処刑が決まり、そして二年後の処刑当日。

 魔法と気が一切使えない処刑地ケルベラス渓谷に女王は落とされ、魔獣に食われて死んだ。そう公式の記録には残っている。

 だが、『紅き翼』は間に合った。秘密裏にアリカ女王を助け出すことに成功したのだ。

 

 今日のところはハッピーエンド。ゲーデル総督に高畑先生がそう語った。『紅き翼』の詠春さんの弟子だった若きゲーデル総督と同じように、若き高畑先生も『紅き翼』のガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグの弟子で、二人は顔なじみだった。

 物語は確かにハッピーエンドを一度迎えた。……だが、幸せは、本当に〝今日のところ〟でしかなかった。

 

 造物主は、滅びていなかったのだ。

 フィリウス・ゼクトの身体を乗っ取り再び現れた奴は、またもやナギ・スプリングフィールドに倒された。しかし、奴は不滅の存在だった。

 今度はナギ・スプリングフィールドの身体を侵食していき……完全に乗っ取られる前に彼は自らを麻帆良の地に封印した。

 

「……麻帆良に、父さんが」

 

「さて、ナギはもはやナギと言っていいのかどうか。造物主の手に落ちた存在です。ああ、いえ、そうとも言い切れませんかね。あれがありました」

 

 総督はそう言って、空間投影の魔法である映像を再生した。

 それは、炎上する山間の村。

 

「!? それは……」

 

「英雄ナギが麻帆良に封印されたのが十年前。君の故郷を襲った惨劇の場に彼が現れたのが六年前。辻褄(つじつま)が合いませんねぇ?」

 

「…………」

 

 ネギくんが、拳をにぎりしめて、魔族に襲われる村の映像を凝視している。

 と、その映像の中に、ナギ・スプリングフィールドが現れる。

 

「簡単に言ってしまうと、この彼は、ナギ本人ではありません。『完全なる世界』に通じたメガロメセンブリア元老院議員が、麻帆良の封印からかすめ取った分身体のようなものです」

 

 うん、またメガロメセンブリア元老院だよ。懲りないよね。

 

「造物主にとってナギの息子が脅威だったのか、メガロメセンブリア元老院議員にとってアリカ様の遺児が厄介だったのか……私には分かりませんが、かくして村は襲われ、正気を一時的に取り戻したナギにより君が助けられたというわけです」

 

 そこまで言って、総督は映像を消した。そして、言葉を続ける。

 

「分かりましたか? ネギ君。君が倒すべき本当の敵が。それは……」

 

 総督が、ネギくんの目を真っ直ぐ見ながら言った。

 

「メガロメセンブリア元老院。それが君の倒すべき敵です」

 

 いや、違うからね?

 

「ネギくん、違いますよ。造物主が全ての元凶です。メガロメセンブリア元老院とは深く関わっちゃダメですよ。泥沼の政治劇に巻き込まれますから」

 

 私がそう言うと、総督はやれやれと肩をすくめた。

 

「どう考えても元老院は敵だと思うのですがねぇ」

 

「そういう政治の化け物は、総督が相手していてください。ネギくんは、魔法世界を救うのでいっぱいいっぱいなんです」

 

 私がそう言うと、ネギくんはいいのかな、と言いたげな目をこちらに向けてきた。

 いやいや、十歳の子供を投げ込んでいいような世界じゃないからね。ネギくんは素直に世界を救えばいいんだよ。ホビーアニメの主人公みたいにさ。

 

 とりあえず、私は話をまとめるためにネギくんに向けて言った。

 

「私達の真の敵は造物主。ただし、殺してはダメ。乗っ取られます。封印しておきましょう」

 

「不滅の存在ですか……でも、僕なら……」

 

「ネギくん。自分が使える魔法なら殺せるというのは、甘い考えですよ」

 

「えっ」

 

 図星だったのか、ネギくんの肩がビクリと跳ねた。

 

「悪魔ヘルマンが言っていた『ヨルダの御手(マヌス・ヨルダエ)』では、精神生命体である造物主を殺しきれません。大人しく封印しておいた方がいいのです。私達に必要なのは、時間です」

 

「リンネさん……? 何を言って……? いえ、何を知っているんですか?」

 

 私の言葉に、いぶかしげな表情を浮かべるネギくん。そんな彼に、私は答える。ここまで真相に辿り着いたのなら、もう話してしまっていいだろう。

 

「私の魔法の先生は、エヴァンジェリン先生です。そして、エヴァンジェリン先生を吸血鬼に変えたのは、実は造物主なんですよ」

 

「えっ!?」

 

「ゆえに、エヴァンジェリン先生は造物主に対処する方法を模索してきました。そのうちの一つが、造物主の完全消滅方法です」

 

 私がそう言うと、ネギくんではなく、ゲーデル総督が興味深そうに尋ねてきた。

 

「ほう、あの存在を完全消滅と来ましたか。聞きましょう」

 

 眼鏡のツルをくいっと上げる総督に、私は言う。

 

「魔法による報復型憑依能力。ならば……完全魔法無効化能力の持ち主に倒された場合は能力が成立しない。黄昏の姫御子、神楽坂明日菜さん。彼女がいれば、造物主を消滅させることができます」

 

 だが、それには一つ必要なことがある。

 

「彼女には、造物主の正面に立ってまともに戦えるように……『紅き翼』のメンバーに匹敵する強さを得てもらう必要があります。つまり、私達に必要なのは、時間です」

 

 そして、私はあらためて総督に頭を下げる。

 正直に真相を話してくれた総督に敬意を払い、私も対造物主戦の核心部分を話した。これで、私と彼は一蓮托生。

 

「ですので、ゲーデル総督。(こころざし)を同じくする者として、明日菜さんとついでにネギくんをわずらわしい政治の世界から守ってください。もちろん、造物主にこの最大の手札がバレないよう、この場の会話は絶対の秘密にした上で。どうかよろしくお願いします」

 

 そう言ってから頭を上げると、総督は心底面白いといった感じで顔を歪ませた。

 

「よろしい。魔法世界を救い、真の敵も倒す。このクルト・ゲーデル、あなた方に全力で味方をするとお約束しましょう」

 

 よし、頼もしい仲間ができたぞ!

 でも、その悪役顔は止めていただきたい。なんか裏切りそうって思っちゃうから。

 




※六年前のネギの故郷を救ったナギが分身体というのは当作品のオリジナル設定です。十年前に封印されたのに、封印を解いてイギリスに行ってまた麻帆良に戻って再封印というのも不自然に感じたので。

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