【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■67 覚醒

◆161 ドラゴン殺し

 

 新オスティアで行なった計画推進のための説明は、驚くほど上手くいっていた。

 それはゲーデル総督が全面的なバックアップをしてくれているからで、メガロメセンブリアとは犬猿の仲であるヘラス帝国の者にすらすんなりと話が通った。

 いや、違うか。現実での身体を持たないヘラス帝国の者の方が、魔法世界の崩壊に対して危機感を持っているんだ。最初に話を持っていく先としては、メガロメセンブリアは少しハードモードだったかもしれない。

 

 そんなわけで、だいぶスケジュールが空き、ネギくんも私が持ちこんだダイオラマ魔法球で修行と肉体改造の日々を送っていた。

 そんな九月の下旬、私のスマホに連絡が入った。

 ちう様からで、竜を狩り終わったのでいよいよ新オスティア入りするという。

 

 私は修行中のネギくんと小太郎くんをダイオラマ魔法球から引っ張り出し、『オスティア荷揚げ港』へと向かった。

 いやー、小太郎くん、背伸びたな。どんだけダイオラマ魔法球に籠もっていたんだ。というか、新オスティアに来てから初めて外に出るんじゃないか。

 ネギくんも、地味に背が伸びてきているなぁ。二人とも服、買い換えないとね。

 

「しかし、国際空港ではなく荷揚げ港なんですね」

 

 港に入ったところで、ネギくんがそんな疑問を口にした。

 

「そりゃあ、竜を運んでくるんやから、荷揚げ港になるのも当然やろ」

 

「まさか、ドラゴンをそのまま丸ごと運んでくるんでしょうか?」

 

 小太郎くんの指摘を受け、ネギくんが驚きを含んだ声で再び疑問を口に出した。

 ちう様から話を聞いていた私は、それに軽く答えた。

 

「丸ごと一匹運んでくるそうですよ。どこを素材に使うか不明だったらしいので」

 

「えーと……はい、言っていなかったですね……」

 

 そして、予定時刻の三十分前に港に到着し、私達は荷揚げされる荷物を眺めて時間を潰した。

 

「なんや、全部荷物が箱に入っておって、見ていてつまらんなぁ」

 

「そう言わない。コンテナは二十世紀最大の発明品なんですよ」

 

 空中港に接舷した飛空船から下ろされるコンテナを見て、小太郎くんと私はそんな言葉を交わした。

 まさかコンテナ輸送が魔法世界にまで伝わっていたとは思わなかったけどね。まあ、大容量の荷物を飛空船で空輸できる魔法世界なら、空の上でもコンテナを使うよね。合理的。

 

「と、そろそろ予定時刻です。向かいましょうか」

 

 私はそう言って、ネギま部のキャンプシップの入港地点へと二人を連れていく。

 そして、時間ちょうど。

 周囲がざわめきに包まれ、作業員達が手を止めて空の向こうを注目した。キャンプシップの登場だ。

 

 生物的なフォルムを持つ魔法世界の飛空船と比べて、アークス製のキャンプシップはいかにも機械的という感じで、少し浮いている。

 だが、注目を浴びているのはそこではない。

 キャンプシップに吊り下げられるようにして、一つの荷物が揺れていた。それは、竜の死骸。キャンプシップの十数倍はある、怪獣のごとき竜が凍った状態で存在を主張していたのだ。

 

「……なあ、リンネ姉ちゃん」

 

「はい、なんでしょうか、小太郎くん」

 

「でかすぎへんか?」

 

「でかいですねえ」

 

 いや、ホント。でかいよ。モンハンの古龍かよ。

 

 すると、港の職員らしき人達が飛びだしてきて、どこかと魔法通信をし始めた。

 うーん、どうやらキャンプシップとやりとりをしているようだな。

 と、そこで私のスマホに着信が。ちう様からの電話だ。

 

「はいはい」

 

『すまん、リンネ。なんか荷揚げ港じゃ受け入れられねーらしい。入国手続きだけして『ナイーカ漁港』に行けってさ』

 

「あー、確かにこんな生モノ、荷揚げ港の管轄じゃないですよね」

 

『それじゃすまんが、リンネも漁港に向かってくれ』

 

「はいはい」

 

 そこで通話を終え、私はスマホを手元から消した。

 そして、私はネギくんと小太郎くんに向けて言った。

 

「漁港に向かってほしいそうです」

 

「なんや、やっぱでかすぎたんか。でも、漁港でも入港拒否されへんか?」

 

 小太郎くんがそんな心配をするが、大丈夫だろう。

 

「『ナイーカ漁港』では、たまに空飛ぶ鯨とかが水揚げされるらしいですから、大丈夫でしょう。この場合、水揚げって言うんですかね?」

 

 空揚げ? まあ、いいだろう。

 

「なので、漁港まで飛んでいきましょうか。漁港は島の反対側です」

 

「地味にめんどいな……リンネ姉ちゃん転移魔法とか使えんのか?」

 

「私の転移は射程そこそこですが、一人用なんですよ。諦めて、皆で飛んでいきましょう」

 

 そういうわけで、ネギま部との再会は持ち越しになった。

 しかし、なんともまあ、あんな巨大生物が魔法世界には普通にいるんだから、驚きだよね。

 

 

 

◆162 雷竜

 

 漁港につくと、そこは人でごった返していた。

 漁師ではない。いかにも、業者の人と行った感じだ。その会話をこっそり聞いていくと、彼らの狙いは水揚げされる竜らしい。荷揚げ港の話が、もう業者に伝わったのか。商機に敏感な人達だなぁ。

 

「おー、こっちの港は、おもろいな!」

 

 地球では見ない空飛ぶ魚を見て、小太郎くんがはしゃいでいる。

 小太郎くんは新オスティアに来てからは、観光もせずに修行漬けだったからなぁ。異世界の魚は珍しかろう。

 そして、またちう様から連絡が来た。無事に漁港に辿り着いたようだ。

 

 私は、漁港の職員さんが業者の人を押しとどめているポイントに移動して、キャンプシップの入港を見守る。

 漁港の水揚げ場に巨大な竜が置かれ、業者の人達が血走った目でそれを凝視する。

 

 やがて、キャンプシップが接舷し、中からネギま部のメンバーが転移してきた。うん、キャンプシップって入口が開くんじゃなくて、フォトンでの転移で乗り降りするんだよね。

 

「とうちゃーく!」

 

 明日菜さんが真っ先にそう口を開くと、他のネギま部のメンバーもキャイキャイとはしゃぎ始めた。

 業者の人達は、まさかの若い女の子達の集団に、面を食らった表情になる。

 

「よし、解体するぞ。ネギ、こっちへこい!」

 

 と、雪姫先生がこちらを見つけ、私達を手招きした。

 私はこれ幸いにと、ネギくんと小太郎くんを引き連れて、業者の群れから抜け出し、竜のもとへと近づく。

 うわ、近くで見るとすっごいね、生ドラゴン。血を浴びたら不老不死になるような神秘的な力は感じないが、魔力自体はビシバシ感じる。

 

「ご注文の品だ。エリジウム大陸のケルベラス大樹林で狩った、雷竜だ。魔法を使える最上位の種だぞ」

 

 雪姫先生のその言葉に、業者からどよめき声が上がった。

 雪姫先生はそれを気にも留めず、言葉を続ける。

 

「必要な部位を言っていけ。切り分ける」

 

 そう言って、雪姫先生は『エクスキューショナー・ソード(エンシス・エクセクエンス)』の魔法を発動して、凍った竜の死骸に近づける。

 だが、横からそれを止める者がいた。

 

「待て、待ってくれ! そんな魔法で乱暴に切り分けないでくれ!」

 

 それは、事態を見守っていた業者の一人。

 横目でそれをチラリと見た雪姫先生は、すぐに視線をネギくんに戻し、言った。

 

「さあ、どこだ。やはり心臓か?」

 

「待ってくれー! いきなり心臓抜くとか、やめてくれー!」

 

 その叫びに、さすがにネギくんも可哀想になったのか、雪姫先生に言った。

 

「ええと、解体は港に任せたらどうでしょうか。その方が、素材の質が上がりそうですし」

 

 すると、雪姫先生はため息をついて、魔法を解除した。

 

「やれやれ、仕方ないな。だが、貴様ら。そう言い出したからには、解体費用はそちらで持てよ」

 

「余った部位を卸してくれるなら、解体費用程度なんも痛くねえ!」

 

 そう主張する業者の言葉を聞き、雪姫先生はネギくんにどうするかと尋ねた。

 

「ええと、僕もさすがにこんな巨体は使い切れませんし、余った分は卸すので構わないかと」

 

「分かった。おい、お前ら、臨時収入だぞ! 卸業者が雷竜の部位、お買い上げだ!」

 

 雪姫先生が、事態を途中から見守っていたネギま部メンバーにそう伝えると、彼女達は盛大な歓声を上げた。

 こんだけでかい雷竜の売却額かぁ。すごいことになりそうだ。私もおこぼれに預かりたいものだが……ダメかな?

 

 

 

◆163 竜の因子

 

 あの後、ネギくんは心臓丸ごと一つと、肺片方、血液一樽、眼球二つに角の先、頭骨の破片に鱗、牙、尻尾の付け根等と、希少価値が高い部位を確保していって、残りを卸すのではなく競りにかけた。

 重要部位を抜かれて残念がっていた業者達だが、それでも雪姫先生の手で魔法的に凍らせた竜の素材は新鮮そのもので、競りは大いに盛り上がった。

 

 そして、ネギま部でも一部の素材を特別に確保した。

 それは、竜肉。

 

 竜肉料理に慣れている料理人のオーガスタさんをスマホから呼んで、私達はホテルでドラゴンステーキを食べることになった。

 竜は巨大なので、ネギま部が確保した肉の量も大量だ。それを一部、泊まっている宿の厨房に提供すると、支配人がやってきて丁寧な礼をされることになった。オスティア終戦記念祭で上客が多くやってきているので、目玉になる肉は大変ありがたいとのことだった。

 

「物語の中では喋るドラゴンがよく出てきますが、こちらのドラゴンは完全に野生動物でしたね……」

 

 ドラゴンステーキを食べ終わりレストランで余韻に浸っていると、のどかさんがそんなことをポツリと言った。

 なるほど、竜の生態も見てきたのか。全力でモンスターハンターごっこを楽しんできたものと見える。

 

「人語は喋れんが、知能は高いぞ? 帝都ヘラスの龍樹は守護聖獣などとも言われていて、帝国民の守りとなっている」

 

 雪姫先生がそう言うと、ネギ先生も何か思い当たることがあったのか話に乗ってくる。

 

「図書館島の地下にいたワイバーンも、クウネルさんからいただいた招待状を見せたら、丁寧な対応をしてくれましたね。こちらの言葉も通じているようでしたし……」

 

「つまり、私達は人と会話が成立するレベルで賢い生物を食べたわけですね」

 

 夕映さんがそのようなことを言い出すが、雪姫先生は鼻で笑う。

 

「竜が害意を持たずに人に触れて、初めて賢くなる。野生で生きる竜など、ただの悪知恵が働くだけの動物だ。この世界でも、そういう竜は人里を襲うし、狩猟対象でもあるぞ」

 

「竜単独で高度な文明を築いているわけではないと」

 

「その通りだ」

 

 雪姫先生の言葉を受けて、夕映さんがホッと息を吐く。人と普通にやりとりをできる文明的な生物を食べるのは、一種の忌避感があるよね。そして、竜は人に飼い慣らされないとそうはならないと。

 まあ、『魔法先生ネギま!』の魔法世界編を読んでも、竜は基本駆除対象って感じだったね。

 

「あれ? 図書館島の地下にいたってことは、竜は魔法世界の外に出られるということかしら」

 

 水無瀬さんがそう言うと、確かにとネギま部の一部メンバーがうなずく。

 

「意外と妖魔は現実世界に多く存在しているものですよ」

 

 と、京都神鳴流の刹那さんが言った。彼女なら、竜種を地球で相手した経験もあるのかもしれない。

 

「そうアルネー。妖怪とか現実にもいっぱいアル」

 

 崑崙で何を見てきたのか、古さんがしみじみとした感じで言った。

 

 ちなみに帝都の龍樹は『造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメーカー)』という魔法世界特有の幻想生物を消す手段が効くので、地球には出られないはず。

 

 と、そんな感じでひとしきり竜について話してから、私達は部屋に戻った。

 各自の部屋、ではなく、ネギくんと小太郎くんが泊まっているスイートルームにだ。ネギくんが竜の因子を埋め込むというので、それをみんなが見に来たのだ。

 

 部屋の中央に置かれたダイオラマ魔法球に入り、内部に私が『Minecraft』の能力で建てた研究棟へと向かう。

 すると、ルーサーとローブ姿の青年が、準備を終えて私達を待っていた。

 

「どうも。ドラゴン肉のお味はいかがでしたか?」

 

 私がそう言うと、ルーサーが答える。

 

「それなりの獣肉、といった感じだね。アムドゥスキアの龍族の肉も食べたことはあるが、味は結構違ったかな」

 

 アムドゥスキアの龍族って、独自の言語で話す知的生命体なんだけど、『PSO2』だと料理人の依頼で肉を狩ることになるんだよね。先ほどの夕映さんの話じゃないが、人と会話が成立するレベルの賢い生物を食べるオラクル人よ……。

 と、そんなことを思っていたら、ローブ姿の青年も話に乗ってきた。

 

「食べただけで肉体が変質するような神秘性はなかったね。魔力は豊富だけど、生物としての格は人や動物とは変わらないようだ」

 

 なるほどね。人魚の肉は食べたら不老不死になる世界なのに、竜の血を浴びても不死身にはならないってことだ。微妙にロマンがないが、そんな竜の因子を取り込むネギくんも、生物の範疇からは逸脱しないで済むというわけだ。

 

「おー、見たことないお兄さんやなぁ」

 

 と、木乃香さんのそんな言葉を聞いて、そういえばネギま部のメンバーと彼は初顔合わせだったなと思い出す。

 ローブ姿の彼もそれに思い当たったのか、自己紹介を始める。

 

「やあ、魔術師のお兄さんだよ。気軽にマーリンさんとかマーリンお兄さんとか呼んでくれ」

 

「こちら、『アーサー王伝説』に登場するあのマーリンです。正体は人間じゃないゆえ、人の機微が分からない困ったお方なので、言うことをあまり真に受けないようにしてください」

 

 そんな私の適当な紹介を聞き、マーリンはなぜか笑みを浮かべて言う。

 

「ひどいなあ。まあ、事実だから反論できないけど」

 

「今回のネギくんの改造手術は、ルーサーが人体改造のバランス調整を行ない、マーリンが魔力的な因子の適合を見るという感じですね」

 

「術式はネギ君が全面的に設計したから、お兄さんの出番はあんまりないんだけどね」

 

 マーリンは肩をすくめて、私の説明にそう補足を入れた。

 

 そして、いよいよネギくんに竜の因子を注入していく改造手術へと移る。

 とは言っても、全部機械化されており、スマホの中の宇宙で作りだしたカプセルの中にネギくんが横たわり竜の因子を機械で注入し、その様子をモニターするという、待つだけの作業だ。

 演算器が適切な因子の注入量などを調整してくれるので、ルーサーもマーリンも特にこれといった動きは見せない。

 

 注入は三十分ほどで完了し、その後メディカルチェックを行なって、手術は完了した。

 

「うーん、思っていたのと違う」

 

 ハルナさんが、なにやら残念そうにそう言った。

 

「どんなのを想像していたんですか?」

 

 私がそう尋ねると、ハルナさんはスケッチブックを開き、手術台に横たわりメスで開腹されるネギくんの姿を描いて、言った。

 

「こう、ショッカーの改造手術的な!」

 

「人の身体を竜のパーツとそのまま入れ替えるのではなく、ネギくんの存在を竜に変質させる魔法儀式ですからね。もっと概念的なんですよ」

 

 私がそう説明すると、なるほどとハルナさんと他のネギま部メンバーも納得した。

 

 そして、メディカルチェックからネギくんが戻ってくる。先ほどまでの話に加わっていなかった小太郎くんが「どないや」と尋ねた。

 

「試してみるよ。『竜化』」

 

 ネギくんがそう言うと、彼の腕がみるみるうちに変形し、ゴツゴツした竜の腕へと変わった。

 

「うん、かなりスムーズになったね。成功だよ」

 

「よし、ネギ、模擬戦や!」

 

 早速とばかりに、小太郎くんがネギくんとの模擬戦を希望する。

 ネギくんはそれを了承し、二人のバトルが始まった。

 

 それをネギま部の面々は、夜食を用意しながら観戦するのだった。

 

 

 

◆164 真の力

 

 模擬戦は竜化と獣化を行なった二人による泥沼の殴り合いの戦いに突入したため、途中で雪姫先生が止めに入った。

 そして、現在、木乃香さんの治療を受けた二人がぐったりとしている。

 

「はー、これで獣化の優位がなくなってしもうたか」

 

 どこか憂鬱そうに、小太郎くんが言った。

 その小太郎くんに木乃香さんが言う。

 

「追いつかれたなら、さらなる修行で突き放すんやでー」

 

「修行、修行なぁ……」

 

 小太郎くんが、そうつぶやいて渋い顔をした。

 ふーむ。小太郎くん、修行上手くいっていないのかな?

 

「浮かない顔やなあ。壁にでもぶつかった?」

 

 そんなことを木乃香さんが尋ねると、小太郎くんは素直に答える。

 

「そやな。なんかこう、目に見えた成果が出せなくなったちゅーか、停滞気味な感じやな」

 

 なるほどー。そうか、それなら……。

 私は手元にスマホを呼び出し、『千年戦争アイギス』を起動する。そして、『聖霊預かり所』から一つの存在を受け取った。

 その存在を瞬時に現世に呼び出し、私は小太郎くんに近づきながら、言う。

 

「限界が見えたなら、とりあえず覚醒してみますか?」

 

 私の隣には、羽が生えた小さな女性が浮いていた。どこかうっすらと光っていて、神秘的だ。

 

「うわ、なんや、妖精さん!?」

 

 その女性を見て、木乃香さんが瞬時にテンションを上げた。

 私は、その小さな女性を自分の指の上に止まらせて、紹介をする。

 

「こちら、『覚醒聖霊ヴィクトワール』さんです。彼女の力を借りて、小太郎くんの覚醒をうながしてみましょう」

 

「覚醒って、なんや? 具体的に言ってくれへんか」

 

 小太郎くんの期待がわずかにこもった質問に、私は指の上のヴィクトワールさんを見せつけながら答える。

 

「潜在能力の解放ですね。『ドラゴンボール』を読んだことはありますか? それに出てくる超神水や、ナメック星の大長老のようなものだと思ってください。小太郎くんに秘められた真の力を引き出すのですよ」

 

「おお! ドーピングやないなら、受けてみたいわ」

 

「では、聖霊さんを受け入れてください」

 

 私は、小太郎くんの方にヴィクトワールさんを放つ。すると、ヴィクトワールさんが小太郎くんの手に止まり、光り輝く。

 

「おおおおお? これ、どうすればいいんや」

 

「……さあ?」

 

「オイ!」

 

 いやー、私もリアルで覚醒の聖霊を使うなんて初めてだしさ。

 私が困っていると、ヴィクトワールさんが私を指さした。ん? なんだろう。その指の先を正しく追うと、スマホに行き当たる。

 私は、『千年戦争アイギス』の画面を起動したままのスマホの画面に目を落とす。すると、なぜか聖霊預かり所の画面から、ユニットの覚醒画面に変わっていた。

 しかも、画面に描かれたキャラクターのイラストは、格好良いポーズを取る小太郎くんのもの。なにこれ素敵。

 

 私は、その画面で『自動選択』ボタンを押し、素材を投入。続けて『決定』ボタンをタップした。

 すると……。

 

『秘められた力を引き出しましょう』

 

 小太郎くんの指に止まっていたヴィクトワールさんが、そう言葉を発し、より強く光り輝く。

 ヴィクトワールさんは光りながら、小太郎くんの手の甲に口づけした。すると、ヴィクトワールさんは空気に溶けるように消えていき、光が収まる。

 それと同時に、小太郎くんから物凄いオーラがほとばしった。

 

「お、おお! これが俺に眠っていた力か!」

 

 うんうん、無事に覚醒できたようだね。でも、待ってほしい。おかわりがある。

 私は聖霊預かり所から、さらにもう一体の聖霊を呼び出す。

 

『とうとう私の出番か』

 

「また違う妖精さんやー」

 

 新たな聖霊の登場に、木乃香さんがキャッキャと喜ぶ。

 

『誰が妖精か。われは闇の聖霊!』

 

「こちら、ヴィクトワールさんで覚醒した人をもう一段階覚醒させる、『常闇聖霊オニキス』さんです」

 

『うむ。で、オーナー。力を引き出すのはあの小僧でよいか?』

 

「はい、お願いします」

 

 私がそうお願いすると、オニキスさんはほとばしるオーラをなんとか静めている小太郎くんの方へと飛んでいった。

 そして、彼の肩の上に止まってから、闇色の光を発し始めた。

 

『ふむ、そなたには二つの道がある。一つは、狗の化身として力を高める道。もう一つは、影の狗を使役する術者としての道』

 

「狗族の戦士か、狗神使いか、ちゅうことやな」

 

 おお、選択肢が二つとか、小太郎くん『千年戦争アイギス』基準だと最高レアのブラックユニットみたいだぞ。やるじゃん。

 どちらを選んでも、強化されるだろう。本来なら悩むところなのだが、小太郎くんは即決した。

 

「もちろん、俺が選ぶのは戦士や!」

 

『分かった。では、オーナー、頼む』

 

「はいはい」

 

 私はスマホを操作し、クラス選択が『狗族闘神【ネギま】』となっていることを確認。おお、コラボユニット扱いか。コラボなのに第二覚醒できるんだなぁ、と思いつつ素材を自動選択して『決定』をタップした。

 

『われに心を委ねるのだ。そなたの真の力を解放してやろう』

 

 ヴィクトワールさんのときとは対照的な闇色の光が小太郎くんの周囲を満たし、その闇が全て小太郎くんに吸い込まれていく。

 闇が全て収まったときにはオニキスさんは姿を消しており、残された小太郎くんは……髪色が銀に変わっていた。

 

「うわー、何それ、変身!?」

 

 小太郎くんの変化に、ネギくんが目を輝かせる。

 

「うおお、すごい力があふれてきよるで! 今ならベオウルフのおっちゃんも殴り飛ばせそうや!」

 

 これで、小太郎くんの第二覚醒完了だ。

 真の能力に目覚め、強力な力を手にしたことだろう。システム的にレベルキャップが解放されたとしたら、行き詰まっていた修行でもさらに力が伸びやすくなったかもしれない。

 

 まあ、それよりもだ。

 

「小太郎くん、こちらを」

 

「ん? なんや?」

 

 私は、小太郎くんにスマホから呼び出した手鏡を差し出す。

 小太郎くんは、不思議そうにその鏡を眺めると……。

 

「うわ、なんや。獣化もしとらんのに髪の色が変わっとる!」

 

「おそらくですが、狗族の力を引き出した結果、その要素がより濃く出たのかと」

 

「そうかぁ……まあ、髪の毛なんぞどうでもええか」

 

 小太郎くんは手鏡をこちらに返してきて、その場で身体の調子を確かめ始めた。

 狗神の召喚、影の術の試し打ち、獣化といった特殊能力も確認していく。その様子を眺めていたネギま部だが、ふと明日菜さんが言った。

 

「あの覚醒っていうやつ、私もできるのかしら」

 

 すると、事態を見守っていたネギま部メンバーが目を輝かせてこちらを見てきた。

 しょうがないなぁ……覚醒の聖霊も余っているし、試すのもやぶさかじゃないよ。でも、壁を感じるほど鍛えないと、多分覚醒はできないはず。

 

 そう思って全員に試したところ、覚醒できたのは楓さんと雪姫先生だけだった。

 

 楓さんは忍者としての正統進化である『甲賀忍神【ネギま】』と戦闘能力に秀でた『護法闘忍【ネギま】』の二つの道があり、悩みに悩んだ末『護法闘忍【ネギま】』を選んだ。もちろん、【ネギま】という部分は伏せて教えているよ。

 護法というから、仏教関連の力でもあるのかと思ったが、夕映さんが『鬼一法眼』から教えを受けていたからではないかと推察をした。鬼一法眼とはすなわち鞍馬天狗のことであり、護法魔王尊とも呼ばれる。法眼とは僧侶に対する尊称であり、その力の源泉には仏の教えと法力があってもおかしくないと夕映さんは語った。

 楓さんもちょくちょく説法を受けていたようで、それが仏の教えとは思っていなかったが、言われてみると確かに納得できることもあると言っていた。

 

 一方、雪姫先生は『金星の闇姫【ネギま】』と『イモータルソーサレス【ネギま】』というクラスの選択肢があった。『金星の闇姫【ネギま】』は『闇の魔法(マギア・エレベア)』の力を高めるクラスで、『イモータルソーサレス【ネギま】』は魔法全般を扱う不死者としての力を高めるクラス。

 私的には『金星の闇姫【ネギま】』がよさげに思ったのだが、雪姫先生的には『闇の魔法』は手札の一つでしかないとのことで、全般的な強化がされる『イモータルソーサレス【ネギま】』を選んだ。雪姫先生って、アンデッドじゃなくてイモータルなんだなぁ。

 雪姫先生的には、人形使いとしてのクラスがなかったことにイマイチ納得いっていないようだ。まあ、第二覚醒の選択肢は最大でも二つだけだからね。

 

 そういうわけで、思いがけないネギま部の強化が終わり、小太郎くんはさらなる修行にはげむようになったのだった。

 


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