【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■70 オスティアの死闘

◆171 とくと見よ

 

『ジャック・ラカン、倒れる! まさかの展開です! それでは、カウントを取ります! 1! 2! 3!』

 

 肩で大きく息をする人型の雷竜ネギくん。だが、油断はせずジャック・ラカンの方をじっと見つめたままだ。

 カウントが進んでいくが、その一方で、カゲタロウと小太郎くんの戦いは激化していた。

 

 自身から出す影では小太郎くんに打ち勝てないと悟ったカゲタロウは、小太郎くんの足元の影を変化させて攻撃する手段に出た。そして、自分は影を使った転移でひたすら距離を置き続ける。完全な逃げ撃ちに走っていたのだ。

 だが、小太郎くんは直感でその攻撃のほとんどを回避していき、攻撃が直撃したら狗族の再生能力ですぐに傷をふさぐ。

 さらに、距離を取って逃げるカゲタロウには、必中の気弾を放って確実にダメージを与えていく。

 

 そう、必中である。

 小太郎くんは、スカサハ師匠に可愛がられていたからだろうか。シミュレータールームで魔槍『ゲイ・ボルク』を何度も心臓に食らい続けているうちに、いつの間にか彼は必ず当たる攻撃を生身で行使できるようになった。

『ゲイ・ボルク』が持つ『心臓に槍が命中した』という結果を先に作って『槍を放つ』という原因を後から作る『因果逆転の呪い』ほど強力ではない。だが、小太郎くんの攻撃は幾度回避されようとも、『気』が後を追って確実に命中するのだ。それも、貫通効果をまとった状態で。

 

 貫通と必中。二つの技で、小太郎くんは確実にカゲタロウを追い詰めていた。

 

『14! 15! ラカン選手立ち上がりません! 16! 17! 18ィィィ!?』

 

 カウントが18まで進んだところで、ゆらりとジャック・ラカンが立ち上がった。その身体は血に塗れている。

 だが、気合いで治したのだろうか、傷はふさがっていて血が止まっていた。

 

『立った! 立ちました! 見るからに満身創痍といった見た目ですが、足元はフラついてすらいません! 英雄健在!』

 

 その姿に、観客席からどよめきが起こる。

 そして、そのどよめきに混じって、小さな笑い声が聞こえてきた。

 

「くくく……。フフフフ……」

 

 それは、実況用の魔法が拾った、ジャック・ラカンの声。

 

「フゥフフハ、ヌフウフハ、ウハハハハ! ワーッハッハッハッハハハ!」

 

 心底おかしいといった様子で、ジャック・ラカンが額に手を置いて笑う。

 

「フフ……」

 

 そして、急に笑いを止めたかと思うと、ジャック・ラカンは気を全身からたぎらせ、素手のまま構えを取った。

 ネギくんは、その構えに警戒して剣を正眼に構える。が、次の瞬間、ジャック・ラカンがネギくんの目の前に踏みこんでいて、ネギくんを殴り飛ばしていた。

 

 速い!

 そこからジャック・ラカンがネギくんに追い打ちをかけるように殴りつけていく。

 竜の(あぎと)から血を吐きながらもネギくんが反撃するが、ジャック・ラカンは斬りつけられようが気にせずにネギくんをひたすら殴り続けた。

 

 そして、特大のストレートパンチがネギくんを吹き飛ばしたところで、ネギくんはようやく翼を背中から生やして姿勢を制御し、自身も高速移動をして距離を取った。

 ジャック・ラカンはそれを追わず、「フゥー……」と大きく息を吐いた。

 固唾を飲んで見守っていた観客達も、それにつられて息を吐き出す。

 

『強い! 強い強い! 最初の攻防はなんだったのか、ラカン選手、ネギ選手を軽くあしらいました』

 

「俺は剣を使うより、素手の方が強えからな」

 

『おおっと、アーティファクト要らない子宣言です!』

 

 ジャック・ラカンは調息が終わったのか、再び全身に気をみなぎらせて構えを取る。ネギくんの反撃による出血は、いつの間にか止まっていた。なにこのウェアウルフ並みの再生力。

 対するネギ先生は鈍い音を立てて翼を伸ばし、尻尾を生やし、角を生やした。もはや、完全に二足歩行の竜である。

 

「行くぞ」

 

 ジャック・ラカンがそう告げると、二人は高速で戦いを始めた。

 インファイトに持ちこもうとするジャック・ラカンに対し、ネギくんは翼を使って立体的な動きを始め、尻尾で牽制し、角から雷を撃ち、雷のブレスを吐く。

 原作漫画の雷速瞬動のような絶対的な速さはないが、それでも常人の目には追えない速さでネギくんは縦横無尽に駆ける。

 しかし、その程度で打倒できるほど、ジャック・ラカンは甘くなかった。

 

 ネギくんは角を折られ、翼をねじ切られ、胸に強烈なストレートパンチを受けて、血を吐きながらダウンする。

 

「一見速く見えるが、素人そのものの動きだな。ネギ、てめえ完全竜化にまだ慣れてねえな?」

 

 そう、そうなのだ。竜化して翼を生やすと高速で移動はできるのだが、その状態で超一流の動きをできるほどの修行は積めていない。『千年戦争アイギス』の竜人達を呼んで指導はしてもらったが、短い期間では完璧に仕上げることができなかったのだ。

 

 全身からおびただしい量の血を流しながら、倒れ伏すネギくん。

 そのネギくんを、戦いでできた瓦礫の上から見下ろしながら、ジャック・ラカンが言う。

 

「ま、こんなもんだろ。ギブアップしな。早く治療してもらわねぇと、手遅れになるぜ」

 

 だが、ネギくんはガクガクと震えながら立ち上がろうとする。

 そして、そこからジャック・ラカンのあおりが始まった。

 

「やめとけやめとけ。こんだけ俺と戦えれば力を示すには十分だろ。今回、俺がお前に喧嘩売ったのは、お前の力が見たかったからだ。十分、分かった。俺の拳を受けてまだ動けているだけで、勲章もんだ。期待以上だ。だから、やめとけって。お前じゃ無理無理。これ以上は死ぬだけだ」

 

 そんな言葉を聞きながら、必死で立ち上がろうとするネギくん。

 

「早くギブして手当てしないと死ぬぜー。ギブアップで何も恥じるこたねぇ」

 

 ジャック・ラカンが手を叩いて挑発した、その時だ。

 

『コラー! ネギ! 立たぬかー!』

 

 闘技場に、声が響いた。

 

『真の力を出し惜しみして負けるなど、許さぬ! 妾があやつを説得するのにどれだけ苦労したと思っておる! 早く本気を出して、ジャックなどケチョンケチョンにするのじゃー!』

 

『ちょっ! 姫様! これ全国放送されてますから!』

 

『よいか、ネギ! 我が帝国の力を見せてやるのじゃ!』

 

 この音声、テオドラ皇女だ……。どうやら解説席からマイクを奪って、ネギくんに向けて叫んだようだ。

 そのネギくんはというと、膝立ちになった状態で全身を変形させ始めた。

 

 身体の表面がうごめき、鈍い音を立てて形を変えていく。すると、翼が落ち、折れた角が落ち、尻尾が落ち、鱗が落ちた。

 下から出てきたのは、木肌。背から枝が伸び、絡み合って翼を形成する。

 それは、竜の姿であるが、それと同時に木でもあった。

 

「龍樹、か……」

 

 ジャック・ラカンがポツリとつぶやく。

 それを耳ざとく聞いていた実況アナウンサーが叫ぶ。

 

『龍樹、龍樹です! ネギ選手、とんでもない手札を隠していたー! 龍樹と言えば、このオスティア終戦記念祭にもやってきている、ヘラス帝国の守護聖獣! 古龍(エインシェントドラゴン)龍樹(ヴリクショ・ナーガシャ)です! まさかネギ選手、雷竜だけでなく、龍樹の力もその身に宿していたのかー!』

 

 そんな言葉でカウントが止まり、ネギくんは変形を完了させる。その背丈や体躯は一回り大きくなっており、枝が絡みついてできた表皮は、もはや装甲と言っていい。

 その姿は、祭りのパレードで見た龍樹にひどく似通っている。アナウンサーが言ったとおり、龍樹は帝国の守護聖獣であり、ジャック・ラカンと引き分けた経歴を持つ。

 ネギくんがその力を宿しているのにも理由があって、テオドラ皇女が新オスティアにやってきている龍樹と交渉して、素材を譲ってもらったのだ。

 

 そんな小さな龍樹と化したネギくんは、その場で雄叫びを上げ、ジャック・ラカンに向けて飛翔した。

 速い。先ほどまでよりもはるかに速い。

 

 そして、そのままジャック・ラカンを殴りつけようとするが……。

 

「暴走してんじゃねえか」

 

 逆にジャック・ラカンに殴られ、元の場所へと吹き飛ばされていった。

 カウンターとなった一撃は強烈で、地面に突き刺さるネギくん。

 下半身が地面に埋まり、ジタバタと動くネギくんだが、脱出できずに、その場でブレスをめちゃくちゃに吐き出し始めた。

 

 実況アナウンサーが、叫び声を上げながら逃げていく。

 ブレスは闘技場の魔法障壁に当たり、地面を大きく揺るがす。雷竜の時とは比べ物にならない高威力のブレスだが、敵に当たらなければ意味がない。

 そのネギくんの暴走を見て、ジャック・ラカンが指を指して笑う。

 

 うん、実は龍樹の力、暴走するんだよね。

 龍樹の因子は、最初にネギくんが手に入れていた雷竜の因子と相性がよすぎて、過剰なパワーを発揮してしまうのだ。雷竜状態で暴走していなかったのは、先ほどまで龍樹の因子を封印していたから。

 

 五行思想における『木』は、八卦における『風・雷』に相当する。そのことから木と雷は同じ属性を持ち、足し算されてさらなる力を生むのだ。その大きすぎる力をネギくんはまだ制御しきれていない。

 テオドラ皇女の厚意で龍樹の因子を埋め込んだはいいものの、そういった理由で実戦レベルに仕上がっていないのが現状。これをどうにかするには……どうすればいいんだろうね?

 

「まったく、隙だらけすぎて、笑えるぜ。殴り放題だ」

 

 ようやく地面から抜け出したネギくんにジャック・ラカンが近づき、連打を浴びせる。

 樹を素手で殴りつける鈍い音が響きわたり、ネギくんは一方的になぶられ続ける。

 

「それ、もう眠りな!」

 

 ジャック・ラカンのパンチが、樹で作られた表皮をえぐってネギくんの胸に突き刺さる。

 

「あ、やべ、やり過ぎたか」

 

 ジャック・ラカンは、あわてて拳を引き抜く。

 すると、胸の中からポロリと何かが転げ落ちてくる。それは……『雷公竜の心臓』。

 それを目で追っていたジャック・ラカンは、次の瞬間、ネギくんに殴り飛ばされていた。

 

 龍樹の腕力で、豪快に吹き飛ぶジャック・ラカン。

 ネギくんは背の翼で飛翔してそれを追い、ひたすらにジャック・ラカンを殴りつける。その動きは正確で、暴走している様子は見えなかった。

 よかった、どうやら今回暴走した最大の原因は、身に取り込んでいた『雷公竜の心臓』だったらしい。

 

 そして、ネギくんは上空に大きくジャック・ラカンを蹴り飛ばすと、そのまま連続してブレスを何度も吐き出した。

 風と雷が籠もったものすごいブレス。一撃一撃が『千の雷(キーリプル・アストラペー)』にも匹敵するのではと思わせるそれは、見事にジャック・ラカンへ命中していく。

 

 やがて、ブレスが止み、ネギくんはいそいそと地面に転がった魔剣を拾い始める。それからネギくんは、龍樹の姿のまま、いつものように剣を構えた。

 地面に落下したジャック・ラカンは……あれだけブレスを食らって、まだ無事だ。

 

「くかか! やるじゃねえか! よし、続きだ!」

 

 闘技場の端の方まで吹き飛んだジャック・ラカンが、豪快に笑いながらそう叫ぶ。

 ネギくんはそれに対して淡々と答える。

 

「いえ、アーティファクトの力がないので、残る魔力は攻撃一回分だけです」

 

 魔力切れ。雷竜の姿ならばアーティファクトだけでなく、自身の心臓からも魔力を引き出せるネギくん。だが、龍樹の姿ではまだ無限の魔力を生み出すほど、心臓に因子が馴染んでいないのだ。

 これは、テオドラ皇女からもらった龍樹の素材が心臓等の重要部位ではなかったというのが大きい。さすがに帝都の守護聖獣から心臓をもらってくるわけにはいかないからね。龍樹の素材は培養してクローン臓器を増やしているが、この戦いには間に合わなかった。

 

「なんだぁ? もうへばったのか」

 

 あおるようにジャック・ラカンが言う。

 

「はい。ですので、最大の一撃で決着をつけませんか?」

 

 ネギくんが、魔剣に魔力を強く込めながら、そう提案した。

 それを聞いたジャック・ラカンは、本日最高の笑みを浮かべる。

 

「いいぜ! そういうのを待っていたんだよ! 力比べだ!」

 

 闘技場の端で、ジャック・ラカンが拳を構える。

 そして、地響きを感じるほどのオーラをその拳に込めだした。

 

 ネギくんも、今までにないほど魔剣に魔力を集めている。

 

『これは凄まじい! 試合開始以来、最大級の気と魔力の集中です! 互いに必殺の最終攻撃! この一撃が決着となるのでしょうか!』

 

 どうやらネギくんのブレス攻撃から逃げ切ったらしい実況アナウンサーが、そんな言葉で場を盛り上げる。

 観客席はこの日最大の盛り上がりを見せて、二人の気と魔力に負けないほどの歓声が闘技場を震わせていた。

 

 そして、はち切れんばかりに両者のオーラが高まったところで、ジャック・ラカンが拳を振り抜く。

 

「『ラカン・インパクト』ォォォッ!」

 

 もはや宇宙戦艦のビーム砲と言っていい極太の気弾が拳から放たれ、闘技場を真っ直ぐ突き進む。

 対するネギくんは、魔剣を振り上げたまま動かない。代わりに、ネギくんの足元に魔法陣が輝くが、気弾はそのまま魔法陣を素通りしてネギくんに直撃する。

 だが、ネギくんの表皮に触れたその気弾は、まるでそこに存在しなかったようにかき消えた。

 

「何ッ!?」

 

 拳を振り抜いた格好のジャック・ラカンが、驚愕の表情を浮かべる。

 これこそ、ネギくんが最後まで隠し持っていた最大の手札。魔法無効化。

 明日菜さんと同じ王家の血を引くネギくん。彼にも完全魔法無効化能力『火星の白』の片鱗は眠っていた。

 それをネギくん、メディア様、黒衣のサイラス、賢者バルバストラフ、ルーサーの五人で解析し、明日菜さんの体細胞サンプルも採取して、その正体を突き止めた。

 その結果、『UQ HOLDER!』の世界線のネギ先生ですら実現できなかった、ネギくん本人による魔法無効化術式の開発にこぎつけたのだ。

 

 ジョーカーとも言える逆転の手札。それをネギくんは土壇場で切った。

 魔力と気はそれぞれ発生源が違うだけで、本質は同じもの。なので、気弾は魔法無効化能力で消える。

 見事にジャック・ラカンの一撃を無効化したネギくんは、翼をはためかせてその場で大跳躍し、空の上から光り輝く魔剣を振り下ろす。

 

とくと見よ(Behold)! 『白き翼(ALA ALBA)』ッ!」

 

 魔力の奔流が、ジャック・ラカンへと突き刺さり、そのまま地面をぶち抜く。闘技場の外壁を抜いたのか、これまでにない大きな揺れが観客席を襲い、場内にアラートが鳴り響く。

 こりゃあ、闘技場の魔法障壁ごと抜いちゃったかな。水平に振り抜くなっていう私の警告を守って偉いッ!

 

『き、決まったー! ネギ選手の一撃が決まった! 今度こそ魔剣はラカン選手を打ち倒したのか!?』

 

 ネギくんが着地し、魔力切れか、精神力に限界が来たのか、膝を突く。

 

 この一撃が、ネギくんの最大の手札その二。龍樹形態での魔剣解放。魔剣は世界樹の素材で鍛えられており、木の属性を帯びている。そして、ネギくんが木そのものである龍樹となることで、力を最大限に引き出すことができるのだ。

 ネギくんが暴走していないときに試し打ちした際は、雪姫先生が張っていた結界を抜いて、ダイオラマ魔法球を損傷させたほどだ。必死で直すハメになったよ! メディア様が!

 

 そんな一撃を食らったジャック・ラカンは、土煙に覆われていてその姿が見えない。

 だが、ネギくんは膝を震わせながら立ち上がり、剣を構える。魔力を先の一撃で使い切り、もう限界といった様子だ。

 

 そして次の瞬間、ヤツは来た。

 全身から血を吹き出しながら突進して、ネギくんを殴りつける。

 とっさにネギくんは魔剣で突くが、ジャック・ラカンは左腕でそれを防ぎ、腕に刺さった剣を絡め取るようにして、ネギくんから魔剣を奪い取った。どうやら、ネギくんは握力までも限界に達していたようだ。

 

 ジャック・ラカンは、バックステップでネギくんから距離を取ると、腕から魔剣を抜き取り、闘技場の反対側に放り投げた。

 こうなってしまうと、アーティファクトではない魔剣は手元に呼び寄せられない。物品引き寄せの魔法もあるにはあるが、魔力が尽きかけているネギくんは使えないようだ。

 

「くはは! してやられたぜ! 真っ向勝負だと思ったら、一方的に技を押しつけてくるとはよ!」

 

 血を流しながら、ジャック・ラカンが笑う。

 一方、剣を失ったネギくんも、竜の顔で笑みを浮かべて言う。

 

「最大の一撃とは言いましたが、正面からぶつけ合うとは言っていませんから」

 

「フハハ! 確かにそうだ。だが、剣は奪った。お前、絶体絶命だぜ?」

 

「フラフラの今のあなたなら、この拳があれば十分です」

 

「言ったな、この野郎!」

 

 そう言葉を交わして二人は笑い合い……闘技場の中央で向かい合って壮絶な殴り合いを始めた。

 二人とも、気と魔力が尽きかけているというのに、相手を殴るたびに空気を揺らすような轟音が響く。

 殴っては殴り返し、同時に殴りかかっては腕をクロスさせて互いの顔面に拳が決まる。ネギくんは竜化で背を伸ばしているので、顔に拳が届くのだ。

 

 男らしいその最後の戦いに、観客達は総立ちになって歓声を送る。

 もはや、技術も戦術もない、ただの喧嘩。どちらが男として優れているかを競い合っているかのような戦いはしばらく続き……。

 やがて、互いにヘロヘロパンチを交わしたところで、両者ノックアウトとなった。

 

『引き分けッ! 両者戦闘不能で引き分けです! 第十九回ナギ・スプリングフィールド杯はまさかの引き分けに終わりました!』

 

 観客達が拍手を送る中、実況アナウンサーがそう高らかに告げる。

 だが、それに水を差すものがいた。

 

「ちょいと待てや。姉ちゃん、俺のこと忘れてへんか?」

 

 それは、獣化を解いた小太郎くんだ。

 しまったな。ネギくんとジャック・ラカンの戦いに熱中し過ぎて、すっかり彼の存在を忘れていた。

 

『こ、これは小太郎選手、忘れてました! カゲタロウ選手は――』

 

「とっくに倒したで」

 

 闘技場の中を捜してみると、瓦礫に頭を突っ込んで完全にダウンしたカゲタロウの姿があった。

 

『ま、まさか――ラカンチーム両者戦闘不能、ネギチーム小太郎選手の生き残りで――ネギチームの優勝だー!』

 

 観客席から困惑するようなどよめきが起き、やがてそれは笑い声や拍手に変わる。

 そして、闘技場は全力で戦った四人を称える大きな拍手で埋まり、ナギ・スプリングフィールド杯はここに幕を下ろすのだった。

 

 いえーい、なんか賭け金、めっちゃ増えて戻ってきたぜ。

 


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