【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ 作:Leni
◆175 眠りの誘い
『
敵の襲撃に備え、ネギま部と高畑先生、そしてちゃっかり龍宮さんもこちらへ集まってきた。あとはネギくん達を呼びに行こうと思っていたところで、会場の入口方向から叫び声が聞こえてきた。
ガーゴイルが多数、会場に侵入してきたのだ。
警備兵達が魔法で応戦するが、敵の数は多く、パーティ客の方へとガーゴイルが迫る。
そして、ガーゴイルは紫色の煙を吐き、招待客達を包み込んだ。すると、招待客達はゆっくりとその場に倒れる。
あれは……『
だが、ガーゴイルには敵の魔法を無効化するような機能はついていないようだ。つまり、正面から戦って倒せる。
ガーゴイルが次々と会場にやってきて、警備兵と激しい戦いを繰り広げ始める。
しかし、明日菜さんが敵の手に落ちておらず『
私がそう考えている間にも、ネギま部のパクティオーカードを持つメンバーが戦闘服に着替えていく。
仮契約していないメンバーは、ドレス姿のまま戦闘態勢に入った。
ガーゴイルが『眠りの雲』を次々と放ち、雲が会場に満ちる。
これはさすがにヤバいか、と思ったら、会場に風が吹き込む。見事に雲が霧散し、起きている警備兵からガーゴイルに攻撃魔法が飛んでいく。
会場に風を放ったのはネギくんだ。お手柄だね。
よし、このまま押し返してやろう。そう思ったときのことだ。
会場に、フェイト・アーウェルンクスが入ってきた。手に『造物主の掟』のマスターキーらしき物を持ち、警備兵の魔法をかき消しながら、次々と警備兵を魔法で昏倒させている。どうやら、『眠りの雲』よりも強力な睡眠ガスか麻痺ガスを魔法で生成しているようだ。
そんな彼は私達を目ざとく見つけると、こちらへと歩み寄ってくる。
「やあ、こんばんは。お姫様を貰い受けに来たよ」
ガーゴイルを周囲に
ガーゴイルは次から次へと会場へと侵入してきている。どんだけいるんだ。
「……よくもまあ、これだけガーゴイルを事前に用意できたものですね。こんな膨大な魔力、いったいどこから」
私がフェイト・アーウェルンクスに問うと、彼はなんてことない風に答えた。
「刻詠リンネ。君がヒントを僕に与えたんだ」
「は? 私ですか?」
「そう。世の中には、膨大な魔力を秘めた秘宝が存在すると。
げっ、私の聖杯を見て、魔力リソースになるような物品を集めたのか。聖杯をドヤ顔で見せびらかしたのは失敗だったかぁ。
でも、フェイト達が真面目にトレジャーハントとかしているのを想像するとウケる。
「その鍵のような魔法具も、発掘品ですか?」
私の横で夕映さんが問う。鍵の正体を聞いて『世界図絵』で調べるつもりだろうか。
その問いに、フェイト・アーウェルンクスは否定の言葉を返してくる。
「違うよ。この『造物主の掟』は僕達にとって必要な物なんだけど、在庫が少なくてね。増やすために、アスナ姫を借りたいんだ」
「お断りよ!」
戦闘服に着替えて、アーティファクトの大剣を呼び出した明日菜さんが、そう短く叫ぶ。この明日菜さんは影武者の類ではない、本物だ。新オスティアで開かれる舞踏会に、旧ウェスペルタティア王国の姫を出すよう要請があったので、偽物に入れ替えるわけにはいかなかったのだ。
「そうかい。では、力ずくで……と行きたいけど、さすがにこの数は分が悪い。眠っていてもらうよ」
「今さら『眠りの雲』なんて効きませんよ」
私がそう言うが、フェイト・アーウェルンクスはガーゴイルを動かさずに、淡々と言葉を返してきた。
「いや、君達は別の方法で夢の世界に旅立ってもらおう」
すると、周囲のネギま部メンバーが次々と倒れていった。
さらに、私の意識も
馬鹿な。状態異常無効の能力を持つ私が、魔法の眠りにかかるだって?
「ようこそ、夢の世界へポヨ」
そんな声を聞きながら、私の意識は暗転した。
◆176 幻灯のサーカス
『幻灯のサーカス』。『
その効果は、広範囲の人間を夢の中に誘い、本人の願望が反映された世界に精神を閉じ込めるというもの。
本人に強い願望がある限り、防ぐことができない強力なアーティファクト。私も見事にそれにかかり、夢の世界の中で盛大にガチャを回していた。
「アハハハハ! ピックアップキャラゲット! このまま全キャラコンプリート目指しますよ!」
うーん、これが私の願望の世界かぁ。てっきり前世に関する何かだと思っていたのだけれど、予想が外れたね。
まあ、私の夢の内容は置いておこう。
私は前々から、
だから私は、対策として状態異常無効の力を鍛えていたのだが、通用しなかったようだ。
まあ、対策はそれ一つだけではない。
私の能力は、ゲームに登場する全ての力を自由自在に扱うというもの。その力というのは、ガチャで引けるキャラクターのものだけとは限らない。
たとえばシナリオ上にしか登場しないキャラの力をそのまま引き出すことができる。
そこで、私が対策として用意していたのは……『シオン』教授が持つ、分割思考の技術。
表に出している人格というか思考とは別に、精神の奥底で分割した思考を待機させておく。そして、いざというときは表層思考を切り替え、眠りの世界に誘われた思考を精神の奥底に押し込めるという対策。それは、見事に役目を果たした。
夢に囚われていない分割思考を表層に置いた後、夢魔であるマーリンの力を引き出してガチャで遊んでいる思考を目覚めさせる。
そうして今、私は、一度眠りについて倒れてからなんとか復活し、現実の舞踏会の会場でフェイト・アーウェルンクスと向かい合っている。
他に起きているのは三人。雪姫先生、結城さん、明日菜さんだけだ。
「ちょっと、みんなをどうしたのよ!」
明日菜さんが、フェイト・アーウェルンクスに向けて叫ぶ。
「さて。やったのは僕じゃないからね。詳しくは知らないよ」
「じゃあ、誰が……」
明日菜さんが、剣を構えて物理で聞きだそうとする。だが、そこで新たな声が響いた。
「私ポヨ」
フェイト・アーウェルンクスの足元の影から、何者かが出てくる。
それは、3年A組のクラスメート、ザジ・レイニーデイさんの姿。
「えっ、ザジさん!? ザジさん、敵だったの!?」
明日菜さんが驚くが、それに私が異議を唱える。
「違うはずですよ。ザジ・レイニーデイさんは、麻帆良にいます。先日も、メールでやりとりして、麻帆良の人達の写メを送ってきてくれました」
「ええっ、じゃあこの人は……」
「クラスメートの姿に化けて、私達を動揺させようとしているのでしょう」
「卑劣……!」
私の言葉を受け、明日菜さんが憤る。
「待つポヨ。化けてないポヨ。私はザジの姉ポヨ」
「その語尾、可愛いと思っているんですか? 馬鹿みたいですよ」
「このロリっこ、辛辣ポヨ……」
私の軽い罵倒に、ポヨ女が肩を落とす。幼児体型気味なあんたには、ロリっことか言われたくないぞ。
まあ、それよりもだ。状況を周囲に知らせるために、私は彼女に問う。
「私達に、何をしましたか?」
「アーティファクトを使わせてもらったポヨ。本人が望む幸せな夢の世界で眠り続ける、最強のアーティファクト『幻灯のサーカス』ポヨ」
「最強というわりには、効いていない人が四人もいるようですが」
「神楽坂明日菜には効かなくてもおかしくないポヨ。そこの
「この状況で種明かしとか、対応されたら困るので秘密です」
「むむむ。そして、そこの茶髪女ポヨが……」
結城さんに目を向けるポヨ女。
すると、結城さんが誇らしげに言った。
「神の力の前には、眠りの魔法は無力だったみたいね」
「いや、私のアーティファクトは願望が存在しない相手には通じないポヨ。現実世界で満たされている者は、夢の世界に行くまでもないという感じポヨね」
「…………」
「つまりその茶髪女は『リア充』ポヨ」
うわあ、結城さん、天国行ってから満たされ過ぎたんだね。まさか、『幻灯のサーカス』に囚われないほどとは。
まあ、それはそれとして。
会話で時間を稼いだが、起きてくる者はいない。今や、会場にいる全ての人間が眠りについていて、起きているのは私達四人のみ。
「これは、なかなか骨が折れそうですね。ですが、明日菜さんは渡しません」
私はそう言って、ドレス姿からチェンジするため、ゲームキャラクターの力を本格的に引き出そうとする。
だが、そこでフェイト・アーウェルンクスが口を開いた。
「いや、お姫様は貰っていくよ。君達は、少し遊んでいてもらおうか」
彼がそう言った瞬間。彼の隣のガーゴイルが突然女の子に姿を変え、そこから周囲に何かが展開する。
そして、瞬きする間に私と雪姫先生、結城さんの三人は、見知らぬ空間に移動させられていた。
◆177 無限抱擁
「ここは……」
一面の雲海が広がる謎の空間に、私達三人はいた。
その状況を見て、結城さんが言う。
「これは……転移? 不死の私達に対する的確な対応ね」
だが、そんな結城さんの言葉を雪姫先生が否定する。
「いや、これは隔離だ。魔法で作りだした異空間に閉じ込められたようだ」
うん、雪姫先生なら分かるだろう。これは、フェイト・アーウェルンクスの従者の一人が持つ、アーティファクトの力。
『
その説明をしてくれるはずの持ち主の幻影は、いつまで経っても現れない。
ふーむ、これは、ヒントなしでどうにかしてみせろとの相手の意思表示か。
「雪姫様、どうしますか?」
「さて、この空間から術者を捜し出すのは一苦労だが、対策は取ってある……リンネ、頼む」
結城さんの問いを雪姫先生は私にパス。私は、無言でスマホを手に呼び出し、『LINE』を起動して連絡を入れる。
すると、返事が即座に返ってきたので、私は雪姫先生達に伝える。
「五分で用意できるそうです」
「そんなにかかるのか……」
「なにぶん、呼び出す対象が対象ですので」
そして、仕方なしに私達は待ち時間の間、その場でドレスから戦闘用の服に着替えることにした。
私はスマホの中から専用に確保してもらっている荷物を呼び出し、着替える。
雪姫先生は影の中から荷物を取り出し、結城さんの分も合わせて服を用意した。
五分後。『LINE』に準備完了との連絡が来たので、私は早速その存在をスマホから呼び出した。
それは、巨大な船。宙を浮く、全長五百メートルの宇宙船。惑星開拓船『スペース・ノーチラス』だ。
『スペース・ノーチラス』は、私達の立つ場所へと接舷すると、ハッチを開けてスロープを下ろした。
「これは……?」
結城さんが予想外の物体の召喚に、驚き顔になっている。
そんな彼女に、私は答える。
「これは、宇宙船です」
「宇宙船……? 世界の端まで突破しようとでもいうの?」
「いえ、別の方法で突破します。詳しくは、中で」
「……もったいぶるわね」
そんな会話をしつつ、ネモ・マリーンの案内で艦橋までやってくる。
そこでは、船長のキャプテン・ネモが私達を待ち受けていた。
「やあ」
「どうも。急な出動、すみませんね」
「いや、君の指示で、ウツボのように待機していたからね。この事態は、予想の範疇だったというわけだ」
「そうですね」
ウツボの習性は知らないが、そんな言葉を私はキャプテン・ネモと交わす。
「キャプテン・ネモ。出発しましょう」
「よろしい。では
キャプテン・ネモが号令をかけ、船のエンジンに火が入る。
虚数空間にはフォトンが存在しないため、サブエンジンである魔力炉の方を使用する。
さて、ここで結城さんに詳しく説明だ。艦内は魔術的に隔離されていて、この空間の支配者であるアーティファクトの所有者にも、内部を覗き込むことは困難だろう。
「私達が送り込まれた場所は、無限の拡がりを見せる空間。おそらく、アーティファクト『無限抱擁』による隔離を受けたのでしょう。対象アーティファクトは、術者が死亡するか、任意で解除しない限り効果が継続し続けます」
「それは……一人で閉じ込められたら、私にはどうしようもないわね」
「ええ。ですが、今回は私がいるからなんとかなります。この隔離空間は、現実世界に重ね合わせるようにして存在しているはずです。そして、この宇宙船は『虚数空間』という次元の隙間を通ることで、重ね合わせた世界の間を移動できます」
「なるほど、術者は無視して
「はい。相手が姿を現さないなら、無視して魔法世界に帰りましょう。間違って火星に出ないよう気を付ける必要はありますが」
というわけで、説明終わり。さっさと宮殿に帰ろう。
「通常速度での虚数空間潜行、開始!」
キャプテン・ネモの格好良い台詞と共に、私達は虚数の海へとダイブした。
◆178 だまし合い
モニターに表示されていた外の風景が、雲海から言葉では形容しがたい何かへと変わる。すでにここは、虚数空間の内部だ。
「続けて、異界への浮上準備! 目標、オスティア総督府上空!」
船に搭載されている演算器が適切な計算を終え、魔法世界への浮上を行なう。
モニターの風景がめまぐるしく変わり、今度は魔法世界の夜の景色が映った。
どうやら外ではガーゴイルとの戦いが続いているようで、軍艦が複数、宮殿の周囲を飛び交っている。
すると、その軍艦から通信魔法が入る。
『こちらはオスティア駐留艦隊所属巡洋艦『フリムファクシ』。貴艦の所属を明らかにせよ』
それに対し、即座に通信室のネモ・マリーンが答える。
『こちら旧世界麻帆良学園都市所属、惑星開拓船『スペース・ノーチラス』。当船は『
『『白き翼』だと?』
「ネモ・マリーン。艦橋と向こうで映像つなげられますか?」
通信から聞こえてきた向こうの艦の声が聞き覚えある声だったので、私は映像をつなげてもらうよう頼んだ。
『待ってねー……うん、向こうからも許可出たよ。つなげるよー』
すると、私達の前方に立体映像で人の姿が映る。
その相手は、巡洋艦の艦長である提督さん。新オスティアに来てから、ネギ君と一緒に『ねこねこ計画書』の説明をしにいった相手の一人だ。
『おお、これはリンネ殿』
「こんばんは、提督。こちらの状況を伝えますね」
私は、『完全なる世界』に宮殿が襲撃されたこと、眠りのアーティファクトの効果で宮殿内部が制圧されたこと、アスナ姫が敵にさらわれそうになっていること、別のアーティファクトで異空間に閉じ込められこの船で帰って来たことを伝えた。
『おお、それが火星を開拓するという船……いや、それどころではありませんでしたな。では、宮殿横に付けてください。石像兵はこちらで対処しますので』
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
ガーゴイルに囲まれながら、私達は宮殿の横へと宇宙船を着ける。
そして船を降りた私達は、迫るガーゴイルを蹴散らしながら宮殿へと走っていく。
フェイト・アーウェルンクスから『眠りの雲』を食らったのか、『幻灯のサーカス』を受けたのか、宮殿の警備兵は見事に倒れていた。そのため、私達はすんなり宮殿内部へと入場でき、そのまま舞踏会の会場へと向かう。
すると、会場の内部からはすでにガーゴイルが姿を消しており、ネギま部の何人かと高畑先生、龍宮さんが目覚めていて、明日菜さんの周囲を囲っていた。
「明日菜さんは無事ですか?」
私が呼びかけると、ネギま部の起きているメンバーである古さん、楓さん、刹那さん、木乃香さんがこちらに気づく。
「おお、リンネ殿。アスナ殿はこの通り、無事でござった」
楓さんが、代表してそう答えた。
フム……。私は、明日菜さんの様子をじっと観察する。戦闘服姿で大剣を構えていて、『白き翼』のピンバッジはちゃんと付けているね。
「皆さん起きたときは、どういう状況でした?」
「拙者が最初に目醒めたでござるな。起きたら、アスナ殿が一人でフェイトと戦っていたでござる」
なるほどなるほど。楓さんはフェイト・アーウェルンクスと会ったことはないが、どんな姿かは幻術を使って事前に教えてある。
「それで、拙者達が起きるとフェイトはガーゴイルを置いて撤退していったでござる」
ふむふむ。これは……。私は、武器格納魔法で一つの携帯端末を取り出す。アークス製のそれを起動し、画面を確認する。そして、分かった。
「この明日菜さんは、偽物ですね」
私は携帯端末から顔を上げ、明日菜さんをじっと見つめながら言った。
「はあ? 何言って……」
明日菜さんが、そう言いかけるが、その横に雪姫先生が移動して彼女に指先を向けた。
「眠っていてもらうぞ、偽物」
雪姫先生の指が明日菜さんの額に触れる。すると、明日菜さんはその場に崩れ落ちた。
「なっ、何をするんだい!」
高畑先生がいきり立つが、雪姫先生はそれに取り合わず、倒れた明日菜さんを見下ろす。
すると、明日菜さんの姿が、糸がほどけるように変わっていき、やがて別の人物へと姿を変えた。
それは、ファンタジーラノベのエルフのような長い耳が特徴の、金髪の少女。
「本当に偽物……!? 僕達が眠っている間に、幻術で入れ替わっていたのか!」
高畑先生が、驚きの声を上げる。
「ああ。しかも、発信器になるバッヂすら付け替えるという徹底ぶりだ」
雪姫先生は少女から翼のバッヂを外し、手の平の上で転がす。
「しかし、リンネ殿。よく偽物だと分かったでござるな。拙者では見破れなかったでござる」
うん、確かに、熟練の忍者でも見破れないほど、この幻術は高度だ。
だが、私はこの人を見て幻術だと気づいたわけじゃない。
「ネギま部メンバーには、魔法的な発信器となるバッヂ以外にも、科学的な発信器も保険でつけていたのですよ」
雪姫先生以外には秘密にしていたけどね。その反応が、この子からはしなかったのだ。
敵をあざむくにはまず味方から。相手の思考を読んで入れ替わるなら、そもそも本人に発信器の存在を知らせておかなければいいってわけだね。
※リア充という言葉は2006年頃から使われ始めたようです。一方、写メは2001年頃から使われたようです。