【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ 作:Leni
◆179 アーティファクトの脅威
長耳の少女を魔法で眠らせた雪姫先生は、少女から魔法具を奪う。
本の栞の形をした魔法具だ。確か、名前は『
この魔法具で明日菜さんに化けていたのだろう。似たような魔法具を使って、二十年前の大戦時にアーウェルンクスの一体が元老院議員に化けていたので、『
雪姫先生が『偸生の符』に魔法をかけ、パクティオーカードに変化させる。そして、そのまま魔法で封印をしてしまった。
「さて、こいつも拘束してしまうか」
雪姫先生が、眠る少女に指先を再度向ける。
すると、次の瞬間、空間が歪み褐色肌の竜族の少女が、雪姫先生の横に出現した。
そして、何やら空間に作用する魔法を使おうとする。いや、魔法ではない。また『
だが、それは予想の範疇だ。今度こそ相手の先制攻撃を許さないために、私は手札を伏せていた。気配を消していたアサシンのサーヴァントが突如姿を現し、竜族の少女を不意打ちで殴りつける。
意識の外から来た攻撃に、アーティファクトの発動をキャンセルして吹き飛ぶ少女。さらにサーヴァントは追い打ちをかけ、少女を完全に昏倒させた。
「おおー、さすが老師アル」
一連の動きを見ていた古さんが、そんな声を上げる。
そして、竜族の少女を伸したサーヴァント、李書文先生は、「後は任せる」と言って再び姿を消した。
うん、やっぱりアサシンのサーヴァントはすごいわ。本当なら明日菜さんの警備に何人か回したかったんだけど。
魔法世界人は魔法で霊視できる人がいるから霊体化して配置するのも難しく、人があちこち行き交うダンス会場で気配遮断を使わせて配置するのも変な騒ぎになりそうだと、明日菜さんに止められた。
もし警備に口出しできたなら会場スタッフに仲間を大量に仕込めたのだが、外交部相手ならともかく総督府相手にそこまでねじ込めるだけの権限が私達にはなかった。
そもそも、黄昏の姫御子の舞踏会参加をオスティアの名士達に求められていなかったら、明日菜さんは『義賊サヨ』にでも入れ替わってもらったんだけど……。
そんな明日菜さんがさらわれた事実に悔やんでいると、雪姫先生が再び動き、竜族の少女に拘束魔法をかける。
そして、またもや少女のパクティオーカードを取り出して、封印魔法をかけた。
「……アーティファクトはなんとかなったな」
パクティオーカードを武器格納魔法で異次元送りにしながら、雪姫先生が言う。
うん、フェイト・アーウェルンクスを相手するとき、本当に厄介なのは彼の戦闘能力ではなく、従者達が持つアーティファクトだからね。
そのうち、破壊音波を出す『
残るは、時間操作をする『
アーティファクトといえば、『幻灯のサーカス』を食らった面々が起きてこない。
幸せな夢に浸っているのだろう。急いで起こさないとね。
そう思っていろいろ試してみたのだが……『アンティ』、『ソルアトマイザー』、『癒やしの至宝』、『治癒の竪琴』、最終的には『
夢に囚われた私の分割思考は、マーリンの力を引き出して自身を夢魔とすることで目覚めた。なので、皆も同じく夢の世界に囚われているのは確かなはずだが……。
ここは、夢の専門家に頼ることにしよう。私はスマホを呼び出し、『LINE』で連絡を取る。
すると、すぐに出られると答えたので、その場に呼び出した。
「やあ。夢魔のお兄さんだよ」
「では、連絡したとおり、眠っている人を起こしてもらえますか?」
「了解。ふむ……」
夢魔のお兄さんことマーリンが、床で眠るネギくんの額に手を当てる。
「これは、精神が肉体から離れているね。どこかに存在する礼装内部に展開された夢の世界に精神が移動しているから、直接夢の中に入って連れ戻す必要がありそうだ。しかも、囚われているのではなく、本人が望んで夢の世界に留まっているから、治療系の術で回復させることは難しいだろう」
「夢の中に入る、ですか……。その夢の世界があるアーティファクトを確保する必要はありますか?」
「いや、魂を奪われたわけではないからね。眠っている人の肉体と夢の世界の間にあるパスを通って、その夢の世界に直接飛べそうだ」
つまり、皆の心は『幻灯のサーカス』の中にあり、肉体を経由してその中に入り込むことができると。
「そうですか……。連れ戻せますか?」
私が尋ねると、マーリンは首を横に振った。
「私は夢の世界で相手に存在を気づかれると、途端にその世界での力を失ってしまうんだ。起こす作業には向いていないよ。私の代わりに別の人を呼んだらどうだい? 王国に専門家がいたはずだ」
「分かりました。ありがとうございました。では、次の人を呼びますか……」
私はマーリンをスマホの中に戻し、他の専門家と連絡を取る。そして、すぐさまその場に呼び出した。
「『神殿書記官レーヴ』、参上いたしました!」
水色の髪をした神官の少女。『千年戦争アイギス』に登場する人物で、他者の夢の世界や記憶の世界に入り込むことができる。
その彼女に、私は話しかける。
「レーヴさん、よく来てくださいました。早速ですが、この人の肉体を伝って、遠くにある夢の世界に入れそうか見てください」
「かしこまりました!」
レーヴさんは、眠っているネギくんの頭を両手で抱えて、何やら念じる。
そして、三十秒ほど経ってからレーヴさんが口を開いた。
「いけそうです。術の準備をしますね」
「ありがとうございます。……では、皆さん、『ドキドキ、皆の願望はいったい何!? 夢の世界探検ツアー』を行ないますよ!」
私がそう宣言すると、事態を見守っていた木乃香さんが言う。
「やっぱりあの夢は、私の願望だったんやなあ。今度、夜寝るときに見せてくれないものやろうか……」
「木乃香さんはどんな夢を見たんです?」
私がそう尋ねると、木乃香さんはかすかに憂いを帯びた表情で答える。
「子供時代にせっちゃんと別れずに、一緒に麻帆良に転校してくる夢やな。でも、今のせっちゃんと性格がちごうて、違和感覚えて夢と気づいてん」
「お嬢様もそのような夢でしたか。私も子供時代の夢を見ました。場所は京都でしたが」
刹那さんも、正直に自分の夢を告白した。
なるほど、百合百合しい裸エプロンいちゃいちゃ生活は見なかったのか、刹那さん。
「とりあえず、ネギくんだけでも起こしましょうか」
私はそう言って、レーヴさんが抱えるネギくんに目を向ける。
そして、周囲の守りをサーヴァントに任せ、私はみんなを連れてレーヴさんの力でネギくんの夢の世界へ旅立った。
◆180 幸せな夢
夢の中の世界は、麻帆良だった。
季節は秋に入った頃だろうか。衣替えをした一般人達が放課後の麻帆良を自由に散策している。
「フムフム、これが現世ですか。王国と似ているようで違う……」
麻帆良特有の洋風の街並みを見ながら、レーヴさんが興味深げに言う。
彼女に現世観光をさせてあげたいのはやまやまだが、今はネギくんだ。夢の主を探さなければならない。
「む、ネギ坊主はあっちアルネ」
気配でも探ったのか、古さんがネギくんの居場所を察知する。
それに従い、私達は連れ立って麻帆良の市街地を小走りで進んだ。
そして、ネギくんを発見する。一人ではない。かたわらに二人の人物を連れていた。
「あれは……!?」
高畑先生が、驚きの声を上げる。
それもそうだろう。ネギくんと一緒に居るのは、彼の父親のナギ・スプリングフィールドと、母親のアリカ女王なのだから。
つまりネギくんは、両親と麻帆良で一緒に過ごしたいという願望を持っていたわけだ。
きっと、今のネギくんは幸せだろう。だが、しょせんこの世界は
私達は、ネギくんに遠慮することなく、三人に近づいていった。
「ネギくん、帰りましょう」
私の声に、三人が振り返る。すると、ナギさんが高畑先生を見て、声を上げる。
「おお、タカミチじゃねーか。どうしたんだ、正装なんてしてよ。ドレスの女の子なんて連れて、結婚式帰りか何かか?」
「……ッ!」
元気なナギさんに話しかけられて、動揺する高畑先生。だが、今は夢の中の住人にかまけている場合じゃない。
「ネギくん、夢の時間はおしまいです。帰りましょう。明日菜さんがさらわれました。今すぐ助けに行く必要があります」
私がそう言うと、ネギくんは顔を伏せる。
「もう少し……」
小さな声を震わせながら、ネギくんが言う。
「もう少しだけ、浸らせてもらえませんか……?」
ネギくんは、これが夢の世界だと分かっているのだろう。それでもなお、幸せに浸りたがっていた。
「ダメです。時間切れです。今すぐ出発です」
すっぱり言いきる。いや、眠っているメンバーは他にもいっぱいいるから、一人に構っている時間はないんだって。
私の言葉に、ネギくんは拳をぎゅっとにぎってから、顔を上げ、一歩前に踏み出した。
「ネギ」
ナギ・スプリングフィールドが、ネギくんに言う。
「行くのか」
「はい……父さん、短い間でしたが、楽しかったです」
「ははっ、俺も楽しかったぜ。ようやく父親らしいことができて、嬉しかった」
「父さん……」
なんとも、聞き分けのいい父親だね。夢の世界の住人だから、帰ると決めたネギくんにとって都合のいい存在になっているのだろうけれど。
「ネギよ」
と、今度はアリカ女王がネギくんに話しかける。
「はい」
「私はそちらの世界では生きてはおらぬ。だから、仮初めの存在である私から、母親としての言葉を送ろう」
その言葉を聞いて、ネギくんが後ろに振り返る。
アリカ女王はその場でかがみ、ネギくんに目線を合わせ、言った。
「生まれてきてくれて、生きていてくれて、ありがとう。私はお前を愛しておる。そして……私達の世界を、頼む」
アリカ女王は、ネギくんをぎゅっと抱きしめ、すぐに離した。
そして、アリカ女王はナギ・スプリングフィールドの手をにぎり、何も言わずにネギくんから離れていった。
ネギくんは去っていく二人を少しだけ見つめた後、涙をぬぐって、こちらへ走り寄ってきた。
「お待たせしました! 行きましょう!」
一つの別れを済ませ、少し大人になったネギくん。
そんな彼を連れ、私達は夢の世界から脱出した。
◆181 流星
ネギくんが起きると、ネギま部の部員が他にも起きてきて、さらには同じように『幻灯のサーカス』に囚われていたゲーデル総督も起きてきた。一人が起きるとタガが外れて他も起きやすくなるんだったかな?
ただ、ハルナさんだけが起きてこなかったので、ダッシュで夢の中に入ってダッシュで叩き起こしてきた。ついでに、ネギくんにパクティオーカードでの明日菜さんへの念話や召喚を試してもらったが、通じないとのこと。まあ、その辺は妨害術式を組むよね。
それから皆に明日菜さんを助けに行くと言うと、龍宮さんはこちらに残ると言う。
なんでも、「アーティファクトの射程を考えると、使用者はまだ宮殿の中にいるはず」とのことで、高畑先生とゲーデル総督を連れて宮殿内部を探りにいった。この三人を相手にするとか、ポヨ女終わったな……。
そして、我々ネギま部は『スペース・ノーチラス』に乗りこみ、雲海の下、廃都オスティアへと向かうことになった。
だが、宮殿から宇宙船を出発させるには、行く手を阻むガーゴイルの数が多すぎる。
これは、ちょっと活路を開く必要があるね。
「キャプテン・ネモ。甲板に出ますので、通路を開いてください」
「了解」
艦橋で、キャプテン・ネモに頼んで機体上部に存在する甲板を展開してもらった。
この甲板は、戦闘用に用意された足場だ。アークスは生身のまま宇宙空間に無酸素状態で出られるので、こういった戦闘用の甲板はスマホの中の新造宇宙船に必ずといっていいほど用意してあるのだ。
「なになに? リンネちゃん、どうするの?」
「外に出て、進路上のガーゴイルを蹴散らしてくるんですよ、ベストセラー作家のハルナさん」
「夢の話はするなー! ……もう、私だけ一方的に見られたの不公平過ぎると思うんだけど!」
「では、状況が落ち着いたら、それぞれ皆がどんな夢を見たのか報告会をしましょうか」
「おっ、それいいねぇ」
そして、私は甲板へと向かった。みんなもついてきたがったが、ガーゴイルがいて危険かもしれないので、艦橋で大人しくしてもらう。
甲板に立つと、空一面にガーゴイルが飛んでおり、雲の下からさらに追加でやってきているようだった。フェイト・アーウェルンクス、これほどのガーゴイルを造れる魔力を確保するとか、一体何を遺跡で発掘したのだか。
まあ、それでもしょせんは雑魚だ。今も、各国の艦隊と帝国の龍樹によって、簡単に蹴散らされていっている。そして、私も蹴散らす。
私は、スマホの中から私物の弓である『ネブロスシーテス』を取り出し、さらに概念礼装の『カレイドスコープ』を取り出す。
これで、私は宝具をいつでも撃てる状態になった。
さらに、サーヴァントの力を引き出す。それは、アーチャーのサーヴァント『アーラシュ』。古代ペルシャの伝説に語られる大英雄。その伝説では、彼は矢の一撃で国境を作ったという。その一矢こそが、彼の宝具。
さあ、魔法世界の者達よ、遠い並行世界からやってきた英雄の神技をご覧あれ。
これこそ、弓の極地。
「『
フォトンで形作られた矢が、一条の流星となって宇宙船の斜め下を飛び……そのあまりもの威力に耐えきれなかった私の身体は、その場で四散した。
そして、すぐさま身体は再生を始め。元通りの姿を取り戻す。
私は戻ってきた視界で、前方を見つめる。雲海にごっそりと穴が空き、その進行方向に存在したガーゴイルが全て消し飛んだ光景が目に入った。死亡という代償を払って初めて得られる結果を蘇生能力で無理やり得る。まるでゲームをやっている気分になるね。
そんなことを思いつつ、私は甲板から船内へと下り、艦橋と通信する。
「キャプテン・ネモ、廃都オスティアへ向けて、発進!」
『了解。フォトンリアクター駆動。雲海へ潜行開始』
キャプテン・ネモの号令がかかり、宇宙船が出発する。現世での初の本格出動が宇宙ではなく雲の中なのは申し訳ないが、存分にその力を発揮してほしい。
そして、私は艦橋へと帰還した。
「いやー、リンネちゃん、すごい一撃だったね!」
そんな言葉でハルナさんに迎え入れられる私。そして、さらにハルナさんは言った。
「『
ずいぶん楽観的だが、そうもいかない。
私はハルナさんを諭すように言った。
「残念ながら、そう上手くはいかないかと。敵は大規模な魔力リソースを確保しています。これにより、相手はあることができます。それをされると、こちらも危険でしょう」
「何さ、もったいぶって。あることってなに?」
「アーウェルンクスシリーズの復活。つまり、二十年前の大戦期で猛威を振るった敵幹部が再生怪人となって蘇ります」
「うげっ、それって、総督の話にあったらしい、『
そう、私とネギくんは、以前総督が話してくれた昔話をネギま部メンバーと共有していた。
私はうなずいて、ハルナさんに言葉を返す。
「はい。フェイト・アーウェルンクスと実際に戦ったエヴァンジェリン先生によると、アーウェルンクスというのは超高性能な魔法人形のようです」
「さよちゃんみたいな?」
「どちらかというと、完全に魔法で作ったバージョンの茶々丸さんの方が、ニュアンスは近いかもしれません」
私のその言葉に、ハルナさんは考え込む。
「これはあれだね……。さらなるパワーアップが必要だね」
「パワーアップ、ですか?」
「うん、そう。よし、『
と、突然ハルナさんがネギま部に集合をかけた。
何事かと、艦橋に散っていた皆が集まってくる。その皆に向けて、ハルナさんが宣言する。
「これより、大
……なんか始まったぞ?
※墓所の主曰く、『幻灯のサーカス』は魔法『完全なる世界』のレプリカとのことなので、アーティファクト内部に造り出した世界に人の精神を閉じ込める機能と独自解釈しました。