【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ 作:Leni
◆184 宮殿の戦い
『墓守り人の宮殿』屋上部。そこで、明日菜さんが一人、『
そこへ転移した我々ネギま部は、明日菜さんを庇うようにほどよく散らばる。
「みんな! 来てくれたの!?」
明日菜さんが、嬉しそうに私達へ向けて言った。
そんな明日菜さんへ、私は問いかける。
「明日菜さん、今の状況を説明してください。簡潔に!」
「えっ!? ええと、なんかすごく速く動く女の子にキスされたら意識が遠のいて、起きたら変な儀式で私の中から大きな鍵みたいなのを取り出していて、隙をついてパクティオーカードを奪い返して、大きな鍵を使って儀式を続けているから怪しいと思って鍵を奪ってみようとしているところ!」
「説明ありがとうございます」
ふむふむ。どうやら敵は『
『造物主の掟』は、二六〇〇年前に
そこまで考えをめぐらせて、私は敵戦力を確認。フェイト・アーウェルンクスと、闇使いデュナミスだけではない。フェイト・アーウェルンクスに似た顔の者が他に四体いる。ハルナさんと話していた通りの展開か。私は、ネギま部メンバーに向けて言う。
「敵はおそらく、アーウェルンクスシリーズの再生怪人達です! 『
その言葉を聞いて、楓さんがさりげなく動いて木乃香さんを自身のアーティファクトの中に仕舞った。
明日菜さんが大怪我をしていたときのために木乃香さんには外に出ていてもらったが、無事なようなので、木乃香さんは安全地帯に置くのが最善だ。
そして、各々が戦闘態勢に入る。
だが、すぐには戦いが始まらず、フェイト・アーウェルンクスがこちらに話しかけてくる。
「まさか直接転移してくるとはね。どんな手品を使ったのかな?」
それに応じるのは、背中に『いどのえにっき』を隠したのどかさんだ。
「手品の種は隠しておくものですよ。それよりも、アスナさんから取り出した道具を使って、いったい何をしようとしているんですか? フェイトさん。いえ、
「……その名前は嫌いなんだけど、どこで聞いたんだい?」
「……ッ!? 敵の狙いは、麻帆良にいる
ええっ、魔法世界の夢幻世界への書き換えじゃなくて、そっち!? ネギくんの血肉って、ジャック・ラカン戦で散々吐いた血反吐でも採取したのか!?
のどかさんの言葉に驚いたのは私だけでなく、心を読まれたフェイト・アーウェルンクスもそうだったようで、彼は眉間にシワを寄せながら言う。
「読心能力……魔法具か固有能力か知らないけれど、心を読まれるのは気分がよくないな」
そんなフェイト・アーウェルンクスに、今度は私が尋ねる。
「では、フェイトさん。その口から直接おうかがいしたいのですが。魔法世界を夢の世界へ書き換えるのではなく、造物主の復活を目指している理由は?」
「簡単だよ。僕達のやり方でなくても、魔法世界が救われる方法があった。では、どちらのやり方を選ぶか。その判断は、僕達には難しい。だから、
こ、こいつ……。裏切りを誘発させるために揺さぶりをかけたら、素直に上司へ相談を持ちかけようとしやがった!
確かに、それが下の立場に付く者の基本だけどさ。何もこんなときに基本に忠実な行動を起こさなくても。
そう思っていると、のどかさんが私に向けて言った。
「リンネさん、言っていることは事実ですが、時間稼ぎをしています! ゲート開放の儀式が完了するまで、会話で引き延ばすつもりです!」
おっと、いけない。フェイト・アーウェルンクスの部下の少女が、奥の祭壇で『造物主の掟』を使って儀式を行なっている最中だ。それを邪魔しないと、造物主が復活してしまうというわけか。いや、復活自体は一向に構わないが、ゲートが完全に開ききってこの場に満ちた魔力が向こう側に流入して、麻帆良が吹っ飛ぶ危険性があるのが、非常に困る。どれだけの被害が出ることか。
儀式は順調に進んでいるのか、上空に麻帆良の景色が見え始めたぞ。これは、悠長にし過ぎたか。
「ネギま部、戦闘開始!」
私が部長として、そう号令をかけた。
すると、それに反応して敵もこちらに襲いかかってきた。
「敵は神鳴流の月詠、闇使いのデュナミス、風のアーウェルンクスの
フェイト・アーウェルンクスの心を読んだのどかさんが、戦いを始めたネギま部メンバーに情報を伝える。
アーウェルンクスシリーズは『最後の鍵』を使った再生じゃなくて、フェイトの秘宝による再生か。本当にトレジャーハント頑張ったんだな。
見事に心の内を暴かれたフェイト・アーウェルンクスが、のどかさんを注視する。
「君の読心能力は危険だ。封じさせてもらう」
フェイト・アーウェルンクスがのどかさんに向かい、のどかさんはファントム用のカタナである『サジェフスアリオン』を構える。
だが、その横からフェイト・アーウェルンクスを殴りつける者が。雪姫先生だ。
各所で戦いが始まる中、雪姫先生はフェイト・アーウェルンクスを少し離れた場所へと吹き飛ばす。
「……邪魔しないでくれるかな」
フェイト・アーウェルンクスが言うが、雪姫先生は笑って告げる。
「のどかにかまけていいのか? 京都の決着を付ける絶好の機会だぞ」
「京都?」
「今はこんな姿をしているが、私の本来の顔はこうだ」
雪姫先生が自身の顔に手をかざすと、キティちゃんの顔に変化した。
「ッ!
「ククッ、その通り」
見事に釣られたフェイト・アーウェルンクスは、雪姫先生との戦闘を開始した。彼ならば、この場で最も厄介な人物は闇の福音だと理解できているだろうからね。のどかさんを封じたくても、そちらにかまけて雪姫先生をフリーにしたら大魔法で全部を台無しにしかねない。
よし、これで、一番厄介だった石化攻撃を防ぐことができる。私も、石化回復系の力を引き出さず、別の能力を行使することが可能だ。
私が使う力は……治癒の力。この場にアタッカーはいっぱいいるので、敵の強力な攻撃にさらされた味方を助けるヒーラーだ。私が引き出しているのは、今世の私の姿のもとになった『刻詠の風水士リンネ』の力。
風水士は、効果範囲の人間を同時に複数治癒する力を持つクラスだ。
その中でもリンネは、効果範囲を大幅に広げるスキル『刻詠の宿業』を使う。一度発動すると、行動不能になるまで永続する強力なスキルだ。しかもこのスキルは回復の力だけでなく、範囲内の味方に物理攻撃を確率で避ける力を授ける。
敵は物理攻撃だけでなく魔法も使ってくるが、少なくとも物理攻撃主体のデュナミスと月詠を相手するには、だいぶ楽になるだろう。
私が治癒の力を周囲にばらまく中、敵の集団とネギま部の壮絶なバトルが始まった。
火のアーウェルンクスと水のアーウェルンクスが組んで蜃気楼を発生させ、こちらを惑わせようとしてくる。二人のアーウェルンクスは火力も高く、大魔法を放たんと隙を狙い続けている。
高度なセンサーを搭載している茶々丸さんと相坂さんが、蜃気楼を無視してその詠唱を妨害している。二人はそのスペックを最大に発揮して、正面からアーウェルンクス達と激しい攻防を繰り広げている。
敵を無視して儀式を邪魔しようと祭壇に向かうたび、雷速で移動する
そんな
月詠は古さんにご執心で、黒く輝く刀で古さんの『莫邪の両剣』と切り結んでいる。あの刀は『妖刀ひな』か。こんな機会じゃなければ『ラブひな』読者として存分に鑑賞するのに、今はただただ厄介だ。
デュナミスは異形の姿にその身を変え、圧倒的なパワーを持つ肉体で正面からこちらを叩きつぶそうとしてきている。さらに、闇の魔法で作りだした兵隊を後衛へと差し向けてきており、水無瀬さんが呼び出した無数のスケルトンと潰し合いをしている。
デュナミス本体も強固な魔法障壁を持っており、それを突破するのはなかなかに難しい。だが、こちらには障壁を切り裂ける二人の剣士がいる。明日菜さんと刹那さんだ。明日菜さんはその完全魔法無効化能力で、刹那さんは獅子巳さんから学んだ剣技で、その
フェイト・アーウェルンクスは、上空を飛び雪姫先生と壮絶なバトルを繰り広げている。
雪姫先生ならば呪文詠唱をすれば大魔法で敵を一網打尽にすることもできるのだが、フェイト・アーウェルンクスもそれが分かっているのか、無詠唱の魔法を駆使して接近戦を挑み、詠唱潰しをしかけていた。
アーウェルンクスシリーズの
だが、楓さんの分身に
激しい戦いが繰り広げられ、みんなが傷ついていく。だが、後方には回復役の私と、神聖魔法での援護役の結城さんがいる。もし誰かが大怪我を負ったとしても、楓さんのアーティファクトの中に木乃香さんがいる。そして、本当にヤバい事態には、私が後方にこっそり配置した『避禍予見の鏡影』がどうにかしてくれる。
『避禍予見の鏡影』は、誰か一人が死亡した時に身代わりとなってくれるという、『刻詠の風水士リンネ』が持つ力の一つ。これがあれば、万が一の場合でも一度きりだが蘇生が可能だ。ちう様の本体が死亡しても反応するので、そこだけは気を付けてもらっているが。
「まさか、我らがここまで追い詰められるとは……!」
確かに、奴らは強い。でも、ネギま部だって強いのだ。アーウェルンクスに匹敵する者を複数名抱えている上に、数の優位がある。そして何より……。
「貴様か! 貴様が傷を癒やしているなッ!」
「貴様を潰せば――!」
私が火星開発事業の要だと知るフェイト・アーウェルンクスの意識が逸れ、雪姫先生に撃ち落とされたのが目に入ったのはご愛敬。
私は今、敵の遠距離攻撃の対象にならない『八門風水導士』ではなく、四人同時に回復を行なえる『風水仙人』の力を宿している。だから、こうして回復を続けていたらいつか敵に狙われることは分かっていた。
だが、これはあえてこうしている。後方で支援をしているハルナさんと水無瀬さん、夕映さん、のどかさんの壁役になるためだ。
なので、この攻撃も正面から受け止める。
槍は私の魔法障壁を軽々と打ち砕き、腹に深々と突き刺さる。
だが、その程度不死者の私に効くものか。ネギま部のメンバーだって、気にしている様子は見せない。私が死ぬ姿を修行中に散々見てきたからね。
「ククク、これで……」
「これで、どうしましたか?」
私は腹に刺さった雷の槍を引き抜き、手でにぎりしめて破壊した。
槍を放った
「貴様、不死者か!」
「その通り。死なないヒーラー、まさしく最強のポジションでしょう?」
「ならば、二度と戻ってこられないよう、次元の彼方に消し飛ばしてやる!」
フフフ、それも効かないんだよね。『ドコデモゲート』を手に入れた私ならね。
私は笑いながら、風水士の力で腹の傷をふさいだ。別に心臓を消し飛ばされたわけではないので、このくらいでは死亡判定を受けない。なので、『避禍予見の鏡影』は無事なままだ。
さて、戦況がこちらの有利に傾いたところで、麻帆良の平和のために儀式を邪魔しないといけない。実は
楓さんが分身を
敵が近づいてきたことに気がついた少女は、アーティファクトを呼び出して迎撃をする。
バイオリンの形をしたアーティファクト『
孤軍奮闘することになった少女は木精を自身に憑依させ、背中から生やした樹の翼で楓さんから身を守ろうとする。
さらに、進攻先を潰された楓さんに、なんとかちう様とあやかさんを突破した
そこで楓さんは、アーティファクトのマントをひるがえして、中から仲間を追加で呼び出した。
木乃香さんではない。夕映さんとのどかさんだ。
夕映さんとのどかさんは
そして、二人はそのまま楓さんのもとへとダッシュで戻り、マントの中に引っ込んでしまった。
儀式の阻止、成功だ!
「馬鹿な! 読心能力の女がなぜあそこに! 不死者の後ろで大人しく守られていたではないか!」
だけど、ごめんね。ウチのアークスコンビは、後方で守られているようなタマじゃないんだ。
私の後ろにいるのは……。
「フフフ……我が『落書帝国』にまんまと騙されたわね!」
私の後ろで、ハルナさんが心底面白いといった様子で言った。
戦いの途中で、『いどのえにっき』が不要と判断したのどかさんは不意打ちのために、夕映さんを連れて楓さんのマントの中に入り込んでいたのだ。私の後方にいる二人は、ハルナさんのアーティファクトで造り出されたゴーレムである。
「これで、儀式も止まった。後はあんた達を倒せば……」
ハルナさんがそう言うが、上空の麻帆良の風景は相変わらずそのままだ。むしろ、どんどん近づいてきている。
儀式が、止まらない?
何事かと、楓さんのアーティファクトから出てきたのどかさんが、『いどのえにっき』を手に構えながら、雪姫先生の手で地に落とされたフェイトに問う。
「
まさかの答えに、のどかさんが唖然とする。儀式は止めた。だが、魔力の動き的に、まだゲートの開放作業は行なわれているはずだ。
のどかさんは、『いどのえにっき』を複数出現させ、この場にいる全員の心を読んでいく。本を隠す余裕はどうやらないようだ。
すると、のどかさんは一人の人物に顔を向けた。その人物は、小さな声で笑う。
「フフフ……私の策にまんまと騙されましたね」
その人物とは、儀式を行なっていた少女だ。のどかさんは、ブリジットと呼んでいた。
のどかさんは複数の『いどのえにっき』のうちの一冊を彼女に向けて、じっとにらむ。
だが、にらまれた少女は涼しげな表情で答える。
「その本が読心の正体ですか。実に厄介ですが、貴様が途中で私の心を読まなかったのは怠慢でしたね。非戦闘員とでも思いましたか?」
目を伏せ、笑みを浮かべながら、小さな声で少女は語る。
「先ほどあなたは、フェイト様の心を読んで二人隠れていると言いましたね。しかし、その二人は今、ここにはいません。別の場所で儀式を行なっています」
「でも、儀式には『造物主の掟』の『最後の鍵』が……」
「いつ、私が守っていた物が『最後の鍵』だと言いましたか?」
「途中で、鍵を入れ替えた……」
「その通りです。心を読まれると困るのでフェイト様に無断で実行しましたが、そうして正解だったようですね」
「リンネさん! 今すぐ儀式阻止に向かってください! 儀式を行なっているのは二人、
のどかさんが、こちらに向いて『ドコデモゲート』の使用を要請してくる。
オッケー。いよいよもってゲートがヤバい。完全開放はまだだが、やろうと思えば麻帆良と行き来が可能なレベルだろう。
私は、即座にスマホで『ドコデモゲート』のアプリを操作し、二人の名前を念じて入力した。
すると、二人の居場所が画面上に文字表示される。偽名でも出るってすごいな……。ちなみに場所は、暦がこの場所の上空にある浮遊石。焔が、麻帆良学園都市……って、もうゲートの向こうにいるのか!
あ、焔の位置を示す文字が『墓守り人の宮殿上空』に変わった。
そう思った瞬間、圧倒的な魔力が、身に押しかかってくるような感覚を覚えた。それでいて、どこかおぞましいような気配も感じる。
私はとっさに上空を見上げ、その魔力の発生源を探る。
視界に映ったのは、二人の少女。杖や箒を伴わずに飛行し、ゆっくりとこちらに向けて降りてくるのが見えた。
現在ゲートは半開きだ。『最後の鍵』は少女の一人が持っていて、ゲート開放の儀式はすでに止めているようなのでホッと一安心。このままなら麻帆良が魔力で吹っ飛ぶことはなさそうだが……開けたゲートは危ないのでちゃんと閉じてもらえませんかね?
などと考えていたら、少女達の後ろにもう一人の人物が見えた。それは、黒いローブに身を包んだナギ・スプリングフィールドらしき姿。
来たか、造物主ナギ=ヨルダ!
※『魔法先生ネギま!』では属性が不明な