【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■77 今日のところはハッピーエンド

◆187 墓守り

 

 副首領の投降をもって『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』は壊滅した。

 造物主の本体も封印され、後はナギ・スプリングフィールドを助け出す日を待つばかり。現在の懸念事項は残り一つだ。

 

「何かの拍子でゲートが開いてしまうと溜まった魔力が麻帆良に流入して、麻帆良が吹き飛んでしまいますね。閉じる必要があります」

 

 私がそう言うと、一大事だとネギま部がざわめく。

 まあ、開けたなら閉じればいいのだ。私は、『最後の鍵(グレートグランドマスターキー)』を持つフェイト・アーウェルンクスに向かって言う。

 

「開いたゲートを閉じてもらえますか?」

 

「そうしたいのはやまやまだけど、開け方しか聞いていないんだ。閉じ方は、墓守りに聞かないと分からない」

 

 フェイトが淡々とそう返してくる。

 墓守りか。ネギくんや明日菜さんの祖先だという、旧ウェスペルタティア王家の者のことだろうが……どこにいるんだ?

 

「呼んだか?」

 

 と、突然、私達の横に小さな子供が出現する。

 新たな敵の出現に警戒したネギま部一同だが、私はスッと手をかざして、皆が突っかけていくのを止める。

 

「この場所の(ぬし)さんですか?」

 

 私がそう尋ねると、子供は「ウム」とうなずく。

 その墓所の主に、フェイトが話しかける。

 

「ちょうどいいところに来てくれた。ゲートを閉じる方法を教えてほしい」

 

「確かにこのままではまずいのう。私が直接閉じよう。鍵を貸せ。スペアの方でもよいぞ」

 

 墓所の主がそう言うと、フェイトが素直に『最後の鍵』を差し出す。

 

「ちょ、それ重要な鍵なんでしょ。そんな怪しい人に渡して……」

 

 明日菜さんが墓所の主を怪しんでそんなことを言うと、フェイトはチラリと明日菜さんに目を向けてから答える。

 

「この人は君達の味方だよ。魔法世界救済計画に乗るそうだ」

 

「ウム。私はそなたたちの計画に魔法世界(ムンドゥス・マギクス)の未来を賭けてみることにしたのじゃ。そう怪しむでないわ、我が末裔よ」

 

「ま、末裔……?」

 

 墓所の主の意味深な言葉を受けて、明日菜さんが困惑する。

 そんな明日菜さんに、あやかさんが横から言う。

 

「ここはオスティアの旧王家の宮殿ですわよ、アスナさん。そこの主ならば、王家の血筋でもおかしくないですわ」

 

 それを聞いた明日菜さんは、主の顔をマジマジと見つめる。

 

「確かにアリカ様に似ているかも……私の親戚!?」

 

「むしろ、祖先じゃ」

 

 墓所の主はそう言いながら、鍵を使って魔法を発動し始めた。

 ゲートに干渉しているのか、現実世界に流入しようとしていた魔力の動きが止まり、上空に見える麻帆良の景色が少しずつ遠ざかっていく。

 

 その光景に、私達はホッとしながら、張り詰めていた気をゆるめた。

 ゲートが閉じていき、麻帆良の向こうに見えていた輝く世界樹が姿を消す。ありがとう世界樹。ネギくんの魔剣にパワーを送ってくれていたけど、造物主相手には牽制にしか使わなかったね!

 

 そして、『最後の鍵』で魔法を展開しながら、墓所の主は私達の方を見て口を開く。

 

「そなた達には本当にすまないことをしたな」

 

「え? 何がですか?」

 

 祖先と聞いて敬語になった明日菜さんが問い返す。

 

「いや、そなた達の助けになろうと、魔族の重鎮を呼んだのだが……造物主(ライフメイカー)側の案の方がよいなどと言い出してな……」

 

「魔族の重鎮! あの人、ザジさんの姉って言っていたわよね。ザジさんは魔族のお姫さまか何かってこと?」

 

「アスナさん、今はそのことはいいでしょう」

 

 話が逸れそうになったところで、あやかさんがそう言って軌道修正をかける。

 すると、明日菜さんはハッとなって、墓所の主に向かって言う。

 

「つまり、あのポヨポヨ言う人をあなたが呼んだから、私がさらわれることになったと」

 

「うむ。『夏の離宮』で人々を夢の世界に閉じ込めていたじゃろ。あれはあやつが持つアーティファクトの効果での」

 

「皆を眠らせたあれですね! 私には効かなかったけれど」

 

 得意顔になって、明日菜さんがうなずく。

 

「どうやらあやつめは『夏の離宮』で追い詰められて逃げ出したようじゃな。まったく、迷惑をかけよって」

 

 龍宮さんと高畑先生、ゲーデル総督の三人がかりには、さすがの魔族のお偉いさんも敵わなかったらしい。

 憤る墓所の主に、私はふと思ったことを言う。

 

「彼女のアーティファクトの力は、造物主が作ろうとしていた夢の世界に似ていますからね。もしかしたら、自分に対してアーティファクトを日常的に使っていて、夢の世界に浸ることを本当の幸せだと思っているのかもしれません」

 

「フム。なんとも虚しい幸せじゃの。夢の世界にいては、人類はそれ以上前に進めないというのに」

 

 人類の進歩か。私達の火星開拓事業を進めると、人類は子猫達から技術を受け取って確実に進歩をする。一方的に与えられるだけの立場であるが、人類はきっとその技術を使いこなし、その発展の糧にしてくれるだろう。

 

 それからゲートは完全に閉じて、墓所の主はフェイト・アーウェルンクスに『最後の鍵』を返した。

 フェイト・アーウェルンクスは、その『最後の鍵』を持ちながら、明日菜さんの方へと身体を向ける。そして、彼女に向けて言った。

 

「世界をリライトして魂を眠らせるプランを止めた以上、僕達が回収してきた魂を解放して肉体を復元してやらなければならない。そのためには、黄昏の姫御子。君の協力が必要だ」

 

「なるほど、それなら、協力は惜しまないわ!」

 

 明日菜さんは『最後の鍵』を受け取り、目を閉じて何かを感じ取ったのか、口を開く。

 

「いっぱいいるわねー。これ、ちょっと頑張らないといけなさそうね!」

 

 と、再生を始めようとする明日菜さんに、私は待ったをかける。

 

「明日菜さん、一旦ストップです。フェイトさん、それ、今すぐやらないとダメでしょうか?」

 

 私に問いかけられたフェイト・アーウェルンクスは不思議そうにする。

 

「……? この場に溜まった魔力と、黄昏の姫御子と、『最後の鍵』があって初めてできる。先延ばしにされても困るよ」

 

 そんな彼に、私はストップをかけた理由を説明する。

 

「だからといって、着の身着のまま放り出すわけにもいかないでしょう。幸い、オスティア終戦記念祭で世界各国の要人が集まっていますから、彼らに受け入れ態勢を整えてもらいましょう」

 

「……そうだね。確かに放り出すのは無責任だ」

 

「フェイトさんのことでしょうから、紛争地帯から優先して魂を回収しているでしょう。それなら、やはり復活には各国の調整が必要ですよ」

 

 そういうことになり、私達はフェイト・アーウェルンクスとその部下達、そして捕虜となったデュナミスを連れて『スペース・ノーチラス』に『ドコデモゲート』の転移で戻った。

『スペース・ノーチラス』のアーチャー軍団は、見事に召喚魔の撃退に成功しており、宇宙船は落とされていなかった。万を超える敵が居たらしいのに、よく耐えきったねぇ。

 私は彼らに礼を言い、今度それぞれの主やトップである王子、マスター、総司令に挨拶に向かうと約束して、スマホの中の宇宙に帰還してもらった。

 

「あれ? リンネさん、挨拶に向かうって、こちらに呼び出すのではないのですか?」

 

 ネギくんが、不思議そうに私に尋ねてくる。

 フフフ、そうなんだよ。挨拶に向かうんだよ。

 

「実は私の『ドコデモゲート』は、向こうの宇宙にも転移が可能だそうです。持ちこんだ人や物は、二十四時間経過で外に追い出される制限があるそうなのですが」

 

 二十四時間制限があるのは、おそらく宇宙の場所は私の魂の中にあり、長時間魂の中に現世の物を飲みこんでいられないからなのではないかと思う。ただの推論だけどね。

 そう考えると、スマホの中から物を取り出す行為は、私の魂を外に分け与えることを意味する。うーん、私がスマホの中から食材を取りだしてみんなに食べさせたり、宝石を取り出して換金したりするのは、身を裂くならぬ魂を裂く無茶なのかもしれないね。別に、宇宙全体に比べれば、その程度誤差の範囲だろうけど。

 

 ちなみに、向こうの宇宙から人を呼び出す場合は、従来通り枠が必要らしい。そんなに徳ポイント課金させたいのか、神様!

 

「ということは、カルデアに行けるのか、リンネ姉ちゃん!」

 

 話をネギくんの横で聞いていた小太郎くんが、即座に食いつく。

 

「ええ、制御できなさそうなので呼び出せなかったサーヴァントにも会えますよ。今度、予定を合わせてみんなで向かいましょうか」

 

「えっ、葛飾北斎やゴッホちゃんに会えるってこと!?」

 

 今度は、ハルナさんが食いつく。そんなにフォーリナー達に会いたかったのか。

 さらに、のどかさんや夕映さんが、アークスの施設を使えるのではとヒソヒソ話し始めた。そうだね。エステという名の外見カスタマイズ施設が使えるね。

 

「ウチなー、ウチなー、子猫ちゃん達の国に行く!」

 

「ご一緒します。二十四時間で物が排出されるなら、またたびはお土産にはできないでしょうが……」

 

 木乃香さんと刹那さんは、子猫の国訪問を考えているようだ。あそこには、数百匹単位で子猫が住んでいるからね。きっと猫好きには天国のような場所だろう。茶々丸さんもどこかそわそわしている。

 そんな彼女達に、私は補足を入れる。

 

「食べてその者の一部となった場合は、外に排出されないそうです。つまり、お土産はすぐに食べてもらうなら持っていくのもありですよ」

 

「おお、それなら、太公老師が育てた桃を向こうに持っていくアル!」

 

 古さんが、嬉しそうにそんなことを言った。

 崑崙で育てた桃か。そう言えば、私の『ドコデモゲート』があれば崑崙と自由に行き来ができるんだよね。今度、スマホの仙人達を連れて、崑崙に挨拶に行くのもいいかもしれないね。

 もしかしたら、スマホの中の宇宙に、仙境を新たに作り出すアドバイスとかもらえるかもしれない。

 

 そんなことで盛り上がりながら、私達は新オスティアに帰還した。

 新オスティアでは、ゲーデル総督が艦隊を編成しており廃都オスティアへの突入を準備していたが、全部解決したと言って警戒態勢を解いてもらった。

 封印から出てきた敵の親玉を本体ごと封印し、『完全なる世界』残党と和解したことを知らせると、ゲーデル総督はたいそう驚いていた。

 

 捕虜のデュナミスや、寝返ったフェイト・アーウェルンクスの扱いをどうするかの話し合いはこれからしなくちゃいけないし、魂の状態の魔法世界人をどこに復活させるかの調整も早急に必要だ。

 しかし、魔法世界人を夢の世界に閉じ込めようとする造物主の企みは、完全に阻止することができた。

 だがら、今日のところはこれでハッピーエンドということでいいだろう。

 

 

 

◆188 ドコデモゲートのリンネ

 

 ハッピーだったのは、本当に〝今日のところ〟であった。あの日の翌日、私は激務に追われていた。

 ネギくんとの仮契約で手に入れたアーティファクトは、異界と現世の間であろうともゲートで結ぶことができる。それを知った魔法世界の人達が、メガロメセンブリア臨時外交官の私に、地球と魔法世界の間の送迎役としての仕事を割り振ってきたのだ。

 

 魔法世界のゲートは全部テロで破壊されており、残っているのは魔獣がはびこる廃都オスティアの閉じたばかりのゲートのみ。地球と行き来するには大規模な儀式魔法による転移が必要だ。

 なので、私は魔法世界のあちこちに転移し、人を集めて魔法世界各地や地球各地へと送り出す仕事に追われることになった。

 

 ネギくんとネギま部のメンバー達は、『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』残党を説得した功績で、セレモニーに出席している。

 だが、私はそのセレモニーに出る暇もないくらい、転移の仕事で忙しかった。忙しすぎて全然ハッピーじゃない。

 

「いつまで続くんでしょうね、この仕事!」

 

 私は、説明要員として転移についてきているリカード元老院議員に向けて言った。

 

「そりゃあ、ゲートが復旧するまで?」

 

「二年くらいかかるって話でしょう、それ……」

 

「でも、臨時外交官以上に給料いいぞ。何せ、世界中から転移料金を取れる」

 

「私、学生ベンチャーの社長なので、そこまでお金に困っていないんですが」

 

「マジかよ。最近の学生は進んでんな」

 

 スマホで地球と連絡を取れるので収支の確認は随時しているが、開始一ヶ月で『ねこねこ動画』のアクセスは上々。スポンサーもどんどん食いついてきているらしい。

 そうだ、学生と言えば。

 

「今、地球では八月三十一日なのですが、九月一日から学校が再開しますので、学業に戻りますからね」

 

 私がそう言うと、リカード元老院議員が「げっ!」と声をもらした。

 そう、現在魔法世界は十月上旬だが、地球ではまだ八月三十一日までしか日付が進んでいないのだ。

 このカラクリは魔法世界の正体、異界という点にある。ゲートが破壊された影響で、地球と異界である魔法世界の接続が切れ、二つの世界の時間の流れに差ができた。本来の魔法世界はダイオラマ魔法球のように時間の進みが速く設定されているようで、ゲートが復旧するまで魔法世界は、このまま時間の経過速度が速いままのようだ。

 

「休学とか、できんよなぁ……。転移魔法で繋ぐのは結構手間がかかるんだよな」

 

 リカード元老院議員がそう言うが、仕事のための休学などに応じるつもりはない。

 私は、リカード元老院議員に向けて言う。

 

「毎日放課後に一、二時間使う程度が限界ですね」

 

「そうか。毎日時間決めてやるかぁ……って、旧世界は時間の進みが遅いんだった。少しずつ開始時間がずれていくってことか? 面倒くせえ!」

 

「その辺の計算と調整はお任せしますよ。私は、アルバイトのつもりで請け負いますから。休日も設定してくださいね」

 

「とんだ高給取りの学生バイトがいたもんだな……」

 

 こうして、私の二学期からのアルバイトが正式に決まり……ネギま部は『ドコデモゲート』の力で、麻帆良の新学期に合わせた帰還が間に合ったのだった。

 私も渋るリカード元老院議員を始めとした外交部員達と別れ、麻帆良へ。

 メガロメセンブリアで購入した地球に持ち帰れるお土産を女子寮のクラスメート達に配った。

 

 ちなみにウェールズの魔法使いの街ではなく麻帆良に直接帰還したことにより、ネギくんからの連絡でそれを知ったアーニャが、約束を守って待っていたのにこちらに帰らなかったと怒り出した。

 電話越しに痴話喧嘩するネギくんの様子をネギま部一同で微笑ましく見守り、久しぶりの麻帆良の女子寮で迎える夜は更けていく。

 夏休みはこうして終わりを告げ、私達の一夏の冒険は無事に幕を閉じたのであった。

 


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