【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ 作:Leni
■78 懐かしき3年A組
◆189 新学期
とうとう始まった新学期。
本当に懐かしだよね。夏休みの前半はひたすら二十四倍速で修行をして、後半は魔法世界で二ヶ月過ごした。
しかも、古さんに至っては、五年間崑崙で過ごしている。その感情はいかほどだろうか。
「くーちゃん、なんかすごく背伸びてない?」
「成長期アル」
「十センチ近く伸びているように見えるんだけど……」
「成長期アル」
そんな古さんは、朝倉さんに問い詰められひたすらに誤魔化していた。
朝倉さんは裏の世界を知っている人だから、後で説明しておこう……。
そうそう、その朝倉さんだが。
「カズミー! 昨日の動画みたよー!」
「あ、本当? ありがとうね、風香」
「光る世界樹! 空に浮かぶ謎の都市! やっぱりネタにするならアレだよねー」
「アハハ。本当なら、野外でピタゴラ装置もどきを動かす企画をやるはずだったんだけどね」
「それも見てみたい!」
「楽しみにしててね!」
この一ヶ月で、すっかり人気配信者となっており、日々動画のネタ探しに余念がないようだ。
しかも、ただの配信者ではなく、『ねこねこ動画』の公式スタッフ扱いで、彼女の配信は『ねこねこ動画』のトップページに常時枠を取って表示されている。そのように下駄を履かせているので、再生数に応じた広告収入はあげられないが、再生数に応じた給料アップやボーナスはしっかりと検討している。
自己顕示欲が満たされたのか、金銭欲が満たされたのか、彼女はコンスタントに動画を投稿してくれていて、『ねこねこ動画』の知名度アップに一役買っていた。
広告主探しは別のスタッフに完全に任せたようだが、彼女は今後も公式『CatCaster』として活躍してくれることだろう。
そうそう、彼女達の話にあった世界樹の発光と空飛ぶ都市だが、あれは『
結局、ゲートが繋がっても向こう側から何かが麻帆良にやってきたということはなかったようだが……この事実を私達は世間に秘密にしないことにした。
いずれ、魔法は世間に公開される。
そのとき、魔法世界が存在する証拠として、今回の映像を利用するつもりでいる。
光る大木に、逆さまになって空に浮かぶ魔法の都市。インパクトとしては十分だろう。
そんな、魔法の公開やフォトンの公開、別宇宙の存在公開の準備は、粛々と進められている。
まあ、中には公開できないようなこともあるけどね。
たとえば、オックスフォード大学を飛び級で卒業したという噂の子供先生が、実は魔法学校を出ただけで、修行の一環として中学教師を任せられているだとか。
と、そんなことを考えていたら予鈴が鳴り、ほぼ同時に教室のドアが開く。
3年A組の担任が中に入ってきて、教壇に付く。
私は、そこで原作漫画『魔法先生ネギま!』の三十七巻を思い出す。
火星開拓事業を始めて忙しくなったネギ先生。彼は各国の要人へ事業を説明するため、教師の仕事を休職し雪広あやかと共に世界中を飛び回ることになった。代わりに、3年A組の担任代理にはフェイト・アーウェルンクスが就くことになる。
では、この世界ではどうかというと……。
「みなさんお久しぶりです! 今日から二学期ですよー!」
ネギくんは教師を辞めてはいなかった!
火星開拓事業の地球側への説明は、魔法世界の人々が請け負ってくれている。
地球人への説明にネギくんが出張ることもなく、あやかさんのアーティファクトを最大限に活かした直接交渉も、まだまだ先になりそうだとリカード元老院議員に言われている。
魔法世界と関わりのない国への説明に、もしかしたらあやかさんが駆り出されるかも? 程度のことらしい。
ネギくんのネームバリューは、あくまで魔法世界に関わり合いのある相手にしか通用しない。
そして、関わり合いのない相手には、ネギくんはただの子供。地球人と交渉する段階で、説明要員としてネギくんが引っ張り出される可能性は極めて低いと言われた。
まあ、私は計画のキーマンとして、引っ張りだこになると予告されているのだけれども。
「一時間目は始業式ですので、ホームルームが終わったら速やかに校庭に移動してくださいね」
そんなネギくんの言葉を受けて、生徒達から不満の声が上がる。
始業式くらい屋内の体育館でやってほしいところだが、冬以外での始業式や終業式はなぜか屋外でやるんだよね。マンモス校だけど体育館に全校生徒が入らないとかはないのに。卒業式は体育館でやるから、相応の広さがある。
「こうして、皆さんと一緒に二学期を迎えることができて、本当に嬉しいです。今学期も、皆さんよろしくお願いしますね」
ネギくんがそういうと、クラスメート達が口々に「よろしく!」と叫んでいった。
うん、3年A組は、学校を辞めた超さん以外、全員無事にそろって新学期を迎えることができた。
魔法世界での戦いを乗り越え、一人も欠けることなく戻ってこられたのは、これ以上ない成果と言えるだろう。
久しぶりに、学生らしく学園ライフを満喫させてもらうことにしようか。
あ、ちなみに、麻帆良から魔法世界に表敬訪問して、テロの影響でメガロメセンブリアに取り残されていた謎のシスターこと春日美空さんも、しっかり麻帆良に帰したよ。
ナギ・スプリングフィールド杯のネギくんの戦いを観戦した後、オスティア総督府での睡眠テロにもしっかり遭遇したらしい。
そこまでネギま部とイベントを共有しながら、印象には全く残っていないとか、すごいよね。
龍宮さんなんかは、ポヨ女を制圧するのに一役買ったというのにね。ちなみにポヨ女は高畑先生とゲーデル総督のコンビにボコボコにされたあと転移で逃げたらしい。
逃げた先は、魔界の可能性が高いとゲーデル総督が言っていたな。
魔界か。
『完全なる世界』に同調したポヨ女や、未だ姿を見せていない真祖バアルのこともあり、何が飛び出してくるやら。
私は、この夏休みの間にすっかりメル友になったザジ・レイニーデイさんの方をチラリと見る。すると、ザジさんはニコリと笑みを返してきた。
彼女は『魔法先生ネギま!』や『UQ HOLDER!』を読む限りだと、敵には回らない。いざとなったら、情報を流してくれると嬉しいんだけどなぁ。
そんなことを考えているうちに、ショートホームルームは終わり、私はネギくんがクラスメート達にわちゃくちゃにされているのを見ながら、校庭へと移動した。
◆190 世界の行方
さて、ネギくんが地球人への説明に駆り出されないと言っても、魔法世界に駆り出されないわけではない。
土曜日曜は魔法世界の各地を訪れて、計画の説明やセレモニーへの出席を行なっている。
本日、九月二十三日秋分の日も、教師の仕事が休みとあって、魔法学園都市アリアドネーへ遊説に向かっている。
今頃、英雄の息子であり、『完全なる世界』の野望を阻止した英雄でもあるネギくんを迎えて、アリアドネーは街中、上へ下への大騒ぎとなっていることだろう。
私は、そんなネギくんを運んでから、麻帆良に取って返してキティちゃんの家にやってきていた。
休みの日なので、ネギま部が集まっているのだ。ちなみに、二十四倍速の別荘ではなく、通常速度にした私のダイオラマ魔法球の方での集合だ。
「リンネ姉ちゃん、ゲートの仕事はええんか?」
小太郎くんが、珍しくネギま部の活動に顔を出している私に尋ねてきた。
現在、小太郎くんと二人でお茶タイムだ。お茶請けは、地球に持ち出せるお土産として定番らしい、メガロメセンブリアの銘菓『元祖メガロ饅頭』。
それをパクつきながら、私は答える。
「ええ、ゲートの復旧はまだですが、大規模転移術式の用意が各地でできてきましたからね。最近はそこまで大忙しではないのですよ」
そう、何も直すのに時間がかかるゲートだけが、魔法世界と行き来する方法ではない。すでに魔法世界と地球間の通信は復活しているし、転移の方法だって確立している。
この辺は、原作漫画でも同じように復旧していたから、別に不思議がることでもない。時間が経てば経つほど、私の力が必要じゃなくなってくるわけだ。だからこそ、私はアルバイト感覚で仕事をしているわけだね。
「そっかあ。魔法世界の方はどないや?」
「どないって、ずいぶん抽象的なことを聞きますね」
小太郎くんの問いに、私は答えに詰まる。
「ほら、あれや。魂から復活した人のその後とか」
「ああ、あれはフェイトさんが中心になって、各国と調整していますね」
「へえ、フェイトの奴、ちゃんとやっとるんやな」
「そうですね。今の作業が終わったら、魔法世界の紛争の解決に従事したいとか言っていましたね」
「紛争かぁ。上手く解決できるもんなん?」
「難しいでしょうねー。魔法世界は宗教的対立がありませんが、民族的、種族的対立がガチですから」
何せ、見た目からして人じゃない種族が普通にいる世界なのだ。対立があったら融和は困難を極めるだろう。
渋い顔をする小太郎くんに、私はさらに言葉を続ける。
「ちなみに、種族的対立は地球でも起こりえますよ。魔法を世間に公開したら、起きます」
「なんや? 魔法使いと一般人の間でか?」
「いえ、そちらではなく、世界の裏側に隠されてきた種族と人間の間でです。たとえばそう、狗族と人間とか、烏族と人間とかです」
「そっちか。確かにありそうやな」
「小太郎くんも他人事ではないのでは?」
覚醒して以降、銀髪となった小太郎くんの頭を見ながら、私は言った。
その視線の先を理解したのか、小太郎くんは指で頭を掻きながら答える。
「下宿先に帰ったら、髪を染めたのかってめっちゃ怒られたわ」
こんだけカラフルな頭髪の世界でも、そんなことあるんだねぇ。
別に、黒髪でなければいけないみたいな校則は存在しないんだけど。
「小太郎くんは、魔法先生のところに下宿しているんでしたっけ」
私がそう尋ねると、小太郎くんはうなずいて答える。
「ああ、刀子先生な。神鳴流剣士やな」
結婚を機に関西からこちらに移り住んだという人だ。まあ、その後、離婚したらしいけど。
小太郎くんがもう少し年長だったら、彼女にとっていい彼氏候補だったろうになぁ。あ、今、刀子先生彼氏がいるんだっけ? 原作漫画の超鈴音による魔法バレで、遠距離恋愛になることをなげいていた気がする。
魔法はそのうち世間に公開するけど、彼氏はちゃんと受け入れてくれるといいね。
「同じ神鳴流で刹那姉ちゃんと面識がある言うてたけど……その刹那姉ちゃんがおらんな」
小太郎くんが、周囲を見回してからそう言った。
うん、先ほどから烏族だの神鳴流だの話しているが、いかにも反応しそうな刹那さんがいない。
というのも……。
「彼女は、木乃香さんと一緒に、駅へ詠春さんを出迎えに行っていますよ」
「呪術協会の長か。なんや、麻帆良に用事かいな」
「いえ、麻帆良にではないですね。私に用事というか、私と一緒に日本の要人と会いに行きます」
「へー。『ねこねこ計画書』の説明か?」
「はい。関東魔法協会の理事長さんと一緒に、首相官邸へと行ってきます」
私の言葉を受け、小太郎くんの目が点になる。
「首相官邸って、まさか総理大臣とでも会うんか?」
「そうですよ」
「そらすごいな!」
「そうですか? 小太郎くんだって、今まで散々、メガロメセンブリアやヘラス帝国、アリアドネーのお偉いさん達と会ってきたでしょう?」
「……それもそうやな」
そういうわけで、私はネギま部の面々と軽く会話を交わした後、ダイオラマ魔法球から出て詠春さんと合流した。
そして、関西呪術協会の長である詠春さんと、関東魔法協会の理事長の組み合わせで、総理大臣官邸へ。
理事長さんは学園長先生より偉い人だけど、この人が頑張っているおかげで麻帆良はメガロメセンブリアから独立を保てているんだなぁ。
総理大臣との会談でも理事長は相手を敬いつつもけっして意見を譲らず、魔法使いとしての立場をしっかりと相手側に表明していた。うん、この人に任せれば、日本での魔法公開は上手くいくだろうな。
詠春さんは……政治屋としてはまだまだって感じである。
私? 適当に笑顔を貼り付けながら、ほとんど無言で過ごしていたよ。下手に政治の世界に組み込まれても困るしね!
そんな感じで日本での調整も順調に進んでいる。
世の中には魔法バレを防ぐための専門の対策機関も存在するのだが、そこへの顔見せもしっかり行なう。彼らは今後職を失うことになるからね。しっかり話を通す必要がある。
こうして計画は一歩ずつ前に進んでいき……世界は、少しずつ動き始めていた。
※関東魔法協会理事長は原作に存在しないキャラ。つまり名無しのオリキャラです。一方、魔法バレを防ぐ専門機関は原作にも存在します。十五巻参照。