【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■79 イノセントブルー

◆191 親善大使

 

 二〇〇三年十月一日。その日、私は放課後を使って、ある人物達を麻帆良に運んでいた。

 いずれも魔法世界人で、種族は様々。所属は、独立学術都市国家アリアドネーである。

 

 彼らを学園長先生および魔法先生の代表者達の前に連れていき、本日の私のアルバイトは終了。

 ここから先は、ネギま部としての活動だ。

 その一環として、私はネギま部に集合をかけ、アリアドネーの人達と引き合わせた。

 

「こちら、魔法世界(ムンドゥス・マギクス)よりいらっしゃいました、アリアドネーの親善大使ご一行です」

 

 私がそう紹介すると、ネギま部から代表してネギ先生が前に出て、大使の人達と握手を交わしていく。

 ネギくんはもうすっかり握手に慣れていて、手をにぎる際にそっと微笑むサービスすら身につけていた。

 

「よろしくお願いいたします。私、エミリィ・セブンシープと申します!」

 

「エミリィさんですね。ようこそ麻帆良へ」

 

 褐色肌に垂れた獣耳の少女が握手しながら自己紹介を始めたが、ネギくんはそれをにこやかに受け入れた。

 エミリィ・セブンシープといえば、『魔法先生ネギま!』の魔法世界編の綾瀬夕映サイドに登場した、アリアドネーの魔法騎士団候補生の学級委員長ポジションキャラだ。

 確か、母親と親子二代でナギ・スプリングフィールドの大ファンで、ファンクラブにも入っているんだったかな。握手をしてめちゃくちゃ上気した顔になっているから、この様子だとネギくんのファンにもなっていそうだ。

 

「ああ、もう死んでも悔いはないですわ……」

 

 ネギくんから手を離したセブンシープさんがフラリとよろけ、横にいた黒髪の少女がそれを支える。

 それに慌てたのは、ネギくんだ。

 

「大丈夫ですか!? 治療魔法は要りますか!?」

 

 すると、黒髪の少女が焦った様子も見せずに答える。

 

「大丈夫です。お嬢様はネギ様の大ファンなので、嬉しすぎて倒れただけです」

 

「そうですか……」

 

 ネギくんがホッとした顔になる。そこまで大騒ぎしていないあたり、似たような事態に何度か遭遇しているのかもしれない。

 そして、セブンシープさんは他の大使の人達に介抱され、握手会の続きをそのまま行なうこととなった。

 まずは、セブンシープさんを横で支えた黒髪の人間種の人からだ。

 

「ベアトリクス・モンローです。ラカン様との闘い、すごかったです」

 

「見てくださったんですか!」

 

「当日は、お嬢様共々、戦乙女騎士団の仕事で闘技場の上空警備でしたので、遠目にしか見られませんでしたが……」

 

「アリアドネー戦乙女騎士団ですか! 優秀なんですねー」

 

「いえ、まだ候補生ですので、大会で活躍なさったネギ様ほどでは……」

 

 アリアドネー戦乙女騎士団か。オスティア終戦記念祭でも、警備をしているところを見たな。

 原作漫画だと、綾瀬夕映がコレットという少女と共にこの騎士団の見習いとして、オスティアにやってきていたのだが……この世界でのコレット少女は、夕映さんがパートナーにならなくて落ちこぼれからの脱却はできなかったのだろうか。

 少なくとも、それらしい存在はこの親善大使の中にはいない。

 

 そして、ネギくんとの握手会が終わると、なぜかサイン会に発展した。まあ、ネギま部と親善大使の親睦会という名目で面会しているから別にいいんだけど。さらにネギくんのサイン会が終わると、今度は親善大使の中の若者達がなぜかキティちゃんの方を見た。

 

「本物の闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)……! あの、サインをいただいてもよろしくて?」

 

 調子を取り戻したセブンシープさんが、キティちゃんにサインを求めだした。

 

「はあっ? なぜ私にそんなものをねだる」

 

 キティちゃんが、心底理解できないといった感じで問い返す。

 キティちゃん的には、自分は魔法世界人にとって恐怖の代名詞であり、萎縮させたくないとのことで、この場への参加すら渋っていたくらいなのだが……。

 

「おとぎ話の登場人物! それが現実に存在しているとなれば、サインをいただく以外に選択肢がありません!」

 

「……そういえば、そういう扱いだったな」

 

 セブンシープさんの主張を聞いて、キティちゃんはこの前知った、魔法世界で現代魔法世界人が闇の福音をどう思っているかについて、思い出したようだ。

 うん、現実的な犯罪者じゃなくて、物語の住人なんだよね。

 

 そして、微妙な顔でサインを数枚書いた後、キティちゃんがこちらに寄ってくる。

 

「現実世界でメガロメセンブリア以外の魔法世界人を目にする日が来るとはな。これが、例の技術か?」

 

 キティちゃんの問いに、私はうなずいて答える。

 

「はい。火星開拓に先駆けた技術供与を行ないました。『イノセントブルー』です」

 

「仮初めの存在に、肉体を与える技術、か……」

 

「この技術は先に渡さないと、魔法世界人が地球人との交渉を開始できないですからね」

 

『イノセントブルー』。『ファンタシースターオンライン2 es』のキーとなるオラクル船団の技術である。

『PSO2es』にはウェポノイドという武器を人化した種族が登場するのだが、その人化を成り立たせているのがこの『イノセントブルー』だ。

 武器を人化し、敵性生物(エネミー)を人に変え、データ化された人間に肉の器を与える、そんな技術だ。

 

 ちなみに『イノセントブルー』で造られる肉体はフォトンで構成されるため、魔法世界人が器を新たに造るにはフォトンが必要だ。フォトンの発生源であるのどかさんの重要度が超絶アップである。

『イノセントブルー』をきっかけにしてフォトン関連技術そのものへの関心も高まっており、麻帆良にフォトン研究施設を新たに建てる話なんかも出ているね。

 そこの研究員候補として当然のようにクラスメートの葉加瀬聡美さんの名前も挙がっており……地球人類も原子力に替わる新エネルギーとしてフォトンに注目するだろうし、フォトン研究者は世界の最先端を行く者扱いを受けそうである。

 

 学術都市アリアドネーの人達が真っ先に親善大使を送ってきたのも、ここ麻帆良が最先端の学術研究の場になることを察したからではないだろうか。

 まあ、平和に交流してもらう分には大歓迎だ。

 

 アリアドネーの人達には、存分に地球人との友好と技術の架け橋になってもらおうじゃないか。

 地球に駐在する魔法世界人が増えれば、人の行き来が減って私の忙しさも少しは減るだろうからね。

 

 

 

◆192 傭兵

 

 ある日の放課後、私はクラスメートの龍宮さんを呼び出して、教室で話し合いをしていた。

 議題は、発展途上国への魔法及びフォトン関連技術の拡散について。

 龍宮さんはその経歴上、発展途上国や紛争地帯での活動経験が豊富であり、海外で活動するNPO法人との伝手も多く持っている。なので、彼女も魔法世界救済計画に組み込んでしまうことにした。

 

 お金で動く彼女だが、今回の議題は無視できないだろう。何せ、世界平和のために超さんサイドについて魔法を世界に拡散しようとした下手人の一人なのだ。

 

「つまり、この国は独裁体制となってそれなりに長くてな。新技術は民間から広めるべきだ」

 

「へー。でも、それって、革命につながりません?」

 

「いいことじゃないか。軍部の圧政に苦しんでいる国だぞ」

 

「いやいやいや、泥沼の内戦とか勘弁ですよ」

 

「そこで魔法系団体を介入させてだな……」

 

「内・政・干・渉!」

 

「そんなの今さらだろう。世界の不均衡を是正するなら、思い切りも必要だぞ」

 

 子供達が笑って過ごせる平和な世界の実現が夢らしいのに過激なことを言い出す龍宮さんに戸惑いながら、私は話を進めていく。

 うーん、さわりの部分だから二人での話し合いをしたが、これは他の人も巻き込んだ方がよかったかな?

 

 しかしまあ、新技術を渡してハイ終わりと行けば楽なんだけど、そうはいかないものだね。

 技術さえあればいいなら、ハーバーボッシュ法が発明された時点で地球は飢えのない農業惑星になっていてもおかしくないはずだからね。しかし、今日も困窮した人々への医療品や食料を提供するための寄付を募るテレビCMは、止まらない現状なのである。

 

『UQ HOLDER!』にて真祖バアルが中世に、当時の文明人であったメガロメセンブリア人を地球人類の盟主にしようとした気持ちも分かろうってもんだ。

 まあ、それにならって現代で魔法使いを政情不安定な国の首長にでも据えようものなら、魔法使いと普通の人間との間で、終わらない戦争が始まりそうだけど。

 

 そんなこんなで、政治・宗教・民族という私が一生関わりたくなかった泥沼テーマについてとことん話し合っていると、不意に龍宮さんの仕事用ケータイに着信が入った。

 話を中断して、電話に出る龍宮さん。私は、少し離れたところで電話が終わるのを待つ。

 

「すまない、急ぎの仕事だ」

 

 電話を切った龍宮さんが、そう告げてくる。

 仕方ない、今日はここまでだ。そう思って、机の上に広げていた資料をまとめ始めると、龍宮さんがさらに言う。

 

「リンネ、行くぞ」

 

「え?」

 

「今回の仕事は、リンネにも関係ある話だろうな。麻帆良への侵入者が、アリアドネーの親善大使のところに向かっているそうだ」

 

「なんですとっ」

 

 麻帆良に怪しい侵入者とか、そんな前世で読んだネギまの二次創作小説のような展開……。しかも、狙っている相手がアリアドネーとか、どうなっているんだ。

 私は、テーブルの上の資料を乱暴にまとめて、カバンの中に放り込む。そして、カバンを机に放置したまま、龍宮さんに向けて言った。

 

「分かりました。行きましょう。でも、仕事内容を漏らしちゃっていいんですか?」

 

「なに、こう言えば、リンネは私の仕事を手伝ってくれるだろう?」

 

「確かにその通りですけどねっ。では、親善大使のところへ直接ゲートを開きます」

 

 私は、スマホを取り出して『ドコデモゲート』の使用準備をする。

 

「フフ、便利だな」

 

 便利すぎて、いいように使われているけどね!

 

 

 

◆193 魔族の襲撃

 

『ドコデモゲート』を使って、龍宮さんが指示するアリアドネーの人のところへ飛ぶ。

 それは、エミリィ・セブンシープさんとベアトリクス・モンローさんの二人組。それを守るように、魔法先生の葛葉(くずのは)刀子(とうこ)先生が大太刀を抜いて前に立っていた。

 その三人と向かい合うようにいるのは、大勢の悪魔だ。

 現在位置は、麻帆良市街地にあるカフェのテラス席。街中での襲撃とは、なかなか大胆な相手だ。

 

「救援に来ました!」

 

 私の声を聞いて、刀子先生がホッと息を吐く。

 

「『白き翼(アラアルバ)』が来てくれるとは、私も悪運が強いですね。敵は下級悪魔が十五体です。街中でもお構いなしに魔法を使ってきます」

 

 いや、その言い様って、ネギま部に戦闘集団としての名声でも付いて回っているの?

 しかし、下級悪魔か。

 

「学園結界に妨害されない絶妙なラインですね……召喚士は麻帆良を熟知していそうですね」

 

 私はそう言いながらスマホから力を引き出し、武器を取り出す。本日の武器は、長槍の『アレティアランサ』。仲間のHPを一定間隔で回復してくれる効果がある。武器潜在ってやつだ。

 武器潜在は『PSO2es』の力ではなく『PSO2』の力のため、私が持ってもそのままでは力を発揮してくれないが、この武器に関しては使い慣れているので、武器の真の力を引き出すことが可能だ。

 

 私が槍を構えたのを見て、刀子先生が言う。

 

「いえ、この悪魔は召喚魔ではありません。送還の術が一切効きません」

 

「……魔族による直接の襲撃ってことですか」

 

「ええ。救援はリンネさんのみですか?」

 

「龍宮さんが配置についています」

 

「なるほど、追加が来るまで粘りましょうか」

 

 私達がそう言葉を交わすと、魔族達が言葉を発した。使用言語は日本語ではないが、『白き翼』のバッヂに付与された翻訳魔法が意味を伝えてくる。

 

「刻詠リンネだ!」

 

「なんてことだ!」

 

「おい、聞いてないぞ!?」

 

 おっ、なんだ? 私、有名にでもなったのか?

 

「捕らえろ!」

 

「殺すなよ、手足はもいでも構わん!」

 

 え、ええー……。

 それを刀子先生も聞いていたのか、微妙な顔をして言う。

 

「……すみません、敵の本命はアリアドネーではなく、刻詠さんだったようです」

 

 いやー、どうなっているんだろうね。

 まあ、仕方ない。とりあえず全員倒してしまおう。しょせんは、学園結界に阻まれない下級悪魔だしね。

 

「では、早速行きますよ。奥義『飛天流槍衝』」

 

 私は、槍を構えてその場で跳躍。槍を天に掲げると手元から槍が消え、その槍が五つに分裂して天から斜めに降ってくる。

 その槍は、物凄い速度で下級悪魔に突き刺さり、そのまま大爆発を起こした。地面が砕け、悪魔が吹き飛ぶ。

 

「んなっ、リンネさん、そんな派手な!?」

 

 刀子先生が驚き声を上げるが、私は気にしない。逆に、アドバイスを送る。

 

「もうすぐ魔法の存在が公開されます。なので、多少の粗は気にしないで良いですよ。そもそも街中に悪魔ですよ。誤魔化しきれませんって」

 

「それは、そうですが……」

 

 言いよどむ刀子先生はとりあえずこのままにして、私はアリアドネーの二人に言う。

 

「というわけで、身を守るために魔法を思いっきり使っていいですよ」

 

「了解しましたわ!」

 

「よかったです。魔法をおいそれと使えず、不便だったのですよ」

 

 アリアドネーの二人が、懐から携帯用の小さな杖を取り出す。

 さて、私も技のクールタイムが空けたので、もう一丁だ。

 

「魔族さーん、次行きますよー」

 

 私は、もう一度ジャンプして奥義『飛天流槍衝』を敵に食らわせる。この奥義は、『まほら武道会』で力を引き出した『天穿の槍士フィロ』が持つもう一つの技だ。範囲内の敵五体に向けて範囲攻撃をするというなかなか恐ろしい技。範囲攻撃というのは、命中した周囲にもダメージを与える攻撃。つまりは爆発。

 その爆発に巻き込まれて、十五体の悪魔は全て倒れ伏していた。

 

「……死んでいませんよね?」

 

 刀子先生が、確認するように私に問うてくる。そんな彼女に、私はほがらかな笑みを浮かべて答えた。

 

「大丈夫ですよ。魔族は頑丈ですから、首を落としても生き延びます」

 

「んなわけねーだろ……そんなのは爵位持ちとかだよ……」

 

 あ、まだ喋れるほど余裕があるね。

 じゃあ次、必殺技(フォトンアーツ)でも食らってもらいましょうか。行くぞー、連続突きだ! 『ティアーズグリッド』!

 

「追い打ちかよっ!」

 

「死ぬぅ!」

 

「誰だーッ、『白き翼』は男と闇の福音以外非戦闘員とか言ったの!」

 

「痛え! 悪魔払いの力だこれ!」

 

 元気そうだなぁ、こいつら。

 私は仕方なしに、学園側の応援が来るまで悪魔達をひたすら槍で突き続けることにしたのだった。

 


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