【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ 作:Leni
■8 新米先生ネギま!
◆26 アイキャンスピークイングリッシュ
初めて見る生身のネギくんは……本当にちっちゃい子であった。
『Fate/Grand Order』では、
そんなネギくんの数回目の授業。担当科目は英語である。
自慢じゃないが、私、英語は得意だ。前世は外資系企業に勤めていて、アメリカにも出張したことあるしね。自慢だね?
会話できるレベルで英語に慣れているからこそ、神様に転生させてもらう際の第一志望は、イギリスが舞台の『ハリー・ポッター』だったわけだ。
まあ、イギリス英語は詳しくないんだけど。ネギくんはアメリカ英語使えるのかな?
と、そんなネギくん。授業中に神楽坂さんに「英語ダメなんですね」と発言して、クラス全員の笑い物にしていた。
このへん、ギャグ漫画時空が云々じゃなくて、純粋にネギくんの精神の幼さが出ているよね。
他人をおもんぱかるだけの情緒がまだ九歳の年齢相応にしか発達していなくて、しかも魔法学校時代は他の生徒と交流せずに、攻撃魔法の習得ばかりにかまけていた。
この頃のネギくんは、まだ他人を思いやる優しさが足りないのだ。
だから、この2年A組の面々と触れあって、精神的に成長していってほしい。
登校地獄の呪いが解除されているのに真面目に授業に出ているキティちゃんも、それを望んでいることだろう。
そんなことを考えていた英語の授業。神楽坂さんがネギくんの魔力暴走によって下着姿に剥かれたことで、慌ただしいまま終了した。
そして、昼休み。
「いやー、ネギ坊主、ずいぶんと制御が甘いようアルな」
昼食を食べ終え、自由時間になって古さんがそう言いながら私の方へとやってきた。
制御が甘い。魔力暴走について言っているのだろう。
くしゃみと一緒に武装解除の魔法が勝手に発動して、相手の服が脱げる。エロコメ時空の住人であるネギくんが持つ、主人公特性だ。
「学生時代に、その辺はさじを投げられたそうで」
「大丈夫ナノカ? イギリスのその学校は」
「〝風が起きないようにする〟器具くらいは用意してほしかったのが、正直なところです」
あるのか知らないけど。魔力暴走を防ぐマジック・アイテム。
と、話しているところに、教室のドアを開けて話題のネギくんがやってきた。
何やら神楽坂さんと話していたが、ネギくんが持っていた瓶の中身を神楽坂さんがネギくんに無理やり飲ませだした。
と、そこに古さんから念話が。
『何か、精神にビビッとくる術の気配がしたアルが……』
『あー、ネギ先生が自前の惚れ薬を神楽坂さんに飲まされました』
『惚れッ……!? そーいうの犯罪じゃないアルか?』
『犯罪ですねぇ』
ちなみに古さんは未だに『魔法先生ネギま!』を読んでいない。
彼女はポーカーフェイスができないので、余計な情報を不用意に入れるな、というのがキティちゃんの言葉だ。
『まずくないアルか?』
『この干渉強度なら、すぐに効果が切れるので放っておいても大丈夫じゃないですか?』
今、麻帆良周辺はギャグ漫画時空になっているだろうし、放っておくのが一番だ。もしネギくんにキスをしてしまうような人が出た場合は、事故にでもあったと思ってもらおう。
視界の隅でネギくんが生徒達にパンツを脱がされそうになっている様子を見ながら、スマホで撮影するのは勘弁してやろうと考える私であった。
ちなみに、この騒動を漫画で前もって知っていたキティちゃんは、笑いを噛み殺して表情筋がプルプルと震えているようだった。
◆27 バカレンジャー
古さんは2年A組のバカレンジャー五人組の一人である。
ネギま原作においては、日本語がつたないのでテストの問題文を読めないという状況もあって、テストの点数を取れていなかった。
だが、この世界の古さんは、二十四倍速の世界で散々日本語会話をし続けてきたので、日本語の問題文が読み解けないという状況にはない。
では、なぜバカレンジャー入りしているかというと、二十四倍速の世界に入り浸りすぎだからである。
スナック感覚で週末別荘入りとかするので、授業と授業の間に時間が空きすぎて、勉強した内容が頭から抜けてしまうのだ。
ちなみに私とちう様は、そんなおバカなことにはなっていない。
女子寮の部屋が同室なので、一緒に復習をしているからだ。ちなみにちう様も、この数年ですっかり英語をマスターしてしまった。怪しいハッキング用ツールを使いこなすには英語はやはり必須だったようだ。魔法世界のインターネットの『まほネット』も、地球の言語だと英語を使うのが一番正確性高いしね。
さて、古さんはバカレンジャーだが、子供教師のネギくんも、クラスにそんな存在がいる状態を放っていたわけではない。
定期的に英語の補習を実施して、バカレンジャーの英語力をなんとかしようと努めていた。
しかし、結果はそうそう早く出るものではなく……三学期の日々は過ぎていき、怪しい雲行きのまま期末テストが近づいた。
これは……起きるかな。図書館島監禁イベント。
期末テストの結果で『2年A組が最下位を脱出できたら、正式な教師に任命する』というネギくんの課題が学園長から出るはずだ。
今のネギくんの立場は、三学期のみの臨時教師でしかないからね。
そんなことをキティちゃんと話していたのだが、キティちゃんは苦い顔だ。
「もしここでクラスが最下位になって、ネギのぼーやが帰国なんてことになったら、全てが台無しだぞ」
「エヴァンジェリン先生の場合、普段手を抜いているのだから、真面目に点数取ればいいだけでは?」
「そうは言うがな。未来がどう転ぶかなど分からんのだ。古菲のヤツ、もしや予言の書の世界線よりもバカになっているのではないか?」
「あー、そうでしょうねぇ」
「よし、リンネ。テストまで、毎日放課後、古菲のヤツをうちに連れてこい。別荘で勉強漬けにする」
「うわおう、そこまでしますか」
「古菲は、図書館島の勉強会などでは生ぬるい」
「元々、今の古さんは行かないんじゃないですかね、図書館島。仙術系統じゃない術書に安易に触れることは、避けるでしょうから」
「ぼーやの勉強会に向かわないのならば、やはり別荘送りは必要だな」
というわけで、古さんの毎夜の缶詰状態から数日が過ぎると、クラスから数人、姿をくらました者が出た。
消えたのは、
彼女らは、ネギくんの課題を成功させたい学園長の策略で、図書館島の地下深くに監禁され、勉強づくしの数日を過ごすことになる。
監禁メンバーはネギま原作から
「私だけ仲間外れで、図書館島で遊んでいるとか、ズルいアル」
キティちゃんから、消えたバカレンジャー達の行方を聞いた古さんが、そんなことを言いだした。
ちなみに現在も、古さんは私をともなって別荘で勉強中である。
「遊んでなどおらぬはずだぞ。一日中勉強漬けのはずだ」
「私とおんなじネ!」
「それはない。こちらの方が厳しくしているからな」
「ちょっとゆるめてくれてもいいアルヨ?」
「絶対に許さん」
うーん、勉強させるのはいいんだけど、教師役に私を使うのはどうにかならない? キティちゃんや。
「むー、私と同じくらい修行してるリンネが、成績いいのが納得いかないアル」
「以前説明した通り、私には前世の記憶がありますからね。大学卒業しているんですよ。中学生の勉強くらい、片手間でできないと恥ずかしいです」
古さんには『魔法先生ネギま!』は見せていないが、スマホの中から人を呼び出せる私の能力を説明するために、転生関連は説明済みだ。
「リンネ、実はおばさんネ」
「古さんも、別荘を使った時間を考えると、結構な歳いっているって気づいてます?」
「アイヤー! それは言わないお約束アル!」
まあ実際のところ、前世の学生時代の知識も長年使わなすぎて、高校あたりの内容となると怪しい限りだが。
三角関数とか微分積分とか大丈夫かなぁ……。
「さあ、次は地理の勉強だ」
キティちゃん、張り切っているなぁ。
まあ、二年生の間は、ネギくんが正式な教師になるための課題があるから、彼にちょっかいをかけたくてもかけられなかったからね。あと一息と、はげんでいるのだろう。
予言の書を参考にして四月に行動を起こして成長をうながす、なんてこと言っていたしね。
桜通りの吸血鬼事件、起こっちゃうのか。ネギくんは神楽坂さんと
◆28 ワクワク春休み
三学期の期末テストは我らが2年A組が、原作以上の好成績を残してクラス成績一位となった。
私はうちのクラスの一位獲得にトトカルチョで食券を賭けていたので、大穴が当たって大儲けである。
というわけで、無事にテストも終わって打ち上げパーティーが行なわれた。
原作ならば長谷川千雨の初のメイン回がここで挟まれるのだが、残念ながらこの世界のちう様はネットアイドルをしていない。なので、ネギ先生にコスプレ現場に踏みこまれるという事態は起きなかった。
え? メディア様の衣装を着る契約? あれは、スマホで撮影したけど、ネットには流していないよ!
ネットアイドルの代わりに、ちう様は英語のサイエンスニュースを日本語で紹介するブログを最近開設していた。どうやら、すでにコアなファンが付いているようだ。ちなみに2003年の現在、すでにブログ提供サービスがインターネット上に存在している。
長谷川千雨メイン回がなくなったことで、ちう様とネギくんの接点がなくなったかというと、そんなことはない。何せ、同じ女子寮に住んでいるのだ。普段から交流はそれなりの頻度で行なわれている。この世界のちう様は伊達メガネもしていないし、ぼっちでもない。
さて、テストも終わり、春休みである。
一年生から二年生に上がるときの春休みは、夏や冬の長期休みと違い、別荘での合宿は行なわなかった。
これは、去年キティちゃんが春休みを丸々利用して、旅行に行っていたからだ。エヴァンジェリン邸を閉めていたため、私達もダイオラマ魔法球の使用を禁止されたのだ。
そして、今年もキティちゃんは旅行に出かけるらしい。なんでも、古い知り合いに会ってくる、だそうだ。
もしナギ・スプリングフィールドに倒されたなんて噂が流れていたら心配されているだろうし、長期の休みで会うとしたら絶好のタイミングだろう。
まあ、私の想像でしかないんだけどね。
と、今年もダイオラマ魔法球は使えない。なので、私はのんびりと過ごすことにした。
買い物に行ったり、映画を観にいったり、スマホでゲームのデイリーを消化したり、古さんとちう様が所属する中国武術研究会に顔を出したり。
「うっす! リンネの姐御、ちわっす!」
そして今日は、その中武研に顔を出したところだ。
顔を合わせた途端、会員達がこのような挨拶を一斉にしてきた。
姐御ねぇ。まあ、ダイオラマ魔法球のせいで、実際彼らより年上だけどね。でも、見た目だけは中学生なんだから、あんまり厳つい挨拶は、よしてほしい。
まあ、言っても聞かないだろうけど。どうも、一昨年のウルティマホラで優勝したのが効いているらしい。
「姐御、手合わせお願いしやす!」
「いいですよー」
という感じで、中武研の面々と交流していると、ふと視界の隅に見慣れたお子様が。ネギくんだ。ついでに、双子の鳴滝姉妹も一緒にいるようだった。
「ここは中国武術研究会ですー」
「ここの男達は、くーふぇとちうちゃんの支配下にいるのだ!」
鳴滝姉妹が、ネギ先生に中武研の紹介をしている。どうやら、彼女達の部活、さんぽ部の活動にネギ先生を同行させているらしい。
「へー。大学生とかもいるのに。古さんと長谷川さん、すごいですねー」
そんなネギくんの声が聞こえてきたのか、ちう様がどこか恥ずかしげだ。古さんは平然としている。
「あれ、刻詠さんもいますね。彼女も中国拳法やるんですか?」
「いや、違うですー」
「リンネちゃんは、中武研のライバル勢力なのだ」
「ええっ、そうなんですか?」
勝手に中武研の敵対勢力っぽいのにされたぞ、私。どちらかというと名誉会員なのだが。
「麻帆良で一番強い人は、今はくーふぇですけど、その前はリンネちゃんだったですー」
「えっ、一番強い?」
「麻帆良では、一年に一度、最強を決める戦いがあるんだよー」
そんな解説に、どことなく周囲がふわふわと浮き足立ってきた感じがある。
そして、そんな中一人どこ吹く風だった古さんが、会員への指導を止めて、こちらに近づいてきた。
「リンネ、せっかくだからギャラリーに良いの見せてあげるネ。手合わせするヨ」
「あー、はい。分かりました」
そして、唐突に私と古さんによる軽い手合わせが始まった。互いに『気』を使わない、技術のみのじゃれ合い。
うん、もうすっかり素の私じゃあ古さんの武術に敵わなくなってきたな。
「はわー、すごいですねー」
そんな私達の手合わせをネギくんは、ぼんやりと見つめていた。
その表情には、武への憧れのような感情は見て取れない。純粋に、自分の及ばない領域に感心しているだけだ。
この時点のネギくんは、かつて自分の村を襲った勢力への復讐心をくすぶらせているはずだ。
だが、武術に復讐への利用価値を見いだしていないようだ。
ネギくんにとっての武力とは、すなわち魔法なのだろう。おそらく、京都でコタローと戦っていないからそういう判断になっているのだろうね。
「ホアチャ! 考え事アルか?」
「おっと、ギャラリーに気を取られすぎましたかね」
古さんから有効打(寸止め)を受け、手合わせは終了。
次の場所へ行くというネギくんと鳴滝姉妹を見送って、私は休憩に入った。
用意されていた飲み物を飲み、汗をふいたところで、古さんが小さな声で私に話しかけてくる。
「一度でいいから、リンネとは〝全力〟で戦ってみたいものアルね」
全力か。本気で戦ったことはあるが、全力はない。だって、私達の力量だと相手を殺してしまうことになるからね。
でも、そうだな。
「おそらく、泥仕合になった後、私が勝ちますね」
「む。どうしてアルか?」
「だって……私、死んでも生き返りますもの」
古さんは道士として不老になったが、不死性は持ち合わせてはいない。
いずれ仙人に至るであろう古さんが、不死の力を手にするかは、今の私には分からない。