【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■82 リンネワールド

◆199 別宇宙への旅立ち

 

「皆さん、準備はよろしいですか?」

 

 暴露話を終えた土曜日の夕方、私達は大急ぎで一泊二日の旅行準備を終え、エヴァンジェリン邸の前に集まっていた。

 泊まりがけの旅行となるが、日曜日の明日は転移のアルバイトも休みのため、私も問題なく同行できる。あと、かつては朝の新聞配達をしていた明日菜さんだが、夏休みに魔法世界(ムンドゥス・マギクス)で現地の通貨であるドラクマをがっつり稼ぎ、一部を日本円に換金したためバイトはすでに辞めている。トレジャーハントと竜退治と拳闘大会の賭博で、高校卒業までの学費は余裕で稼げているからね。

 

「保管していた桃、バッチリ持ってきたアル」

 

「またたびも、たくさん買ってきたでー」

 

 古さんと木乃香さんが、それぞれ大きな荷物を用意してそのようなことを言った。

 古さんは仙人達用の桃だからいいけど、木乃香さんは正直、その量じゃ足りないよ?

 子猫達の総人口は六百匹を超えているし、子猫達にとってまたたびって、ごく少数を舐めて満足するような嗜好品じゃなくて、食料品だからね……。

 しかも、群れのリーダーはいるが、厳しい階級社会ではない。みんなに平等に配ったら、ちょっとずつしか行き渡らない。

 ただ、現世に出てこないと食べられない珍味扱いを受けているようだし、一皿分あればそれでもいいのかなぁ?

 

「まず始めに言っておきます。スマホから通じる宇宙の共通言語は、日本語です。これは、私が日本生まれであることから、宇宙会議で決定されたものです。なので、言語については心配しないで大丈夫です」

 

 私がそう言うと、みんなはイマイチそれがどういうことか理解していない顔でこちらを見てきた。

 いや、実はすごいことなんだよ。異なる文化を持つ集団が、同じ言語を使って交流できる。これは大きい。その証拠に、英語教師のネギくんは何かを考え込むようにしているよ。

 まあ、このことに関して何か向こうで注意するようなことはないので、さっそく出発することにしよう。

 

「では、ゲートを開きます」

 

 スマホを操作し、別宇宙へのゲートを開く。

 すると、ネギま部の面々は、ネギくんを先頭にしてそこへゆっくりと突入していった。

 今居るのはネギま部だけで、結城夏凜さんは今日もいない。真祖バアルのことが片付くまで、結城さんとは交流しにくいんだよね。

 ちなみに、旅行中の真祖バアル勢力の襲撃にはちゃんと備えていて、各所にサーヴァントを配置して連絡員としている。いざとなったら『LINE』で連絡を入れてもらい、すぐに『ドコデモゲート』で帰還するつもりだ。

 

 問題なく旅行には行ける。なので、私も最後尾から荷物を持ってゲートをくぐった。

 

 まず目に入ったのは、巨大なモニター。戦士が巨大な生物を打ち倒しているシーンが映し出されている。これは、アークスの宣伝映像だね。

 ここは、オラクル船団のアークスシップ。その中のショップエリアのステージの上だ。

 

 ネギま部のみんなは、ステージの上で周囲を見渡しており、中には目の前の空間を手で払っている者もいる。

 

「はい、皆さん。これから二十四時間の間、この世界に滞在します。視界の端に時刻のカウントダウンがありますので、これを参考にしてくださいね。もしはぐれてしまった場合も、二十四時間経過でもとの場所に戻されるので、安心してください。いいですね?」

 

 私がそう言うと、「はーい」と小学生のような返事がくる。うむ、よろしい。

 では、まずはお偉いさんと挨拶だ。私は、みんなを連れてステージの上を降り、下の方で待機していた一人の少女の前に立った。

 

「ご無沙汰しています、ウルク総司令。本日はよろしくお願いします。こちら、お土産の『麻帆良饅頭』です。本日中にお召し上がりください」

 

「ありがとう! よろしくね。我々オラクル船団は、『白き翼(アラアルバ)』の訪問を歓迎します」

 

 ウルク総司令。見た目は十六歳の少女だが、実際は三十歳を超えた女傑だ。若い見た目なのは、『PSO2es』のガチャで出るキャラクター故に、不滅の存在になっているため。今は、後進を育てている最中らしいが、年齢的にはまだまだ現役を続けることだろう。

 

「明日の朝まで滞在ってことでいいんだよね?」

 

 ウルク総司令に問われ、私は「はい」と答えてうなずく。

 

「じゃー、一人一つ端末渡すから、それを持って、自由に散策してね。急に来たから、歓迎できなくて申し訳ないけれど……」

 

「いえ、セレモニーの類は魔法世界(ムンドゥス・マギクス)で散々参加しましたので、適当に観光させてもらえるだけでいいですよ」

 

「そう? とりあえず、お勧め施設は『LINE』で連絡した通り、エステ、カジノ、VR訓練施設かな。食事はこのアークスシップだと、『フランカ's カフェ』がショップエリアにあるから、そちらで取るのが一番のお勧め」

 

 そう言われたので、私は皆に振り返り、言う。

 

「エステは自分の外見を自由に作りかえる場所。特別に何度でも使えるチケットを発行してもらいましたので、いろいろいじってみてください。カジノは、ゲーム性高めの遊戯コーナーですね。こちらもコインを発行してもらいましたので、遠慮なくコインを消費して大丈夫です。VR訓練施設は、今、アークス最強のアンドーが詰めているらしいので、挑戦してくるのもいいかもしれませんよ」

 

 説明を終え、私達は特製の端末を受け取る。

 すると、ウルク総司令が追加で言った。

 

「通貨のメセタも特別に発行しておいたから、ショップエリアでお土産を買っていってもいいよー」

 

 そりゃあ、至れり尽くせりだね。

 というわけで、私達はスマホ宇宙の最初の場所、アークスシップの観光をすることとなった。

 

 

 

◆200 エステ

 

 みんなには観光コースを自由にその場で決めてもらい、バラバラに分かれてそれぞれ好きな場所へと向かうこととなった。

 私は、エステに向かうという図書館探検部組と刹那さん、水無瀬さんチームについていくことにした。

 

「見た目を自由に変えるとか、どれくらいできるん?」

 

 木乃香さんが、私にそう質問をしてくる。それに対して、私は端末のエステ紹介コーナーを見ながら答える。

 

「私も実際にこの身体で試したことはありませんが、割となんでもできます」

 

「なんでも」

 

「それこそ、性別でも変えられますよ。種族変更は無理ですが」

 

「せ、性別て……」

 

「私達の宇宙の地球人用肉体データはのどかさんと夕映さんの改造手術で取ったので、問題なくエステが使えるそうです」

 

 まあ、さすがにこの中で、性別を変えようという人はいないだろうが。女子中等部にいられなくなっちゃうもんね。

 そして、エステに向かう道の途中には、様々な店舗が並んでいるのが目に入った。当然のように少女達の目がそちらへ移っていく。

 

 ゲームだと数店舗しか店がなかったショップエリアだが、実際の光景になってみると店がいろいろそろっている。

 これはあれだ、RPGの街はゲーム的都合でめっちゃせまくなっている理論だ。

 

 なお、この世界から外の世界に物を持ち出す分には二十四時間とかの制限はない。なので、みんな何をお土産にするかワイワイとはしゃぎ始めた。

 

 早速向かったのは、服屋だ。

 ゲーム時代は課金ガチャというかスクラッチで入手できたコスチュームの数々がズラッと並んでいて、メセタで買えるようになっている。

 うん、そうだよね。そうなるよね。服はメセタで直接店から買えるし、課金して座るモーションを使う権利をスクラッチで当てなくてもいいんだよね……。

 

「あー、でも、エステで体型変えるなら、その後で買った方がいいかな?」

 

 ハルナさんが、腰回りに手を当てながらそんなことを言う。

 だが、その心配はない。

 

「オラクル船団の服は、すべてフリーサイズですよ。着た人に合わせて、サイズが変わるんです」

 

「うわ、何その超技術」

 

 私の解説に、ハルナさんだけでなく他の面々も驚き声を上げる。

 そして、皆ではしゃぎながら、コスチュームを購入していった。

 

 うわ、なにこれゼルシウスとかあるの? 六芒の零なりきり衣装? 確かにその通りだけどさぁ。誰が買うのこんなの。

 えっ、カルデアのメディア様が買っていった? なにやってんのあの人……。誰に着せたんだろう……。

 

 と、そんな感じで一時間ほどショップエリアを散策してから、ようやくエステに到着した。

 店員さんに付いてもらい、説明を受ける。まずは、自分の今の正しい姿を保存して、いつでも戻せるようにする。うん、基本だね。

 それを聞いて、遊びでいじる気にでもなったのか、木乃香さんが刹那さんと何やら話し込み始めた。

 夕映さんとのどかさんは、身体の一部分をどれだけ大きくするか大真面目な声で話し合っている。

 ハルナさんと水無瀬さんは、別荘で取った歳をクラスメートに分からない範囲で戻すには、どう調整すればいいかを話しているね。

 

 ちなみに、エステは外見年齢をいじれるが、本当の意味で若返るわけではない。外側は若くなれるのだが、内面はそうではなく、寿命はそのままだ。

 なので、オラクル船団ではエステで外見を若く保ち続ける人というのは、意外と少ないようだった。

 

 やがて、各々が今の姿を保存してから好き勝手自分をいじり始めた。

 

「見て見てー、エヴァちゃんみたいな金髪にしてみたんやけど、どうやろか?」

 

「お似合いです」

 

「せやろ? せっちゃんも変えてみいひん?」

 

「わ、私はもう少し考えます……」

 

 ふむ、金髪木乃香さんか。正直、黒髪の方が似合うね。

 刹那さんは本心ではどう思っているんだろうか。

 

「もしかして、大きくしたら、今あるブラは全て買い換えなのでは?」

 

「あっ、確かにー……。ドラクマを日本円に替えれば下着代出せるかなー……?」

 

「お土産を我慢して、メセタでフリーサイズの下着を購入する手も……」

 

 ……原作漫画を見る限りだと、彼女達は大人になっても大きくはならないからね。見なかったことにしておこう。

 

「どうよ? 若返った?」

 

「若返り過ぎじゃない? そもそも、まだ別荘では通算一年程度しか過ごしていないんだから、誤差の気がしてきたわ……」

 

「うっ、それもそうか。じゃあ、お腹の肉を減らす方向で」

 

「私はその方向では困っていないわね」

 

「言われてみると、私も結構部活で動いているから体重気にしたことないわー」

 

 ハルナさんと水無瀬さんは、さっそくエステに来た意義を見失ったようだ。

 ちなみに私は不死者としての能力を使えば自分で自分を書き換えられるので、今さらエステで何かをするつもりはない。

 

 でも、正直みんなのはっちゃけが足りないので、手本を見せてあげることにしよう。

 私は今の自分をしっかり保存してから、肌の色を緑、頭髪をスキンヘッドにして、アクセサリーで頭から触覚を二本生やして、顔をするどい顔つきに変えて、がっちりとした体つきに。そんなもとの私の原型を留めていない姿で、皆の前に出た。

 

「じゃーん、ナメック星人ですよ」

 

「ギャー、なんか出た!」

 

「うわっ……、その声はリンネさん? 何それ。人間なの?」

 

 ハルナさんと水無瀬さんが、私の姿を見てドン引きしている。

 

「エステはこれくらいいじれるってことですよ。肌色も髪色も体型も自由自在です」

 

「髪色っていうか、髪なくなってんじゃん」

 

「見ていたらなんか気分が悪くなってきたわ……」

 

 うん、リアルで見ると結構来るよね、この姿。しかしだ。

 

「今後人類が太陽系の外に進出したら、人類とは全く見た目が違う存在にも会うと思うので、異形には慣れた方がいいですね」

 

 私がそう言うと、ハルナさんと水無瀬さんは、「えー」という感じで顔を見合わせた。

 いや、宇宙人はいるんだって。たとえば。

 

「私達が戦った魔族ですが、あれって地球に人類が誕生する前に金星で文明を作っていた宇宙人ですよ」

 

「マジで!?」

 

 うん、ハルナさんはいいリアクションしてくれるね。

 

「魔族って……召喚術で呼び出せる悪魔のことよね? 今、私達と敵対している奴ら」

 

 水無瀬さんの言葉に、私はうなずく。

 

「ちょっとビックリだわ……悪魔って、占いでも結構要素を使うから……」

 

「ちなみに、魔界は金星に重なり合うようにして存在する異界ですね。金星の先史文明は不老不死の秘術を巡って争ったせいで滅びました。その後、金星人は魔界に封じられることになったのですよ。その金星人の中でも、実際に不老不死を手にした吸血鬼の真祖、『貴族』である真祖バアルが、私達の敵の親玉です」

 

「そう……そんな重要な話をそんな格好で言わないでほしかったわ……」

 

 ダメかな? ナメック星人。とりあえず、戻してこよう。

 ふう、いつものロリ巨乳は安心するなぁ。

 と、刹那さんがモニターのプレビュー画面を見ながらすごく悩ましそうにしているな。木乃香さんは、エステを実行しているのか、姿は見えない。

 

「刹那さん、どうかしましたか?」

 

「ッ!? あ、リンネさんでしたか……」

 

 私が話しかけたら、ビクンと背中が跳ねていたが、何事だろうか。

 私は、プレビュー画面を覗き込む。

 すると、そこに映っていたのはいつもの刹那さんだ。

 

「……? いつも通りに見えますが、何か悩むようなところが?」

 

「あ、いえ……これをこうすれば……」

 

 刹那さんがモニターを操作すると、背中から黒い翼が現れた。

 って、ああ、そういえば……。

 

「刹那さんって、確かアルビノでしたか」

 

「いえ、羽が白いだけで、そういうわけでは……」

 

 あ、そうなのね。確かに、肌色はモンゴロイドの一般的なそれだわ。

 

「それで、翼を黒くして、元いた烏族のところに混じりたいと思っているとかですか?」

 

 私がそう言うと、刹那さんは「いえ……」と否定する。そして、彼女はモニターをじっと見つめて、言った。

 

「ただ……やっぱり羽の色は黒の方が格好良いな、と」

 

「あー、そういう。私的には天使の羽のイメージがあるので白の方が格好良いと思いますが……烏族の刹那さん的には黒の方が格好良いと?」

 

「はい。白はなんだかこう……弱そうです」

 

「……まあ、気持ちは分からないでもないです」

 

 黒というか濃い色って強そうなイメージちょっとあるよね。

 

「じゃあ、試してみます? 戻すのは簡単ですから」

 

 私がそう言うと、刹那さんは笑って首を横に振る。

 

「色を変えたら、周りに白い羽が未だにトラウマだったのかと勘違いさせてしまいそうです」

 

 うわ、確かにありそう。私だって、烏族のところに戻りたいのかなんて勘違いしたこと言っちゃったからね。

 

「見てー、せっちゃん。銀髪美女やー」

 

 と、そこで大人の体型になって銀髪姿になった木乃香さんが出てきて、ノリノリでその姿を披露した。

 

「お似合いです、お嬢様!」

 

 いや、刹那さん。何でもかんでも似合うって言っていたら、ある日突然木乃香さんがギャルに変わっても知らないぞ。

 

 そして、その後一時間程度私達はエステで遊び、もとの姿に戻してから夕食を取るためカフェへと向かうのだった。

 ちなみに、夕映さんとのどかさんは、ワンサイズ大人になっていた。

 

 

 

◆201 カジノ

 

『フランカ's カフェ』に行くと、すでにネギま部の何人かが店内にいたので、そちらと合流する。

 そして、料理を注文して、それぞれ何をやっていたのかを聞いてみた。

 

「あのアンドーとかいう姉ちゃん、強すぎやろ……」

 

「うん、世の中には、まだあんなに強い人がいるんだね」

 

 あー、小太郎くんとネギくんは、VR訓練施設に行っていたのか。それで、『PSO2es』の主人公ことアンドーに挑んだと。

 

「ぶっちゃけ、戦いの上手さはラカンのおっちゃんより上やないか?」

 

 アンドーは、どうやら私が前世でプレイしていた頃のへっぽこプレイヤースキルを受け継がず、銀河最強の守護輝士(ガーディアン)としての腕前を持っているっぽいんだよね。クラスも上級者向けのラスターだし。

 

「確実に削られて負けた感じだね」

 

 最近のネギくんは龍樹の力も使いこなしつつあるが、それでも勝てなかったか。

 まあ、『PSO2es』の主人公としてならともかく、『PSO2』の主人公としてなら、その存在の規模は宇宙開闢(かいびゃく)レベルだからね。然もありなん。相手を純粋に暴力でぶち殺したいとき、私がスマホから呼び出すキャラクターの最有力候補である。

 

 それで、のんびりお茶を飲んでいるキティちゃんは、どこに行っていたんだろうか。

 

「私か? 茶々丸の新ボディを作ってくれたお礼に、アークス研究部へ行ってきた」

 

「なるほど、挨拶回りですか。そういうのは気にせず、観光してくださってよかったんですが」

 

「この後はそうするさ。とりあえず、カジノでも行くか」

 

「それなら、私も久しぶりにカジノを楽しみますか」

 

 私がそう言うと、キティちゃんは不思議そうに「久しぶり?」と首を傾げた。

 

「あー、前世で少し」

 

「そうか。そういえば、そうだったな」

 

 キティちゃんは私が前世持ちというのを思い出したのか、納得してくれた。

 まあ、私、前世でカジノなんて行ったことないんだけど。久しぶりなのは、アークスシップにある『PSO2』のカジノだ。ゲーム時代にアンドーを操作して行ったことがあるってこと。

 

 というわけで、私は食事を終えた後、カジノに向かった。夕映さんとのどかさんは同行していない。地球から持ちこんだお土産を持って、修行中に世話になった『キョクヤ』や『ストラトス』のもとへと挨拶に向かうらしい。

 

 そうして集団でカジノにやってきてまず感じたのは……めっちゃ広い! ゲーム時代の比じゃないぞ。

 しかも、端末に表示された遊戯施設は知らないゲームが山ほどある。うーん、これは何を遊ぶか迷っちゃうね。

 

「博打かぁ。やったことないわ」

 

 小太郎くんが、ぼんやりと周りを見回しながら、そんなことを言う。

 だが、大丈夫。ゲームコーナーもあるから。

 

「では、小太郎くん。まずは一緒にメセタンシューターをやりましょうか。弾を発射する移動砲台に乗って、標的を撃ち落とすゲームです」

 

「なんやそれ。それも博打なんか?」

 

「博打というか、頑張ればコインが増える体感型ゲームですよ。ゲームセンターのメダルコーナーみたいなものと思ってくだされば」

 

「おっ、ゲーセンか。それなら分かるわ」

 

 うん、『魔法先生ネギま!』での小太郎くんの初顔見せって、京都のゲームセンターだったはずだからね。

 そして、三十分後……。

 

「いやー、めっちゃコイン増えたわ!」

 

「こういうゲームやるの初めてだけど、面白いねー」

 

 存分にメセタンシューターを楽しんだ、小太郎くんとネギくんの姿があった。

 ネギくんは、初めてのカジノで何をしていいのか分からず右往左往していたので、小太郎くんが誘った。メセタンシューターは、最大で四人まで遊べるのだ。しかも、同時プレイ人数が多ければ多いほど有利になる。

 三人では一人不足していたので、そこは茶々丸さんを誘って四人プレイをした。

『PSO2』時代とゲーム内容がだいぶ変わっていたね。なにせ、モニターゲームと違って人と人は一箇所に重なれないから。なので、私も初めてプレイする感覚で楽しめたよ。

 

「しかし、こんなに簡単に増えてええんかいな」

 

 小太郎くんは、端末を見て増えたコインの残高を確認してそう言った。

 まあ、地球のカジノを想像するとそうなるよね。

 

「この施設は賭博場じゃなくて、アークスの慰労施設なんですよ。ですので、ここで稼いだコインは金銭に変換できません」

 

「そういうことか。本当にゲーセンのメダルゲームなんやな」

 

「まあ、コインは景品に替えられますが」

 

「つまり、景品をお金で買い取ってくれる施設が近くに……」

 

「ありませんよ」

 

 いや、ここ、オラクル船団の公営施設だからね。そういう抜け道はないよ。

 

「そういうことなら、増えたコインは、ぱーっと使ってまうか」

 

 小太郎くんがそう言ったので、私はカードゲームコーナーに三人を案内した。

 そこでは、キティちゃんがワイングラス片手に『ブラックニャック』を遊んでいた。

 

「エヴァンジェリン先生、調子はいかがですか?」

 

 私が話しかけると、キティちゃんは真剣な顔でコインをベットしていた。こちらの声が聞こえていないようだ。

 茶々丸さんも話しかけるが、カードを注視したまま反応しない。

 この飲んべえ、カジノにハマりすぎでしょ。誰だよ、お酒なんて出したスタッフ。

 

 ちなみに『PSO2』は前世において『CERO:D』のゲームだったが、マイルームのインテリアに酒瓶があったことから、オラクル船団には普通にお酒が存在する文明だということが分かる。オラクル船団の種族達は、お酒で酔うのだ。まあ、先ほどもカフェの料理を普通に食べられたし、飲食の性質が地球人と共通しているのは今さらである。

 

 仕方ないので、私達は他のテーブルで『ブラックニャック』を楽しむ。すると、私の座る台に、一般客が追加で座った。

 

「やー、どーも、オーナー」

 

 ん……? 知り合い?

 そう思って相手を見ると、赤髪の少女が黒髪の少女をともなってこちらに手を挙げていた。

 見覚えのある顔だ。直接の面識はないが、『LINE』で自撮り写真を送られて見たことがある人物である。

 

「どうも、ヒツギさん。コオリさんもこんばんは」

 

『PSO2』の登場人物である、地球人の二人だ。『PSO2』はフォトンが存在する架空の宇宙を舞台としているが、ストーリーの四章では、次元を渡って二〇二八年の地球とコンタクトを取る展開になる。そこで登場する主要キャラクターが、この二人なのだ。

 この二人は『PSO2es』のキャラクターチップとして恒常のガチャから引けるため、オラクル船団の所属じゃないのに私の宇宙に住み着いたという、ちょっと可哀想な経歴を持つ。

 

「自由にこっちに来られるようになったって聞いたから、挨拶にきたよ」

 

 ヒツギさんがコインをベットしながら、そんなことを言う。

 わざわざ挨拶に来てくれたのか。それはまた、手間をかけさせたね。

 

「それはそれは。こうしていつでも来訪できるようになりましたよ。ヒツギさんの調子はいかがですか?」

 

「んー、アークスの仕事にも慣れたよ。惑星調査って面白いね」

 

 本来、アークスはダーカーを倒すのが役目だ。しかし、この宇宙におけるダーカーは、私によって完全に制御されており、悪さも侵食もしない。

 なので、この宇宙におけるアークスは、未開の惑星を探索し、資源採掘・採取に使えるかどうか調べることをお仕事にしているらしい。

 

「そうですか。故郷に帰りたいとかありますか? 必要でしたら、地球に呼びますが」

 

「そういう気持ちは不思議と湧いてこないかな。それに、そっちの地球ってまだ二〇〇三年でしょ? 私の感覚からしたら、ちょっと昔すぎるかなー。私が生まれる前だよ」

 

 おおう、さすがは二〇二八年の出身。しかも、ヒツギさんは『エーテル』というフォトンを改変した技術で発展していた地球の出身だ。今の地球は、正直物足りないだろう。

 すると、ヒツギさんの背後で話を見守っていたコオリさんが言う。

 

「私は地球の料理がちょっと懐かしいかなー……」

 

「ああ、それなら今度、一緒にファミレスあたりにでも行きましょうか」

 

「本当? ありがとう!」

 

 うむうむ。これは、カルデアの地球人達も呼んで、食事会を開くのも面白いかもしれないね。

 

 その後、ヒツギさんとコオリさんとしばらく雑談を交わしてから別れた。

 そして、ネギくん達と私が触れたことのない遊戯施設を一通り楽しんでから、宿泊施設へと向かった。

 茶々丸さんはキティちゃんの世話をするため、一人カジノに残ったが……キティちゃん酔い潰れていないといいね。

 




※刹那の髪色と目の色が本当は黒ではないというのは原作エヴァンジェリンの推測でしかなく、アルビノという設定は原作中に出てきません。

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