【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■83 リンネプラネット

◆202 Cathは緑で青かった

 

 アークスシップへの訪問から一夜明け、私達ネギま部はウルク総司令と別れの挨拶を交わしてから、キャンプシップに乗りこんでいた。

 十数人しか乗れない小型宇宙船だが、ワープ機構完備で、地球型惑星への直接降下や浮上も可能な超高性能機である。

 

 そのキャンプシップが、オラクル船団の中心であるマザーシップを背景にして、ワープを実行する。

 キャンプシップの前方に円形の歪みができ、向こう側の景色が見える。向かう先は、Helios太陽系の惑星Cath。Heliosが子猫達の太陽で、Cathが母星だね。

 

 ワープゲートをくぐった先には、緑と青に彩られた美しい星が待っていた。

 その宇宙的な光景に、ネギま部一同から感嘆の声が上がる。マザーシップとその周囲にただようアークスシップの群れもSFしていてよかったけど、緑の惑星を見るのも宇宙に来たって感じでいいね!

 

「見事な地球型惑星ですね。しかも、月に酷似した大きさの衛星があるようですが……」

 

 茶々丸さんが、外の風景を注視しながら言う。

 

「あの衛星はRedmoon。この宇宙で唯一アンオブタニウムが発見されている資源衛星です」

 

 私がそう言うと、茶々丸さんは自分の手をさすり、「あそこから私のパーツが……」とつぶやいた。

 うん、茶々丸さんのフレームを構成しているエリジウムはアンオブタニウムの合金で、あの衛星Redmoonがないと作れないんだよね。エリジウムは本当に頑強で、『墓守り人の宮殿』でアーウェルンクスと戦った茶々丸さんには、フレームに歪みすら起きなかったらしい。

 

 そんな赤い月を眺めつつ、キャンプシップは惑星Cathに近づく。どんどんと地表が近づくにつれ、とある巨大施設が見えるようになってきた。

 

「なんか、塔のような物が見えるわね」

 

 明日菜さんがそう言って不思議そうにその施設を眺めていると、明日菜さんにあやかさんが近づく。

 

「あれは軌道エレベーターですわね」

 

「エレベーター? あの大きさでエレベーターなの?」

 

「ええ。アスナさんも、大気圏突入という言葉くらいは聞いたことあるでしょう?」

 

「うん、あるわよ。ゴーって燃えながらドバーって地球に落ちるやつ」

 

「……その大気圏突入と、逆に大気圏から宇宙に出る行為ですが、宇宙船にパワーや耐久力を求められるのです。しかし、あのように超巨大なエレベーターを作り、先端部分に宇宙港を作れば、宇宙船は大気圏突入することなく惑星と物資や人のやりとりが可能となるのです」

 

「えーと、わざわざ家の中に荷物の受け取りに行かなくても、軒先で荷物のやりとりができちゃう施設ってこと?」

 

「だいぶ矮小化したたとえですが、趣旨はその通りですわね」

 

 この二人の会話のおかげで、SFや宇宙に詳しくないみんなにも理解が及んだようで、面白そうに軌道エレベーターを眺めている。

 うん、あそこに行って長大なエレベーターに乗ることを考えるとワクワクするよね。でも、悪いね。

 

「時間が押しているので、キャンプシップで直接惑星に降下します。軌道エレベーターには入場しません」

 

 私がそう言うと、みんなが「マジかよ」みたいな顔を向けてくる。

 軌道エレベーター観光とか、それだけで一日潰れるらしいからね。それはまたの機会にして、今回は各所を一通り回ることを考えてもらえればと。

 

 そうして、キャンプシップは惑星Cathに降下し、次の目的地、子猫達の国へと向かうのだった。

 

 

 

◆203 文明継続保障機関フィニス・カルデア

 

 いやー、子猫達の国では笑ったね。

 子猫達とたわむれる動物触れあいコーナーをみんなは予想していたんだけど、子猫達はアカデミックな催し物で私達を迎え入れたのだ。

 でも、私は今まで散々言ってきたのだ。子猫達は賢く、文明人であると。動物のようにすり寄ってきてニャーニャーと身体をこすりつけてくるようなことはしないのだ。

 なお、木乃香さんのまたたびはすごく喜ばれていた。これは、私も追加で今度持ってきてあげるかなぁ。散々彼らにはお世話になっているし、『ねこねこ動画』の収益で地球にまたたび果樹園を作ってもいいかもしれない。

 

 そんな文明的な交流を終え、私達は次の場所へと向かった。

 目的地は、カルデアだ。この世界のカルデアは南極に隠されている秘密機関とかではない。普通に温帯の一地域に建てられており、近くには大学もあって小さな街となっている。

 その街で、私達は歓迎を受けた。

 

「ようこそー。都市国家カルデアへ! 文明継続保障機関フィニス・カルデアはあなた達を歓迎します!」

 

 そう言って、私に向けて握手をしてきたのは、人類最後のマスター。通称ぐだ子さんだ。

 私は、さっそくお土産の『麻帆良饅頭』を渡して、今日の夕方までに食べてくださいと告げた。

 

「あはは! 饅頭だー。こういうの懐かしー! 前の世界でよく見た……いや、見たかな? 意外と饅頭の銘菓って見てないかも!」

 

 カラカラと笑うマスター。うん、このマスター、ゲーム中は選択肢でしかしゃべらないのだけど、実際にこうして一人の人間として確立されたら、めっちゃ陽キャ(未来の俗語)だった。

 

 ゲーム中ではカルデアに来る前の経歴が割と謎なマスターだが、この人はちゃんとした世界からコピーされたのか、それとも神様が経歴を作ったのか、一般人として日本で過ごした記憶もしっかり持っていた。

 ただ、一つ、彼女は自分の正しい名前が思い出せないという問題があった。私がゲームプレイ中に付けていた名前は『うま味ちゃん』。だからか、マスターはいろんな人から『うま味ちゃん』と呼ばれていたが、これが私の本名のはずがないと『LINE』で訴えてきたため、仕方なく私はスマホの『FGO』を起動してマスターの名前を『藤丸立香』に変更しておいた。本人的にはこれも本名だったかは思い出せないらしいが。

 

 ここで性別変更したらどうなるんだろうと思ったが、どうやら私のスマホの『FGO』は主人公の性別変更が利かなくなっているようだった。しかも一度名前を変更したら、それ以降名前変更もできなくなった。神様、そんなに『うま味ちゃん』はダメでしたか?

 

「本当は都市も観光してほしいけど、今日は時間的に、フィニス・カルデアの施設を見せて終わりになりそうだねー。みんなと会いたがっていたサーヴァントは多いから、楽しみにしてて!」

 

 うーん、元気だな。この人、スマホパワーの影響で若い見た目のままだが、実際は三十歳超えているんだけどな。まあ、年齢の話をしたら私にも刺さるので、あまり言わないでおこう。

 

「ちなみに、所長ちゃんは『クモ族』のところへ交流会に行っているから、合流できそうにないって」

 

「あら、それは残念ですね」

 

 所長ちゃんとは、ムジーク神秘大学の学長となったゴルドルフ・ムジーク氏の後を継いでフィニス・カルデアの所長となった女の子のことだ。この宇宙で生まれたゴルドルフ学長の娘さんで、歳は十歳。ネギくんにも負けない天才児である。

 

 その後、私達は送迎バスに乗って、都市の入口からフィニス・カルデアの施設まで向かった。

 

「文明継続保障機関フィニス・カルデアは、この宇宙の文明を脅かすような危機に際して、サーヴァントの力をもって対応する武装組織なんだ。でも、そんな危機なんてそうそう起きないと思うでしょ? それが、意外と起きるんだよねー。半年に一回は魔力が集まって変な空間を作るし、変な魔獣は生まれるし、新発見された宇宙物質が世界のバランスを壊そうとするし、毎月のように出動している気がするよ」

 

 どうやら、この世界でも人類最後のマスターは期間限定イベントに事欠かないようだ。

 まあ、『FGO』のように孤軍奮闘とはならず、近くに王国や子猫の国があり、宇宙にはオラクル船団がおり、遠くの星では数十億人の人口を誇るエルジマルトがいる。そうそう簡単に宇宙崩壊とはならないだろうね。

 

 さて、カルデア内部に入る。

 すると、見覚えのあるサーヴァントが集まっていて、主に小太郎くんを歓迎した。

 おーおー、いかにも強そうな男達に囲まれているよ。しかも、私が「絶対に制御できんわこれ」って判断していたバーサーカーも、彼のところに行っている。

 まあ、『スパルタクス』とかを引きつけてくれるのは助かる。近づかんどこ。

 あと、こちらは女子が多いから『フェルグス・マック・ロイ』をこっちに近づけないようにね。

 

「さて、それぞれに馴染みのサーヴァントがいるらしいから、それぞれ案内してもらってね。あ、オーナーはこっちね」

 

 ん? なんだろう。私はマスターに手を引かれ、ロビーに連れていかれた。

 そこには、なにやら子供系サーヴァントが一箇所に集まっていた。フム?

 

「アシュヴァッターマンヒーローショー、始まるよー」

 

 子供達の横に座らされた私は、皆の前に立ちそんなことを告げるマスターに、吹き出しそうになる。

 いやいやいや、なんでヒーローショー見せられてんの、私。

『FGO』の過去の期間限定イベントで一度、『アシュヴァッターマン』がヒーローショーをやっていたのは覚えているけどさ。もしかして継続して行なわれていたの?

 

 そんな疑問を持ちながら待っていると、着ぐるみの怪人が現れて、寸劇を始めた。

 怪人は、人類を夢の世界に閉じ込めようとする悪のライフ星人。

 眠らなくてもいいはずのサーヴァントにすらその魔の手は伸び、サーヴァント達が次々と眠りについていく。

 

「ネームネムネム。人類は全て夢の世界で幸せに眠るのだネムー」

 

「そこまでだぞコラァッ!」

 

 と、そこで登場するのが、上半身裸の美丈夫。

 巨大なチャクラムを腕に抱えた、燃えるような髪色の男だ。

 

「何者ネムッ!」

 

「何者かと問われりゃ答えてやろうじゃねえか。我が名はアシュヴァッターマン!」

 

「ムム、出たな、正義の味方ネム! お前も夢の世界に送り込んでやるネム!」

 

「はっ、やってみせな! いくぜ! 乗着!」

 

 アシュヴァッターマンが叫ぶと、彼の姿が変わり、全身に装甲をまとい、フルフェイスの兜を被った姿となる。

 第二再臨の姿だ。いや、ここは、変身ヒーローになったと言っておこうか。

 

「憤怒の化身! 至尊の戦士! さあ、ぶっ殺してやる!」

 

「ネームネムネム。だが、我が睡眠光線は無敵ネム。食らえー、ビビビビビ!」

 

「そんなもの俺には効かん!」

 

「なっ、なにい!」

 

 アシュヴァッターマンは、光線を装甲で弾き、観客席に向けてポーズを取った。

 そして、なぜか私の方を向いて台詞をしゃべる。

 

「いいか、オーナー! 我が憤怒の前には、睡眠攻撃はもちろん、心を惑わせる精神攻撃は全て効かん! 全人類を夢の世界に閉じ込める? 俺にはそんなもの効かんぞ!」

 

 ……あっ、そういうこと。私に、アシュヴァッターマンの特性を知らせてくれているんだ、このヒーローショー。

 

「さあ、怪人、覚悟しろ! 死ねえ!」

 

「ネムー!」

 

 着ぐるみの怪人は、アシュヴァッターマンのパンチを受けて舞台袖へと吹き飛んでいった。

 

「俺、大勝利!」

 

 アシュヴァッターマンの宣言で、観客席の子供達が一斉に歓声を送った。

 私も、ついノリで拍手をしてしまう。

 

「じゃあ、睡眠攻撃に悩まされたときは、俺に頼るんだぜ!」

 

 ありがとう、アシュヴァッターマン! 『幻灯のサーカス』と魔法『完全なる世界(コズモ・エンテレケイア)』の対処法が分かったよ! やっぱwikiや攻略サイトのない現実世界ってクソだわ!

 でも、正直、私一人で回避しても心もとないので、周囲を瞬時に起こせそうな『オベロン』のピックアップガチャが来たら遠慮無く回すことにするよ。確かおぼろげな記憶だと、オベロンも睡眠無効だったはずだから。

 

「やっぱり本物のアシュヴァッターマンは格好良いね」

 

「アニメも良いけど、やっぱり本物が一番良いわ」

 

 そんなことを話す子供サーヴァント達の言葉を聞き、私はもしやこの宇宙でアシュヴァッターマンは一大ヒーロー扱いされているのでは、と思い至った。

 試しに所長ちゃんにヒーローショーを見た旨をメールで送信してみると……うわ、即返信来てめちゃくちゃうらやましがられた。

 はー、こんなことになっているとはねぇ。

 

 ちなみに、アシュヴァッターマンは『馬のいななき』という意味の言葉であり、『アシュヴァッター・マン』というヒーローネームではないことはしっかりと覚えておこう!

 

「フフフ、答え合わせはどうだった?」

 

 と、私の横で、マスターがそう言った。答え合わせ? なんのことだろうか。

 

「もうっ、夢の攻撃に耐えるにはどうすればいいか、考えるように言ったじゃない」

 

「あー、そういえばそんなことも『LINE』で言っていましたね。でも、自力では答えに辿り着いていませんでした」

 

「そんなので大丈夫なの? 私でさえ適切なサーヴァントを使いこなすので精一杯なのに、それより多い仲間を呼び出せるんでしょ?」

 

「正直、攻略サイトが欲しいですね」

 

「あはは、私も欲しいー。体感型ゲーム『人生』の攻略サイト」

 

 正直今のスマホへのメモじゃあ限界があるから、自前でスマホ内にwikiでも構築するかなぁ。ちう様に頼めば作ってくれるかなぁ?

 

「それじゃあ、『人生』が大変なオーナーに、お助けキャラからのメッセージを紹介するね」

 

 と、マスターがそんなことを言い出した。

 お助けキャラ? 誰だろうか。

 

「『我の力をその身に宿すことを許す』。キングハサンからの伝言だよ」

 

 マジか。キングハサンとは、『山の翁』というアサシンのサーヴァントの通称だ。その彼が、力を引き出してもいいと言っている。まさにこれは……。

 

「今、敵対している不死者の攻略に役立ちますね」

 

「でしょー。説得した甲斐があるよ」

 

「このマスター、本気で有能ですね……」

 

『山の翁』は最高峰の暗殺者だ。彼の人が持つ力の中には、不死殺しの力も含まれている。真祖バアルとの戦いで、その力の一端を貸してくれるならありがたい。

 正直、勝手に呼び出したり勝手に力を借りたりしたら、後が怖いからね。逆に私が殺されかねない。それを説得できるマスターが怖いよ。どういう肝をしているんだか。

 精神性の一点だけで主人公を張っている人はひと味違うな、などと私は思うのだった。

 

 

 

◆204 王国

 

 食堂でタマモキャットが作る昼食をいただき、私達はカルデアを後にした。

 キャンプシップに乗りこみ、最後の目的地へ。

 その最中、私はみんながカルデアで体験したことを聞いていった。

 なになに? ネギくんはアルトリア陛下のそっくりさんにいっぱい会った? そう……うん、XX(ダブルエックス)は強烈だったか。よかったね、ユニバースの世界に呑まれなくて。

 ハルナさんは、ちょっとフォーリナーと会話をし過ぎて精神に狂気が混ざっているね。治療、治療……。

 

 と、そんなことがありつつ向かう先は、王国だ。

 

 この王国をスケジュールの最後に配置したのは、王国の王子と長時間交流させたら、性的な意味で食われそうな子が何人もいるのでできるだけ途中で退散できる最後を選んだのだ。

 王子って正室のお妃さんがいないから、女遊びが自由なんだよね。そして、『千年戦争アイギス』は一般向けのスマホ版『千年戦争アイギスA』の他に、R-18のエロゲ版『千年戦争アイギスR』が存在するのだ。ぶっちゃけると、『千年戦争アイギス』に登場する仲間女性キャラは、コラボキャラ以外全員王子のお手付きである。

 

 ちなみにその王子だが、国王代理ではあるが王ではない。王国の行政上のトップは王子だが、王の座にはついていないのだ。

 

『千年戦争アイギス』の主人公である王子は、この宇宙において、ガチャで引いたキャラやイベント産のキャラと同じく不滅の存在である。

 不老不死の者は王に相応しくない。王は定命の者に継がせるべき。……そう王子が判断したため、王は空位であり、王子の孫がいずれ王位につくことになっている。

 

 そう、子ではなく孫である。王子の子は、王を決めるための選定侯となり、選定侯の合議であらたな王を王子の血筋から出すことにしたらしい。

 

 そんな王子が治める王国に、私達はやってきた。ひたすらに続く田園の上空をキャンプシップで飛ばし、王城の前に着陸する。

 私達がキャンプシップからフォトンの転移で出てくると、王城前に展開する兵士の集団があった。

 こちらを警戒しているわけではない。むしろ歓迎ムードであり、前面に出ている兵士は儀仗兵だ。

 

 そして、その兵士達の向こうから、一際きらびやかな鎧を着た集団が進んできて、私達の前で歩みを止める。

 鎧の集団の中央には王子がおり、その隣には実質的な王国ナンバーツーの『政務官アンナ』が立っていた。

 

 アンナさんが、私達に向けて告げる。

 

「『白き翼(アラアルバ)』の皆様、そしてこの世界のオーナーを迎えられたことを心から嬉しく思います。ようこそ、王国へ!」

 

 その言葉と共に、兵士達から歓声が上がる。うーん、仰々しい迎えは要らないって言ったんだけどね。

 私達は、兵士達の先導で、王城へと入っていった。

 

 そして、王城の大部屋に案内された私達は、アンナさんからこのあとの予定を告げられる。

 

「この世界の所有者であるオーナーを見たがり、近隣から多くの者が集まっています。そのことから、王国では祭りを開催することとしました」

 

 祭り。

 えっ、私達、夕方で帰るんだけど、祭り?

 

「その辺は、こちらで勝手に盛り上がるだけですから……オーナー達は気にせず、王国を楽しんでいってください」

 

 ならいいけど。

 そして、そのまま観光するのかと思っていたのだが、アンナさんはとんでもないことを言い出した。

 

「こうして腕に覚えがある方々がそろっていますし、せっかくですので、王国恒例の模擬戦を執り行ないたいと思います」

 

「……は?」

 

「模擬戦です。こちらで選抜したメンバーと、『白き翼』の方々で、集団戦を行ないます」

 

 いや、待て。

 そりゃあ、ゲームの期間限定イベントでは、もう完全に名物と言っていいほど、新しく仲間になったキャラとの模擬戦を行なってきたよ? でも、それやるの? リアルで?

 

「集まっている市民も、模擬戦を楽しみにしていますから。あ、真剣を使いますが、優秀なヒーラーがそろっていますので、怪我の心配は要らないですよ」

 

 確かにゲームでは木刀とか使っている描写はないけど、そんなところまでゲームに忠実にしなくても!

 

「ククク、王国の精鋭との戦いか。面白い」

 

「うおー、勝つでー! 今の俺なら行ける!」

 

「竜人の方は出るんですかね? 竜人格闘の上達の成果を見せたいです」

 

「フム。天狗の方々も王国に来ているでござるかな?」

 

 ネギま部が乗り気だー!?

 そんな感じで、私達は王国の精鋭達と模擬戦という名の真剣勝負を行ない、くたくたになるまで戦った。

 

 その後、ネギま部は時間いっぱいまで王国の祭りを楽しむことになった。

 アンナさんから特別にお小遣いを受け取り、出店へと向かっていく。

 そんな中、古さんはお土産の桃を持って、仙人達のところへと向かった。最近、仙人達は新たに異界として神仙郷を作り出せないかと頑張っているらしい。仙人達を地球の崑崙に連れていく必要もいずれ出てくるかもしれないね。

 

 そして私は、王子と今後についての会談を行なった。王子といえば無口のイメージがあったが、普通にしゃべっていてちょっと驚いた。

 そういえばゲーム中で好感度を上げたときに見られる交流イベントだと、台詞自体はないが会話が成立している風な感じで進行していることも結構多い。なので、しゃべっても別に不思議ではないんだよね。

 

 とりあえず王子には、対真祖バアル、対造物主(ライフメイカー)に最大限協力してもらえるようお願いし、代わりに今後も希望者は現世に随時呼び出していくことを約束した。現世の魔法技術に興味を持っている魔術師は、それなりにいるみたいだからね。そういう人は、キティちゃんの工房に詰めてもらうことにしよう。

 

 そして、私はとある人物と面会した。それは、『刻詠の風水士リンネ』。

 

「汝は……吾の幼き姿に似ている……」

 

 私と同じささやくような可愛らしい声で、リンネ様が言う。

 その彼女に、同じ声で私は答える。

 

「はい、生まれ変わる際に、同じ姿になるよう願いました。そのときは、まさか宇宙を一つ作ってそこにあなた方が住み込むようになるとは思っていなかったので……すみません」

 

「謝らずともよい。そうか……吾の姿に憧れていたか?」

 

「はい! 前世での最推しです! 人気闘兵決定戦で毎回999票入れていました!」

 

 人気闘兵決定戦は、『千年戦争アイギス』の人気投票イベントだ。半年に一回のペースで開催されるので、イマイチありがたみが薄かったが、なかなか景品が美味しいイベントだったので、嫌いではなかった。リンネ様は一度も一位になれなかったのだが……。いや、二位にはなっていたよ!

 

「そうか……その気持ち、嬉しく思う」

 

 うわ、ニコッとした! 生のリンネ様がニコッとした! 見慣れている自分の姿が少し成長した姿だけど、中身が私じゃなくてリンネ様と思うだけで、全然違うぞ!

 

「汝の道行きには多くの困難が待ち受けておる……。しかし、汝ならば……乗り越えてゆけるであろうな」

 

「ありがとうございます!」

 

 うおー、はげましの言葉をいただいたぞ! 未来を見られるリンネ様に困難が待ち受けていると言われるのは不安でしかないが、乗り越えるぞー!

 

 と、はしゃいでいるうちにアンナさんが次の面会を組んできた。宇宙のオーナーとして今日はこのまま面会を続けさせられるらしい。いや、オラクル船団でもカルデアでもそういうことはなかったのに、王国での私の扱いってどうなっているの?

 神に比する者? ええっ……。王国の人は信心深いんだなぁ。

 

 と、そうしているうちに、視界の隅に表示されている残り時間はなくなっていき、やがて二十四時間経過で私達はもとのエヴァンジェリン邸の前へと戻された。

 出かける前と変わらぬ夕方の風景に、夢だったのではと思いそうになる。しかし、夕映さんとのどかさんを見ると、ちゃんと一部分がワンサイズ大人に変わっているため、しっかり向こうで過ごしてきたことが分かる。

 

「楽しかったですけど、あわただしかったですねー」

 

 私が帰還直前に『ドコデモゲート』でこちらへ送り込んでいたお土産の袋を手に取りながら、相坂さんがそんな感想を言った。

 

「そうだねー。もう少し一箇所でじっくり楽しみたかったかな」

 

 ハルナさんが同調し、ネギま部メンバーが今回の旅行の感想を口々に述べ始める。

 実際に駆け足となったが、向こうの雰囲気をつかむ試みとしては成功と言っていいだろう。

 今後は、希望者を土曜か金曜夜に向こうへ送り出して、自動で帰ってくるのを待つのもいいかもしれないね。

 そんなことを考えながら、私達は女子寮へと帰っていった。うん、いい気分転換になったね!

 




※性転換タグを追加しました。90話で『ぷそ煮コミ』のキャラが登場するのですが、『テトラ』(外側♀中身♂)と『§イチカ§』(外側♂中身♀)の扱いから性転換要素が避けられないための追加です。主要キャラは特にTSはしません。

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