【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■85 真祖バアル降臨

◆208 不死殺し

 

 私の討伐宣言に、真祖バアルは頭に手を当てて笑う。

 

「ハハハ! 無駄だ! ヨルダを封印して思い上がったか? 貴様は私に傷一つ付けられん!」

 

「試してみますか?」

 

 私はスマホの中から武器を取り出し、構える。取り出したのは、デュアルブレードの『光纏翔クラースグライド』。宇宙の起源となる光をまとった飛翔剣。輝く二本の大剣だ。

 それを見て、真祖バアルはギョッとした顔を浮かべる。

 

「な、なんだその剣は!? そのような剣がなぜこのような場所に――」

 

 踏み込み、首を狙う。その一撃に、私はアサシンのサーヴァント『山の翁』の力を込めた。

 だが、こしゃくにも真祖バアルは後ろに下がって首を両手でかばった。

 

 膨大なエネルギーをまとった一撃で、真祖バアルの両腕が吹き飛ぶ。

 

「くっ、おのれ……」

 

 真祖バアルは、そのまま背後に飛び、飛翔する。そして、腕をこちらに向けるが……。

 

「なに? 再生しないだと?」

 

 今の一撃は、死の一撃。太陽神の加護を受けたファラオの首をも落とす絶対的な死だ。

 

「貴様、不死(ばら)いの力を持つか。だが……真祖が不死祓い程度で滅びると思うな!」

 

 そう言った瞬間、バアルの背後からおぞましい化け物が出現する。それは、無数の頭を持つ蛇の群れ。

 そのうちの一匹、人の背丈を超える大きさの頭が、こちらに襲いかかろうとする。

 

 だが、それを横から打ち払う者がいた。

 私がこの無人島に配置していた軍勢、それが姿を現したのだ。

 

「不死祓いの次は、数に頼るか。だが、我々『貴族』は、単身で一国すら滅ぼすぞ?」

 

 無数の蛇が、軍勢に襲いかかる。

 だが、それらの頭が次々と射貫かれていく。軍勢の中のアーチャー団とガンナー団だ。

 しかし、蛇は射貫かれた先から元通りに再生していった。この蛇も、真祖バアルの一部。不死の力を持つのだ。

 

「ハハハ、無駄だ。この程度、いくらでも再生して――」

 

「斬り捨て、ご免なさい」

 

 唐突に、そんな言葉が周囲に響き、蛇の首が一つ落ちる。刀によって切り裂かれたその蛇は、他と違って再生することなく沈黙した。

 

「あら、たくさんの命を持っているのね。ふふ、斬りがいがありそうだわ」

 

 そんな言葉と共に、着物の女性が刀に付いた蛇の血を払った。

 

「新たな不死祓いだと……?」

 

 引きつった顔で、真祖バアルがつぶやく。

 そう、私の軍勢には、不死の化け物を殺せる者が何人もいる。今のは、セイバーのサーヴァント『両儀式』だ。

 

 他にも、大鎌『不死殺し』を振り回すランサーのサーヴァント『メドゥーサ』や、ノリノリで『黒鍵』や『ハルペー』を投影して放っている正義の味方エミヤマン・アーチャーこと『エミヤ』の姿があった。

『可憐な吸血姫エストリエ』がその不死狩りの魔剣『リジル』を振るうと、一斉に蛇の動きが止まる。そこへ、吸血鬼に特攻を持つヴァンパイアハンター達が、勢揃いでクロスボウのボルトを射かける。

 

「矮小な虫どもめ……貴様らなど、我が真の姿をもってすれば!」

 

 真祖バアルが叫び、彼の背後から巨大な蛇が複数生えてくる。

 それは、ただただ巨大だった。上空でぐるりととぐろを巻いたその姿は、島を覆い尽くさんとするほどの規模だ。

 その巨大な蛇の頭が、一斉に下を向き、口から光線を吐き出した。

 

 光線は真っ直ぐ地上に降り注ぎ、軍勢に当たった光が大爆発を起こす。

 

「ハハハ! しょせんはこの程度! 人の命など、軽い一吹きで消し飛んでしまうな! これは困った!」

 

「何を言っているんですか? 誰も死んでなんかいませんよ?」

 

「ハ?」

 

 私の言葉に、真祖バアルの笑い声が止まる。

 

 軍勢に配置されていた魔法職の面々が、その力を発揮して治癒の魔法で周囲を癒やしていく。

『千年戦争アイギス』の魔法は、リソースを消費しない。マジックポイント(MP)なるパラメータはなく、戦いの中で何度でも治癒の魔法を連打することができる。

 アークスの回復テクニック『レスタ』はフォトンポイント(PP)を消費するが、フォトンポイントは数秒程度の時間経過で回復する。

 ゆえに、即死さえしなければ、傷はいくらでも元通りだ。

 そして、私がスマホゲームで育てあげたこの場にいる屈強な戦士達は、光線の一発や二発で即死するほど柔ではなかった。

 

「おのれ!」

 

 上空の巨大蛇の一体が、再び口に光を溜める。

 次の瞬間、その蛇の頭が盛大に吹き飛んだ。

 

「な、なんだと!?」

 

 その一撃を放ったのは、軍勢の先頭にいる男。英雄王の末裔、王子である。

 恐ろしいほどの力を感じる長槍を構えた彼は、その長槍を上空に投擲する。すると、頭がまた一つ爆砕し、頭を失った蛇の胴体が溶けるように消え去っていく。

 そして王子が手を天に掲げると、彼の手に長槍が戻ってきた。

 

「な、なんだその槍は! そんなものが、そのようなものがこの世にあっていいわけがない!」

 

 真祖バアルの叫びが、周囲に響きわたる。

 王子が持つ長槍こそ、神討つ聖槍『グングニル』。不死の神すら殺しきる究極の不死殺し。

 

 聖槍を構える王子が、真祖バアルに告げる。

 

「人は自分の足で生きられる。……人はお前の奴隷ではない」

 

 そう言うや否や、巨蛇の下で人の姿を保っていた真祖バアルの身体へ、神殺しの槍が投げつけられた。

 

「ガアアアア! おのれ、刻詠リンネ! 次は魔界七四〇万の軍勢を引き連れて、貴様の全てを滅ぼしつくして――」

 

 胸を槍に貫かれた真祖バアルが、叫び声を上げながら、転移魔法を足元に展開し、逃げだそうとする。

 しかし、その転移魔法の魔法陣は、途中で発動に失敗して霧散してしまう。

 

「なあッ――」

 

 失敗するのも当然だ。ここはスマホから繋がる別宇宙の中。彼が逃げる先など、どこにもない。

 私は右手の『光纏翔クラースグライド』を困惑する真祖バアルに向けて、思いっきり振るう。銀河を生み出す光が爆発し、死を告げる『山の翁』の一撃が、真祖バアルの首を落とした。

 

「おのれえええ! 何をした、刻詠リンネ!」

 

 落ちた首がやかましく叫ぶ。存外しぶとい。まあ、多分、上空でとぐろを巻く巨大な蛇が奴の本体だからだろうが。

 私は、罵詈雑言を並び立てる頭を剣先で潰し、空を飛んで上空の蛇の頭に挑みかかる。

 

『こうなったら、ヨルダ・バオトの解放は止めだ! 貴様ごと消し飛ばしてやる!』

 

 蛇の頭がそんなことを叫び、凝縮した光弾を私に向けて放つ。

 高速で飛来するそれに、私の頭は吹き飛ばされた。おおっと。

 

『ハハハハハ! なんとあっけない!』

 

 笑う蛇頭だが、次の瞬間、頭を再生させた私を見て、蛇頭の笑い声が止まる。

 

『ハ? 貴様、まさか不死者――』

 

 そんなことをしゃべる蛇頭に向けて、私は思いっきり両の大剣で斬りつけた。そして、さらに不死殺しの力を乗せた必殺技(フォトンアーツ)で首を切り落とす。

 残った蛇頭の一つが、私を狙撃せんと光を放つが、その頭が逆に地上からの矢で狙撃され、力を失って地に落ちる。地上を見ると『影を継ぐ者ユージェン』がドヤ顔で次の矢をつがえていた。『パラライズショット』か。真祖に麻痺って効くんだなぁ。

 この様子だと、『山の翁』の奥の手、『不死性の剥奪』はいらなそうだね。

 

 そして、全ての頭が地上に落ち、不死殺し達の攻撃で次々と蛇は破壊されていき……最後に一匹の蛇が残された。

 

『なぜだ……『貴族』の私が……真祖の私が……滅びるだと……?』

 

 真祖バアルが最後の抵抗とばかりに、口に光を溜める。

 だが、そこへ王子の槍が突き立てられ……真祖バアルは灰になって崩れ去った。

 

 それを見届けた私は、スマホを取り出し、『ドコデモゲート』で真祖バアルの名前を入力する。すると、該当者なしと返ってきた。その結果に満足した私は、周囲に向けて大声で叫んだ。

 

「真祖バアル討伐戦、我々の勝利です!」

 

 すると、軍勢からワッと歓声が上がった。さあ、悪のラスボスは滅んだ。後は、麻帆良の魔族を掃討するだけだ!

 

 

 

◆209 矛を収めて

 

 存外長く真祖バアルと戦っていたようで、『ドコデモゲート』で麻帆良に戻ると、魔族はほとんどが防衛部隊に打ち倒されていた。

 途中で『LINE』の連絡がなかったから心配はしていなかったけど、完勝じゃないか。

 

 倒された魔族はいずれも死ぬギリギリで生かされて氷漬けになっており、事後処理が面倒なことにならなそうでホッとする。

 相手を殺したら、それはそれでやっかいだからね。業魔大陸の諸侯というだけあって魔界の貴族だろうし、何か外交問題が起きたら困る。いや、麻帆良に攻めてきていることも十分外交問題なんだけど。

 私は残った魔族に向けて、降伏勧告を出した。

 

「真祖バアルは討伐しました! そこの魔族ー! 大人しく降伏しなさーい!」

 

「なッ! バアル様を討伐だと!?」

 

「神殺しの槍でずっぽり貫かれました。完全消滅です。二度と蘇ってはこないでしょう」

 

「な、なんだと……」

 

 残り一匹となった骨頭の魔族が大いに動揺する。

 

「なんなら、あなたも受けてみますか? 神殺しの槍」

 

 私は、スマホから王子の力を引き出し、手に聖槍『グングニル』を呼び出す。

 その力を感じ取ったのか、魔族が「ヒイッ!」とひるんだ。うん、持っているだけでビシバシ力を感じるからね、この槍。

 

「し、しかし私はバアル様の眷属として、引くわけには……」

 

 むう、これは、最後までやるしかないか?

 私は聖槍を牽制に使おうと、槍投げの構えを取る。

 と、そこで私の後ろから声がかかった。

 

「どうか、滅ぼすのは待ってくれませんか?」

 

 その声は……一度、麻帆良祭の時に聞いたことがある声。ザジ・レイニーデイさんの生声だ。

 私は聖槍を下ろし、背後に振り返る。

 

「その人達は魔界の業魔大陸の支配者です。彼をこの場で処分すると、今回の責を負わせるべき者がいなくなってしまいます。あそこは、弱肉強食の世界ですからトップ以外の責任の所在があいまいなのです」

 

 私の背後にはピエロ姿のザジさんが立っていて、そんなことを私に告げていた。

 マジで? トップ以外責任者がいないって、魔界ってどんだけひどい場所なのさ。

 

「それに、今トップが倒れると、業魔大陸が泥沼の戦国時代に突入する可能性があります。どうか、思いとどまっていただけませんか? お願いします」

 

 ザジさんがそう言って、私に頭を下げた。なるほど。ザジさんの故郷が業魔大陸かどうかは知らないが、魔界に住む魔族の人々を心配していると。

 そんな彼女に、私はおどけて言う。

 

「いやあ、私も滅ぼしたくはないんですけどね。でも、抵抗する以上はうっかり神殺しの槍が刺さってしまう可能性が」

 

「……アレプト卿。矛を収めてくれませんか。でないと、本気で滅びてしまいますよ」

 

 ザジさんが生き残った魔族、アガリ・アレプトに向けてそう声をかける。

 

「……分かった。降伏しよう。だから、どうか他の者も命だけは助けてやってくれ。魔界には彼らが必要なのだ」

 

 おおー、説得成功だ。だが、一つだけ許容してもらわなければならない。

 

「あなたの腹心、『死亡回生(デス・ペナルティ)』の人だけは、このまま封印させてもらいます」

 

 時間逆行能力の効果時間が過ぎるまでは、麻帆良の地面の下でスヤスヤしてもらう。

 

「……仕方ないか。確かに、奴は全てをなかったことにしてしまう」

 

 そうして、魔族は降伏し、キティちゃんによる力の封印を受け入れた。

 その後、ギアススクロールによって二度と麻帆良と私を攻めず、造物主の復活を目指さないことを約束させた後、魔族達は麻帆良の魔法先生達に引き渡された。

 その後のことは、魔界と麻帆良の政治の話になるので、私はノータッチ。

 学園長先生からはどうやって魔族の襲撃を知ったのかと尋ねられたが、キティちゃんの独自の情報網と言って誤魔化した。

 

 その後、ザジさんからメールで、魔界の勢力図が真祖バアルの存在消失により様変わりしたと連絡を受けたが、私に関わりのないことなのでスルーした。

 真祖バアルに賛同していたポヨお姉様が謹慎を受けた? いやそんなの知らんし。そっちでどうにかしてちょうだいな。

 

 ……こうして、キティちゃんにとってのラスボスがこの世からいなくなり、平和な日常が戻ってきた。

 造物主もまだ存在しており、火星の開拓も道半ばなので、これで何かが変わるということはないのだが……いや、一つだけあった。真祖バアルがいなくなって、大手を振ってキティちゃんのところに姿を見せられるようになった結城夏凜さんが、麻帆良にやってきてエヴァンジェリン邸に住みついたのだ。

 

 まずは職探しをすると言っていたが、最上級の神聖魔法の使い手ということで、キティちゃんと同じように魔法先生にならないかと声がかかっているらしい。なので、夏凜さんは麻帆良大の教育学部に通うことを目標にして、まずは来年の麻帆良学園女子高等部の入学試験合格を目指すと決めたようだ。

 二千歳の少女が高校通うのかぁ。そもそも、学校に通った経験とかあるのだろうか。

 

 キティちゃんもまずは高等部に進学して、その後麻帆良大に行って魔法先生を目指すらしいし、しばらくは一緒の学生生活が続くね!

 




※魔界の業魔大陸の実状は、真祖ニキティスの『弱肉強食の不毛の地』という台詞から膨らませたオリジナル設定です。なお、次回以降オリジナル設定がかなり多めになってきます。ご了承ください。

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