【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■89 3年A組の魔法少女達

◆221 パクティオーカード説明会

 

 体育祭の振替休日を終えた、平日の放課後。私は3年A組の全員を集めて、教室の教壇に立っていた。クラスの皆が取得したパクティオーカードについての説明会を行なうためだ。

 ここに至って、魔法の存在を秘密にすることもないだろう。予定では、あと半年で魔法は世間に公開される。むやみやたらに喧伝するのでなければ、他者にバレるのは黙認されている現状なのだ。魔法の存在を隠す機関の人達は、次の仕事場への異動の準備に忙しいしね。

 

 というわけで、私が代表して皆にパクティオーカードの使い方と魔法に対する心構えを知らせようとしているのだ。ちなみにネギくんはこの場にはいないが、特別にカモさんにだけは来てもらっている。

 

「さて、皆さんがネギくんとキスをして手に入れた、このカード。実は、魔法のカードです」

 

 私は手元にパクティオーカードを出し、ヒラヒラと振ってみせる。すると、クラスメート達もパクティオーカードを取り出してきた。

 

「体育祭でもネギくんが堂々と杖を使って空を飛んでいたことから皆さんも察しているかもしれませんが、世の中には魔法があり、魔法使いが存在します。たとえば、こんな感じです。アプリ・テリオリ・アプリオリ。『火よ、灯れ(アールデスカット)』」

 

 私は指先に火を灯してみせた。すると、クラスメート達が「おおっ」と沸く。

 

「このように、世の中には魔法があります。ですが、魔法の存在は世間にはまだ秘密です。来年には正式に世間へ公開される予定なのですが、今は秘密です。絶対にバラしてはいけませんよ」

 

 私がそう言うと、一部のクラスメートがニヤニヤと笑っている。

 ふむ、これは……。

 

「ちなみに、魔法の存在はハルナさんと朝倉さんも、夏休み前から知っていました。これがどういうことか分かりますか?」

 

 私の問いかけに、ニヤニヤと笑った面々は理解が及んでいないのかキョトンとしている。

 

「噂好きのハルナさんや朝倉さんですら秘密を守れたのに、ここで魔法を他にバラす人は、二人以下の存在という扱いになります。噂好きで秘密も守れない女などと後ろ指を指されたくなかったら、来年の公開まで黙っていましょうね」

 

「なんか私達の扱いひどくない?」

 

「これでもコンプライアンスを守れる女なのよ?」

 

 ハルナさんと朝倉さんが抗議してくるが、スルーだ。

 

「さて、ネギくんが魔法使いだということは皆さんも察したでしょうが、実はこの麻帆良学園都市は、魔法使いの都市です。学園長先生は凄腕の老魔術師ですし、身近なところでは中等部の高畑先生や瀬流彦(せるひこ)先生は魔法先生という役職です。他にも、明石さんの父親は魔法先生ですね」

 

「えっ、ゆーなそうやったの!? じゃあ、ゆーなも魔法使い?」

 

 私の暴露に、和泉亜子さんが驚いて、明石裕奈さんに問いかける。

 

「いやー、私も一昨日、お父さんに教えてもらったばかりなんだよね。一般人だよ、私は。ああ、でもね」

 

 明石さんは、そう言いながら制服のポケットから、小さな杖を取り出した。

 

「プラクテ・ビギ・ナル。『火よ、灯れ(アールデスカット)』」

 

 明石さんが杖を振りながら呪文を唱えると、杖の先にかすかな光が灯った。

 

「子供の頃は、お母さんに魔法を教えてもらっていたっぽいねー」

 

「そっかあ。ゆーなは魔法使いになり損ねたんやな」

 

「言うなし! いいもん、私はバスケットに青春をかけるんだい!」

 

 そんな会話を和泉さんと明石さんが交わし、私は手を叩いて話を打ち切らせる。

 

「このように、魔法使いは身近に存在します。これがどういうことかというと……皆さんも来年以降は魔法を教えてもらえるかもしれません」

 

 私がそう言うと、クラスメート達にざわめきが走る。

 さらに、私は燃料を投下する。

 

「世の中には魔法以外にも、陰陽術や呪術、退魔剣術、気功武術なんていうのもあります。皆さん、古さんが大男を軽々と吹き飛ばしているところを見たことはありませんか? あれは純粋な筋力だけでなく、『気』と呼ばれる生命エネルギーを使っているからあんなことができるのです」

 

「漫画の世界だ……」

 

 誰かが、そんなことをポツリとつぶやいた。うん、漫画じみているよね。でも、私達にとってはこれが現実。現実は思ったよりもファンタジーだったと受け入れてもらうしかない。

 

「来年の魔法公開で、世界は大きく変わることでしょう。外傷は治療魔法で瞬時に治り、スポーツ選手は魔力や気で今の何倍も身体能力を伸ばし、飛行魔法で皆が空を飛ぶようになります」

 

 私がそう言うと、和泉さんがおずおずと手を上に挙げてきた。

 

「あの、ええかな?」

 

「はい、和泉さん、なんでしょうか」

 

「魔法があれば古傷とか傷痕を消すこととかできるんやろか?」

 

 ああ、和泉さんは背中に大きな傷痕があるんだったね。原作漫画では、魔法世界に渡航して治療を行なって傷痕を消したらしいけど。

 

「魔法使いの国に行けば可能ですが、それにはそれなりのお金がかかりますね。それよりも別系統の技術による形成手術をお勧めします。魔法使いの国とは別の場所に、エステという施設があるのですが、そこに行けば外見を自由自在に作りかえることが可能です」

 

「エ、エステ……?」

 

「エステという名前が付いているだけで、実際には外見を超技術でカスタムする施設です。傷痕も簡単に消せます」

 

「あの、それやったら、ウチ……」

 

「今度の土曜か日曜にでも、そこへ向かいましょうか? 日帰りで行けますよ」

 

「お代は……?」

 

「身内価格で、一つ貸しということにしておきましょう。私が困っているときに、手助けしてくださればそれでいいですよ」

 

「それはそれで怖いんやけど……うん、頼みます」

 

 というわけで、和泉さんをアークスシップに連れていくことが決まった。

 エステのパスはこの前ネギま部でアークスシップに行ったときの余りがあるので、それを使ってもらえばいいだろう。ゲーム内だとパスは取引不可だったが……あれ? そもそも身体の傷はエステ的にはボディペイント扱いだからパスいらないのかな?

 もし新規でパスが必要になっても、そのときはウルク総司令に頼んで発行してもらえばいいか。その程度の融通は利かせてもらえるだろう。オラクル船団には現世の魔法技術を私経由で伝えているんだから、見返りを受けるだけの恩恵はちゃんと与えているはずだ。

 

 さて、話は逸れたが、魔法についてだ。

 

「皆さん、魔法が世の中にあり、近々公開予定で、それまでは秘密ということは分かりましたね? それでは本題の、魔法のカードについて説明します」

 

 私は、あらためて皆の前にパクティオーカードを掲げてみせた。

 

「このカードは、パクティオーカードといい、魔法使いと仮の契約を結んだ証です。相手の魔法使いのパートナーになりますという契約なのですが、あくまで仮の契約であり、皆さんがネギくんと今後何かをしなければならないということはありません。本契約というものを結べば話は変わってきますけどね」

 

 パートナー、と言ったあたりで佐々木まき絵さんの目が輝いたが、それはスルーして私は説明を続けた。

 

「パクティオーカードの機能はいくつかあります。まず一つ、契約相手と念話……テレパシーが行なえるようになります。これはケータイがあれば十分ですね。二つ、契約相手から魔力を受け取れます。魔法を使えない人でも身体能力がすごく上がります。オリンピックに出たらぶっちぎりで金メダルです」

 

 運動部の面々が、「ほへー」という感じの顔になる。

 今後魔法が世間に公開されたら、魔力や気を使わない競技と、魔法解禁された競技に分かれるだろうね。さらに科学技術が進めば、機械義肢を付けたサイボーグ選手も出てくるだろう。

 

「三つ、契約相手がパートナーを自由に手元に呼び寄せることができます。いわゆるテレポートですね。皆さんの場合、ネギくんが皆さんを一方的に呼び出す形になります」

 

「えっ、何それすごい」

 

 明石さんが、自分のカードをマジマジと見ながらそんな声を上げた。

 ふふふ、だが、機能はその程度では終わらないぞ。

 

「四つ。着せ替え機能。服を登録して、一瞬で着替えることができます。このように」

 

 私は、パクティオーカードの機能を使って、制服から私服へと一瞬で衣装を替えた。その様子に、チアリーディング部の三人が「おおー」と歓声を上げている。

 

「五つ。これは、全てのパクティオーカードに共通の機能ではないのですが、ごくまれにレアカードとしてアーティファクトカードというのが混ざります。アーティファクトカードは、カードが魔法のアイテムに変化するという素敵機能です」

 

「魔法のアイテム! 空飛ぶ絨毯とか?」

 

「テクマクマヤコンみたいな?」

 

「赤いキャンディーと青いキャンディーみたいな?」

 

 椎名さん、釘宮さん、柿崎さんのチアリーディング部の三人が、そんなことを言うが……オタクじゃない三人の発想が古い! いやまあ、赤いキャンディー青いキャンディーの年齢詐称薬はこの世界に実在しているけどさ。

 

「そして、皆さんに朗報です。ネギくんは魔法使いとしてものすごい天才なので、皆さんのパクティオーカードはおそらく全部アーティファクトカードです」

 

 私がそう言うと、クラスメートの半数が沸いた。残り半数はすでにカードを持っている人達である。

 

「では、アーティファクトを出してみましょう。カードを手に持ち、『来たれ(アデアット)』と唱えてください」

 

 私がそう言うと、クラスメートの半数が一斉に「アデアット」と唱えた。

 すると、次々とクラスメート達の手元にアーティファクトが出現していく。中には衣装ごと変わっている者も混ざっている。

 

「あれー? 何も出ない」

 

「私もだ……」

 

「これってハズレってこと?」

 

 チアリーディング部の三人が、制服姿のままその場で固まっていた。

 ふむ? ネギくんの仮契約相手に限って、ハズレはないと思うのだが……。

 

「カモさん、あれはどうなのでしょうか? 無形のアーティファクト?」

 

 私は、教卓の上で説明会を見守っていた特別顧問役のカモさんにそう話しかける。

 

「ああ、あれは、特定のステータス上昇効果だな」

 

「なるほど。チアリーディング部の三姉妹方、それは形のないアーティファクトですよー」

 

「あはは、誰が三姉妹さ」

 

 椎名さんが、私の言いざまに笑いながら返してくる。

 そんな三人に、私は近づく。

 

「三人のアーティファクトは、なんらかのステータス……要するに本人の能力が上昇する効果がある、無形のアーティファクトだそうです」

 

「なるほどー。確かに、運が良くなっている気がするね」

 

 椎名さんがそう言うと、残りの二人の釘宮さんと柿崎さんがうげっとした顔をする。

 

「桜子、あんたこれ以上運良くなってどうするのよ」

 

 柿崎さんにそう言われ、椎名さんは「あはは」と笑っている。

 いや、本当にその豪運で世界の経済や金融を乱さないでいただきたい。今の私の幸運のステータスや黄金律のスキルではとうてい太刀打ちできないから。

 

 さて、他も見ていこう。

 

「なんで看護婦……保健委員やからか?」

 

 女性看護師の格好になって、巨大な注射器を手に持った和泉さんが、困惑している。

 それを見たカモさんが、アーティファクト名を告げる。

 

「『不思議な注射器』だな」

 

 すると、すぐさま近くにいた夕映さんが、自身のアーティファクトで検索をしてくれる。

 

「『不思議な注射器』は、いくつか用意されている薬剤を対象の臀部(でんぶ)に注射することで、薬剤に応じた効果を対象にもたらす魔法具です。魔力ドーピング剤を注射して味方を強化したり、感覚を狂わせる状態異常薬を撃ち込み、敵を惑わせたりできるです」

 

「臀部って……お尻? こんな太い針をお尻に刺したら、大怪我させてまう……」

 

 そう心配する和泉さんだが、夕映さんは心配要らないと言う。

 

「注射針は魔力的な存在であり、刺しても相手に傷を負わせることはないそうです」

 

「そっかぁ。うーん、でも自分に使えそうにないのは残念やなぁ」

 

 まあ、注射器はすごくでかいから、自分で自分のお尻を刺すのは難しいだろう。

 さて、他には、ものすごくはしゃいでいる明石さんを見てみよう。

 

「うはは、格好良いでしょー」

 

 ごっつい銃を周囲に見せびらかしながら、ポーズを取っている。

 

「『七色の銃(イリス・トルメントゥム)』だな」

 

「様々な効果を持つ弾丸を撃ち分けられる魔法銃です。特に『魔法禁止弾』は凶悪ですね……弾を当てた相手が三分間魔法と魔力を使えなくなるです」

 

 カモさんと夕映さんが、それぞれそのような説明を述べる。

 すると、明石さんは銃弾のチェックをし始めた。うん、強力な魔法具だから、存分に父親に見せびらかしてあげるといいよ。娘がネギくんとキスをしたという事実を明石教授はどう受け止めているかは知らないけど。

 

 次は、佐々木まき絵さんのアーティファクトをチェック。五種類一セットの新体操の道具を模したアーティファクトを見て喜ぶ佐々木さんだが、夕映さんにバリバリの戦闘用と聞いて思いっきり引いていた。

 うん、でもリボンが自在に伸びるという『自在なリボン(リベルム・レムニスクス)』は佐々木さんが使えばすごく便利だと思うよ。

 

 他にも四葉五月さんの『魔法の鉄鍋』を見せてもらったり、人魚の姿になって恥ずかしそうにする大河内アキラさんを見たりと、アーティファクトのお披露目は無事に終わり、最後にみんなにアーティファクトの消し方を教え、説明会はお開きになった。

 

 おっと、これだけは言っておかなくては。

 

「魔法犯罪をした人は、刑としてオコジョに変身させられて数ヶ月から数年過ごすことになりますので、くれぐれもアーティファクトを悪用しないようにしてくださいね」

 

 私がそう言うと、一斉にクラスメートの視線がカモさんに集まる。

 

「おっと、お嬢さん達。熱い視線を送ってくるのは嬉しいが、それは勘違いってもんだ。俺っちは生まれついてのオコジョ妖精。オコジョ刑を受けた犯罪者とは別物だぜ?」

 

 そうは言うがねカモさん。下着泥棒二千枚の罪から逃げるためにイギリスから日本にやってきたこと、私は忘れてないぞ。

 


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