【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■9 果たし状の吸血鬼

◆29 秘密のお茶会

 

 春休み最終日。私とちう様、そして古さんは、茶々丸さん経由でキティちゃんにエヴァンジェリン邸へ呼び出されていた。

 そして、メディア様が作った方の等速ダイオラマ魔法球へと案内され、私が『Minecraft』のゲームの力を駆使して建てた屋敷へと入る。

 そして始まったのは、優雅なお茶会だ。常駐している子猫が、茶々丸さんと一緒にお茶菓子の配膳をしている。

 

 堅苦しい場ではないと理解した古さんが、紅茶を飲みながらキティちゃんに話を振った。

 

「旅行は楽しかったアルか?」

 

「ああ。東京に行っていたのだが、古い知り合いに会ってきた」

 

「昔の男アルか?」

 

「何を言っているのだバカモノ。昔、行動を共にしていた女だ。そうだな、リンネ、千雨。貴様らなら誰か分かるだろう」

 

 話を振られたちう様が、その相手を予想していたのか、うなずいた。

 

結城(ゆうき)夏凜(かりん)だな?」

 

「ああ。今の時点でそう名乗っていたので、なんとか見つけられたよ」

 

「私は知らない人アルねー。どんな人アルか?」

 

 予言の書を未だに読ませてもらっていない古さんが、そう尋ねる。

 それに対し、キティちゃんは簡潔に答えた。

 

「言っただろう。昔、行動を共にしていた女だ。思わぬ形で別れ、しばらく会えないでいた」

 

「正確に言いますと、中世暗黒時代をエヴァンジェリン先生と共に閃光のごとく駆け抜け、そして最後に先生の力をはるかに超える巨悪の手によって生き別れになった、最愛のパートナーさんです」

 

「リンネ、貴様、そんなに折檻を受けたいのか」

 

 いや、事実を言っただけだよ?

 

「で、そんなパートナーさんと、東京で遊んで来たんですか?」

 

「……いや、積もる話がありすぎてな。ほとんど会話をするだけで、春休みが終わったよ」

 

「そうですか。結城さんを麻帆良に招かなかったのですね」

 

 私のそんな言葉にキティちゃんは顔をしかめながら答える。

 

「今の私はただの中学生だぞ? 連れてきても、世話などできん」

 

「むしろ私が世話をしますとか、迫られていそうですね」

 

「…………」

 

 当たってたか。まあ、原作漫画通りの彼女なら、そうなるわな。

 

「で、実際、なんで連れてこなかったんだ?」

 

 茶菓子に手を付けながら言うのは、ちう様だ。

 その問いに、キティちゃんは古さんの方にちらりと目をやりながら、答える。

 

「夏凜と長期間行動を共にするとなると……先ほどリンネが言った『かつての私の力を超えていた巨悪』が、また余計な手を出して来かねん」

 

 今の自分を超えていると言わないあたりが、意地っ張りなこと。

 だが、キティちゃんのふわふわした言い方のせいで、また古さんが話に付いてこられていないようだ。

 

「古さん。巨悪さんは、エヴァンジェリン先生をいじめるのが大好きな人なんです。先生の最愛のパートナーがいなくなった時、先生の心がどうなるか気になるー、とか言って、不死者の夏凜さんをボロボロのズタボロの再起不能の封印状態にしちゃう感じです」

 

「それは……巨悪アルね!」

 

「はい。エヴァンジェリン先生にとってのラスボスです」

 

「ラスボスアルかー。それは、私もレベルアップにはげまないといけないアルね!」

 

「ちなみに裏ボスもいますので、レベルカンスト目指してください」

 

「裏ボスまでいるアルか!?」

 

「そうですよー。私とちう様と古さんが不老である限り、絶対に立ちはだかる裏ボスなので、頑張りましょう」

 

「話が壮大になって来たアル……」

 

 しかしまあ、ラスボスの真祖バアルと裏ボスの造物主ヨルダは、本気でどうにかしないと。放置すると、いずれ人類文明が破壊されるので、さらなる修行(レベルアップ)は必須だ。

 

「私は、倒すべき敵も定めていないのに、ここまで頭おかしい修行をしてこられた古が、ちょっと恐ろしーぞ」

 

「あはは、ちうはゲームのやり過ぎネ。修行は敵を倒すためじゃなくて、自分を高めるためにやるのが本来の道アルよ」

 

「それはまあそうだけどよ」

 

 そこまで話したところで、一旦会話が止まる。

 そして、キティちゃんが沈黙を破るように言った。

 

「ま、私の春休み旅行はそんなところだ。それよりも、四月の私の予定を話しておきたい」

 

 ふむ。こちらも予想はある程度している。

 原作漫画における、桜通りの吸血鬼事件的なことを起こすつもりかもしれない。

 

「新学期が始まったら、私はネギのぼーやを襲撃し、大停電の日に合わせた果たし状を送る。お前達はこの件に手を出すな」

 

「果たし状アルか? エヴァにゃんがネギ坊主を相手にしたら、完全に弱い者いじめになるアルよ」

 

 麻帆良内でのキティちゃんは学園結界により超絶弱体化しているが、それを加味してもネギくんとの力量差は大きい。

 

「もちろん手加減はする。主目的は、ぼーやを鍛えるためだ」

 

「んー? なんでネギ坊主を鍛えるアル?」

 

「あやつには、強大な魔法使いになってもらわねば困る。先ほど貴様達が言っていた、裏ボスとやらを倒すためにな」

 

「アイヤー、ネギ坊主を私達の敵退治に巻き込むアルか?」

 

「そもそも、血筋からしたら、ぼーやはその裏ボスと因縁があるんだぞ? 相手は、ぼーやの遠い先祖だ」

 

 遠い先祖のうえに、現在のボディはネギくんの父親のものなんだよなぁ。

 文明を滅ぼす裏ボスの血統とか、やっぱネギくんこの世界の主人公ですわ。神楽坂さんとのW主人公である。なお、その片割れの少女主人公を人柱にする、少年主人公がいるらしい。

 

「つまり、ネギ坊主のご先祖様も不老の人アルか。世の中、不老の存在にあふれているアルね」

 

 不老どころか不老不死もいっぱいいる。私もその一人だけど。

 

「そういうわけで、ぼーやには強くなってもらわないと私が困る」

 

「なんだか、本人を無視して育成計画が進んでいるアルな……」

 

「あのぼーやに関する勝手な育成計画など、麻帆良の魔法教師達も多かれ少なかれ用意している」

 

 キティちゃんが、面白そうに笑みを浮かべながら言う。

 

「修学旅行は見物だぞ? 行き先は京都・奈良に決まっていたが、ぼーやは関西呪術協会に親書を届けるという任務を課されるはずだ」

 

「ホア? 関西呪術協会って聞き覚えがある気がするヨ?」

 

 おい、バカレンジャー。

 

「まさか忘れているとは……リンネ、説明してやれ……」

 

 キティちゃんもあきれ顔だ。

 仕方ないので、簡潔に答える。

 

「関西呪術協会は、日本土着の術師の集団です。それに対して、麻帆良では学園長を始めとした西洋魔法関係者の多くが関東魔法協会という組織に属しています。現在、お互いの仲は険悪です」

 

 麻帆良学園都市の学園長が、関東魔法協会の理事も務めている。なお、理事であって理事長ではない。

 

「そーいえば、そんな話を以前聞いたような聞いていないような……」

 

「修学旅行先で争いになる可能性が高いので、本気で頭に叩き込んでおいてくださいね」

 

「争いになるアルか!」

 

 うわ、嬉しそうな顔をしたぞ、この道士。実戦で仙術使う機会がなさすぎて、戦いに飢えていたのか。

 

「まあ、親書を渡すのに妨害する勢力は、いるでしょうねぇ」

 

「これは、ネギ坊主を助ける必要がありそうアルね!」

 

「待て、古菲。手助けするのは構わんが、本気を出してぼーやの成長の機会を奪うのはやめろ」

 

「むむむ。そういう難しい加減とか分からないアルよ」

 

「なら、修学旅行の班は、私と同じ班にしろ。都度、指示を出す」

 

「修学旅行は、超と同じ班にしよう思てたアルが……」

 

「実戦を経験したいなら、我慢しろ」

 

 キティちゃんの言葉に、古さんは「むむむ」とうなった。

 そして、キティちゃんはこちらを向いて言う。

 

「リンネと千雨も、もちろん私と同じ班だ。過剰戦力だから私の手元に置く」

 

 その言葉に、私はうなずいてから、キティちゃんの背後に控えていた茶々丸に向けて言う。

 

「もちろん、茶々丸さんも一緒ですよ」

 

「はい、リンネさん、ありがとうございます」

 

 茶々丸さんはキティちゃんの従者だが、葉加瀬さんや超さんに情報を渡さないために、いろいろ秘密にしていることが多いんだよね。

 しかし、今回のお茶会で、茶々丸さんは人類文明の破壊者たる謎の裏ボスという存在がいることを知った。

 この情報を超さんがもし入手したとして、何を考えるのだろうかね。

 

 

 

◆30 ガチャの季節

 

 新学期が始まった。

 クラスメート達の噂話を聞くに、どうやらキティちゃんがネギくんに対する襲撃に成功したらしい。

 そして見事に果たし状を叩きつけ、果たし状の期日まで襲撃は続けていくと宣言したとか。

 

 果たし状の中身は、「貴様の父親に与えられた不名誉を貴様の血ですすぐ」とかなんとか書いてあったらしい。ぶっそうねー。

 それからというもの、ネギくんはパートナーを求めてクラスメート達に秋波を送っている。

 

 まあ、それはどうでもいい。

 今、大事なのは……ガチャだ。そう、ガチャだ。ガチャの季節がやってきたんだ。

 その名も、帝国プレミアム召喚。『千年戦争アイギス』の限定キャラクターガチャである!

 

 そもそも、私のスマホのゲームは、ガチャができる。ログインボーナスや未プレイ状態のイベントのクリアなどで、ガチャに必要な無料石が貯まっていくのだが……それを使ってガチャを引いて新キャラが出た場合、スマホの中の住人が増えるのだ。

 スマホの中の住人が増える。イコール。私の力が増す!

 

 修行してちまちま地力を上げていくよりも、はるかに手っ取り早い、まさしくチートオリ主の力だ。

 しかし、無料石を貯めるのは正直苦痛である。そうなると、したいよね、課金。

 

 でも、このスマホでは現実のお金による課金ができない。

 しかし、あるのだ、特殊な課金方法が。それは――

 

「徳……徳を積まなきゃ……」

 

「ちうー、なんかリンネがうめいているアル」

 

「あー、気にするな。ときどきなるんだよ、それ」

 

「徳を……積まなくちゃ……ッ!」

 

 徳! そう、私は、徳を積むことで課金ができるのだ。

 正確には、「徳を積むとスマホ内の『Goddess Play Points』が溜まって、課金用のクレジットに替えられる」という能力を私は持っているのだ!

 それはさながら、『UQ HOLDER!』に登場する異世界転移チート主人公系キャラである真壁源五郎が、「善行を積むと残機がストックされる」能力を持つように。というか神様、真壁源五郎の能力参考にしただろう、これ!

 

 というわけで、私は徳を積まなくちゃいけないのだ。

 前世では徳が足りなくて天界から拒絶された私だが、今世の私は徳を積まねば今後の厳しい戦いを生き残れない……!

 

「徳を積むには……は、そうだ、徳が高い人物と言えば、茶々丸さんです。今日は、茶々丸さんをストーキングして、善行のおこぼれを拾いましょう」

 

「なんだか徳が低そうなこと言いだしたアル」

 

「気にすんな。今日は中武研行こうか」

 

 よーし、ちゃっちゃまるさーん。待っててねー。

 

「いや、部活にまでついてこられても、邪魔なんだが……」

 

 おっと、私の用事があるのは、キティちゃんにじゃないよ。

 今日は茶々丸さんだ。というわけで、茶道部にお邪魔。

 

 正直、茶道とか全然知らない。表千家がどうこうってことくらいの知識。

 まあ、体験入部と言うことで、お茶と和菓子をごちそうになった。

 

 そして、部活が終わり、帰り道。キティちゃんと茶々丸さんの後ろを歩いていると、前担任の高畑先生がこちらに近づいてきた。

 

「エヴァ、学園長がお呼びだ。一人で来いだってさ」

 

 そう言われたキティちゃんは、苦い顔をする。そして、キティちゃんはため息をついて、私の方を見た。

 

「茶々丸を家に送り届けてくれ。くれぐれも無事にな。特に、『魔法の射手(サギタ・マギカ)』に気を付けるよーに」

 

 具体的すぎる、具体的過ぎるよキティちゃん! 高畑先生が何事って顔で見ているよ!

 まあ、了解だ。無事に家まで送り届けて、凶刃から守って徳を積むことにする!

 

「よろしくお願いします、リンネさん」

 

「うん、茶々丸さんは私が守りますよ!」

 

 そこから、私と茶々丸さんの帰宅という名の徳積み作業が始まった。

 

 風船が木に引っかかって泣いている子がいれば、『気』のパワーで大跳躍して風船を取ってやり。

 歩道橋を渡ろうとしているお婆さんがいれば、率先して背負ってあげ。

 ドブ川に流される仔猫がいれば……このドブ川、制服で入るの? 空飛んじゃダメ? って、躊躇(ちゅうちょ)している間に茶々丸さんが先に入った! うわー、徳の高さでロボットに負けた!

 

 そして、公園では茶々丸さんが買った猫缶を野良猫に与え……って、これ前も言ったけどあまりよくないな。

 

「茶々丸さん、野良猫への餌付けは、糞尿や鳴き声等により近隣住民の迷惑になることがあります」

 

 ご近所トラブルに発展するんだよねぇ、この行為。

 前世の話だが、若い頃住んでいたアパートの大家が、野良猫に餌をやっていて……その猫経由で、ノミに食われたことがある。あれは痛かった。

 

「しかし……この子達は餌がないと生きていけません」

 

 茶々丸さんが私の顔をじっと見て言った。

 そんな茶々丸さんに、私は笑って答える。

 

「餌だけやって野良のまま放置するという中途半端なことをせずに、保護猫団体に預けましょうか。私が寄付しているNPOが保護猫活動を行なっていますから、融通は利きますよ」

 

「保護猫団体。そのようなものがあるのですね。しかも、寄付とは、立派なことをなさっていたんですね」

 

「手っ取り早く、徳を積めますからね」

 

 ちなみに寄付のための資金は、スマホから出てくる(きん)とかダイヤ、ルビーをキティちゃん経由で売りさばいて確保している。

 

「信心深いのですね」

 

「そうですね。神様のことはこの世の誰よりも信じていると思いますよ」

 

 なにせ、天界で本物の神様に会ったことあるからね。ちなみに、女神様だった。

 ガチャの確率アップしているキャラをすり抜けて、恒常キャラを出すという邪悪な行為はしそうにない、慈悲深い女神様だったよ。

 

 と、そんな会話をしている間に、公園からひとけがなくなっていく。これは……軽い人払いの魔法か。

 そして、私達の前に、姿を現す者が。

 それは、ネギくん。そして、パートナーの、パートナーの……えっ、神楽坂さんだけでなく、委員長の雪広さんがなぜか一緒にいるんだけど!?

 

「リンネさん、ちょっとよろしいかしら。あちらで少しお話が……」

 

 と、雪広さんが私をどこかに連れ出そうとしている。

 うん、これはあれだね。茶々丸さんを襲撃するために、推定一般人の私をこの場から引き離す作戦だね。

 

「雪広さん、確認しますが、ネギくんのパートナーになりましたか?」

 

「えっ、そ、それは……」

 

「それならば、私はここから去りませんよ。茶々丸さんを守れと、エヴァンジェリン先生に言われていますので」

 

「先生……? リンネさん、それは……」

 

「ふふふ、刻詠リンネは世を忍ぶ仮の姿……その正体は……!」

 

 私は、グッとポーズを取る。荒ぶるガチャのポーズ!

 

「闇の福音エヴァンジェリン先生の魔法の教え子、刻詠リンネ!」

 

「……名前、変わってませんわよ! はっ、そうではなくて、魔法の教え子ですって!?」

 

「そう、私はエヴァンジェリン先生に魔法を教えられている、いわば手下その一!」

 

「まさか、そんな!」

 

「さあ、茶々丸さんを打ち倒したいなら、かかってきなさい!」

 

「くっ、ウルティマホラ優勝者が、魔法の使い手などとなんて反則な存在……! でも、ここはネギ先生のため、当たってくだけろですわ!」

 

 向こう側では、茶々丸さんに神楽坂さんが格闘戦を仕掛けようとしている。

 そして、雪広さんも、私に決死の表情で挑みにかかってきた。

 

 その間にも、ネギ先生が魔法の詠唱を始める。それに合わせて、私もゲームのとあるキャラクターの力を引き出した。

 

「食らいなさい、雪広あやか流合気柔術!」

 

「ああ、ごめんなさいね。合気柔術には慣れているんですよ」

 

 こちらを投げようとする攻めの柔術に対し、私は動きを合わせ、逆に投げ返して腕を極めた。

 

「知ってます? エヴァンジェリン先生って合気柔術の達人なんですよ。暇つぶしとか言って、いっぱい投げられました」

 

「ぬくく、無念ですわ……」

 

 と、こんなことをしている間に、ネギ先生の詠唱が終わろうとしている。

 そして、ネギくんが杖から『魔法の射手(サギタ・マギカ)』を放った。連弾・光の11矢。それは、魔法障壁を張っていない茶々丸さんを傷付けるのには十分なもの。

 それを防ぐため、私は茶々丸さんの方へと駆けだしながら、引き出しておいたゲームの力を発揮する。

 

「攻撃力ゼロで、『デモニックバカンス』!」

 

 すると、茶々丸さんに向かっていた『魔法の射手』が直角に曲がり、私の方に全て引きつけられていく。

 

「わー! 戻れー!」

 

 ネギくんが必死に魔法の制御を取り戻そうとするが、無駄だ。

『魔法の射手』が、私の展開した魔法障壁に衝突。障壁を揺るがすこともなく、魔法は消え去った。

 

「ふふふ、『デモニックバカンス』は、敵の全ての遠距離攻撃を私に引きつけるスキルです。もはや、いかなる魔法も茶々丸さんには届きませんよ」

 

 ただし、爆風のある魔法を使われたら、茶々丸さんも巻き込まれるけど。

 

「な、なな……」

 

 ん? 神楽坂さんが何やらプルプルと震えているぞ。

 

「なんで水着になってるのよー! リンネちゃーん!?」

 

「あ、そうでした。とっさのことで、衣装もセットで呼び出してしまいました」

 

 私は、ゲームの力の割合を下げ、水着を消して麻帆良中の制服姿に戻る。

 

「服が戻った……リンネちゃん、どういう仕組み?」

 

「明日菜の姐さん! あれはきっと仮契約だ! あいつはおそらくエヴァンジェリンのパートナーなんだ! 仮契約していると衣服を一瞬で着替えられるし、アーティファクトだってあるんだ!」

 

 おっと、解説役のカモさんだね。ネギくんがイギリスで世話していたというマスコット枠のオコジョ妖精だ。

 海を渡って、ネギくんのもとに訪ねてきていたんだね。頑張るなぁ。

 

「じゃあ、リンネちゃんがネギの魔法を吸い寄せたのも……!」

 

「ああ、きっとアーティファクトの力だ!」

 

 んんー、それは違うんだよなぁ。

 

「残念ながら、『デモニックバカンス』は、アーティファクトではないですよ。私が持つ数ある特殊能力の一つです」

 

「な、なんだって!? はっ、確かに、あの女からは仮契約の力を感じねえ!」

 

「はい、私、仮契約は誰ともしたことがありませんから。エヴァンジェリン先生は、あくまで魔法の教師役です。でも、茶々丸さんのことは先生から任されたので、守りますね」

 

「くっ、いや、魔法を引きつけるっていっても、消し去っているわけじゃねえ! 兄貴! もっと強い魔法で押し切るんだ!」

 

 そうカモさんが言うが、ネギくんはいつの間にか杖を下に向けていた。

 

「カモくん、やっぱりやめよう。闇討ちとか、よくないよ」

 

「兄貴!? 闇討ちは向こうだって何度もやってきているんだ! 俺っち達が躊躇(ちゅうちょ)する理由はねえ!」

 

「ううん。エヴァンジェリンさんと一度話し合って、正々堂々の果たし合いで済ますよう、頼み込もうよ」

 

「兄貴……」

 

「ネギ先生! よく言いましたわ!」

 

 と、ネギ先生の横に、いつの間にか起き上がったのか雪広さんが立ち、ネギ先生の腕をそっと握っていた。

 うん、闇討ちはこれで終わりかな?

 

「エヴァンジェリンさんとの交渉は、任せてくださいまし! 私のパクティオーカードの力があれば、いつでもすぐにでも面会は可能ですわ!」

 

 あー、そういえば、雪広さんのパクティオーカードって、アーティファクトじゃなくてカードそのものに能力がついているんだっけ。大企業の会長だろうが、大国の大統領だろうが、どんな人物にでもアポなしで面会できるという、物凄い効果のが。

 

 やがて、ネギくん達は茶々丸さんに、後で家に会いにいくと告げて、人払いの魔法を解除して公園を去っていった。

 いや、茶々丸さんにアポ取るなら雪広さんのカードの意味ないな!?

 

「と、なんとかなりましたね、茶々丸さん」

 

「はい。リンネさん、ありがとうございました」

 

「いいのいいの」

 

 徳が積まれただろうしね!

 

「それじゃあ、帰りましょうか」

 

 私は、茶々丸さんに怪我がないか、というかフレームに歪みがないか確認してから、そう話を切り出した。

 

「はい、あの……」

 

「ん? なーに?」

 

「歩きながら、先ほどの保護猫団体のお話をうかがってよろしいでしょうか?」

 

「うん、いいよ。それじゃあ、活動写真がスマホに入っていますから、それを見ながら話しましょうか」

 

「いいのでしょうか? 歩きながら携帯端末を見て」

 

「あ、歩きスマホはよくないですね。じゃあ、家であらためて見せますよ」

 

 ふふふ、近づいてきている気がするな。ガチャに必要なポイントが!

 このまま徳を積んで、今度こそ私のスマホに招いてみせるんだ。待っていてよ、『冥界の魔術師ヘカティエ』!

 

 その強力な能力、我が物にしてみせる!

 


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