【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■90 クリスマスイヴ

◆222 スマホ宇宙のコラボキャラ達

 

 時間は飛び、二学期の終業式を迎えた。

 十月から十二月の間にも、ネギま部は活動をちゃんと続けている。『Minecraft』の能力で異世界『ネザー』に飛び、そこにある要塞をいくつか攻略してきたのだ。

 

 ちなみに『Minecraft』のラスボス『エンダードラゴン』がいる『エンド』にも『ドコデモゲート』で飛べることが分かったので、いずれ『エンド』にも遠征して、ネギくんの竜の因子を増やすために『エンダードラゴン』を倒す予定だ。

 

 そんなわけで、十二月二十四日水曜日、勉学の日々は一旦の終わりを告げ、冬休みへと突入した。

 恒例となったカラオケ会に参加し、その後二次会で夕食を取りにどこかの店へと向かわないかとなったところで、私は用事があると言って場を抜け出そうとした。すると……。

 

「おおっ!? もしやリンネちゃん、彼氏とクリスマスデートかな?」

 

 目ざとく私を見つけた椎名さんが、そんなことを言い出した。

 

「いえ、違いますよ。私的な知り合い達と洋食屋でクリスマス会です」

 

 私がそう言うと、釘宮さんが食いついてくる。

 

「なになに? 男とかいるの?」

 

「いますよ。女の子みたいな男の子と、男の子みたいな女の子がそれぞれいますよ」

 

「あはは、何それ」

 

 いやー、本当本当。今日呼ぶのは、ちょっと色物集団だからね。

 

「まー、格好良い大人の男じゃないならいいや」

 

 釘宮さんがそう言って、話を打ち切った。

 あれ、そういえば仲良しチアリーディング部の三人組には一人足りないな。

 

「柿崎さんは?」

 

「それこそ、彼氏とクリスマスデートに行ったよー」

 

 椎名さんが、苦笑いしながらそう言った。ああ、そうか。三人の中で、柿崎さんだけが彼氏持ちなわけね。

 この日ばかりは、仲良し三人組の友情にも亀裂が入りそうだね。嫉妬マスクレディ化しないよう祈っておこう。

 

 というわけで、3年A組の集まりから抜け出し、私はスマホから人を呼び出した。今日は、オラクル船団に所属する地球人達と食事会をすることになっている。

 

 まずは『ヒツギ』さんと『コオリ』さんと、それに付いてきた『アル』くんだ。

 だが、オラクル船団にいる地球人はそれだけじゃない。『PSO2es』とコラボしていた『ファンタシースターオンライン2 ジ アニメーション』というテレビアニメの元地球人達も集団でやってきて、久しぶりの地球の風景をキョロキョロと見回している。

 いやー、麻帆良って洋風の建物多いから、あまり日本に帰って来たって感覚なくてごめんね。

 そして、さらに他の元地球人も呼ぶ。結構、オラクル船団には元地球人が多いのだ。

 

 彼らと連れ立って、私は予約していた洋食屋へと入った。

 奥の席へと案内され、頼んでいたクリスマス宴会コースの料理を運んでもらう。

 

「では、皆さん、久方ぶりの日本の洋食、楽しんでください」

 

 私は短くそう挨拶をし、イヴの夜のクリスマス会を開始した。

 

 円形の大皿に盛られたオードブルを食べながら、私は同じテーブル席に座った人達を眺める。

 それは、『ぷそ煮コミ』という『PSO2』の公式WEB漫画に登場するキャラクターのうち三人、『みたらし』、『テトラ』、『§イチカ§』だ。他の煮コミメンバーはまた別の席に着いている。

 

「いやー、久しぶりの日本だよ。感慨深いねー」

 

 黄緑の髪をした少女、みたらしさんが深呼吸しながら言う。

 さらにその隣に立つ赤髪の少女……に見える少年のテトラくんがつぶやく。

 

「二〇〇三年とか、俺、まだこんくらいの頃ですよ」

 

 テトラくんが、テーブルの真上で手の平を下に向けながら高さを示した。

 それを見た紫髪の少年……に見える少女のイチカさんがさらに言う。

 

「二〇〇三年は私、生まれてないですね」

 

「みたらしさんは初代『PSO』プレイヤーだから、普通にその時点で大人でしたよね?」

 

 テトラくんの言葉を受けたみたらしさんが、テトラくんをにらむ。

 

「いや、たしかにぷそはやってたけど、大人と言うほど歳は取ってなかったよ?」

 

「えー、どうですかねー? 前、ネギまを現役で読んでたとか言ってたしなぁ」

 

「ネギまは連載期間長いんですぅー」

 

 と、大変メタな会話をしているが……彼女達は、『PSO2』の作中に出てくる二〇二八年の地球出身、ではない。

 公式WEB漫画の彼女達は、ごく普通にリアルの『PSO2』をプレイする一般人達という設定で描かれていた。

 なので、彼女達のいた地球は、私が存在した地球にひどく似通っている。具体的には『PSO2』があって、『PSO2es』があって『PSO2 ジ アニメーション』が放送されて、『fateシリーズ』があって、『魔法先生ネギま!』がかつて連載されていたらしい。

 唯一違うのは、彼女達の地球では『ぷそ煮コミ』が連載されていないということだ。あ、『ハリー・ポッター』は存在しなくて『バニーポッターと不死鳥のおじさん』という映画があるって言っていたな。

 

 そんな彼女達だが、身体は地球人ではなくアークスとしてのもの。『PSO2es』で、アークス姿で実装されていたからだね。彼女達はゲーム上のいわゆるコラボキャラなのだ。

 だが、並行世界の地球からスマホの宇宙にやってきてアークスとなったことで、一つ問題が起きた。『テトラ』は女性キャラで、中の人は男子大学生。『§イチカ§』は男性キャラで、中の人は女子中学生。ガワと中の人の性別が違ったのだ。

 

 プレイしていたゲームの異性キャラで異世界転移。ワクワクドキドキのTSFの開幕だ!

 ……と思われたが、問題は即座に解決された。エステで性別を中の人に合わせたのだ。

 なので、テトラくんは男の娘もどきになって、イチカさんはヅカの男役みたいになった。

 

「お二方、ネギまの話題は現世ではNGですよ」

 

 三人の会話に私はそう言って割って入る。

 さすがにこの場で『魔法先生ネギま!』の話を大声でされるわけにはいかない。

 

「おおっと、そうだった。聖地巡礼とか言ってる場合じゃない」

 

 みたらしさんが、そう言って口に手を当てる。

 テトラくんも、軽率でしたと言って謝ってくる。うん、分かったならよろしい。

 

「あの、オーナー。料理追加で頼んでいいですか?」

 

 と、イチカさんが私に尋ねてくる。

 

「いいですよ。懐かしの料理が食べたかったら、追加でいくらでもどうぞ」

 

 軍資金はたっぷり用意してきたから、今日はみんなにお腹いっぱい食べていってもらおう。

 

「やった。じゃあ、ナポリタン頼みますね。アークスシップで食べられるパスタは微妙に馴染みのない味ばっかりだったんです」

 

「あー、完全に異文化ですからねぇ、オラクル船団と地球って」

 

 私がそう言うと、みたらしさんがエビフライを食べながら考え込み、口の中の物を飲みこんでから言った。

 

「ギャザリング料理って地球料理っぽいラインナップだから、料理文化も地球料理ベースだと思っていたんだけどね。微妙に違ったよ」

 

 ああ、『PSO2』って、ギャザリングというシステムで採掘と釣りができて、それで食材を集めるんだよね。それを使って料理を作るのだけど、確かに完成する料理は馴染みのある地球料理に似たものばかりだったはずだ。

 でも、いざ現実化してみると、独自の料理文化が発展していたと。

 

「この前エルジマルトに行きましたけど、そっちはもう地球料理の名残は完全になかったですよ」

 

 テトラくんが、ドリンクを飲みつつそう言った。ちなみに酒は今回のクリスマス会では禁止している。

 

「それを考えると、オラクル船団は地球料理らしきものが出てくるだけマシなんでしょうか。でも、今日は私、ナポリタン食べますよ」

 

 どうぞどうぞ。イチカさん以外にも追加料理欲しい人がいたらどんどんどうぞ。『ねこねこ動画』でがっぽり儲けているから。

 

「ちなみに、地球料理を作れる人は、そちらの元地球組メンバーにいないんですか?」

 

 私がそう尋ねると、三人は一斉に別のテーブルでアニメ組とにこやかに話している少年を見た。

 

「牧野さんが、めちゃくちゃ料理上手ですね」

 

 テトラくんが、代表してそう答えた。

 ああ、そういえばそうか。あの少年、『牧野』くんの正体は……。

 

「マキちゃんの()()は、料理上手なお婆ちゃんだったらしいからねー」

 

 みたらしさんがそう言うと、牧野くんは自分が話題にされていることに気づいたのか、こちらを向いてニコッと笑った。

 

「ドルチェさんが実のお孫さんだったって聞いて、私すごく驚きましたよ。いや、確かに()()の頃に孫が居るとは聞いてはいたんですが、まさか本当とは」

 

 イチカさんがそう言って、牧野くんの隣に座るキャストの女性、『ドルチェ』さんを見る。

 うん、このあたりの背景は漫画『ぷそ煮コミ』を読んでいたら分かることなのだが、登場人物の視点ではプライバシーの関係もあってお互いのリアルを秘密にしていたはずだ。PCの姿で別宇宙に複製されるなんて珍事がなければ、リアルの詳細は一生不明のままだったはず。

 まあ、みたらしさんは、男性キャストの『ゼクト』さんとリアルで会ったことがあるみたいだけど。

 

「『PSO2』やってたころは私、マキちゃんとドルチェさんって同棲してるんだと思ってた」

 

 みたらしさんが、牧野くんとその隣を見ながらそんなことを言う。

 あー、確かに『ぷそ煮コミ』の作中では、みたらしさんは明らかに同じタイミングで離席する二人を目撃していたね。

 

「俺も恋人か何かだと思っていました。それがまさか、同居している祖母と孫とは」

 

「私は仲がいい二人だなぁとは思っていましたが……」

 

 テトラくんとイチカさんが、それぞれそんなコメントをする。

 そして、さらにテトラくんが言う。

 

「でも、まさか牧野さんが元々の性別無視して、男の身体を選ぶとは思ってもいませんでした……」

 

 すると、それを聞いていたのか牧野くんがこちらに向けて言う。

 

「女としてはもう十分生きましたからー」

 

 いや、そんな飽きたので性別変えました、なんて言われてもね……。エステで性別が変えられるって、性の境界があやふやになりそうですごいね。

 

「んふふ、テトラさんも女の子の世界に来てくれていいんですよ……」

 

 と、私達のテーブルに席を移してきた者が一人。『猫ノ宮♪』さんだ。

 

「いやいや、俺は男でいいですよ」

 

「えー、私、久しぶりにテトラさんの『ガルストライカー』姿、見たいなぁ……」

 

「勘弁してください……ネカマやっていたの黒歴史なんですから……」

 

 この猫ノ宮さんも、『ぷそ煮コミ』の登場キャラクターの一人だ。

 自称ネカマのおじさんだが、『ぷそ煮コミ』の作中では最後までリアルの姿が明かされなかった。

 こうしてリアルでアークスになっても、女性の姿のままで居続けているあたり、おじさん説はだいぶ怪しいところがあるが、真実は明らかではない。本人曰く、真実は前世に捨ててきた、だそうだ。

 もし本人が『ぷそ煮コミ』で言っていた通り元おじさんだったとしたら、男を捨てきれなかったテトラくんとはレベルが違うな……。

 

 そう言えば、『ぷそ煮コミ』の男性キャラと言えば、もう一人ゼクトさんが居るのだが……。ゼクトさんは、向こうの席でヒツギさんと一緒にアルくんを構っているな。

 いつものメカパーツではなく人の外観に換装していて、見た目にはメカ種族であるキャストだとは分からない。

 

 ゼクトさんは『ぷそ煮コミ』作中で幼い息子を持つパパだと判明していたが、こんな世界に連れてこられて辛くはないのかと以前『LINE』で尋ねたことがある。

 すると、自分はあくまでこの宇宙に複製された存在なので、息子の心配はしていないと返ってきた。妻や息子を懐かしむことはあるが、不思議と望郷の念に駆られることはないらしい。

 この辺は、神様が上手く調整してくれているのかなぁ、と思う。コラボガチャの影響で、全く関係ない作品から出張してきているキャラクターって、いっぱいいるからね。

『ぷそ煮コミ』のキャラクターがこの場にいるのも、『PSO2es』が『ぷそ煮コミ』とコラボしている時にキャラクターを入手できたからだ。

 

「久しぶりに、テトラさんと百合百合なえちえちスクリーンショット撮りたいなぁ……」

 

「おっ、いいこと言うじゃん。テトちゃんの『ガルストライカー』着た姿、私も見たいなー」

 

 と、ゼクトさんの方を見ていたら、猫ノ宮さんとみたらしさんがテトラくんにせまっていた。

 テトラくんは「本気で勘弁してください」と平謝りするばかりで、それをイチカさんが「黒歴史、分かる……」と同情した目で見つめた。

 いやー、テトラくん、女子に囲まれてチヤホヤされて、微妙にハーレムしているな。

 

 という感じで盛り上がっていると、ふと身体の奥底が震える感覚が。スマホの着信だ。

 私はスマホを手元に呼び出し、画面を見る。ふむ。鳴滝姉妹の姉の方、風香さんだ。

 

「はい、もしもし」

 

『りんりんー。ちょっと助言をお願いしたいんだけど』

 

「なんでしょうか」

 

『動画の撮影していたら、魔法の国の人が自分も映りたいとか言ってきたんだけど、どうしよう』

 

 おおう、また面白いことになっているな。

 今、麻帆良には魔法世界(ムンドゥス・マギクス)の各地にある国から、親善大使が大勢訪れている。風香さんが会ったのも、おそらくその使節団の関係者だろう。

 

「魔法のことを秘密にしてもらうよう頼んで、出演させるのは?」

 

『それがその人……二人なんだけどさ、頭にケモミミと角が生えてんの!』

 

「あー、亜人の人ですか」

 

『イノセントブルー』の技術はすっかり行き渡り、亜人の裕福層の間では、旧世界、すなわち地球への観光がブームになっているとか。

 おかげで、私のゲートのアルバイトも未だに終わる様子を見せないんだよね。

 

「幻術で誤魔化すのは?」

 

『……えーと、幻術は得意じゃないって』

 

「ええっ……ケモミミとか角を普段から堂々と見せつけながら、麻帆良で行動しているんですか」

 

『……その通りだって』

 

 マジかよ。まあ、麻帆良ならケモミミコスプレ程度、軽く笑われるだけで後はスルーされるだろうけどさ! 小太郎くんとかもろにそれだし。

 

「とりあえず、近くに魔法が使えそうなクラスメートがいないか探して、ダメなら諦めましょう。私は夜までクリスマス会です」

 

『そっかぁ。じゃあ、今日は諦めてもらうよ。……えっ、ああ、りんりん、明日は大丈夫?』

 

「明日は一日大丈夫ですよ」

 

『じゃあ、明日撮影するから、幻術っていうやつ頼むな! じゃあね!』

 

 そう言って、風香さんは一方的に通話を切った。

 はー、なんなんだ。

 私はスマホを消して、ドリンクをあおった。

 すると、みたらしさんがニヤニヤと笑いながら言ってくる。

 

「なんだー? 明日はクリスマスデートか?」

 

「いえ、単なる動画撮影ですよ。『ねこねこ動画』の公式配信コンテンツ作りでしょうね」

 

「えー、華の女子中学生がクリスマスに動画撮影ってどうなのさ」

 

 みたらしさんがウザく絡んでくるが、そんな彼女にテトラくんが言う。

 

「みたらしさん、おっさん臭いですよ。それにみたらしさんだって、かつてクリスマスにぷそつーやってたじゃないですか」

 

「うっ!」

 

 テトラくんの言葉に、みたらしさんは胸を押さえる。

 それを見て、イチカさんと猫ノ宮さんは大笑い。本当に仲いいなー、この人達。

 

「まあ、私はいいんですよ。それよりも、皆さんは恋人とかどうなんですか?」

 

 私がそう言うと、猫ノ宮さん以外の三人の肩がビクンと跳ねた。

 おやおや? これは……今夜はちょっと面白くなりそうだね。夜は長い。じっくり話を聞かせてもらおうか。

 


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