【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■92 冬休み

◆224 楽しいロンドン

 

 二〇〇三年十二月三十一日。私達ネギま部は、イギリス旅行へと向かうべく、エヴァンジェリン邸の前に荷物を持って集まっていた。

 新年をロンドンで迎える。まさしくネギま部本来の名前、『異文化研究倶楽部』の活動として相応しい旅行である。

 

 引率には、ネギ先生。学外からの参加者として、小太郎くんと夏凜さんの姿もあった。

 

「それでは、皆さんパスポートはしっかり持ちましたね?」

 

 ネギま部部長として、私が代表して忘れ物がないか確認する。

 今回のイギリス行きは『ドコデモゲート』を使って移動時間を短縮するが、密入国するわけにもいかないため、ちゃんと関東魔法協会に観光ビザを発行してもらっている。イギリスの魔法協会にもそれをチェックしてもらう必要があるため、パスポートは必須である。

 

 忘れ物がないかのチェックをしたところで、私はスマホを取り出して『ドコデモゲート』を使う。

 向かう先は、ロンドンにある魔法使いの拠点だ。

 ネギくんを先頭にしてゲートに入ってもらい、私は最後尾で荷物の置き忘れがないかチェックしながらゲートをくぐる。

 そして、ゲートの先では……夏休み以来の再会となるアーニャが、ネギくんに抱きついていた。あらあら大胆なこと。

 

 私達は幼馴染みのイチャイチャを横目で眺めつつ、現地の魔法使いによる入国審査を受けた。

 魔法が世間に公開されたら、転移魔法を使った渡航にもルールが制定されて、こうやってひっそり入国をすることも難しくなるんだろうなぁ。

 

 さて、今日の予定だが、ロンドン観光をした後に、ホテルで開催されるニューイヤーカウントダウンへ参加予定だ。

 ウチの両親にはたまには実家に帰ってこいと言われているが、実家でのんびりするよりもイギリスの方が面白そうなのでこちらを選んだ。他のネギま部部員も同じ感じだろう。まさか、全員参加になるとは思っていなかったが。

 

「じゃあ、ネギ、私がロンドンを案内するわよ! もうロンドンは私の庭みたいなものなんだから!」

 

 と、アーニャがネギくんを連れて、ロンドン市街に向かおうとする。

 

「ネギくん。デートもいいですが、先にホテルにチェックインして荷物を置いていきましょう」

 

「あ、はい。アーニャ、そういうことだから、案内はちょっと待ってね」

 

「ちょっとリンネ! デートじゃないわよ! ロンドン在住者として、案内するだけよ!」

 

 アーニャが顔を真っ赤にして、私に文句をつけてくる。

 ほうほう。それはつまり。

 

「ネギくんだけでなく、私達も一緒に案内してくれるってことでいいですか?」

 

「んなっ! それは……」

 

「それはー?」

 

「いいわよ! 案内してあげるわよ!」

 

 おおっと、恥ずかしがってデート成立せずだ。まあ、私としてもロンドンは詳しくないので、地元で占い師として親しまれているアーニャが案内してくれるなら、ありがたいけど。

 

 そして、私達はホテルにチェックインし、荷物を置いた後、身軽になってロンドン市街に繰り出した。

 

「で、どこに行きたいの?」

 

 ふてくされた様子で、アーニャが言う。

 それに対し、『異文化研究倶楽部』の部長である私が代表して答える。

 

「ブルームスベリーの博物館に」

 

「ああ、あそこね。確かに、観光ならあそこ以上の場所はないわね」

 

 アーニャがさりげなくネギくんの手を取りながら、私達を地下鉄に案内する。

 向かう先は、トッテナム・コート・ロード駅。駅についてから五分ほど歩き、目的の博物館に到着する。

 

 異文化研究という名目を掲げるには、これ以上の場所はないだろう。世界中から秘宝を集めたという、世界最大の博物館だ。なお、どうやって集めたかは、今回は言及しないこととする。純粋に観光しに来ただけだからね。

 

 古代ギリシャの神殿を思わせるその独特な外観をスマホで写真に撮り、入場する。入場料は無料だ。

 

 通い慣れているのだろうか、アーニャの先導に従って、私達はエジプト展示室へと向かった。

 

「これが世界一有名な石板、ロゼッタストーンね」

 

 ガラスケースの前で、アーニャが足を止める。そこにあったのは、人の背丈ほどもある巨大な石板だ。

 

「エジプトのロゼッタで発見された石板ですね。紀元前一九六年にファラオが出した勅令を刻んだもので、当時使われていた三種類の文字で記載されているです」

 

 我らが解説役、夕映さんが目を輝かせて説明を入れてくれる。

 

「使われている文字は、古代エジプトの神聖文字ヒエログリフ、大衆用の文字デモティック、それとギリシャ文字です。この石板をフランスの考古学者シャンポリオンが解読し、ヒエログリフの謎が解き明かされたとされているです」

 

「神聖文字ですかー。魔法に使われていそうですねー」

 

 魔法には全く詳しくない相坂さんが、夕映さんの解説を聞いてそんな感想を述べる。

 すると、キティちゃんが言う。

 

「もちろん、エジプトの現地では日本の関西呪術協会のような組織があって、独自の術を古代から伝えているぞ」

 

「ということは、このロゼッタストーンにも魔法的ないわれが何かあるのかしら?」

 

 水無瀬さんがそんなことを問うが、アーニャが「ないない」と否定の言葉を発した。

 

「一般人が訪れる博物館に、魔法の品なんて一品も置いていないわよ。そういうのは、事前に魔法協会がチェックして、別の場所で保管しているわ」

 

 アーニャの説明に、何名かが残念そうな顔をする。

 魔法の品が含まれていないのは、ロマンがないと感じたのだろう。

 

「でも、魔法の一般公開が控えているから、博物館でも特別に魔法展を開こうって流れになっているらしいわね。私はまだ見習いだから、詳しくは聞いていないんだけれど」

 

 なるほど。この博物館は公立の機関だから、国際的な魔法公開の動きに応じられるのか。

 魔法の公表は来年の四月に調整されているので、それに合わせて展示が行なわれるのだろうね。ちょっと興味があるので、ゴールデンウィークにでも一人で来てみようかな。

 

 そして、その後も私達は博物館を巡り、様々な秘宝を目にしていった。

 

「この粘土板は『ギルガメッシュ叙事詩』という古代メソポタミアの都市ウルクの王の物語を刻んだものです。ここに記されているのはその物語のうち、古代メソポタミアの神々が洪水で人類を滅ぼす過程についてです。洪水と聞いて、旧約聖書に描かれているノアの箱舟の逸話を思い出す人も多いでしょう。こういった大洪水の逸話は世界中の神話で共通して見られるテーマであり、その中でも特に古い『ギルガメッシュ叙事詩』が各国の神話に影響を与えた可能性も――」

 

 夕映さんの解説を聞きながら、小さな粘土板をガラス越しに見る。

 ふうむ。ギルガメッシュ王か。サーヴァントに複数名のギルガメッシュ王がいるが、私、誰とも会ったことないんだよね。なにやらスマホ内の宇宙で事業を起こして、巨大なテーマパークを有するスペースコロニーを建造したとか聞いているけど。

 

 そして、有料展示も見てさらには別の博物館にも向かい、恐竜の化石を見て回った。

 すると、ネギくんがめちゃくちゃテンションを上げて、アーニャを呆れさせていた。ネギくん、恐竜好きか……。

 

「次はどこへ行くの?」

 

 アーニャにそう問われ、私は次に観光予定だった『ベイカー街221B』を彼女に告げる。

 

「あら、もしかしてあなた達の中にシャーロキアンでもいるの?」

 

「まあ、本好きは何人かいますが、シャーロキアンというほどではないですよ。ちょっと知り合いにシャーロック・ホームズさんがいるので、写真を撮って送ってあげようと思いまして」

 

「アハハ、名探偵にちなんで名付けられたのね、その人」

 

 いや、シャーロック・ホームズご本人様です。サーヴァントになぜかいるんだよなぁ。しかも現カルデアの幹部。

 最初の不機嫌さはどこへ行ったのやら、アーニャは私達を連れてベイカーストリート駅へと向かった。

 

 ベイカーストリート駅では、シャーロック・ホームズにちなんだ装飾がなされていて、私達ネギま部は一斉にそれを写真に撮った。

 それから、シャーロック・ホームズの住処とされる建物も外から写真に撮り、私は『LINE』でシャーロック・ホームズに送った。

 

『すっかり観光名所扱いだな。でも、その建物は私が住んでいたものとは違うよ』

 

 そうご本人様から返ってきた。すると、のどかさんが建物の前で説明を入れてくれる。

 

「現実のベイカー街は元々221までは番地がなかったそうです。その後、街の合併で番地が増え、当時建っていたこの建物が221Bとなったそうです。また、この建物とは別のビルが博物館としてオープンして、作中で登場する階段があるそちらこそが221Bだとする動きもあるそうですー」

 

 なるほど、現実には存在しなかった『ベイカー街221B』の場所を主張し合っているわけか。博物館の方も写真に撮って送っておこう。

 それから私達は、ビートルズのお店に寄ったり、地下鉄に乗って方々の観光名所を見て回ったりした。クリスマスイルミネーションが未だに残っており、日本人の感覚とはだいぶ違う年末の風景を楽しむ。

 

「ミレニアム記念事業で四年前にできたばかりの世界一大きな観覧車、『ロンドン・アイ』よ。ほら、ネギ、一緒に乗るわよ」

 

 巨大な観覧車を前にして、アーニャがネギくんと二人っきりで観覧車に乗ろうとする。

 すぐさまあやかさんが阻止に向かおうとするが、それをさらに明日菜さんが阻止に入る。デートがなしに終わったので、観覧車くらいは二人っきりで乗らせてあげようという明日菜さんの配慮だろう。

 

 私もあやかさんを止め、明日菜さんと二人であやかさんの両脇を固めて、ネギくん以外のネギま部全員で観覧車に乗った。観覧車は巨大なカプセルに立って入るようになっており、同時に二十五人ほどまで搭乗できるらしい。

 なので、先に乗ったアーニャもネギくんと二人っきりというわけにはいかない。でも、私達が横に居ないだけでだいぶ雰囲気が違うだろう。

 

 観覧車は三十分ほどかけてゆっくりと一回転し、私達はロンドンの風景を存分に楽しんだ。

 そして、観覧車から降りると、アーニャは何やらネギくんと一緒に、現地人らしき人達に囲まれていた。

 

 何か問題でも起きたのだろうか、と思って近づいていくと、何やら和気あいあいとした雰囲気だ。

 

「まさかロンドン一の占い師にボーイフレンドがいたとはな!」

 

「だから、ネギとはそういうのじゃないって言っているでしょ! 幼馴染み!」

 

「ただの幼馴染みとわざわざ『ロンドン・アイ』に乗るかぁ?」

 

「ネギはロンドンに初めて来たから、観光よ!」

 

「つまり、デートか」

 

「違うってば。他にも一緒に観光しているんだから。あ、ほら、あそこにいるアジア人よ!」

 

 アーニャがこちらを指さしてきたので、私はアーニャに近づき、英語で言う。

 

「ネギくんとの二人っきりの一時はいかがでしたか?」

 

「んなっ!」

 

「がはは、やっぱりボーイフレンドじゃないか!」

 

 現地人達が盛り上がり、アーニャは顔を真っ赤にさせた。

 その後、ホテルに戻るまでアーニャはずっとぷりぷりと怒ったままだった。まあ、ネギくんの手をずっとにぎっていたけどね!

 

 

 

◆225 墓参り

 

 ホテルでニューイヤーカウントダウンを見届け、ロンドンの夜空に打ち上がる花火を見ながら夜遅くまで騒いだ翌日。

 みんな遅くに起きてきて、ぼんやりしながらロンドン市街に繰り出した。

 一月一日のこの日はパレードが行なわれており、私達はマーチングバンドが楽器を鳴らしながら行進していくさまを見送った。

 その後、今日も案内に来てくれたアーニャに連れられてコンサート会場へと向かい、オーケストラの演奏を楽しんだ。

 

 そして明くる日、一月二日。私達は現地の魔法協会に部屋を借りて、『ドコデモゲート』でロンドンから移動する。

 向かう先は、ネギくんの親戚であるスタンさんが住む辺境の村。

 アーニャも連れてスタンさんの家を訪ねる。「おう、来たか」と軽い感じでネギくんを迎えたスタンさんは、私達を村の共同墓地へと案内した。

 

 十字架が掲げられた洋風の墓石が並ぶ墓地。

 そこで歩きながら、スタンさんが言う。

 

「命日でもないのに墓参りと聞いてちと驚いたよ。なんでも、お前さん達の国では、墓に死者の霊が眠るとか考えるらしいな」

 

 ああ、これは、日本とイギリスの宗教観の違いだね。私はスタンさんに説明を入れる。

 

「日本でも、英国における天国と同じように、死後の世界の概念はあります。それとは別に、死者の遺骨や墓には霊的な何かがあるとも考えるのですよ。なので、墓前で祈れば、死んだ人に思いが届くと考えるのです」

 

「なるほどな。だからアリカのことを知らねえネギがわざわざ来たってわけか。こっちじゃ、墓地は故人をしのぶ、生者のための施設じゃよ」

 

 そういえば、『シムシティ』とかの都市開発ゲームでは、住宅地の近くに墓地があると住民の幸福度が上がっていたけど、あれって西洋人の感覚ではどうなんだろう。

 ちなみに現代のイギリスでは火葬が割と一般的で、『スリラー』のMVのようにお墓からゾンビが這い出してくるイメージはないようだ。

 

 そんな日英の違いを話しながら墓地を進み、スタンさんは十字架がかたどられていない四角い墓石の前で足を止める。

 その墓石にはただアリカとだけ名が彫られていた。

 

「さすがに、フルネームを刻むわけにはいかなかった。今は汚名がそそがれたらしいが、当時のアリカの扱いは災厄の女王じゃったからな。他の魔法使い達にバレないよう、名前だけ刻んだ」

 

「ここに、母さんが……」

 

 スタンさんが普段から綺麗に掃除しているのだろう。墓石は汚れ一つなく、陽光を浴びて白く輝いていた。

 その墓前に、ネギくんが用意していた白い花束を捧げる。

 そして、私達ネギま部一同は、墓前で黙祷した。

 

 アリカ様、あなたの故郷の魔法世界(ムンドゥス・マギクス)は、私に任せてくださいな。魔力を満たしてみせるので、どうか見守っていてほしい。そう祈りを捧げて、私は目を開けた。

 他の面々も黙祷を終え、じっと目をつぶり続けるネギくんが祈り終わるのを待つ。

 やがて、ネギくんはそっとまぶたを開いて、言った。

 

「皆さん、お待たせしました」

 

「いえ、今日はネギくんのためのお墓参りですからね。気が済むまで祈っていていいのですよ」

 

 私がそう告げると、ネギくんは「もう大丈夫です」と答える。

 すると、水無瀬さんがポツリとつぶやいた。

 

「私にもっと力があれば、冥界と相互通信でもできたのだろうけれど……」

 

 それを聞いていたスタンさんが、笑って答える。

 

「アリカは魔法世界出身じゃからな。こちらの世界の天国に素直にいくかねえ? そうなると、行き場所に困ってさまよっていたりしてな」

 

 すると、ネギくんが相坂さんに目を向けてから言う。

 

「化けて出たという話がないなら、もしかしたら、東洋的な『輪廻転生』なんかをしているかもしれません」

 

 その言葉に、ちう様とキティちゃんがこちらを横目で見てきた。

 はい、前世の記憶を持つ転生者は私です。

 

 しかし、魔法的には霊魂や霊体の存在証明がされているこの世界だが、死者の霊ははたしてどこに向かうんだろうね。

 数十年地縛霊をやっていた相坂さんのもとには死神はやってこなかったようだし、死後の世界はあるのかどうか。夏凜さんがダーナ様に送られた天界はあるっぽいけど。

 まあ、この国の墓所は生者が故人をしのぶ場所なのだし、ネギくんの心が晴れたならそれでいいか。

 

 そうして墓参りは終わり、スタンさんとしばらく談笑をしてから、私達はロンドンへと戻った。

 それから一月三日は、メルディアナ魔法学校のある街へと行きネカネさんと再会してから、私達は一月四日に日本へと戻った。

 

 冬休みももうすぐで終わる。三学期もわずか二ヶ月半しかなく、すぐに卒業のシーズンに入るだろう。

 エスカレーター式の麻帆良学園中等部生にとって、卒業式は他の生徒との別れの儀式ではないが……ネギくんと同じ学び舎で過ごせる時間は、もうあまり残されていない。

 


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