【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■93 さらば3年A組

◆226 卒業式

 

「麻帆良中学校3年A組。出席番号1番相坂さよ」

 

「はいっ!」

 

 巨大な体育館の中で、相坂さんの名が呼ばれる。相坂さんは元気に返事をし、その両の足でパイプ椅子から立ち上がった。

 今日は、麻帆良学園女子中等部の卒業式。全校生徒を一堂に集めての大行事だ。現在、卒業証書を学園長先生から一人一人手渡すために、ネギくんが最初の生徒である相坂さんを呼んだところだ。

 

 相坂さんが壇上に上がり、学園長先生から卒業証書を受け取る。無事に卒業証書が渡り、学園長先生は白いひげをたくわえた口を動かし、笑みを浮かべた。

 相坂さんは、六十年近く麻帆良の地で地縛霊をしていた。ずっと学校の教室に縛られて、ひとりぼっちの学生生活を続けていた。

 それが、ようやく卒業の日を迎えられた。

 彼女が幽霊である事実は、魔法関係者達に知れ渡っている。しかし、今の相坂さんは正式な麻帆良の生徒として卒業証書を与えられるくらいには、皆に一人の人間として存在を認められていた。

 

 私が作らせた人形の身体を持つため、自由に未来を決めてもらうのは難しいが、将来は私のもとで人として働いてもらうつもりである。

 

「出席番号2番明石裕奈」

 

 相坂さんが下がり、明石さんが呼ばれる。明石さんは亡くなった母親のように魔法使いのエージェントになりたいと言いだし、ネギま部への入部を希望してきた。

 だが、ネギま部は魔法を練習する部ではなく、ネギくんの父親を救い出すための部。趣旨が違うと断り、来年度の魔法公開以後に、女子高等部で魔法部を作ることを約束して引き下がってもらった。

 

「出席番号3番朝倉和美」

 

 朝倉さんか。すっかり公式配信者が板に付いて、報道部としての活動は鳴りをひそめた。

 将来的にも『ねこねこ動画』の広報室長を引き続き勤めたいと言っており、彼女は私が与えた影響で大きく未来を変えた人物の一人として数えられるだろう。

 

「出席番号4番綾瀬夕映」

 

「はいっ」

 

「出席番号5番和泉亜子」

 

「はい!」

 

 亜子さん。彼女を連れてアークスシップに向かったが、エステで無事に背中の傷痕を消すことができた。

 その後、彼女はオラクル船団の医療技術に強い関心を持つようになった。なので、将来的にオラクル船団の技術を地球に伝える役目を負ってみないかと、和泉さんへ誘いをかけたら、興味あると答えてくれた。

 ならばと、まずは地球で医者を目指してみてほしいと告げ、それにかかる学費は私が事業で稼いだお金から出すといったら、和泉さんは本気で医者を目指す気になってくれた。

 いずれはエステ技術を地球の医療現場へ。そんな意気込みを私に語ってくれた。うん、頼もしいね。

 

 その後、順番に名前が呼ばれていき、出席番号は8番まで進む。

 

「出席番号8番神楽坂明日菜」

 

「はいっ」

 

 明日菜さんも、未来が大きく変わったうちの一人だ。なにせ、火星のための人柱にならなくて済んだのだから。

 将来的には魔法世界に渡って、亡国の姫としてできることをしたいとは言っていたが……それよりも、まずはあれだ。麻帆良祭のときに私がしたアドバイスを彼女は覚えていて、卒業式が終わったら高畑先生に愛の告白をするらしい。思い切ったなぁ。

 

 明日菜さんが卒業証書を受け取り、春日さん、茶々丸さんと呼ばれていく。

 一人ずつの受け渡しだが、実はこの学校、3年生だけで全部で二十四クラスもあるので、ものすごく時間がかかる。

 その分、歌を歌ったりする行程がごっそり削られているのだが……正直、暇すぎて途中で寝ちゃいそうなので、最初に呼ばれるA組でよかったと思うね。

 

 それからも、次々とネギくんによりクラスメート達の名前が読み上げられていく。

 

「出席番号19番超鈴音」

 

「はい」

 

 と、私の隣に座る超さんが立ち上がった。

 未来から戻ってきた彼女はすっかりクラスに馴染み、葉加瀬さんと一緒に、子猫の科学者の放課後レッスンを毎日のように受けていた。

 フォトン技術にも触れ、未来でフォトン粒子を散布したいと超さんが言い出したのだが、それに関しては私から拒否させてもらった。

 

 フォトンは正しく使えばこれ以上ないエネルギー源だが、無茶な使い方をすると深遠なる闇やダークファルスといった『PSO2』における悪しき存在を生み出してしまう危険性がある。

 私やのどかさんが監視できない状態で、フォトンを運用されるのはそういった意味で危険なので、並行世界の未来の地球に帰る超さんには、フォトン粒子の発生手段と人工アカシックレコード技術は渡さないことにした。

 

 子猫は常温核融合技術とかも持っているし、最近では魔法と科学の融合技術にも詳しいから、そちらの方で我慢していただきたい。

 

「出席番号20番刻詠リンネ」

 

 おっと、私だ。

 

「はい」

 

 立ち上がり、ゆっくり歩き、壇上に進む。

 学園長先生の前に立ち、卒業証書を受け取ると、学園長先生がにっこりと笑った。私も、軽く笑みを返す。

 そして、壇上から降り、席へと戻り、パイプ椅子に座る。

 

 ……ふう、とうとう卒業かぁ。繰り上がりで高等部に入るけど、ネギくんと疎遠になると思うと、いろいろ考えないとね。

 これまでのように、女子寮に帰ってもネギくんが普通にいるなんてこともなくなるんだ。

 ネギくんは来年度も修行続行で麻帆良の中学教師を続けるから、女子寮の明日菜さん達の部屋を出て下宿に入ることが決まっている。下宿先の人次第では未成年のネギくんに門限を作る可能性もあるから、これまでのように気軽にエヴァンジェリン邸に泊まり込むというのも、難しくなるかもしれない。

 

「出席番号27番エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル」

 

 そのエヴァンジェリン邸の家主さんが呼ばれたね。

 十数年続いた彼女の中学生活も、これで終わりとなる。来年度からは私達と一緒に高校生だ。

 女子高生となるのだから、エステを使って見た目を成長させてはどうかと言ったことがあったのだが、キティちゃんはそれを拒否した。

 なんでも、ナギ・スプリングフィールドが復活した後にとっておきたいとのこと。エステで彼が好む年齢に合わせるのだそうだ。

 まったく、乙女だね。

 

「出席番号33番水無瀬小夜子」

 

「はい!」

 

 転校生ゆえに出席番号が最後になっている水無瀬さんが呼ばれ、卒業証書を受け取りに壇上へ上がる。

 ちなみに32番のザジさんは、ちゃんと返事をしていたよ。初めてザジさんの声を聞いたって人もいたんじゃないかな?

 

「以上、3年A組、33名」

 

 ネギくんがそう締めて、私達の卒業証書授与式は終わった。

 

 

 

◆227 告白

 

 卒業式を終え、その勢いのまま桜並木に3年A組一同が集まり、花見を行なう。

 今日は三月十五日と、開花日にはまだまだ早い日和だが、桜並木には満開の花が咲き誇っている。おそらく、卒業シーズンに合わせて魔法で開花させているのだろう。麻帆良の魔法使い達も粋なことするね。

 

 そんな花見の場で、先ほどから明日菜さんがそわそわキョロキョロと落ち着きがない。

 木乃香さんが、そんな明日菜さんに向けて言う。

 

「もー、明日菜。そんなに落ち着かんなら、さっさと行ってきい」

 

「い、いや、もし先に高畑先生が来ていて鉢合わせたら困るし……」

 

「早く告白できてラッキーやん」

 

「心の準備が!」

 

「どうせ時間になっても準備できひんやし、はよう行くでー。ほら!」

 

 おっと、明日菜さん、保護者の木乃香さん同伴で高畑先生に告白しに行ったぞ。

 周囲が「ヒューヒュー」とはやし立てている。まあ、女子校だから卒業生に告白しにくる生徒とか滅多にいないからね。なので教師への告白は、女子校での卒業式における数少ない見世物扱いだ。

 

 明日菜さんと木乃香さんを追って、何人か出歯亀しに行ったが……馬に蹴られてもしらないぞ。

 

 そして、桜並木の下で飲み食いしてしばらくクラスメート達と談笑していたら、明日菜さん達が帰ってきた。

 行きと違って、明日菜さんの周りをクラスメートが囲っており、明日菜さんはポロポロと涙を流していた。

 

「明日菜、フラれた!?」

 

 私の隣で会話していた朝倉さんが、そんなことを大声で言った。うん、昔のように取材と称して告白の場に行かなかったことは褒めてあげたいが、デリカシーがないのは変わらないね……。

 すると、明日菜さんの周囲の面々が口々に告白の様子を語り始めた。

 

 明日菜さんは、卒業して一人前の女になったこと、教師と生徒でなくなったことを高畑先生に伝え、「好きです。恋人になってください」とはっきり告げたそうだ。

 対する高畑先生の答えはと言うと。

 

「立派になったね、アスナ君。でも、ごめん。その気持ちには応えられない。だって! もー!」

 

 出歯亀していた柿崎さんが、高畑先生の真似をしてクラスメート達に告白の様子をバラしていった。これ、明日菜さんにとって追い打ちなんじゃあ……。

 

「ええっ、アスナの何がダメなんだろう。アスナって、魔法の国のお姫さまなんでしょ?」

 

 明日菜さんの後を追わなかった佐々木まき絵さんが、そんな疑問を口にする。

 それに対して、柿崎さんが答える。

 

「そこね! 私達で詳しく聞いてみたんだけど、どうにも高畑先生的には中三女子は若すぎるみたい!」

 

「えーっ、ダンディな見た目に合う感じの熟女が好きだとか?」

 

 佐々木さんがさらにそう問い返すと、今度は釘宮さんが答える。

 

「高校卒業したアスナならどうですかって聞いたら、動揺していたから脈ありだって感じたね」

 

 それを聞いて、クラスメート達が紛糾した。

 

「それって、高校卒業後にもう一回チャンスあるってことじゃん!」

 

「あっ、高畑先生、さりげなくアスナをキープしたな!」

 

「いやー、高畑先生って明日菜の保護者でしょ? 傷付けないように気を使ったとかは?」

 

「高畑先生としずな先生が一緒に居るところ前見たけど、恋人じゃないの?」

 

「それ詳しく!」

 

 わーわーぎゃーぎゃーと騒ぎ始め、泣き止んだ明日菜さんはそれを遠巻きにしながら、こちらに寄ってくる。

 

「はー、リンネちゃん。ダメだったわ」

 

「残念でしたね。人間って、自分を好きになってくれた人を好きになる傾向が強くて、意外と告白成功率って高いんですが……、高畑先生は自分の恋愛観をしっかり持っているようですね」

 

 告白成功率が低かったら、世の中では恋愛結婚がなかなか成立しないことになっちゃうからね。

 

「はあー……まあ、そういうところが好きなんだけど、上手くいかないわねー」

 

 そんな話をしていると、ネギくんがやってきて、明日菜さんに向けて言った。

 

「明日菜さん、残念でしたね。でも、ずっとあった失恋の相が消えましたよ」

 

「今消えても意味ないのよ……はー、それよりもネギ……あんたこそ、告白とかどうなの? いっぱいされたんじゃない?」

 

「えっ、はい。今は恋愛とかよく分からないので、断っていますが」

 

「あんた、好きな子とかいないの?」

 

「えー……多分、いない、のかなあ?」

 

「はっきりしないわね。まあ、はっきりしていたら、バレンタインはあんなことになっていないか……」

 

 ああ、バレンタインはすごかったね。私、紙袋に入りきらないバレンタインチョコとか、現実で初めて見たよ。校外からもいっぱい女子がやってきて、ネギくんに告白しにくるんだもん。どんだけモテているんだって感じだった。

 

「ネギくんはこれからですよ。思春期だってまだなんですから」

 

 私がそう言うと、明日菜さんも納得したのか、うんうんとうなずく。

 

「別荘を考えてもまだ十一歳か十二歳だものね。これからよねー」

 

「性の目覚めもまだでしょうね。もし目覚めていたら、女子寮なんかではとても生活できませんよ」

 

 私と明日菜さんがそう言葉を交わすと、ネギくんは顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。

 すると、何かを嗅ぎつけたのか、クラスメート達がこちらに注目して集まってきた。

 

「はいはい! 私、ネギ君に告白します!」

 

 佐々木さんが、そんなことを言ってネギくんに近づいてくる。

 すると、あやかさんが目をつり上げて叫ぶ。

 

「抜け駆けは許しませんわ! そこに順番に並んで一人ずつ!」

 

 いや、告白を順番に一人ずつって何さ。

 そんな陽気なクラスメート達の様子に、ネギくんは顔を上げて楽しそうに笑った。

 そして、桜の花びらがネギくんの顔に落ちてきて、彼の鼻をくすぐる。

 

「は……は……」

 

 や、やばい!

 

「明日菜さん!」

 

「んなっ!? フィールド全開!」

 

「ハックション!」

 

 ネギくんを中心にして魔力の暴走が巻き起こり、武装解除の風が吹き荒れた。

 だが、咄嗟に明日菜さんが展開した魔法無効化フィールドが、私達を丸裸にすることを防いだ。

 

 いやー、危ない危ない。みんなパクティオーカードがあるから、着替えはできるけど、せっかくの中学の制服を破壊されるのは、思い出的に痛かったからね。

 

 そして、ネギくんは明日菜さんに拳骨を食らい、しょんぼりとした状態でクラスメート達の告白を受けていった。

 ただ、クラスメート達はネギくんが愛とか恋とかまだ分かっていないことは百も承知なので、好きだと伝えるだけで恋人になってほしいということは言い出さなかった。

 

 だが、時には抜け駆けする者もいる。

 

「ネギ先生……」

 

「ネ、ネギ先生!」

 

 夕映さんとのどかさんが、並んでネギくんの前に立つ。

 

「その、のどかと二人で決めたですが……ネギ先生!」

 

「私とユエをネギ先生の正式なパートナーにしてください!」

 

「仮契約ではなく本契約を結ばせていただきたいのです!」

 

 そんな二人の告白に、ネギくんは驚いた顔をして、それから真面目な顔に切り替わった。

 

「ありがとうございます。夕映さん、のどかさん。本契約をするということは僕と共に歩んでいくということを意味しますが……」

 

「もちろん、承知の上です」

 

「えっと、私がパートナーになると、フォトン技術の根底をネギ先生がにぎるということになり、ご迷惑になるかもしれませんがー……」

 

 と、のどかさんが、不安そうに言う。確かに、世間にフォトン技術が公開されたら、そのフォトンの発生源がのどかさんだということも一部に知れ渡る。

 人工アカシックレコードの司書でもあるが、私はそのことは気にしないで、好きに生きろとのどかさんには言ってある。好きに生きた結果が、今回の本契約の誘いなのだろうね。

 

「いえ、その気持ち、ありがたく思います。実は僕、麻帆良で教師をやる修行を終えたら、あやかさんと協力して宇宙開発事業を起こす予定なんです」

 

 ネギくんがそう言うと、事態を見守っていたクラスメート達の視線があやかさんに集まる。そのあやかさんは、得意げな顔だ。

 

「そんな僕のパートナーになってくださるのなら、お二人の力ほど頼もしいものはありません」

 

「もちろん、力になるです」

 

「一緒に歩かせてください」

 

 夕映さんとのどかさんの言葉に、ネギくんは目をうるませ、そして腰を折って告げた。

 

「はいっ、お願いします!」

 

 ネギくんの了承を受けて、夕映さんとのどかさんは、ワアッと叫んで抱き合った。

 おやおや、愛も恋も知らないうちから、本契約の相手を見つけてしまったか。

 

「これは、また麻帆良の女の子達が荒れそうですね」

 

 私がそうつぶやくと、いつの間にか私の隣に来ていたちう様が同じくぽつりと告げる。

 

「いや、イギリスにいるアーニャとか、魔法世界(ムンドゥス・マギクス)中にいるネギ・スプリングフィールドファンクラブの会員達も荒れるだろ」

 

 あはは、『UQ HOLDER!』の回想ではここで長谷川千雨へのネギ先生の告白シーンがあるはずなんだけど、未来がすっかり変わってそれもなくなったね。

 全く、未来はどこへ向けて進んでいくことやら。

 

 ……その後、私達は卒業旅行で春の沖縄へと向かい、最後の3年A組としての一時を過ごしてから、高等部へと上がった。

 二〇〇四年四月。いよいよ、魔法が世界へ公開される時が来た。

 


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