【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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●一つの物語の終わり
■94 火星開拓始動


◆228 地球外生命体現わる

 

 二〇〇四年四月一日、国連事務総長がとある発表をした。それは、地球外生命体との対話を進めているというものだ。

 エイプリルフールということもあり、フェイクニュースかジョークニュースの類だと世界の人々が一笑に付したその一報だが、報道各局は全くもって訂正しようとしなかった。

 そして、続けて世界各国の政府も、地球外生命体とコンタクトを取ったことを発表した。

 さすがにこれはおかしいと思った人も出始めたが、各国政府から映像が出された瞬間、人々は再びジョークニュースだと思い直した。

 なんと、地球外生命体というのは二足歩行の猫だったのだ。

 

 猫は撮れ高があるからな。そんなコメントがネット上を飛び交ったが、ここでネット上にある動画がアップロードされた。

 それは『子猫達の月面訪問』と題されていて、宇宙船が月に降下する船外カメラの映像と、スタイリッシュな宇宙服を着こんだ子猫と人間が月面に降り立つ映像、月面を車で爆走する映像の三点がセットになった動画だった。

 

『ねこねこ動画』にアップされたその動画はまたたく間に拡散され、世界中からのアクセスが殺到した。

 よくできたCGだ、などと言われたが、よくできすぎていた。

 

「こんなCG映像、いくらかけて作ったのだ?」

 

「国連や各国政府まで巻き込んで、『ねこねこ動画』はプロモーションにいくらかけたのだ?」

 

 そんな言葉が交わされたが、国連事務総長の発表からネットの映像までの全てをプロモーション扱いする方が、ずっと難しい状況だった。

 

 そして、明くる日。国連事務総長は、発表を撤回しなかった。それどころか、さらに情報をたたみかけてきた。

 

 我々地球人類の同胞として、『魔法使い』が古くから存在している。

『魔法使い』は地球の各地にコミュニティを形成しており、中には都市を作っている者達もいる。

 その代表的な都市として、ニホンのマホラがある。見るといい、この巨大な木を。二〇〇メートルある。余裕で世界記録を超えている。

 魔法使いの国が地球の外にある。火星だ。魔法使いは、火星に重なる異次元に国をいくつも持っている。

 だが、火星は環境問題を抱えている。生き物が発するマジックパワー不足だ。

 魔法の国は、滅びかけているのだ。

 だが、そこに昨日発表した地球外生命体が手を差し伸べた。

 火星をテラフォーミングして、マジックパワーを生み出そうとしているのだ。

 私は、『魔法使い』の隣人を持つ地球人類の一人として、彼らの善意を歓迎したい。

 私の話を信じぬ者もいるだろう。だが、事実だ。そして、それはすぐに証明される。

 明日だ。明日、地球から地球外生命体……我らの新たな仲間達の宇宙船が飛び立ち、火星を開拓するのだ。

 

 力強くそう語った国連事務総長は、さらに宇宙船発進の日時と場所を発表した。

 それに示し合わせるように、世界各国の主要テレビ局はすでにその場所へと集まっていた。

 

 日本のとある島。雪広グループが所有する広大な宇宙船発着場に、巨大な宇宙船が何隻も停泊している様子が、各局のカメラに映し出された。

 

 地球人達はこれらがジョークニュースの類ではないと、ようやく信じ始めていた。

 

 

 

◆229 宇宙旅行

 

 四月三日。火星開拓事業がようやく始動する。それに合わせて、私は惑星開拓船『スペース・ノーチラス』に乗りこんでいた。

 目的は、火星開拓の様子をネット配信すること。私は撮影スタッフの一人として、この大事業に参加していた。

 

「いやー、なんで私もここにいるんだろうね?」

 

『スペース・ノーチラス』の艦橋で、撮影スタッフの一人、朝倉さんが言った。

 

「そりゃあ、『ねこねこ動画』の公式配信ですから、朝倉さんがいないと始まりませんよ」

 

「いやいやいや、ちょっと話のスケールが、いつもと違いすぎるというか……」

 

「なんですか、発信先は、いつも通り全世界中ではないですか」

 

「全然規模が違うよ!? しかも、『ねこねこ動画』以外にも、各国の主要テレビ局に中継繋がっているんでしょ!?」

 

「大丈夫、『スタジオの○○さーん』みたいなことはしないですから。ほら、あちらの鳴滝姉妹のように落ち着いてください」

 

 私は、艦橋に持ちこんだスナック菓子を食べて、キャプテン・ネモに嫌な顔をされている鳴滝姉妹に目を向けた。

 

「そうだぞカズミー。宇宙旅行だと思って楽しもうよ」

 

「サプライズ入学旅行ですー」

 

 そんな二人の言葉を受けて、「入学旅行って初めて聞いたわ……」と乾いた笑いを浮かべる朝倉さん。

 

「ちなみに、もう中継はされていますからね」

 

「は? いつの間に!?」

 

「ほら、あっち」

 

 私は、座席の横の方を指さす。

 そこには、朝倉さんのアーティファクトの『渡鴉の人見(オクルス・コルウィヌス)』があった。

 

「は? 私のアーティファクト? いつの間に!」

 

「実は、アーティファクトの遠隔操作ができる人がいまして。それで、ちょちょいと」

 

「はあ? はぁー……、いや、分かったよ刻詠。中継は受け入れるから……。でも、もう少し段取りを考えてほしかったわ」

 

「ふふっ、いいんじゃないですか? たまには素の朝倉さんを映しても」

 

「素の私をテレビに流したくないよ……」

 

 そんなやりとりをしてから、私達はあらためてカメラに向き直った。

 

「はい、それじゃあ、火星開拓事業『ねこねこ計画』、始めていきましょう」

 

「その計画名、なんとかならなかったの?」

 

 朝倉さんの突っ込みを受け、私は小さく笑う。

 

「なにせ、計画の主導は子猫達ですからね。『ねこねこ動画』の『ねこねこ』だって、子猫達がサーバを用意したメインスタッフだからそう名付けたんですよ?」

 

「確かにサーバの設置には私も居合わせたけど、話を聞くに、現代の地球人では製造不可能な高スペックマシンなんだったっけ」

 

「はい、人類の数百年先を行く高性能サーバに、高度なAIが何人も住んでいます。『ねこねこ動画』に違法な動画をアップロードしようとして、弾かれた経験がある人も多いのではないですか? あれは、リアルタイムでAIが動画を監視しているからできていることなのですよ」

 

「うんうん、あれが再現できないから、後発のサービスがなかなか出てこないんだよね」

 

「私的には、コメントを画面に字幕のように出すサービスとか、ゲームの実況配信に特化したサービスとか、いろいろ出てきてほしいんですけどね。ちょっと後追いを生むには時代が早すぎましたね」

 

「刻詠の話じゃ、そのうちみんながケータイで、ブロードバンド回線に接続したパソコン並みのインターネットができるようになるんだよね?」

 

 朝倉さんのフリを受け、私はスマートフォンを手元に出現させる。

 

「はい、このように、大画面の携帯端末スマートフォンが一般的になり、有線を使うことなく高速通信が可能となるでしょう。魔法の存在が世界に公開されましたから、立体映像や空間投影画面を使ったり、そもそも物理的な端末を所持しなくなったりといった未来も待っているかもしれませんね」

 

「立体映像は、麻帆良の学園祭や体育祭でもさりげなく使っていたわね」

 

 実は四月二日の時点で、昨年の麻帆良祭、大体育祭の映像は『ねこねこ動画』の公式コンテンツとしてアップされている。以前超さんがネットに流した『まほら武道会』の映像もだ。

 なお、『まほら武道会』の参加者には全員、ネットに動画を上げることを事前に交渉して了承してもらっているよ。

 

 さて、出発予定時間にはまだ数十分あるね。

 自己紹介と船内スタッフの紹介でもして、時間を潰そう。その旨を朝倉さんと鳴滝姉妹に念話で伝える。

 

「あらためまして、私、『ねこねこ動画』の経営母体である『ねこねこテクノロジー』の代表をしております、刻詠リンネと申します」

 

「『ねこねこ動画』広報室長兼公式『CatCaster』の朝倉和美よ」

 

「公式『CatCaster』の鳴滝姉妹、双子の姉の風香と――」

 

「――双子の妹の史伽(ふみか)です!」

 

 それぞれ四人が名前の紹介を終える。

 

「なお、カメラスタッフとして長谷川千雨さんがいますが、物理的な肉体がこの宇宙船内部にないので、カメラには映りません」

 

「そのカメラ、私の魔法具(マジック・アイテム)なんだけどなー」

 

 朝倉さんが、飛び交う複数のスパイカメラを見ながらぼやく。まあ、いいじゃないか。朝倉さんがしゃべりながら念で動かしたり、自律機動させたりするよりは、ちう様にカメラを任せた方がなめらかに映るはず。

 

「では、出発までに惑星開拓船『スペース・ノーチラス』のスタッフを紹介していきましょう」

 

 そして、私達は四人で船内を回り、乗組員達を紹介して回った。

 ちなみに内部構造を思いっきり地球人に公開しているが、この船は軍艦ではないので問題はない。

 

「いやー、分身はいいかげん見慣れたつもりだったけど、それぞれが独立した思考をしているってすごいね」

 

 ネモ・マリーンの紹介を終えた後、朝倉さんがそんな感想を述べた。

 

「世の中の魔法や気の達人には、もっと多くの分身を正確に使い分ける人もいそうですね」

 

「なるほど、この船が魔法の最先端ではないと」

 

「ええ。科学に関してはこの船が最先端ですが、魔法技術はまだまだ魔法の国、魔法世界(ムンドゥス・マギクス)が先んじている部分は多いでしょうね」

 

 私がそう言うと、視界の端にいた子猫の船内スタッフが大きくうなずいた。なるほど、子猫から見ても同意らしい。

 

 そして、いよいよ出発時刻となる。

 私達は艦橋へと戻り、席に着く。

 

「シートベルトはいらないのかな?」

 

 朝倉さんが、おどけた調子で言う。

 

「重力制御と慣性制御されていますから、必要ありませんね。船が宇宙に出ても、船内は無重力にはなりませんよ」

 

「そりゃすごい」

 

「無重力、体験してみたかったなー」

 

「ふわふわしてみたかったです」

 

 鳴滝姉妹は無重力体験がお望みか。後で一室を借りて、やってみることにしよう。

 

「時間だ。フォトンリアクター駆動開始」

 

 キャプテン・ネモがそう告げる。

 すると、船内に異常がないかをチェックしたネモ・マリーンが問題なしと伝えてくる。

 

「『スペース・ノーチラス』、発進」

 

 キャプテン・ネモが号令をかけると、モニターに映る外の陸地が少しずつ離れていく。

 

「うーん、一切身体に負荷がかからないね。エレベーター程度すらかからないや」

 

「そうですね。でも、外ではこんな大きな宇宙船が静かに空を飛んで、大騒ぎでしょうね」

 

 そして、朝倉さんと鳴滝姉妹がわいわいきゃいきゃい騒いでいる間に、『スペース・ノーチラス』は高度四〇〇キロメートルの地点まで到達した。

 

「はい、ここが『国際宇宙ステーション』の高さですね。スペースシャトルもこの高さを飛びます」

 

「スゲー、宇宙だ!」

 

「えっ、もう宇宙です?」

 

 鳴滝姉妹がそう騒ぐが、残念。

 

「まだ地球です。大気層の一番外側である外気圏は高度一〇〇〇〇キロメートルまで続いていますからね。でも、ここから一気に加速しますよ」

 

 私がそう言うと、モニターに映る地上がどんどんと離れていく。

 

「一〇〇〇〇キロメートル。宇宙ですよ」

 

「はっや」

 

「宇宙だー!」

 

「宇宙ですー!」

 

「ちなみに一〇〇〇〇キロメートルは、だいたい東京からエジプトまでの距離ですね」

 

 さて、さらにもう少し地球から離れ、地表から一五〇〇〇キロメートルの地点まで移動する。

 

「このまま火星まで行くの? 地球と火星ってどれくらい離れているんだろ」

 

 おおっと、朝倉さん。さすがにこのままのんびり遊覧飛行とはいかないよ。来週には麻帆良学園女子高等部の入学式が控えているからね。だから、巻きでいく。

 

「ワープします」

 

「えっ?」

 

「ワープ航法で、火星までひとっ飛びです」

 

 私がそう言うと、朝倉さんは少し考えた後、納得顔で言う。

 

「転移魔法?」

 

「魔法ではありませんね。地球初公開となる別次元の技術、フォトンによるワープです」

 

 すると、キャプテン・ネモが船長席に座りながら号令をかける。

 

「ワープドライブ、準備。目標、火星近郊ポイントA」

 

「アイアイサー」

 

 オペレーターのネモ・マリーンの可愛らしい返事が艦橋に響く。

 

「目標空間に障害物ナシ! いつでもいけまーす」

 

「ワープドライブ、起動」

 

 キャプテン・ネモの声と共に、宇宙船の前方に円形の空間の歪みが発生する。その歪みの向こうには、赤茶けた星が見えていて……『スペース・ノーチラス』はキャプテン・ネモの号令に合わせ、歪みの中に突っ込んでいった。

 地球人類よ、見よ! これがワープ航法だ!

 

 

 

◆230 火星の大地に立つ

 

 火星の外縁部に到着し、宇宙船は火星の地表へと降下した。

 後は、火星に降り立つだけだ。何気に、火星へ降り立つ地球人類としては私達が世界初になるんだよね。いいのかなぁ。この四人で。

 

「うはー、宇宙服、思ったよりもゴツくない。というかオシャレ?」

 

 宇宙船の出入り口近くの待機所に集まった私達四人。タイツ状の密閉スーツの上に特殊な服を着こんだ朝倉さんが、カメラの前でくるりと回る。対衝撃用のフォトン処理をした『シールドライン』という技術の服だ。グラール太陽系という世界の技術だね。『PSO2es』とのコラボキャラが持っていた知識で作られた。

 朝倉さんはさらに透明な球体ヘルメットを頭部につけているが、それ以外は今から大気成分の異なる惑星に降り立つ格好には見えなかった。

 

「その気になればヘルメット部分も外せますが、まあ念のため付けていてください」

 

 鳴滝姉妹もオシャレな宇宙服に着替え、火星進出の時を今か今かと待っている。

 

「で、刻詠はなんで着替えていないわけ?」

 

「ああ、私は生身で宇宙空間に出られますので、宇宙服とか要りません」

 

 朝倉さんの問いに答えると、朝倉さんはマジかこいつといった感じの表情を向けてくる。

 

「先ほどワープ航法の技術のフォトンは説明しましたね? そのフォトンを生身で自在に扱えるようになると、宇宙服なしで宇宙に行けたり、マグマに浸かっても熱いだけで済んだり、高所から落下しても無傷で済んだりするようになるのです」

 

「なんでもありね、フォトン……」

 

「ただ、フォトンを生身で扱えるようになるには人体改造が必要なので、改造を選んだ人種と選ばなかった人種で今後格差が生まれてしまうでしょうね。ちなみにフォトンを扱える特性は遺伝しますので、人体改造した人の子はあらためて人体改造する必要がなくなります」

 

「人体改造って、怖ー!」

 

「りんりんがマッドサイエンティストになったですー」

 

 鳴滝姉妹がそう言うが、はたしてどこまでが医療行為でどこまでが人体改造なんだろうね。

 歯列矯正で歯並びを整えるのと、フォトンを扱えるように種族を作りかえる……その違いとは、はたしてどこにあるのか。子に遺伝するのが問題なら、子に遺伝しない種族変更ならどうなのか。

 まあ、今日の主題とは関係ないので、これ以上口には出さないでおく。

 

「タラップ下ろしたよー。いつでも降りていいよー」

 

 と、ネモ・マリーンが待機所にやってきて、そう言ってきた。

 さて、それじゃあ、向かうとしますか。

 私は他の三人と一緒に出入り口のエアロックにまず入る。そして、エアロック内部を火星と同じ気圧に変えた後、出入り口が開く。

 出入り口と繋がったタラップを降りたら、火星の大地だ。

 

「せーので降りるよ!」

 

 朝倉さんが、タラップの終点で横に私達を並ばせ、「せーの」と合図する。

 そして、四人同時に火星の大地を踏みしめた。

 

「来た! 火星来た!」

 

「うおー! 火星だー!」

 

「なんにもないですー!」

 

「新たな宇宙時代の到来ですね。人が宇宙旅行に気軽に行ける日も近いでしょう」

 

 朝倉さん、風香さん、史伽さん、私がそれぞれそんなコメントをする。

 全世界に配信中なのに気の利いたことを言わない前者三人だが、この三人の配信はおおよそこんなノリなので気にしないでおく。

 

「オーナー達降りた? 降りたね。じゃあ、作業開始するよー」

 

 宇宙服姿のネモ・マリーンと子猫達がゾロゾロ降りてきて、宇宙船の貨物庫を開く。

 そして、そこから機械を次々と出して作業を始めた。

 

「あれは何をしているんだ?」

 

 風香さんが、宇宙服姿の作業員達を眺めながら言う。

 

「『テラフォーミング施設』というそのまんまのネーミングの、テラフォーミングを行なうための中枢施設を建てる作業ですね。簡単に言うと、惑星全体をフィールドでおおって大気を火星の外に逃がさないようにして、大気成分を地球に近づける施設です」

 

「んんー?」

 

 風香さんは理解が及ばなかったのか、首をかしげる。

 

「火星は地球よりも重力が低いため空気が宇宙に逃げやすいのですが、火星に地球と同じ圧力の大気を作ろうとすると、風船の膜のように空気を逃さないフィールドでおおってやる必要があるのですよ」

 

「なんで地球と同じ圧力にするです?」

 

 今度は史伽さんが問うてきた。

 

「植物を育てるためですね。人間は地球と同じ大気圧じゃないと宇宙服なしでは生きられないでしょう? 植物も同じです」

 

「刻詠は火星の大気圧で平然としているけどね……」

 

 おおっと、朝倉さん。そこは突っ込みなしでお願いします。正直、宇宙服着ていないとフェイク映像と勘違いされるんじゃないかって、心配になってきたところだから。

 

 そんな私達の会話の裏で、急速度で大地がならされ、建物の基礎が作られていく。一日もあれば、立派な施設が建っていることだろう。

 

「今回は、この施設を作るところまでが作業の全てですね」

 

「あれ? 火星開拓はしないの? 他所から氷の小惑星を持ってきて、それを融かして海にするとかじゃなかった?」

 

 朝倉さんの配信を円滑に進めるナイスな問いに、私は笑みを浮かべて答える。

 

「それは、追い追いですね。今回は『テラフォーミング施設』を建てていつでも稼働できる状態にするまでで終わりです」

 

「全部やっちゃえばいいのに」

 

「そうしたいのは山々ですけどね。子猫は半年以上をかけて、世界各国の政府に火星開拓の承認を得てきました。でも、地球人類全体には、まだ『火星を開拓しますよ、いいですか?』って尋ねていないんですよ」

 

「政府がOK出せばそれでよくないです?」

 

 史伽さんがそう問うが、私は首を横に振る。

 

「いえいえ、世論が火星開拓NGだよとなって、今の世界各国の政府の人達に不信任を出したら、この話はご破算です。なのでまずは、いつでも火星に行けて開拓もできますよ、魔法世界を救う態勢が整っていますよ、という事実を地球の人々に見せておしまいです。続きは、地球人類の反応を見てからですね」

 

「反対する人、いるのかしら? 魔法世界人の未来がかかっているのよ?」

 

 朝倉さんのその問いに、続けて私が答える。

 

「反対する人がいたら、説明して、説得して、賛成してもらうよう働きかけるのが地球の偉い方々のお仕事ですね。私達は、火星開拓の準備をしてそれを待ちましょう」

 

 急ピッチで進む『テラフォーミング施設』の建設を遠巻きに眺めながら、私はそんな裏の事情を説明した。

 その後、宇宙船に戻ってスマホを確認すると、ちう様から配信の反応は上々と報告があった。

 そういうわけで、世界初の有人火星開発配信は無事に成功したのだった。

 


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