【完結】プレイしていたゲームの能力で転生するやつ   作:Leni

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■96 秒針は進む

◆234 火星に風と水を

 

 二〇〇四年八月一日。高等部一年の夏休み。いよいよ火星のテラフォーミングが本格的に開始された。

 その歴史的瞬間を私は『ねこねこ動画』で配信することを決め、社で用意した特設スタジオで開拓の映像を眺めることになった。

 

「おお、運ばれてきましたね。あれは、冥王星の近辺にあった氷衛星です。あれを融かして、火星に海と大気を作り出します」

 

「水がないなら他所から持ってくるトカ、机上論として考察されてきたことダガ、こうして目の当たりにする日が来るとはネ」

 

 解説役として呼んだ超さんが、私の実況にそんなコメントを入れる。

 

「いやー、宇宙船で衛星を直接引っ張ってくるとか、豪快なことするよね」

 

 技術に詳しくない朝倉さんも、今回どれだけすごいことをしているのか理解をしているようだ。

 そんな朝倉さんに、超さんが言う。

 

「まあ、普通の技術力だと、氷衛星ごと近くに持ってくるのではなくて、惑星表面に遠くから細かく砕いた氷塊を投げつける手法を取るからネ。ただ、もしそうしていたら、火星はクレーターだらけになっていたガネ」

 

 近場にある氷衛星を砕いたうえで、マスドライバーを使って飛ばすんだったかな? まあ、子猫の科学力があれば、そんなことをせずとも氷衛星を丸ごと持ってこられる。

 ただ、冥王星付近にある氷衛星と言うことで、一つ注意が必要だ。

 

「実は、冥王星付近には地球外の旧文明の遺跡が点在していることが、これまでの調査で分かっています。今回の氷衛星も、その痕跡がないか、注意する必要があるでしょう」

 

「旧文明って、すごいこと言うわね……」

 

「いえいえ。宗教で悪魔扱いされている存在は、魔法社会的には魔族と呼ばれていて、人類が誕生する以前に金星で高度な文明を築いていた旧文明人なんですよ。今は、火星の魔法世界のように、金星に重なる異界、通称魔界にて定住しており、魔法使いが使う召喚術で悪魔として現実に呼び出されています」

 

「……んもー、社長はまたさらっと新情報出すー」

 

 呆れたように、司会の朝倉さんが言うが、情報はまだあるぞ。

 

「冥王星の衛星カロンは、衛星に擬態した巨大恒星間宇宙船であると推測されています。旧金星文明のものか、はたまた別の宇宙文明のものかは判明しておりませんが。さて、人類は冥王星まで到達できるのでしょうか。子猫達は冥王星の遺跡には手を出しませんよ」

 

「情報量、情報量が多い!」

 

 朝倉さんのそんな突っ込みに、横で超さんが乾いた笑いをした。

 多分、超さんの故郷の火星人達が向かった並行世界の地球にも、金星の魔界と冥王星の巨大恒星間宇宙船は普通に存在していると思われる。頑張って乗り越えてほしい。

 魔界があるってことは吸血鬼の真祖もいるってことだから、真祖バアルに変なちょっかいを出されないようにね。

 

 そして、そんなコメントを交わしている間に、火星に氷衛星がセットされ、いつでも融かせる状態になった。

 

「で、超りん。これをどうやって融かすのかな?」

 

 朝倉さんが、超さんに問う。

 

「反物質を使うネ」

 

「反物質? え、マジ?」

 

「マジネ」

 

「ねえねえ、ちゃおちゃお。はんぶっしつってなんだ?」

 

 と、ここでスタジオのにぎやかし担当、鳴滝姉妹の風香さんが質問をした。

 

「ウム。反物質とは、本来この宇宙に存在しないはずの物質ネ」

 

「むむ? 存在しない?」

 

「この宇宙に存在する物質は、原子よりももっと小さい電子、陽子、中性子という粒子から作られているのダガ、それらと反対の性質を持っている陽電子、反陽子、反中性子といった反粒子があるネ。そんな反粒子で作られた物質を反物質と呼ぶヨ。本来、反粒子と反物質はこの宇宙に存在しないのダガ、子猫達の専用の設備があれば反物質を作り出して保管できるネ」

 

「よく分かんないけど、すごいことやっているんだな!」

 

「ちなみに、電子に陽電子をぶつけたり、水に水の反物質をぶつけたりすると、お互い消滅するネ。これを対消滅と呼ぶヨ。今回は、その対消滅を氷衛星の前で起こすネ」

 

「氷衛星が消滅したら、氷が水にならないですよ?」

 

 今度は史伽(ふみか)さんが超さんに質問を投げる。

 すると、超さんは「フフフ」と笑って答えた。

 

「実は、対消滅の際にものすごいエネルギーを生むヨ。このエネルギーで氷衛星を融かすネ」

 

「ちなみに、対消滅は核分裂や核融合よりもずっとすごいエネルギー量です。兵器として使ったら超危ないですよ」

 

「何それこわー」

 

「核よりすごいって、ヤバすぎですー」

 

 私が補足を入れると、鳴滝姉妹がそれぞれそんなコメントをしてきた。

 うんうん、いいリアクションだ。

 

「子猫は同胞と争いませんから、大量破壊兵器の類は研究していないですよ。安心してください」

 

「まあ、反物質で氷を融かす技術は持っているガネ」

 

「そこは、平和なテラフォーミング技術ですから」

 

「平和のための技術も、いつかは兵器利用されるのが常ヨ」

 

「子猫は狩りのために様々な武具を作っていますが、戦争に関しては三万年の歴史の中で一度も起こしたことはないんですけどね」

 

「なんとも、うらやましい話ネ」

 

 私と超さんがそう言っている間に、対消滅が起き、氷衛星の下部がごっそり蒸発した。大量の水蒸気が火星の大気に拡散されていく。

 その後も、順調に氷衛星は融かされていき、テラフォーミング施設によってフィールドが張られた火星の大気圧は、どんどん上昇していく。

 さらに、大気はテラフォーミング施設によって、生物が生きるために最適な成分に調整されていった。

 

「順調ですね。後日、温室効果で適切な気温になった火星に誕生する海を魔法世界の海と見比べてみましょうか」

 

「海ー! 泳げるかな?」

 

 風香さんの言葉に、私は答える。

 

「重力が地球と違いますから、不思議な感覚になるかもしれませんね」

 

「うおー、泳いでみたい!」

 

「火星でバカンスですー」

 

 騒ぐ鳴滝姉妹を見ながら、私はテラフォーミングの順調な進行に、ホッと胸をなで下ろすのだった。

 大気と気温がなんとかなったら、微生物の移植に、土壌の改良、そして緑化だ。まだまだ乗り越えるべき壁は多い。

 

 

 

◆235 第二覚醒

 

 テラフォーミングの開始から一年が経ち、火星の表面は緑におおわれた。

 子猫達が主に生やした植物は、『キャットニップ』と呼ばれる子猫達の主食。イヌハッカとも呼ばれる多年草で、地球に存在したこれをオラクル船団の技術で惑星Cathの品種に近づけ、子猫達が太鼓判を押す味に仕上げて火星に撒いた。

 これにより、火星は子猫達の広大な農園と化した。

 今まで、スマホの中からキャットニップを呼び出して溜めておかないと子猫達の食料を確保できなかったが、これでこちらの宇宙単独でも子猫達の食料を確保できるようになった。子猫達は飢えに弱いから食料確保の目処が立ったのは一安心である。

 

 もちろん、キャットニップ以外にも植物は植えている。一種類の植物しか植えなかったら、病気で全滅する危険性があるからね。植えたのは、人間が食べられる植物達。いざというとき、火星を人類の食料庫にできるよう子猫達が配慮したのだ。

 そうして、緑化テラフォーミングは順調に進んでいっている。

 

 そんな火星が大きく変わった高等部二年の夏休み。

 私は、ネギま部の部員と共に定期的に行なっている別荘での修行に参加していた。

 

 だが、今日は普通に修行するのではなく、いつもと違ったことを試みている。

 久しぶりに、覚醒の聖霊を使えるか試しているのだ。

 

「やはりできましたか。最近、伸び悩んでいたんです」

 

 まず一人、覚醒に成功した者がいた。刹那さんだ。彼女は幼い頃から神鳴流剣士として修行してきており、ここ数年は獅子巳十蔵さんの指導も受け続けて、実力は円熟していた。以前ほど急成長をするということもなく、壁を感じていたようだ。

 

「来たっ! 私も覚醒よ!」

 

 そしてもう一人、明日菜さん。過去を思い出すように急成長を遂げ、数人のソードマスター達から剣の奥義を教わってきた彼女。最近は思うように剣技が修得できないと悩んでいたようだったので、まさしく覚醒するのに相応しいタイミングだったようだ。

 

「古はまだなのでござるな」

 

 二年前に覚醒を終えている楓さんが、刹那さんと明日菜さんの覚醒を見守っていた古さんに言った。

 

「私はまだまだアルヨ。道士を経て仙人に至って、さらにその先を目指すときに、ようやくといった感じだと思うアル。何十年も先アルネ」

 

「なるほど、奥が深いのでござるな」

 

 そんな会話の最中に、刹那さんと明日菜さんが第一覚醒を終える。

 次に、常闇聖霊を呼び出して、ドキドキの第二覚醒タイムだ。

 

 刹那さんが烏族特化クラスと神鳴流特化クラスの二つ、明日菜さんが黄昏の姫御子系クラスとソードマスター系クラスの二つの選択肢だ。

 

「烏族特化ですか……確かに最近、飛行剣術を編み出そうと試行錯誤していましたが……神鳴流特化でお願いします」

 

 そうして、刹那さんは『退魔剣聖【ネギま】』になった。

『千年戦争アイギス』には『剣聖』というクラスがあるが、それとは特に関わり合いのないクラス特性のようだ。

 

「んー……造物主(ライフメイカー)を倒すために必要になるのは、剣の腕じゃなくて魔法無効化能力の方よね? それなら、魔法無効化能力の方を選ぶわ。正直、剣の方に惹かれるけど」

 

 というわけで、明日菜さんは『火星の光姫【ネギま】』のクラスを選んだ。これは、キティちゃんの第二覚醒候補にあった『金星の闇姫【ネギま】』の対になっている感じがあるね。まあ、キティちゃんはそれを選ばなかったのだが。

 別に、対になるクラスをそろえないと何かが足りなくなるとかいう、ゲームじみたことが起きるわけでもない。なので、気にするだけ無駄だね。

 

 こうして順調にネギま部の戦力は上がり続けている。

 造物主との決戦は、そう遠い日ではないだろう。

 

 

 

◆236 ネギま部外部メンバー

 

 高等部二年の冬休み。今年はイギリスに向かうこともなく、ネギま部は麻帆良で修行を積んでいた。

 

「よく続くわねー」

 

 別荘にやってきて、そんなことを言い出したのは、イギリスから日本に移り住んだアーニャだ。

 彼女は、メルディアナ魔法学校卒業後に課された修行を無事に終え、ネギくんの近くで生活するために麻帆良に住み着いたのだ。

 

 アーニャが麻帆良に来るにあたって、イギリスでは騒ぎが起きたという。

 昨年春に魔法が世界に知れ渡って、ロンドンで本物の魔法が使える占い師として評判になったアーニャ。

 現地のテレビでも特集されるほどの売れっ子占い師となった彼女だが、修行を終えた彼女は、あっさり占い師を引退した。そして、日本にいる幼馴染みを手伝うと言い残してロンドンを発とうとしたところで、各方面から引き留められたのだそうだ。

 

 私が石化から解放した彼女の両親も、アーニャに対して一緒に住まないかと言ってくれたらしいが、アーニャは全てを無視して麻帆良にやってきた。

 そして現在、今年度で同じく修行を終えることになるネギくんが来年度から新たに始める仕事の手伝いをすべく、勉強中とのことだ。当面の生活費は、テレビ出演でがっぽり稼いだギャラがあるので問題ないらしい。ビザはどういう名目で取ったんだろうね……。

 

「そりゃあ、続きますよ。ナギ・スプリングフィールドの生死がかかっていますからね」

 

 私がそう言うと、アーニャは複雑そうな顔をする。

 ネギくんは小さな頃から父親の影に捕らわれているので、いろいろ思うところがあるのだろう。

 ネギくんの本当の人生は、ナギ・スプリングフィールドを救い出したところから始まるのではないか。そんなことを思うこともたまにある。

 

「アーニャも修行してく?」

 

 そう言って、上空から話題のネギくんが飛来する。

 複数の竜を掛け合わせたキメラ状態の竜化をしており、その姿は人のものではない。そんなネギくんを見て、アーニャの肩がビクッと跳ねた。

 

「ちょっと、驚かさないでよ」

 

「ははは、ごめんね」

 

 今やネギくんは、雷竜と龍樹の因子だけでなく、エンダードラゴンが落とす『ドラゴンの卵』の因子や、概念礼装の『竜種』の因子をも取り込んで、高次の生命体へと進化していた。

 風のアーウェルンクスが使っていた雷化も魔法で再現に成功していて、『闇の魔法(マギア・エレベア)』を使うことなく雷速で動くことが可能となっていた。

 

「修行はいいわ。今さら私が戦わなくても、戦力は十分でしょう?」

 

 アーニャがあの中等部三年の夏にネギま部の仲間入りをできていたら、一緒に戦うなんて未来もあったかもしれない。

 しかし、アーニャにはアーニャ自身の魔法使いとしての修行があった。だから、彼女はこうして私達の修行を見守るだけなのだ。

 まあ、一緒に戦うだけが仲間じゃないので、今ではネギま部の新メンバーみたいなものだけどね。

 ネギま部は、ナギ・スプリングフィールドを救い出すために存在する部活。部活なんだから、マネージャーがいたとしてもそれはそれで構わないかなと、最近思うようになった。

 

「それに、ネギは戦うための魔法ばっかり覚えているんでしょう? それ以外の魔法は、私が頑張って覚えないとね。秘書として!」

 

 アーニャ、なにやらネギくんの秘書を名乗り始めたぞ。教師に秘書とかいるのかいな。

 いやまあ、ネギくんは教職を辞めたら地球人主導の宇宙開発事業を始めるみたいだけど。私の子猫主導の火星開拓事業とは別枠だ。なお、どちらにも雪広グループの息がかかっている。宇宙に関しては、真の勝者はあやかさんだな……。

 

 と、身体の奥底がかすかに震える感覚。メールが届いたようだ。

 

 私はスマホを取り出し、メールを確認する。

 ふむ。フェイト・アーウェルンクスさんからか。

 私は文面を確認し、そのままフェイトさんの携帯端末に電話をかけた。

 

「もしもし? 今来られます? はいはい。では、電話を切ったら目の前にゲート開きますね」

 

 私はそう短く通話をし、次に『ドコデモゲート』でこの場にゲートを開く。

 すると、ゲートの向こうから十四歳くらいの見た目に成長したフェイトさんが歩いてやってきた。

 

「どうも。本当にこのアーティファクトは強力だね」

 

 そう言ってから、フェイトさんは周囲を見回す。

 

「ここは? ずいぶんと魔力が濃いようだけど」

 

「ダイオラマ魔法球の中ですよ。ネギま部……『白き翼(アラアルバ)』の修行の場です」

 

「なるほど。ここでヨルダ様と戦う準備を進めているわけか」

 

「そういうことです」

 

 かつての主と敵対すると答えても、フェイトさんの顔色は変わらない。彼の中では、造物主との主従関係はすでに過去のものとなっているのだろう。

 

「あれ? フェイト? 麻帆良に用事?」

 

 アーニャと話し込んでいたネギくんが、竜化を解いてフェイトさんに近づいていく。

 

「いや、今日はアスナ姫に用事だ。また『造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメーカー)』を使ってもらうことになる」

 

「……魔法世界(ムンドゥス・マギクス)に何か問題が?」

 

 フェイトさんの言葉を聞いて、ネギくんが険しい表情を浮かべる。

 だが、フェイトさんは首を横に振ってネギくんのセリフを否定した。

 

「逆だよ。魔法世界に魔力が満ちたおかげで、これまで荒廃していた土地の再生が行なえそうなんだ。ある土地の復活で、種族間の争いが一つなくなりそうだ」

 

「なるほど! それはよかったね!」

 

 フェイトさんは私達と和解した後、魔法世界の紛争や種族間の対立を解消すべく、方々を駆け回っている。

 魔法世界人を夢の世界に沈めることは阻止された。火星に魔力が満ち、終わりは回避された。だが、それでも人は争いを続けている。

 魔法世界で起きる悲劇を少しでも減らす。それを信念にして、フェイトさんは人と人との争いを止めようとしているのだ。

 

「このまま、争いをなくしていったら、造物主が改心するなんてこと、あるのかな……」

 

 と、ネギくんがポツリとそんなことを言った。

 だが、造物主の元部下であるはずのフェイトさんがその言葉を否定する。

 

「彼女はもう壊れているんだ。引導を渡してあげるのが慈悲だよ」

 

「そっか……」

 

「決行までそんなに日はないんだ。今さらそんなことで揺らいでほしくないね」

 

 フェイトさんは、やれやれといった様子で、ネギくんに言い放った。

 そう、決戦の時は近い。

 次の春休み。そこで、ナギ・スプリングフィールドを救い出す!

 


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