初めから古式魔法で勝てるとは思っていなかった。将輝の魔法の発動速度は、目算でも自分より早いことは第一試合を見て理解した。加えて干渉力も強度も、歩けば当たるような魔法師とは一線を画すことも。ただ、アイス・ピラーズ・ブレイクというスタートが明確に定められている競技において、彼が間違いなく最も手ごわい敵になるということは、九校戦の競技を見た時からある程度の予想はついていた。
何の策も立てなければ勝つことはできない。だが、策を講じれば話はまた変わってくる。
まずは将輝に爆裂を使わせる必要があった。毒は毒を持って制するという言葉があるように、勝つ手段としてもっとも確率が高いのはそれだったためだ。ファランクスで防御しつつ破壊するということも考えたが、四種八系統の複雑な工程を持つファランクスよりは収束系のみの爆裂の方が楽だった。
次に、爆裂を使うにあたって将輝に情報強化をさせないことも重要になってくる。使い慣れていない魔法を使うことに加え、一柱に集中されてしまえば干渉力で負けてしまう可能性があるためだ。
その二つの問題を解決するために、将輝の性格を考慮した。
一つ目の解決策として、まず秋水は挑発することを選んだ。それが、第一試合で見せた大規模な古式魔法。家波大和の宣戦布告によって一段階上の魔法に切り替えることになったが、
二つ目は現代魔法で魅せること。拙い情報強化の割に多彩で強力な攻撃魔法を繰り出せば、自然と早期に決めようという心理が働く。一つ目の課題と比較すれば比重は軽いために、残り試合が二試合のみしかなかったことはさして問題ではなかった。
最後に、これは策というよりは運でしかなかったが、将輝と初戦や二回戦で当たらなかったことが何よりの重要なことだった。もしそうでなかったならば、ハイリスクを背負う形になっていたか、それを避けてモノリス・コードに託しただろう。
CADを仕舞い、秋水は紅い眼で将輝を見た。
(伊達に頂点は名乗っていないか、少し侮っていたようだな。だが――)
結果を見れば、天が味方したかのように上手くことが運んだ。少しでも有利にするためにクイックドロウを使用しことも、また然り。これを使って時間を稼いでいなければ、先に発動したのは将輝の方だったことだろう。
(勝ちは勝ちだ)
先に氷柱を壊したのは、秋水が放った魔法だった。
刹那と呼ぶにふさわしい、本当にちょっとの差ではあったが、しかと視ていた。願望からくる幻影ではない。秋水が有するのはあらゆる眼の中でも観察において非常に長けた眼、他の誰が見逃したとしても、自分は絶対に見逃しはしないという自負があった。
『ただいま映像判定を行っております。もうしばらくお待ちください』
一言一句が非常に聞き取りやすい声で、ウグイス嬢が待機を願う。何が起こったのかあまり理解できておらず、観客たちは戸惑っている様子。無理もない。あまりにも一瞬の出来事に、彼らの理解が追いついてこないことは仕方のないことだった。
アナウンスの音声を聞いた直後から再び音を出し始めた。徐々に大きくなっていくそれは、やがて雑音へと変わり、内容はどちらが勝ったのかということについてほとんどだった。
これまた一秒が長く感じる。技術の進んだ映像機器ならばビットレートも
『たいへん長らくお待たせいたしました。検証の結果……』
アナウンスが入る。
一体何分経ったのだろうか。実際には五分に満たない時間だったが、悠久の時を待ち続けたように感じた。勝者の名前を聞き漏らさないように、そちらに耳を傾ける。
『第三高校、一条将輝選手の勝利です』
時が止まった。
周囲で今日一かと思える大歓声が上がっているが、まるで突然宇宙空間にでも放り出されたかのように一切の音が耳に入ってこない。巨大な電子掲示板には将輝の顔が表示されており、その上には「WINNER」の文字か表示されている。状況を飲み込むことに、珍しく時間がかかった。
(ああ、そういうことか)
ビデオ判定で誤った結果を出すわけがない、という根底に有る条件が間違っていた。
九校戦とは現代魔法師の雛鳥たちの晴れ舞台。運営側も考えるまでもなく現代魔法師であり、これは現代魔法師たちが作った現代魔法師たちのための行事。彼らの頂点にいる十師族に負けが許されない以上、多少の手は加えてくることは少し頭を捻れば出てくるはずだった。
秋水は、完全に失念していた。下手に公平さを求めてしまっていたのだ。戦場においては絶対に考えないことでも、大々的な行事では、と無意識に考えてしまっていたのだろう。そもそも、元を辿っていけば僅差しかつけられなかったことが問題だった。圧倒的に勝利をすれば、例え誰であろうとも有無を言わせないことができたのだから。
(一条、お前はどう思っている?)
それでも、落胆は禁じ得なかった。
あまりにも小さすぎる。仮にも頂点に立つ者の振る舞いだとは思いたくはなかった。こんな矮小なことをするものが崩そうとしていたものだとは思いたくはなかった。
拳に力が入り、漏れ出したチャクラが鈍器となって足場に少しの罅を入れる。
自然と降下していく足場。答えを得るために秋水は見えなくなるまで無言で将輝を視ていたが、答えを得るには至らなかった。
試合が終わってしまえば特に予定もないためにホテルへ帰ろうかと思っていた矢先、赤い制服が目に入った。肩が少し上下していることから、急いでここまで来たのだろう。
「一体勝者が敗者に何のようだ?」
随分と皮肉めいた言葉は言い方によってさらにそのように感じさせただろう。
感情の起伏が激しいのは裏葉特有のものではあるが、それだけではないのだろう。将輝が立ち止まっているにも関わらず、秋水は足を止めようとはしなかった。
「俺は、勝ったなんて思っていない」
ちょうど真横に位置する場所で、秋水の足が突然止まる。目だけが将輝の方を向いた。何かを求めているかのような目だった。
将輝は目線を合わせず、ただ前を向いたままだ。
「あの魔法は、爆裂は、一条の秘術だ。あれを模倣された時点で、負けたようなものだ……」
これまで決して他家に渡らなかった秘術の術式を盗まれたことに加え、あまつさえ全国放送でそれが放送される。将輝にも色々と思う所があるのだろう。
「それでも、試合には勝っただろう」
模倣されたとしても、全国にそれが知れ渡ったとしても、観客の目にはそれに負けずと奮闘した将輝の勝利が映っている。勝者には汚点であっても綺麗に飾り立てる力が備わっている以上、それらは将輝を輝かせる踏み台にしかならない。
将輝は目を瞑って首を横に振った。
「いや、恥ずかしい話だが自信はない。正直なところ、俺はピラーが砕けた
再び目を開けたとき、初めて秋水と目を合わせた。今度は将輝が確かめようとしていた。
「仮にそうだったとして、それを知ってどうする?」
過去に数回判定による勝敗が決まったが、そのあとの談判で判定が覆った試しは過去に見ない。今回の場合は作為的であるために、余計に変わることはないだろう。
将輝は首を横に振った。
「どうもしないさ」
「なに?」
予想とは異なっていた将輝の答えに、秋水は思わず聞き返してしまう。
「判定での決着にケチをつけたいわけじゃない。俺は、俺の中で納得した答えを出したいだけだ」
言っていることだけならば、わざわざ秋水のところにくる必要はない。性能は劣るとはいえ、第三高校側でも試合の撮影はしているのだろうから、はっきりはせずともある程度の結果の確認はできるはずだからだ。
モノリス・コードでも対戦するために、
自分で考えた答えを、秋水はすぐに否定した。王道を歩んでいても邪道を理解している人間が、そのような甘いことをするはずがない。したとしても、別の目的も付随されていることだけは確かだ。
「さあ、どうだろうな。俺にもはっきりとはわからない」
真実を告げることだけがその都度ベストな答えとは限らない。今更真実を告げたところで、既に秋水が負けたことが晒された以上、何も代わることはない。ただ、だからと言って負けを認めるのは癪だったために、あえて答えを出さないことにした。
そういえば、とあることを思い出した秋水は懐を探る。
「これは返しておこう。どうせ信じられはしないだろうが、バックアップは取っていない」
ホルスターから拳銃型のCADを取り出し、弾倉の部分に代わりに入っているストレージを抜くと、将輝へと向かって軽く下手投げをする。小さな弧を描きながら宙を舞うストレージは、精密機械故に地面に落とさないようにと差し出された将輝の手の中へと収まった。
バックアップを取っていないことは嘘偽りない本当のことだった。注目を惹かせるために、将輝に勝つために爆裂を利用しただけに過ぎない。使用ごとにリスクがあるとは言え、爆裂以上に殺傷能力と最速の発動速度を持つ魔法を持っている秋水からすれば、敵対する十師族の魔法など無用の長物でしかない。もう使うことはないだろう。確かに手元にあれば何かと便利な魔法ではあるが、それ以上にデメリットが多い。横取りを企てる阿呆どもがハイエナの如く押し寄せてくることを想像するだけで嫌気がさしてきた。もっとも、ここで将輝に爆裂の情報が入ったストレージを渡したとしても、群がってくる連中の数が減るわけではない。単に予想以上に強かった将輝に対する、褒賞のような意味合いが強かった。
もう会話は終わりだと言う意味を込めて、秋水は将輝から視線を外した。静かな廊下に、一人分の足音が鳴り始める。
「おい」
数メートル進んだところで、背後から声がかかる。
「なんだ、まだ何かあるのか?」
今度は先ほどとは異なり、声をかけられた時点で足を止めていた。
「俺は明日のモノリス・コードに出場する」
お前はどうなんだ。
口にしなくとも、将輝が聞こうとしていることは推測できた。そもそも新人戦で残っている競技は男子モノリス・コードに女子ミラージ・バットしかない。一人二試合まで出場可能な状況で、有力な選手を出し惜しみする必要性はどこにもない以上、誰でも予測はできる。
「……お互い、決勝リーグへ進めるといいな」
モノリス・コードの予選はランダムで対戦相手とフィールドが決められ、計四試合行われる。その結果勝利数が多い上位四チームのみが決勝リーグへと進出できる変則リーグ戦。そのため、くじ運次第では強いチーム同士が当たり潰し合う、なんということも全くありえないことではない。
「ああ。今度は勝ってみせる」
僅かに上がった口角は、誰にも見えるものでもなかった。
それ以降会話はなく、廊下には二つの足音がひっそりと鳴っていた。
◇◇◇
「まさか、爆裂を模倣するとはな」
重い口を開けたのは克人。彼が注目しているのは試合の勝ち負けではなく、一条家の秘術である爆裂が十師族以外の、強いて言えば友好関係にあるとは言えない家の者に奪われたことだった。試合が始まる前にファランクスを見せたと伝えてそれとなく可能性を示唆したものの、十師族の非公開魔法が模倣されることは今の今まで疑い半分だった。
「ああ、さすがに予想外だったよ」
感嘆の声を上げる摩利の声は僅かにではあるが震えていた。
「けど、これは……」
「間違いなく師族会議は開かれ、裏葉の処遇が速やかに下されるだろう」
真由美の言葉を先取りして、克人が代弁する。
手法が分からないが爆裂が模倣されたということは、他の魔法も同様ということ。十文字家のファランクスや、下手をすれば五輪家の長女が持つ戦略級魔法(定義としては「都市、または艦隊規模の標的を一撃で壊滅させることができる魔法」)である「
(できれば穏便にことを済ませたいが、難しいだろうな)
まだファランクスならば、穏便にことを済ませることができたかもしれない。事後報告と称して、確率はかなり低いが十文字家や七草との繋がりを持たせておけば回避できた見込みがあった。だが、一条家となればそうはいかない。四葉のような黒い噂は聞かない一条家であっても、ただ黙っているということはないだろう。そうなってしまえば、裏葉秋水という存在は現体制を脅かす存在と認知されてしまう。自らの地位を脅かしかねない不穏分子など、野放しにできるはずもない。
過ぎた力は身を滅ぼす。
新たに取り込み地位向上を目指す家ばかりならば良いが、そう良い方向へと向くことはない。となれば――。
克人はいつも以上に険しい顔をしていた。
◇◇◇
大会七日目、新人戦四日目。
今日行われる競技は女子ミラージ・バットの予選から決勝、男子モノリス・コードの予選の二つ。双方花形種目のために、来場数は昨日よりも多く、ミラージ・バットの会場には男性の割合が多くいた。
ならば女性がモノリス・コードに多いか、と問われればそうでもない。こちらの割合は半々といったところで、会場には他の会場にない巨大なモニターが設けられている。
モノリス・コードは他の競技とは異なり野外ステージで行われる。用意されているステージは森林、平原、渓谷、市街地、岩場の五つ。それがランダムに選択される。
勝利条件は以下のうちどちらか一つを満たせば良い。
一、相手チームの選手を戦闘続行不能にすること
一、専用魔法を用いてモノリスに隠されたコードを読み取り、端末に入力すること
どちらか一つに特化すれば良いというわけではない。平原のように見晴らしのよいところでは前者が、渓谷のように入り組んだ場所ならば後者が勝ちやすいために、場所が決定され、ステージに趣いた時には即座に順応して作戦を練らなければならない。
第一高校の一回戦目の対戦相手は第六高校。選ばれたステージは渓谷。水場や生い茂る草木、起伏の激しいこの場所は、もっとも複雑な場所と言って良かった。既にそれぞれの高校の選手は指定のスタート地点へと足を運び、開始の合図を待っている。
選手である秋水たちのスタート地点は、周囲が低い木々で囲まれている緑が生い茂っている場所。耳をすませば流水の音がするために、川が比較的近い位置にあることがわかる。相手に見つかりにくい場所ではあるが、同様に相手とモノリスを見つけにくい場所でもあった。
「まずは初戦だね。作戦はどうしようか」
幸先の良いスタートは、その後も良い状態で運ぶことができる。逆に悪いと、その後も尾を引きずってしまう可能性が高い。まだ未成熟な高校生ということを考えれば、是が非でも初戦を落とすことはしたくなかった。
「相手は六高か、前評判じゃたいしたことはないな」
島根県出雲市に設立された六高こと第六高校は、一学年の定員がわずか百名。その関係で第一高校のように一科生、二科生に分かれてはいない。武の三高・海の七高などとは異なり、あまりこれといった印象がない高校だ。
「油断は禁物だよ」
「言われなくてもわかってる。俺もそこまで馬鹿じゃない」
四十万谷と森崎のやり取りをみて、秋水は緊張しすぎることのない良い状態だと考えていた。もう少し緊張感があれば文句はなかったが、及第点と言ったところだろう。
(まあ、無理もないか。今回は油断したところでどうこうなる相手でもない)
どこにダークホースが潜んでいるかわからない。油断をして虚をつれるかも知れない。それが言えるのは、実力差がさほどない時だ。いくら油断したところで、鬱陶しくは思っても人が羽虫に負けることはありえない。もしも思わぬ伏兵が潜んでいたとしても所詮はじゃじゃ馬程度、取るに足らない相手でしかない。
「お前たちは好きに動いていい」
両者の顔色が僅かに明るくなるも、森崎はすぐに引き締めた。
「モノリスを放置しておくのは危険じゃないか?」
森崎の発言は、このチームが基本的に皆攻撃型だということを示していた。得手不得手もあるが目立つのはやはりオフェンスであることから、選べるならばそちらを選ぶということもある。
渓谷のような見晴らしの悪い場所では敵を見つけられずに、逆に敵が自陣のモノリスを見つけてしまう可能性がある。そのため選手たちは、いかにして相手の位置を把握し、加えて自陣と敵陣のモノリスとの距離を考慮することが非常に重要になってくる。肉体こそ動かすが、盤上で行われる将棋やチェスなどのように頭を使うものでもあった。
「問題ない。そこは俺がカバーしよう」
学内においては十文字克人という最大の存在がいるが、一年生に限って言えば裏葉秋水という存在も肩を並べるほど。初めこそは出る杭の類だったのかもしれないが、突き抜ければ杭は太い柱へと変わる。叩いても、叩いても揺るぎない屈強な柱からは枝が生え始め、いつしか尊敬や羨望、信頼などといった葉を芽吹かせる
彼らからすれば、攻撃を任されたということは、信頼を置く一方で秋水からも一定の信用を得ていることを意味している。
「もし自分の力が心配ならば、それぞれに一人ずつ付けるが、どうする?」
二人で事足りる。そう思われている以上、その期待に答えないわけには行かないのが男というもの。
「大丈夫」
「問題ない」
二人の返事はなんとも頼りがいのあるものだった。
常に真後ろについている必要はない。むしろ突破された場合を想定して、モノリスを守る
話がある程度まとまったところで、タイミングよく開始の合図が告げられる。
秋水は自信を持てと言わんばかりに、森崎と四十万谷の肩に軽く手を当てた。
これから始まるのはただの試合ではなく、ワンサイドゲームになるだろう。
「さて、いくか」
渓谷のステージは、場所が富士ということもあって天然のものではない。森を開拓して「く」の字に折れ曲がった谷間を作り、そこに水を流して作り出された人工のもの。水の深さも最大で五十センチメートルのために、溺れてしまうようなことはない。ただし、流水の速度いかんでは水に浸かっている者の動きを完全に支配することもできる。人工的に作り出されたフィールドは、魔法師のアイディア一つで有利な状況を作り出せるように工夫されていた。例えば、将輝ならば水そのものが爆薬となる爆裂を持っている。調整して水蒸気を作り出すことなど造作もないことだった。
モノリス・コードは不正防止のために、選手たちを監視用のカメラが追いかけている。そのため後ろ姿を映すことが多く、今現在は二つのカメラが写した映像が大型のディスプレイに出力されていた。
一方の映像はただ立っているだけの選手のもの。もう一方は倒れているか、視点がかなり低かった。後者のカメラが動き、三つの勾玉模様を宿した紅い眼が映る。
「やっぱり、彼の幻術にどう対処するかが肝になりそうだね」
第三高校の陣営において、ジョージこと吉祥寺真紅郎が呟く。
同じ場所で見ていた大和と将輝は、言葉こそ返さなかったがそれぞれ別の表情を浮かべていた。前者は苦虫を噛み潰したかのような顔をしている。持っていたかもしれない力の有用性が事あるごとに示される度に、嫌な思いがカビのように根を張っていくのかもしれない。
映像の中で、秋水が持つ拳銃型CADの銃口が突きつけられる。起動式が展開され、倒れている選手は完全に動かなくなった。無表情で行われたその挙動からは、絶対的な差を感じさせるには充分だった。
「開始三分で一人、圧倒的だな」
正確には、二分五十一秒。
試合時間は平均しても三十分もかからないが、それでもずば抜けた早さだった。目を付けられた選手は、不幸としか言い様がない。
「そうだね。将輝だったらどう相手する?」
「そうだな……得意な遠距離戦に持ち込んで眼を見ないようにする、かな」
これとった良案が思いつかず、断言できずにいた。
「将輝にしてははっきりしないね」
「俺が知っている中で一番強い相手だからな。何が起こるかわからないさ」
「その割には嬉しそうだけど?」
写輪眼の真価は、アイス・ピラーズ・ブレイクのような競技形式ではなく、モノリス・コードのような実戦形式で初めて発揮される。それを持つ秋水の戦闘スタイルがそれを最大限に発揮するように作られていったことは、至極当たり前。つまり、次に当たるときは先日よりも手ごわくなっているということ。将輝は今度こそはと思うと、自然と口角が上がってしまった。
「そうだろうな」
想定していた答えと違ったのか、吉祥寺は少し意外そうな顔を浮かべていた。
「大和ならどうする?」
「……将輝と同じだが、気をつけなきゃいけないポイントがいくつかある」
「ポイント?」
将輝が言葉に反応する。
「あいつの眼は、俺たちのサイオンやプシオンを色で捉えると言われている。多少の障害物程度ならば、それ越しに看破できるそうだ。それに眼にばかり気を取られていると、他の五感で幻術にかけられる可能性もある」
幻術は五感(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚)のいずれかに訴えかけて嵌める魔法。写輪眼は視覚を通じて夢幻に誘うが、それのみを使うとは言い切ることができない。同じ視覚で嵌めるにしても、熟練した者ならば指先一つでも動かせば可能。眼にばかり捕らわれていては、いつの間にか別の手法で現実から切り離されてしまうこともありえる。
「だから、あいつと戦う際には常にこちらの数を多くしておく必要がある」
幻術に掛けられている時には身体を流れるエネルギーの流れが乱れている状態であり、現実に引き戻すにはその流れを正常に戻す必要がある。個人でも可能だが、幻術のレベルによっては抜け出すことは難しく、第三者の力を借りたほうが戻りやすい。
「それじゃあ、常に
「それならいっそのこと遮蔽物がない場所の方が良いな」
下手に固まって動いてしまい、遮蔽物も多い場所の場合、モノリスを気にしながらも秋水の存在を警戒しなければならない。後手に後手にと回っていくその流れは本来の力を出し切ることは非常に困難であり、いっそのこと全選手の位置を把握できる場所の方が何かと良いと将輝は考えた。
「うん。僕も将輝の考えには賛成だ。場所を……そうだね、平原に仮定した場合彼さえ対処できれば後は――」
言いかけた時に試合終了を告げるアラームがなった。見れば、第六高校の選手全員が戦闘不能に陥ったようだった。
「他の二人も注意しておかないとな」
問題ない。とでも言おうとしたのだろうと考えた将輝は軽く肩を竦めた。
仮にも秋水とチームを組む人間が簡単に攻略できるような魔法師ではない、と将輝は考えていた。現に名前を見れば、両名とも見知った名前だ。チームが編成されてからは、基礎能力が底上げされているのだろうことも、想像に難くなかった。
「みたいだね」
苦笑しながらも吉祥寺の表情は既に作戦を練り始めているものであり、そんな相棒に将輝は頼もしさをひしひしと感じていた。