仮面ライダームラサメ/スピンオフ 仮面ライダーヴァジュラ   作:teru@T

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はじめまして。teruと申します。
あらすじにもある通り、本作品は正気山脈様が連載中の『仮面ライダームラサメ』、そのスピンオフ作品となります。

こちらでは初めて、他の場所でも長らく執筆活動から離れておりましたが、ムラサメの世界観と素敵なキャラクターたちに触発されこの度、再び筆を執ることを決意いたしました。
あの物語の雰囲気を少しでも再現できていれば幸いです。
それでは、ヴァジュラ本編をお楽しみください。


第一頁[紅き番人は昏き森の遺跡を護る]

「本当にやめてしまうのか?」

 

 オフィスルームの主人である男は何度目かになる問いかけを前に立つ白衣の男に投げ掛ける。

 それに対して白衣の男は俯いたままコクリと頷き、手に持っていた一式の道具と辞表を机の上に置く。

 腰に巻き付けるベルトと2種類の弾丸のような物、そして黒い銃のような物。どれもまだ新しいのか、あるいは丁寧に使っているのか傷も汚れもない綺麗なものばかりだ。

 

「自分はもう……戦う理由を見出せません。いずれご迷惑を掛けるぐらいなら潔く身を引くのが組織のためだと思います……勝手を言って申し訳ありません、支部長」

 

 深々と頭を下げる白衣の男。支部長と呼ばれた男は深いため息を吐きながら「わかったから顔をあげなさい」と諦めた様に口を開いた。

 

「本音を言えば引き止めたいが……君の心中を考えるとそれも野暮だろう」

「……すみません。ありがとうございます……では」

 

 白衣の男は死んだ魚のような生気のない瞳のまま、フラリと所長に背を向けて部屋の外へと向かう。

しかし、男が扉を開くよりも早く、出入り口の扉が外からバンッと開かれ、一人の女性が長い黒髪をなびかせながら男の前に立ちはだかった。

 

「失礼します、支部長。少しお話よろしいでしょうか」

紅芭(くれは)くん……話は構わないが……大丈夫なのかね?」

 

 凛とした口調の紅芭と呼ばれた女性は白衣の男の横に立ち、支部長のことを射殺すような視線を向けながらも「何も問題ありません」と答えた。

 

「紅芭……さんもお話があるそうなので、失礼します」

 

 白衣の男はそのまま部屋を出ようとするがその肩を紅芭が掴み、静止した。

 

「あなたにも話があるから今来たの」

「……僕はもうやめますから、関係ないですよ」

「関係ある。今、あなたを一人にはできない……一人にして後追いでもさせたくないから」

「……」

 

 白衣の男は沈黙を貫く。その意味するところは紅芭も支部長も理解しただろう。

 

「……どうせ捨てるつもりならあなたの命、私に寄越しなさい。支部長、お願いがあります」

「……叶えられるかは内容次第だが、聞くだけは聞こうか」

 

 肩を強く掴まれているため進むに進めず、白衣の男は紅芭と支部長の会話に耳を傾けるしかなかった。

 

「ミシアの洞窟管理の件……私と彼で受けるとイタリア支部に掛け合っては貰えませんか? もちろん、ドライバーと一緒に。それなら断られることは無いんじゃないですか?」

「なっ……何を勝手なことを……っ!?」

 

 突然、名指しされた白衣の男は取り乱し、抗議のためにそれまで俯いていた顔を上げて紅芭の顔を見たところで言葉に詰まった。

 普段と変わらぬ様子で話していた紅芭の顔は決意と覚悟を秘めてはいたが、目は赤く泣き腫らし緊張の糸が切れれば泣き出してしまいそうなそんな顔をしていた。

 

──────数時間前、鏡の前で見た自身と同じ顔をして同じ答え(諦め)ではなく、覚悟を決めた彼女の決定を……あぁ、誰が断ることができるだろうか。

 

 その先、男が彼女の決定に異を唱えることはなかった。

 

 

そして時は流れ舞台は移り、今へと至る──────

 

 

 

2022年4月中旬───

 

 ボォオオオオと船の汽笛の音、カモメの鳴き声、堤防に打ち寄せる波の音……多くの音が響く港町。

 

 ここはイタリア、カラブリア州にあるイオニア海に面した街、ミシア。

その穏やかで暮らしやすい街の一角に居を構えた古書店

『Fiori di ciliegio』

 

 ジャンルや本種などは乱雑だが整然と新旧入り交じる数々の本が並べられ、客のいない静かな店内では一人の女性がノートパソコンに目を落とし作業に没頭していた。

 

 彼女の名は紅芭(くれは)・コルシーニ。

 イタリア人の父を持つが母の血が濃く出たのか美しく長い黒髪と切れの長い厳しい顔つきに見える瞳は紅く宝石のようであった。

 

「……メール?」

 

 作業をしていたウィンドウとは別にポップアップした通知からメールを確認し、細い目が更に細くなったのと入り口のベルが鳴るのはほぼ同時だった。

 

「あの~すみません。少しよろしいですか?」

 

 入り口に目を向けると一人の女性が戸を開けて覗き込むように立っていた。

 元々、街の人間以外利用することは少ない店のため、客の殆どは顔見知りだがその女性は初めて見る客だった。

 

「いらっしゃいませ。なにかお探しですか?」

「あ、いえ……あの、こちらに女の子が来ませんでしたか?」

「女の子ですか? いえ、来ていませんが」

 

 突然のことにキョトンとしながら受け答えをする紅芭に女性は「そう、ですよね……すみませんでした、失礼します」と言って扉を閉めて出ていこうとするが

 

「あ、待って。迷子でしたら特徴を教えて下さい。一緒に探しますよ」

「えっ、でも……お店が……」

「こんな調子ですから……一日閉めたところで変わりませんから」

 

 自虐的な笑みを薄く浮かべながら女性を店内に招き、扉の『APERTO(営業中)』の看板を『CHIUSO(閉店)』へと裏返し、扉を閉めた。

 

********

 

 女性の話によるといなくなったのは彼女の一人娘である、マローネという栗色の髪の小学生くらいの少女だという。

 彼女たちは父親が失踪してしまったため、親戚を頼りこちらに越してきたばかりで、家の整理をしていたところ気がついたらマローネがいなくなっていたらしい。

 

「娘は旦那に懐いていましたから……引っ越しをする前も何度も『引っ越したらパパが帰ってこれない!』と……なので旦那を探しているんだと思います」

「なるほど……あの、失礼でなければ旦那様の失踪の理由に心当たりなどは……?」

「それが……何も心当たりが無いんです。私と娘のことを愛していてくれたと……思います。いなくなった当日もいつも通り、出社して、職場の方に聞いたら普段通りに退社したと……でも、帰ってこなくて」

 

 そこまで語ったところで現界が来たのか、涙が溢れ出していた。

 すかさず、紅芭は自身のハンカチを差し出し、「どうぞ」と涙を拭くように促す。

 

「すみません……ありがとうございます……マローネも旦那のようにいなくなったらと思うと……」

「辛いことを聞いてしまい、申し訳ありませんでした……。少し、休んで落ち着いたら街の中を一緒に探しましょう」

「ありがとうございます……でも街の中は殆ど見て回りましたから……街から誰か出ていないか確認したら森の方を……」

「森に行くのはおすすめしません。あちらは昼間でも鬱蒼としていて慣れない人間では迷ってしまいます」

 

 ピシャリと言い放った紅芭に「でも……!」と言い返そうとヒステリックに言い放ち、紅芭を睨む。

 しかし、冷静な彼女のことを見るとすぐにはっとした様で目を伏せた。

 

「あ……すみません。気が動転していて大きな声を……」

「いえ、私も言葉が足りませんでした。森の捜索を諦めろ、ということではないんです。私”達”に任せていただきたいんです」

「えっ……? あの、私達、ですか……?」

 

 困惑する女性を余所に紅芭はN-フォンを操作し、どこかへ送るメールを作っていた。

 

「えぇ。ちょうど今、知人が森に散歩に行ってるので、マローネちゃんを探して貰うように頼みました。彼なら森にも慣れてますからそちらにいるならきっと見つかりますよ」

 

 安心させるように女性に微笑みかけると同時に、彼女の知人(パートナー)へとメールを送った。

 

*********

 

 鬱蒼と木々が茂る森の中、栗色の髪の少女───マローネは黙々とミシアから離れるように歩いていた。

 幼いながらにも知恵を働かせた彼女は道を通れば見つかりやすいと考え森を抜け、隣の街へと行こうと考えたのだ。

 少し考えれば道なき道をゆく危険性などすぐに浮かぶだろうが少女はそれ以上に父に会いたい気持ちが勝っていた。

 

「待っててねパパ……一人じゃ寂しいもんね……いま会いに行くからね!」

 

 自らを鼓舞するようにつぶやきながら森を歩き続けると開けた場所へと出た。

小高い丘になっている森の広場。鬱蒼と茂り、太陽光すら届きづらく薄暗かった森の中、日が当たるどこか神秘的な場所だった。

 

「すごい場所……ちょっと休憩しよ」

 

 昼前に母の目を盗み抜け出してから数時間、見つかってしまっては連れ戻されると街の中は警戒しながら気を張り詰め、慣れない森の中を歩き通していたため、マローネ休める場所を探す。

 そうして丘の斜面に沿って歩いていると洞窟があるのを発見したのだ。

 近づいてみればロープで入り口が封鎖され『VIETATO ENTRARE(立入禁止)』と看板まで付いていた。

 

「立入禁止……なら、ここには誰も入ってこないってことだね!」

 

 自身に都合よく解釈をしてこれ幸いとロープを潜り、奥へと進む。

 が、当然明かりなどはなく、懐中電灯のような物も持ってきていなかったため、結局は入口付近の石に腰を下ろし、水筒に入れたドリンクを飲んだ。

 そして一息つくと……ジャリッと洞窟の奥から音が聞こえた。

 

「? 何の音?」

 

 気になったマローネが洞窟の奥を覗き込むがそこには闇が広がっている。

 しかし、その闇の奥からジャリッ、ジャリッと規則的に響く何かが地面を踏みしめる音がこちらに向かって近づいてくる。

 

「誰か……いるの……?」

 

 答えはなく、近づいてくる音に不安を覚えるマローネ。次の瞬間、彼女の目の前がピカッと光りに照らされ、視界が奪われる。

 

「きゃ……ッ!!」

 マローネは恐怖に怯えながらも出かかった悲鳴を押し殺し、口を抑え、目を瞑る。

 正体の分からないなにかに襲われる……そう思い身構えたが、次にやってきたのは

 

「街の子供かい? 立入禁止の看板を出してたはずだけれど……?」

 

 少したどたどしい発音の男性の声であった。

 

「……あぁ、いや、大丈夫? まさかどこか怪我を……?」

 

 顔を覆ったままであったマローネに何かあったのではないかと男の声色が変化するのを聞いてマローネも恐る恐る目を開くとそこには一人の男が懐中電灯を片手に立っていた。

 この辺りでは珍しい黒の髪、少しよれた黒のスーツと白のシャツを着た、アジア系の男性だった。

 

「あっ……だ、大丈夫! びっくりしちゃっただけ!」

「そう、なら良かった。でも、ここは立入禁止」

「あなたも入ってるじゃない! しかも奥から来たし!」

 

 安心したのか、怒ったように男性に詰め寄るマローネ。男性はそれに動じず、「僕は関係者だからいいんだよ」と答えを帰す。

 

「ここは崩れるかもしれなくて危ないから、街の人達には周知してたと思うんだけれど……」

「この街に来たのはつい最近なの! でもね、今から前の街に戻るところ! あ、私ね、マローネっていうのよ! お兄さんは?」

 

 捲し立てるように次々と会話を続けるマローネに「順番に話すから少しゆっくり……」と辟易しながらも男性はマローネの隣に腰をかけ、話し始める。

 

「僕は篠原応孥(しのはら おうど)。前の街に戻るって言うけどどうやって? この先は山越えだよ?」

「オード? 不思議なお名前ね! 大丈夫! きっと帰れるわ! パパに会いに行くの!」

「お母さんには言ったの?」

 

 応孥の言葉に「それは……」と詰まるマローネ。

 

「何があって君がお父さんと別々に暮らしてるのかは知らないけどそれはダメだよ。お母さん、心配してるよ。きっと」

「……知らないもん! パパが帰ってこないのにお引越ししちゃうママなんて!」

「……どちらにしても、今から向かっても歩いてでは隣街に行くのにも日が暮れて危ないから。今日は帰ったほうが良い」

 

 諭すように話す応孥だが、意固地になっているマローネは「そんな事無い! 行けるもん!」と涙を必死に堪えてピョンっと立ち上がると、静止する暇もなく洞窟を飛び出し、森へとかけて行ってしまった。

 

「あっ……行っちゃった……流石に追わないとまずいかな」

 

 困ったように頭をかきながら彼女が消えていった森の方を見つめているとN-フォンにメールが届き、確認すると紅芭からだった。

 

「これは……いや、うん失敗したなこれ……急がないと」

 

 紅芭に返信となるメールを送り返すとすぐに応孥もマローネの後を追って鬱蒼と茂り、夜のように昏い森へと入っていった。

 

 

*********

 

 ガサガサっと草木をかき分けながら森の中を走るマローネ。

 元々、宛もなく進んでいたため道なども分かるはずもなく、ただひたすらに森を走り続ける。

 

「何よ何よ! ママもあのおじさんも! 私はパパと会いたいだけなのに! ……きゃっ!?」

 

 涙を堪え、前をまともに見ずに走っていたこともあり、飛び出した木の根に足を引っ掛けて転んでしまった。

 きれいだった服も父親と同じで自慢だった栗色の髪も堪えきれなかった涙で濡れていた顔も泥で汚れてしまった。

 

「痛い……けど、泣かない……パパに会うんだもん……絶対泣かないもん!」

 

 自らを奮い立たせ、顔についた泥を拭う。派手に転んだが運良く大きな怪我はせず、再び進もうと思った時、後ろの草むらがガサガサと音が鳴る。

 

「もう、おじさん! 私のことは放っておいてよ!」

 

 応孥が自らを止めるために追いついてきたのだと思ったマローネが振り返る。

 しかし、そこにいたのは応孥では……いや、人間ではなかった。

 

「声がすると思えば……美味そうな子供がいるじゃあないか」

 

 まず目についたのは鋭く尖った頭部の一本の角。全身は白い体毛に覆われ、大きな足と長い手の先には鋭い爪が生えている。そして角の横には大きく長い一対の長い耳があり、両の瞳は宝石のように赤くマローネを見据えていた。

 

「うさ……ぎ……?」

 

 自身の知識を逸脱した存在に思考が停止し目を見開き、見たままの印象を語るマローネ。

 

「くくくっ、確かにウサギだが俺はその辺の草なんかは食わねぇぜ?」

 

 マローネの反応をあざ笑いながら爪を舐めながら怪物はマローネへと一歩ずつ近づいていく。

 その様子にようやく思考が恐怖にたどり着いたマローネは「こ、来ないで!」後ずさる。

 

「くく、よく見れば栗毛じゃないかぁ。前の街で食った栗毛も旨かったからなぁ、子供の、しかも女ならさぞ極上の味だろうなぁ」

「いや! あっち行ってよ! 近づかないで! ……きゃっ!?」

 

 距離を離そうと後退るが背後の木に気づかず、背中をぶつけ、恐怖に耐えきれなくなったのか膝が笑い、その場にへたり込んでしまった。

 

「いや……いやぁ……助けて、パパ……ママ……!」

「そうか、両親もいるのか! なら、お前を餌におびき寄せたほうが腹が膨れそうだなぁ。よし、決めたぞ。女、お前はまだ食わないで置いてやるよ」

 

 何かを思いついたのかピタリと化物は足を止め、マローネをニヤリと嫌らしい目で見る。

 直前に迫っていた恐怖が気を変えたことに「……えっ?」と訳がわからないという様子で呆けているマローネの前で化物は身を屈め、ぐっと足に力を込めた。

 

「お前を俺の自慢の角で突き刺して探してきた両親と一緒に食ってやるよぉ!」

 

 ダッと地面を踏みしめ、鋭利な角を向けてマローネへと突撃する化物。

 

「いやああああああ!!」

 

 パパに会うまではと我慢していた涙もママに心配かけたくないからと堪えていた叫びも目の前に迫った明確な死に涙を流した両目を深く瞑り、恐怖の叫びを上げた少女に鋭い切っ先が突き刺さる───

 

《マグマ!》

《サラメーヤ!》

 

「なっ!? ぐおおお!!」

 

───ことはなかった。

 

 何かの電子音が聞こえたと思った次の瞬間、肌を焼く熱を目の前から感じた。そしてその熱が離れるのと同時に化物の叫びと地面を引きずられる音が横から響く。

 

「何? 何が、起こったの……?」

 

 恐る恐る目を開けてみると角を構えた化物目の前にはおらず、のたうち回りながら自身から離れたところで倒れていた。そしてなぜか周りの草が黒く焼け焦げている。

 

「ぐぉおおお、熱い……! 今のはまさかっ!?」

 

 体勢を立て直し、立ち上がった化物は焼け焦げた草が引くラインの先を見た。

 

Loading Color(ローディング・カラー)!》

Calling(コーリング)!》

 

『バォオオオーン! グォオオオーン!』

「ぐおおお! またか!?」

 

 今度は何が起こったのかはっきりと見えた。

 化物が見つめていた先から赤い炎を撒き散らす2匹の赤褐色の犬が飛び出してきたのだ……しかもただの犬ではなくどちらも目が4つ付いている。

 突如現れた二匹の犬はウサギの化物に突撃し化物を吹き飛ばす、相当な熱を帯びているのかぶつかるだけでジュウウウ!と肉が焼けるような音を立て、化物を吹き飛ばし、その姿を消した。

 

「遅くなってごめん。怪我はしてない?」

 

 犬たちが現れた方から遅れて現れたのはマローネにとっては見覚えのある人物だった。

 先程、立入禁止の洞窟であった男、応孥が黒い銃のようなものを化物に向けたまま現れたのだ。

 

「あなた……確か、オード!」

「うん、さっきぶりだね……メールにもう少し早く気づいてればこんな怖い思いはさせなかったのに……ごめん。立てるかい?」

 

 差し出された左手を掴み、立ち上がるマローネを申し訳無さそうに応孥は見た。

 恐怖こそまだあるものの一連の出来事に混乱をして逆に落ち着いたのか、はたまた応孥が現れたためかマローネの足の震えは止まっていた。

 

「今、君のお母さんと僕の仕事仲間が君を探してこっちに来てる。これ持って行って。地図は読める?」

 

 そう言って少し操作した後、自らのN-フォンをマローネに手渡した。画面には地図アプリが起動しており、現在位置を示すマークと街からこちらに向かってくるマークが光っている。

 

「それ持っていればあっちにも居場所がわかるからそれで合流して」

「う、うんでも……ママに会ったら……」

「……お父さんのことがとっても大切で大好きなんだね。マローネちゃんは」

 

 落ち着いたことで先程までの自身の目的を思い出し、母親に会うことに抵抗感があるマローネに応孥は言葉を投げかける。

 

「それで会えないのが寂しいのは分かるよ……でもね、それを理由にして周囲に心配させていい理由にはならないんだ。そんなことをしたらお父さんもきっと悲しむよ」

「あっ……」

 

 パパも悲しむ、その言葉と今の状況で自分の目的(わがまま)がどれだけ周囲に迷惑をかけていたかマローネは理解し俯いてしまう。

 

「……さぁ、行って! 大丈夫、お母さんもきっとお父さんのことは心配してるから、だから帰って怒られても今度は一緒に探しに行くんだよ」

「う、うん! ……あ、オードはどうするの!?」

 

 応孥の言葉に覚悟を決めて走り出そうとした時、ふっとした浮かんだ疑問を投げかける。

 

「僕は……あいつをどうにかしたら行くから。後、このことはお母さんには秘密にしておいてね」

 

 シッと人差し指を口の前に立て、すぐに化物の方に向き直る。

その姿と先程の炎の犬を思い出し、マローネは「わかった! 絶対戻ってきてね!」と改めて地図を頼りに走り出した。

 

「ぐおおお! 逃げてきたのにこんなところにもいるのか! 封魔司書めぇ!」

 

 熱にのたうち回っていた化物がようやく立ち上がり、憎々しげにその赤い瞳を応孥へと向ける。

 

「その角と耳……アルミラージだな。別の街からここまで逃げてきたのが運の尽きだ」

「うるせぇ! 1人ならどうってことねぇさ! お前もあの栗毛の子供も喰ってまた別の場所に逃げるだけだ!」

「いいや……逃さないし…この先にも行かせない」

 

 手に持った銃───《レリックライザー》から2つの弾丸(カートリッジ)状のものを取り出した。色はペルシアンレッドとレッドディッシュブラウンの二色。

 《モンストリキッド》と呼ばれる、目の前に立つ化物───《戯我(ギガ)》を調伏するため、力を与えてくれるアイテムだ。

 

《レリックドライバー!》

 

 弾丸を抜いたレリックライザーをベルトのバックルに装着。先程の二色のモンストリキッドを起動した。

 

《マグマ!》

《サラメーヤ!》

 

  淡い赤と赤褐色、似て非なる二色に輝くそれをレリックドライバーのスロットに装填、そしてグリップと反対にあるハンドルを引っ張った。

 

Loading Color(ローディング・カラー)! GRADATION(グラデーション)!》

 

 銃身のエネルギーラインが淡い赤と赤褐色に輝き、カートリッジも交互に明滅する。

 そして応孥がグリップに手をかけるたまま、その引き金(トリガー)を弾いた。

 

「変身」

BRUSH-UP(ブラッシュ・アップ)!》

 

 鳴り響く音と共に応孥の頭上に淡い赤色、足元に赤褐色の五芒星が描かれ、それぞれが重なり合おうとするように移動を始める。

それに合わせて応孥の身体にも変化が起きた。

 赤褐色の星が通り抜けると全身が赤褐色のインクのような液体に包まれ、細胞組織のようになったそれが応孥の身体と合身して『上塗り』し、身体を変質させつつ外骨格を描き出す。

 続いて淡い赤色の星を潜ると、生体装甲が煮えたぎるマグマを帯びて肩や腕、脚部などが淡い赤色に染まっていき、頭部には本来は一対のはずのアイレンズ二対並んで現れ、白く輝く。

 そうして五芒星の消失とともに現れたのは硬く熱い、肩には火山の噴火口のような装甲を、そしてそこから流れ出す溶岩を彷彿させる淡く鮮やかな赤色の装甲を各所に纏い、獣を象った甲冑に身を包む四つ目の戦士だった。

 

《噴き上がる紅熱の番人! マグマサラメーヤ!》

『バォオオオーン! グォオオオーン!』

 

「仮面ライダーヴァジュラ。この先に君の色は残させない。ここで僕が塗り尽くす……!」

「ちぃ、霊装使いだろうと関係ねぇ! 死ねぇ!」

 

 アルミラージ・ギガが恐れずに跳躍し、その爪で応孥が変じたヴァジュラへと迫る。

 しかし、ヴァジュラはそれに対して慌てずに両腕を構えファイティングポーズを取るとその腕に新たに肘まで覆い、手も平たい円の様なグローブになっている手甲で包まれた。

 

A(アーティフィシャル)ウェポンG/D(ジー・ディー)!》

 

  迫る爪はG(ガントレット)モードのAウェポンで包まれた左腕で受け止める。ガキンッという音とともに激突するが手甲には傷一つ付けることができない。

 

「なにぃ!?」

「お返しだ……!」

 

 爪を受け止めたことで無防備となったアルミラージの腹を右の拳を叩き込む。

爪を受けても傷つかない強靭な武装に包まれた拳に勢いを載せた一撃はアルミラージにめり込みそのまま吹き飛ばす。

 

「ぐぅっ!?」

「まだまだ!」

 

 吹き飛んだアルミラージに近づき、右、左、右、とデンプシーロールの要領で連続で拳を叩き込む。

 体勢を崩して防げきれないアルミラージは拳が命中するたびに血のようにインクを撒き散らしながら後退させられ、最後のアッパーで宙を舞った後、地面に叩きつけられた。

 

「ぐぉおおお……ボコスカ殴りやがってぇ……! なめるなぁ……!」

 

 自慢の跳躍力を利用し、地面から跳ね起きるとそのまま飛び上がり、木を足場にして水平に飛ぶ。

 己の身を弾丸か槍のように真っすぐ伸ばし、頭部の角でヴァジュラを突き刺そうと飛ぶ。

 

「その程度どうってことない!」

 

 ガントレットで角をいなし、反撃をしようと拳を突き出すとアルミラージは待ってましたと言わんばかりに反転、今度はその拳を蹴り、パンチの勢いも利用して跳ぶ。

 

「なに……!?」

「くくく! 利用させてもらうぜぇ!」

 

 加速したアルミラージは跳弾のように木を蹴り、森の中へと消える。

 四方八方からガサガサという草木をかき分ける音とダンッ、ダンッと木を蹴る音が鳴り響き、次第に強く、速くなっていく。

 

「けけけ! いくら硬くともこんだけ速ければ止められまい! 串刺しにしてやるぜぇ!」

「……」

 

 どこからともなく声が響く。ヴァジュラは周囲の音に耳を研ぎ澄ましながらも手甲ごと両の拳を合わせ、その時をまった。

 

「今度こそしねぇ!!」

 

 絶叫と共に一際大きな跳躍音、そしてその勢いで木がへし折れる音がヴァジュラの背後から響く。

 

「お前のことだから背後から来るって思ってたよ!」

 

 予想をしていたため、振り返りながら右手を手甲から引き抜き、腰からレリックライザーとは違う銃を引き抜く。

 レリックライザーよりも一回り小さく白にS字型のラインが引かれており、グリップ底部にモンストリキッドの読み取りができるようになっていた。

 武器の名は《S(サプリメン)トリガー》。

 応孥が自身の戦闘の幅を広げるために開発したAウェポンに続く武装である。

 早打ちのように背後に迫ったアルミラージの顔を撃ち抜く。

 

「ぎゃあっ!?」

 

 反撃は来ないと高をくくっていたアルミラージは予想外の反撃を受け怯み、両目を覆う。

 威力が低かったため、その攻撃でアルミラージの勢いは殺しきるには至らなかった。しかし。減速して明確な隙きが生まれたところにヴァジュラは左腕を前へと突き出した。

 キュイイイイインという回転音と共に突き出された左腕には拳を打ち合わせたそのままの形で合体し、先端から伸びる3本のクローが高速回転する、AウェポンD(ドリル)モードへと変形させていた。

 

「砕……けろ……!」

 

 

 角の側面からドリルをぶつける。高速回転するクローが角を捉え、回転に巻き込むとアルミラージを地面に叩きつけ、更に回転することでパキンっと軽快な音を立て、その自慢の角をへし折った。

 

「ぎゃああああ! 俺の角があああ!」

 

 のたうちまわりながらも距離をとったアルミラージは改めて自らの角が折れたことにヴァジュラに対して怒りよりも恐怖を感じていた。

 

「さてと……覚悟はいいかい?」

「ヒィ……て、てめぇなんかにやられるかよぉ……!!」

 

 まさに脱兎の如く、トドメのためにヴァジュラが一歩近づいたその瞬間、アルミラージは背を向けて走り出そうとする。

 しかし、それもヴァジュラは想定していたのか淡い赤色(マグマ)のモンストリキッドのスイッチを押し込み、素早くトリガーを引いた。

 

《マグマ!》

「神器解放!」

Calling(コーリング)!》

 

 肩の火口の様な砲門からマグマの塊が射出され、アルミラージの足へと着弾する。

 粘り気のあるマグマが足に纏わり付き、その熱により足が焼かれ、嫌な匂いが周囲を包むがヴァジュラは気にする様子もなく、続けざまにSトリガーの底面に3本目のモンストリキッドをリードする。

 ウルトラマリンブルーの濃い青色のモンストリキッドだ。

 

《オーシャン!》

Filling(フィリング)!》

 

 SトリガーのS字のラインがモンストリキッドと同じ濃い青色に染まったのを確認し、足に纏わり付かせたマグマへ向けて引き金を引く。

 射出されたのは光弾ではなく、水の弾丸。着弾することで白い煙を上げながら蒸発し、マグマを冷やして固め、黒く強固な溶岩でその足を拘束した。

 

「な、なんだよこれは!?」

「すばしっこいのは分かっているからね……これでもう逃げられない」

「畜生! くそっ、割れねぇ!」

 

 ガシッガシッと自由な足で固まった溶岩を蹴るが砕くことができず、引き抜くこともできない。

 

「調伏する前に聞いておきたいんだけど……ここには何のために来たんだい?」

「はぁ? 目的なんかねぇよ! テメェらが鬱陶しいから逃げてここまで来たに決まってんだろ!」

「そうか……遺産(ロスト・テクノロジー)狙いじゃないんだね。なら聞くことはもう何も無いよ」

 

 そう言って、ヴァジュラはドライバーのグリップを握り、変身したときと同じ様に引っ張った。

 

Reloading Color(リローディング・カラー)!》

 

「ま、待て待て待てぇ! あ、あれだろ!? も、もちろん知っててここに来たさ! だ、だから許してくれぇ!」

「悪いけどそんな言葉じゃ僕は動かせないよ……!」

Last Calling(ラスト・コーリング)!》

 

 しどろもどろに苦し紛れの嘘を付くがヴァジュラは聞き入れず、トリガーを指で弾く。

 4つの瞳が煌々と赤く輝き、全身の装甲が展開、排熱するかのように生体器官が露出される。

 赤と赤褐色、似て非なる二色の光を噴出してヴァジュラは空高く飛び上がる。

 

《マグマサラメーヤ・クロマティックストライク!》

「はああああああ!」

 

 火口のような装甲からマグマを噴出させ、その身に纏い、錐揉みに回転しながら右足を突き出しアルミラージの胴を捉える。

 高速の回転とマグマの熱で焼き尽くし、そのまま穿つと地面に激突しまるで火山が噴火したかのような爆音を響かせ、同時に黒く変色したアルミラージの肉体が爆散した。

 散ったマグマとアルミラージのインクの残滓が塵となって消え、後には墓のようにアルミラージの自慢であった角のみが残っていた。

 

「……調伏、完了」

 

 変身を解除した応孥は遺留物であるアルミラージの角を持ち帰るために手を伸ばしたがピタリと直前で止める。

 

「……後で取りに来るかぁ」

 

 もう1つの用事を思い出し、そのまま放置すると街へと向かって歩み始めた。

 

 

*********

 

 

 応孥が『Fiori di ciliegio』に戻ると店内には紅芭の他に2人、泣きながら抱き合う顔に絆創膏を付けたマローネとその母親であろう人物がいた。

 

「おかえりなさい。応孥」

「ただいま、紅芭さん……彼女、怪我は?」

「擦り傷とかあったけれど大きな怪我なかったわ」

 

 「なら良かった」と2人だけでの会話であるため日本語でやり取りをした後、こちらに気づいたマローネへと向き直る。

 

「オード! ママ、この人がオードよ! 助けてくれたの!」

「ありがとうございました……! 野生動物(・・・・)に襲われているところを助けていただいて……!」

 

 野生動物、母親がそういったところを見るに紅芭からはそうやって説明を受け、マローネも約束を守り、黙っていたようだ。

 

「えぇ。たまに山の方から迷い込んでくるようで……まぁ、対処方法は分かっていればいいですが、可能な限り1人では森に入れさせないようにしてくださいね」

「はい……はい……! 本当にありがとうございました……! 最近、旦那が行方を晦ましてしまって、この子までいなくなったら私は……!」

 

 ポロポロと涙を流す母親の姿に自らが起こした事の重大さに気づいたのか、マローネも泣きながら母親に抱きつく。

 

「ごめんなさい! ママ、ごめんなさい! もう1人で行ったりしないから!」

「私こそごめんなさい……引っ越しの片づけが落ち着いたら休みにパパを探しに行きましょうね」

「……」

 

 2人の様子に自分が何も言う必要もないと感じた応孥は静かにその様子を見つめていた。

 

「……お二人共、お疲れたでしょう? 今日は帰られてゆっくり休んでくださいね」

 

 紅芭が促すとハッとした様子で母親が改めて2人に頭を下げる。

 

「はい、また後日お礼に伺います……本当に、本当にありがとうございました!」

「オード! クレハ! ありがとう! また、来るね!」

 

 扉を潜るまで何度も頭を下げる母親とくしゃくしゃの顔に笑顔を浮かべるマローネを2人は笑顔で見送った。

 

「……旦那さん見つかると思いますか?」

「……信じるしか、無いでしょうね。別人だって。はい、あの娘から預かってたN-フォン」

 

 冷たく、まるで感情を押し殺したような声色でマローネから預かったN-フォンを応孥に押し付け生活空間となっている2階へと引っ込んでいく。

 

「……そうですね……もし別人じゃないなら……せめてもの仇は、とれたんでしょうか……」

 

 悲哀とも諦めとも取れる複雑な感情のまま、紅芭から転送されたメールに目を落とす。

 それは自らが所属するLibrary Of Thoth(ライブラリィ・オブ・トート)───『世界の均衡を保つ』ことを目的とした組織、その別の支部からの情報だった。

 街で幾人かを襲っていたアルミラージ・ギガがこちらの方面へと逃げたという報告、それと共に被害者と思われる行方不明者のリストだ。

 その被害者の中には栗色の毛が特徴的な男性も含まれていた。

 




最後までお読みいただきありがとうございました。
私自身が遅筆でありまた、ムラサメ本編の進行にあわせて進行していきますのでゆっくりと更新をしていく予定です。
どうか気長にお付き合い頂けると嬉しいです。
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