仮面ライダームラサメ/スピンオフ 仮面ライダーヴァジュラ   作:teru@T

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第十一頁「白日に晒されし奇縁」

「どういうこと……サンゴがLOTに捕まったって!?」

 

 先に帰宅していたロサードが帰宅したロキたちより聞かされた報告に目を見開き、震わせながら声を上げる。

 彼女の叫びにロキとペムベは目を逸らし、フィンブルは興味なさそうに手に入れたアンティキティラ島の機械を愛でるように撫でている。

 

「ねぇ! なんでサンゴを助けなかったの!?」

「それは……」

「私の判断だ。サンゴの救出は大門の奥にある力を手にし、LOTを壊滅させたうえで助け出す」

「パパ……でも、それまでサンゴは……!」

 

 自らの主であるロキの言葉、それにすら噛みつこうとするロサードだったが言葉が紡がれるよりも前に不安げに見つめたペムベに肩を掴まれたことで我へと返り、その言葉を心の内に飲み込んだ。

 

「……ペムベ、計画を詰める。可能ならば今夜にでも襲撃をかけたい」

「……わかりました」

「おや、扉を開くのに大切な私とは話さなくてもいいのですか?」

「いらん。お前はロサードと待っていろ……余計なことはするな」

「はいはい、神様の仰る通りに」

 

 わざとらしく仰々しく礼をするフィンブルと苦虫を噛み潰した様な顔で目を逸らすロサード、2人の様子を一瞥するとロキはペムベを伴い部屋を後にする。

 残ったのは重い沈黙とロサードのやり切れない思い……だが、それらはフィンブルによって引き裂かれることとなる。

 

「さてロキ(お父上)はああ言ってましたが……妹さんを助けたいんですよね?」

「うるさいな……パパが余計なことするな言ってたの聞こえなかったの?」

「私はサンゴさんがどこにいるか知ってますよ」

 

 フィンブルの言葉を聞いたロサードはバッと顔を上げ、フィンブルを凝視する。

 見上げた先にはフードに隠れた奥に映るニヤリとした笑みだった。

 

「もっと言うのなら彼女を助けた上に襲撃の手伝いにもなると思いますが……それでも黙っていた方がいいですか?」

 

 トドメとばかりにフィンブルの口から漏れる甘言。

 彼女と手を組む時にロキから言われた信用するな、警戒を怠るなという忠告をロサードは忘れてはいない。

 それでも、今の彼女を───大切な義妹(守るべき家族)を失いたくない彼女を止められる強制力はその言葉にはなかった。

 

 

「ロサードが1人出て行っただと……!?」

 

 1時間ほどのペムベとの話し合いを終えたロキたちが部屋に戻るとそこにいたのはフィンブル1人だけだった。

 

「えぇ、何をしにいくのかと聞きましたがあなたの言葉を借りて余計な詮索はするなと言われてしまいましたよ」

「そんな嘘が通じると思っているの……!」

 

 ロサードの所在を聞いた2人へと帰ってきたのは芝居がかった口調で語るフィンブルの言葉(虚言)

 それまで平静を装っていたペムベだったがそのフィンブルの様子に我慢の限界が来たのか彼女へと掴みかかる。

 胸ぐらを掴まれ壁へと押し付けられるがフードの奥の薄ら笑いを崩さないフィンブルに更に怒りを募らせたペムベはスキュラリキッドを取り出し、起動しようと手にかける。

 

「ペムベ! そこまでだ」

「ですが……!」

「そこまでだ。これ以上は言わせるな。そいつを離せ」

「ッ……わかり、ました」

 

 命令に従い、リキッドをしまうとフィンブルから手を離す。

 解放されたフィンブルはペムベの肩へと手を置き、「残念でしたね」とボソリとつぶやくとキッと鋭い視線で返される。

 

「フィンブル、これだけは教えろ。先ほど言った通り、この後襲撃をかける。それに問題は無いんだな?」

「先ほどお伝えした通り、私は何も知りませんが……えぇ、()()()()()()()()

「……ならば良い。だが、覚えておけ」

 

 ニタニタと笑みと共に返された言葉に目を伏せたロキは踵を返し言葉を続ける。

 

「力を手に入れた後は……まずはお前からだ」

「……わざわざ今、そんな脅すようなことを言う必要はないと思いますが……えぇ、そうですか」

 

 底冷えする様なロキの言葉。

 それでもフィンブルの態度は崩れない。

 

「楽しみにしておきましょう」

 

 彼女はただフードの下で笑みを浮かべる、ただそれだけだった。

 

 

******

 

 

 連絡を受け支度を終えた応孥と紅芭が病院へと到着した時にはすでに20時を回っていた。

 だが、まだ外は明るい。夏が近づくこの季節のイタリアにおいて夜の帳が降りるのは21時を過ぎてからだからだ。

 町で一番大きく絶えず人がいる印象の公立病院だがこの時間となれば一般の患者は少なく、面会に来る者も殆どいない───あるいはすでに手を回し人払いがなされていた。

 

「やぁ、2人共。悪いねこっちに連れてきてしまって」

 

 待機していたLOTの職員に案内され、とある病室の前でアルジェントと合流する。

 その病室には数名の封魔司書も待機しており、室内を覆うように結界が張られていた。

 メールでも伝えていたが合流するとすぐに迷宮での出来事、アンティキティラ島の機械がロキたちに強奪されたこと、そしてランダ・ギガへと変じていた少女を捕らえたことが共有された。

 

「ミシアに連れてきたのは……まぁ、ある意味で戦力を集中させるためだよ。戯我で戦力を増やせるあちらに対してこっちの戦力は限られてるからね……下手に分散して総取りされるわけにはいかない」

「分かってるわ、それくらい。カナリーは? もしかして怪我を?」

「あぁ……いや、彼女はロキが僕に化けたのを見抜けなかったのがショックらしくてね……顔を合わせられないって籠もってしまってね……今後の作戦を立てたいからそろそろ出てきてほしいけども」

「なるほどね、呼んでくるわ」

 

 アルジェントが頼むよりも先に名乗り出た紅芭へと「頼むよ」とカナリーの場所を教えると紅芭はその場所へと向かって行った。

 

「アル、それでランダに変身してた人は?」

「気を失ってる……というより寝ているよ。外傷はないけど戯我になっていた時のダメージのせいだとは思う」

「なるほどね……中に入っても大丈夫?」

 

 応孥の言葉にアルジェントが頷くと共に目配せをするともしもに備えて封魔司書たちが警戒する中、病室の扉が開かれる。

 室内は通常の個室タイプの病室、だが室内には更に2名の封魔司書がおり、ベッドを取り囲むように結界が貼られていた。

 薄い魔力の壁が取り囲むその中には安全のために病院服へと着替えさせられた日本人形のような整った黒髪の少女が寝息を立いた。

 

「彼女だよ。僕もカナリーくんもあのランダの中がこんな幼い子だなんて驚いたよ」

「……彼女が? 嘘だろ……」

「オード? この子に見覚えが?」

 

 目を見開き、少女を凝視し驚く応孥の様子に首を傾げるアルジェント。

 彼の言葉に「いや……それは……」と歯切れ悪く首を振り頭を抑える。

 ───それもそうだろう。ベッドに眠る少女は過去に見せに来たことのある、今日一日話し込んでいたロサードの妹、サンゴだ。

 

「……ごめん、少し整理させてくれ。後で話す」

「……わかった。それなら、先にこの後のことを詰めよう。そろそろカナリーくんも来てくれることだろうからね」

 

 口ごもる応孥に対し、笑みを浮かべ肩を叩くとアルジェントは一足早く病室を後にする。

 結界囚われ眠るサンゴの姿に後ろ髪を引かれながらも応孥もそれに続くように病室を出て扉を閉める。

 そのタイミングを見計らっていたかのように廊下の先から走り込んできたカナリーがアルジェントへと抱きついた。

 

「アルジェント支部長ー! 本当に申し訳ありません! このカナリー、もう絶対謀られないように精進致します!」

「切羽詰まった状況で更に神の擬態だったから仕方ないよ、気にしないで。その対策も込で話し合いするんだから」

「はい、当然です! む、オードシノハラなんですか? 見世物じゃないですよ」

「はぁ……いや、なんか悩んでる中に見せられてどう反応していいかこんがらがって来ただけなので気にしないでください……」

 

 先程の衝撃を引きずったままいた応孥はアルジェントへ抱きついたまま宥められるカナリーに睨みつけられる。

 はぁとため息を漏らす応孥を紅芭が励ましながら4人は人気のない場所へと移動し各所への連絡と今後への話し合いを始めた。

 

「イタリア支部には連絡を入れたけど各所で戯我の動きが活発になってるみたいでね……すぐの増援は難しそうだ」

「でしょうね。ロキ神がすぐ動くとも限らないわけですし。まぁ、だからといって解散というわけにはいかないんですよね? アルジェント支部長」

「あぁ。もし攻めてくるとするならオードとカナリーくんの2人掛かりじゃないと対抗できない以上、2人には遺跡を護ってもらいたい」

 

 本来は応孥たちが警備を行っていた遺跡の入口はグレムリンたちの襲撃以降、カタンツァーロ支部と連携しそちらの職員を派遣する形で交代で警備を行っていた。

 しかし、こちらばかりに人員を割き続けることはできず、数日前よりその人数を減らし現在は2人1組、もしくは応孥1人の交代制にて警備に当たっていた。

 ランダを倒したとはいえ、相手の戯我は少なくとも2体、そしてロキ本人もいる以上一般の封魔司書では太刀打ちすることはできないだろう。

 

「そうね。警報装置もあるにはあるけど流石に心許無いものね……でも、また誰かに化けられたらどうするの?」

「クレハ。心配いりません。またアルジェント支部長に化けたところで私は見抜きます」

「カナリーくんだけ見抜けても他の人が見抜けなかったからダメだからね? 古典的だけど合言葉を全員に共有しようと思ってる。クレハ、関わる全員への連絡頼んでもいいかい? 他にもやることが多くてね……」

「えぇ、任せて。私もイタリア支部に増援を掛け合ってみるわ」

 

 その他、細かい取り決めや合言葉をどうするかなど話が進む中、応孥は1人何かを考え込んでおり、口を出さずにいた。

 意見を求められても上の空で生返事を返すのみ、3人ともその応孥の様子に顔を見合わせる。

 

「聞いているんですか、オード・シノハラ」

「ん、あぁ。聞いてるよ」

「応孥……何かあったの? さっきまではこんな様子じゃなかったのに……」

 

 覗き込む紅芭から目を逸らす応孥。

 その仕草は応孥が本音を隠している時の仕草だった。

 普段ならば紅芭がその本音を追求することはしない。行えば応孥を傷つけるかもしれない……その思いが彼女を踏みとどまらせていた。

 いつものように引こうと考えた時、頭に浮かんだのはロサードという少女の言葉。

 

『言わなくても伝わるとか驚かせるかもとかじゃないんです。次に言おうもダメなんです。次が来ないかもしれないから……』

 

 彼女にもなにかあったが故の言葉だったのだろう。その背景を紅芭想像することはできない。

 それでも、今の彼女に踏み込む勇気を与えるには十分だった。

 

「……お願い、教えて応孥。こんな状態のあなたを戦いには送り出せないわ」

 

 逸らした顔を正すように応孥の両頬に手を当て、紅芭が目を合わせる。

 いつもと違う彼女の行動に応孥は驚きながらも彼女の見つめる瞳に彼自身も覚悟を決める。

 

「紅芭さん……そう、だね。ごめん、少し飲み込みきれなくて……アルに見せてもらったランダだった子に見覚えがあってね」

「さっきのはそういうことだったのか……どこで見たんだいオード」

「店でだよ。お客さんで来たんだ……姉妹で」

「姉妹……まさか」

 

 応孥がコクリと頷くと紅芭の瞳が大きく見開かれる。

 

「今日来たロサードさん、その妹が彼女……サンゴさんだよ」

「ロキの娘の姉? ならそれは答えじゃないですか? オード・シノハラ」

「……でも、応孥が悩むのもわかるわ。そんなことする子には見えなかったから、ロサードさんは」

 

 まさに今、勇気を出せたのも彼女のおかげだ、とは口にしなかったものの紅芭自身も割り切りことはできていなかった。

 僅かな時間の静寂、だがその時間はアルジェントが意図的に終わらせた。

 

「2人共、気持ちは理解できるけどすまない、可能な限り早く動き出したいんだ。迷いを振り切れそうかい?」

「私は大丈夫よ……応孥、どう?」

「……アル、少しだけいいかな」

 

 3人が注目する中、応孥は瞼を閉じて僅かな時間逡巡するとアルジェントへと向き直った。

 

「1つ、提案があるんだ」

 

 

******

 

 

 夜の帳が降りる中、ミシアの町中を走る影が1つ。

 黒いゴシックロリータ衣装を身に着け力の限り駆ける少女、ロサードだ。

 

『サンゴさん、ミシアにいるみたいですねぇ……んー地図に当てはめると……病院ですね。派手に壊せばそれだけ目立ちますよ?』

 

 フィンブルから示された地点はミシアの町中にある公立の病院だった。

 少なくともサンゴが怪我をしていても治療はしてくれているのだろうと僅かながらロサードは安堵していた。

 

「ハァハァ……ここを真っすぐ行って……次の門を左に……」

 

 走りながら口から漏れるのは病院までの道筋。

 まさに今日、立ち寄った本屋の応孥(お兄さん)紅芭(お姉さん)に町の色んな店の場所といっしょに教えてもらった道筋だった。

 人通りの少ない町の中、照明に照らされた道をひたすらに駆ける。

 

「次の広場に出たら……もうすぐ……!」

 

 走り抜けた先は広場。

 昼間ならば多くの人が憩いの場となるであろう場所、しかし今そこに人の姿は───

 

「やぁ、こんな時間に会うなんてね……ロサードさん」

「……お兄さん?」

 

 ───広場の中央、電灯の下のベンチに座る1人の男の姿があった。

 光の影となり、表情こそ分からないが声を聞けばロサードはすぐに分かった。

 応孥だった。

 

「ごめん、お兄さん! 今ちょっと急いでるの! また今度お店行くね!」

 

 こんな時間、こんな場所で応孥がいることに疑問に思いながらも横を通り抜けようとするロサードだったが応孥から声がかかる。

 

「……サンゴちゃんなら確かに病院にいるよ」

「……どういうことですか、お兄さん」

 

 ただの古本屋のはずの彼がそれを知ってるはずはない。

 それを知っているとすればそれは───。

 

「……あ、それ」

 

 ロサードはいつの間にか足を止め、応孥のことを凝視していた。

 だからこそ、気付いた。あるいは最初から気づいていたが見ようとしなかった。

 応孥の手に握られていた拳銃に似た武装───レリックライザーを。

 

「なぁんだ……はっ、ばっかみたい。ねぇ、いつから? 私達がお店行ってた時も知ってたの?」

「……本当にさっきだよ。仲間がランダを捕まえて、その正体がサンゴちゃんだと知って初めて知ったんだよ」

「……そう……そう、なんだ……良かった」

 

 驚き、悪びれ、声を潜める、僅かな時間でもロサードは表情をコロコロと変える。

 対比する応孥は下を向き、その表情は伺えないがその声は店であった時の柔和な雰囲気はなく感情を殺し可能な限り平坦なものだった。

 自然とロサードの足が動く、病院に向かうのではなく応孥と相対するように距離を取って。

 それに合わせ応孥も立ち上がる。その腰にはすでにベルトが巻かれており、腰のホルダーから2本のモンストリキッドを取り出した。

 

「サンゴは無事? 大切な妹なの」

「無事だよ。今はまだ気を失ってる。傷つけるつもりもない」

「そっか……通してはくれないんだよね」

「……君がリキッドを渡してくれれば通せるよ」

「……うん、だよね」

 

 ロサードが聞き応孥が答える静かな問答。

 嘘はない、それはロサードにも伝わっている、なぜならば。

 

「やっぱりさ……お兄さん優しいね。嘘つけばいいのに。不意打ちでもなんでも私を取り押さえられたのに」

「はは……間違いないね。でも、君なら止まってくれると思ったからさ」

「言われてみればその通りだね。うーん、私も絆されちゃったのかな」

「……それでお願いだよ。リキッドを渡してくれ」

 

 応孥が切り出し、手を差し出す。

 話し合う時間は終わった、決断の時を急かすように。

 それに合わせロサードもリキッドを取り出し応孥へと向き直る。

 

「君たちに危害は加えないって約束する。スキュラに変身するもう1人のお姉さんも無事に連れてくるよ。だから……」

「でもパパは……! ロキ様はダメなんだよね?」

「……」

「ごめん、無理に言わなくてもいいよ。言いづらいことなの分かってるから」

 

 恐らく、ロキを捕まえれば彼は神たちの世界へと送還されてしまうだろう。

 騒ぎを起こす神であるが故に再びこの世界にやってこれるのはいつになるかわからない……そして今回の記憶を覚えているかも分からない。

 人の尺度から見れば永遠の別れと変わらないだろう。

 

ロキ様(パパ)が良い神様じゃないこと分かってる。私たちがこの世界ぶっ壊そうとしてることも」

「……君たちみたいな子がそんなことするなんて信じられないよ」

「そう思うよね……でも私もサンゴもペムベもロキ様(パパ)のおかげで救われた、そして出会えた……家族なの」

「家族……」

「サンゴもさ。あんな小さいのに大切なものたくさん失ってるの。だからもう何も奪われてほしくない……それに私はもう家族を失いたくない」

 

 決意は固まった、いや、最初から決まっていた。

 ただ、自分が戦うために自身の気持ちを整理していたに過ぎない。

 

お姉さん(思ってくれる人)が近くにいるお兄さんはさ、知らないよね。大切な人を奪われた時の気持ちを」

「……」

「何もできずに”お父様”と”お母様”を奪われた時の無力感を……! もうさ、私から奪わないでよ……!」

「……ごめん」

「謝んないでよ。私を通したらお兄さんに(お姉さ)その気持ちを味あわせちゃうんだから(んの命を保証できないんだから)

「そうだよね……なら」

 

 応孥が顔を上げ、ライザーをベルトへとセットする。

 その顔に迷いはない。眼の前の敵を倒すことに対する迷いは。

 

「ロサードさん、僕は君を止めるよ」

「止まらないよ。サンゴを助けて家族みんなでパパの作る世界に私は行く」

「させない……その思いはここで僕が塗り尽くす!」

「やってみなよ! やれるものならさぁ!」

 

《ズメイ!》

《マグマ!》

《サラメーヤ!》

 

 向かい合う2人がリキッドを起動するのは同時だった。

 方や1本のリキッドを自らの腕に方や2本のリキッドをドライバーに装填し引き金を弾く。

 

Loading Color(ローディング・カラー)! GRADATION(グラデーション)!》

「変身!」

BRUSH-UP(ブラッシュ・アップ)! 噴き上がる紅熱の番人! マグマサラメーヤ!》

「死ねぇ! 仮面ライダァー!」

 

 少女の姿が数倍に膨れ上がると長い三ツ首を持つ巨竜、ズメイ・ギガへと変ずる。

 対する男が駆け出すと前後を挟むように出現した五芒星に包まれ装甲を纏いし戦士、ヴァジュラとなって迎え撃つ。

 噛み砕こうと勢いよく伸びるズメイのアギトと突き出したガントレットに包まれる拳が激突する。

 ヴァジュラの姿が上空から照らされる、それは残る2つのアギトに炎を溜め込む兆候だと見るまでもなく理解し、更に動く。

 

「神器、解放ォ!」

《サラメーヤ! Calling(コーリング)!》

 

 空いた左手でサラメーヤリキッドを押し込みトリガーを引く。

 するとヴァジュラの姿がブレ、現れる分身がぶつかり合うアギトの顎をアッパーカットで跳ね上げる。

 

「なっ……!?」

「このまま……吹っ飛べ!」

「ガァッ!?」

 

 ヴァジュラの動きは止まらない。

 自由となった本体と分身、同時に駆け出し、無防備となったズメイの腹部へとガントレットを同時に叩きつける。

 ただでさえ強力な一撃、それを二撃同時に受けたズメイは炎の溜め込みを中断され、口から空気を吐き戻しながら背後へ弾かれる。

 それでもまだ終わらない。

 倒れるよりも早く、背中の翼をはためかせ体を浮かし、上空へと飛び上がることで体勢を整え直す。

 

「話では聞いてたけど、分身は面を喰らう……! でもここからなら……!?」

《揺蕩う大海原の支配者! オーシャンホエール!》

「オオオォ!」

 

 ヴァジュラの追撃は止まらない。

 ズメイが下を向いたときにはすでに青きクジラの力を宿す姿へと変じ、水流の勢いで飛び上がっていた。

 

「はぁっ!」

「くぅっ! 空中戦なら私のほうが有利なんだよ!」

 

 あくまでも勢いで跳ぶヴァジュラに対しサイズ故に細かい動きはできずとも翼により自由に空を飛べるズメイ。

 通常ならばズメイが圧倒的な有利となるだろうが勢いにて押すヴァジュラがその相性を覆す。

 振るわれる腕を迫るアギトを振り上げられる脚を細かく水流の発射箇所を変えることで針に糸を通すかのように間を縫って躱すとガントレットを変化され、更にSトリガーと合体させたGDモードのAウェポンの引き金を引く。

 射出されるいくつもの光弾は一発ずつの威力は低くく硬い鱗に弾かれる。だが、僅かではあるがズメイにダメージを与えそれが積み重なることでズメイは焦りを募らせてゆく。

 

「こんのっ!」

 

 痺れを切らしたズメイは大振りな動作で尻尾を振り回す。

 勢いの乗った一撃、直撃せずとも受けないために距離を取れる……だが、その勢いが衝撃とともに消失する。

 驚き振り返れば青いヴァジュラが受け止め、抱き込むように尻尾を抱え込んでいた。

 ヴァジュラの中でも最大のパワーを誇るオーシャンホエール、その力を以って振り払おうとする尻尾に食らいつきながら握りしめたリキッドをドライバーへと装填した。

 

BRUSH-UP(ブラッシュ・アップ)! 交わる双つの色彩! ハイブリッドカラー!》

 

 緑と青、2色の交わる姿と変わったヴァジュラ。

 同時にスイッチを押し込み引き金を弾くと切り替えた雷の力を解放する。

 

「神器解放!」

《エレクトリック! Calling(コーリング)!》

 

 尻尾を抱え込んだままに放たれる緑雷は空中に放出されることなく腕を伝ってズメイの肉体へと伝播する。

 鱗に覆われ守られた肉体といえばそれを貫通し肉体を焼く雷撃を防ぐことはできず、ズメイの絶叫が空へと響き渡る。

 

「クウゥアア! はな……れろ!」

「うおっ!? クソッ……!」

 

 身を焼く痛みに悶えながら激しく尻尾を振り回す。

 グラデーションカラーからハイブリッドカラーに切り替えたことで出力が落ちたことも相まってその抵抗によりヴァジュラは振り落とされてしまう。

 悪態を付きながらも体勢を立て直し、広場へと着地、追撃のため再度オーシャンリキッドへと換装しようとドライバーへと手を伸ばした。

 

「このぉ、このぉ!」

 

 雷撃の痺れが抜けきれないまま追撃されまいと苦し紛れに3つの頭から火球を放つ。

 炎を蓄えずに放ったそれに脅威となる威力はなく、簡単に躱されてしまうだろう。それでも僅かでも時間を稼げれば……その一心で放たれたそれが状況を一変させる。

 

「っ……クソ!」

 

 回避できる勢いの3発の火球、だがヴァジュラが選択したのは迎撃だった。

 ガトリングで右の火球を撃ち抜き、緑雷を放って左の火球を消滅させる。だが、咄嗟のことで残る1つの火球までは手が回らず直撃し、決して大きくないがダメージを負う。

 当然、それを行うための時間でズメイの痺れは取れ、距離を取って立て直していた。

 

「なんで……」

 

 九死に一生を得たズメイだったがヴァジュラの行動の意味を思考した。

 躱せる攻撃を躱さなかった理由を……。

 

「───あぁ、そっか。そうだよね、お兄さんだもんね」

 

 ズメイ(ロサード)はその答えにすぐにたどり着いた。

 卑怯と言われても構わない、妹のためならば弱みなどいくらでも付け込もう。

 

「本当に優しいんだねお兄さん……その優しさのまま燃え尽きて」

 




付録ノ十[ズメイ]
ロシアなどの神話に語り継がれる竜を指す言葉。
正確には地上で活動する竜型のモノをズメイ・ゴルイニチと呼び、その他に竜人であるトゥガーリン・ズメエヴィチ、水に住まうチュドー=ユドーなど多岐に渡る。
多くの場合、3ツ首から12ツの首を持つ竜であり、女性を攫い災いをもたらす悪竜として描かれている。
そしてその多くは神話に名を連ねる英雄の手により打倒された邪悪であるとされている。
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