仮面ライダームラサメ/スピンオフ 仮面ライダーヴァジュラ   作:teru@T

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第十三頁「黒白の執念」

「あぁ、ようやくたどり着きましたねぇ……懐かしきこのトビラの前に!」

 

 オルフェウスの大門、その眼前に広がる広場へとたどり着いたフィンブルは恍惚とした表情で歓喜する。

 門は変わらず固く閉ざされており開く気配はない。

 

「喜ぶのは構わないが娘たちが待っているのだからさっさと開けて貰いたいのだが」

「風情がありませんねぇ。えぇ、構いませんよ。ただ少々お時間はいただきますが」

 

 ロキの苦言に肩を竦めながらフィンブルは門へと近づき手に抱えたアンティキティラ島の機械を掲げる。

 するとそこから幾本もの光の線が伸び、門へと繋がると内部の歯車が回りカチカチと時計のような音を立てながら動き始める。

 

「皆さん難しく考えすぎなんですよ。トビラが開かない理由なんて()()()()()()()それだけじゃないですか」

「鍵……だと?」

「えぇ。現代でいうところの電子ロック……みたいなものを掛けられてるんです。内側からね」

 

 近くにあった調査用の機器を手で払い除け、机を引きずり寄せると機械を乗せるとクルクルと踊るようにロキの方へと振り返った。

 貼り付いた無感情な笑みを浮かべる口はまるで裂けたように口角が釣り上がっている。

 

「だからこれが必要だったんですよ。無理矢理こじ開けるために、ね」

「ハッ! ハッキング用に必要だったわけか」

「えぇ……あぁ、これだけあれば誰でも開けれるわけではありませんよ? 私だから開けれるんです。だってえぇ……」

 

 クスリと笑みを浮かべるフィンブルの後ろで不動であって大門の周囲に機械から伸びた光が装飾を伝うように伝播してゆく。

 

「このトビラ……いいえ、遺跡の主の情報を元にしてるんですから」

「遺跡の主……だと?」

「えぇ……開くまでの間暇でしょう? 少し、昔話をして差し上げますよ。神、ロキ」

 

 

******

 

 

 ズメイ(ロサード)との戦いを終えたヴァジュラ(応孥)は町を抜け、森の中を走る。

 

「カナリーさん! いますか、カナリーさん!」

 

 森の中から返事はない。

 不気味なほど静かな中をヴァジュラの装甲が擦れる音のみが響く。

 速度に優れるエレクトリックグレムリンのままかけてきたこともあり、暗い視界の先に開けた地形が見える。

 大門へと続く広場がある場所だ。

 このまま何事もなくたどり着く……そうとはいかなかった。

 

『グルルアアア!!』

「ッ!? こいつは……!?」

 

 森を切り裂くように木々を揺らしながら巨大な何かがヴァジュラへと迫る。

 猛スピードで駆けるそれは巨大な黒き狼。

 雄叫びとともに鋭き凶爪がヴァジュラを襲う。

 両腕のガントレットをクロスさせ、一撃を受け止めるがその力に押し負け、後退る。

 

「くっ……これだと防ぎきれない……だったら!」

 

 緑雷をまとわせ黒狼へと通電、その爪を弾く。

 それに合わせ、腰のホルダーから2色の赤いリキッドを取り出した。

 防御に優れるマグマサラメーヤへと変ずる組み合わせだ。

 

『グルルラアア!』

 

 眼前の黒狼が叫びとともに再度ヴァジュラへ迫る。

 速度は速いがこれならば間に合う。

 

『オオオオォォン!』

「ッ! もう1匹……!?」

 

 だが、それよりも速い猛攻がヴァジュラへと迫る。

 いつの間にか彼の背後へと忍び寄っていた2体目の巨大な白き狼。

 その牙がヴァジュラを食い殺さんと振りかざされる。

 眼の前の敵に対応していたヴァジュラはその攻撃に一瞬反応が遅れる。

 

「(ダメだ……どちらかしかかわせない、カラーシフトも間に合わない……!)」

 

 両側からの挟撃にヴァジュラは冷や汗を流す。

 それでも2匹の狼は止まることなく容赦なく振り下ろされた爪が降り注ぐアギトがヴァジュラを襲った。

 

「だらしないですよ、ヴァジュラ」

 

 だが、その脅威がヴァジュラへと届くことはなかった。

 黒銀の鉤爪が爪を地面に突き立てられた巨大な鎌がアギトを受け止めている。

 ギリギリと拮抗するそれはすでに戦闘を経ているのか全身に傷を受けたシミターの姿だった。

 

「シミター!」

「礼は結構。長く持ちません」

「了解……カラーシフト!」

 

 彼女が作ったチャンスにヴァジュラはマグマサラメーヤへと姿を変じる。

 そのままシミターを抱えると殺意に挟まれた狭間を脱出し、広場から距離を取って木々の間に身を隠す。

 2匹の巨狼は深追いすることなく、だが逃がすつもりは無いと言わんばかりに闇の中に溶け込み2人のライダーを睨みつけている。

 

「あの通り、あの2匹の目的は我々の足止めです。私が来た時にはもう遅かった」

「ロキたちがすでに遺跡に……それじゃあ警備にあたってた彼らは……」

「……今はどうやって彼らを突破するかを考えましょう」

 

 シミターが視線を逸らしたのを見てヴァジュラは言葉の意味を察する。

 避けられなかった犠牲のことを憂う時間は彼らに残されていない。

 

「敵の戦力は?」

「あの2匹、それと遺跡の前にスキュラです……ズメイは?」

「倒しました。変身していた少女は紅芭さんに預けてあります……リキッドは僕が持ってますからもう危険はありません」

「ちゃんと無力化したのであれば何も言う気はありませんが甘いことを。ならばそちらは考えから外します」

「スキュラがいるなら……まさかあの2匹も彼女が産み出した?」

「恐らくは。今まで隠してた……あるいは今回のために強化を受けたかでしょうね」

 

 2人の予測は一致していた。

 そこからこの状況を攻略する策を練り上げる。

 その間も狼たちは威嚇を繰り返すのみ、攻める気はないようだった。

 

「多分、飛び出したら襲ってくると思いますから……速攻で決めましょう」

「勿論です。遅れないでくださいね……行きます!」

 

 弾かれるように2人のライダーが左右に飛び出し、遺跡へ向かって走り出す。

 2人が立てた作戦はシンプルだ。

 二手に別れての各個撃破、先に倒したほうがそのまま遺跡前にいるであろうスキュラを調伏する。

 あまり時間をかけたくないがゆえの強硬策だった。

 

『グルルァ!』

『オォォォン!』

 

 2人の想定通り、2体の巨狼はヴァジュラとシミターのそれぞれに向かう。

 接敵した巨狼の爪がライダーたちに振るわれる。

 ヴァジュラはガントレットの拳で真正面から受け止め、翼を広げたシミターが風に舞う木の葉のようにひらりと躱す。

 それを皮切りに双方で激しい攻防が始まった。

 

「はあああ!」

「喰らいなさい……!」

 

 連続で撃ち出される拳が分厚い黒い毛皮に阻まれ、振るわれた爪が翼を掠めて空を切る。

 噛み砕かんと迫る牙をドリルの回転でいなす、その横で首を刈るために振り下ろされた鎌は白い巨影のみを斬り裂く。

 一進一退、お互いに致命の一撃が出ないまま巻き起こる激しいせめぎ合い。

 

「───貰いました!」

 

 その均衡破ったのはシミターだった。

 牙を避け、爪を脚部の鳥爪で弾いた勢いを利用して顎の下の死角に潜り込む。

 それと共に振るわれた鎌の刃が右前脚を斬り飛ばし、白狼が大きくバランスを崩す。

 絶好の好機、トドメを刺さんとシミターはAウェポンにリキッドをリードする。

 

《ブリザード! スネグーラチカ! Charging Color(チャージング・カラー)!》

「塵となって刻みなさい……!」

 

 シミターの装甲とクラッシャーが展開し排熱音を響かせる。

 SモードのAウェポンの刃がプルジャンブルーと月白色、異なる2色が混ざり合い暗い森に光を放つ。

 

『グルラァ!!』

「行かせるわけ無いだろう?」

 

 白狼の命を刈る輝きから救わんと黒狼が駆け寄ろうとするもその瞬間、横っ面に拳が叩き込まれ、吹き飛ばされる。

 ヴァジュラが黒狼の前に立ちふさがればシミターの妨害をするものはもういない。

 

Last Calling(ラスト・コーリング)! バイカラー・クロマティックハーベスト!》

 

 振り上げられる断頭の刃。

 冷気を纏ったその一閃によって白狼の首が落ちる、そのはずだった。

 

『ウォオオン!』

「なっ……! くっ……!」

 

 そこに割り込んだのは狼に似た犬の怪物、スキュラが産み出した眷属だった。

 意表を突いて走り込んできた眷属は鎌の柄に喰らいつく。

 振り上げている最中の鎌の重さが眷属の重さ分、増加してシミターへとのしかかる。

 

「この……程度……! ハアア!!」

 

 それでもとシミターは力を込め、鎌を振り切る。

 しかし、狙いはズレて速度も落ちたその鎌は白狼の首を捉えることなく空を切る。

 鎌を振り抜き、取り付いた眷属を振り落としたシミターへと迫るのは斬り裂いたはずの白狼の右脚。

 

「ッ! キャッ!?」

「シミター!? この……! 神器解放!」

《サラメーヤ! Calling(コーリング)!》

 

 白狼の一撃でシミターが弾かれるのを見てヴァジュラは分身を作り出し、黒狼を翻弄しようとする。

 だが、ヴァジュラが増えても黒狼は狼狽えることなくドリルを突きつける分身を一蹴。

 その隙に本物が黒狼を狙うもシミターを弾きフリーとなった白狼のアギトが迫った。

 

『オォォォン!』

『グルルァ!』

「ぐぅっ!?」

 

 白狼のアギトを防ぐとその背後から黒狼の爪がヴァジュラを切り裂く。

 続く一撃が来るよりも早く、飛来したのはチャクラムとなったシミターのAウェポン。

 2体の巨狼は深追いすることなく、その攻撃を大きく飛んで回避しその隙にヴァジュラも膝をつくシミターの元へと後退する。

 

「すみません、油断しました……そちらは無事ですか、ヴァジュラ」

「なんとか……。スキュラの眷属だからと少し舐めてました」

「なんとも心外な発言ですね」

「ッ! スキュラ……!」

 

 2体の巨狼、その奥から3()()の眷属を引き連れたスキュラ・ギガが姿を表す。

 スキュラは新たに4体目の眷属を生み出すと全ての眷属が威嚇するように唸りを上げる。

 

「現状、そちらの戦力で警戒すべきはあなた達だけ。このままお父様が戻られるまで抑えさせて貰います」

「姉妹のいなくなったあなたにそれができるとでも?」

「……確かに、今までの私であれば無理でしょうね。ですが、今は違います」

 

 そう言ってスキュラはその手で白狼と黒狼を撫でる。

 

「お父様から授かったこの仔達……スコルとハティがいるのですから」

「ッ!? スコルとハティだって!?」

「最も、私の眷属として産み出していますから本物ほどではありませんが……あなた達の相手ならば十分でしょう」

 

 スコルとハティ、本来ならば上級戯我あるいはそれを超える超獣戯我(ギガロード)に値する力を持った2体の戯我。

 スキュラの眷属という形で出現してるとはいえ、その力は並の中級戯我は優に超えているだろう。

 

「本当はあなたたちの前に出てくる気はありませんでしたが……聞いておくことがありましたから」

「聞いておくこと?」

「私の妹たちはどうしましたか?」

 

 スキュラの問いにヴァジュラとシミターは目配せをかわす。

 質問に答えるべきかどうかといったものだったがシミターが何かを言うよりも早くヴァジュラが口を開いた。

 

「無事です。今は2人とも病院で保護をしてます」

「そうですか、ならばまずはそこから攻めましょうか」

「その必要はありません。()()()()()()、あなた達が来たら引き渡すように伝えてあります」

 

 ヴァジュラの言葉にスキュラは怪訝そうな顔を浮かべる。

 隣りにいるシミターも思わずヴァジュラの方を見てなにか言いたげにしていたが軽い舌打ちだけで再度スキュラたちへと向き直る。

 

「信じるに値しませんね。そんなことするメリットがない」

「彼女たちはあなた達のことを待ってます。その彼女たちの願いに応えただけです」

「……なんですかそれは。引き裂いたのはあなた達じゃないですか」

 

 スキュラの言葉に怒気が籠もる。

 彼女の感情の高ぶりに呼応するように巨狼を含めた眷属たちは低く唸り、身構えた。

 

「家族を理不尽に奪われたあの子達はお父様のおかげでやっと明るく笑うようになったのに……!」

「……」

「その割には戯我に姿を変えさせ、世界を壊す手伝いをさせているんですね」

「うるさい! 産まれた時から家族のいない私に姉妹を与えてくれてた……! そのお父様が今の世界を変えるというなら従うに決まっているでしょう!?」

 

 スキュラの悲痛な叫びが森の中に響く。

 その叫びにヴァジュラもシミターも答えない。

 

「私だけじゃない。理不尽に家族を奪われたあの子達に生きる理由を与えてくれたんです! それすら奪おうとしてるあなた達が彼女たちの願いに応える? ふざけるのも大概にしてください!」

「分かってますよ。これがエゴだとしても……彼女たちにもあなたにもこれ以上はさせません」

「全く……私はこの男ほどお人好しではありません。ですが、ここで止めないと寝覚めが悪そうなのは確かですね」

 

 2人の言葉にスキュラは歯噛みする。

 妹たちの行方を聞き出したらスコルとハティに場を任せ、身を隠すつもりだった。

 だが、眼の前の2人───特にヴァジュラの言葉を許せなくなったスキュラは怒りを込め、冷徹に言葉を放つ。

 

「───殺せ」

 

 その言葉でスコルとハティ、そして4匹の眷属が分散しライダーたちへと駆け出した。

 ヴァジュラとシミターは背中を合わせ死角を無くしお互いに武器を構え迎え撃つ。

 

「すみません、状況を悪くしてしまって」

「全くです。働きで返してくださいね……1つ確かめたいことがあります。2匹のどちらにでも構いませんから抉ってください、倒せなくても結構です」

「足が治ってた仕組みに心当たりがあるんですね。やってみます……!」

 

 相談が終わると同時にスコルとハティ、更に4匹の犬が襲いかかる。

 乱れ舞う牙と爪を両手に携えたガントレットと振り回される鎌が捌き続ける。

 それでも物量に押されて2人の装甲に少しずつ傷が刻まれていく。

 

「くっ……そこ!」

「助かります……はあああ!!」

 

 犬たちの攻撃を弾き、一瞬フリーとなったシミターが鎌を回転させることで背後のヴァジュラへと迫る攻撃を切り裂き防ぐ。

 それによって生まれた隙をヴァジュラは逃さない。

 迫ってきたスコルに対し拳を合わせてガントレットを合体、そのままタックルの要領で展開したドリルを押し当て、同時に回転させる。

 不意をつかれたスコルの肉体がドリルによって抉り取られる。

 血の代わりに色を吹き出しながら歯噛みし、森を色で汚しながらスコルは大きく下がる。

 

「無駄です」

 

 スキュラの言葉とともに犬の1匹がスコルの元へ走る。

 傷口に近づいたそれはドロリと溶けて色に戻ると黒狼の抉られた肉体に交わるとその身体は再生され、ヴァジュラによってつけられた傷は消えてなくなる。

 そしてスキュラの下半身の犬、その瞳の一対に光が灯ると共に新たな眷属が生み出された。

 

「なるほど、ああやって回復するわけか!」

「予測どおりですがそうなると厄介ですね、切りが無い……!」

「いいえ、逆です。わざわざ再生するということは倒せば復活できない!」

「言うは易しですよ。言ったからには実行してもらいます!」

《デザート! Calling(コーリング)!》

 

 スコルが再度迫る中、シミターが攻撃を受けながらもリキッドを起動する。

 途端、2人の周囲に砂塵が巻き起こり防壁となる。

 犬の眷属たちは阻めてもそんな程度では神話に名を残す双狼が意に介すことはなく砂塵を食い破る。

 それはヴァジュラたちも分かっていてのことだった。

 

「「カラーシフト!!」」

 

 砂塵の晴れた奥から4色の発光と共に2人の声が同時に響く。

 それに合わせて無数の光弾が砂煙から飛び出し、眷属たちへと襲いかかった。

 

《エレクトリック! Calling(コーリング)!》

「雷撃程度でスコルとハティが倒せるとでも?」

「───ハズレです」

 

 ()()()()()の扱うリキッドの能力を把握しているスキュラは来るであろう雷撃に備えてスコルとハティを含めた全ての眷属を下がらせる。

 それとともに予想通り、砂煙を打ち払い緑の閃光が飛び出した。

 だがそれは雷撃などではなく───。

 

《迸る雷光の技工士! エレクトリックグレムリン!》

「せやぁ!」

 

 異なる2色の緑に包まれ、長いマフラーをたなびかせた()()()()が緑光の軌跡を残し、雷鳴の速度でハティへと肉薄した。

 その軌跡はハティの顎下へそしてそこから空へと向け鋭角を描き伸び上がる。

 咄嗟に首を逸らしたことでシミターの構えた鎌はハティの首筋に傷を残すに留まった。

 

「まだ……ですッ!」

 

 木を蹴って跳躍したシミターが再度鋭角に曲がりハティへと軌跡が伸びる。

 それが躱されれば更に跳ね、何度も何度もピンボールのように跳ね回り輝く緑の軌跡がハティを取り囲む。

 救い出そうとスコルたちが動き出そうとした時、沈黙を貫いていたヴァジュラも動いた。

 

《吹き荒れる白雪の妖精! ブリザードスネグーラチカ!》

《ブリザード! Calling(コーリング)!》

「神器……解放ォ!」

 

 プルジャンブルーと月白色に包まれて右肩に腕を覆い隠す雪の結晶が描かれた濃青のマントを羽織ったヴァジュラ。

 拳を地面に叩きつけるとスコルたちの行く手を阻み、貫くように地面から幾本もの氷柱が立ち上がった。

 氷柱は避け損ねた犬たちの足や胴を貫きスコルの足を止めさせ、更にはシミターの足場として活用される。

 

「ッ! どちらも見たことある組み合わせのはずなのに……!」

使()()()が違いますから……ね!」

 

 封魔霊装はリキッドの使用者が持つ想像力と創造力によって姿と力を変化させる。

 故に同じく組み合わせであっても使用者が変わればその姿、そしてその能力は大きく変化するのだ。

 だがそれも奇襲でしかない。

 

「ッ、もう避けますか……!」

「こっちはそもそも全て避けるか……! それでも速攻で決めます!」

「手助けはできませんよ! こっちも手一杯です!」

 

 稲妻の速度動くシミターは近づこうとする犬たちを斬り裂き、ハティには数度の傷を負わされる。

 だが、ハティは僅かな時間でシミターの速度を見切ると緑光の軌跡を躱し、反撃のために爪を振るい始める。

 氷柱によって刺し貫かれた犬たちはその場に縫い止められるもスコルはその全てを回避し発生源であるヴァジュラの元へと駆ける。

 スキュラの元で新たな眷属が生み出されるも今向かい合う両者の前には打破するべき2体しかいない。

 

《スネグーラチカ!》

「勝負だ……神器解放!」

Calling(コーリング)!》

 

 スコルが目前に迫る中、ヴァジュラが月白色のリキッドを起動する。

 直後、ヴァジュラそしてシミターが月白色の輝きに包まれる。

 警戒するように目を見開きながらもスコルのアギトはヴァジュラへと殺到する。

 

《サラメーヤ! Charging Color(チャージング・カラー)!》

「これで……!」

《デザート! Charging Color(チャージング・カラー)!》

「……終わりです!」

Last Calling(ラスト・コーリング)!》

 

 2人がそれぞれAウェポンにリキッドを読み込ませる。

 そしてそれを相対する敵へと向けてトリガーを弾いた。

()()()()()()()()()()()()()()()()()へと。

 

「ッ!? 位置が入れ替わって……!?」

 

 月白色の輝き、スネグーラチカの力によって妖精の悪戯のように2人の位置が入れ替わる。

 事前の打ち合わせなどはなく互いが眼の前に現れた相手へとただ対処する。

 シミターは眼前にて口を開くスコルに向けチャクラムへと変形させたAウェポンを掲げる。

 

《モノカラー! クロマティック・サーキュラー!》

 

 飛び込んだスコルはもう止まらない。

 山吹色に輝き高速で回転するチャクラムへと自らのアギトを突き立て突撃する。

 口から首、胴を抜けてチャクラムがスコルの身体を両断する。

 構えたシミターへと飛び散った色が降りかかるが気にすることなく、太陽を喰らった狼は円刃により両断された。

 

《モノカラー! クロマティック・サイクロン!》

 

 ハティの前へと出現したヴァジュラは即座に身を屈め、ハティの爪を躱すとそのままGDモードのAウェポンを天へ向けて構える。

 その頭上にはシミターの高速軌道に対処しており、下からの攻撃に警戒を割くことができなかったハティがいた。

 銃口からペルシアンレッドの輝きと共に無数の弾丸が放たれる。

 連続で打ち込まれた弾丸はやがてハティの肉体を貫き、やがてその背を貫通し空へ向けて放たれた。

 ガトリングの回転が止まるのと同時にハティの肉体はグラリと横に倒れ、地面に倒れ伏すよりも早く色となって溶けて消える。

 

「後はスキュラだ……!」

「分かっています!」

 

 2体を倒しても2人の動きは止まらない。

 それぞれ得意とするマグマサラメーヤとデザートルフへとカラーシフトするとスキュラへと突撃する。

 その動きを止めるために4匹の犬たちがその行く手を阻むが意に介することなく、何度生み出されようが一撃で倒されてゆく。

 

「そんな……! 嘘、私は……私は!!」

 

 本来6体出せる眷属もスコルとハティを倒された後も4体しか生み出せないスキュラは徐々に近づくヴァジュラたちに対し叫びを上げる。

 それでも2人は止まらない。

 鎌が舞い、ガントレットで叩き潰し進み続け、同時にベルトを操作する。

 

Reloading Color(リローディング・カラー)! Last Calling(ラスト・コーリング)!》

「これで塗り尽くす!」

《マグマサラメーヤ! クロマティックストライク!》

《デザートルフ! クロマティックストライク!》

 

 2人の装甲が展開し、排熱音の二重唱が森の中に響き渡る。

 まず、包囲を抜けたシミターの右脚のソールがスキュラの下半身、犬の顔へと押し付けられそこへ向けエネルギーが収束する。

 そしてヴァジュラは飛び上がるとスキュラの上半身へと向けてマグマの噴火と共に加速し脚を突き出して下降する。

 同時に放たれる必殺の一撃、自身の末路が確定したスキュラはライダーたちを睨みつけるしかできない。

 

「ッ! 嫌だ……! 私は……私は家族を失いたく……ない!!」

 

 ───それは奇跡かあるいは執念か。

 本来、スキュラはスコルとハティを生み出すことはできない。

 それは眷属そのものにロキが神血を入れたからだ。

 だが、今この瞬間。

 彼女の願いに応えるように彼女の下半身、シミターの脚が突き刺さり、今まさに収束したエネルギーを打ち込もうとしたその犬の頭部が肥大化した。

 

「なっ!? シミター!?」

「ッ……! 押し切ります……!」

「くっ……! はあああああ!」

 

 スキュラの下半身から黒狼と白狼、2体の巨狼が出現しようとせり出す中、最大まで収束したシミターのエネルギーがヴァジュラの右脚がスキュラへと炸裂する。

 スコルとハティが出現しようとする力とヴァジュラ、シミター両名の必殺技の力が拮抗する。

 その結果、混ざりあった力が反発し、スキュラの肉体を中心に閃光と共に爆発した。

 

「ぐあああ!?」

「くっ!? きゃあああ!!」

 

 爆発に巻き込まれたヴァジュラとシミター、そしてスキュラへと変じていたペムベはその衝撃でバラバラに吹き飛ばされた。

 森の中に静寂が取り戻される。

 戦闘と爆発によって荒れた木々の中、最初に目を覚ましたのは応孥だった。

 

「っ……くっ……スキュラは……カナリーさんはどうなった……?」

 

 蓄積されたダメージの影響で変身の解けた応孥はふらつきながらも頭を振って立ち上がり周囲を見渡す。

 荒れた森の中にいたのは樹に打ち付けられて倒れる2人の女性の姿。

 変身の解けたカナリー、そして眼の前にスキュラのモンストリキッドを転がした眼鏡の女性、ペムベの姿だった。

 応孥はペムベの前に転がるリキッドを回収するとカナリーの元へと駆け寄った。

 

「カナリーさん!? 無事ですか! カナリーさん!」

「っ……頭に響く。静かにしなさい、オード・シノハラ」

「良かった……動けますか?」

 

 応孥の呼びかけにゆっくりと瞼を開いたカナリーに応孥はホッと胸を撫で下ろす。

 だが、応孥の問いに対してカナリーは首を横に振る。

 

「……少し休まないと立てそうにありません」

「それなら彼女のことをお願いします、リキッドは無いので何もできないとは思いますが。僕は……ロキたちを止めに行きます」

「すみません、お願いします。それとこれを」

 

 緩慢な動作でカナリーが差し出したのは借り受けていた2本のリキッド。

 応孥はそれを受け取ると代わりに借りていたリキッドをカナリーの前に置き、遺跡へ向けて走り出した。

 

 

******

 

 

 邪魔する者のいなくなった道なき道を応孥は走り抜ける。

 森を抜け、遺跡へと続く洞窟を走る。

 普段から人の少ない場所だが周囲に漂う雰囲気が異なっているのか不気味なほど静かだった。

 

「もうすぐ、大門の前……!」

 

 走る応孥の眼前、暗い洞窟を抜けた先には巨大な大門と空洞が広がっているはずだった。

 だがたどり着いた開けた空間は毎日のように通い、見慣れた景色から変化を遂げていた。

 

「門が……開いている!?」

 

 この遺跡が発見されて以来、多くの人間が訪れこの『オルフェウスの大門』と名付けられた遺跡を開くため苦心してきた。

 多くの挑戦が多くの考察がなされ、そしてある日、謎を残したまま調査の一団が姿を消した曰く付きの遺跡。

 その最中、応孥自身にも多大なる影響を与えた開くことのなかったトビラの先。

 それが今、そうであるのが当然であるかのように応孥の眼前で大口を開けるかのごとく開門されていた。

 

「……っ! 今は、ロキとその仲間を……!」

 

 今までのすべての努力をあざ笑うかのごとく開かれた門を前に応孥は絶句する。

 だがそれも僅かな時間だ。

 頭を振って雑念を払うと躊躇うことなく開け放たれた門へと近づいていく。

 暗く視界の悪い洞窟の中、近づけば門の奥の空間が見えてきた。

 

「いた……!」

 

 門を潜るとすぐにあったのは砕かれた生物の骨と白衣、そして破壊されたノートパソコンが落ちていた。

 その先には更に下へと伸びる大きな縦穴、そしてその周囲の壁面に備え付けられた岩を削り出して作られた下へと向かう階段。

 ここまでは過去に音波で測定した結果みた図と一致していると言っていいだろう。

 そしてその穴の縁に目的の人物たちが立っていた。

 1人は栗色の髪の男、ロキ。

 そしてフードを目深に被った人物。

 フードの人物こそ、ロサードの言っていたフィンブルだろうと確信した応孥は彼らへと銃口を向ける。

 

「その先には行かせないぞ! ロキ、そしてフィン……」

 

 直後、応孥の言葉は眼前で起こった出来事によってそこで途切れる。

 

「フィンブル……やってくれたな……貴様ァ!」

「ありがとうございます。全部あなたのおかげですよぉ。お礼に……あなたが欲しがっていたモノの所への近道教えて差し上げます……ねぇ!」

「ガぁっ!? 貴様……私の力を……!? これで勝ったと思うなよ……!!」

 

 ズブリと肉を抉る音が洞窟に響く。

 ()()()()()()()()フィンブルの腕がロキから抜き放たれたのだ。

 溢れたロキの血液───神血(イコル)がフィンブルへと吸収され、ロキ自身は力なく倒れ込むと深く暗い穴の底へ向かって落下してしまった。

 直後、穴の底から吹き上がる霊力をまとう風がフィンブルのフードをバサリと剥ぎ取った。

 

「……えっ?」

「ん……あぁ、あなたが噂の封魔司書ですか。初めましてですねぇ」

 

 くるりと振り返ったフィンブルが仰々しく応孥へとお辞儀する。

 その右手はロキの神血で汚れ、左手には贋作たるアンティキティラ島の機械が抱えられていた。

 彼女が顔を上げるとフードの中に隠されていた長い()()の髪がふわりと舞う。

 裂けたように口角を釣り上げた笑みを貼り付けたキレの長い薄紅色の瞳と目が合った。

 

「おや? どうかしましたか? 私の顔に何か?」

 

 彼女の顔を見て絶句したまま固まった応孥にフィンブルは貼り付けた笑みを崩さぬままに不思議そうに首を傾げる。

 応孥の眼前に立つ女、ロキの神血を吸収しその力を得た謎の存在。

 その姿を応孥は知っている。

 確信を持ってその名前を知っている。

 眼の前の人物に対して固まり、震える応孥は喉の奥から───心の奥からその言葉(名前)を絞り出す。

 

「───桜子?」




付録ノ十一二[ロキ]
北欧神話に伝わる悪戯の神。
魔術を得意とし時に神々を苦しめ、時に神々を助けたとされる神話のトリックスターと言われている。
数多くの遺産の制作に関わり、フェンリルを始めとした怪物の親でもある。
その名に込められた意味は閉ざす者、あるいは終わらせる者であり、その名に従うがごとくラグナロクを引き起こした。
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