仮面ライダームラサメ/スピンオフ 仮面ライダーヴァジュラ   作:teru@T

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 ───昔の僕は1人でこの引き金を引けなかった。

 眼の前にいる(いた)彼女が共にいてくれたから最初の一歩を踏み出せた。
 その後だってずっと不安だった。
 いつ自分が諦めてしまってもおかしくなかった。

 ───桜子が消えた時、彼女が死んだことはなんとなく分かってしまった。
 それでも足掻いてきっと何も見つけられなくて……そのまま消えてしまおうと思っていた。
 紅芭が止めてくれてもう少しだけ頑張ろうと奮起した。

 それでも1人では全て背負うなんてできなかった。
 何人も守ることができなくて……その度に1人じゃダメなんだと思わされた。
 そう思う度に紅芭やアル、カナリーさんたちに励まされて助けられて……もう少し頑張ろうって戦ってきた。

 今でもできるなんて思わない……それでも。

「君だけは……僕が必ず救ってみせるよ───変身!」

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 重い……とても重かったはずの引き金を引くことに気がつけばそれがとても軽く感じてしまうほどに慣れていた。



第十六頁「黄土の暁」

《噴き上がる紅熱の番人! マグマサラメーヤ!》

 

 光りに包まれた応孥の姿がマグマサラメーヤカラーのヴァジュラへと変ずる。

 Aウェポンをガントレットとして装着しファイティングポーズを取ると数多の茨を従えたデスポイナと対峙する。

 

「……そうか、あいつ(わたし)があなたを治したんですね。木っ端だと思って忘れてましたがまさか自分に邪魔されるなんて……」

「それだけじゃないけど、まぁ間違ってないよ」

「ふん、まぁいいでしょう。今度はきっちり殺してあげますよ。あなたもあなたのお仲間も……ね!」

 

 笑みを取り繕ったデスポイナは邪悪な笑みを浮かべるとともに手を振るう。

 その動きに合わせて茨がヴァジュラへと殺到する。

 

《マグマ! Calling(コーリング)!》

 

 即座にヴァジュラはマグマリキッドを起動し、肩からマグマが溢れ出し拳にまとわりつくとそのまま地面へと叩きつける。

 溢れ出したマグマがヴァジュラの前で茨を防ぐ壁となるが前回同様、茨は熱をものともせずにマグマを突き抜ける。

 

「無駄だと学習していないんですか?」

「……!」

 

 マグマの壁でデスポイナからはヴァジュラの姿が見えない、しかし壁の裏全てを埋め尽くすように茨を動かし、確実にその身体を貫こうとする。

 

「───やっぱり、そういうことか」

「なに……!?」

 

ヴァジュラの声が響くと共にマグマの壁の裏から巨大な津波が巻き起こる。

 

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揺蕩(たゆたう)大海原の支配者! オーシャンホエール!》

 

 視界を封じ、その間にリキッドを切り替えていたヴァジュラは起こした津波から高く飛び上がる。

 津波が茨ごとマグマの壁を飲み込むとマグマは茨を捕らえたまま冷えて硬まった。

 

「くっ……!」

「あなたの茨は無敵なわけじゃない。取り込んだロキの力で熱に強いそれだけだろ!」

 

 様々な逸話の残るロキ、その名の意味は炎を表し、炎の神としての側面を持っている。

 ロキの神血を取り込んだデスポイナはその性質を利用し、茨と自身に苦手とする炎への耐性を獲得していたのだ。

 前回の戦闘でそれを見抜いていたヴァジュラはマグマを茨を封じるために利用した。

 新たな茨を伸ばされるよりも早く噴出した水流で一気近づくと同時にドライバーを操作する。

 

《ホエール!》

Calling(コーリング)!》

 

「神器解放!」

 

 振りかざす拳が青いエネルギーで構成されたクジラの頭部を纏う。

 重圧を増した拳がデスポイナへと激突する。

 だが、その激突の直前。

 デスポイナの身体を包むように新たな茨が伸び、ヴァジュラの放ったクジラの頭部を受け止めてしまう。

 

「くっ……!」

「仮にそうであってもあなたの力で私を倒せるわけではないんですよ!」

 

 反撃の茨が伸びる。

 叩きつけられたエネルギーに茨が巻き付き、ガラスのように砕くとそのままヴァジュラへと更に勢いを増して伸びていく。

 ヴァジュラは脚にクジラの尾を模したエネルギーを生成し迫る茨を下から打ち上げ弾こうとするが大量の茨に押され地面へと叩きつけられ砂煙を上げた。

 

「ぐぅっ!?」

「アハハ! ほら、潰れなさい!」

 

 巻き上がった砂煙を引き裂きながら纏まり塊となった茨がヴァジュラを叩き潰さんと振り下ろされる。

 無惨にも串刺しになり跡形もなく潰れたヴァジュラを想像しデスポイナは口の端を吊り上げ笑みを浮かべる。

 次の瞬間、茨と砂煙の狭間から緑雷が迸る。

 

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《迸る雷光の技工士! エレクトリックグレムリン!》

 

 雷光を纏うヴァジュラが駆ける。

 砂煙を抜け茨を飛び越えてデスポイナへと迫りながらリキッドを起動する。

 

《グレムリン!》

Calling(コーリング)!》

 

 両手に装着したガントレットへと緑雷が奔るとヴァジュラの身体を離れ、宙を舞う。

 デスポイナは身を捻り茨を振るって縦横無尽に飛び回るガントレットを躱す。

 

「くっ……! 面倒な……!」

 

 ひらり、ひらりと身を躱すその顔からは徐々に余裕が消え、焦りの色が見え隠れしていた。

 更にデスポイナを追い詰めんとヴァジュラが跳び上がり、エレクトリックのリキッドを起動する。

 

《エレクトリック!》

「これで……! 神器解放!」

Calling(コーリング)!》

 

 ヴァジュラの手から緑雷が放たれる。

 正面からの緑雷、そして2方の死角から放たれるガントレット、デスポイナへと同時攻撃が迫る。

 同じタイミングで放たれた攻撃を全て防ぎ切ることは難しい───()()()()()()()()()()()()()()

 カチリ。

 

「あはっ……忘れていましたか?」

「ッ!?」

 

 歯車の音が響く中、笑みを浮かべたデスポイナ。

 眼前から迫る緑雷を弾き、死角から迫っていたガントレットはそちらに視線を向けることもなく伸ばした茨が2つとも正確に貫いた。

 バチバチとスパークを発するガントレットは間もなく、発光が止まりその機能を停めた。

 攻撃を防がれたヴァジュラは空中を蹴り、距離を取ると()()()の仕込みを済ませるためドライバーへと手を伸ばす。

 

「おや? 武器がなくなったら逃げの一手ですか? 哀れですねぇ!」

「そちらこそ。遺跡の中で戦ったときより随分先手を取らせてくれます、ね!」

「あはっ、あなたが未来を読まなきゃいけないほど脅威じゃないだけですよ!」

 

 仕込みを終えたヴァジュラは牽制するようにSトリガーを連射する。

 素早い弾丸に最初の一撃を受けるが僅かなダメージに拍子抜けしたように笑みを浮かべ後続の攻撃を無視してヴァジュラへと茨を伸ばす。

 防御を捨て速度に勝るエレクトリックグレムリンですら茨に徐々に追いつかれ始め、ヴァジュラはリキッドを取り出すためにホルダーへと手を伸ばす。

 だが、先程のお返しとばかりに死角へと回り込んだ茨が無情にもヴァジュラの腕に巻き付き、トゲを突き立て動きを止める。

 

「しまっ……!」

「そろそろ、チカチカ鬱陶しいんですよ!」

「うわっ!?」

 

 追いついた茨がホルダーへと絡みつき、無理矢理ホルダーを引き剥がすとヴァジュラを地面へと叩きつけた。

 引き剥がされたホルダーはデスポイナの手へと手渡される。

 中には6色のモンストリキッドが収められていた。

 

「おやおや、全て使いきれないまま奪われてしまいましたね? 残念でした」

「そうでもないよ……おかげで確かめたいことは全部確かめることができたから」

「おやおや、まだ強がるんですか? 良いですよ、遺言代わりに聞いてあげましょう。何が分かったんですか?」

 

 手元で奪い取ったホルダーを弄りながらクスクスと余裕の笑みを浮かべデスポイナが問う。

 それに対してもヴァジュラは恐れず立ち上がり、デスポイナへと見つめ返す。

 

「まず、地下で言っていた言葉通り、供給の無くなったあなたは未来予測を気軽に使えない。後手後手に回ってるのがその証拠だ」

「おや、それでも十分あなたは追い詰めることができていますね?」

「それと常時見えているわけではなく、あなたの意志でその都度見る必要がある……まぁ、霊力を使うなら当然ではありますけどね」

「それで? 分かったからなにか変わりますか? あなたには止められないわけですし?」

 

 楽しげに話しながらもデスポイナは茨を操作し、幾本もの茨を伸ばす。

 それらは全てヴァジュラへと狙いを定めており、彼女の意志1つで全てがヴァジュラの命を刈り取りに行くだろう。

 絶体絶命───だが、ヴァジュラの闘志は消えていない。

 

「変わりますよ───まだ、気づきませんか?」

「なに……? いや待て……このリキッドがここにある?」

 

 ヴァジュラの言葉に顔をしかめたデスポイナがチラリと弄んでいるリキッドを覗き込む。

 そこにあるのはマグマ(ペルシアンレッド)サラメーヤ(レッドディッシュブラウン)オーシャン(ウルトラマリンブルー)ホエール(ホリゾンブルー)───そして今変身しているはずのエレクトリック(ビリジアン)グレムリン(アップルグリーン)だった。

 

「あなたが未来を見てたのであれば僕の仕込み(小細工)に気づかないわけがないでしょ?」

「っ! バカにして……! 死ねぇ!」

 

 怒りに任せデスポイナが手を振るうとヴァジュラへ向けて用意した茨が殺到する。

 それが到達するよりも早く、事前に装填した2本のリキッド───ペルセポネとロキの力が宿るそれらを起動する。

 

《ネイチャー!》

《ロキ!》

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 道化師にも魔法使いにも見える目深に帽子を被った男の姿が描かれたミッドナイトブルーのリキッド───ロキ。

 満開の花咲く巨木が描かれたブロッサムピンクのリキッド───ネイチャー。

 茨迫る中、2色のリキッドが明滅し、ヴァジュラはドライバーのトリガーを弾いた。

 

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 それに合わせてブロッサムピンクのギリシャ文字とミッドナイトブルーのルーン文字がヴァジュラを包み込む。

 直後、茨が殺到するが2色の文字が行く手を阻み、全てヴァジュラへと届くこと無く弾かれてしまう。

 包み込む文字がヴァジュラの姿を上塗りしていく。

 ミッドナイトブルーの生態装甲が形成され、腰の左右と右肩のそれぞれからマントが伸び、ひらめく。

 頭部装甲は道化師と魔術師どちらにも見える三角の帽子がかぶさっている。

 生態装甲の上に重なる装甲もミッドナイトブルーの一色のみで形作られ、体の各所に差し込まれるようにブロッサムピンクが輝く。

 まるで夜空に舞う花びらのように───。

 目深に被った帽子の下で輝く白いアイレンズは顎へと伸びる一筋のラインが追加されていた。

 

《芽吹き咲く世界を騙す大奇術! ネイチャーロキ!》

「……この力であなたの全てを僕が塗り尽くす!」

あいつ(わたし)だけでなくロキの力も取り込みましたか……それで五分になったとは思わないでくださいねぇ!」

 

 変身が完了した新たなヴァジュラ、佇むその姿にデスポイナは気圧される。

 しかし、頭を振って自身を奮い立たせると再度、幾本もの茨をヴァジュラへ向けて放った。

 それに対し、ヴァジュラは慌てること無くネイチャーリキッドのスイッチを押し込み、起動する。

 

《ネイチャー!》

「神器解放……!」

Calling(コーリング)!》

 

 ヴァジュラの右手にブロッサムピンクの輝きとして集う。

 それを確認し屈み、その右手を地面に触れると輝きは大地へと吸い込まれた。

 浸透したネイチャーの力が変化をもたらす。

 周囲の木々の成長を促進し地面から根が蔓のように伸び、ヴァジュラの周囲を取り巻いた。

 

「行けッ!」

 

 ヴァジュラの号令で根が勢いよく伸び上がり、迫る茨へ向かう。

 すべてを貫く茨を包み込むように根が絡みつき、ギチギチと音を立て絡み合った植物が動きを止める。

 それに合わせてヴァジュラが駆ける。

 絡み合い動きを停めた根に足をかけ、デスポイナへ向けて走る。

 デスポイナは追加で茨を伸ばすがそれらも全てヴァジュラが伸ばす根や蔓が絡め取っていく。

 

「ッ! 寄らないでくださいよ!」

「タァッ!」

「キャッ……!」

 

 ヴァジュラの進軍を防ぐために放たれる茨は進軍を手助けする蔓に絡め取られていく。

 徐々に距離が詰まっていくと大きく跳躍、ついにデスポイナへと肉薄し拳を放つ。

 焦りの表情を浮かべるデスポイナは咄嗟に躱すが流れるように放たれた蹴りが直撃した。

 

「神に触れようなど不敬ですよっ!」

「あなたを倒そうとしてるんです、今更でしょう!」

「うるさい……離れろ!」

 

 怒りに身を任せ爆発したように大量の茨を自分とヴァジュラの間に放ち強引に距離を取るデスポイナ。

 対するヴァジュラは慌てることなく、もう1つのリキッドを押し込み、起動する。

 

《ロキ! Calling(コーリング)!》

「神器解放!」

 

 茨の壁、その裏からミッドナイトブルーの輝きが溢れ出し、それが収まるとともに壁を超えてヴァジュラが姿を見せる。

 その数は5()()

 

「性懲りも無くまた分身ですか? 芸がないです、ね……!」

 

 ヴァジュラたちへと素早く茨を伸ばす。

 応戦せず、回避に徹するヴァジュラたちだがそのうち数体は躱しきれず、その身を茨が貫いた。

 だが、手応えなく刺さったそれは何事もなかったかの様に茨をすり抜け、再度動き出す。

 

「っ!? 分身ではなく幻……!?」

「正解……だけど気づくのが遅かったですね。返してもらうよ」

「なっ!?」

 

 驚愕するデスポイナの耳にヴァジュラの声が響く。

 それと同時にいつの間にか近づいていたヴァジュラ本人に奪い取っていたリキッドをホルダーごと全て奪い返されてしまう。

 見つけた本体を逃さぬ様にそちらへと茨を集中させるがヒラリと身を躱し、気がつけば幻の中へと紛れ込まれてしまう。

 

「それを取り返したところで何ができると!?」

「色々できるよ……こんなこととかね!」

 

 幻に紛れたヴァジュラがSトリガーとリキッドを取り出す。

 本体に合わせ幻たちも同じ様にSトリガーと色とりどりのリキッドを手に持ち、それぞれ読み込ませた。

 

《エレクトリック! Filling(フィリング)!》

 

 放たれたビリジアンカラーの弾丸。

 威力が無いことは先ほどデスポイナを理解している。

 しかし、無意味なことで無いと警戒する彼女眼前で弾丸は弾け、眩い輝きが目を焼いた。

 

「きゃああ!? 何を……!?」

「これで……終わらせる!」

Reloading Color(リローディング・カラー)!》

 

 視界を奪われたデスポイナの耳に届くヴァジュラの宣言とドライバーの音。

 仮に視界が戻っても分身の中に紛れる本物を見つけ出すのは至難の業だろう。

 だが、デスポイナはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「もうお忘れの様ですね? 目を封じたところで意味なんかありませんよ!」

 

 カチリ。

 体内に組み込んだ機構が動き、デスポイナの思考に予測される未来が映し出される。

 彼女の背後から接近したヴァジュラが放つ必殺のキックが自身に命中し、その身を貫かれるビジョン───何もしなければ訪れる数秒後の未来。

 しかし、知っていればその未来を回避することなど容易い。

 迫るヴァジュラの一撃が命中する直前、視界の外から伸ばした茨がヴァジュラの腹を貫き、力の源であるドライバーを砕く。

 

「あはっ……結局はこうなる運命だったんですよ。思い知っていただけましたか───あぁ、もう答えることなんてできないですよね」

 

 幻を貫いた時とは異なり肉を裂き、機械を砕く感覚が茨から伝わった。

 勝利を確信し、視力が戻ったデスポイナは満面の笑みで振り返った。

 

「───は?」

 

 振り返った先、彼女の背後には()()()()()()

 確かに貫いたはずの茨は何も捉えておらず、ただ真っすぐとその蔓を伸ばしているだけだった。

 理由もわからず見つめていた彼女の背後から音が響く。

 

Last Calling(ラスト・コーリング)!》

 

 再度振り返ったデスポイナの目線の先、暗い夜から朝へと変わりつつある空の下にヴァジュラがいた。

 高く飛び上がり、力を蓄えるヴァジュラの右足にミッドナイトブルーとブロッサムピンクのエネルギーが集う。

 展開した装甲から溢れ出す色が輝きとなって放たれている。

 

「なぜ……私の見た未来にはこんな光景なんて……!」

「───なにか、良い(未来)でも見えていたか?」

 

 自身の幻を見せる力はロキの能力の一部でしか無い。

 その真髄は幻惑。

 相手の視界だけでなく相手の感覚を思考を惑わし幻を見せる───たとえそれが未来を予測するビジョンであっても。

 

「終わりだ。デスポイナ───!」

 

 蓄えられた力が解き放たれ、一筋の矢となりデスポイナへと放たれる。

 ブロッサムピンクの輝きが舞い飛ぶ、散りゆく花弁の様に黎明の空を彩って。

 

「ま、待て……やめて、応孥!」

「ッ……」

 

 迫る死に恐怖するデスポイナの口から桜子の声が漏れる。

 涙を流し、懇願する彼女に応孥は僅かに反応を示す。

 その様子に手応えを感じたのか、デスポイナは薄ら笑いを浮かべ、応孥の心をさらに揺さぶらんと声を上げる。

 

 

「お願い、応孥! 止まって! お願いだから私を……」

 

 ヴァジュラは止まらない。

 近づくに連れて鮮明になる彼女の顔を捉える。

 その顔に浮かぶのは邪悪な笑み───そして一筋の涙。

 

「───私を助けて(止めて)!」

 

 デスポイナ自身も気づかぬ声が応孥の耳へと届く。

 それは彼女の魂その最後の輝きだったのか。

 あるいは彼の願望であったのか、それはわからない。

 だが確かに聞き届けた応孥は仮面の奥の目を見開き、覚悟を決める。

 

「やめ、やめろぉー!」

「はああああああ!」

 

《ネイチャーロキ・クロマティックストライク!》

 

 ───暁の輝きが照らす中、ヴァジュラの蹴りがデスポイナを打ち抜く。

 散りゆく桜の様に桜色の光が舞い飛び散る中、穿たれたデスポイナは力を失い大地へとゆっくり落ちてゆく。

 その身体は少しずつインクへと変わり、世界に溶けるように消えていく。

 消えゆく中、涙を流しその手を昇りゆく太陽へと手を伸ばす。

 

「あぁ……なんで……私はただ……あの《輝き(太陽)の元に居たかった……それだけなのに……」

 

 宿していた狂気が消えたその瞳が輝きを見つめたそのままに閉じられる。

 二度と瞳を開くことのない彼女をヴァジュラは受け止める。

 抱えたままゆっくりと地へと降りる中、朝日にさらされ光によって灰になるようにその身体は消えてゆく。

 彼が大地を踏みしめたその時、その手には何も残されていなかった。

 ───まるで今までが夢であったかのように。

 

「……終わったよ、桜子」

 

 光に溶けるように応孥がその身にまとっていた封魔礼装が解ける。

 夜空の星はすでに消え、輝く陽光が大地を応孥を照らしてゆく。

 隠し事を詳らかにする光が応孥にすらそれを許さず、明らかにする。

 

「桜子……これからは君が守ってきたものも全部……僕が守るよ」

 

 その声に答える声はない。

 言葉とともに零れた雫が光に照らされ輝きながら大地へと消えてゆく───。

 




 ──────夢と現の狭間、あるいは生と死の境界線。
 何も無い広大な大地、そこに立つ女性は天を仰ぐ。
 天には星のような光が点々と輝く───まるであの日、彼と見た星空のように。
 そんな彼女の元に1人の男が歩み寄ってくる。
 クルリと振り返った彼女は待ち望んだ姿を目にし笑みを浮かべた。

「……遅いよ。すごく待ったんだから」
「ごめん……お待たせ」
「いいの。いっぱい話し聞かせてね」

 2人は手を繋ぎ、あの日のように空を眺め互いのことを話し出す。
 会えなかった時間を取り戻すように、お互いの知らないことを確かめ合うように。
 ───応孥と桜子、2人の時間はいつもでも続いてゆく。
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