仮面ライダームラサメ/スピンオフ 仮面ライダーヴァジュラ   作:teru@T

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第十七頁「天翔ける紫電の流星」

 ───デスポイナの事件から数ヶ月が経過した。

 ミシアの町は変わらぬ海風が吹きながら僅かな変化の兆しを見せている。

 アルジェントが訪れた古書店、『Fiori di ciliegio』───日本語で桜を意味する言葉を持つその店はそんな変化が訪れた1つだった。

 

「いらっしゃいま……あぁ、あなたですか」

「もぉ、ペムベ。いい加減そういうのダメだって言ってるじゃん。お世話になってるんだから」

 

 店のカウンターで本の仕分けを行っていたペムベはアルジェントの姿を見ると露骨に顔をしかめる。

 その様子を見た店内を掃除していたロサードがペムベを咎め、しかし彼女がアルジェントへ向ける笑みも満面とは言えないものだった。

 

「はは、構わないよ。恨まれても文句を言えないことをしたわけだからね……クレハはいるかい?」

「今はサンゴを迎えに行ってます。もうすぐ帰ってくると思いますけど」

「なら少し待たせてもらうよ……ここでの生活は慣れたかい?」

 

 ───応孥からロキの最後が語られた後、彼女たち3人の処遇についてはイタリア支部でも議論されることとなった。

 その後の態度も含め、意図的にロキへと協力していたと決定づけられた彼女たちだったが応孥と紅芭の必死の訴えを受け、保護観察という形で応孥たちの下で暮らすことが決定された。

 彼女たちもそれを受け入れ───あるいは応孥が伝えた(ロキ)の最後の言葉に従い、古書店の手伝いをし、まだ幼いサンゴは学校へと通っていた。

 

「はい! お姉さんとお兄さんには良くして貰ってますし……こんな様子ですけどペムベも普段はお姉さんの手伝いちゃんとしてるんですよ」

「世話になっていますからね……共に暮らすのに不満を持ってたら保たないでしょう」

「それなら良かった……オードがいなくなって何も問題が起きてないから心配はしてなかったけどね」

 

 ロサードが運んできたイスにアルジェントが腰をかけるとほぼ同時に入口の扉が開き、ベルが鳴る。

 それとともに2人の小柄な人物が店の中に駆け込んでくる。

 サンゴとマローネだった。

 

「おじゃましまーす!」

「マローネダメ、お客さん……じゃないけど人がいるから静かに」

「サンゴおかえり。マローネちゃんもいらっしゃい。お姉さんは?」

「いるわよ。あら、アル?」

「やぁ、様子を見に来たけど大丈夫そうだね」

 

 2人に続いて紅芭も店内へと入ってくる。

 中にいたアルジェントに驚きながらカウンターへと赴き、異常が無かったかペムベへと確認している。

 2人が穏やかな様子で話す姿に彼女たちが円滑な関係を築けていることに嘘がないと理解し笑みを浮かべた。

 

「問題なさそうで良かった。お茶の用意してくるわね」

「それなら私が……ロサード、手伝って」

「はーい。2人共ーおやつがあるから2階にいこー?」

「おやつだって! ほら、サンゴちゃんも行こ!」

 

 3人がマローネを連れて2階へと上がる。

 LOTのことを知らないマローネの前ではできない話をするための彼女たちなりの配慮だった。

 

「今日カナリーはどうしたの?」

「有事に備えてイタリア支部の方に行ってるよ……一緒に行ってあげたかったけどミシアの工事が進んでるからこっちを空けるわけにもいかなくてね」

「ありがとう。結界も問題なく作用してるわ」

 

 オルフェウスの大門、その遺跡内部に安置されていた遺産、冥富のコルヌコピアが破壊されたことで霊穴としての機能を取り戻した。

 問題点を解決したミシア周辺には結界が貼られ、戯我の脅威は大幅に減少することとなっていた。

 だが、0になったわけではなく、また霊穴を保護するためにも遺産のあった場所に図書館───LOTの支部を建設することになったのだ。

 紅芭がこの場所に残り続けているのは支部完成の折にはそのまま彼女が支部長として就任する運びとなっていた。

 

「一緒にといえば……クレハこそ良かったのかい? ついて行かなくて」

 

 アルジェントの言葉に紅芭は僅かに目を伏せるがすぐに首を横に振った。

 

「彼女たちを置いていくわけにはいかないから。それに……もう今の応孥ならいなくなったりしないって信じてるから」

「そうか……吹っ切れたんだね。オードも君も」

「……全部納得したわけじゃないわ……なんで桜子があんな目に合ったこと納得しろって方が難しいもの……彼女に言えないままの言葉もあるし……」

 

 桜子の話題になると紅芭は目に見えて気を落とす。

 応孥から彼女の行く末を聞いたときも予想をしていた結果であっても取り乱し、数日は落ち込み続けていたほどだ。

 それでも立ち直り、今では前と変わらぬ生活を送っていた。

 

「言えなかったことは……桜子の分まで生きて彼女のところへ行った時に言うわ」

「できれば僕よりも後にしてくれよ」

「もちろん……応孥のことも面倒見てあげないといけないしね」

 

 軽口を叩き合い、紅芭は窓の外を眺める。

 穏やかな町、その先に広がる広い海───遥か遠く、日本へと新たな戦いに赴いた応孥を案じながら。

 

 

******

 

 

「……なんで僕、呼ばれたんだろう」

 

 LOTとロゴス・シーカーその全面戦争が翌日に迫る中、その戦力として招集された応孥はLOT磐戸市支部に呼び出されていた。

 話があると言われ、支部を訪れると応接室へと案内され、そこで待たされることになった。

 しばらく待ち続け待ちくたびれて項垂れはじめた時、ガチャリと扉が開く。

 

「待たせてしまってすまない」

「君は……」

 

 入ってきたのは1人の少年だった。

 陶器を思わせる滑らかな白い肌、紫水晶のような切れの長い瞳は外ハネした光を吸い込むような漆黒の髪に右目を隠されている。

 艶やかな顔立ちは一見すると女性かと見間違えてしまう、そんな色香を感じさせる美少年。

 着こなし馴染んだのであろうLOTの制服の腰にはAウェポンであろう一振りの刀とレリックライザー、そして青紫のクリアカラーで彩られたレリックライザーがマウントしていた。

 状況から鑑みて応孥に話があるのは彼なのだろう。

 

「オレは行雲(ユクモ)紫乃(シノ)。今日は時間を作って貰って感謝する、篠原応孥さん」

「いや、これくらいは大丈夫だよ。こちらこそよろしく」

 

 行雲紫乃と名乗った少年は礼儀正しく頭を下げる。

 つられるように応孥も頭を下げ、上げると紫乃はどこか緊張した面持ちで応孥を見つめていた。

 

「あの、それで話って?」

「あぁ、篠原さんに聞きたいことがあるんだ」

「応孥でいいよ。紫乃くん」

「分かった、それなら応孥さん……ロキ神の配下だったという女性たちの中にサンゴという少女がいると聞いた。彼女がキュクロプスの眼にいたというのは本当なのか?」

 

 紫乃の問い掛けに応孥は彼女たちの話を思い出し目を伏せる。

 戦いを終えた後、彼女たち3人がなぜロキの元で活動していたのか本人たちの話も交えて調査されることになった。

 その中で最も幼い少女、サンゴは『キュクロプスの眼』という組織に捕まっており処分される寸前、ロキに買われて仲間になったらしいことが判明した。

 

「詳しいことを日本支部に問い合わせていたんだけど……ゴタついてたみたいでね」

「そうかAオートマータやヴリトラが出現していた時だったのか……オレたちが話を聞いたのはつい最近なんだ」

「紫乃くん、君は何か知っているのかい? こちらでも調べたんだけどキュクロプスの眼が壊滅したことくらいしかわからなくて……」

「……オレもキュクロプスの眼にいた1人だ」

 

 紫乃の言葉に応孥は目を見開く。

 サンゴからキュクロプスの眼でどのような仕打ちを受けたのかは聞いていた。

 ならば、目の前にいる少年───紫乃も彼女と似た経験をしたことを察することができる。

 

「そうだったのか……ごめん、聞かれたくないことだったよね」

「確かにこの過去に悩んだこともあった。だが、その経験も含めてオレなんだと気づけたんだ……だから気にしないでくれ、応孥さん」

「……強いんだね。紫乃くん」

「仲間たちがいてくれたおかげだ」

 

 笑みを浮かべる紫乃。

 つらい経験を経ているのだろう、あるいは今も試練の只中なのかもしれない。

 だが、頼もしい彼の笑みを見ればその試練も超えられるだろう、応孥はそう感じた。

 

「オレのことはいいんだ。それよりもサンゴは元気にしているのか? 殺されたと思っていたから話を聞いた時はとても驚いたんだ」

「今は僕と紅芭……えっと、僕の仲間とそれに彼女の新しいお姉さんたちも一緒に元気に暮らしてるよ」

「そうか……それなら良かった」

 

 応孥の言葉に紫乃は安堵する。

 それまでのどこか緊張していた雰囲気が和らいだようだった。

 

「紫乃くん。サンゴちゃんにも君のことを伝えても大丈夫かい?」

「えぇ。オレのことは"シロ"と伝えてください。それに"クロ"と……いや、クロもいると伝えてください」

「シロとクロだね……分かった。はは、帰らなきゃいけない理由が増えたよ」

 

 僅かに言い淀みながら紫乃が伝えると応孥は快く引き受ける。

 どれだけ伝えたくとも生きて再び出会わなければ伝えることはできない、身を持ってそれを知る応孥は自嘲気味に微笑んだ。

 話を終えた紫乃は立ち上がり、改めて礼を述べてから部屋を出ていこうとする。

 

「あ、待ってくれ。紫乃くん」

「どうかしたのか?」

「君も明日の戦いには参加するんだろう? どこに配置されてるのかなって思ってさ」

「あぁ……それなら───」

 

 紫乃の配置先を聞いた応孥は目を見開いた。

 

 

******

 

 

 ───磐戸市郊外の海岸線。

 応孥の眼の前に広がる海上ではすでに戦いが繰り広げられていた。

 沖合に出現した巨大な怪物、フォルス・テュポーン。

 そしてその内部より飛行する戯我やGクロスを纏った戯我たちが続々と現れ地上へ向けて進軍を始める。

 事前に出現場所を察知していたLOTはそれを万全の体制で迎え撃つ。

 巨大戦艦『アルゴー号』を始めとした装備の数々そして神々の力を借りたロゴス・シーカーとの全面対決であった。

 

「始まったか」

 

 アメン・ラーの熱線を皮切りにアルゴー号から数台のAストライカーFや仮面ライダーたちが飛び出した。

 フォルス・テュポーンに突入し、敵の首魁たるクロノスを討つ礼装使いたちが飛び立ったのだ。

 

「……あの中に紫乃くんもいるんだな」

 

 応孥は昨日出会った少年、行雲紫乃が襲撃部隊の1人であると聞かされた時はひどく驚いていた。

 しかし、今はただ天を眺め流星のように奔る彼らを見送るだけだ。

 やがて応孥は視線を正面へと向け直す。

 その眼前からは神々の攻撃をくぐり抜け、地上を目指しこちらへと迫る戯我やGクロスの姿がある。

 

「僕の相手はこっちだ……1匹も通さない、って言えたら良いんだけどね」

 

 応孥の周囲には同じ様に封魔司書たちが並び立つ。

 彼らの役目が戯我たちを調伏し地上への被害を抑えること。

 そのために各地から集められた精鋭たちだ。

 

《マグマ!》

《サラメーヤ!》

Loading Color(ローディング・カラー)! GRADATION(グラデーション)!》

 

「それでも───桜子、君の分まで僕が守れるだけ守るよ。紅芭さんにも帰るって約束したしね」

 

 誰に言うでもなく小声で呟くと笑みを浮かべ、トリガーへと手をかける。

 

「さぁ……全てを塗り尽くそうか!」

 

 不敵な笑みを浮かべる応孥。

 自身を縛る鎖から解き放たれた守護者は約束を胸にその引き金を引いた。




ここまでのご愛読、ありがとうございます!

途中、連載が停止したりしながらもここまで書き切りました!
これにて完結となります!

この場を借りまして改めて原作の作者である正気山脈さん、『仮面ライダームラサメ』の舞台設定をお借りさせていただいてありがとうございました!

今後も拙作、『仮面ライダーエリシア』やその他作品も執筆がんばりますので応援よろしくお願いします!

改めましてありがとうございました!
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